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高田寛君 私は今日先ず最初に
観光事業のことについて御質問をいたしたいと思います。終戦後三年、我が國は今や
経済の再建と
國際信用の回復に全力を挙げておるのであります。敗戰の結果、領土はせまばまり、資源は著しく減少したのでありますが、而もここに八千万の
國民が生きて行かなければならないのであります。國を挙げて
生産増強を叫び、又
食糧増産が計画されておるのでありますが而もなお食糧を始め、その他の
生活物資は年々この供給を
外國に仰がなければ我々は生きて行かれないのであります。幸いにして
連合國の御好意によりまして、食糧の輸入は順調に運び、又周囲の情勢が好轉いたしまして、
重要物資の輸入の曙光が見え始めて來ておるのであります。併しこれが対價はどこまでも我が國から
外國に支拂わなければならないのであります。このために
輸出貿易の振興に向
つて大いなる努力が拂われておるのでありますが、而もなお貿易の収支についてこれを見ますると、昭和二十一年度、昭和二十二年度両方とも大掴みにして約二億ドルずつの
輸入超過を見ることにな
つておるのでありますが、今後と雖も、我が國情からいたしまして、この
輸入超過の趨勢は決して恐れることができないと思うのであります。ここにおいて
輸出貿易外に外貨を獲得する途を講ずるにあらずんば、我が
國民が生きるための物資は引続いてこれを
外國から購入することはできないわけであります。戰前においては、
海運収入、或いは
海外移民の送金、或いは
海外投資の収益というようなものにも大きな
外貨獲得に期待を持つことができたのでありますが、今日の状況におきましては、全くその望みを
失つたのであります。そのために、
輸出貿易以外に
外貨獲得の途は唯
一つ観光事業があるのみと申しても敢て過言ではないと信ずるものであります。第一次大戰の後
財政窮乏を救いますために、欧州の各國、つまり
フランス、ドイツ、イタリーなどは相
挙つて観光事業に着目いたしまして、
從來民間事業者に委ねられておりましたこれらの
事業を
国家的事業として
坂上げ、これによ
つて積極的に
外貨獲得を
図つたのもむべなるかなと存ずるのであります。今後我が國が
國際信用を回復して
國際連合に加入し、
國際社会の一員として立
つて行くにも亦この
観光事業の振興が必要であると考えるのであります。できるだけ多くの
外國人を我が國に迎えまして、
平和國家、
民主國家となつた我が國に対する認識を深からしめ、又我が
國民に接して日本に対する親しみを持たせることが
国際信用回復の最も近道であるからであります。かくして
國際的信用の回復があ
つて、初めてここに今後我が國より廣く海外に移民を送り出すこともその途が開けて來ると思うのでありまして、又
観光事業の振興に伴いまとて、
國民の文化や教養を
國際的水準に引上げることになり、又
國際文化の交流によ
つて我が
國文化の向上を図ることも亦できるのであります。なお又、
國内観光の面を見ますると、健全な旅行の奨励によ
つて國民生活の
明朗化を図り、又
一般勤労者に健全な慰安を與えて、
勤労意欲の高揚を図ることができるのであります。幸いにして我が國は
氣候温和にして風景に恵まれ、豊富な温泉があり、特異な文化や芸術を持
つて、一面戰争を通じて諸
外國の我が國に対する関心は非常に高ま
つておることも見られるのであります。この際我が國にして適当な
外國の
観光客受入れ態勢を整えまして、又
観光宣傳その
宣しきを得ましたならば、
海外旅行熱の高い
米國人を始めといたしまして、多くの
観光外客を迎えることは期して俟つべきものがあると思うのであります。聞くところによりますると、
米國人の
海外旅行熱は戰後とみに高ま
つておりまして、昨年中に
米國人が
海外旅行に費した金は約六億九千万ドルであり、この二、三年後には恐らくこの金額が一年間に十六億ドルに上るであろうということが言われておるのであります。今次大戰の終了後、欧州各國は
競つて活發に
観光事業に力を注いでおるのであります。英國は戰勝國ではありますが、相当の
財政的打撃を蒙りましてその
経済回復策といたしまして大々的に
観光事業を取上げまして、政府の
観光局を作り、
民間國体である
英愛旅行協会と協力いたしまして、来
國民を
観光客の第一目標として最も活發な活動を展開いたしております。その他
