○
政府委員(
宮下明義君) 引続いて逐條について御説明申上げます。第四編
再審に入ります前に、
改正案におきましては、
現行法第四編大審院の
特別権限に属する
訴訟手続の編を削除いたしたのでありまするが、これは現在の
裁判所法によりますると、
最高裁判所の
特別権限事件というものはございませんで、ただ
高等裁判所の
特別権限事件として
内乱罪だけがあるだけでありまして、特にこの
内乱罪の
高等裁判所の
特別権限につきまして、その
捜査等について
特別規定を設ける必要もないものと考えまして、
現行法の第四編を削除いたした次第であります。
次に
改正案第四編
再審でございますが、第四百三十
五條は
現行法の四百八十
五條に相当する
規定でありまして、その
内容におきましては第七号が
現行法とやや変
つておるだけでありまして、その他の点は
現行法と
変りございません。第七号におきましては、
現行法においては、
原判決だけでなく、前審の
判決に関與した
裁判官等及び
公訴提起に関與した
檢察官等につきまして、職務上
涜職等の
行爲がございました場合におきましても
再審をなし得るものといたしてお
つたのでありますが、
改正案は
公訴提起というものにそれ程重要な
意味を持たせておりませんし、若し
公訴提起前に非違がありましても、或いは前審の
判決につきまして非違がありましても、これらはすべて
原判決をいたします際に、すべて洗い去られておるという考え方から、第七号におきましては、
原判決に関與した
裁判官、
原判決の証拠にな
つた証拠書類の作成に関與した
裁判官等につきまして職務上の非行があ
つたとき
再審の事由といたしたわけでございます。
次に
再審の編におきましては
應急措置法第二十條と同樣、
被告人のために
不利益な
再審というものはすべてこれを削除いたしました。これは
憲法三十九
條後段におきまして、何人も同一の
行爲について重ねて
刑事上の責任を問われないという
憲法の精神を承けまして、すでに或る
判決を受けました以上これを
不利益に変更されるということは
憲法の精神に反するという
趣旨から、
被告人のために
不利益な
再審というものはすべて削除いたしたわけでございます。
次に四百三十六條は、
現行法の四百八十
七條と四百八十
八條とを併せて一つの
條文にいたしたわけでございまして、その
内容は、
再審の
請求というものは、
有罪の
言渡をいたしました
確定判決に対してのみではなくして、
控訴棄却の
確定判決、又は
上告棄却の
確定判決に対しても、
被告人のために
利益な
再審はこれをすることができるという
規定を置いたわけでございます。これによりまして、この
再審が許されまして
再審開始決定がございますれば、その
事件は控訴中の
事件或いは
上告中の
事件として、その
控訴裁判所又
び上告裁判所において
通常の
手続に
從つて審理がなされるわけでございます。
次に四百三十
七條は
現行法の四百八十九條に相当する
規定でございまして、その
内容は
現行法と
変りがございません。
次に四百三十
八條は
現行法の四百九十條に相当いたしまして、
再審の
請求は
原判決をした
裁判所がすべてこれを管轄するということに定めたのであります。
四百三十九條は
現行法の四百九十
二條に相当する
規定でありまして、その
内容におきまして民法の
改正等に則りまして、幾分字句の修正をいたしてございまするが、
内容においては殆んど
現行法と
変りがございません。
次に第四百四十條は
現行法の四百九十三條に相当いたしまして、
檢察官でなくして
檢察官以外の者が
再審の
請求をする場合には
弁護人を選任することができる。で、この
弁護人は
再審開始決定がありまして、その後
再審の
判決があるまでその選任の効力が持続いたしまして、
弁護人として活動できるという
規定にいたしたわけでございます。
四百四十
一條は
現行法の四百九十四條に、相当いたしまして、その
内容は
現行法と
変りがございません。即ち
再審の
請求というものは、刑の
執行が
終つた後でありましても、又は
執行の
免除等によりまして
執行を受けることがないようにな
つた場合におきましても、尚且つこれをすることができるといたしたわけでございます。この場合に
再審によ
つて無罪等の
判決がありますれば、受けました
執行に対しては
刑事補償の問題が生ずるわけでございます。
四百四十
二條は
現行法の四百九十六條に相当いたしておりまして、
再審の
請求そのものは必ずしも刑の
執行を停止する効果を持
つているものではない。併しながら
檢察官は事情によりまして、確かにこの
事件は
再審が立つに相違ないというような事情のある場合には、前以てその
執行を停止することができるといたしたわけでございます。
四百四十三條は
現行法の四百九十
八條に相当いたしておりまして、
再審の
請求の取下に関する
規定でございます。
四百四十四條は
現行法の四百九十九條に相当いたしております。
次に四百四十
五條は
現行法の五百三條に相当いたしております。
再審の
請求を受けた
裁判所が必要がある場合には
会議体の
構成員に事実の取調をさせ、又他の地方
裁判所、
簡易裁判所の
裁判官に事実の取調の嘱託をすることができるという
