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大久保政府委員 海上保安廳の成立につきましては、皆樣にたいへんお世話になりまして、おかげさまをも
つて海上保安廳発足以來約半歳を経過した次第であります。この
機会に
海上保安廳のその後の経過を皆樣にごひろう申し上げたいと思います。
海上保安廳は五月一日
海上保安廳法に基きまして発足いたしたのでございます。現在
海上保安廳には
恒久定員約五千人、
臨時定員約三千人、
合計八千人をも
つて職務の遂行をいたしております。
船舶は
巡視船二十九隻、
掃海船五十三隻、
港内艇百三隻、
燈台補給船五十二隻、
測量船二十隻、
集船二十三隻、
合計二百八十隻の
船遂を所在いたしております。この中で
海上保安の
治安業務に專属いたしております
巡視船は二十九隻でございます。約百トン足らずの
木船をも
つて現在まで
海上の
治安維持に当
つておるような次第でございます。
海上保安廳の
裝備に関しましては、ただいま申しました
船舶の
性能を向上して行くという点と、
法律に許されておりますところの武器の携帶という問題があるわけでございます。
船舶の
性能の向上につきましては、現在の
船舶がおおむね非常に古い
木船を
主体としておりまして、これをも
つて一万海里になんなんとする
日本近海の
治安に
任ずるということは、非常に困難でもございまするし、また
性能上不適当な点もございますので、一日も早く船の
裝備を完全にすることにつきましては、私
ども多大の関心を持
つておりますような次第であります。この点につきましては、現在各
地方行政機関に所属しておりまする船の中で、相当優秀な船を
海上保安廳にこれを引継ぐという点に関する
関係方面との
打合せが進行いたしておりまして、
警察船その他各
府縣の
所有船でありまして、
性能もよく、相当大きな船はこれを
海上保安廳において
引継ぎをいたして、一元的に回船をいたして
海上治安の全きを期する
方法に目下
打合せを進行いたしております。そのほか
船舶運営会が所有しておりました
鉄船の大きな百トンないし数百トン
程度の船につきましては、これまた
海上保安廳にこれを引継ぐことを適当と認めまして、これまた
運営会との間に
引継ぎを折衝いたしておるような次第でありまして、遠からず
巡視船に充当する船を若干強化することができるものと存じておる次第でございます。人の
武裝に関しまして、
海上保安廳の
治安任務の性質上、また最近における
海面における
諸般の
治安状況の
事態からいたしまして、一日も早くこれを整備いたしたいと
考えておる次第であります。この点は
諸般の事情からいたしまして、まだはなはだ不十分で、ほとんど
武裝らしい
武裝をいたしていないとい
つたような次第であります。この点は私
ども常に心を碎いておる次第であります。一日も早く適当な
武裝をするということにつきましては、万全の
努力と、
関係方面の御
了解を得るように努めたい、かように存じておる次第でございます。
次に
警察諸
機関との
連絡調整の問題でございます。
海上保安廳発足にあたりましても、皆樣方からいろいろ御好意ある御心配をいただいておりまして、私
どももこの点に関しましては常に留意をいたして、
警察当局と
連絡の
緊密化をはかりつつ今日に至
つておる次第でございます。從來の
諸般の
檢挙件数の中におきまして、陸海の
警察が
協力をいたして取押えました
事件も相当あるのでございます、全体の
連絡の
方針といたしましても、常に
陸上の
警察より
依頼がありました場合におきましては、優先的に船を出し、またこれに対して
協力をするという態勢に向
つて訓練もし、またそういう行動をとらしておるような次第でございます。また当分といたしましても、
武裝その他の
関係からいたしまして、当方の勢力のみでは不完全であると
考えた場合におきましては、常に
陸上の
警察に
協力の
依頼をいたしまして、必要なる要員の派遣をお願いしておるような次第でございます。なおまた
警察機関と私
どもの方との職域の
調整につきましては、
國家警察の
範囲の
水上警察は、全面的に
海上保安廳に
引継ぎをいたしまして、
自治体警察の
水上につきましては、これはやはり
自治体の職能からいたしまして、
自治体に当然付随しておりますところの岸に近接した
海面におきましては、ある
