○羽仁五郎君 この前にお答え頂きました問題に続いて、首相に
質問を許されたい。吉田首相の評判のよい点は政権に囚われないという点にあるそうですから、(笑声)首相としてではなく、ステーツマンとしての首相に、理論的の点を、今度は個別的に伺いたいと思うのであります。
この前の御答弁の中に、
國家公務員法改訂案に戰時法的な
色彩はないと言われましたが、これは若しこの
國家公務員法改訂案の中に戰時法的の
色彩があれば、勿論これを除くというお
考えと了解いたします。この問題は非常に重要な問題でありまして、過去において、御
承知のように、民主主義は幾度か企てられたのですが、それがやがて崩れた事例がたびたびあるのであります。その民主主義がどういうふうに崩れたか、と言いますと、例えばドイツのワイマール
憲法の崩壊の場合におきましても、日本の過去の場合にしましても、折角民主主義によ
つて基本的人権というものを保障しようとしたのですが、それを例外的に制限するということを一度行うと、それが、それから段々殖えて來てしまつたのです。これはいわゆるアウスナーメゲゼッツの問題と申しますか、例外的なことをや
つて、それで基本的人権というものを特定の場合に限
つて制限をするということが、ひいては民主主義の崩壊と
なつた非常に重大な原因と
なつたのであります。そのことを現在日本の民主主義の建設を任務を負う
政府として政治家としての首相として、我々
國会として、十分
考えなければならないのです。現在日本が
國会を中心にして民主主義を築いて行くときに、その民主主義が再び崩壊するような最初の第一歩というものに侵してはならないという点なのです。これは具体的に申上げますと、先日來、基本的人権というものが公共の福祉によ
つて制限されることがあるかのような
議論がなされておつたのですが、これは淺井
委員長が二十日に私の
質問に対してはつきりお答えになられましたように、基本的人権というものと公共の福祉というものは同じレベルのものではないのです。基本的人権の最高のレベルのものであるのです。從
つて公共の福祉というものによ
つて制限されることが
考え得るのは、基本的人権
そのものではなくて、その基本的人権の行使、使い方が場合によ
つては制限されることがあり得るのみでありましよう。若し、これを基本的人権
そのものが制限されるような立法をしますと、こういう立法はいわゆる例外法である、或いは非常立法である、或いは戰時立法であると理論上言わざるを得ないのです。こういう点が今度の改訂案の中にあるということは、民主主義を建設して行く我々の責任上非常に重大な問題であると思います。この点をお答え願いたいのです。でありますから、被占領國民としては、我々は今日或る
意味において戰時
状態の下にあるのですが、その戰時的措置は最高司令官のみの
権限でありまして、これらの点については我々は占領軍最高司令官の命令に服從するのでありまして、占領政策の下に民主主義と平和との建設を唯一の任務とする
國会また
政府としては、今のような非常手段或いは例外的な措置をなすところの立法をなすべきではないのであります。それが日本の
政府、また日本の
國会が占領政策の下に民主主義の立法をや
つて行くということの全責任であり、又それ以上のことをなすべきでないというのが我々の節操ではないのでしようか。どうにお
考えになりますか。
今日伺いたいと思いますことは、六つございます。続けて申しますけれども、どうかお聞き取りを願いたい。第一の点は、
國家公務員法改正に伴う國際的な批評、或いは世論というものを首相は勿論無視されるお
考えはないと思うのです。十分これをお取りになるお
考えであろうと思いますが如何ですか。この点について特に注意して頂きたいのは、先日八月二十八日の対日理事会において、パトリック・ショウ英連邦代表が述べておられることであります。それはこういうことを述べておられるのであります。國家の
官吏であることと、労働組合の組合員であるということは決して矛盾することではない。のみならず、むしろ望ましいことであるのだ。私自身と言
つて、パトリック・ショウ英連邦代表が自分を指して、私自身國家の
官吏であると同時に、労働組合のメンバーであるということを言
つておられます。これはイギリスが長い間の民主主義の傳統を持ち、長い間の労働問題の歴史を持