規定を設けたわけであります。
〔
委員長退席、
理事鈴木安孝君
委員長席に著く〕
四百四十六條は
現行法の五百四條に相当いたしておりまして、この
内容は
現行法と
変りがございません。
四百四十
七條は
現行法は五百
五條に相当いたしております。第二項のおきまして
現行法と幾分言葉を改めまして、
再審の
請求の棄却の
決定があ
つたときは、何人も同一の理由によ
つては更に
再審の
請求をすることはできないといたしまして、
解釈上の疑問を避けたわけでございます。
四百四十
八條は
現行法の五百六條に相当いたしておりまして、
再審の
請求が理由がある場合には
再審開始決定をしなければならないという
規定であります。
再審開始決定がございますると、その後
通常の
手続に
從つて再審手続が継続されるわけであります。
四百四十九條は
現行法の五百
七條と五百
八條を併せて一つの
條文といたしたのでありまして、
控訴棄却の
確定判決と第一審の
判決との両方に対して
再審の
請求があ
つた場合における技術的な問題を解決しておりまする
規定でございます。
四百五十條は
現行法の五百十條に相当いたしておりまして、
再審の各種の
決定に対して
即時抗告をすることができることの
規定を設けておるのであります。
四百五十
一條は、
現行法の五百十
一條と五百十
二條に相当いたしておりますが、この
規定は
現行法と立て方を著しく変えておりまして、
再審の
手続におきましても
原則としてそれぞれの
審級に
從つて審判をしなければならない。言い換えますれば、第一審の
確定判決に対して
再審の
請求があ
つて、その
請求に対して
再審開始決定がありました場合において、
原則として第一審の
手続に
從つて再審手続をするというふうにいたしたわけであります。今
現行法の五百十
一條は
再審開始決定が
確定した
事件については、それぞれその
審級に
從つて更に審判をしなければならないと
規定いたしまして、五百十
二條において
死亡者又は
回復の
見込のない
心神喪失者の
利益のために
再審の
請求をした
事件については、
公判を開かないで、
檢察官及び
弁護人の
意見を聽いて
判決をしなければならないと、このように
規定をいたしまして、五百十
二條の第二項におきまして、
有罪の
言渡を受けた者の
利益のために
再審の
請求をした
事件について
再審の
判決をする前に、
有罪の
言渡を受けた者が死亡したり、又は
心神喪失の
状態に陷りまして、
回復の
見込がなくな
つた場合においても同樣
公判を開かないで、ただ單に
檢察官及び
弁護人の
意見を聽きまして
判決をしなければならないというふうに
規定いたしておりまして、この
死亡者又は
心神喪失者についての
再審の場合には、
現行法においては
公判を開かなか
つたわけでありまするが、今度の
改正案の四百五十
一條におきましては、このような場合におきましても、やはり
公判は開くという立て方に改めたわけでございます。即ち第二項におきまして、「
死亡者又は
回復の
見込がない
心神喪失者のために
再審の
請求がされたとき。」第二といたしまして、「
有罪の
言渡を受けた者が、
再審の
判決がある前に、死亡し、又は
心神喪失の
状態に陷りその
回復の
見込がないとき」におきましても、
原則としては
公判は開くのである、即ち三百十四條第一項本文、即ち
公判手続の停止に関する
規定及び三百三十九條第一項三号の
規定、即ち
公訴棄却の
規定、これらはこの場合には適用をしない、
從つて原則として
公判を続けて行く、こういうふうに立て方を改めまして、
被告人の
利益を図ろうといたしたわけでございます。
四百五十
二條は
現行法の五百十四條に相当いたしまして、「
再審においては、
原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。」といたしまして、
不利益変更禁止の
原則を採用いたしたわけでございます。
四百五十三條は
再審において無罪の
言渡をしたときは、その
判決を「官報及び新聞紙に掲載して、その
判決を公示しなければならない。」ということを定めたものでありまして、
現行法の五百十
五條に相当いたしております。
次に第五編
非常上告について御説明申上げます。
改正案におきましては、四百十
五條乃至四百十
八條におきまして、
上告裁判所の
判決に対して
檢察官、
被告人又は
弁護人の申立によ
つて訂正の
判決をすることができるという新らしい
制度を採用いたしたのでありまするが、この
制度と
現行法にもございましたところの
非常上告という
制度とは、おのずから
制度の
趣旨と目的が相違いたしておりまするので、四百十
五條の
判決訂正の
手続に拘わらず、
非常上告は、やはり存置いたして置くべきものであるという見解から、
改正案におきましても第五編として
非常上告の
手続をそのまま置いたわけでございます。而してその
内容におきましては
現行法と殆んど変
つておりませんので、この点は各
條文についての御説明を省略させて頂きたいと思います。要するに
判決が
確定した後に、その
事件が法令に違反したことを発見したときは、
檢事総長は
最高裁判所に
非常上告をすることができるということにいたしまして、四百五十
