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1948-08-11 第2回国会 参議院 司法委員会資格審査不実記載に関する小委員会 閉会後第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年八月十一日(木曜日)    午後二時三十二分開会   —————————————   本日の会議に付した事件証人平野力三君の診断報告に関する  件   —————————————
  2. 伊藤修

    委員長伊藤修君) では不実記載事件につき小委員会を開会いたします。  それでは菊地さんに申上げますが、先般当院からお願いいたしました平野力三氏に対する診断の結果を御報告願いたいと思います。
  3. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) 先に宣誓いたしますか。
  4. 伊藤修

    委員長伊藤修君) その前に宣誓を一つお願いいたします。    〔総員起立証人は次のように宣誓を行なつた〕    宣誓書  良心に從つて眞実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。    証人       菊地 甚一
  5. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) 報告書がまだ清書されておりませんので取り急ぎ原稿を持つて参つたのでありますが、一應これを読ませて頂いた方がお分りと思いますから少しの時間を拝借したいと思います。    報告書  私共両名は平野力三精神状態診断するよう依頼され、且つこれに関して数項に亘る質問書が発せられましたので、昭和二十三年八月七日平野邸に赴き同人の診断査を遂げました。その結果を纏め應答を別紙に認めここに提出いたします。  昭和二十三年八月十一日             黒津 良臣             菊地 甚一  参議院議長 松平恒雄殿    記 一、抑鬱症に関する一般的説明  本病は内因性疾患であつて発作性又は循環性に現われるのを常とする、遺傳を本質的な原因とするが実際上にはこれを証明し得るとは限らない。体質的關係も認められ、肥満型の体型と明らかに親和性を有する。本病発呈前の性格は軽ければ循環性氣質社会的、親切、温情的、同情的、明朗、活溌、活動的=軽躁性性格=であるか、或いは平靜憂鬱、柔和=軽鬱性性格=であるもの)或いはやや重ければ循環性病質を有するか、又は本病者の家族に同樣の性格所有者を見出し得る場合が多い。  本病の精神症状はその状態軽重によりて相異するから、一見同一疾患かどうかを疑わしめることもあるが、その相異は本質的のものではない。又極めて軽度なる場合には健康者殊に本人平常との境界、不明瞭である場合も生ずるのであるが、これは経過等によりて診定するより外致し方ないこともある。軽いときは精神活動粘着性並びにその單色が病人を悩まし、主観的な苦痛と一切の刺戟を暗く色どりて領得する。思考は停滯して進まない。最も軽易な仕事も困難になる、力を一事に集中することもできないし、疲れ易く、実行力に乏しくなる。病人に取りては睡眠が必要であるに拘わらず不眠状態が続く。やや進めば全世界は無色となり、最早何事にも快樂を見出し得ない。引込思案となり、人との面会を好まない。憂苦感氣分の沈鬱も著しくなつて日常生活も節約的となり、時として甚だしく吝嗇となる。僅かな身体的故障も強く響き、重き病氣となるのではないかなどと心氣性となる。初めから自殺念慮を示す者もあるが、著しくなればややしばしばこれが実行を敢てするし、又自殺の拡大とみなされる家族心中(夫婦、親子等)も決行することは稀ではない。病人は絶えず不安を感じ、日常作業にも堪えない。理解力作業力読書力、その他の精神能力失つたと感じ、社会への参加は不可能となつたと非観する。又往々にして社会に無関心となり、自己と世間との間に障壁が生じたるがごとく感じられ、一種離人症を呈することもある。非哀状態に加うるに精神運動及び行爲制止が現われ、且つ思考の澁滯などを呈すれば定型的の抑鬱状態となるのである。病人が主観的なる判断によつて現在の非境が病人自己の過去の責任、罪惡に基くものでありとする罪業妄想、財産の失われたとする貧困妄想自己能力を過小に評價する微少妄想、病なきに病ありとする心氣妄想等も現われるし、甚だしければ自己の内外のものは一切失われ、自己身体、生命までも失われたとする虚無妄想を呈するに至る高度のものもある。  以上は純粹の抑鬱症につき記載したのであるが、その主要微候は非哀的感情思考澁滯並びに意思制止の三つにあるが、時として不純な型のものもあつて、後者の一又は二を認め難いものむしろ反対な方向の症状を呈する場合もあるが、病人症状の基調が非哀的感情であり、本病の本質的な部分を逸脱しないこと、而もその感情障礙が原発的であり、且つ他種の疾病に基けるものでないことが証明されることに留意すべきである。これが一でございます。皆読みましようか。
  6. 伊藤修

