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板野勝次君 私は共産党を代表いたしまして、この
食糧確保臨時措置法案に対して全面的に反対する者であります。大体五つの
理由で反対したいと思います。
第一は、
農業計画を立てて参りますのには、
政府の
食糧需給計画と、それから下からの民主的な、具体的な
生産計画というものが並存いたしまして調整されなければならないと思うのでありますが、この民主的なる
生産計画というものについては、法文には何ら
規定されていないのでありまして、
農業計画は
政府の
農民に対する一方的な
註文書を出しておるのに過ぎないのであります。而もこの
註文書には、今まで
農業再
生産用の資材が償われていなかつたという点に対して、
衆議院で改正されましたことは、もとより結構でありまするけれども、
発註書に対して
農機具等が保証されて來たというのに過ぎないので、依然として基本的な面が変
つていないのであります。而もこの
中央農業調整審議会というものが、單なる
諮問機関にな
つており、そうしてその
構成や選出の
方法につきましても、政令によ
つてなされるようにできておるので、その民主的な機能というものが何ら保障されていないのであります。第三條の
衆議院の
修正が、「を聽いて」というのが「基き」というふうに
字句が改められているのでありまするが、この「を聽いて」ということと、「基き」という点では、言葉の強さというものがありますけれども、
内容的には、これによ
つて諮問機関ではなくなるということにはならないので、單なる
欺瞞に過ぎないと思うのであります。
第二の反対の
理由は、この
法案の骨子というものは、今まで
供出割当が、作柄を見た上での予想收穫高を基にして決められたのに対しまして、先ず
作付の前に、各
農家に
主要食糧農産物の
生産割当をし、そうしてこの
割当てられた
生産数量から、
自家保有量を引いて、今度は
修正された面によると、大体
供出の
範囲及び
比率等が含まれることにはな
つておりまするが、この
自家保有量を控除したものを
供出責任数量とするという点にあるのであります。ところでこの
生産割当、
供出責任数量というものが、民主的に決められるかというのに、從來の
供出割当の決め方と全く同樣でありまして、上から天降り的に下へ下へと押し付けて参りまして、各
段階の
農業調整委員会はこれを單に受けて、その割り振りを自主的に有れるのに過ぎないのであります。これではこの
委員会を如何に民主的な形のものにいたしましても、
政府の
天降り割当の
下請機関以上の何ものでもないのでありまして、こういうふうな鉄の枠を嵌められた
民主性というものは、
政府が
供出割当とその統制の
責任を、ただ
調整委員会に轉嫁するというふうな結果にな
つてしまいまして、見掛け倒しの
欺瞞にな
つてしま
つておる点であります。
第三に、それではこういうふうな仕組の下においても、
中央、
地方、
市町村の
農業調整委員会が、今までの
食糧調整委員会と全く
違つた、民主的な
運営ができるかというのに、決してそうではないのでありまして、
市町村及び
都道府縣の
委員は、一應公選とな
つておるのでありまするが、
会長は
市町村の場合にありましては、
互選制であるけれども、
都道府縣の場合にありましては、
知事にな
つているのであります。そうして
会長である
知事は、更にこの互選された
委員の外に五人というものを選定するところの実権を持
つている。
從つて現在の
農地委員会の
構成等に比較いたしまして、保守的であり、
中央の
審議会に至りましては、前に申しましたように、絶対
命令に等しい
農業計画を決め得る
段階にありながら、單に
農林大臣の
諮問機関にな
つており、そしてその
構成であるとか、
選挙運営等に関しましては、全く
官僚に握られておるのであります。こういうように上から下まで
官僚の
決定権は動かし難いものにな
つておるのでありまして、これでは農村の
委員会は
官僚と結び付き、更に地主富豪的な一部の
農家に握られてしま
つて、こういう一部の地主富豪的な
農家には非常に便利でありますが、その他の中以下の
農民に対しては、決して便利な
方法ではない。
從つて供出や資材配給
割当の公正というものは断じて期せられないのであります。
第四番目は、この
法案では、又
農業生産物の地域、期間、種類、
面積といつたようなものの指定と、それから強制ができることにな
つておりますが、これは
農業経営の自主性を破壞し、そうして
農民の
生産意欲を減退させる結果とな
つて來るのは必然でありまして、これは
質問の際におきましても
政府委員から應答がありました。この危險性を多分に孕んでおると思うのであります。これが天降り的に強制せられまするときには、戰時中の軍閥
官僚政府のフアツシヨ的な
作付統制の下に、非常に苦しみました
農民の奴隷化以上の状態が起
つて來るのは必至でありまして、而も現在のように、
