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1948-06-24 第2回国会 参議院 司法委員会 第46号
公式Web版
会議録情報
0
昭和二十三年六月二十四日(木曜日) 午前十時十八分開会 ————————————— 本日の会議に付した
事件
○
刑事訴訟法
を
改正
する
法律案
(内閣 送付) ○
青年補導法案
(
鬼丸義齊
君
発譲
) ○
松島丸事件
に関する
派遣議員
の報告 —————————————
伊藤修
1
○委員長(
伊藤修
君) それじやこれより
司法委員会
を開会いたします。本日は
刑事訴訟法
を
改正
する
法律案
について、前回に引続き
審議
を継続いたします。先ず
政府委員
の
説明
を求めます。第三編
上訴
第一章
通則
の御
説明
を願います。
宮下明義
2
○
政府委員
(
宮下明義
君) 第三編
上訴
以下の
説明
を申上げます。 第一章通則につきましては、三点の
改正
を除きまして、その他の部分は
現行法
と殆んど変りはございませんので特に
改正点
につきまして、御
説明
申上げたいと思います。その第一点は三百五十三條の
規定
でございます。
現行法
の三百七十八條によりますると、
被告人
の
法定代理人
、
保佐人等
は
被告人
のために独立して
上訴
をすることができるとな
つて
おつたのでありまするが、今回の
改正案
におきましては、
被告人
の
法定代理人
、又は
保佐人
につきましても、
原審
における
被告人
の
代理人
又は
弁護人
と同様、
被告人
の意思に反しない
限度
において、
被告人
のためにする
上訴
をすることができるというふうに
改正
いたしました。この
趣旨
は、
刑事訴訟法
においては
被告人
、本人の意思を飽くまで尊重すべきものであるという
趣旨
に基いておるのでありまして、又一面
被告人
が欲しないのに
法定代理人
が強いて
上訴
をいたしまして
被告人
の
利益
を害する場合も考えられますので、このような
改正
をいたしたわけでございます。 次の
改正点
は三百五十九條に関連いたしまして、
現行法
が認めておりました
上訴権
の
放棄
の
制度
を今回の
改正案
は廃止いたしました。
改正案
によりますると、極く軽微な
事件
を除きまして、
判決
言渡しの際には必ず
被告人
の
出頭
を要することといたしましたが、これは
被告人
の
上訴権
を保護しようという
趣旨
に出でておるのであります。この
趣旨
を更に一歩進めまして、
改正案
においては
被告人
の
上訴権
の
放棄
の
制度
を廃止いたしました。從いまして今後は、
控訴
又は上告の
期間
十四日内には
被害人
は十分考えまして
上訴
をするかどうかということを決することができるのでございます。この十四日間というものが、
上訴権
の
放棄
ということができなくなりましたので、苦し
被告人
が拘束されておりまする場合等においては
不利益
を受くることが予想されますので、特に四百九十
五條
の
規定
を設けまして、その間の
未決勾留日数
を当然本刑に通算することにいたしましてその間の調和を
図つた
次第でございます。 次の
改正点
は三百六十八條以下の
檢察官
のみが
上訴
をした場合において、
上訴
が棄却されたとき又は
上訴
の取下があつたとき、言い換えますると、
檢察官
の
上訴
が不成功に
終つた
場合におきましては、
國家
は
当該事件
の
被告人
であ
つて者
に対しまして、
上訴
によ
つて
その
審級
において生じた費用の補償をするという
制度
を、新たに設けたわけでございます。これによりまして、
檢察官
の
上訴
は今後從來以上に愼重を期することとなりましようし、又
檢察官
の
判断
が誤
つて
おりまして、
檢察官
の
上訴
のために
被告人
に思わざる
不利益
、図らざる費用を掛けた場合におきましては、
國家
がこれを補償してやるということにいたしたわけでございます。これに関する詳細の
規定
が三百六十九條乃至三百七十
一條
に
規定
いたしてあるわけでございます。 次に第二章
控訴
の章を御
説明
申上げます。從來御
説明
申上げましたように、
改正案
におきましては
控訴
の
制度
を、
現行法
の
覆審
の
制度
から、
原判決
の
当否
を批判する
事後審
の
制度
に
改正
いたしたわけでございます。 その
理由
の第一は、第一審の
公判手統
が
公判中心主義
、直接
証拠主義
を徹底いたしまして、極めて詳細な丁重な
手続
をいたしまするので、
控訴審
においては最早これと同じ程度の事実審を繰返す必要はないのではないか。その必要がないばかりでなく、実際の現在の日本の
裁判所
の
人員等
を考えますると、或る程度不可能な事情も考えられまするので、後來の
覆審
を止めまして、
原判決
の
当否
を批判する
事後審
という
審級
に改めたわけでございます。第二の
理由
は、今回の
改正
におりますると、第一審の
公判手続
におきましては直接
審理主義
を採用いたしまする結果、相当多数の
証人
、言い換えますれば、一
般國民
にその
公判手続
に
参與
を求めまして、
証人
としてこれに協力して頂く必要があるわけでございます。今
控訴
をいたしました場合においてすべての
事件
について第一審と同じような事実
審理
の過程を踏みまして、すべての
証人
を
控訴裁判所
に
出頭
を求めるということにいたしますると、
被告人側
の
利益
はそれによ
つて
十分満足されるでありましようけれども、一
般國民
は半面非常な負担を被り、非常な迷惑を受けるわけでございます。
刑事訴訟法
におきまして
被告人
の
利益
を十分考慮しなければならないことは、申すまでもない
事柄
でございまするが、それと同時に一
般國民側
の
利益
もこれを考慮しなければならないことは、申すまでもない
事柄
でございまするので、今回の
改正案
におきましては、その両者の調和を図りまして、一
般國民
の直接の
参與
を求めて、詳細な事実
審理
をいたしまするのは、少くとも第一審においてや
つて
頂く。
控訴審
におきましては、この第一審の
判決
の
当否
を批判いたしまして、その批判いたしました結果、直ちに第一審と異なる
判決
をすることができる場合におきましては、第二審において直ちに破棄自判をいたしまするが、更にそれ以上の事実の
取調
を必要とする場合には、第一審に差戻し又は移送をいたしまして、
証人
が手近におる場所におきまして、改めて事実の
取調
をするという立て方を採つたわけでございます。尚理論的に申上げますると、今回の
改正案
は、第一審において
起訴状
一本
主義
を採用いたしておるわけでございまするが、
控訴審
におきましてはすでにこの
起訴状
一本
主義
の原則を貫きますることは、事実上、理論上も、不可能な
事柄
でございまするので、全然第一審と同じ状態において何らの予断を抱かず、それ以前の
記録
を全然見ないで、
控訴
の事実審をするという建前は取り得ないことは、御了承願えると思います。このような事情によりまして今回の
改正案
は、
現行法
の
控訴覆審制度
を改めまして、