    委員長伊藤修君) どうぞ。
  7. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) 二、平野力三抑鬱症なりや、若し然りとせばその程度如何。  註 診断資料の全部又は一部として本人又はその家族供述、殊に本人自覚症状に関する愬えあるとき、該供述が措信できるものか否かについての根拠又は所見を示されたし。  病人一定期間専門病院入院せしめて、専門的観察をなし得るならば、精神状態の診査上に必要なる相当確実なる資料を得べきも、そうなし得なければ、その資料病人自身並びにその家族及びその他の人々供述より蒐集し、整理するより外ないのであるが、その資料をそのまま信を措くか否か予断の下に整理すべきものではない。 病人自身供述に關してはその内容を檢討し、慎重に整理すべきである。事実を告げなければそれはそれとして、診断上に或る種の参考となるべきものである。家族その他の人の供述は時として有力なる参考資料ではあるが、その取捨には慎重であらねばならない。從つて既往症状として記載又は告げられるところと、現在症と照合して、矛盾撞著がなければ事実として採ることを得るものである。 余ら両名が証人平野力三をその自宅に訪ね診察したのは昭和二十三年八月七日午前のことであつたが、そのときの所見の大略を左に録して診断根拠とする。  所見  檢診者である余ら両名は導かれて証人の應接室において証人と面会し、來意を告げたところ、証人は尋常なる態度で余らに挨拶を交し、余ら問診に対して少しも拒まずこれに應じた。應答の大略を左に録する。  昭和十六年、東條内閣の圧迫が激しかつたの睡眠不良となり、現在と同様の自覚症があつたために龍病院診察を受けたところ、抑鬱症診断されたが、尚農民運動は継続しており、自覚症状には余り変りがなく、不快なるままに過ぎ、それでも氣分は回復を見た。現在のような精神状態となつたのは本年四月末のことで、前記龍医師を訪い診療を受けた。  現在の心境について述べたところを要約すると、世の中を何となく暗く感じ、氣が沈む思いがする。ときには倒れそうな氣もする。平素政治的方面のことは一切忘れ、氣に辞めないようになつているが、裁判のことだけは忘れられない。弁護士に任せ切れない。何か不安なものがある。自分は無論無罪を信ずるが、取り止めもなく憂鬱となる。今の病氣は治し得る確信があり、決して絶望だなどとは考えない。健康になつて裁判を受け、十分に述べれば無罪となり得る確信がある。何をしようとする氣持も起らない。大臣を罷免されたのは昨年十一月のことであつて、当時はいろいろとなすべき仕事の計画も立て、メモも取つた実行には至らず今はそんなことも考えなくなつた。著しく憂鬱となつたのは、裁判関係からではないように思う。何が憂鬱ならしめたともはつきり分らない。大臣就任中は快活に振舞つたが、今はそんな氣持にはなれない。殊に近頃は自分を詰らぬ人間に思われて來た。又立ち上ろうと思わぬでもないが、そこまでの元氣は取戻せない。元は決断力相当つたつもりだが、今はそれも弱くなつたように思う。ときとして自殺念慮に襲われるが実行したことはなく、絶えず不安感があり、恐しい病氣と感じられる。脳溢血や心臓痲痺を起すのではないかと心配になることもある。  現在の日常生活格別のこともなく、活動的でなく、むしろ一日ボンヤリとして暮すことが多く、鶏を飼つているので、ときどきこれに餌をやりそれを茫然と眺めていることなどが氣が粉れることになる。新聞も大見出しだけ読むが、その他には興味もなく読まない。以前には好んで読んだ探偵小説なども今は僅かに二、三頁でやめる。そう退屈ということもないが、体もだるく精神的にも疲れを覚える。殊に裁判所に行くと心身共に疲労が甚だしい。  平素は精神的、活動的、社交的で人間としては正直明朗で、陰影を認めない。抱擁力もあり、人と争うことを好まず、部下に対して怒つたこともないと言つている。  以上証人の告げるところから、現在主要なる点を拾えば社会視は暗い。氣鬱不安感並びに不信感自己評價の軽蔑、決断力減退感活動力読書慾その他生活慾減退心氣性不眠企死的念慮(著明ではない)  又身体的に肥満型を呈していることは注意すべきである。尚胸部及腹部等、内臓に関する所見格別のことなく、瞳孔及腱反射等に関しても異常は認めない。  以上の所見から證人平野力三は、軽度なる憂鬱状態を呈しているものと認めざるを得ない。  