○景山
公述人 ただいま塩業労働組合の代表者の方から、るる御説明がありました。私は経営者の
立場から一言所感を述べさせていただきます。今回突如としまして、塩
專賣は他の
タバコ、しようのうとともに、
專賣公社案として本議会に提案されました。われわれ塩業者としましては、実に意外に思
つております。塩
專賣につきましては、おのおの人によ
つて議論がありましようが、多年直接その業に携わ
つて來ました私たちとしては、端的に言いまして、
從來の塩
專賣に大体満足して來ております。それを何ゆえに今般
專賣公社に変更する必要があるのか。いまだに十分納得が行かないのであります。換言すれば、
從來のままではどこが惡いのかということであります。もちろんわれわれとしましても、
從來專賣局に対し、ときに論爭もし、非難もしたことがございますが、それはわれわれの
事業をよりよくしたいという意図に基いたものでありまして、大体今まで
專賣局とわれわれの主張が適当に織り込まれて、今日まで來たのであります。
從つて運営よろしきを得れば、現状のままでさしつかえなく、これを
專賣公社にかえることに対しては、遺憾ながら心から賛意を表しかねるのであります。これは今労働組合の代表者の方から言われたのとま
つたく
反対の見解を持
つております。世に世に塩
專賣を非難する者もありましようが、明治三十八年以來今日まで、時の
政府が常に時代意識に應じてこれを
運営して來た功績は、特筆に値するものがあると思います。すなわち單位面積の
生産量を見ますと、
專賣創設当時に比しまして、今日は数倍にな
つております。ます。また塩の質を見ますと、当時五等塩であ
つた不良塩、塩化ソーダ五
——六〇%が今日では九〇%以上にな
つております。コストの面からいいますと、大体時代の動きとともに、
貨幣價値が減
つております。特に今日のごときインフレのときにはそれがはなはだしいので、その面だけで眞相をつかみ得ませんが、これを原單位によ
つて見ますと、その進歩の跡がはつきりと現われております。たとえばコストの中で最も多額を要している燃料の点について見ますと、以前は塩一トンについて一トン半も二トンも石炭がいりましたが、今日ではわずかに六千カロリーぐらいな発熱量を持つといたしますれば、塩一トンについて半トンで済みます。
一体世の人は塩について非常に無関心で、われわれもその点については遺憾に思
つておりますが、これは反面、
從來安い塩が豊富に得られたから、長い間にそのような観念が養われたのであろうと思うのであります。すなわち、いくらわれわれの実生活に必要欠くべからざるものであ
つても、それが高價なものか、あるはきわめて得がたいものでない限り、ややもすればそのありがたみが忘れがちなのは人情であります。最近塩の需給が円滑を欠き出して、初めて一部の人々の注意をひきようになりましたが、それまでは大
部分の人が無関心であ
つたことは、塩がいつどこでも多量にかつ安價に入手し得たからにほかならないと思います。かくのごとく
生産面からい
つても、質の面からい
つても、はたまた原單位の比較から申しましても、進歩の跡著しく、かつ終戰前までほとんど食料塩につき
國民に何らの不自由も感じさせなか
つたこと、これらの功績は、一に塩
專賣の
運営よろしきを得た結果にほかならないと思うのであります。かかる
意味におきまして、私は塩
專賣なるものは、
從來ともりつぱな
成績をあげて來ているし、われわれ経営者も
專賣下に
政府と協力して、長年斯業の発展に努力して來まして、塩
專賣の美点というものを痛感しております。
從つてわれわれに、塩
專賣をかえる必要があるかと問われますと、將來はいざ知らず、現在その必要はないと断言するにはばからないものであります。それゆえに、できれば現状のままがよろしい。ここに御臨席の各位に、なぜ
專賣公社案にせねばならないのか、このままでいいのではないかということは、むしろ私の方が質問したいくらいであります。今回の
專賣公社案が労働問題にその端を発しておるというに至
つては、なおさらその感を強くするものであります。戰後ほうはいとして労働問題が勃興して來ました。われわれのところでも労働組合が次々と結成されまして、いろいろの要求に接しておりますが、われわれとしても、経営者の