控訴事後審制度
といたしたわけでございます。 以下
控訴審
の概要について御
説明
申上げますると、三百七十
一條
は「
控訴
は、
地方裁判所
又は
簡易裁判所
がした第一審の
判決
に対してこれをすることができる。」といたしまして、引続いて御審議を願う予定にな
つて
おりまする
裁判所法
の
改正
によ
つて
、この
控訴
はすべて
高等裁判所
が
管轄
するというふうに
改正
いたしたいと考えております。その意味は、後來のごとく
覆審
でない
事後審
でございまするので、第二審は
高等裁判所
において丁重にいたしたいという
趣旨
に出ておるわけでございます。 三百七十三條は
現行法
の
控訴
の
提起期間
が七日でありましたのを十四日と延長いたしまして、
改正案
によりまする
控訴
は、
控訴申立
後に詳細な
控訴趣意書
を提出いたさなければなりませんし、十分に第一
審判決
を熟読玩味し批判して、
控訴
が立つものは
控訴
して頂くという
趣旨
におきまして、
控訴
の
提起期間
を十四日と延長したわけでございます。 三百七十四條は「
控訴
をするには、
申立書
を第一
審裁判所
に差し出さなければならない。」といたしましたが、これは
現行法
と変りございません。 三百七十
五條
におきまして「
控訴
の
申立
が明らかに
控訴権
の
消滅
後にされたものであるときは、第一
審裁判所
は、
決定
でこれを棄却しなければならない。」という
規定
を設けました。これも
現行法
と同樣でございまして、即ち第一
審裁判所
が
控訴権消滅
後になされたことが明らかである
控訴
の
申立
を
決定
で棄却する
制度
をそのまま存置したわけでございます。三百七十六條は「
控訴申立人
は、
裁判所
の
規則
で定める
期間
内に
控訴趣意書
を
控訴裁判所
に差し出さなければならない。」という
規定
を新たに設けまして、而して第二項によりまして、「
控訴趣意書
には、この
法律
又は
裁判所
の
規則
の定めるところにより、必要な
疏明資料
又は
檢察官
若しくは
弁護人
の
保証書
を添附しなければならない。」という
規定
を設けたのであります。この詳細は三百七十七條以下に
規定
があるわけでございます。
控訴趣意書
の
提起期間
を
法律
によ
つて
一定いたさなかつたのは、
記録作成
の
期間等
が
事件
の軽重によりまして必ずしも一定ではございませんので、
訴訟
の実際を十分に熟知しておりまする
裁判所
によ
つて
、
將來十分研究
の上、適当な
控訴趣意書提出期間
を定めて頂くという
趣旨
におきまして、
裁判所
の
規則
で定める
期間
というふうに、
裁判所
の
規則
に
讓つた
わけでございます。 三百七十七條乃至三百八十三條は
控訴申立
の
理由
を
規定
いたしますると同時に、その各條に掲げられました
理由
によ
つて控訴
の
申立
をいたしました場合における
控訴趣意書
の
記載方法
に関する
規定
でございます。
改正案
におきましては
控訴申立人
に十分なる責任を負わせまして、
現行法
のごとくただ第一審の
判決
が何となく不服であるからという
理由
で一
應控訴申立
をして置くという
考え方
を捨てまして、
控訴申立人
が
控訴
の
申立
をいたします場合には
十分愼重
な考慮をめぐらし、十分なる根拠に基いて
控訴
の
申立
をして置くという
趣旨
におきまして、三百七十七條以下において
控訴趣意書
の
記載方法
について
規定
を設けたわけでございます。併しながら三百七十七條以下の要件を備えた
控訴趣意書
が提出されまするならば、
控訴裁判所
は必ず
檢察官
及び
弁護人
の
口頭弁論
を聽かなければならないのでございまして、決して
控訴審
が
書面審理
であるという
非難
は当らないと考えております。この
改正案
について
弁護士会等
におきまして、場合によりましては
書面審理
で
控訴棄却
をしてしまうのではないかという
非難
があることを耳にいたすのでありますが、
苟くも法律
が予定いたしまするところの
控訴趣意書
を提出いたしまするならば、必ず
控訴裁判所
は
口頭弁論
を開かなければならないという建前にな
つて
おりまするので、
書面審理
という
非難
は当らないと考えております。 三百七十七條は
訴訟手続
の
法令違反
の中、特に重要なものでありまする「
法律
に
從つて判決裁判所
を構成しなかつたこと。」「
法令
により
判決
に関與することができない
裁判官
が
判決
に関與したこと。」及び、「
審判
の公開に関する
規定
に
違反
したこと。」、この三つの場合を
理由
として
控訴
の
申立
をいたしまする場合には、
控訴趣意書
にその
事由
を十分証明することができるという
保証書
を添附しなければならないという
規定
を設けたわけでございます。この
保証書
の詳細につきましては、更に
裁判所
の
規則
によりまして詳細なる
規定
が設けられることを予定いたしております。 三百七十八條は同樣、
訴訟手続
の
法令違反
を
理由
とする
控訴
の
申立
でございまするが、その
訴訟手続
の
法令違反
中「
不法
に
管轄
又は
管轄違
を認めたこと。」、「
不法
に、公訴を受理し、又はこれを棄却したこと。」「
審判
の
請求
を受けた
事件
について
判決
をせず、又は
審判
の
請求
を受けない
事件
について
判決
をしたこと。」及び「
判決
に
理由
を附せず、又は
理由
にくいちがいがあること。」を
理由
として
控訴
の
申立
をした場合におきましては、
控訴趣意書
に、
原審
の
訴訟記録
及び
原裁判所
において
取調べ
た
証拠
に現われている事実でございまして、而も
控訴申立
をいたしまするその
事由
があることを信ずるに足りるものを
控訴趣意書
において援用しなければならないという
規定
を設けたわけでございます。從いまして、第一審におきましては、
檢察官
、
弁護人
はすべての可能な
証拠
を第一審に集中いたしまして、
苟くも自己
の主張或いはその主張を立証せんとする
証拠
は、すべて第一審に提出いたしまして、これを
記録
に留め、その
証拠
を
取調べ
て貰
つて
置きまして、而も第一審の
判断
が不服であるという場合には、この
規則
に現れておりまする事実、
取調べ
られた
証拠
に現れておりまする事実を援用して、三百七十八條に
規定
するごとき
事由
を
控訴申立
の
理由
といたすわけでございます。 三百七十九條は前
二條
以外の
訴訟手続
の
法令違反
を
理由
として
控訴申立
をする場合でございまするが、この場合におきましては前
二條
の場合と異りまして、特にその
訴訟手続
の
法令違反
が
判決
に
影響
を及ぼすことを必要といたしているのであります。そしてこの場合におきましては
控訴趣意書
に
原審
の
訴訟記録
、又は
原裁判所
が取り調べました
証拠
に現れている事実でありまして、明らかに
判決
に
影響
を及ぼすべき
法令
の
違反
があることを信ずるに足りるものを、援用しなければならないということにいたしたのであります。 三百八十條は
訴訟手続
の
法令違反
と異なりまして、
法令
の