そこで、本状態を呈する病氣一種ではないのであつて憂鬱状態を抑鬱病と即断するを許さない。病名の診断には他の部面からの考察を必要とするので、二、三について述べる。  (イ) 佯詐性 証人の場合佯詐即ち病を佯わることは必ずしも証人に有利であるとは考えられないし、前記症状間に何らの矛盾撞著はなく、全体の症状を総合して一定精神状態にあることを認めしめるところに作爲的な共述とは考えられない。  (ロ) 常人の憂鬱反應 正常人でも精神的打撃を受けた場合における一時的反應ではないかということであるがそうではない。  (ハ) 糖尿病に罹つているときにかような症状が現われることがあるが、余らは証人の尿を檢査する機会を得なかつたけれども、曾て医師によつて尿に糖が認められたことがなかつたということで一應否定し得る。  (ニ) 精神分裂病の場合にもかかる憂鬱状態を呈することはあるが、証人精神分裂症を疑わしめるような症状を他に認めない。  (ホ) 痲痺性癡呆 身体的所見は、痲痺性は除外し得るばかりでなく、精神的所見から、癡呆状態を認め得ない。  (ヘ) 以上(イ)より(ホ)まで記述したところから、証人の呈する憂鬱状態は、かかる精神症状を主要微候とする精神病、即ち抑鬱症、正しくいえば躁鬱病の一病相の名であると考えることがどうかと思われる。証人平野力三体型、並びにその病質が、本病であることを診断せしむる有力な基礎となるし、証人自身の告げるところと龍医師診断書にすれば、曾て抑鬱症に罹つたことあるがごとくであり、抑鬱症発作性又は循環性に現われることがしばしばあるからである。  これらの点を願慮するならば、證人平野力三精神状態は、抑鬱症症状と一致するもので、証人は本症に罹りおるものと診断することが妥当と信ずる。病状より程度を推察するに経度であるといえる。  三ノ(1) 過去の経歴殊農民運動及び政治運動の実情、思想を想起し得る能力相当に存するものと思われる。これは抑鬱症は智力は冒されないのが常であるからであるし、証人のような軽度の場合には、思考制止も左程著しくないからである。併し正常と称せられるものでも、記憶及び追想は複雑なる精神的條件支配下にあるものであつて、正しくいえばこれは正確を期待するのは困難である。殊に感情部面障礙がある場合に追想並びに思考のごとき智的作用に、或る程度影響あるべきことは想像される。かかる観点からいえば、証人供述から求められる資料については、それへの感情的附帶の多寡が正確度を左右することとなることを留意しなければならない。  三ノ(2) これは(1)から考えられるごとく、想起した観念を纏めるだけの能力はあつても、思考資料感情的影響があり、又表現が冷静を欠くことあるべきは想像される。  三ノ(3) 以上記したところから考えられるごとく、証人は現在思想観念を纏めて外部に表現し得ない状態ではないが、平常と同様の程度と質とを期待することはできないと思われる。  御質問の四、現在では本人に対し、精神的に余り刺戟せざるよう努むべきであるから、精神的負担本人病氣に対し、惡影響なしと言えない。  御質問の五、現在進行中の東京地方裁判所における証人に対する刑事事件審理の、証人に対する影響については、その審理以前における証人病状を知つていないから、現在の状態との比較は困難であり、又精神状態を数字的に挙げることも困難であつて、或る幅を以ての軽重で表現するに過ぎないから、影響程度を具体的には挙げ得ない。証人みずから告ぐるところでは、審理そのものを拒否せんとするものではないが、現在の精神状態では、正確なる應答を期し難いから、正常に復した後に審理を受けたき旨を熱望している。從つて現在の裁判所の措置については、決して快よしとしない。その感情的刺戟証人に対して、よい影響ありとは思えない。  御質問の六、昭和二十三年七月三日頃の証人病状を單に現在の病状より推定することは困難と言わざるを得ない。病状経過は個人により又環境の如何により甚しく相違するからである。  御質問の七、今後約一ケ月間適当なる專門医の監督下に療養に努めれば、相当治療効果を收め得るのではないかと思う。尤も病状程度と、治療の長短とは、必ずしも一致するとは限らないから、確言することは困難である。  御質問の八、現在の病状並びに家庭の状況より見て、必ずしも入院治療を必要とはしない。治療法としては、持続睡眠試むるのが最も適当と考えるが、他に衝撃療法なども試むべきである。療法如何によつて入院が必要となる。  以上であります。
  8. 伊藤修