五條以下にこの
非常上告についての
手続規定を定めたわけでございます。
次に第六編
略式手続について御説明申上げます。新
憲法が実施されまして、昨年の五月三日から
應急措置法が施行されておるのでありますが、この新
憲法の下においては、
略式命令は
憲法違反であるという説が可なり強く主張されたのであります。その根拠は、
憲法三十
七條第一項及び第二項並びに
憲法八十
二條第一項に基いて
憲法違反の説が主張されたのであります。
憲法第三十
七條第一項には「すべて
刑事事件においては、
被告人は、公平な
裁判所の迅速な
公開裁判を受ける
権利を売する」と
規定いたしておりまして、第二項においては、
刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を十分に與えられなければならないと、こう
規定いたしております。而して八十
二條第一項には「
裁判の対審及び
判決は、
公開法廷でこれを行う。」こう
規定いたしておりまして、これらの
公開裁判を受ける
権利というものは放棄を許さない
権利である。然るに
略式命令というものは、たとえ
被告人が
略式命令によることを同意いたしたといたしましても、この
憲法の
公開裁判の
原則に反するというところから、
憲法違反の説が可なり強く主張されたのであります。併しながら政府におきましては、終始この
憲法三十
七條第一項の
公開裁判を受ける
権利というものも必ずしも放棄を許さない
権利ではない。從いまして
略式命令も必ずしも
憲法違反でないということを強く主張いたして参りまして、昨年
憲法が実施されまして暫くの間は、この点について疑念を持
つた裁判所がございましたが、その後大多数の
裁判所がこの
略式命令は
憲法違反でないという説を承認いたしまして、現在においては殆んどすべての
裁判所が
略式命令を発布いたしておるのであります。
改正案におきましても、この政府の見解に從いまして、
略式命令手続をそのまま存置いたしたのでありますが、只今申上げたように、一部において
憲法違反という説もあるくらいでありまするので、
十分愼重を期しまして、この
略式命令について或る程度の制限を設けて、これを存置することといたしたのであります。即ち四百六十
一條におきましては
簡易裁判所は、
檢察官の
請求によりまして、その
簡易裁判所の管轄に属する
事件について、
公判前、
略式命令で五千円以下の
罰金又は科料を科することができる。このように
規定いたしまして、
罰金の
最高限を五千円に限
つたわけでございます。
現行法におきましては
略式命令で五千円以上如何なる金額の
罰金をも科し得たのでありますが、
改正案におきましては
最高限度を五千円に
限つたのであります。而して第二項におきまして
檢察官が
略式命令の
請求をしようという場合には、予め
被疑者に対してこの
事件について
略式命令の
請求をするということを告げなければならないということにいたしまして、
檢察官が
被疑者に対してその旨を告げた日から七日を経過いたしまして、而もその
期間内に
被疑者から
異議がない場合に
限つて初めて
裁判所は
略式命令を発することができるというふうに、
愼重な
手続きを取ることといたしたのであります。要するに要点といたしましては、
罰金の
最高限を五千円に
限つた点、及び一定の
期間を置きまして、その
期間内に
被疑者から
異議がない場合に
限つて初めて
略式命令を発することができるという建前を取りまして、根本において
憲法、違反でないことは間違いがないのでありまするが、尚、
憲法違反の論議を避ける
意味におきましてこのような
愼重な立法をいたしたわけでございます。
四百六十
二條は
現行法の五百二十四條に相当する
規定でありまして、「
略式命令の
請求は、公訴の提起と同時に、書面ではこれをしなければならない。」ということにいたしました。即ち
略式命令の
請求は
公訴提起そのものとは別個でありまするが、同一の書面において
略式命令の
請求がなされるということになるわけであります。
四百六十三條は
現行法の五百二十
五條に相当いたしておりまして、
略式命令の
請求があ
つた場合に、その
事件が法律上
略式命令にすることができないものである場合、又は
裁判所がその
事件を
略式手続で片付けるのは相当でない、
通常の
公判を開くべきものであると考える場合におきましては、
略式命令を発しませんで、
通常の
規定に
從つて審判をしなければならないということにいたしたのであります。而して
通常の
手続に
從つて審判をする場合において、
裁判所法第三十三條第二項の場合には、
簡易裁判所はその
事件を「
管轉地方裁判所に移送しなければならない」ということに定めたわけでございますが、この
裁判所法第三十三條第二項の点につきましては、
改正刑事訴訟法に應じまして
裁判所法の一部を改正いたしたいと考えるのでございまするが、その法案を引続いて國会に提出して御
審議を願う予定にな
つております。
四百六十四條は
現行法の五百二十六條に相当いたす
規定でありまして、その
内容におきましては
変りがございません。
四百六十
五條は
現行法の五百二十
八條に相当いたしておりまするが、第一項におきまして、
