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宮崎公述人 私は全國
漁村同盟の書記長
宮崎新一であります。これから
水産業協同組合法案についての、私の
意見を申し上げます。
漁民は民主的な
協同組合法が
制定されることを非常に待望いたしておるのであります。しかしながら私
どもの知るところでは、全國の三百万
漁民の中で、はたして現在
上程されております
水産業協同組合法の
内容を知
つておるものが何人あるかということであります。水産
委員会が一昨日と本日この
法案についての
公聽会を開かれましたことについて、私
どもはたいへん感謝をいたしておるのでありますが、もしさらに私の希望を申し上げますならば、このような全國の
漁民にと
つて非常に大きな影響を與える
法案は、全國の
漁民の一人々々が事前にその
内容を十分檢討して、
意見を述べる機会を持たしていただきたいと思います。今までのように、
漁民のだれもが何にも知らないうちに
法律がひとりでできて、そしてこういう
法律ができたから、さあお前
たちこうやれということでは、ま
つたく戰爭中に、
漁民のだれもが何にも知らないうちの
法律がひとりでできて、そして、こういう
法律ができたから、さあお前
たちこうやれということでは、ま
つたく戰爭中と同じてある。しかも
ほんとうに
漁民の意思を反映した
法律はできないと思います。賢明な水産
委員の皆樣方によりまして
公聽会が持たれて、愼重に審議が行われておるのでありますが、何とぞ一部に言われておりますように、何でもかでもとにかく通せ、あとで
修正すればよいではないかというような、拙速主義はおとりにならないようにお願いしたいと思います。十分
國会の権威にかけて御審議をお願いしたいのであります。全國の
漁民たちは、先般も私
西村委員長に同道してお目にかかりまして、このように何でもかんでも通してくれということはわれわれは希望していない。むしろばに延びても、十分檢討をする機会がほしいということを申しておるのであります。最初にこのことを申し上げておきたいと思います。
さてただいま
上程されておりまする
水産業協同組合法でありますが、私
ども漁民がこの
法案に期待し、この
法案によ
つて私
どもの希望を貫きたいと思う
二つのことがあります。それはまず
法案の第一條がうた
つてありまするように、
漁民の経済的社会的
地位を
向上するということが第一点であります。第二点は
漁村の
民主化であります。この
二つのことを私
どもはこの
水産業協同組合法案に期待いたしておるのであります。しからば今日
上程されておりまする
水産業協同組合法案は、そういう本來の性格を十分貫き得ているかどうか、この点について私
どもの
意見を申し上げたいと思います。
まずその第一点でありますところの、
漁民の経済的社会的
地位を
向上するという点でありますが、こういう
漁民の要求を眞に貫くためには、今日の
漁村、
漁民の状態からいたしますならば、少くとも私は次のことが絶対に必要であろうと思う。その第一は、今日の
漁業経営や、また
漁民の生活を破壞しつつあるところの苛酷な税金の引下げ、あるいは撤廃。第二は
漁民に必要なる資材を豊富かつ低廉に供給するということであります。その第三は必要な資金を十分に確保してやること、第四には
経営の合理化をはか
つて経営規模をもう少し大きくしてやること。
最後に
漁民の
組織を確立して團結権の力をもたせること。少くともこの五点が今度の
水産業協同組合法で貫いておらなければ、私は
漁民の経済的社会的
地位を
向上するということはうそだと思う。この点を私は
一つ一つ檢討してみたい。
第一に、最も必要な税金の引下でありますが、
漁民が
水産業協同組合法によ
つてはたしてどれだけ税金を引下げられておるか、本
法案の第八條がわずかに税金の問題に触れておりますけれでも、これはほとんど取るに足りません。元來このような
組合は昔から免税をされております。先の産業
組合法にいたしましてもそうでありまして、弱小者の
地位を擁護し、その
向上をはかるためには、このような
組合を結成する大きな意義がなければならない。それは何とい
つても、こういう
組合には税金を課さないということが第一であります。現在
水産業團体にも法人税がかか
つておりまするが、これは特別法人税であ
つて、戰爭中に必要に應じて特別に、大体はこういう
組合に税金をかけないのだけれ
ども、戰爭だから特別にかけるという特別法人税であります。今日の状態からいたしまするならば、この特別法人税は廃止して、法人税は一切
水産業協同組合からは免除するというこが当然であります。ここに初めて漁御がこの
水産業協同組合、
漁業協同組合に集ま
つて行くよりどころができてくるのであります。
それから第二、第三の資金や資材の点が、はたしてこの
水産業協同組合法によ
つて確保されているかということを檢討してみたい。この
法案で第十一條から第十六條にわた
つて、
漁業協同組合の
事業がたくさん書かれておる。それではこういうたくさんの
