○前之園喜一郎君 國家の
政策を樹立するに当りましては、何よりも先ず
國民生活の実態を綜合的に全面的に通観して、
各種の問題を正確に認識することが最も大事であることは申すまでもないところであります。
片山内閣総理大臣は、その
施政方針演説において、
昭和二十三
年度における
政策の全貌を発表せられ、恒久的な
再建計画の第一歩の踏出しと称して、
経済復興と
産業建設への大体の具体策を掲げられて、
國民の前に
政府の進むべき途を明らかにせられたのでありまするが、私は
片山内閣が
政策の重点を
経済復興と
産業の建設に置かれたことに賛意を表しますると共に、予想せらるるところの幾多の困難を克服して所期の成果を挙げられ、而して
國民をしてその所を得せしむるの成果を挙げられんことを望むものであります。ただ併し私の聊か遺憾に思いますることは、
経済復興と
産業の建設に全力を集中せられんとする
ために、ややもすればそれ以外の重要問題を逸し、又は軽視せられたる嫌いなきかという点並びに示されたる具体策、特に
産業建設の原動力たる
労働意欲の高揚に対する考え方が、徒らに物のみに偏し、
労働精神の振起に工夫が擬らされていないということであります。(
拍手)前者は暫く措き、先ず後者について申すならば、
片山総理のいわゆるより多く働く者に、よりよき
生活を與えるという御主張、これは当然過ぎる程当然でありまするが、ただ唯物的な考え方に偏しておりはせんかと私は考えるのであります。全國の
労働者が
産業再建印相國
再建の
ために、蹶然として大地を蹴
つて起ち上り、奮起する精神的な
施策を立てることが最も必要であると私は信ずるのであります。換言すれば物質の充足のみによ
つて、直ちに高い
生活意欲が生れるものであるということは認識の誤まりであると私は信ずるのであります。我が國は敗戰第四年を迎え、今や漸く祖國
再建の熱意が
國民の中に盛り上
つて來つつあるのでありまするが、併し
経済は將に破局に陥らんとし、道義は地を拂い、百鬼夜行、一歩を誤まれば遂に再起不可能の土壇場に追い込まれておるのであります。私は深く
國民はこのことを思わなければならない。又
國民に強い耐乏
生活を求めらるるに先立ち、
政府みずからが彼の英國のクリツプス藏相のごとき耐乏
生活の範を
國民に、特に働く
労働者の前に示すべきであることを信ずるのであります。かくすることによ
つて國民は奮起し、
労働者の
生産意欲の高揚も期せられると私は確信いたす者であります。この点について
総理並びに
労働大臣の御
意見を拜聽いたしたいと考えます。
第二は、治安の問題であります。治安の問題は今日
國民に取
つて最も大きな問題であると私は考えます。然るに
片山総理は、その御
演説の中に治安については言及しておられないのでありまするが、言及せられない理由は、いわゆる
経済復興、
生産建設によ
つて直ちに治安は
回復し、道義の高揚も期して待つべきものがあるとせられるのでありましようか、若し然りとするならば、私は遺憾ながら異論なきを得んのであります。端的に申上げますると、今年は
経済危局の年であるばかりでなく、文案に治安の混乱も最高潮に達する年であると思うのでありまして、
経済復興、
産業建設に一歩前進して、
國民生活に生命財産の危惧と不安を増大しつつあることは論を俟たざるところであります。東京の眞中の銀座、西條八十氏が曾て「昔恋しい銀座の柳」(笑声)と歌い、情緒纒綿たる所として東京人の最大の遊び場所でありました銀座でさえ、夜分の通行は危険視せらるる状態であります。ましてその他の地域においておやであります。今や都郡を問わず、津々浦々に至るまで窃盗、強盗、辻斬、追剥、文字通りの無警察状態であると私は考えるのであります。今にして治安の維持ができなければ、
生産の
復興もすべての
政策の
遂行も、ついに支障を來して行き詰りをなすのではないかと私は考えるのであります。(
拍手)ここにおいて、先ず我々は日ごとに増加しつつある犯罪の原因を究め、これに対する適切なる刑事
政策が樹立せらるることを強く要望いたすものであります。(
拍手)犯罪の原因は千差万別でありまするが、私はここに
一つの事例を申上げて御参考に供したいと考えます。
私は弁護士を業とする者でありまして、議院に出ない時は郷里にあ
つて毎日裁判所に出てお
つたのでありまするが、終戰以來、刑事被告人として調べを受けまする者は、鹿児島地方裁判所においてさえ、多い時は一日五十人位、平均二十名内外の者が調べを受けておる状態であるのであります。而してその二十人或いは五十人の大部分は若人であります。青年であります。而もその若人の大部分が復員軍人であるのであります。即ち被告人の多くは曾て軍閥によ
つて戰わされたる戰争に参加したる者であります。この事実は
政府はもとより
國民の深く考えなければならない点であると私は考えます。而して私の知る範囲においては、彼ら復員軍人が罪の深淵に足を踏み込みました主なる原因は、彼らが祖國に復員いたしましてからの虚脱と絶望感に支配せられた結果であるように考えられるのであります。即ち彼らは復員することによ