正式裁判の
請求をすることができるものに、新たに
檢察官を加えまして、
現行法におきましては、
略式命令に対して
正式裁判の
請求をすることができる者は、その
命令を受けた者に限られてお
つたのでありまするが、
改正案におきましては、必ずしもその
命令を受けた者ばかりでなく、
檢察官に対しても
正式裁判の
請求権を認めたわけでございます。
現行法においては、
檢察官に
正式裁判請求権を認めておらない関係上、
解釈論といたしまして
略式命令は
檢事の
意見通り発すべきもので、
裁判所は
檢事の
意見を少しでも変える場合には普通の
公判を開くべきものであるという誤
つた解釈もあ
つたのでありまして、
改正案におきましては、そのような
解釈は取らない。
裁判所は必ずしも
檢事の
意見に拘束されませんで、
裁判所独自の考えで刑を定め、
略式命令を発すべきものであるという
解釈を明らかにする
意味もございまして、そのような場合においては
檢察官はその
略式命令に不服のある場合も考えられまするので、第一項において
檢察官に
正式裁判の
請求権を認めたわけでございます。
四百六十六條は
現行法の五百三十條に相当いたしておりまして、
正式裁判の
請求は第一審の
判決があるまでこれを取下げることができるということにいたしたわけでございます。
四百六十
七條は
正式裁判の
請求というものは、一面、
上訴と似
通つた点がございまするので、三百五十三條の
被告人の
法定代理又は
弁護人の
被告人のためにする
上訴権の
規定、三百五十
五條の原審の代理人又は
弁護人の
被告人のためにする
上訴権の
規定、その他
上訴権回復の
規定等、すべてこれを
正式裁判の
請求又はその取下げについて準用することといたしたのであります。
四百六十
八條は
現行法の五百三十
一條に相当する
規定でありまして、
内容においては
現行法と
変りがございません。
次に四百六十九條は
現行法の五百三十
二條に相当いたし、四百七十條は五百三十三條に相当いたしまして、
内容においては
変りないのであります。
次に第七編
裁判の
執行の編を御説明申上げます。
四百七十
一條は
現行法の五百三十四條に相当いたしまして、
裁判は
原則として
確定後これを
執行するという
原則を掲げたわけでございます。
四百七十
二條は
裁判官の
執行指揮に関する
規定でありまするが、
裁判の
執行はその
裁判をした
裁判所に対應する
檢察廳の
檢察官がこれを指揮するものである。併しながら例外の場合においては、
裁判所又は
裁判官が指揮する場合もあるということを第一項において明らかにいたしました。「
上訴の
裁判又は
上訴の取下により下級の
裁判所の
裁判を
執行する場合には、
上訴裁判所に対應する
檢察廳の
檢察官がこれを指揮する。」併しながら「
訴訟記録が下級の
裁判所又はその
裁判所に対應する
檢察廳に在るときは、その
裁判所に対應する
檢察廳の
檢察官が、これを指揮する」ということにいたしたのであります。
四百七十三條は
現行法の五百三十六條に相当いたしまして、
裁判所の
執行指揮の方法についての
規定でございます。
四百七十四條は、
現行法の五百三十
七條に相当いたしておりまして、二つ以上の主刑の
執行は、
罰金、科料を除いては、その重い方から先にその
執行をするという
原則を
規定したのであります。併しながら
最高檢察廳の
檢察官は
檢事総長の許可を受け、その他の
檢察官は
檢事長の許可を受けまして、場合によりましては重い刑の
執行を停止して、他の刑の
執行を先にさせることができるという
規定を設けたのであります。この場合におきまして、ただ單に
檢察官にこの但書の
権限を認めないで、
最高檢察廳の
檢察官につきましては
檢事総長、その他の
檢察官については
檢事長の許可を受けしめるということにいたしましたのは、特に濫用を避ける
意味において
愼重を期したわけでございます。
四百七十
五條は
現行法の五百三十
八條に相当する
規定でございまして、
死刑の
執行に関する
規定であります。その第二項の
規定は全く新らしい
規定でございまして、即ち
法務総裁が
死刑執行の
命令をするのは、
判決確定の日から六ヶ月以内にこれをしなければならない。但し、
上訴権回復若しくは
再審の
請求、
非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がなされまして、その
手続が終了するまでの
期間及び
共同被告人であ
つた者に対する
判決が
確定するまでの
期間は、只今申上げました六ヶ月の
期間にこれを算入しないということにいたしたのであります。現在におきましては、
死刑の
判決が
確定いたしましてから相当な日数を経過いたして後に、初めて
死刑執行の
命令が出ておるのでありまするが、すでに
死刑の
判決を受けた者に対して、長い
期間その
執行をいたしませんで、いつまでも眼の前に
死刑ということを考えながら拘禁されておるということは、如何にも残酷でありまして、
憲法が残酷な刑罰を禁止しておる
趣旨にも反すると考えまして、
死刑の
判決が議定した後は、その
確定の日から六ヶ月以内に
法務総裁は、その
執行の
命令をしなければならない、というふうに