適用
に
誤り
があることを
理由
といたしまして、
控訴
の
申立
をする場合でございまするが、この場合におきましても、その
法令
の
適用
の
誤り
が
判決
に
影響
を及ぼすことを必要といたしておるのであります。この場合におきましては、
控訴趣意書
にその
法令
の
適用
の
誤り
を指摘いたしまして、而もその
誤り
が明らかに
判決
に
影響
を及ぼすべきことを示さなければならないこととな
つて
いるのであります。 三百八十
一條
は刑の量定の不当を
理由
とする
控訴
の
申立
に関する
規定
でありまするが、この場合におきましては
控訴趣意書
に
原審
の
訴訟記録
、及び
原裁判所
において
取調べ
た
証拠
に現れている事実でありまして、刑の量定が不当であることを信ずるに足りる事実を援用しなければならないということにいたしたのであります。 三百八十
二條
は事実
誤認
を
理由
として
控訴
の
申立
をいたします場合でありまするが、この場合におきましても、その事実の
誤認
が
判決
に
影響
を及ぼすことを必要といたしているのであります。そして
控訴趣意書
には前同樣、
原審
の
訴訟記録
及び
原裁判所
において
取調べ
た
証拠
に現れている事実でありまして、明らかに
判決
に
影響
を及ぼすべき
誤認
があることを信ずるに足りるものを援用しなければならならいということにいたしたのであります。 三百八十三條は
再審事由
、及び
判決
後の刑の廃止若しくは変更、又は大赦を
理由
として
控訴
の
申立
をいたしまする場合でありまするが、この場合におきましては
控訴趣意書
にその
事由
を疏明する資料を添附しなければならないということにいたしたわけでございます。このように
控訴趣意書
はすでに
法律自体
において可
なり嚴格
な
方式
を要求いたしておるのでありまするが、この
趣旨
とするところは、
控訴申立人
に明らかに責任を持
つて控訴
の
申立
をして頂く、ただ漠然と第一審の
判決
が不服であるというのではなくして、根拠に基いて
控訴
の
申立
をして頂くのである、という
趣旨
において、三百七十七條乃至三百八十三條の
規定
が設けられたわけでございます。 三百八十四條は、
控訴
の
申立
は只今御
説明
申上げましたところの
訴訟手続
の
法令違反
、
法令
の
適用
の
誤り
、刑の量定の不当、事実
誤認
、
再審事由
、及び
判決
後の刑の廃止、若しくは変更、又は大赦、この
理由
以外で
控訴
の
申立
をすることはできないという
規定
を設けたわけでございます。 三百八十
五條
は
控訴
の
申立
が
法令
上の
方式
に
違反
し、又は
控訴権
の
消滅
後にされたものであることが、明らかなときは、
控訴裁判所
は、
決定
でこれを棄却しなければならないという
規定
を設けました。この場合におきましては
控訴
の
申立
が
法令
上の
方式
に
違反
いたしておりますし、又
控訴権
の
消滅
後にされたものであることが、明らかでございますので、必ずしも
口頭弁論
を開かず、
決定
で
控訴
を棄却するわけでございます。 三百八十六條は
控訴裁判所
が
口頭弁論
を開かず、
決定
で
控訴
を棄却する場合に関する
規定
でありますが、その第一号は
控訴申立人
が
裁判所
の
規則
で定める
期間
内に
控訴趣意書
を
控訴裁判所
に差し出さないときは、
決定
で
控訴
を棄却いたします。 第二号は
控訴趣意書
がこの
法律
若しくは
裁判所
の
規則
で定める
方式
に
違反
しておるとき、又は
訴控趣意書
に必要な
疏明資料
若しくは
保証書
を添附しない場合におきましても、
決定
で訴控を棄却いたします。 第三号におきましては、
訴控趣意書
に記載された訴控の
申立
の
理由
が、明らかに三百十七條乃至三百八十三條に
規定
する
事由
に該当いたさないときにも、
決定
で
控訴
を棄却いたすのであります。第三号の一つの例として、例えば第一審の
判決
をした
裁判官
が気に食わないというような
理由
のみで
控訴申立
をいたした場合には第三号の
決定
で
控訴
を棄却されるわけでございます。 次に三百八十七條は、
控訴審
では、
弁護士
以外の者を
弁護人
に選任することはできないという
規定
を設けたわけでございます。この点は、
特別弁護人
は総則の
規定
によりましても、
簡易裁判所
及び
地方裁判所
以外の
裁判所
において
弁護人
に選任することはできないということにな
つて
おりまするので、これを受けまして三百八十七條の
規定
を置いたわけございます。 三百八十八條は、
控訴審
では、
被告人
のためにする
弁論
は、
弁護人
でなければ、これをすることができないという
規定
を設けたわけでございます。後に三百九十三條で御
説明
申上げますように、
控訴裁判所
が事実の
取調
をいたす場合がございますし、又
被告人
の
出頭
を特に必要と考える場合に
被告人
の
出頭
を命ずるわけでございますか、この場合におきましても、
被告人
は
自分自身
で
弁護
をすることができませんで
控訴審
における
弁論
はすべて
弁護人
がこれをするということにいたしたわけでございます。 三百八十九條は、
公判期日
におきましては、
檢察官
及び
弁護人
は、
控訴趣意書
に基いて
弁論
をしなければならないということにいたしました。前に申上げましたように三百八十
五條
又は三百八十六條に該当いたさない場合には、
控訴裁判所
は必ず
口頭弁論
を開きまして、
檢察官
及び
弁護人
の
弁論
を聞かなければならないわけでございます。三百八十
五條
、三百八十六條に該当いたしまする場合にのみ、
決定
で
控訴
が棄却されるに過ぎないのであります。 三百九十條は、
控訴審
においては、
被告人
は必ずしも
公判期日
に
出頭
することを要しないということにいたしました。併しながら
裁判所
は、五千円以下の罰金又は科料にあたる
事件
以外の
事件
につきまして、
被告人
の
出頭
がその
権利保護
のため重要であると認める場合には、
被告人
の
出頭
を命ずることができるという
規定
を設けたわけであります。 三百九十
一條
は、
弁護人
が
出頭
しないとき、又は
弁護人
の選任がないときは、特に
法定弁護事件
の場合、又は
裁判所
が
決定
で
弁護人
を付けた場合を除きまして、
檢察官
の陳述のみを聽いて
判決
することができるという
規定
を設けたのであります。 次に、特に重要な点は、三百九十
二條
及び三百九十三條の
規定
でございまするが、この点に関しまして、一般の
弁護士会等
におきましても、この
改正案
について、いろいろな誤解があるやに聞き及んでおりますので、特に詳細に御
説明
申上げたいと思います。先ず三百九十
二條
は、
控訴裁判所
の調査の範囲に関する
規定
でありまするが、第一項におきまして、
控訴裁判所
が義務として調査をしなければならない範囲は、
控訴趣意書
に包含された事項でございます。併しながら第二項におきまして、
控訴裁判所
は、
控訴趣意書
に包含されておらない事項でありましても、
訴訟手続
の
法令違反
、
法律
