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小林英三君 私はこの
機会におきまして、
中小工業の我が國の
産業の上におきまする
重要性を考えまして、
官民共に
認識を新たにいたしまして、そうしてその
振興策を講じたいというような
意味を以ちまして、
討議を続けて行きたいと存じます。
中小工業の問題は、これは古くから問題にな
つておる問題でありまして、その社会的の
意味におきましても、或いは政治的の
意味におきましても、あらゆる政党、あらゆる
内閣が常に政策として取上げておる問題でありまして、
片山内閣におきましても、昨年の十一月でありましたか、
中小工業の
振興対策を整備しておるのであります。
中小工業の
昭和十七年におきまする
工業統計を見まするというと、百人以下の從業員を持
つておりまするところの
工業は約五十一万軒でありまして、これは全國の我が國の
工業数の九九%強を占めておるのでありまして、如何に
中小工業が我が國におきまする
産業上の重要なる地歩を占めておるかということが、よく相分るのであります。我々は無謀なる戰爭によりまして、朝鮮、或いは台湾、或いは
南方或いは
南樺太を失いまするし、又一方におきましては推定七百五十万人の
海外引揚同胞の帰還、或いは
從來我が國におきましてその
勢力範囲でございましたるところの中國、或いは満州、
南方、これらの
勢力範囲から優先的に
食糧その他
重工業用資材でありまするとか、その他の
資源を獲得することを
失つたのであります。從いまして今日我が國の
國民が
生活して行く上におきましては、
食糧の上におきましては約二割の
食糧が足りないことは御
承知の
通りであります。これらのものはどういうようにしたらよろしいかということになりますると、
從來はこれらの旧
勢力範囲食糧その他どんどんと仕入れまして間に
合つてお
つたのでありますけれど、今日におきましてはそれもできないことにな
つておる。而して
日本の國といたしましては、これらの二割の
食糧の不足を補いまするには、どうしても
外國から
食糧その他の
資源を輸入してこれを間に合せる。而も今日の貧困なる國内の
状態におきましては、
日本の國の
資源を以て、この足りないところの二〇%の
食糧の
見返り物資を償うということはできないのでありまして、どうしても
外國からこれを仕入れなければならない。こういうことに相成
つておることは御
承知の
通りであります。而も今日におきましては、財閥は解体され、又
独占禁止法でありまするとか、或いは
経済力集中排除法の
施行でありますとかいうような工合に、
経済の
民主化によりまして大きな
工業は殆んどその機能を発揮することができないというような
状態でありまして、而も我々がこの
食糧の補充のために
外國から仕入れまするところの
食糧資源の代償といたしましては、何によ
つてやるかということが一つの大きな問題であります。而も
戰前におきまする
中小工業の分野はどうであるかと申しますると、
食糧にいたしましても、或いは鉄鋼にいたしましても、或いはゴムにいたしましても、石油にいたしましても、これらの
資源というものを獲得いたしまするには、
戰前におきまして
外國品輸入いたしまして、綿花でありまするとか、或いはその他の
外國品を輸入いたしまして、そうしてこれを加工して再
輸出をして初めてこれを間に合せてお
つたのでありまして、それらの戦前の
貿易品の主なるものを見ましても、殆んどその大部分はむしろ
中小工業が六割を占めてお
つたというような
現状に今日相成
つておるのであります。從いまして
中小工業の今日のこの
地位、今日の
責任というものは
國内産業の非常に有力なる位置を占めておるのでありまして、この
中小工業に
食糧の二〇%の
見返り物資を稼がせますためには、この
振興育成ということにつきましては、我々は頭を新たにしてこの
振興策を講じなければならんということに追られておるのであります。而も今日の
状態といしましては、いわゆる
労働三立法の
施行によりまして、
労働條件であるとか、或いは
雇傭條件であるとかいうようなことから考えまするというと、
我我の
輸出という問題につきましては、昔のような低
賃金によ
つて、又ソシアル・ダンピングによ
つて、
日本の
貿易上の
地位を獲得するということはできないのでありまして、どうしても高
賃金で低コストで、而も
経営の
能率化と優秀なる
技術によ
つて國際貿易に打勝つということが、これは当然のことでありまして、この上におきまして
中小工業に
日本の
国民生活、又
日本の
経済を双肩に担わして、そうして今後大いに
日本のために活躍さすという
意味におきましては、我々は
中小工業というものに対して
認識を新たにする必要があると私は存ずるのであります。而も今日までその