    委員長伊藤修君) ではお尋ねいたしたいと思いますが、あなたが御覧になつた当時における平野氏の只今の御診察の外の肉体的の関係においては、証人として出頭し得る程度であるかどうか、要するに歩行に堪えるかどうか。
  9. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) それは歩行に堪えるし、出頭し得る。
  10. 伊藤修

    委員長伊藤修君) そういうことには差支ないわけですか。
  11. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) そうです。
  12. 伊藤修

    委員長伊藤修君) それから平野氏の今の御報告中にありますごとく、正しい意見は述べられんというのですが、それは何か思考を要するようなことは述べられんかも存じませんが、過去の経驗をそのまま表現するということはどうでしようか。
  13. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) それはできると思います。大体私共聞いたのは正確と思われる。過去のことは大体正確を傳えておるように思う。
  14. 伊藤修

    委員長伊藤修君) では自分が内心的に考えておることを、いわゆる表示意思とは、表示と異なるような、不一致を來たすようなことはあり得るでしようか。
  15. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) それは本人はこう言うのです。今は極めて冷靜だからいいが、裁判を受けておる最中に非常に苦しくなる。人に言えない程、苦しくなる。これはどうも自分より外は分らない。こういう状態ではどうも止めて貰いたい。從つてその答えることは非常に苦しい。だから病的な状態にあるのだから正しくないかも知れんというようなことを言つておる。
  16. 伊藤修

    委員長伊藤修君) だから正しくない……
  17. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) これはこの説明の中に私共証言しておるのですが、それは感情的負担のことがそれに相当する。
  18. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 正しくないという程度ですね。程度は過去の経驗をそのまま表現する。樂に表現するというような場合においては、相当正しい意見が述べられるのじやないでしようか。
  19. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) 併しこの病体の性質としまして過去のことを正しく表現できないということは恐らくない。
  20. 伊藤修

    委員長伊藤修君) ないのですか。
  21. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) はい。できると私は思います。たといどういう苦悶状態が起つても述べれば述べられると思います。
  22. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 述べられるのですか。
  23. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) ええ。
  24. 伊藤修