立場から謙虚な氣持で、聞くべき点は聞いております。またわれわれの
立場から納得の行かないところは、遠慮なしに拒否しております。こうした氣持で労資双方が納得の行くところに落ちついて行けばよいのではないか、これがために塩
專賣をかえる必要はないと思います。ここで注意していただきたいことは、われわれは塩業経営者であります。塩の製造は先般來問題とな
つておりました
タバコなどと非常に違います。塩については
政府は單に行政部面、
流通部面、たとえば收納とか販賣とか監督とい
つた方面をや
つておられます。
タバコのごとく
政府そのものが
生産をや
つておりません。この点は非常に異な
つておる点であります。
タバコの方は
從つて労働者も多くまた労働組合も
政府の部内にありましようが、塩
專賣ではわずかに
政府職員はただいまの行政部面、
流通部面に從事している
方々だけであると思うのであります。換言しますれば、
タバコは
生産までや
つているが、塩は
生産はなく、行政面だけであります。かかる
意味から私たちは労働問題の面からも、何も塩
專賣を変更するほどの必要はないと思うのであります。敗戰後の
日本はわれわれの考えているように行かない点もあるのでありましようし、事ここまで來るのには紆余曲折もあ
つたと思います。事情やむを得ないものもあろうと思いますが、われわれ塩業者としては塩
專賣をかえる必要はごうもない、現状のままがよい、こう信じておるものであります。かかる
意味におきまして、今回提案の
專賣公社案は、
從來の塩
專賣と本質的に異なるものでありますれば、
内容が根本的にま
つたく違
つているものでありますれば、大いに議論の余地もあるのでございますが、大体において
從來の塩
專賣と大差がないのであります。この
程度のものならあえて異論は申しません。ただここにはつきりと申し上げておきたいことは、これを契機としまして、將來根本的に変更を加えられないということであります。すなわち
從來の塩
專賣の美点というか、特長をいつまでも維持して行きたい考えております。重ねて申しますと、今回の
公社案は
從來の塩
專賣とほとんど異な
つていないので、
從來の塩
專賣のもとで、われわれがりつぱにその社会的使命を果して來ましたように、本
公社案のもとにありましても、やれると信じております。そうした
意味で本案を根本的にくつがえすような
意見は持
つておりませんし、しいて塩
專賣法をかえる必要も認めませんが、やむを得ずかえるとしても、その
程度ならあえて異論は申さないという、きわめて消極的な
意見でございます。とは申しますものの、考え方によ
つては大なる変化とも言えますので、次に正修案の二、三の点について、塩業経営者としての
意見を述べてみたいと思います。
第一は先ほど來次々と
お話がせられておりました
審議会の構成の問題です。本案を見ますと、今後
公社の
運営は
審議会によ
つて左右されるように考えられますので、官僚統制の積弊に陷らないように、この機構の構成者は
学識経驗者とな
つておりますが、これはあくまで
事業に精通した人を充てられたいと思うのであります。また塩業の
能率向上を期するために、事情が許せば塩業界からも代表者を出さしていただきたい。すなわち
学識経驗者ではこれが漠とした感がありますので、そういう純粋の
意味の人ばかりでなく、
專賣事業に経驗のある者という解釈のもとに、そういう條件にかなり人も入れていただきたい。何分
事業が多岐にわた
つておりますので、六名という人数でそうい
つた條件を満し得ないならば、若干の増員もやむを得ないのではないか、とにかく
事業に理解、精通せる者を必ず入れていただきたいと思います。
第二は塩の製造権の問題でございます。
タバコと異なり、塩の製造はほとんど
民間企業であります。しかるに本案を見ますと、塩の製造もできるようにな
つております。またただいま労働組合の方の御
意見では、全部そうした方がいいのだというような御
意見の出ております。しかし私たちはそうい
つた見解にはま
つたく