規定いたしたわけでございます。勿論但書にございまするように、
再審とか
非常上告とか、恩赦というようなことについては、十分な考慮が拂われるわけでございます。
次に四百七十六條は、
現行法の五百四十條に相当いたしておりまして、「
法務総裁が
死刑の
執行を命じたときは、五日以内にその
執行をしなければならない。」ということにいたしたのであります。
四百七十
七條は
現行法の五百四十
一條に相当いたしておりまするが、第一項におきまして、
死刑の
執行の
立会人に新たに監獄の長又はその
代理者というものを附加いたしまして、
現行法におきましては、立会は
檢察官と
裁判所書記であ
つたわけでありまするが、更に
愼重を期しまして、監獄の長又はその
代理者も立会わなければならないということにいたしたのであります。
四百七十
八條は
現行法の五百四十
二條に相当いたしておりまして、
死刑執行始末書に関する
規定であります。
四百七十九條は
現行法の五百四十三條に相当いたしまして、
死刑の
言渡を受けた者が
心神喪失の
状態にあるとき、又は
死刑の
言渡を受けた者が女子であ
つて懷胎しておる場合には、
法務総裁の
命令によ
つて、その
執行を停止しなければならない、という
規定を設れたわけでございます。而してこの
執行を停止いたしました場合に、その後において
心神喪失の
状態が
回復した場合、又は出産がありました場合に、改めて
法務総裁の
命令がなければ
執行をすることができない、というふうに
規定いたしたわけであります。第四項におきまして、四百七十
五條第二項の
規定を準用することにいたしまして、この場合においても、
心神喪失の
状態が
回復した日、又は出産の日から六ヶ月以内に
執行の
命令をしなければならないということにいたしたのであります。その
趣旨は四百七十
五條第二項において御説明いたしました通り、長い
期間死刑を眼の前の置いた拘禁を継続するということは、余りにも残酷ではないかという考えから出ておるわけであります。
四百八十條は、
現行法の五百四十四條に相当いたしております。即ち体刑の
言渡を受けた者が、
心神喪失の
状態にありまする場合には、その
心神喪失の
状態が
回復するまで、
執行を停止しなければならない、という
規定であります。
四百八十
一條は
現行法の五百四十
五條に相当いたしております。
決行法におきましては、
心神喪失者に対する刑の
執行を停止した場合に、
檢察官はその者を
監護義務者又は
市町村長に引渡し、病院その他適当な場所に入れることができるということにな
つてお
つたのでありまするが、
改正案におきましては、特に
檢事に対して、この場合においては必ず
監護義務者又は
地方公共團体の長に引渡して、病院その他適当な場所に入れなければならないという義務を課しまして、その者の保護を厚くいたしたわけであります。
四百八十
二條は、
決行法の五百四十六條に相当いたしておりまして、刑の
言渡を受けた者について、第一号乃至第八号の事由がありまする場合には、その
執行を停止することができるという刑の
執行停止に関する
規定でございます。この第一項に新たに但書を附加えまして、
最高檢察廳の
檢察官は、
檢事総長の許可を受け、その他の
檢察官は
檢事長の許可を受けて、この
執行停止をすることができるというふうにいたしましたのは、同樣
檢察官の
権限に濫用を防止しよう、
檢事総長又は
檢事長の許可によ
つて適当にこの
執行停止がなされるように、配慮しようといたしたのであります。
四百八十三條は新らしい
規定でございまして、
改正案におきましては、五百條において訴訟費用の負担を命ぜられた者が、貧困のためにその訴訟費用を完納することができないときには、訴訟費用の負担を命ずる
裁判をいたしました
裁判所に、訴訟費用の全部又は一部の
執行の免除を申立てることができるという、訴訟費用の免除の申立に関する
規定を新たに設けたわけでございまするが、この五百條に
規定する
執行免除の申立の
期間内、即ち訴訟費用の負担を命ずる
裁判が
確定した後十日以内にその申立があ
つたときは、訴訟費用の負担を命ずる
裁判の
執行は、その申立についての
裁判が
確定するまで、
執行を停止しなければならない、という
規定を設けたわけでございます。
四百八十四條は
現行法の五百四十
七條に相当いたし、四百八十
五條は
現行法の五百四十
八條に相当いたしております。この場合に
檢察官が收監状を発することができるという
規定を設けておるのでありまするが、これは
現行法においては逮捕状という用語を用いてお
つたところであります。併しながら
改正案におきましては、逮捕状は起訴前の犯罪捜査の段階における逮捕について、逮捕状という名称を用いましたので、混同を避ける
意味において收監状という言葉に改めたのであります。
憲法は司法官憲以外の者について、人を逮捕する令状を発する
権限を否定しておるのでありまするが、この場合におきましては、すでに
有罪の
判決が
確定いたしておりまして、その
裁判を
執行するために、
有罪の
言渡しを受けた者を收監する令状を発するのでありまするから、必ずしも
憲法第三十三條の予定しておるところではないというところから、
檢察官に対して收監状を発する
権限を認めておるのであります。