    委員長伊藤修君) そうなると、何か外に本人氣持刺戟するようなことや、煩悶を來たさせるようなことが外界からあれば、或いは病氣が多少昂進してその供述に誤まりが生ずる、そういうようなことはあるのですか。例えば裁判とというような一つの権力の下に行われる場合とか、或いは自分の苦しいところを衝かれ、それが答弁をどうしようというような場合においては、相当病氣から來るところの影響はあるのでありますか。
  25. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) この病氣一般から言えば、そういう場合には默つて答えない。
  26. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 答えなくなつちやうのですか。
  27. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) 默つて答えなくなるのが普通であります。ですけれどもあの人の場合は、默つて答えなくなるかどうかは、ちよつと分りませんが、恐らく答えられると思います。
  28. 伊藤修

    委員長伊藤修君) それから本人に自由に過去の経驗を述べて頂きたいと、こういうような場合は、述べ得られるじやないのでありますか。
  29. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) 勿論述べられます。ただ抑鬱症一般の場合には、もう口をきくのもいやになる。人に聞かれても返事しません。もう悄然としておるのがまあ一般的ですね、あの人の場合は、そういう影が大体ありません。
  30. 伊藤修

    委員長伊藤修君) ないと考えてよろしいですね。多少、御承知通り平野さんはいろいろの事件で御煩悶になつておられるが、日にちを貸したならば相当期待し得るところの供述が求められると思うですか、どうですか。
  31. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) 勿論できると思います。
  32. 伊藤修

    委員長伊藤修君) あなたの御診断では一ケ月とありますが。
  33. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) これは一ケ月というのは、甚だ正確を期したことじやありませんが、一ケ月くらい……
  34. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 一ケ月ぐらいの日を貸せば、そう憂慮すべき状態ではないということは言えるのですね。
  35. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) はい、言えます。まあ持続睡眠でもやつて見たならば、もつと或いは早く治るかも知れません。持続睡眠というのは、御承知かも知れませんが、強い催眠剤を使いまして夜畫ともうつらうつら眠らせて、そうして今までの煩悶というものを、感情を一切去らせる。或いは間違つた考えというものを忘れしめるような療法、つまり時間を多く眠らせる。それには相当強烈な催眠剤を常に時間的に次々と飲ます。ですからこれは医者の監視の下に行なわなければならんのです。それは自宅でもやれないことはありませんが、大体入院してやるのが本当であります。
  36. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 先程伺つたのでは、現在でも大体供述し得る程度のもので、尚一ケ月ぐらい経つてやれば、本人健康状態とも併せて良好であると、こういうふうに考えてよろしうございますか。
  37. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) そういうわけでございます。
  38. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 外に……
  39. 岡部常

    委員外委員岡部常君) お伺いいたしたいのでありますが、今承つたところだけだと、大まかに私ら感じたところでありますが、平野氏に限らず、誰でもが刑事被告人になりますと感ずるところが多いのじやないかと、こうまあ想豫するのでありますが、実際刑事被告人となつておる人々の中に、それと同様な場合が私は相当多いように考えられるのでありますが、どんな割合にありましようか。
  40. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) それは私も割合といつても、正確の数は持ちませんが、平野さんの場合にもこれを考えなければいけないと思いますが、何せよこの事件と離れて、既往抑鬱症診断されたことがあり、又ここに説明申上げた通り本人平常氣質抑鬱症に罹る性質なんですね、それと体格もその通り肥満型であつて、そうして何と申しますか、運動型じやない、そういう体の人は氣質純化性というのと、体の方の肥満型というのと相一致しておるんですね、そういう人は抑鬱症、正しく言えば躁鬱病を起し易い。起すことに約束されておるのです。これは学説なんです。それに反して体のむしろ痩せた筋肉の発達した、いわゆる鬪志型と言つておりますが、運動型のような人、それから氣質がむつつりした内氣の人、そうして強靱に性質を持つておる人、こういう人は、精神病を起す場合には、精神分裂症を起すように約束されておる。こういうのが今の学説なんです。それですから肥満型であつて平野氏のような感情型といいますか、これは学説でいろいろなことを言つておりますが、ヨーロッパの言葉で言いますると、チクロチミーということを、いろいろな名前で訳しておりますが、チクロチミーの人は精神分裂症を起すことはないのであります。それと同様に分裂型の人、これはシゾチミーというので、シゾチミーの人、而もその体が闘士型の人、運動型の人、こういう体を持つておる人は抑鬱状態、抑鬱病は起さん。どつちかに続いておるのであります。これが今の精神病を起す学説にほぼ決つておることなんです。ですから今の御質問のように被告人ともなれば、多くの者が憂鬱状態になるのは、これは一般通念なんですが、それと区別を多少しなければならん。平野さんの方には、曾ては抑鬱症を起した病歴があります。それから体のそういうタイプ、それと氣質においてチクロチミー氣質を持つておるということがある以上、一般の場合とはちよつと区別して考えるのが普通でございます。
  41. 岡部常