反対であります。なるほど
政府もきわめてわずかな製塩をや
つておりますが、全体的に見ればものの数ではありません。これはおそらく防府工場の製塩を指されていることと推察いたしますが、これと同種の眞空式工場が現在
民間に約十六工場ございます。これらの
成績を比較してみますと、
政府工場より
民間工場の方が
成績がはるかに優秀であります。他の
タバコとかしようのうというような
方面のことは知りませんが、塩に関する限り官営と申しますか、國営と申しますか、
政府工場より民営の方が
成績がよい。またわれわれも民営の方が
能率が上ると信じております。
從つて塩の製造に関する限り、これを民営にするという原則を確立していただきたい、こう思います。具体的には、本案の塩製造という字句を抹消して、防府工場も適当な
價格で
民間に讓渡する。すなわち塩の製造は
能率的な民営に全部まかせる。
公社の
事業としては、收納、販賣、試製塩、試驗場にとどめる。この原則を本案に明白に示されたいと思うのであります。しからばただいまの平がま業者のごとく、ややもすると採算が合わず、経営不能に陷る向きに対してはどうするかという疑問も出て來ましようが、これあるがゆえにこそ
公社の妙味を発揮して、引合うように賠償金を決定するとか、特別金融の道をはかるとか、
從來のごとく低利資金の融資とか、補助金の交付ということをしていただきたいと思うのであります。民営という
能率的な長所と現在の
生産力をあくまで温存するということを建前として、一時的の窮迫者が出ましても、これは何らかの
方法により救済の道を講じていただきたいと思います。
なお
公社案といかなる
関連性を有するかつまびらかにしませんが、現在
政府により設備の改造、補修が禁止されておりますが、これが目下
民間製塩業の
能率向上をいかに妨げているか、筆舌に盡せぬものがあります。もし近い將來、塩業者中に経営困難な者を生じたとしますれば、必ずやこの禁止のために
能率的な設備の採用をなし得ないものであるということを断言してはばからないものであります。この種の禁止を解き、かつわれわれに豊富に電力をくださるならば、つまり
事業を電化すれば、内地塩のただ
一つのがんであるコスト高という問題も容易に解消します。そうして内地食用塩の確保ということに磐石の重みを加えます。貧乏國の
日本が塩のために多額の資金を外國に拂うという愚かしさもしないで済みます。ただいまは連合軍の好意によ
つて百万トン余り輸入しておりますが、それは御承知のガリオア資金があるためで、ほとんどただに近いような相場でございますが、正常な状態に
日本が復帰したときには、一ドル三百円としましても、三千万ドルという外貨を支拂わなければなりません。こういうことが許されるものではない。たとえば許し得ても、
日本でできるものはできるだけ
日本で調達して、その不足分をまかなうという
日本の塩業
政策を根本的にこの機会に樹立してほしいと思います。終戰後。もちろん戰爭そのものをわれわれは負けるとも考えていなか
つたが、非常に塩業
政策というものが混乱して、今
一体どういう
政策のもとに動いているのか、われわれにもわからないのです。そういうことで、この必須不可欠の塩というものを放任しておくというきとは、も
つてのほかだと思うのであります。
第三は
公社の機動性発揮という点であります。
公社の取扱う
事業は、すべて営利
事業であると断定してさしつかえないと考えるのであります。しからば最も要請されるのは、機動性の発揮ということであろうと思います。かくのごとき
意味におきまして、私は必要に應じて地方に大幅の権限の委讓が望ましい。それと同時に本案を見ますと、
予算が
國会の承認を受けることにな
つております。営行行為を
予算で拘束することは、はたしてどうかと考えられるのであります。営利
事業ほど機宜の処置を要求されることのはなはだしいものはないのであります。これを拘束して、必要な場合にまた追加
予算などということになりますと、いたずらに事務の進捗を煩雜にします。経営の彈力性を欠く結果となり、ひいては営業
成績も上らないのではないかと思うのであります。よ
つて民間企業のごとく、