フランス、スイス、オランダ、ベルギー或はデンマーク、ノルエー、スエーデンという各國も
競つて米人観光客誘致に活發な
宣傳活動を開始しておるのであります。戰爭中数年間我が國は、
国際交通路から全く遮断された状態にあつたのでありますが、昨年の
夏以來米國の
航空会社はその
航空路を我が羽田を経て、或いは
マニラに、或いは又
カルカツタに延ばしておりますし、又
アメリカの
汽船会社は、その航路を我が横浜港を経て或いは
マニラに、又世界一
周航路に延ばしております。英國の
航空会社も亦最近ロンドンを発しまして、
カルカツタ、香港を通り、我が岩國の飛行場までその
定期航空路を延ばして來ておるのであります。
貿易関係者の往來も漸く繁くな
つて参り、殊に又最近は
アメリカン・プレジデント・ラインの船が横浜に碇泊中に、その乗客はバスを連ねて、或いは鎌倉或いは東京などの見物を始めて來ております。
講和会議開催の時期は延びましても、日米間の
平和的交通は日に日に繁くなり、
観光客の
大々的來訪も近くこれを迎え得る情勢が窺われるのであります。この時に当
つて我が國の
観光客受入態勢はどうな
つておるのでありませうか。
観光道路は
戰爭以來修理の行届かんものが多く、又鉄道の
旅客輸送状態も未だ戰前の状態に遠く及んでおりません。
ホテルの数も
外國観光客を迎える余裕ほ殆んどないような有様であります。
戰後観光事業に対する一般の関心が高まりまして、民間の
観光事業推進の機関として
全日本観光連盟の創立を見、又各地方に
観光会社というようなものが数多く設立されて、或いは
國民に
観光訓練をなすとか、或いは又各種の
観光施設の充実に力を致しておるのでありますが、何分資金及び
資材面において隘路が多く、
観光客受入の
施設充実の面は遅々として進んでおりません。これは結局のところ我が國においてはいまだ
観光事業を
國策として取上げ、積極的にこの
事業を推進して行くという方策がはつきりしておらないということに原因があると思うのであります。須からくこの際
観光事業を
重要國策の一つとして取上げ、外客を迎えるに
必要最小限度の設備は急速にこれを充実いたしまして、一方又積極的に
観光宣傳に乗出して、大々的に
観光事業の振興を図り、以て我が
國経済再建の一翼を担当せしむべきものと思うのであります。この際総理におかれましては、この
観光事業を
重要國策の一つとして取上げて、強力にこの
事業の振興を図る御意思があるかどうか、この点をお伺いしたいのであります。
尚又
片山内閣時代に、昨年十一月
文化委員会におきまして、
片山総理から、
観光事業関係事務が各省に跨り仕事が区々にな
つておる実情に鑑み、総合的にその
基本方策を決定するため、内閣に
観光委員会をできるだけ速かに設置するよう図ることにいたしたい。こういう御答弁があつたのでありますが、
芦田内閣におかれては、速急にこの内閣に
観光委員会を設置する御意思があるかどうか、この点も併せてお尋ねしたいのであります。
次に
運輸大臣にお尋ねいたします。
観光事業の根幹をなす交通問題を見まするに、鉄道はその
輸送力において、又
旅客待遇施設において誠に遺憾の点が多いのであります。旅行の
利便増進、殊に
外國の客に対する
輸送の改善につきましては、如何なる計画を持
つておられるか、この点をお示しを願いたいのであります。又
國際観光事業に必要欠くべからざる
ホテル事業につきましては、
運輸省が長年に亘りこれが助成に当
つておられるのでありますが、今後の
ホテル整備計画について如何なる御計画を持
つておられるか、併せてお尋ねいたしたいのであります。
次に、
建設院総裁にお尋ねいたしたいのでありますが、今日
道路、殊に
観光道路というものは
観光事業に最も大きな関係を持
つておるに拘わりませず戰後その修理は行届かず、主要な
國際観光地におきましても、その
道路は惨怛たる状態のものが多いのであります。今後の
観光道路整備について如何なる
御許画を持
つておられるか、この点お尋ねいたしたいのであります。
最後に、
安本長官にお尋ねいたしたいと思いますが、只今我が國の
経済の点から見て、
ホテルその他の
観光施設建設に資金や資材を集中することは、相当困難な問題もあると思うのでありますが、併し
観光事業が
國家経済の再建に及ぼす影響を考える時、外客を迎えるに
必要量小限度の
観光施設については、速急にその建設が可能となるように