の
適用
の
誤り
、量刑不当、事実
誤認
、
再審事由
、又は刑の
廃止等
の
事由
があるかないかということに関しましては、
職権
で調査することができるという
規定
を設けまして、必ずしも
控訴趣意書
に包含された事項のみを調査すれば、
控訴裁判所
は事足りるというのではございませんで、更に進んで
職権
で他の
控訴
の
理由
、即ち
原判決
を破棄する
理由
があるかないかということを
職権
で調査することができるということにいたしたわけでございます。 而して三百九十三條におきまして、前條の調査をするについて、必要のあるときは、
職権
で事実の
取調べ
をすることができるという
規定
を設けたのであります。この事実の
取調べ
は、いわゆる
証拠調べ
でございまして、
控訴裁判所
は必要に應じまして、
証人尋問
、檢証、押收、捜索、すべての
証拠調べ
をいたすわけであります。而してこの三百九十三條に基きまする
証拠調べ
は飽くまでも
原判決
の
当否
を批判する
限度
に限られるのでありまして、
控訴裁控所
が
原審
の
訴訟記録
及び
原審
において
取調べ
ました
証拠
によ
つて
、一
應第一審判決
の
当否
を批判いたすのでありまするが、それのみではどうも第一
審判決
が正しいのか不当であるのか
判断
が付かないという場合におきましては、
訴控逢判所
は
職権
で進んで
証拠調べ
をいたすわけであります。これによりまして、この附加的にいたしました
証拠調べ
によりまして、
訴訟裁判所
が第一
審判決
を破棄すべきものであると考えた場合には、これは破るわけであります。而して第一
審判決
を破棄いたしました場合において、すでに第一審の
訴訟記録
及び第一審で調べました
証拠
及び
控訴裁判所
が補充的に
取調べ
をいたしました
証拠
によ
つて
、直ちに
判決
をすることができる場合におきましては、直ちに第二
審判決
をいたすわけであります。併しながらこの補充的な
証拠調べ
によ
つて
も、まだ第二
審判決
をするのには、不十分であると考える場合におきましては、それ以上の
取調べ
を進めるために、その
事件
を一
審裁判所
に差戻し、又は移送をすることにな
つて
おるわけでございます。この点について、なぜ
改正案
は
当事者
の
証拠調べ
の
請求
を認めないのかという
非難
を聞くのでありまするが、
改正案
の
考え方
といたしましては、三百九十三條の
証拠調べ
は飽くまで
原判決
の
当否
を審査する
限度
における
証拠調べ
でありまして、
控訴裁判所
の
手続
というものは、
現行法
の
覆審
と異なりまするので、若し
当事者
の
証拠設
べの
請求
を認めますると、結局
現行
の
覆審
と殆んど変りない運用にな
つて
しまうということを心配いたしまして、三百九十三條におきましてはこの補充的な
証拠調べ
を
職権
に限るという立て方を採つたわけでございます。勿論
当事者
といたしましては、第一審が終りました後で、重要な、新たな
証拠
を発見いたしまして、これを調べて呉れたならば、必ずや第一
審判決
と違う
判決
を得たであろうと考える場合におきましては、進んでこの
職権
の発動を促して頂くということになろうと考えております。 次に三百九十四條の
規定
は、第一審におきまして嚴格な
証拠能力
に関する
規定
を設けたわけでございまするが、第一審において
証拠
とすることができる
証拠
は、
控訴審
においてもこれを
証拠
とすることができるという
規定
を設けたのであります。例えて申上げますれば第一審当時、
証人
が
外國等
におりまして三百二十
一條
の
規定
によ
つて証拠能力
を得てお
つた書面等
は、
控訴審
当時その
証人
が外國から戻
つて來
ておりましても、改めてその
証人
を
控訴審
で呼ばなくても、これを
証拠
とすることができるということにいたしたわけでございます。 三百九十
五條
は、
控訴審
において
口頭弁論
を開いた結果、やはり
控訴
の
申立
が
法令
上の
方式
に
違反
し、又は
控訴権
の
消滅
後にされたものであるということが明かに
なつ
た場合におきましては、
判決
で
控訴
を棄却するという
規定
を設けたのであります。 三百九十六條は、
控訴申立
の
理由
がない場合におきましては、
判決
で
控訴
を棄却するという
規定
を設け、三百九十七條におきましては、
控訴申立
の
理由
がある場合におきましては、
判決
で
原判決
を破棄するということにいたしたのであります。 三百九十八條は、
不法
に
管轄違
を言い渡し、又は公訴を棄却したことを
理由
として
原判決
を破棄する場合におきましては、
判決
でその
事件
を
原裁判所
に差し戻さなければならないということにいたしました。 三百九十九條は、
不法
に
管轄
を認めたことを
理由
として
原判決
を破棄する場合におきましては、
判決
で
事件
を
管轄
第一
審裁判所
に移送しなければならないということにいたしたのであります。 第四百條は、前
二條
の
規定理由
以外の
理由
で
原判決
を破棄する場合においては、
判決
で、
原裁判所
に差戻し、又は
原裁判所
と同等の他の
裁判所
に移送いたしまして、改めて第一審の
審理
をさせるということにいたしたのであります。併しながら但書において、
控訴裁判所
が
訴訟記録
及び
原裁判所
と
控訴裁判所
において
取調べ
られた
証拠
によ
つて
直ちに
判決
することができると考える場合におきましては、その
被告事件
について直ちに本案の
判決
をすることができるということにいたしたのであります。 四百
一條
の
規定
は、
現行法
の四百五十
一條
と同
趣旨
の
規定
でございます。 四百
二條
の
規定
は、
現行法
と変りなく、
被告人
が
控訴
をし、又は
被告人
のために
控訴
をした
事件
につきましては、
原判決
より重い刑を言い渡すことができないという
不利益
変更の禁止の
規定
をそのまま存続いたしたわけでございます。 四百三條は、
原裁判所
が
不法
に公訴棄却の
決定
をしなかつた場合におきましては、
決定
で公訴棄却をしなければならないという
規定
を設けたわけでございます。 四百四條は、
控訴
の
審判
につきまして、この
法律
で只今御
説明
申上げましたような、いろいろな特別の定めがある場合を除きましては、第一審の公判に関する
規定
を準用するという立前を採つたわけでございます。 次に第三章、上告について御
説明
申上げます。以上御
説明
申上げましたように、
控訴審
を
覆審
から
事後審
という
制度
に
改正
いたしました結果、上告審はこれを憲法
違反
及び判例
違反
を
理由
とする上告を審査する
審級
ということに改めたわけでございます。 先ず四百
五條
におきまして、
高等裁判所
がした第一審又は第二審の
判決
に対して憲法
違反
又は憲法の解釈に
誤り
がある場合、最高
裁判所
の判例と相反する
判断
をした場合、又は最高
裁判所
の判例がないときには、大審院若しくは上告
裁判所
であるところの
高等裁判所
の判例、又はこの
法律
施行後におきましては
控訴裁判所
