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公述人(笹川重雄君) 私は北海道全
官公労組の笹川重雄でございます。参議院におきまして先
日本日と二日間に亘りまして
公共企業体の
労働関係法案の
公聽会をお催し下さりまして、最も
関係の多い我々の
意見を述べさして頂く機会を得ましたことを先ずお礼申上げたいと思うのであります。與えられました時間の
範囲内で果たして我々の眞意を十分に議員各位に反映することができるかどうを懸念いたしておりますが、掻い摘んで申上げたいと思います。先ず
最初に私は結論を申上げたいと思います。結論といたしまして、私共はこの
法案の成立には全く
反対いたす次第でありまして、この
法案が可決せられんことを願
つて止まないのであります。この
法案提出に際しまして
政府は大体四つの
理由を挙げておるようでありますので、私はこの四つ挙げた
政府の
理由について
意見を述べて見たいと思います。
先ず第一番の
理由といたしまして
政府は
マ書簡によ
つて鉄道事業及び
專賣事業の
公共企業体への組織替えの示唆によつたものである。種々研究の結果、
日本國有鉄道法案、
日本專賣公社
法案が提出された。尚
マ書簡による職員の責任の遂行を怠ることによ
つて公共企業体の業務運営に支障を起こすことのないような
公共の
利益を擁護する方法が立てられなければならない。こういう見解を取られて、更にこのためには
労働組合法及び
労働関係調整法の規定では不十分と
考え、これに対処するところの必要な
措置を講ずるためにこの
法案を提出した。大体第一にこのような
理由を揚げておるのであります。この
理由によりまして、第一番目に
マ書簡のいわゆる示唆によるという点が明らかにされております。私共はこの
マ書簡の精神は十分に酌み取りまして、その
マ書簡の精神に相反することのないようにという途は
考えておる次第でございますが、
政府の提案いたしましたこの第一の
理由の中に、恰かも
官公廳職員がその責任の遂行を怠
つておるかのごとく
言つておるのであります。更に
労働組合法及び
労働関係調整法の規定では不十分であるからして、別途な
法律を以て当たらなければならないと
考えておる、この
考え方についてであります。恐らくこういう
考えを持たれたことは、昨年の二・一闘争並びに本年の三月のこの闘争等を恐らく
考えておらるることと
考えるのであります。私共は昨年の二・一闘争におきましても、本年の三月闘争におきましても、未だ嘗て法に牴触するところの行為を取つたことは、ただの一回もないのであります。法の精神に從いまして、法を十分に理解いたしまして、その手続において誤りがなかつたのであります。
労働関係調整法は、私共は全力を挙げて
反対をいたしました、かかる
法律を設けられることは
労働組合の弾圧の何者でもないという見解を持
つて反対いたしたのでありますが、併し一旦
法律として規定をされたからには私共は法治
國民といたしまいて、法に從うところの精神を以ちまして、この
労働関係調整法に從いまして、今日まで
争議をや
つて参つたのであります。であるからして、
政府のいうように、我々は職務を怠つたことは毛頭ないのであります。更に
政府は不十分と
考えておる、不十分と
考えて別な
法律を制定しようとしておる。この
考え方は我々は納得できないのであります。若し不十分であるならば、
労働組合法並びに
労働関係調整法等、
関係法律を補足し訂正して行けば、私はそれで事足りるのではないかという
考えを持つのであります。更に私共は過去におけるところ
争議におきましては、
法律の精神は勿論、又
労働委員会の
調停についても我々は敬意を拂い、
労働委員会のこの
調停の席上においても、十分敬意を拂
つて、その
調停の精神を守
つておることは皆様も御
承知の
通りのことだと思うのであります。組合側は
法律の精神を守り、
労働委員会の精神を十分に活かして誠意を以て履行した。ところが一方
政府においてはどうであるかと申しますならば、
法律の精神に相反し、更に
労働委員会のこの精神をさえ踏みにじたところの事例が数限りないのであります。でむしろその点から
考えるならば、
政府自体が反省をし、
政府自体が目覚めまして、改めることによ
つてこの問題は
解決できるとさえ我々は
考えておる次第であります。(その
通りと呼ぶ者あり)
更に第二の
理由といたしましては、
政府は
公共企業体の
性格からいたしまして、共通の特異性を持つものである
日本國有鉄道と
日本專賣公社とは別個に法制的な
措置を講ずることは適当でないのであるからして、これを統一する
意味において、今度の
法案を出したということを
言つておるのであります。ここに私は非常に矛盾を感ずるのであります。勿論
國有鉄道と
專賣事業というものは
事業の
性質から
言つて、全く異なるのであります。こういうものを別々にして取締るということは勿論いけない。これを
政府は認めております。が併し
公共企業であるからして一緒のものにして
法律を設けなければならないと
言つておる。元来
日本人の悪い癖といたしまして、とかく
法律であるとか、規制既定を細かく制定いたしまして、無暗矢鱈にそれに從わせようという悪い癖があるのでありまして、その結果は自縄自縛に陥