    委員外委員岡部常君) これは平野氏の場合がよいとか惡いとかいう問題は別といたしまして、その程度症状で訴訟を延ばすとか、或いは審理ができないとかいうようなことになりますと、私はこれは刑事事件一般審理ということに大変な影響のある大問題だと実は考えられるのです。今証人のお方から承わるところによりましても、今までそれに対して特別な審理処置がとられておらないように想豫されるのでございますが、これに対しましてヨーロッパ、或いはアメリカ方面では何かそういうふうな症状を呈した者に対して特別に裁判のときに、何か処置がとられておる例がありましようか、どうでしようか。これは將來日本刑事事件審理の上にも重大な影響があると私は考えるのでが、その点お願いいたします。
  42. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) ちよつと、私それは知識として持つておりませんが、私共ここに何しましたのは、本人がそういうふうに苦悶発作状態になるという場合には、まあどつちかと言えば、やつてもやれないことはないかも知れないが、まあ時を貸してやるべきでないか、こういうような意見で、まあ二人で申合わしたわけで、まあ無理にやつてやれないわけはない、そんなふうな状態なんです。
  43. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 平野氏のような病氣の場合に、裁判所審理を仮に続行するとした場合に、平野氏の言うがごとく相当病氣が重くて、延いては人命にも関するというようなことになるでしようか。
  44. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) そんなことになりません。
  45. 伊藤修

    委員長伊藤修君) そんなことはありませんか。又氣狂いになつて行くとかいうことがあり得ますか。
  46. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) あの人の場合にはないようです。本人は非常な負担を感じておりますが、苦しいと言いますか、私共が参つたのは八月の七日でございまして、丁度六日に公判があつたと思いますが、そのときのこと、非常に疲れて厭な氣持になつた、こういうことを言つておりましたが、法廷で自分がそうなつたと言いますが、だけれども翌日の七日にはそういうふうな影は客観的には見られなかつた
  47. 伊藤修

    委員長伊藤修君) この前の二日の裁判か何かでは、尋問を拒否するのは、鬪爭をしておつて苦しくなつて脂汗が出ておつたというようなことを言つておりましたが、それはその病状が然らしむるのでしようか。その他精神的の作用なんでしようか。
  48. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) 実は私二日でしたか、その前の公判には傍聽しませんが、六日の日実は傍聽しておりましたが、元氣よく大いに声を大きくして、自分も苦しいのだから、健康になるまで延ばして呉れということを頻りと私共に要求しておりました。
  49. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 事案に対する供述は拒否されておるようですけれども、それ以外の自分の主張というものは殆んどおやりになつていらつしやいますからね。そういう点から見てもそう大して供述身体的故障負担となるようには考えられませんですか。
  50. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) 身体的の故障負担とは勿論なり得ません。
  51. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 供述に答えたからといつて病氣が亢進するというように考えなくてもよろしいですね。
  52. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) 体の方にはそう大して影響はありません。
  53. 大野幸一