つている英國を代表しておられるパトリック・ショウ英連邦代表の対日理事会におけるこういう主張、これをどうか総理が高い政治的なセンスから十分お
考えに
なつて頂きたいと思います。
それから第二に伺いたいことは、先日原委員から総理に
質問せられたように、
國家公務員法改訂の前提としてのマツカーサー書簡というものは、五つの点から成立
つている。その第一の点は、日本の民主主義を阻んでおつた官僚主義というものを打破するということが國家公務法の目的であるということであります。重大なる問題であります。この問題についての首相のお答えに、官僚主義を打破するということは、官僚に対する政党の影響というものをなくするというようなお答えがあつたと思うのですが、これは甚だ誤解され易いことであると思うので、その点について伺いたいのです。総理は今まで日本の歴史の上において、官僚と政党とどちらが惡いことをや
つて來たかということをお
考えになりますか。又どつちの惡いことが國民から批判される可能性があつたか。これは言うまでもなく政党は反対党があるから批判され得るのです。併し官僚というものは反対党を認めないのですから、批判されにくいのです。そういう
意味でやはり総理御自身も今日の近代政党の総裁であられるのだと思うのです。ですからこの点つまり政党が反対党というものを持
つて、反対党の批判というものを受ける。これが惡いことができないということの重大な点であることを無視せられることはないと思うのです。ですから官僚が反対的な批判を受けない立場をかためることになれば、即ち官僚主義であ
つて、民主主義でない。先頃から問題に
なつております首相のお言葉の、いわゆる不逞の徒というようなお言葉も、そういう
意味でお取消を願
つて置いた方がよいのではないかと思うのですが、つまり自分と
考えの違う人も同じ日本國民なんですから、それを
総理大臣が不逞の徒と言われることは不穩当であると思うのです。やはり
考えはいろいろ違いましようが、併しその
考えが自分の
考えと違う者を不逞の徒と首相が言われることになると、これは独断になり、独裁に導かれる虞れが非常にあるのです。そういう
意味で
國家公務員法の中から政党の干渉を除かなければならないという理論的な中心点は、上級の
官吏にあるものでもなく、下級の
官吏にあるものでもない。上級の
官吏は御
承知の
通り政党出身の人達が上級の
官吏になるのです。それから下級の
官吏はこれは
一般國民と同じで、下級の
官吏は
官吏であるよりも國民である
性格の方が優越しておるのですから、これは政治的自由が保障されなければならない。いわゆる政務を執行する中級の
官吏の安定を図るということが
公務員法の主眼でなければならない。從
つて若し
國家公務員法が
改正されるならば、
現行法にある百
二條のような、こういう政治的自由に対する制限こそ削除すべきであります。これは先に述べましたような
意味のやはり例外法的な
規定であります。こういうものを除かれることが適当であると
考えるのであります。(「
質問をやれ、
意見でなしに」と呼ぶ者あり)
第三の点は、やはり前日の原委員から
質問せられました点で、マツカーサー書簡の第二の点は、労働組合というものが日本の民主化に重要なものである、このことについて首相はどうお
考えになるかというそのことについてのお答えに、労働者が勤勉に働いて呉れることは産業復興のために必要であるというお答えがあつたのですが、併し労働者がただ勤勉に働いたのでは、今までの日本でもそうでしたが、これが軍國主義に
なつのです。ですから、労働者がただ勤勉に働くだけでなしに、労働者がみずから守る團結権、
團体交渉権、罷業権というものを持たなければ、ただ勤勉に働いただけでは日本はどこへ行
つてしまうか分らない。この
意味で、労働者の基本的人権というものはやはり決して制限せらるべきものではないのです。これは例を挙げて申上げれば、例えば封建時代のことですけれども、武士が刀を差していたようなものであ
つて、武士が刀を差しているのは、必ずしも、それで人を無暗に切るのではなかつたので、当時として武士を認める以上は武士の帶刀権を否定することはできなかつたのです。爭議権というものは、絶えず労働者が爭議をするということではない。労働者の爭議権というものは何ものによ