四百八十六條は
現行法の五百四十九條に相当いたしております。
死刑、懲役等の
言渡しを受けた者の現在地が判らない場合に、
檢察官は
檢事長にその收監を
請求いたしまして、
請求を受けた
檢事長は、自分の管内の
檢察官に收監状を発せしめて、これに協力するという
規定でございます。四百八十
七條は收監状の記載要件に関する
規定であります。四百八十
八條は、「收監状は、勾引状と同一の効力を有する。」という
規定でございます。四百八十九條は「收監状の
執行については、勾引状の
執行に関する
規定を準用する。」という
規定でございまして、
決行法五百五十條乃至五百五十
二條に相当いたしまして、その
内容は
現行法と
変りはございません。
四百九十條は
決行法の五百五十三條に相当する
規定でありまして、
罰金、科料、没收等の
裁判の
執行の関する
規定であります。これらの
裁判は
檢察官の
命令によ
つて執行するのでありまするが、この
檢察官の
命令は
執行力のある債務名義と同一の効力を有しまして、その
裁判の
執行については、民事訴訟に関する法令の
規定を準用するという建前を取
つたことは、
現行法と同樣であります。
四百九十
一條は没收又は租税その他の公課若しくは專賣に関する法令の
規定により
言渡した
罰金若しくは追徴というものは、特に刑の
言渡しを受けた者が
判決の
確定した後死亡した場合でありましても、相続財産についてその
執行をすることができるという
規定でありまして、
現行法の五百五十四條と同樣であります。即ち
改正案におきましても、
有罪の
判決というものは、本來その本人のみを対象として
言渡され、その
裁判の効果というものは、その本人一身に專属するわけでありまするが、この場合のごとく没收その他租税等の法令の
規定によ
つて言渡した
罰金等につきましては、特に相続財産についても
執行することができるということにいたしたわけでございます。
四百九十
二條は法人の場合におきまして、法人に対して
罰金、科料、没收、追徴等を
言渡した落合に、その法人が、
判決確定後、合併によ
つて消滅したときには、合併後存続する法人、又は合併によ
つて設立された法人に対して、その
裁判を
執行することができるという
規定でありまして、
現行法の五百五十
五條に相当する
規定であります。この場合におきましては、
裁判の
言渡しを受けた法人というものは、一旦合併によ
つて消滅するのでありまするが、実質においてはその後の法人に引継がれておるという考えから、後に法人に対して
執行をすることができるということにいたしたのであります。
四百九十三条は新らしい
規定でありまして、
改正案におきましては、三百四十
八條におきましていわゆる仮納付の
制度を設けたのでありまするが、第一審と第二審とにおいて、仮納付の
裁判があ
つた場合に、すでに第一審の仮納付の
裁判について
執行をしてしま
つたという場合に、その第一審の仮納付の
執行は、第二審の仮納付の
裁判で納付を命ぜられた金額の限度においてその
執行とみなすという
規定を設けたのであります、具体的に御説明申上げますると、第一審において千円の仮納付の
裁判がありまして、千円の
執行をした、その後第二審において五百円の仮納付の
裁判がありました場合においては、第一審の
裁判に基いて
執行をいたしました千円の内、五百円の限度において第二審の仮納付の
裁判について
執行があ
つたものとみなされるわけであります。而して第二項によ
つて、その超過部分である五百円はこれを返還しなければならないということにな
つておるのであります。
四百九十四條は同樣新らしい
規定でありまして、仮納付の
裁判の
執行があ
つた後に、
罰金、科料又は追徴の
裁判が
確定したときは、その金額の限度において刑の
執行があ
つたものとみなされるのであります。即ち千円の仮納付の
裁判の
執行がありました後に八百円の
罰金の
裁判が
確定した場合には、この八百円の限度において刑の
執行があ
つたものとみなされるわけであります。而して第二項におきまして、この超過部分である二百円はこれを返さなければならないという
規定を置いておるわけであります。
四百九十
五條は
現行法の五百五十六條に相当する
規定でありまするが、その第一項は新らしい
規定でありまして、
改正案におきましては、
被告人の
上訴権の保護というものを特に配慮いたしまして、
上訴の放棄の
制度を廃止いたしたのでありまするが、そのために
被告人がすでに
原判決に満足いたしておりまして、直ちに
執行を受けてもよいという場合でありましても、
判決の
言渡しを受けた直後
執行を受ける可能性が、
改正案においてはなくな
つておりまするので、このような場合には、「
上訴の提起
期間中の未決勾留の日数は、
上訴申立後の未決勾留の日数を除き、全部これを本刑に通算する。」ということにいたしまして、この点
被告人に
不利益のないように配慮いたしたわけであります。從いまして
判決言渡し後十四日というものは、その
判決は
確定しないわけでありまするが、その間の未決勾留というものは後に本刑に通算されるということになるわけであります。第二項におきましては、立て方は
現行法の五百五十六條と殆んど