程度自治体がこの水面について
責任を負われるということも、また必要な
事態もあるわけでございまして、この点については
自治体との間に完全なる
協力をいたしまして、
自治体においても一定の
範囲の取締りをや
つていただくということの点につきましては、私
どももこれを認めまして、
相互協力関係を設定しておるような次第でございます。但し現在の
状況におきまして、
船舶を保有し、これを
警察任務に充てるということは非常に莫大の
経費を要する次第であります。かようなわけでありまして、中小都市におかれましては、これを
海上保安廳の方に
引継ぎをいたしたいという御希望もあるのであります。その例といたしましては、御承知の九州の洞海湾地帶においては、三つの大きな都会が接続いたしておりまして、あの盲腸のような洞海湾をめぐ
つて非常に犯罪の多い地帶でございます。この点は三つの
自治体がわかれて
警察行政を遂行するということは、非常に権限の分配その他からいたしまして複雜でございまして、これを組合
警察をも
つて一体としてやるという案もございますけれ
ども、なお完全ではない。そこでこれを
海上保安廳によ
つて一元的に遂行してもらいたいということを、三市の市長、市会並びに
関係國会議員の方からも御熱心なる御陳情を受けた次第でございます。この点については
関係当局とも折衝いたしまして、現場において
調整をして、洞海湾の
水上はこれを
海上保安廳において実施するということにいたしたような次第でございます。なおまた瀬戸内海一帶の
水上につきましては非常に島々が錯綜いたしておりまして、これまた
諸般の
警察事犯が起る海域でございます。これもなるべく分割しないで、
海上保安廳一本でや
つたら適当ではないかということを、廣島管理区の本部の方からも御
依頼がございまして、これまた
関係方面とともに現場に参りまして、
陸上の
警察、
海上の
警察が相互
打合せの上、目下
船舶の
引継ぎ並びに
警察職員の
海上保安廳への
引継ぎに関しての
打合せを取進めておるような次第でございます。かような次第でございまして、陸海の
警察は常に緊密なる
協力関係におきまして、いまだ十分とは申されませんけれ
ども、皆樣の御期待に沿うべく、全幅の
努力をいたしておりますような次第でございます。
海上保安廳が五月に成立いたしましてから、
海上保安廳の
船舶において檢挙いたしました件数も、四月以前とは雲泥の差がございまして、五月以降急激なるカーブをも
つて檢挙件数等も上昇いたしております。すなわち
巡視船のみが檢挙いたしました件数も、五月三十九件、六月二十三件、四月二十九件、八月二十六件とい
つたような次第でございまして、昨年の五月以來今年の四月までで、
巡視船が
海上保安廳設立前や
つておりました
檢挙件数のすでに数百パーセントに達しておるというような次第であります。またその中で私
どもの方の最も多い犯罪は、何と申しましても不法入國並びに密貿易に関する事犯でございます。この点は
法律にも規定してございますように、私
ども相当力を注ぎまして、この点の取締りに当
つておる次第でございます。かような
意味からいたしまして、目下私
どもの
船舶勢力の約半数をさきまして、これを九州方面の海域に配備をいたしておる次第でございます。そこで密入國、密貿易
関係の事犯におきましては、全犯罪の檢挙人員五月五百五人、六月五百十九人、七月五百二十七人、八月八百三十八人というふうに増加いたしております。その檢挙人員の内訳を申しますと、五月は五百五人のうち
日本人は百十五人、その他は
日本人以外であります。六月の五百十九人のうち
日本人が百四十一人、その他は
日本人以外、七月の五百二十七人のうち
日本人は百九十六人、
あとの約三百三十人は
日本人以外、八月の八百三十一人のうち
日本人は百二十六人、
あとの約七百十人は
日本人以外であります。かような次第でございまして、私
どもの仕事は
日本人以外の方面に対する
関係が非常に多いのでありまして、この点は私
どもの仕事の一つの特色であるのであります。かような次第でございまして、九州に大部分の勢力を配備いたしておりますが、九州におきましては、対馬、五島並びに関門海峡、ここに最大の力点をおいております。そこで最近はこの辺の取締りが相当効果を発生したものと
考えられます。自然犯罪並びに犯罪
船舶の移動が九州の南方面、天草から鹿兒島、さらに
日本海方面は鳥取方面から舞鶴方面までその移動