事業によ
つて、はたして
組合員である
漁民は
ほんとうに資材の確保ができるか、
組合員でない者と比較して、
組合員がどれだけたくさんの利益を受けるか、こういうことを
考えてみたいのであります。
漁業協同組合が信用
事業を行うのは、これは個々では金がないから、みんなで集めて、これを使いながら今日の困難を切抜けようというのが、私は信用
事業を行う
意味であると思いますが、もともと貧乏な
漁民が、いくら集ま
つてみても金はたくさん集まらない。結局集
つた資金は一部の有力者が、適当にこれを自分のために使うというようなことになりがちなのであります。農業や
漁業は原始産業で、
從來から
日本の発展のためにま
つたくふみ台にされて來た産業なのであります。この産業を
ほんとうに一般の産業並に、
漁民の社会的な経済的な
地位を引上げるためには、どうしても外部からの資金的なバツクがなければいけない。これがために漁師はみすみす高利な仕込資金を借りる、あるいは
商業資本のために搾取される。そうしてそれとの腐れ縁がいつまでた
つても切れない。いくら
漁業協同組合ができても、今日の状態では、決して私はその
関係は切れて行かないと思うのであります。私は
漁業協同組合に対しましては、資金や資材を最優先的に國家がバツクして供給してやる。そうしてこの
漁業協同組合が発展をし、その
漁業協同組合によ
つて、
漁民の社会的経済的な
地位が高められて行くということをやらなければ、
漁業協同組合に入
つても入らなくても同じやないか。こういうことではなかなか
漁業協同組合の眞の発展はできないと思われるのであります。各種の販賣
事業や購買
事業、たくさんの
事業を行いましても、このことによ
つてほんとうの利益がなければ、
漁民はこれに入
つてもしようがないのである。それにはどうするかというと、たとえば
漁業協同組合には資材をひ
とつ一番最初によけいにやろうではないか。中金の資金もあるいは復金の資金も、まず第一に貸しつける。こういう條件がこの
漁業協同組合法によ
つて備わ
つておれば、默
つていても漁師は入
つて來る。そういう條件がなければ、普通の経済
事業と同じでありますから、個人でも
組合でもできる。こういうことになります。
次に第四の問題であります。社会的、経済的な
漁民の
地位を引上げるために、私は
経営の協同化を通じて、さらに
漁民の今日の
経営を合理化して規模も大きなして行く。こういうことが非常に大事であると思うのでありますが、この
法案ははたしてそういう面を取上げているかどうか。この
法案では第七十八條以下の
漁業生産組合、これについて道が開かれてあります。それから第十七條の
漁業協同組合の
漁業経営、この
二つの点で道が開かれておるのであります。この
法案を見ますと、
漁業生産組合では
生産組合内部の
民主化というか、あるいはたとえば株主の持ち方なり、その他の点で相当進んでおると思います。また
漁業協同組合の自営の点についても、そういう点については相当配慮は拂われておる。しかし実際
漁業生産組合をつく
つてやりたい。またそれをやらさなければいかぬという人
たちは、私
どもから見ると零細な
漁民、あるいは
漁業労働者、そういう人
たちが一緒にな
つて自分
たちも
経営者になろう。自分
たちの
経営を大きくして外部の大きな企業的な
資本家に対抗して行こう。あるいは
商業資本にも対抗して行こう。こういうのが私は
漁業生産組合をつくる大きな希望であろうと思う。
〔冨永委が長代理退席、
委員長着席〕
ところがそのような
労働者にいたしましても、あるいは零細な
経営者にいたしましても、一番必要な資金がない。資材がない。これではいくら人間だけ集ま
つてみても、この
法律では非常にりつぱなことがうたわれておりますけれ
ども、実際にはできない。こういうことを私は心配するのであります。この
生産組合をもしこのまま
法律で行きますならば、おそらく今日
漁村に古く残
つておりますところの親方漁師あるいは網元、そういう私
どもの好ましくない人
たちが、自分の
経営の
民主化の偽裝のために水産
協同組合をつく
つて行くという
危險を包藏している。その
危險を取除くためには、零細な
漁民や
労働者や、そういう人
たちが集ま
つてできる、
ほんとうの
生産組合を盛り上げるための資金と資材の國家的なバツクをどうしても必要とする。これは私、
法案にぜひ盛
つてもらわなければこの
生産組合は逆作用を起すということを申し上げたいのであります。
次に第五の
漁民の
組織を確立して
漁民の力を團結させるということ。これは今日全國の
漁民が持
つております力というものはた
つた一つしかない。自分で出せる力というものは、ただ自分
たちが手をつないで團結をして、その力でも
つて要求を通すというその
一つの力が初めて
漁民の力である。それ以外のことは資金
にしても、資材
にしても一切のことは國家の絶大なるバツクがなければできないのであります。この
法律にも第一條に「協同
組織の発達を
促進し」と書いてある。お前
たちは力が弱いから一緒に