資金資材両面において特別の配慮がなくてはならないと思います。
安本長官におきましては、
外客誘致に必要な
ホテルその他の
観光施設に対して、その
資金資材面について特別の考慮を拂われる御意思があるかどうか、この点をお尋ねいたしたいのであります。
次に
海陸交通の問題につきまして
運輸大臣にお尋ねいたします。先ず
國有鉄道でありますが、申すまでもなく
國有鉄道は、我が
國陸上交通機関の大宗であり、
経済の動脈であり、これが健在であるかどうかということは、
國民生活に至大の関係があるのであります。
戰後國鉄の
輸送力はやや回復して來たとは思われるのでありますが、依然として
鉄道沿線の滞貨は山を成しております。木材の百万トンを初めといたしまして、滯貨の総量は現在実に三百万トンに達しておりまして、而も日日の
発送トン数は滯貨の一割にも及んでおらない状態であります。これでは何蒔滯貨の山が崩れるか見通しが付かないのであります。駅頭がかように詰
つておりますから、その
背後地の
生産物資は駅に持込むことすらできません。その
背後地滯貨は実に千五百万トンぐらいに及ぶと推算されるのであります。現在最も貴重な
生産物資が、
國鉄の
輸送力不足のため空しく
生産地において腐
つて行く状態が見られるのであります。又
國鉄に対する
貨物輸送の請求と、
國鉄輸送の引受の関係を見ますると、
輸送の請求に対してその引受は僅か六割でありまして、四割は折角生産があ
つても
輸送を拒絶されておるのであります。
重要物資以外の
普通品につきましては、
輸送の請求に対して僅か四割を鉄道において引受けておるに過ぎないのであります。かような状態でありまして、これでは
物資需給の円滑を阻むものは
國鉄輸送力の不足にあり、
日本経済の復興の隘路は、
國鉄の
輸送力不足にありと断ぜざるを得ないのであります。(拍手)私は二十三年度における
石炭増産分の六百万トン、これに基く各種の
工業生産品増産分の
輸送を、
國鉄では他の物資の
輸送を切らずに純増送分として引受けられるかどうか、衷心より危惧するものであります。一方又
旅客輸送方面を見ますると、戰前に比しまして
乗客人員は四倍に上り、而も一方
旅客列車の
運輸キロは逆に半分にな
つております。これでは
殺人的混雑の起るのは当然なのであります。客車は
不足勝ちでぎりぎりの運轉をしておるため、整備の暇もなく、窓は破れ、腰掛は壞れ、乗客は押し合いへし合い、
喧嘩口論の絶え間がない有様でありまして、これでは
國民の
勤労意欲を低下させるばかりでなく、
國鉄は
國民の
道義頽廃の温床であると言われてもいたし方がないと思うのであります。(拍手)これは勿論
資材不足のために車輛の修繕が追い付かない、新車もできない、
石炭不足で運傳の増加もできないという理由もありましようが、何とかして改善しなければならない問題であります。
陸上輸送の根幹である
國鉄がこのような状態のままで推移するならば、
國民はこれ以上黙視することができないと思うのであります。
次に
自動車の問題でありますが、
自動車は貨物の集配なり、バスの
輸送なりで、鉄道の
補助的交通機関として重要であるのみならず、
近代國家におきましては、鉄道の從属性を離れて、独自の
交通機関としての使命を持
つているのであります。從いまして
自動車の輛数は、一
國文化の水準を示すと申しましても過言ではないのであります。我が國の
自動車の
保有量は、人口五百人について一輛にも達せず、正に四等國以下の状態であります。而もその僅かの車輛が修理できない、燃料が足りない、タイヤの補充がないというような有様で、誠に
自動車関係は
隘路だらけでありまして、
自動車事業は破滅の一歩手前まで來ておると思われるのであります。聞くところによりますと、
運輸省は
自動車整備五ケ年計画を立てて、五年後の
保有量を三十万輛に置いておるということでありますが、三十万輛の
自動車保目標はむしろ少きに過ぎると思うのであります。何とかして
自動車の
急速増備を図らなければならんのであります。又我が國は
自動車の走る
道路が極めて悪い。
道路を改修しなければ
自動車事業は決して発達しないのであります。
自動車を発達せしむることは、
経済復興に必要なばかりでなく、文化の向上、外客の誘致に寄與するところ極めて多大なるものがあると信ずるのであります。
次に
海上輸送でありまして、
海上輸送は最近順次その成績を挙げつつあることは認められるのでありますが、何分にも戰災の被害が誠に多く、