範囲が延びて参
つておるということがいえるのであります。この点は私
どもの最も重大なる地点であるところの対島、五島、関門における取締りを避けて、逐次
日本海及び東支那海の両方面にすなわち
船舶航行としては困難な方面に分散しつつあるということが指摘されると
考えるのであります。從いまして取締りの
状況としましては相当効果を発揮して、これがために密貿易のやり方が非常に危險性を伴う一は八かの方向に変換しつつある、こういうことが立証できるものと
考えております。
かような次第でありまして、はなはだ
裝備の不完全なままに、職員はほとんど無手をも
つて、あるいは相手はダイナマイトを持
つているかもしれない、あるいは相当の
武裝をしているかもしれないという相手に対して、取締りの任に当
つておるような次第であります。実は過般九州方面を担当せられている
関係方面から、私
どもの九州
海上保安本部に対して感謝状を十月の末に頂載いたしました次第であります。これは職員が日夜荒波と闘いながら
努力しておりその
努力に対して、
関係方面においてもこれをお認めくださ
つたものと私は信じておるのであります。この点皆樣に御被露申し上げ、御報告いたしたいと存ずる次第であります。
次は
日本の漁船並びに機帆船等のマツカーサー・ラインの越境の問題でございます。
日本近海におきましても漁業違反が非常に多くございまして、私
どもの方の取締り対象にもしばしばこれがかか
つて來るのであります。漁業
関係諸法規に規定しておりますところの漁業の秩序維持ということについては、非常に力を入れておるのでありますけれ
ども、
海上のことでもございますし、しばしば漁業違反が行われているような次第でございます。特に漁船は國際的な問題を惹起するわけであ
つて、私
どもとしましては、これらの点については十分に農林当局とも
打合せをいたしまして、
日本の漁船が自粛自戒いたしまして、この漁区に関する制限を正当に守るということについては、十分注意を喚起しているような次第であります。幸いにして東支那海方面の磯反は最近ほとんどないような次第であります。ただ北方方面において、この夏以來相当
日本漁船の拿捕問題が起
つたのであります。この点についてはその後
関係方面にもお願いいたして、
諸般の
調整をいたしております結果、最近においてはその
関係がほとんどないような
状況まで立ち至
つておる次第であります。
次に私
どもの方は航海の安全という立場からいたしまして、
船舶が必要なる人命救助の設備を整えておるかどうか、あるいは
船舶火災に対する予防装置を持
つておるかどうかという点については、常にこれを安全の立場から監視をいたしておるのであります。そこで先般瀬戸内海を航行する
船舶に対して一齊檢査をいたしました。約二百五十隻の臨檢をいたしたのであります。これは情状の重きものに対しては航行停止をする必要性があるのでありますけれ
ども、今回は最初のことでありますので、單なる檢査、注意にとどめたのであります。この結果二百五十隻の中において一應
船舶安全法その他必要なる設備を整えておりますの田、わずか三分の一に過ぎないのであります。三分の二は何らかの
意味において
船舶安全上欠陷があるという結論に達したのであります。この点は目下
関係方面とも
打合せをいたしまして、どうして
船舶の航行の安全、人命の危險を防止するかということにつきましては、目下
打合せ中であります。この檢査は全國に廣げまして、全國の統計をと
つた上で、適当な今後における予防策を講じたい、かように
考えている次第であります。
次に
船舶の救助に関しましては、これは
海上保安廳の重要なる
任務の一つでございます。
海上保安廳ができてから、
船舶の救難に関して極力力を入れている次第であります。
船舶の救助件数は五月八件、六月四件、七月十三件、七月までの
合計二十五件であります。
船舶と申しましても、現在はいかなる小船でも数百万円の値いがいたします。しかもこの船には貴重なる人命と、非常に高價なる船貨を積んでおります。これが海底に沈んで全損になるということは、
國家的に見ましても非常なる損害でございます。これの救助に対してはあらゆる
努力をいてしております。先般当
委員会においても御注意がありまして、水難救済会の強化ということについては、鋭意その案の考究中でございます。近く
船舶救難体制を全面的に強化する案を得て、実施いたしたいと存じておる次第であります、幸いにして