生産費を償わないような農産物の價格の統制と並行して、このことが行われまする場合には、
農民というものは行き場を失
つて自滅し、
農業は破壞せられる由々しい結果になると思うのであります。工産物は戰前の百十倍、農産物の價格はまだ未
決定でありまするが、労働賃金は三千七百円ベースを押し付つけておるのでありまするが、この三千七百円ベースは実賃的には千八百円ベースに比べまして二十六%も低下しておる。こういう中に賃金の水準から前のパリテイ計算によ
つてやられたような
方法で參りますと、都市の工産品に比較してシエーレはますますひどくな
つて参ることは必然でありまして、先日も
米價問題に対して今までのパリテイ方式を改めて、
生産費を割らない
方法による農産物價、
米價の
決定、更に價格差等の問題について大臣の答弁を求めた際におきましても、殆んどこのパリテイ計算の
方法を改めずに行くような意図が窺えるのでありまして、こういうふうな現状の下におきましては、
作付の統制と、不当な價格によりまする
供出統制だけが行われて参るのでありまして、
農家経済の收支の不
均衡と経営の破綻に
農民は追い込まれて行くのでありまして、
政府が食糧確保を意図するその強制の必然の結果は、却
つて供出の不振、悪循環等をなして参りまして、食糧危機はいつまでも解決されない。勿論これは我が國の政治家の
農業問題解決の貧困にも起因するのでありますが、この
法律の施行の結果は、予期するごとき食糧の確保とならないばかりでなく、更に労働者や
農民の生活が本当に資本の重圧から撥ね返して行く力を失
つてしま
つて、これらの働く
農民諸君が奴隷化し、
日本の民主化が逆行して参る。最近はいずれもフアシズムの擡頭になる危險のある諸
法案が次から次へと通過して、この
法案も、更にフアシズムの道への非常な強化になると思うのであります。
第五の点は、
都道府縣及び
市町村におきまして、
農業計画を決めるのは、各
農業調整委員会の議決を経ることにな
つてはおるのでありまするが、これは
知事又は
市町村長において勝手に取消すことができるので、何ら民主的に保障されていないのであります。又
農業者は
自分に対して定められた
農業計画について、
異議を申立てることができることにな
つておるのでありますが、この有効期間は、
計画公表後、前には一週間、今度はただ十日に改められておるに過ぎないのでありますが、僅か十日間と限定されて、事実上いろいろな手続きで無効となる公算は極めて大きいのであります。
市町村長がこの申立てに対して
決定するには、二十日以内とな
つておりまして、前の案によりますと三十日とな
つておりましたのを二十日に短くして、そうしてこの短期間内に盛り沢山にして、更に煩瑣なる上級
機関の承認を順次得なければならないことにな
つておりますので、結局これを具体的に
異議の申請が
決定されて行くということを
考えて見ますときに、この申立ては事実上骨抜きにされておると言わざるを得ないのであります。而もこの場合
中央で決まつた
都道府縣別の
農業計画は、動かし難い重石といたしまして、
官僚的な
計画体系が下から少しでも是正されることを固く抑えておるような仕組にな
つておるので、こういうふうな
欺瞞的前提の上に立
つて決められた指示に從わない
農業者に対しては、
市町村農業調整委員会から
知事に申請して、強制
命令を出せることにな
つておる。
知事はこれによ
つて申請で
相当であるというふうに認められるときには、強制
命令を出す。そうしてこの
命令に從わない
農業者は肥料その他資材の配給が削減れさるだけではなく、二万円以下の罰金に処せられる。
こういうふうな以上の五つの
理由によりまして、どうしてもこの
法案は、民主的な仮面を被つた
官僚的な抑圧
法案であると断ぜざるを得ないので、
農民が不当に圧迫されるだけでなく、繰返して申しまするが、
農民は抑圧されて、
供出は却
つて阻害され、勤労人民の生活はますます窮迫して、産業復興の基礎が破壞されるものであります。
そこで
日本共産党は、飽くまでこの
農業の
計画供出の制度は、民主的に下から築き上げられなければならないことを主張するのでありまして、我々は食糧は飽くまで上から押し付けるのではなくして、食糧の人民管理法等を制定すべきであると
考えておるのでありますが、併しなが今日食糧人民管理法等を設定いたしまするためにも、その暫定
措置としては、取敢ず食糧管理法を改正すれば、十分
供出の
目的が達し得るので、食糧管理法を改正して、
農民のためにする飯米の確保、適正價格の問題、再
生産用の物資の確保をこの点で保障して行けば、十分でき得るのであ
つて、新らしくかくのごとき
農民を圧迫するような
方法を取らなくても、食糧管理法の中で十分應急の
措置が取り得ると思う。そうして更に
農民を脅かして参りました食糧緊急
措置令等は、この際もう必要のない
措置令でありまするから、即刻
政府はこれを廃止すべきであると思うのであります。
以上の諸
理由によりまして、私は主要食糧臨時
措置法案に対して、全面的に反対する者であります。