つておる例が非常に多いのであります。で
公共企業体というような
性質で一緒にしようとするならば、すべての
事業というものは一緒にして現在の
労働三法で十分でないかということを私は
考えるのであります。殊更にそういうものを設けることは、屋上屋を重ねるばかりでなくして殊に今度のようなこういう実に彈圧的な
性格を持つたものと解せられるところの
法案を制定されると言うことは、どうしても我々は納得することはできないのであります。更にこれについて申上げたいことは、同じく
公共の
事業であるといたしますこの煙草と
鉄道の
事業の
性質から鑑みまして、
鉄道の
事業は單に
國営事業ばかりでなくして
私鉄もあるのであります。若し國営のこの
鉄道のみが
公共事業であるとするならば、この民間
経営の
鉄道はどのような見方をするのであるかということを申上げたいのであります。同じく
鉄道從業員であ
つて、改札口において切符を切るのも、保線の業務に携わるのも、
鉄道通信に携わるのも民間の
鉄道におきましても、國営の
鉄道におきましても、何ら変わりがない筈であります。であるの一方は民営の
鉄道については、いわゆる
労働三法においてや
つておいて、ひとり國営なるか故にこういう特別立法を設けなければならないということについては、私は非常な矛盾を感ずるのであります。更に煙草の
專賣事業につきましては、これは國家が
経営しておるから
公共の
福祉というような、いな、國家が
経営しておるから
公共事業に相
関係するというふうな解釈を取られたものと
考えるのであります。でこれに
つてい私は申上げたいことは、煙草
事業そのものは、我々の見解を以てするならば、これは大衆課税であります。我々の本当の
國民大衆からして収奪するところの
資本主義的な機構であると、我々は言いたいのであります。こういう煙草そのものの
性質から行きましても、これらはむしろ
一般的なこの三法によ
つてやる方が妥当だと
考えるのであります。何故ならば、一例を挙げて見まするならば、煙草の女工さんが、煙草を算えていわゆる箱詰をする際に、
一般製菓会社においてキャラメルを製造するところの会社の女工さんが、キャラメルを箱に詰めるところのこの作業と一体どのような差があるのか。これは殆んど
労働条件においても同じであるというふうな見方をさえ我々は感ずるのであります。でこのキャラメルを製造するところの、キャラメルを箱につめるところの女工さん方は、
一般の
労働組合法によ
つて取締られる。ところが同じような條件にあるところのこの
專賣事業に携わるところの女工さんのみがこういう特別立法によ
つて取締られる。ここにも我々は矛盾を感ずるのであります。更にこのような
專賣事業に携わるものを特別立法によ
つて取締られるとするならば、この煙草の葉を製造するところの農民諸君もやはりこういう
公共企業体とみなさなければならないと思うのであります。煙草を箱に詰める女工さん、製造するところの職人さん諸君は、
公共企業体として取締られてて、煙草の葉を生産するところの農民は
関係がない。そういう観点からするならば、非常に矛盾を生ずるのであります。更にむしろ私はそういう農民の
関係を
考えて見まするならば、現在の米作農家、或いは麦を作るところの農家、こういう農民諸君こそ、本当の
公共的
事業でないかと私は
考えるのであります。そういう人たちには何ら、勿論農民には
労働組合法がありませんが、そういう
考えからいたしましても、こういうところにこの特別立法をするところの矛盾を
考えるのであります。
第三番目の
理由といたしまして、
政府は
團体交渉権の行使方法に対して、從來
一般組合において、ややもすれば混乱を生じ、無用の
労働紛
争議を生ぜしめておる傾向があるということを
言つております。これは非常に問題にな
つておるのであります。今までの
公述人もこういう点を申し上げられておつたようでありますが、この
一般組合において、ややもすれば混乱を生ずる、或いは無用の
労働紛
争議を生ぜしめる傾向があると
言つておられます。一体どのような事態が起きたか、例を述べられていないのであります。果たして我々
官公廳の職員が
行き過ぎをや
つておつたかどうか。或いは無用の紛
争議を生じておつたかどうかということは、過去の事実が雄弁に物語るのであります。
最初において私が第一の
理由に申上げましたがごとく、我々
官公廳労組は、
法律を十分に尊重いたしまして、それに從
つてや
つておつたのであります。
政府こそ怠慢であり、
政府こそ誠意を欠いておつたのであります。その一例を申上げますならば、本年の三月の
官公廳
争議におけるところの終結条件の、いわゆる四條件というものがあります。いわゆる犠牲者を出さないということと、それから給料は不拂いをしないということ、すでに起きたところの犠牲者については善処をする。首切りはやらない。この四條件が條件といたしまして、時の
官房長官苫米地三、或いは西尾國務大臣、加藤
労働大臣と組合側との間にできたのであります。この内の一例を取
つて申上げますならば、給料不拂問題も、
労働争議をやつた場合は給料は貰えないというのは当然でありまして、我々、殊に全逓の場合におきましては、組合員から一人百円ずつの