である
高等裁判所
の判例と相反する
判断
をした場合におきましては、上告の
申立
をすることができるということにいたしたのであります。憲法の
違反
と申しまするの、は
判決
手続
を含めまして
訴訟手続
が憲法に
違反
しておる場合を考えております。憲法の解釈に
誤り
があるというのは、その
判決
の内容とな
つて
おりまする
判断
の中の憲法の解釈に
誤り
があるということを意味しておるのであります。この條文において判例
違反
を上告
理由
といたしておるのでありまするが、判例と申しますのは、或る事案につきまして最高
裁判所
又は本條第三号に掲げるそれぞれの
裁判所
が、すでに或る
判断
を示しておる
判決
がある場合には、これを判例と考えております。必ずしもその
判断
が繰返しなされたことを必要とはしないと、このように考えております。而して判例のない場合においては困るのではないかという御意見があろうかと思いまするが、その場合におきましては、次の四百六條によりまして、
法令
の解釈に関する重要な事項を含むと認められる
事件
につきましては、特に最高
裁判所
の方がみずから上告審としてその
事件
を受理することができるという
規定
を設けましたので、この條文の活用によりまして救済できるものと考えております。 次に四百六條は、憲法
違反
又は判例
違反
がない場合でありましても、
法令
の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる
事件
につきましては、その
判決
確定前に限
つて
、
裁判所
の
規則
の定めるところによ
つて
、最高
裁判所
がみずから上告審として
事件
を受理することができるという
規定
を設けたのであります。これは憲法
違反
、判例
違反
がない場合でございましても、最高
裁判所
といたしまして、
法令
の解釈に関する自己の見解を表示いたしまして、
法令
の解釈の統一を図る必要がございまするので、特にこのような
規定
を設けたわけでございます。
裁判所
の
規則
によ
つて
如何なることが
規定
されるかということは、將來の
規則
制定委員会に讓られておるわけでありまするが、現在予想いたしておりまするのは、この受理を求める
手続
は、
当事者
からペテイシヨン、請願と申しますか、或るペテイシヨンが
規則
によ
つて
認められる、そのペテイシヨンを受けまして、最高
裁判所
がこれを
判断
して、その
事件
を上告審として受理するかどうかということを決するということになろうと考えております。最高
裁判所
がその
事件
を上告審として受理すると決しました以上は、その
事件
は通常の上告
事件
としてその後の
審理
がなされるわけでございます。 四百七條は、上告趣意書についての特別
規定
でありまするが、この上告審の
審判
について、原則といたしましては、
控訴審
の
審判
の
規定
を準用いたしておりまする結果、特に上告趣意書については、四百七條の特別の
規定
を設けまして、その詳細は
裁判所
の
規則
で定めるということにいたしまして、その趣意書には上告
申立
の
理由
を明示しなければならないということにいたしたわけでございます。 四百八條は、上告
裁判所
が上告趣意書その他
訴訟記録
によりまして、上告の
申立
の
理由
がないことが明らかであると認めるときは、
弁論
を経ないで、いわゆる
書面審理
によ
つて
判決
で上告を棄却することができるという
規定
を設けました。この
規定
は
控訴
書にはない
規定
でありまして、特に上告
裁判所
のみに認められておる
書面審理
に関する
規定
であります。 四百九條におきましては、上告審においては、
控訴審
と異なりまして、
公判期日
に
被告人
を召喚することを要しないということにいたしました。 四百十條は、上告
裁判所
は、四百
五條
各号に
規定
いたしまするところの憲法
違反
又は判例
違反
がある場合には、
判決
で
原判決
を破棄しなければならないという
規定
を設けました。併しながらたとえ憲法
違反
又は判例
違反
がございましても、その
違反
が
判決
に
影響
を及ばさないことが明らかな場合には、必ずしも
原判決
を破棄する必要がないという立前にいたしたわけでございます。而して四百
五條
第二号、又は第三号に
規定
する判例
違反
だけがございまして、憲法
違反
による上告でない場合におきまして、上告
裁判所
が從來の判例を変更して今問題にな
つて
おります
原判決
を維持するのを相当と考えた場合におきましては、必ずしも
原判決
を破棄する必要はない、言い換えますれば判例が間違
つて
おつたのでありまして、
原判決
が正しいと思い直したわけでございまするから、この場合におきましては、必ずしも
原判決
を破棄しないという、その
判決
において判例を変更することができるということにいたしたわけでございます。 四百十
一條
は、特に新らしい
規定
でございまして、上告
裁判所
は四百
五條
各号に
規定
いたしまする憲法
違反
、又は判例
違反
のない場合でございましても、第一号乃至第五号の
事由
がありまして
原判決
を破棄しなければ著るしく正義に反すると認められまする場合においては、
判決
で
原判決
を破棄することができるということにいたしたのであります。而してその
事由
と申しまするのは、
判決
に
影響
を及ぼすべき
法令
の
違反
、刑量が甚だしく不当である場合、
判決
に
影響
を及ぼすべき重大な事実を
誤認
がある場合、
再審事由
がある場合、及び
判決
後に刑の廃止、若しくは変更、又は大赦がある場合でございまして、これらの
事由
があ
つて
、
原判決
を破棄しなければ著るしく正義に反すると考えまする場合においては、たとえ憲法
違反
がなく、又は判例
違反
でない場合でありましても、上告
裁判所
は
原判決
を破棄することができるということにいたしたわけでございます。 四百十
二條
は
不法
に
管轄
を認めたことを
理由
として
原判決
を破棄する場合におきましては、その
事件
を
管轄
控訴裁判所
、又は
管轄
第一
審裁判所
に移送しなければならないということにいたしたのであります。これは
現行法
の立方と変りございません。 四百十
二條
におきましては、前條の
理由
以外の
理由
によ
つて
原判決
を破棄する場合におきましては、
判決
で
事件
を
原裁判所
、即ち原
控訴裁判所
、若しくは第一
審裁判所
に差戻し、又はこれらの同等に他の
裁判所
に移送しなければならないということにいたしたのであります。併しながら上告
裁判所
が
訴訟記録
並びに
控訴裁判所
及び第一
審裁判所
において
取調べ
た
証拠
によ
つて
、直ちに
判決
することができると考えまする場合においては、
被告事件
について直ちに
判決
することができるという破棄自判の
規定
を設けたわけでございます。 八百十四條は、上告審の
審判
について特別の
規定
がある場合を除いて、
控訴審
の
規定
を準用するという
規定
を設けたわけでございます。 四百十
五條
乃至四百十八條は、いわゆる上告
裁判所
における
判決
訂正に関する