変りがございません。未決勾留の一日を折算する場合に関する
規定を、
現行法においては全額の一円を折算してあ
つたのでありまするが、如何にも現在の物價事情に合いませんので、金額を二十円に折算するというふうに改正いたしました。
四百九十六條は
現行法の五百五十
七條に相当し、四百九十
七條は五百五十
八條に相当し、四百九十
八條は五百五十九條に相当いたしておりまして、その
内容は
現行法と
変りがございません。
四百九十九條は
現行法の五百六十條の相当いたしておりまするが、この場合押收物の還付を受ける者の所在が判らない場合、又はその他の事由によ
つて、押收物を還付することができない場合に、
檢察官はその旨を公告しなければならない、という
規定が
現行法にもあ
つたのでありまするが、何に公告するかという点について
規定がございませんで、
権利者の保護に欠くる点がありましたので、
改正案におきましては特に「官報で公告しなければならない。」ということにいたしました。
手続の明確化を図
つて、
権利者の保護を図ろうといたしたのであります。
第五百條は新たな
規定でありまして、最前四百八十三條に関連いたしまして御説明いたしました通り、訴訟費用の負担を命ぜられた者が、貧困のためにこれを納付することができないときには、その訴訟費用の免除の申立をすることができるという
制度を新たに設けました。この申立は訴訟費用の負担を命ずる
裁判が
確定した日から、十日以内にこれをしなければならないということにいたしたのであります。
改正案におきましては、國選
弁護人の旅費、日当、宿泊料、報酬等も訴訟費用として、場合によりましては
被告人に負担を命ぜられまするので、
現行法よりも訴訟費用の金額というものが、相当多額になることが予想されておるのであります。ところが
被告人が貧困等のために、これを完納することができないという場合には、特に
裁判所に申立てまして、その免除をして貰うということにいたしたわけであります。
憲法におきましても、
被告人が自己の努力によ
つて、
弁護人を得ることができない場合には、國がこれを附するということにな
つておりまするので、貧困等のために
弁護人を得ることができない者に一旦國選
弁護人を附するのでありまするが、これを訴訟費用として又その
被告人からすべて取立てるというのでは、
憲法の精神に反する点もありまするので、このような場合には後に
裁判所がその免除をしてやるということにいたしたわけでございます。
五百
一條は
現行法の五百六十
一條に相当するものでありまして、刑の
言渡を受けた者の
裁判の
解釈について疑がある場合には、その
裁判の
解釈を求める申立をすることができるという
規定であります。五百
二條は
現行法の五百六十
二條に相当いたしまして、いわゆる
執行異議に関する
規定であります。五百三條以下五百六條までの
規定は
現行法五百六十三條乃至五百六十六條に相当する
規定でありまして、その
趣旨においては
現行法と
変りがございませんので、説明を省略いたします。
次に
改正案におきましては、
現行法第九編私訴の編を削除いたしておるのでありまするが、その理由とするところは、從來の実際の運用を考えますると、私訴というものは余り活用されておりませんし、尚
裁判というものが次第に專門化して参りまして、民事の
裁判官と
刑事の
裁判官というものが、可なり專門化して來たという実情も考慮いたしまして、私訴を存続する必要がないのではないかというのが、その理由の一つでありまするが、更に
憲法は特に
刑事訴訟につきまして、迅速な
裁判というものを要求いたしております。今公訴に私訴を附帶いたしまするときは、どうしても公訴が遅れるのでありまして、これは
憲法の迅速な
公開裁判を受ける
権利を有するという
規定に反するという方もありまするので、
改正案におきましては私訴を廃止するということにいたしたのであります。現にアメリカの各州等におきましては、例えて申しますれば、ニユーヨーク州等においては、公訴に私訴を附帶することはできないという明文が、
刑事訴訟法中に設けられておるくらいでありまして、アメリカの
解釈といたしましても、附帶私訴というものは、
憲法上許されないという
解釈もありまするので、特に私訴を廃止することといたしたのであります。
最後に
刑事訴訟法を改正する
法律案の正誤表がお手許に参
つておりまするが、その中に実質的な変更が数ケ所ございますので、極く簡單に御説明申上げたいと思います。その第一点は、從來の五十
一條を五十條の第二項といたしまして、第五十
一條として新たに
公判調書の正確性についての
異議の
規定を設けた点であります。即ち「
檢察官、
被告人又は
弁護人は、
公判調書の記載の正確性につき
異議を申し立てることができる。
異議の申立があ
つたときは、その旨を調書に記載しなければならない。
前項の
異議の申立は、遅くとも当該
審級における最終の
公判期日後十四日以内にこれをしなければならない。但し、最終の
公判期日後に整理された
公判調書については、整理ができた日から十四日以内にこれをすることができる。」という
規定を新たに設けることにいたしたのであります。
改正案につきましては、
公判調書そのものについて、その正確性に関する
異議の
規定が欠けてお
