○
中原委員 まず最初に
質問というより、
労働委員会の
皆さんの御同意をいただきまして、一つの決議というような手続を御承認願いたいと思います。というのはさきに本
会議におきまして労働者農民党の石野久男君が、首相並びに法務総裁に
質問をいたしました。すなわち官憲の不当彈圧に関する件であります。なぜこのことを特に
労働委員会の名において私がお願いしなければならぬかと申しますると、敗戰後の
日本民主主義の進展につれまして、いわゆる
日本國民の
権利がある程度まで伸張したことは、何人もこれを否定することのできない事実であります。しかるに、最近せつかく
日本の民主主義的な成長にもかかわらず、これに対して相反するがごとき一つの動きが顯著にな
つて参りました。しかもその一つは、警察
官廳の行動の中にきわめて露骨に現われるようにな
つて來たのであります。私どもは警察の持
つているその任務、あるいは警察の機能の問題については、いろいろ
意見を持つものでありますが、そのことはさておきまして、その警察の官憲がしばしばそののりを越えて、人民の基本権を蹂躪するというがごとき行動に出ることは、最も忌むべきことであると
考えているのであります。ことにただいま私が問題として提起しようといたしておりますのは、八月のことでありますが、茨城縣の日立市における労働者の大会が、はしなくも警察官の蹂躪はよりまして、大きな犠牲者を出したという事実なのであります。もとりよこのような会合はそれぞれ合法的な手続によ
つて持たれていることはいうまでもありません。集会の当然あるべき手続を無視してなされたという会合ではなか
つた。当然あるべき手続をいたしまして開催されたその集会が、どのような理由をも
つていたしたにいたしましても、この会合の中に警察官憲が乱入するということは、許されないはずであります。しかもその労働者の大会というのは、労働者の基本的な
人権を
擁護するための要請をも
つて催され、しかもその
基本的人権の中の、特に生活権の問題を労働者が確保せんがために集合いたした会でありまして、そのような会が官憲の一方的な見解によ
つて蹂躪し盡されて、しかもその上になおかつ数十名の流血の惨を結果したというようなことは、何としても見のがすことのできない不祥事であると
考えるのであります。すでに憲法もその二十一條において、集会、結社の自由を保障し、言論、出版の当然あるべきを保障いたしているのであります。いわゆる今回の敗戰前におきましては、なるほどこのような状態をしばしば
経驗させられたものでありまして、いやしくも労働者が集まるならば、それがいかに合法的な集会の手続をいたした会合であ
つたにいたしましても、何とか言いがかりをつけてその会合を蹂躪し、あるいは解散し、あるいは
責任者を檢束し、不法監禁をいたしたのであります。そういう
経驗を私どもは身をも
つて経驗いたしたものでありますが、
ちようどその当時の様相をまさにそのままに、新憲法下におけるわが
日本において繰返すような状態にな
つて來たということは、何としてもこれを軽々しく見のがしてはならないと
考えるのであります。労働階級が会合を持つ、あるいは
國民の多数者が会合を持つということは、もとより当然そこに合法的な、合理的な、そういう目的をも
つて集会をいたしているのでありまして、不穏当に何らかの擾乱を巻き起さんがための会合をや
つているのではないのであります。そうなれば正当なる理由によるその会合に対して、しかも憲法の二十一條ですでに集会の自由を保障している今日、しかもその集会が必要なる手続をも
つてなされております場合に、どのような理由があ
つたといたしましても、その集会をただちに撹乱するかのごとき態度をも
つて警察官憲が臨むということは、何としても許されない。もし万一その会合の中の者に対して、何らか警察が尋問の必要があり、あるいは逮捕の必要がありといたしますれば、そのような方法でなしに、それは当然なされ得るものであると
考えるのであります。從
つてそのことは、労働者のそういう会合、そうい
つた國民の多数者の会合を尊重する
考え方が警察官にない、あるいは指導者の中にそういう
考え方が喪失しているからではないかというふうに私は思うのであります。ところがそういう見のがすことのできない不祥事をあえて激発いたしまして、しかも多数の犠牲者を出して――二十数名に及ぶと聞きましたが、あるいは数字の点は多少違うかもしれませんが、後頭部を傷つけ、あるいは腕を、背を、肩を、あるいは大腿部をというふうに、あらゆる身体に大きな負傷を労働者がさせられたのであります。警察官憲の持
つているそのえものをも
つて人民の身体に傷害を加えた。こういうことが事実あ
つたということについて、当局は誠意をも
つて石野君の
質問に答えられておらない。あの日の本
会議の模様を御存じの方には、何人にも肯定されるて思いますが、あの日の特に法務総裁の
答弁のごときは、そのようなことはまさに当然であると言わんばかりの態度をも
つて、当時の様子を報告したその報告書に基いて、石野君の
質問したような事実はない、ま
つたく事実と相違しているというようなことを答えている。その法務総裁の答えました
答弁の基礎をなしているものは何かと申しますと、警察の報告書であるのであります。いわゆる加害者である警察の報告書を基礎にして、そのような本
