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委員外議員(
淺岡信夫君) それは、例えば
夜間八時なら八時、或いは九時なら九時に打切るということで、もう晝間から用意をしてそうして
夜間撮影を
開始するわけなんですが、そうしますと、これは今日のような
状態でありますと、
電力の面というようなこともありますし、それから実際に
監督者なり、或いは
撮影する
技術家の方は、
撮影技師の方は非常に油が
乘つて來る。ところがその
雰囲氣を釀し出すものが、これは
芝居なんかですと、相当観客が何と言いましようか、
雰囲氣を作
つて行くのでございますね。そうしてやる人も見る人も大体とな
つて行くのですけれども、この
撮影の場合には、その
人間々々が作
つて行くわけです。そうすると実際氣分が出ないわけでありまするが、この例を私
外國に取りますとおかしいのでございますけれども、実はスタンバークという
監督が
リリアン・キッシユを
使つて、そうして或る
場面の
撮影をするというので、当時私
ハリウッドにおりまして、朝の十時頃から参りましたが、ところが
スタンバーグと
リリアン・ギッシユと相向
つておる。ところが
リリアン・ギッシユはそれ
自体は朝の六時頃から來てメイキヤップをして、そうして
監即スタンバーグの
開始と言うのを待
つておる。ところが一向その
スタンバーグの方では
開始をしない。遂にお晝になり、お晝が三時になり、夕方六時になり、更に八時になる。
映画の
撮影というものはただ
監督と
技師と
俳優だけの問題でなくして、
ライト・
マンもありますし、或いは
ミュージック・
マンも、
大道具、
小道具、その他
背景、いろいろな人がそこに集ま
つて來ます。それはただ一人の
リリアン・ギッシユの何と言いましようか、熱は非常に上
つておるのですけれども、
スタンバーグ監督はそれを満足しないのですね。そうして遂にその
撮影が
開始されたのが、夜の二時半過ぎであります。後で全部済みましてから実は
スタンバーグに私は聞いたのでありますが、それは
リリアン・ギッシユが非常に
製作意欲に燃えておる、その燃えておることは、結局この
場面のクライマツクスを破壊するのだ、それで
リリアン・ギッシユが、これは
日本語で申しますと、
無我三味の境涯になる、無の心境になるというところを
自分が見極めるまで、
撮影開始の声をかけなかつた。それがたまたま二時半頃ぐらいに及んで、私共見ておりまして、
リリアン・ギッシユはそのときはふらふらである、
写眞なんかはどうでもいいというような
調子にな
つて、そうして本当にふらふらの
状態に
なつた。そうしますと、その
スタンバーグが声をかけまして、そうして用意しろ、
ライトと
言つてライトをつける、
ミュージックと言うと、そこにいろいろな
ミュージックが流れて來る。
リリアン・ギュシユはもう
自分で満天下のフアンを悩殺させようとか、或いは
人氣を博そうとか、そういう邪念は一切なくな
つて、そうして
スタンバーグ監督の右に左に動かす手或いは指令に從
つて動いて
行つたのです。そうしてこれで非常に
スタンバーグ自身も喜んでおります。そういうふうにそれが直ぐ
日本の
映画製作に当てはまるということは言えませんけれども、併し昨今におきましては、そういう点が非常に多いのであります。それですから、これはもう八時までに打切ろう、これは六時までに打切ろうとか言いましても、実際に
仕事をして行く
場面にな
つて來ますと、丁度絵を描く人が非常に油が
乘つて製作がどんどんできて行くというのと同じようでございまして、時間で
びしつと打切つてしまおうということでは、なかなか本当のいい
写眞はできて行かないのでございます。そうした点並びに
夜間の
撮影をして行くということは、主にそうした点が一番問題にな
つて行くわけであります。それでは、その
場面をもう
打切つて、明日の朝からやる、こうなりますと、ちぐはぐにな
つてしまうのであります。そういうような点は、これは実際にや
つて見ますと、私共も
撮影所関係におきましては、相当長い期間見たりやつたり、いろいろいたしておりますが、その点は普通の
事業をして行くようなふうに行き得ないという点と、それから
芝居と
映画と異なる点は、
芝居はずつと初めの序幕から筋を追うて演出して行くのであります。ところが
映画は、一番おしまいからや
つて行つたり、或いはその
場面々々を二時間の内でやるのでしたら、初めの方も、
中途の方も、例えばこういうようなセットができるとしますと、この
場面が最初に出ようが、
中途に出ようが、終りに出ようが、その
場面は、一括してやるわけであります。そういうふうですから、
氣分轉換はなかなかむつかしいのです。そういう面を見て行きますと、今日はこれで打切る、こう
言つて、果してその連続が明日できるかどうかという点は非常に疑わしい。そういう点を
演出家なり或いはアクターなんかが考えて、そうして深夜に及ぶということは非常に多いのであります。まだ足りない点も相当沢山あると思いますけれども、私の
説明におきましては大体そういうことでありますから、御了承頂きたい。