中小工業に対する歴代の
内閣の方針はどうであ
つたかと申しまするというと、御
承知のごとく、或る場合におきましては
中小工業の
育成、或る場合におきましては阻止、或る場合におきましては
振興、或いは
助成、こういうような單なる
厄介扱いをいたしますような法を以ちまして
中小工業を断じてお
つた。今日
中小工業が眞の
意味におきまする
日本の
産業に役立ちますためには、私は
官民共に
中小工業の
振興対策を一変しなくてはならん。こういうように考えております。
從來は
中小工業に対しまして大
工場は大
資本で大
規模であるが故に良いものを作る。又
能率がよいのだ。こういうように
從來考えられてお
つたのであります。併しながらこれは大きな
過ちでありまして、
中小工場と雖も、
経営能率の上におきましても、或いは
技術の上におきましても、信用の上におきましても、若しこれが
スケールの小さいものでありましても、これが優秀なるものでありますれば、大
工場と同じようにこれを待遇し、(「そうだ」と呼ぶ者あり)(
拍手)
資金の上におきましても、
資材の上におきましても、これを十分に
振興させるということが、これが今日におきまする
國家の大きなる問題であろうと考えておるのであります。今までは
官吏でも、
資金或いは
資材の面に携
つておる末端の
官吏、或いはその上の
官吏におきましても、或いは
先入主的に、或いは事大主義的に、
資本が大きくて、そうして
規模の大きいところの大
工場は必ず良い物を造るだろうという
先入主があ
つた。これが私は大きな
過ちであると思います。米国におきましても、
スケールの小さい
工場であ
つても、これがよいのだ、優秀な物を
造つて、そうして
能率もよいのだというような
業種は約五十あるそうであります。例えば
工作機械の
組立というようなものにつきましては、十四五人から四十人ぐらいが一番
能率が
上つて一番良い物ができるのだ。つまり各
労働者が固有の
技術を活かしましてそうして一致團結して、その
工作機械の
組立に從うという上におきまして、何百人の
工場よりもむしろその方が良い物ができるということの例がある。そういうような小
企業の方が
能率的であるし、小
企業の方がより
能率がよいというような
業種別が五十あるそうでありまして、ただ大
資本、大
工場によらざれば
能率が上らないというものは僅かに十八九であるそうであります。つまり
紡績工業でありますとか、或いは
製糸工業でありますとかいうようなものは、これは大
企業によらなければ
技術も、或いは
能率も上りませんが、その他の場合におきましてはむしろ
中小企業の方がよい。大
資本制國家でありますアメリカにおいてさえそういうような記録があるのであります。
日本におきましては何でも彼でも大
資本であ
つて、大
規模であればそれがよいのだ、
能率的だというような誤まられた
考え方は、全然この際一擲いたしまして、而も今日
日本の國におきましては、
中小工業でなければ
國家経済、
國民の
生活を担
つて行くものがないという
現状におきましては、私はこの際須らく今までの
事大思想を擲
つて、こういう
方向に
國家國民共にこういう
方向に進んで行かなければならないと深く考えておるのであります。
政府は第二
國会に
中小企業廳の法案を出すそうでありまするが、私はこの
中小企業によりまして、或いは
技術その他
経営の問題を
振興する上におきましては、
從來のように
官吏からこれを採用するにあらずして、
長官初め重要なるポストは全部有能なる
民間人の手によ
つてこれを本当に民主的に運営しなければ、その効力がないと思います。尚
資金、
資材の問題につきましても、
從來の
考え方を一擲いたしまして、大
工業と
中小工業とは
機会均等いたしまして、この
中小工業のために
育成するということでなくちやならんと考えておるのであります。尚將來におきましては、
貿易の上におきましても、
日本の昔からの手
工業に堪能なる特徴を活かしまして、例えば
工藝指導者におきましても、そういうようなものを増強いたしまして、
貿易の本当に自由に再開される時代を前提といたしまして、世界の各地方の趣味或いは嗜好に合うような新らしい
貿易品を、前以て研究して置くというようなことも大きな問題であろうと考えております。私はこの
機会におきまして、
日本のすべての
官民が
中小工業の
振興対策につきましては、この際頭の
切換えをして、今までの
助成とか、救済とか、或いは
指導とかいうことでなしに、本当の
意味におきまして
中小工業を以て
國家の再建の基礎である、こういうような精神を以ちまして、頭の
切換えをして、これを
振興して行くということを主張いたしたいのであります。簡単でありますが……。(
拍手)(「うまいぞ」「名論だ」と呼ぶ者あり)