会議における
答弁が軽々に、しかも平氣でなされておるのであります。もちろん
自分の部下を信ずるということにおいて、それはあるいは当然であるかもしれません。しかしながら、この問題は一方的に
考えてはならない事柄でありまして、被害者と加害者のある場合であります。それがよし、職務を執行するための結果であ
つたといたしましても、傷害を受けた者と、傷害を與えた者との対立
事情がそこに起
つているわけであります。そうであるならば、被害を與えた、すなわち加害者の
立場に立つ警察の一方的な報告書をも
つて、これが妥当なる信頼すべきものであるというような
考え方は、いわゆる官僚的な一つの独善的傾向であると私は思うのであります。いかなる場合にも、しばしばその官僚の一方的、独善的な態度をも
つて事が処理し盡されて、今まで不問に付せられて参
つたのであります。そういうことが今後ともに繰返されて参りましてはいかに口をすつぱくして
日本の民
主化に唱えましても、あるいは
政府が、いかにして
人権の基本権を
擁護しようと善意に
考えたにいたしましても、その目的は達成されない。また百の法律をつくりましても、その法律を行使する第一線に立つ人々の
考え方が、そういう間違
つたものの上に立
つておるならば、おそらく百の法律も、しばしば曲げられて行使されるだろうということが予想されるのであります。かれこれ
考えますると、この事件のごときを、ただ法務総裁のあの一片の無
責任きわまる
答弁をも
つて見のがして行くということは、大きな見地から
考えて許されないことであると私は思うのであります。これはただ一つの実例にすぎないが、これに類似したできことは、今や全國のあらゆる地方に繰返されておるということを否定するわけには参らぬのでありまして、そういうことが軽々になされるような、常識と申しまするか、そういう
考え方をも
つて、しかもそれを特に何ら氣にとめることのない感覚をも
つて過されて参りまするならば、これはまさに、わが
日本の再びフアシズム的な傾向への逆轉を招來するものであると思うのであります。そのようにかれこれ
考えまするときに、
労働大臣とせられては、少くとも他の各省
大臣とは
立場が違うのでありまして、この点については、か
つて芦田
内閣当時に、さきの加藤
労働大臣がしばしば繰返してそのことを主張しておられたと思います。労働省は労働階級に対するいわば一つのサービス
官廳である。労働階級の父母の
立場に立たなければならないと
考えておるというようなことを、よく繰返していられたのでありますが、私はもつともであると
考えます。またさもあるべきである。もちろん間違
つたことでも、曲げてでも、なおかつ労働階級を庇護するということを要請しようとするのではありませんけれども、いやしくも労働省そのものの機能の性格から申しますると、労働階級を正しくはぐくみ上げて行くということのために、すべての機能が行使されて行かなければならぬ。そうであれば、
労働大臣はこのようなできごとに対して、まず労働階級の
立場に立
つて、ひとまずものを
考えてみるということが大切なのではなかろうか。そうしてあくまで労働階級を正しくはぐくみ、労働階級の民主性を正しく確保して行くということのために、あらゆる
努力が拂われなければならぬのではないかというふうに私は
考えるのであります。從いましてこの官憲の不当彈圧に関する問題については、まず公正なる第三者を煩わして、その実情の調査をせしめるということが必要にな
つて参ると思います。すなわち実情の調査を基礎とすることなしには、この問題の黒白可否は決定できない。先般の法務総裁の本
会議における
答弁のごとき、一方的な資料をも
つて、事足れりとするわけには参らぬのであります。そこで本
労働委員会としては、願わくはそのような
考え方から、ひとまず実相を公正に調査するということをとりきめられたい思うのであります。從いまして私はここに一應このような文書を書いてみたのでありますが、このことを決するがための一つの私案といたしましては、官憲の不当彈圧に関する國政調査依頼の件、去る二十二日緊急
質問において提起した日立事件に対する
政府当局の
答弁は、事実と相違するものでありまして、各地における官憲の不当彈圧が、過般來しばしば報ぜられておる事実にかんがみまして、特に日立における彈圧は三十数名の血の被害者を出しておるという点を重視されなければならないと思います。從
つて私は事の事実を徹底的に糾明して参りますために、そうしてそのことによ
つて官憲のいわば一つのフアシヨ的な偏向に対する徹底的な撲滅を期したいという
意味からも、本
労働委員会の御賛同をいただきまして、この問題の事実の調査のために、特別な配慮を願
つて、この國政調査の件をお願いしたいと
考えるものであります。これを大体私案というような
意味で書いてみたのでありまするが、これをまず衆議院議長に提出しまして、特別な調査方の配慮をお願いいたしたいと思うのであります。一應私の見解を申し上げて、本
委員会の同僚諸君にこのことを懇請申し上げる次第でありますが、あわせてこのことについての
労働大臣の御見解を一應承
つておきたいと
考えるのであります。