つても制限できない。爭議権の行使、つまり爭議をやることが場合によ
つては制限せられるということがあるだけでしよう。ですから、
國家公務員法の中で爭議権、或いは
團体交渉権、團結権
そのものを制限せられることは、先に申上げました例外法的な
色彩が非常に強いのです。これは今度の改訂で九十
八條の改訂、或いは第
二條において現業廳、現業及び單純なる労務者が
現行法では
一般職に入れられていなかつたものを今
一般職に入れようとする、この二点は、是非お止めに
なつて頂きたい。そういうふうに研究をして下さるお
考えはないかどうか。そうして又只今申述べたような爭議権、労働者の基本的人権を認めた方が労働階級が安心して生産意欲を発揮することができるという点を十分
考えて頂きたい。
第四点は、
法律というものはたびたび変えるべきものではないということです。これは首相もそうお
考えだと思います。ところが御
承知のように、
國家公務員法の
現行法は、昨年の暮に両院においてあらゆる立場から愼重審議をした結果、落着いたところが
現行法なんであります。從
つて、それを現在
改正するということになりますと、又こういうふうな同じ問題を繰返すことになるのであります。而も御
承知のように、この
國家公務員法改正については、
関係方面においても必ずしも
意見が一致していたのではないように我々は知
つておりますのみならず、極く最近においても、二十二日のシンシナティ電報によりますと、アメリカのA・F・Lが日本に対する労働政策の修正を勧告することを決議しております。こういうように、或いは場合によ
つては数カ月後に今改訂しましたものを又
改正しなければならないようなことになるかも知れません。それはこの
國会の権威を墜し、又
法律の権威を墜すことでしかありません。
國家公務員自身が
公務員法というものを尊重しなくなるという恐るべき影響があるので、この際こういういろいろ異論のある、國際的にも異論があり、理論上も異論があり、非常な危險がある改訂というものを、断乎として撤回される御意思はないかどうかということが第四点であります。
第五の点は、こういうような無理な
法律改訂を強行して行く結果はどうなるかという問題です。元來無理な
法律改訂なんですから、違反がどうしても起るのです。ですから改訂第
一條にそういうことを予想しておる。ところで、違反が起ればそれを檢察力を以て取締るということになるのです。そういうことをや
つて行きますと、日本は必ず再び警察國家になるのです。それで総理なり或いは私自身なりは、戰爭中においては必ずしも檢察力というものに屈しないという覚悟を持したのですが、併し國民の多数にそういうことを要求することはできない。檢察力というものが次第に加わ
つて來れば、國民は再び奴隷的なものになる。日本が警察國家に
なつて行くその第一歩がこの
國家公務員法の改訂にあるということをどうか
考えて頂いて、今申述べた第四の結論、この改訂案を撤回せられるということを
考えて頂きたい。
これは、実際この国家
公務員法改訂案というものは、理論的に見ても、國際的にも、実に恥ずべきものです。例えば、これも御
承知だと思いますが、アメカリのタフト・ハートレー法すら、
官吏としても適当でない行爲があつた場合には、
官吏たるの身分或いは
官吏たるの特権を奪うことができるのみで、その人の基本的人権である身体に対する刑罰を加えるというような不法はどこにもない。ところが、この
改正案はそういうことに
なつておる。そうして一言にして言えば、実に極端なる例外法であると言わなければならない。即ち民主主義の立法を崩して行く第一歩であると言わなければならない。警察國家に導く第一歩である。その第一歩を我々の手で、
國会において今これをなすということは、実に忍びないことであります。総理としても忍び得られないのではないか。これは簡單に言えば、
國家公務員法の改訂ではない、表題が間違
つておるので、低賃金法とでも言うべきものなんです。低賃金法である結果は、必ず言論の自由を圧迫し、結社の自由を圧迫し、多國に向
つてソシアル・ダンピングをやり、
経済侵略をやり、侵略戰爭に導いて、昨日マツカサーサーが声明せられたような、人類の深い祈りりというものをまた覆してしまうことになるのであります。どうか今伺つた点について、首相のステーツマンとしての御答弁を頂きたいと思います。