規定
でございまして、これは
現行法
に全然なかつたところの新たな
制度
であります。この
制度
につきましてもいろいろな批判があるわけでございまするが、英米の
制度
におきましては上告審に限らず、第一
審裁判所
におきましてもいわゆるニユー・トライヤルという
制度
がございまして、場合によりましては
判決
の訂正を許している先例もございまするので、特に
改正案
においては上告審の
判決
についてのみ訂正の
判決
を認めるということにいたしたのであります。いろいろ立案の途中におきまして議論がございまして、上告審の
判決
のみでなく、第一審又は
控訴審
の
判決
についても訂正を許すべきではないかという主張もあつたのでありまするが、刑事裁判においてはそう簡單に一旦下しました
判決
を訂正すべきものではないという立前を尊重いたしまして、第一審、
控訴審
におきましては
判決
訂正という
制度
を設けなかつたのであります。併しながら上告審においては、それが最後の
審級
でありまするので、特に上告審の限
つて
判決
訂正という
制度
を設けたわけであります。即ち四百十
五條
におきましては上告
裁判所
が
判決
の内容に
誤り
のあることを発見したときは、
当事者
の
申立
によ
つて
判決
でこれを訂正することができる。この
申立
は
判決
宣告のあつた日から十日以内にこれをしなければならない、第三項におきましては、適当と認めるときは
申立
によ
つて
この十日の
期間
を延長することができるということにいたしたのであります。 而して四百十六條におきまして、訂正の
判決
は必ずしも
弁論
を経なくてもすることができるということにいたしたのであります。勿論必要に應じまして
弁論
を経てもいいことになるわけであります。 四百十七條におきましては、訂正の
申立
がありましても上告
裁判所
が訂正の
判決
をしないと決しました場合においては、速かに
決定
で
申立
を棄却しなければならないということにいたしました。 四百十八條は、上告
裁判所
の
判決
は宣告があつた日から四百十
五條
の
期間
を経過したとき、又はその
期間
内に
判決
訂正の
申立
があつた場合には、訂正の
判決
、若しくは
申立
を棄却する
決定
があるまでは確定しない。この訂正の
判決
若しくは
申立
を棄却する
決定
があつたときに、初めて確定するということにいたしたのであります。 次に第四章、抗告の章について御
説明
申上げまするが、この章は殆んど
現行法
と変
つて
おりません、從いまして特に
改正案
におきまして
現行法
を改めておりまする重要を点についてのみ触れたいと考えております。その第一点は、四百二十七條におきまして、「抗告
裁判所
の
決定
に対しては抗告をすることはできない」という
規定
を設けたわけであります。決行法におきましては四百六十九條の
規定
がございまして、勿論原則としては再抗告を許さないのでありますが、例外として幾多の
決定
について再抗告を許しておつたのでありますが、
改正案
におきましては、抗告
裁判所
の
決定
に対しては、もはや抗告を許さないという立前を貫いたわけであります。 次は四百二十八條の
規定
でありまするが、「
高等裁判所
の
決定
に対しては抗告をすることはできない」ということにいたしまして、その第一項において、即時抗告をすることができる旨の
規定
がある
決定
及び第四百十九條及び四百十
二條
の
規定
によりまして、抗告をすることができる
決定
であ
つて
、
高等裁判所
がしたものに対しましては、その
決定
をした
高等裁判所
に異議の
申立
をすることができるという
規定
を設けたわけであります。從いましてこの場合においては、最高
裁判所
に抗告をすることはできないのでありまするが、その
決定
をした
高等裁判所
に対して異議の
申立
をいたしまして、その
裁判所
において再び
判断
を受けることができるということにいたしたわけであります。 次に
改正
の主な点でありまするが、それは四百三十三條の
規定
であります。即ち「この
法律
により不服を申し立てることができない
決定
又は命令に対しては、第四百
五條
に
規定
する
事由
」即ち憲法
違反
又は判例
違反
があることを「
理由
とする場合に限り、最高
裁判所
に特に抗告することができる」という
規定
を設けました。この
規定
は應急措置法第十八條においてすでに設けられた、憲法
違反
の場合における特別抗告の
規定
でありまするが、これを更に拡張いたしまして、憲法
違反
に限らず判例
違反
を
理由
とする場合においても、特に最高
裁判所
に特別抗告をすることができるというふうに拡張いたしたわけであります。
伊藤修
3
○委員長(
伊藤修
君) 以上第三編についての
説明
に対する御質疑がありましたら、どうぞお願いいたします。
星野芳樹
4
○星野芳樹君 個別の質問をする先に
政府委員
の今後の
説明
にちよつと希望があるのです。
政府委員
の
説明
は、以前の法案と
変り
がないというと、ずつとそれで済ましてしまうようですが、この
刑事訴訟法
の
改正
というものは、新憲法発府によ
つて
根本的に國の立前が変
つて
おるから
改正
するので、むしろ
改正
しないところを何故このまま保たなければならないかという
説明
も必要だと思いますから、その点を注意して置きます。それから個別的には第三百十三條、これは
弁論
を分離したり併合したりすることができるという項ですが、この項に対して
政府委員
の
説明
では、親分、子分などがあ
つて
、分離しないで併合してやると、子分の
利益
が十分護られない虞れがある。そういう場合に分離する、つまり目的は被告の計利の擁護にあると
説明
されたのでありますが、それならば
裁判所
は適当と認めるときは
檢察官
、
被告人
若しくは
弁護人
の
請求
による、
檢察官
の要求によるという項は必要ないのじやないか。
檢察官
は被告の罪状を追究するものである、これが分離を要求する、これは決して被告の保護に要求ではない。若し被告自身或いは
弁護人
自身から分離を要求すると、それは、それを認めた方がそういう親分、子分というような関係で、被告の権利が保護されるかも知れませんが、これは原則的には併合として、そうして
檢察官
の要求によるということは除くのが至当ではないかと思うのであります。更にそうなると、三行以下のことも無用のことになるんだと思いますが、この点
政府委員
は如何考えておられるでしようか。
宮下明義
5
○
政府委員
(
宮下明義
君) 誠に御尤もな御質問でありまするが、前回私が御
説明
申上げました数人の
被告人
の
利益
が相反する場合において、
裁判所
がその
弁論
を分離しなければならないという点について、敷衍して
説明
申上げましたのは、三百十三條第二項に関する御
説明
であつたのでありまして、この場合におきましては、前回御
説明
申上げましたような事例がございまして、
被告人
の権利が互いに相反しておる、そうして
被告人
の権利を保護するために必要があるという場合におきましては、
裁判所
の
規則
の定めるところによ
つて
、
決定
で必ずその