收入によ
つて支出をまかなわせ、
会計予算についてもいたずらに拘束せぬ方がよいと思います。
公社は独立採算制がとられるやに承
つておりますが、右に懸念したような事情において、目下收納停止のような状態が、再び繰返されるがごときことが万一今後ありましては、ゆゆしき不祥事であるばかりでなく、われわれ塩業者のこうむる迷惑もはなはだしいのであります。ただいま労働組合の方から、だんだん全國に馘首者が出ておるということを申されましたが、実際にこうい
つたことになると、われわれも好まぬことながら、金融部面に行き詰
つて、やむを得ずそうい
つた手段に、経済力の弱い人は出でざるを得ない結果になるのです。私もこれが國策に基いて永遠に廃止するというのならともかく、一時的にそうい
つた事務的のふしだらなために、そういう犠牲者を出すということはも
つてのほかだろうと思います。われわれとして事を好むのではなく、そうせざるを得ないような現実の機構そのものを、かえてかかる必要があると思います。よ
つて私は
專賣益金は全額國庫に納入するとも、あるいは監督をいかに嚴重にするとも、
公社の機動性発揮のため、下級
官廳への権限の大幅委讓をなし、
予算を
國会において審議せず、自由にした方がよいと思うのであります。
次に多少理想に走るかとも思いますが、第四は、
價格審議
機関とい
つたことを考えております。この点については全然
公社案は触れておりませんが、何さま一千億に近い
益金を國庫に納入すべき使命を帶びておる特殊法人であります。その
價格も独占
價格であり、統制経済下に現在は物價廳が
價格の決定をされていますが、これも永久的な措置とも考えられませんので、特殊の
價格審議
機関が必要と思うのであります。またわれわれの現在の塩の賠償金を見ましても、営利
事業であるのにかかわらず、利潤が計上されておりません。これはま
つたく不合理だと思うのであります。また塩は主食に準ずるものとして、米麦に次ぎ販賣
價格もきわめて低くされていますが、これは現在の二倍、三倍にしても何ら
國民生活には大なる影響を與えるものではありません。大体われわれが一箇年に所要する数量が十キロであります。現在一トン一万五千円、一箇年にわずかに百五十円。これを二倍にしても、三倍にしても、実生活にはさまで影響はない。隣國の支那では塩税というものがか
つて大なる財源とな
つていたということを聞いております。この
程度はともかく、食塩では赤字が出がちになる過去の経緯にかんがみ、これを思い切
つて値上げして、相当の
益金を出していいと思うのであります。食塩は現在
公益專賣、それから
收入を上げておりません。
收入を上げていないだけでなしに、赤字すらも出て、それがためにわれわれは非常に迷惑している。その
引上げのウエイトが、米麦に準じて非常にむずかしいということを聞かされておりますが、これは米麦ほどいらない。わずか十キロ少々あ
つたらいい。それを二倍、三倍にしたところで、一箇年に百五十円や二百円の金でございますから、さまで問題にする必要はないのではないかと思います。
かくのごとく買上
價格にしろ、賣渡
價格にしろ、議論の余地がありますので、
政府、
公社、製塩業者、たとえばわれわれのような経営者、消費者、
学識経驗者とか、あるいは労働組合の
方々も交えた
價格の審議
機関を設けて、経営者も立ち行き、消費者も納得が行き、しかも
國家にも貢献できるような民主的な買上
價格、賣渡
價格の審議
機関を設けたらどうかと思います。
以上二、三にわたりまして、
意見を申し上げましたが、冒頭にも申し上げました
通り、
從來の塩
專賣の美点長所を知
つているわれわれ塩業経営者としましては、これを現在根本的に変更する必要を認めません。現行のままでいいと思うがゆえに、端的に言えば、これは審議未了になることを私は歓迎するわけでありますが、事情やむを得ず
公社案として再出発するにあたりましても、その
内容は
從來の塩
專賣とほとんど大差がないがゆえに、あえて異論は唱えません。ただいま申し上げたような二、三の点につきまして、われわれの希望が入れられれば、望外の仕合せと思うものであります。(拍手)