つて限りなき喜びを感じ、祖國に多くの期待と夢とを抱いて帰
つて來たのであります。ところが彼らの期待は外れ、夢は破れた。祖國は彼等に冷たか
つた。祖國は彼らを温かく抱擁しなか
つた。彼らの中には、荒涼たる焼野原に吹き荒ぶ凩の中にさまようような、はかない、やるせない絶望感に閉ざされた者も決して少くなか
つたのであります。私は彼らの裁判の審理に立会
つて、幾度か法廷の床の上に熱い涙をこぼしつつ考えたのであります。(「映画館でやれ」と呼ぶ者あり)國家は彼らの傷心をいたわ
つて、彼らのさすらう魂のありかを救い、彼らの行手に灯を掲げたならば、如何に彼らは感泣して、一度は國家に捧げた体を、今こそ眞に平和祖國建設の面に起ち上
つたであろうということを考えたのであります。換言すれば、彼らを裁判所への、刑務所への道標を成したものは、國家それ自体であ
つたとい
つても、私は敢て過言ではなかろうと考えるのでありまして、今日の
國民の不安と危惧は、その一端をみずから求めたものであるとい
つても私は当らないことがないと考えておるのであります。
私は繰返して申上げます。刑事
政策はその原因を究め、且つ適切なる
施策を立てなければならんのでありまして、今日我が國の治安の上の一大不安は
経済確立によ
つて直ちに全部が解消するものであるということを考えるならば、それは思いの至らざるも甚しきものであると思うのであります。この点について私は
総理の御
意見を承わりたいのであります。
尚ここに附加えて
お尋ね申上げたいことは、新らしく警察法が制定せられたのでありまするが、この新らしき警察
制度の運用によ
つて將來治安の維持ができるという確信がおありになるかどうか。將來連合軍の厚意ある
援助なくして
日本の治安を確立して行くことができるかどうかという点についても、私は御答弁を願いたいと思うのであります。
第三は食糧自給対策について
お尋ね申上げます。
片山総理は本年において、從來の通常
生産高に対し、
主要食糧一割増産を
目標にしておられるようでありまするが、その從來の通常
生産高の全國でできまする数量を何程と考えておられるるのであるか。又一割増收を何年継続してやるのであるか。そうして
最後に、
日本ではぎりぎり幾らの
主要食糧が
生産できる
見通しであるかということであります。我が國は四〇%の領土を失い、それに準じて耕地面積も減じておるのでありまするが、私の久しき農場経営の経験から申しますると、土地の改良であるとか或いは農家経営の合理化、働く農民の意欲の高揚によ
つて、まだまだ増産の可能性は十分にあると思うのであります。これらについて私は少しく
意見を申したいのでありますが、時間の都合もありまして本日は割愛いたします。但し
政府に要望いたしたいことは、動く農家の
生産意欲の問題でありまして、これは私、先程
労働意欲の高揚について申上げましたことをここに援用して置きたいと考えるのであります。農家に対しては、
政府も
國民も最大の感謝を物心両面において表現すると同時に、供米完遂後の自由米の取扱、供米
價格の合理的計算等について再検討を加うべきであると考えるが、この点はどうであるかということについても御答弁を願いたいのであります。
第四に、
政府は中小企業を重視せられ、その振興を企図せらるるということは甚だ意を強くするところでありまするが、その具体策が示されていないのであります。その具体策をここに承わりだいと考えます。
更に附加いたしまして、
勤労者の
生活協同組合の育成助長と、中小商工業との関連乃至調節と、
統制経済はこれを重点的に強化して、成る
程度の撤廃を
考慮せらるる意思はないかということについてお伺いしたいのであります。例えば我々の水産委員会におきましては、鮮魚について大衆魚、大衆向きの魚類九種を
統制強化して、その他のものについては
統制を撤廃することを、
政府に要望したのであります。これは一例に過ぎませんが、全面的にそういうものが少くないということを私は考えます。この際私は
統制の問題について再検討をせられ、強化すべきものは強化する。撤廃することが
相当と思うものは直ちに撤廃せらるるように要望したいのであります。
第五は教育の
再建乃至教育の民主化の問題であります。教育の民主化を
目標とする六・三制は、すでにスタートを切りまして、
來年度においては新制高等学校の新設が考えられておるのでありまするが、この六・三制の全貌を考えて見ますると、下の学校はそのままに置く。上の綜合大学もそのままに置く。そうしてその中間だけをいじ
つておるような感じがするのであります。六・三制即民主教育の徹底は、先ず私は
制度自体が民主化する線を確立するものでなければならんと考えるものであります。六・三制によ
つて所期の効果を挙げ得られるとお考えにな
つておるのであるかどうか。尚六・三制の確立に要する
財政的
見通し並びに学校の数、学校の配置等については特に慎重を期せられんことを私は望むものであります。更に