なつた力をも
つてや
つて行けということを書いておるのであります。この團結の力、これを
漁民から取除いたら、
漁民には何も力がないが、この
法案によりますと、先ほどからたびたび申されておりますように、全國の
連合体が持ち得ないようにな
つている。これは私は何かの間違いでないかと思う。た
つた一つ漁民が出せる力、それは全國の
漁民がみな團結をして、そして有無相通じ、相助け合
つて自分
たちの生活を高めて行く。これだけはだれから何と言われぬでも、自分の力でできる。それができないというような規定がこの法文の第八十九條の連合会の規模の制限の中にございますけれ
ども、これは私は間違いだろうと思う。これは原案作成者の間違いだろうと思いますから、本
委員会におかれましては、十分この間違いを訂正されんことをお願いしたい。全國
組織を持てるというふうに御訂正をお願いしたいのであります。
次に
水産業協同組合法が貫かなければならないところの本來の
使命の第二の点、
漁村の
民主化の点についてこの
法案をながめてみたいと思います。これにも私はいろいろ條件があると思いますが、何よりも
漁村の
民主化の第一は、今日の
漁民が憲法で保障されておりますところの、平等の権利をどうして持
つて行くか。
漁民が平等である第一の條件は、何としてもこの
漁民にと
つて一番大切な
漁業権をみんな共通に持つことである。ある者は
漁業権を持
つている。ある者は持たない。そういうようなことでは言いたいことも言えない。皆が平等に
漁業権を持
つて、それを共同に使用して行く、こういう状態で初めて私は
漁民が
ほんとうに平等な権利を持ち得ると思います。それには一人々々にこの
漁業権を切り分けするわけには行きませんから、
漁業協同組合というこの
漁民の
組織に
漁業権を與える。そうしてみんなでも
つて共同漁場を持
つて行く。おれは持つ、お前は持たぬという差別をなくする。これが
漁村民主化の第一歩である。ところがこの点につきましても、この
水産業協同組合法については一言も触れていない。
漁業法ができないから触れられないとおつしやるかもしれませんけれ
ども、少くともそういう氣持があるならば、この
協同組合法案の中に、その項目が一項なければならぬ。それがま
つたくないということは、私はこの
水産業協同組合法では、
漁村の
民主化はちつとも
促進しないということを断ぜざるを得ないのであります。
それから次に
漁村の
民主化を進めるときの第二の問題は、非
漁民的な力を
漁村の中から排除して行く。現在の
漁業会を見てみますと、実際は
漁民でもない宿屋のおやじであるとか、あるいは寺の坊主であるとかいうようなものが、昔
漁業をや
つてお
つたとか、あるいは
漁業権を持
つてお
つたとかというようなことで、
漁業会の中にはいり込んで、これが実際にひまのない
漁民の目をぬすんで
漁業会を牛耳
つている。これが非常に多い。こういう非
漁民的な勢力はどうしても追い出して、
漁民だけで
漁村の
漁業のことをや
つて行くという状態
にしなくてはならぬと思うのでありますが、それにはこの
法案の第十八條でうた
つてありまするが、員外
理事というものは絶対にこの際排除しなければいかぬ。
漁村の
民主化をやろうというこの
法案が、員外
理事を認めるということは、私はま
つたく自己撞着だろうと思う。こういう点につきましても、十分当
委員会の賢明なる皆さんの御配慮をお願いしたいと思うのであります。
次に最も大事なことは、この
水産業協同組合法が
漁村の
民主化を進めるために、まず何よりも古いものを洗い流してしまう。新しい種は
ほんとうによく耕された田圃の上にまかれなければならない。雜草が残
つておれば、雜草というものは必ず新しい種を踏み越えて栄えて來る。この雜草はどうしてもと
つてしまわなければならぬ。だから
水産業協同組合法を
ほんとうに
漁村の
民主化に役立たせるために、古いいろいろな
関係というものを、この際徹底的に
漁村から洗い流してしまう。それには少くとも戰爭中にこの
漁業團体で役員をしておりました皆樣は、今度の
水産業協同組合の中では、ある一定期間は絶対に役員にな
つてはいけないということを法的に措置していただきたい。その中には相当りつぱな人もおありかと思いますけれ
ども、少くとも新しいものができるときには、古いものはすつかり洗い流す。そういうことを十分や
つていただきたいのであります。
私は
二つの観点からこの
水産業協同組合法案をながめましたけれ
ども、ただいま申し上げましたように、私が
水産業協同組合法に期待しておりまするところの、
漁民の社会的な
経済的地位を高めるという点、それから
漁村の
民主化を
促進するという点について、非常に多く足らないものがこの
法案にあることを私は非常に残念に思うのでありまして、冐頭にも申し上げましたように、どうか全國の
漁民の
意見を十分聞く機会を與えられて、愼重に審議せられて、もしこのような欠陷の多いものなら、私
どもは通していただかなくてもけつこうだということを
最後に申し上げて、私の
公述を終りたいと思います。