    委員外委員(大野幸一君) 精神的の意欲というものと、病状の回復ということの関連性、例えば自分病氣であると重く診断して貰いたいと、考えておる場合と、自分病氣だと思われたくないという意味で診断を受ける場合とありますね。それから成るべく長い期間の病氣自己のために利益だという場合があります。こういう場合に回復状態は長い方が、自分病氣が長く続く方が自分の利益だというような場合があるのですが、そういう場合の病氣の回復状態はあるのでしようか、ないのでしようか。
  54. 菊地甚一

    証人菊地甚一君) ございます。ございますが、單純な抑鬱病にはそれは余りないと思います。これはヒステリー症状の強い場合にはそうなります。自分は治りたくない、治りたいということが一面にあつても、片方に治りたくないというような場合には、治りが非常に惡うございます。併しこれは抑鬱病の場合には余り考えられないので、むしろ抑鬱状態に加えたヒステリー症状を持つような場合にはそういう場合があります。つまり治そうと思つてもなかなか治らないし、本人が一面、まあ妙な言い廻しですけれども、今のお言葉の通り意欲が、治りたくないというように向いておる場合には、病氣治療というものは非常に困難であります。これは普通の事件の、普通の被告人の勾禁性現象という特別の現象でありまして、こういう場合にはよくあるのであります。殊にヒステリー人格から起つたような勾禁性現象の場合には、何とかして自分が治らないで、治らないままで裁判を受けたくないというようなことが相当強く働いております。これは治そうとしたつてなかなか治るものじやありません。そういう場合はあり得ると思います。重ねで申上げますが、抑鬱状態の場合にはそう押し拡げてそれを判断するのは少し酷なように思います。
  55. 伊藤修

    委員長伊藤修君) それではどうもお忙しいところを恐れ入りました。  來馬さん只今お聞きの通りでございますね、病状でございますが、先般の八月三日に出頭しなかつたということについては正当の理由があるかないかという点に対しましては、どうも正当の理由があるというふうにも考えられるのですが、併しながら出頭しても供述ができないかというと、医学上においてはでき得るという御判断のようですけれども、本人としてはできない、こういう自覚の下に出頭しなかつたといことは正当の理由にならないでしようけれども、多少恕すべき点はあると思います。これだけを取上げて今ここで訴追するということはせずに、再び出頭を命じまして、そうして宣誓の上供述を命じて尚これを拒む場合には合せてこれをも附隨して訴追するということにしては如何でしようか。
  56. 來馬琢道

    ○來馬琢道君 私の実際において見たところによりますと、本人は何か質問が手酷しくなつて來たときに考え違いをして間違つた答えをするかも知れないという心配があつて、まあこういうときに行かない方がよいという理由も相当あるものと思います。それから平野君を訪問して臨床尋問をするということになつたという点について、家人が非常に心配して一言半句と雖も間違つたことがあれば大きな問題になる虞れがあるというので、先ず我々にも会わせないようにしようとしたということを認められると思います。本人自身は或いは去る三日に出頭して、國会議員同士のことであるからざつくばらんに話をしたいという希望があつたかも知れないけれども、家人がそれに対して阻止したようなことがないとも言えない。それらの状況を察して見ると、直ちにここで訴追するということは今委員長の言われたように必ずしも穏当でないと考えます。尚貸すに時を以てして本人の心持がよく答弁できると思うときに審理をするということで、我が司法委員会の任務は達成できると考えます。只今の委員長の御意見に対して賛成し、この通りに進行あらんことを希望します。
  57. 伊藤修

    委員長伊藤修君) それでは更に改めて適当に定めまして出頭を命ずることにいたします。そうして宣誓の上供述して頂くことにいたしますが、若しその際出頭もせず又宣誓もせず又供述もしなかつたような場合には改めて御協議願つて然るべき手続を取ろうと思います。取敢えずさように決定いたしたいと思います。どうも有難うございました。ではさように決定いたします。  では本日はこれを以て散会いたします。    午後三時十九分散会  出席者は左の通り。    委員長     伊藤  修君    委員            來馬 琢道君            遠山 丙市君            松村眞一郎君   委員外委員            岡部  常君            大野 幸一君   証人            菊地 甚一