政府は勤労青年の
ために定時制高等学校の新設をもくろんでおられるようでありますが、私は青年教育に対してはもつと全面的に、あらゆる角度から検討して、青年の熱と力と純情とを結集して、祖國
再建の先駆たらしめるの徹底的な教育
施策を立てなければならんと思うのでありますが、この点について当局の御
意見を承わりたいのであります。
第六、行政整理と行政機構の問題について極く簡單にお伺いいたします。行政整理はこれを一律に断行してはいけないと私は考えるのであります。各般の
事情を勘案すべきであると考えます。例えば裁判所、検察廳のごときは現在の定員でさえも著しい手不足を策しておるのであります。これが若し他の官庁と同様に整理せられるということになりまするならば、事務の澁滯を來しまして、いやが上にも社会不安を増大するばかりであると私は考えておるのであります。
尚この際行政機構に関連いたしまして申上げたいことは、今日
國民の間に様々の議論を巻くき起しておりまする公職適否審査の件であります。この問題は平野、林両氏の追放に絡んで、
國民にかなり暗い印象を與えているように考えられるのであります。(
拍手)私は常に、政治は高い倫理の上に立ち、極めて謙虚なる心持と、明朗豁達にして愛と涙を岩清水のごとく滲み出させるようなものでなければならんということを念願いたしておるものであります。この意味におきまして、たまたま両氏の問題が
國民に暗い印象を與えたことは、
片山内閣の
ために甚だ惜しむものでありますし併し私は駆け出しの議員ではありまするが、聊か両氏追放の止むべからざる
事情も存じておるつもりでありますから、私の
意見乃至
質問は、決して
片山内閣を衝き、
片山総理を難ずるという氣持はないのであります。それ故に
総理におかれても率直明快に御
意見をお答え下さるようにお願い申上げます。私の
意見を一口に申上げると、公職適否審査委員会の所管を全部最高裁判所に移されたらどうかということであります。(
拍手)私はこれが司法省の所管であり、
総理大臣が
最後の決定権を持
つておるというところに暗い影もさし、
國民の疑惑を招く、政治の問題になるということになるのではないかと私は考えます。私はこの際思い切
つて速かにこの委員会を最高裁判所の所管に移されるように要望すると同時に、その御
意見を承わりたいのであります。
第七は、人口問題並びに將來のいわゆる講和会議の終了後の移民の問題について、私は
お尋ね申上げたいのであります。この問題について
政府の具体的
方針があるならばお聞かせを願いたいのであります。
日本は狭い領土と、そして人口の繁殖力も非常に多い、食糧も少いというようなことで、人口問題は
相当に考えなければならんのでありまするが、併し私はやはり不自然な入口の調節に賛意を表することはできない気持がするのであります。
第八に、私は新憲法実施九ケ月の回顧について、ただ
一つだけお伺い申上げたいと思います。新憲法並びに民法、刑法の改正、実施によ
つて、多年いわゆる新らしい女性によ
つて叫ばれて來ましたところの両性の権利の中等の問題は一先ず法律の上においては確立したと考えてよろしいと思うのであります。ところが実際においては、今尚旧態依然として、男尊女卑の思想と、男性の横暴は改ま
つていないと私は考えます。申上げるまでもなく、民主主義政治は両性の平等の上に立脚することが喫緊事であります。健全なる家庭、平和なる社会は、眞に女性を敬愛するところに始まると私は考えるのであります。
政府は両性平等の法律制定によ
つて満足することなく、よく男性を指導し、女性を啓発して、
本当に法律の精神を具体化するところの方途孝考えられておるか。或いは講じようとする御意思があるかどうかということを
お尋ね申上げたいのであります。その他二三の問題を考えておりまするが、
質問の重複を避けて割愛いたします。ただ一点
大藏大臣に
お尋ね申上げたいことは、第二封鎖預金の取扱について
國民は
相当に考えておると思いまするので、この機会に御説明を願いたいと考えます。
最後に私は、(「まだやるのか」と呼ぶ者あり)海外同胞引揚促進の問題について
政府がこの上とも十分なる
努力をせられるように切望して止まないのであります。そうして若し三度酷寒の地に年を迎えた七十五万の同胞をその家庭に帰すことができないならば、せめてあなたの父は、あなたの子供は、あなたの夫は、どこかに無事に生きているんだ。いつかは必ず帰
つて來るのだということをその家庭に知らしめる
方法がないものであるかや連合軍の御厚意によ
つてそれらの調査をして、せめてそれだけでも各家庭に知らせるような
方法をお採りになる考えはないものかし若しできるならば是非そのことをや
つて頂きたい。このことを
最後にお願い申上げる次第であります。(
拍手)私、野人礼にならわざる点も非常に多か
つたと思いまするが、〔「分
つた」と呼ぶ者あり〕その点ここに謝する次第であります。(「諄か
つた」と呼ぶ者あり)
〔
國務大臣片山哲君
登壇〕