弁論
を分離しなければならないという義務を
裁判所
に負わせておるわけでございます。而して第一項におきましては、必ずしもそれのみ、言い換えますれば、
被告人
の保護のみに関する
規定
ではございませんで、
檢察官
側といたしましても、数人の
被告人
を同一の
訴訟
において分離を進めますると、その立証に困難を來す場合が考えられますのるで、そのような場合には、
檢察官
側の、言い換えますれば
國家
側の
利益
を考えまして、その
弁論
を分離いたしまして、有罪とすべきものは正しく有罪とするという途を講じたわけでございます。從いまして第一項において
檢察官
の
請求
又は
裁判所
の
職権
ということも当然必要と考えておるわけでございます。
星野芳樹
6
○星野芳樹君 只今のお答えでこの條は決して
被告人
の権利を守るためではなく、むしろ從來の分割裁判による治安維持法当時の裁判方法を復活せんとするものであることがはつきりしたようでありますが、この被告の権利を守るという点から考えますと、初めの
檢察官
というものは絶対に必要がないし、又三行以下の「
裁判所
は
被告人
の権利を保護するため必要がある」という、これは濫用される虞れがあると思うのであります。
裁判所
の方では、被告の権利を守ると考えても、併し実は被告の権利を守ることにならない、この実例は治安維持法の当時にあつたと思うのでありまするが、
裁判所
の方では、併合
審理
をすると、なかなかその関係者が全部顔を合せるし、群衆心理であくまで轉向しないという行き方で、これを一つ々々分離した方が被告の
利益
だと、こういう解釈がある、併しそのために被告同志が共同に
裁判所
に出て、当然権限を擁護すべきところを、個別撃破に権限を失わせられて來た、こういうことがあつたと思うのであります。その意味において、これだけでは非常に弊害が出る虞れがあると思うのですか、如何ですか。
宮下明義
7
○
政府委員
(
宮下明義
君) 只今星野委員から三百十三條の
規定
の背後と申しますか、眞意は、治安維持法当時の
刑事訴訟法
の運用のごとく、主として
國家
側の
利益
を考えて、多数の
被告人
の公判を適宜分離して、
被告人
の権利の保護というよりは、むしろ
國家
の都合を考える
規定
ではないかという御議論があつたのでありまするが、立案当局といたしましては、この三百十三條の
規定
を設けまする場合において、決してそのようなことを念頭には置かなかつたのであります。立案当局といたしましては、最前御
説明
申上げましたように、適正なる刑事
訴訟
の運用を達成することを考え、又同時に
被告人
の権利の保護を十分に保護しようということを考えてこの條文を設けたのでありまして、特に
國家
側の便宜なり、或いは底意を以てこの
規定
を設けた
趣旨
では決してないのでありまして、その点誤解のないようにお願いいたしたいと考えます。
小川友三
8
○小川友三君 第百四十九條につきまして
政府委員
にちよつとお伺いします。百四十九條の、医師、歯科医師の項ですが、他人の秘密に関するものについては証言を拒むことができるというところに、旧法におきましては、全國に約五万の薬剤師があり、藥剤師の條項が明記されておつたのであります。藥剤師の條項に明記するのは非常に正しいと思いますが、この案には落してありますが、藥剤師を否定したものであるかどうか。もう一つは藥剤師が処方箋によ
つて
調剤する、その処方箋によりましてレプラとか、結核であるとか、或いは秘密の病気が一切処方箋によ
つて
分るのであります。それをその藥剤師が他人の秘密に関するものについては証言を拒まないで堂々と喋
つて
、これではよいということになりますが、それでは非常に危險でありまして、基本人権を侵してしまう、憲法に触れるということになると思いますが、藥剤師の職責につきまして、本案立案者は無知識に近いのではないか、かように思いますが、藥剤師の処方箋によるところの病気の
判断
は極めて專門家であります。この点につきましてどうして落してしまつたかということにつきまして明確なる御答弁を切にお願いする次第であります。 それから第二百八十九條、これは
弁護人
がなければ開延することができないという條項ですが、誠に賛成であります。併し全國に犯罪が非常に氾濫をいたし、又激増の一方でありまして、大体國費は相当莫大に要ると思いますが、政府の御
調査
によりまして、大体全國六千人の
弁護士
さんに対しましてお願いをすることになりますが、一ケ年に、昭和二十三年度の見込はどのくらいであるということを御答弁をお願いいたしたいのであります。 それから、ちよつと簡單ですから……。第三百四條でありますが、
証人
、鑑定人というところがありますが、これは御承知の通り、日本の裁判におきましては、化学樂品、本当に專門的な化学藥品につきましては判事さんも知りません。又各鑑定人が非常に不適格な鑑定人を選んでおる
判決
例が沢山あります。そこで鑑定人を取り換えて貰いたいということを被告は要求する場合は勿論でありますが、この場合に鑑定人を数回取り換えられるかどうかということはここに載
つて
おりませんが、これについてお伺い申上げます。例えば藥品に関する
事件
に関しましては、或いは微生物に関する
事件
という場合になりますと、
裁判官
は知識を持
つて
おりませんので
判決
はできない、鑑定人の力を借りるという場合が想像されるのであります。 それから三百十
一條
でありますが、被告は
裁判官
の質問に対し供述を拒むことができる、これでは裁判が非常に遅れてしま
つて
困ると思います。これにつきまして
政府委員
の御答弁をお願い申上げます。 それから三百十
五條
ですが、
判決
宣告をする場合は、この限りでない、判事さんが代つた場合に形式的に
判決
をするということは聞いておりますが、本案におきましては一回くらい公判を判事さんが代つた場合にや
つて
、それから
判決
宣告をするということにしたら最も公平ではないかと思います。それに対して御所見を承りたいと思
つて
おります。 それから三百九十
一條
「
弁護人
が
出頭
しないとき、又は
弁護人
の選任がないとき」というところですが、
弁護士
さんはやはり人類でありますから病気にな
つて
休む、そのときにいきなり今度は
檢察官
の陳述を聞いて、
判決
が決まるという例がこの三百九十
一條
と思います。この点につきまして、とにかく
弁護士
さんが少いのですから、沢山の犯罪があ
つて
、
弁護士
さんは誠意があ
つて
も來られない、或いは病気で來られないということを留保した場合、これは別だと思います。これにつきまして御意見を拜聽したいと思います。 それから三百八十七條に、
弁護士
の外の者を
弁護人
に選任することはできないことにな
つて
おります。これは勿論ですが、特に余裕を以て例えば医師会の
事件
があつた場合、その医師会の会長、專務理事が
弁論
に立つ、
弁護人
として取入れるというようなことはできないものでしようか、御意見を拜聽したい。
伊藤修
9
○委員長(
伊藤修
君) 最後の総則にありますから。
宮下明義
10
○
政府委員
(
宮下明義
君) お答えいたします、先ず第百四十九條の他人の秘密に関する
事項