資金を調達して積立てたのであります。だが併しあの
争議の政治的な
解決方法としてこの問題が出まして、時の加藤
労働大臣並びに西尾國務大臣等は、給料不拂いについては、非常に困難であるけれども努力をすると
言つて、この
争議を
解決したのであります。ところがこれについてどのような処置を取つたか。一遍だに誠意を示さないで、給料は差引かれておるのであります。そうして後にな
つて言うことは、あのときにああいうことを言わなかつたならば諸君が納得しないであろうというような、実に誠意のない不遜の態度を取
つておるのであります。誠意のない態度と行動は組合に非ずして、むしろ
政府がや
つておつたのであります。こういうようなことからいたしましても、我々は納得することができないのであります。更に無用な紛
争議を生ぜしむる傾向があるというようなことを
言つておられますが、
政府はいわゆる御用組合、或いは自分の意のままになるところの組合であるならば、これは正しい組合というふうに
考えておるのであろうかという点が思われるのであります。正しい
権利を飽くまでも主張するところに、組合の本当の組合らしさがあると言うことを我々は理解して頂きたいのであります。時間が参りましたが、もう
一つ理由が残
つておりますのでお許しを願いたいと思います。
四番目の
理由といたしまして、
公共企業体の職員には、國家
公務員に認められた地位に関する特別の保障がない。完全なる團体
交渉と、適正迅速な
調停、嚴正なる仲裁との
制度を確立することによ
つて、職員の
生活の安全を保障する必要があるということを四番目の
理由に
言つておるのであります。いわゆるこれに見ましても、
政府は從來
官公廳職員に対して、いわゆる
生活的の保証をしておらなかつたということを私は率直に裏付しておるということを言い得ると思うのであります。更に完全なると
ろこの、團体
交渉とは、一体如何なる團体
交渉であるか、
政府はどんな
交渉を以て完全なる團体
交渉と
言つておるのであるか、我々には理解ができないのであります。恐らく
権利に盲從し、いわゆる馴合的に、
交渉に應ずるところのものを以て完全なる團体
交渉というふうに解釈しておるのではないかとさえ我々は
考えるのであります。組合の
交渉は飽くまでも理論的であります。如何なる組合におきましても、理論的に
交渉をいたしておるのであります。理論的に納得しない者は、飽くまでも徹底的に追及するという行き方は、正しい行き方だと思うのであります。更に適正迅速なるところの
調停、或いは嚴正なる仲裁と言うことを
言つておるのであります。然らば現在あるところの、この
中央労働委員会、或いは地方
労働委員会は、適正迅速なるところの
調停をや
つておらないのか、或いは嚴正なる仲裁をや
つておらないのかということを私は反問いたしたいのであります。これは
労働委員会に対する私は重大なるところの侮辱だとさえ感じておるのであります。
労働委員会は、
政府みずから設けたのであります。組合は、過去の
争議におきまして、この
労働委員会を尊重いたしまして、その
労働委員会の権威を信頼いたしまして、今日までや
つて参つたのは、天下周知の事実の
通りでございます。然るに昨年以來本年に掛けまして、この中央、地方に起きましたところのいろいろな紛争について、
政府は
労働委員会の、この権威を非常に冒涜したとさえ思われ向きが多々あります。まして地方におけるところの、この
労働委員課の権威ある
調停事項については一顧だに與えなかつたのが、
政府のやり方であるのであります。こういう
意味からいたしまして、私は、今までの
政府が、
労働委員会に対して、どのような見解を持
つておつたかを非常に疑わざるを得ないのであります。若し
政府において、現在あるところの
労働委員会の権威を尊重するならば、この現在或る
労働委員会の活用こそが望ましいものであると
考えるのであります。にも拘わらずこういうものを否認いたしまして、別個なところの仲裁機関や
調停機関を設けようとするところに、我々は非常な不満を感ずるのであります。まだいろいろ申上げたいことは沢山ありますが、時間の
関係で申上げることができないのは非常に残念でありますが、要するにこの
法案は國家
公務員方の改悪と同様な悪法であるというふうに我々は
考えておるのであります。
労働組合運動の健全なる発達を阻害するものであると共に、こうしたことが許されるならば、
公共の
福祉に名を藉りまして、重要なるところの民間産業の
労働組合を次々とこういうふうに圧迫し、そうして彈圧するとにろの前提となるものではないかということを、我々は非常に倶れておるのであります。
日本の民主化を図り、
日本の経済、産業の復興を図るためには、こうした彈圧的な悪報を排除いたしまして、現在ある法規を十分に活かし、足うざるところは補い、若しこの
マ書簡の御精神に牴触するところがあるならば、それを改めて、この一本建てのものを以てすべての
労働組合運動に対処する方が好ましいものであるという我々は
考えを持
つておりますために、こういう悪報的なものは全面的に
反対であることを申上げまして、どうか議員各位におかれましては、この
法案について否決せられるよう御努力を願いまして、私の
公述を終わる次第であります。御静聽を
感謝いたします。