海國日本の姿は今日どこにも見られない。即ち
修繕材料の不足と
修繕費の法外に高いことが原因にな
つて、常に不
稼動船が多いのであります。
燃料不足のため稼行率が悪い。ポート・チャージが高いために荷物が出ない。これらの諸点を改善しなければ、海運は決して発展しないと考えるのであります。
以上を通じまして、我が國の
交通機関は戰後著しくその機能を失い、これが回復は非常な困難が伴
つて容易なことには立直らないのであります。このままで推移するならば、
日本経済復興の
最大隘路たらんとしております。
差当り二十三年度において、
石炭増産六百万トンを、他の物資の
輸送を切らずに
輸送し得るかどうか、緊急にこの手を打たなければならんと考えるのでありますが、この点についての
運輸大臣の具体的の御方策をお伺いしたいのであります。
次に我が國の
経済復興を五年乃至七年の間に達成すべく諸計画が進んでおりますが、亡こに対應する
交通機関の
復旧整備計画はまだ御発表がないのであります。
國有鉄道、
自動車、
道路、港湾、船舶、それぞれに確たる資金と資材の裏附をいたしまして
長期計画を早く立てなければならないのであります。
交通機関の整備は
一朝一夕にできるものではありません。長年の時日を要するものでありますから、今にして具体的の計画を樹立しなければ、
生産増強に後れを取ると思われろのであります。又
交通機関はそれぞれの分野があると同時に、相互相関連し、一体とな
つて一國の
輸送力を形成するものでありますから、各別の
長期計画を綜合した
総合輸送計画の確立が必要であります。
綜合輸送計画に関する重要な諸点は、
海陸輸送分野の決定、或いは運賃の調整とか、資材、
燃料等の配分とか、いろいろあるのでありますが、要するに、物資の
生産数量の増加と睨み合せて、
交通機関を整備するために有効に金と物とを使
つて行くことにあると考えるのであります。政府は一日も早く
各種交通機関の
復興計画と、その
綜合輸送対策とを確立して、これを
國民に示し、國会に提示すべきものであると考えるのでありますが、この点についての
運輸大臣の御所見を承わりたいのであります。
次に
安本長官に御質問いたします。
輸送が我が國の
経済復興に極めて重要な役割を占め、而も今日最も危惧されておりますことは、申すまでもないのであります。何故
輸送が振わないかというに、いろいろの原因もありましようが重要な
りつ原因は資材の不足であります。車輛や船舶を動かしたくとも燃料がない。故障が生じても、
修理補修の材料がない。新造いたしたくても資材がないというのが、今日の状態であります。これでは決して
輸送力は伸びない。資材の窮屈な点はよく分るのでありますが、たとえ無理をしても
交通機関に
必要最小限度の資材の供給をいたさなければ、せつかく生産された物資も徒に滯貨となるばかりであ
つて、これでは何のための
生産増強かと言いたくなるのであります。又特に注意して頂きたいのは、
運輸從事員の必要とする
最小限度の
作業用品であります。
作業衣や、地下足袋や軍手や、その他の
作業用品は、無理をしても配給しなければ、能率の増進も
勤労意欲の向上も期待されないのであります。
運輸事業が
重要産業の一つに指定されたのでありますから、
石炭関係と同様に、これらの物資の支給を確保して頂きたいと思うのであります。これらの諸点について
安本長官の御所信を承りたいのであります。
最後に総理に御答弁を煩わしたいと思います。文明は交通よりという諺がありますが、我が國の
交通機関が現状のようでは、
國民文化の水準は決して向上いたさない。
経済も復興しない。須らく政府は格段の努力を以て、
各種交通機関の整備を速急に図るべきであります。然るに
交通施設の
整備改善は
一朝一夕にできるものではございません。短きも半年、長きは数年を驚要するのであります。今から最
重要國策の一つとして
交通整備を取上げ、
輸送力増強の
具体的方策を採らなければ、我が
國産業復興の
最大隘路となることは、火を見るより明かであると思うのであります。
只今運輸大臣や
安本長官に対して、
輸送力の問題についていろいろ御質問いたしたのでありますが、要は総理が内閣の首班として、熱意を持
つて輸送の問題に対処されるかどうかということに係
つておるのであります。この点に関する総理の御所見を承りたいのであります。(拍手)
〔
國務大臣芦田均君登壇、拍手〕