海上保安廳成立以來漁
船舶員の方面から、
海上保安廳が毎日毎日徹宵全國
海上保安廳無線を動員して、SOSを探知するやいなや、ただちに救難艇を発して救助におもむくという点について、そういう救難業務を專心や
つている役所があるということを、船員、船主方面でも御認識くださいまして、最近それに対する感謝の言葉を承るようになりましたことは、
海上保安廳として最も喜びとする次第であります。救難業務に関しては、今後においても最大の
努力をいたしたい、かように存じている次第であります。
最後に瀬戸内海に敷設した機雷の掃海であります。女王丸の沈没によ
つて相当世間の耳目を騒がせましたが、その後においても今年に入
つて、夏以後においても瀬戸内海において機雷にかかる船がすでに数隻起
つておるのであります。機雷の掃海は非常に困難であ
つて、私
どもの職員はほとんど身を挺して機雷にぶつかる、体当り惻法で掃海しておるというような
状況でございます。すなわち掃海の
方法は、電流を自分の船のしりにひつぱ
つて三隻編隊で掃海をする
方法と、それからギニア・ピツグと申して、犠牲の豚といわれておりますが、自分が犠牲の豚に
なつたつもりで、自分の船体に電流のコイルを巻き、
船舶全体を磁氣にしてその機雷の上を航行するのであります。機雷が爆発いたしますと、もちろん乘組員は殉職いたします。そこで乘組員の安全をはかるために、甲板において
機関の操縦をする。遠隔操縦をして、しかも操縦席の上にはマツトとい
つて、蒲團のようなものを天井につるしてお
つて、下で爆発して天井に飛ばされても頭を割らない、それから乘組員は全部救命具をふだんから体につけて、いつ海の中へほうり込まれても何とか助かるというような、ほとんど非常態勢をと
つて機雷の上を航行しておるような次第であります。かようにいたしまして、瀬戸内海の航海の安全については私
ども最大の力を盡して掃海いたしておりますが、幸い最近機雷原に関する非常に詳細なる図面を
関係方面から入手いたしまして、これが非常な効果をあげて、必要なる
海面の掃海が急速に進行するという態勢をと
つて來ましたことは、非常に喜ばしいことと存じております。最近は私
どもは瀬戸内海を一般の民生の安定に資するために、民生に必要なる航路、それから
日本の観光事業の発展のために、観光に必要なるルート、それから最近外國船を
日本が注文を受けまして、その外國船の試運轉をやらなければならない、試運轉
海面、それから逐次外國の輸入物資が各港に入
つて参ります。そこであるいは八幡に鉄鉱
関係を入れるために洞海湾の掃海、関門海峡の掃海、さらに最近は伏木方面に鉄鉱石を入れますために、
日本海方面の掃海にまで手を廣げて、一日も早く
海上の危險を取除くということに
努力をいたしておるような次第でございます。幸いにいたしまして、現在まで
日本が掃海いたしました航路において、まだ一発の機雷にも触雷してはいないということを申し上げ得ることは、非常に私は喜びとする点であります。私
どもがこの点は掃海を終えたということを告示をいたしまして、その航路に一発でも機雷が爆発をいたしますと、私
どものあらゆる苦心というものがその一発によ
つて水のあわになるのであります。一発の触雷が起
つたか起らないかということは、私
どもはほとんどオール・オア・ナツシングであるというぐあいに
考えまして、
眞劍に取組んでおる次第であります。しかも廣い
海面を、あの船の航跡を縫いましてほとんど二千メートルの航路なら航路がまつ黒くなるまで、その航跡を塗りつぶすまで掃海をしておるのであります。かような状態で、おかげさまをもちまして、
海上保安廳も非常に御期待通りには参らぬと存じますが、一歩々々
法律に予定されまして目標に向いまして全職員が
努力をしておるということを、この際申し上げることができますことは喜びとするところでございます。なお申し遅れましたが、私
どもの職員の訓練に関しまして、
海上保安に関する学校を設立しておるわけでありますが、幸いその第一回生が十一月上旬に約八十二名卒業いたしました。檢察廳その他の御
協力によ
つて職員の訓練をいたしておりますが、逐次全國においても、職員が各方面の訓練を経まして、必要なる取締りに万全を期し、また人格の修養、鍛錬に進み得るという態勢に相な
つておることを最後に申し添えさせていただきたいと
考えます。これをも
つて経過報告を終らせていただきたいと存ざます。