つたのでありまするが、今後控訴の場合に、原審の
訴訟記録に現われておらない事実を援用することができないという場合がございまするので、特に
公判調書の記載というものが、いろいろの点で重要さを持
つて來ることを考慮いたしまして、特に当事者が
公判調書の記載の正確性について不服がある場合には、
異議の申立をして、その
異議を調書に留めておいて貰う、その場合にはこの記載を援用いたしまして、控訴等において適当に主張することができるということになるわけでございます。
その第二点は、五十三條に関する修正でありまするが、五十三條の末項に「
訴訟記録の閲覽については、別に法律で、手数料を定めることができる。」とな
つておりましたのを、「
訴訟記録の保管及び閲覽の手数料については、別に法律で、これを定める。」というふうに訂正いたしたのであります。その
趣旨は、この
改正案五十三條は今後
訴訟記録の保管者が
裁判所であるか、
檢察廳であるかという点を明文を以ては解決しておらないのであります。從來の立案経過を申上げますると、法務廳におきましては、
裁判の
執行を
檢察官が担当いたしておりまするし、又恩赦事務を
檢察官が担当いたしておりまする関係上、
判決確定後その
訴訟記録というものは
裁判所から
檢察廳の手に移りまして、その
執行事務が終了するまで、恩赦事務が終了するまで、その
訴訟記録というものは
檢察廳が保管して然るべきものであるという考え方から、
訴訟記録の
檢察廳保管を主張しているのであります。ところが
裁判所側におきましては、自分のところで作成したものであるから、その
訴訟記録というものは
裁判所が保管するのが当然であるという主張をいたしておりまして、立案途中において話合いが付かなか
つたのであります。從いましてこの
改正案五十三條はその点が非常に曖昧にな
つてお
つたのであります。併しながらこのように折角
刑事訴訟法を全面的に改正いたしまする場合に、問題を將來に残しますことは如何にも残念でありまするので、むしろこの点は國会の御意思によ
つていずれなりとも理論の正しい方に決して頂くのが適当ではないかというところから、
訴訟記録の保管者という問題については別に法律でこれを定めるということにいたしまして、
刑事訴訟法とは別個にこの
訴訟記録の保管に関する
法律案を提出いたしまして、國会の御
審議を受けたいと、こう考えておるのであります。
次に百
五條と百四十九條の但書の、「押收の拒絶が
被告人のためのみにする
権利の濫用と認められる場合」の下に括孤をいたしまして、「
被告人が本人である場合を除く。」という言葉を附加えることにいたしましたが、この
意味は、
被告人が本人でありまして、その
被告人が例えば弁護士に犯罪事実に関するいろいろな
証拠書類、証拠物等を預けている場合に、その弁護士が特に
被告人の
利益を図
つて、その押收を拒絶するというような場合も、この但書のままにいたしておきますると、押收拒否権がなくなるという
解釈が出て参りますので、それは如何にも不当であると、
被告人が本人自身である場合にはこの但書の適用はなく、
原則に帰
つて、その弁護士は本人のため、言い換えますれば
被告人のために押收を拒否できるというふうに改めたわけでございます。証言拒否の百四十九條につきましても、同じ
趣旨であります。
その他の点は逐條の御説明の際随時触れましたので、正誤についての御説明は省略いたします。
以上で時間の関係もございまして、取り急いで逐條に亘
つての御説明を終えるわけでありまするが、尚附則の部分は御質問に應じまして十分御説明申上げたいと思います。
この
改正案につきまして、いろいろな点について特に在野方面において反対の強いということは、政府におきましても十分承知いたしたおります。殊にこの控訴
制度について反対の声が非常に強いということも承知いたしているのであります。併しながら日本國
憲法の精神を忠実に実現いたしまするとすれば、第一審の
手続はどうしてもこの
改正案にようにいたさなければならないのでありまして、第一審を
改正案のごとく丁重な十分審理を盡した
制度に組立てます以上、控訴
制度というものは從來の覆審
制度から事後審
制度に改めるのが適当ではないか、又
制度全体を考えます場合には、全体として調和のとれた、而の今の日本の國情において運用のできる
制度を考えなければならんというところから、從來の覆審
制度を事後審
制度に改めたのでありまして、政府といたしましても
被告人保護のために十分に手を盡す方がいいということは勿論承知しているのでありまするが、現在の
裁判所の実情等もいろいろ考慮いたしまして、又証人が
控訴裁判所に遠い所からすべて呼び出されるというのは、証人側の
利益、國民側の
利益というものも亦考えてやらなければならないのではないか、今後の訴訟においては少くとも、第一審において眞劍勝負として
檢察官も
被告人も
弁護人もすべての主張をし、すべての証拠を出して、そこで眞劍に爭
つて裁判所の判断を仰ぐような運用が望ましいというところから、この
改正案を組立てたのでございまして、いろいろな御議論もあろうかと存じまするが、全体の
制度の仕組みを十分に御檢討願いまして、何とぞ
愼重に御
審議の上速かに可決あらんことを切に希望いたす次第であります。