について証言を拒むことができるものの中から藥剤師を削
つて
おるが、これは
改正案
が削除した
趣旨
かどうかという御質問に対しましては、
改正案
におきましては、
現行法
にございました薬種商、藥剤師等の証言拒否権を否定した
趣旨
でございます。その
理由
は、この百四十九條の御
説明
の際にも触れました通り
改正案
におきましては、一面
被告人
の黙祕権を非常に強化いたしております関係上、
裁判所
といたしましては、でき得る限り
証人
の証言を求めまして、これによ
つて
有罪の認定をいたさなければならないという立前にな
つて
参りました関係上、合理的な
範囲
内において、從來の
現行法
の証言拒否権を整理いたしまして、從來よりも、より以上証言を求めることができるという立て方を採りましたので、百四十九條につきましても、從來ございました藥剤師宣は藥種商等の証言拒否権を否定いたしたわけでございます。然してその
理由
は、藥剤師、藥種商等は、医師、歯科医師、助産婦、看護婦、
弁護士
、弁理師等に比しまして、その他人の祕密に触れまする程度が、必ずしく強くないという
理由
から、これを削除いたしたわけでございます。 次に二百八十九條の國選
弁護人
の運用について、政府として自信があるかという御質問に対しましては、只今直ちに資料を取寄せまして、お答えいたしたいと思います。 次に二百四條の鑑定人が、例えば化学藥品の性統等についての鑑定について、その鑑定人の知識経驗が、必ずしも適当でないという場合に、その鑑定人を取り換えてくれという
請求
ができるか、或いはこれを取り換える場合があるかという御質問に対しましては、三百九條によりまして、
証拠調べ
については、異議を
申立
てることができまするし、今後の
証拠調べ
においては、この鑑定人の十分なる資格、知識、経驗ということについて、両
当事者
から從來よりも強く爭われることになろうと考えておりまするので、御質問のごとく、
事情
によりましては、鑑定人を取り換えまして、再鑑定をするということも当然予想いたしております。 次に三百十
一條
の
被告人
の黙祕権というものは、
改正案
が行き過ぎておるのではないかという御意見でございまするが、すでに憲法において、
被告人
が
不利益
な供述を強要されないと
規定
いたしておりまする以上、これを実施いたしまするところの
刑事訴訟法
においても、
被告人
の黙祕権を認めざるを得ないわけでございまして、今後の
訴訟
の運用、或いは犯罪を立証いたしまする
責任
を持
つて
おりまする
檢察官
側としてしましては、必ずしも
被告人
の自白乃至供述に頼らず、その他の
証拠
によりまして、例えば
証人
の証言により、他の物証等によりまして、その犯罪事実を立証して行かなければならないという運用にな
つて
参ると考えております。その場合におきましても、捜査官側といたしまして、或いは攻撃者側といたしまして、十分に捜査の研究をいたし、立証の研究をいたしまして、一面憲法の線に沿いまして、
被告人
の人権を尊重すると同時に、又罪ある者は、必ずこれを罰するという気概を以ちまして、公共の福祉、治安の維持も亦これを全たからしめるというふうに運用できるものと考えておるわけでございます。 次に三百十
五條
但書きにつきまして
裁判官
が代つた場合に、その後直ちに
判決
の宣告をする場合でありましても、一回だけは
公判手続
をや
つて
、その上で
判決
の宣告をした方がよいのではないかという御意見でございまするが、若し
公判手続
の途中において、言い換えますれば、
審理
の途中において
裁判官
の更迭がございますれば、必らず
公判手続
を更新いたしまして、すべての
手続
をやり直さなければならないわけでございまして、その上で
判決
の宣告という段取りになるわけでございますが、すでに
弁論
が終結いたしておりまして、結論まで出ておるという場合においては、その後
裁判官
が代りましても、直ちに更新をせず、
判決
の宣告をしても、少しも差支ないというところから、この但書の
規定
が設けられておるわけでございます。 次に三百九十
一條
につきまして、
弁護人
、言い換えますれば
弁護士
も又人である以上、病気になることもあるのではないか、
弁護人
が病気等のために
出頭
しないからとい
つて
、直ちに
檢察官
の陳述を聽いて
判決
をしてしまうのは如何なものかという御議論でございますが、勿論この場合におきましても、
法律
によ
つて
必らず
弁護人
を必要とするという
事件
につきましては、改めて國選
弁護人
を選任するか、又は
公判期日
を延期いたしまして、
弁護人
の
出頭
を待つ以外に方法はないのでありまして、又その他の
事件
につきましても、
裁判所
が第二百九十條の
規定
がありまするように、特に
弁護人
を附するのを適当と認める場合におきましては、改めて
決定
で
弁護人
を附しまして、その
手続
を進めるわけでありまして、必らずしも御心配の点はないのできはないかと考えております。 三百八十七條につきましては、
特別弁護人
は特に
簡易裁判所
及び
地方裁判所
にのみこれを認める。御意見のような、例えば医師とか或いは十分な科学的な知識を持つた人も、必要によ
つて
は
特別弁護人
として、
被告人
の権利の保護に当
つて
頂くわけでありますが、これは
簡易裁判所
及び
地方裁判所
、言い換えますれば、第一審に限
つて
頂く
控訴審
におきましては、可なり
法律
技術を必要といたしまするので、
控訴審
及び上告審においては、
弁護士
だけが
弁護人
になれるという立前を取つたわけでございます。 次に二百八十九條の國選
弁護人
の運用についての見通しについてでありますが、昭和二十一年度における長期三年以上の
事件
の
被告人
の数は、十一万二千七百七十二名でありまして、現在日本全國の
弁護士
の数が六千三百十九人、これを只今申上げました二十一年度中の人員数をこの
弁護士
数で割りますると、一人の
弁護士
が一ヶ年間に國選
弁護人
として担当して頂く人員が十七人八分ということになるわけでございます。今後
弁護士
の方々が、少くとも
法律
上、この十七今八分という法定
弁護人
を担当して頂かなければならないわけでありまして、かなり負担にはなろうと考えておりますが、必ずしも運用上不可能ではないという結論を持ちまして、この二百八十九條の
規定
を設けたわけでございます。
小川友三
11
○小川友三君 今の二百八十九條ですが、「裁判長は、
職権
で
弁護人
を附しなければならない」というのですが、この十一万二千七百七十二名の昭和二十一年度の例は、昭和二十三年度はもつと遥かに増加しておるはずと想像するのでありますが、一人の者で十七人八分の担当をや
つて
貰うという意味ですが、これは官選の場合は、公定價格は
弁護
料にはないはずですが、一人が幾らで政府は
弁護士
さんにお願いする予算を立てていらつしやるか、一人三千円でありますると、約四億円程度かかりますけれども、ちよつと予算をお伺いします。政府はいつも不渡りで、頼みつ放しで、土木建築にしても頼みつ放しですから、ちよつと……
宮下明義
12
○
政府委員
(
宮下明義
君) 御指摘の通り、昭和二十一年度よりも、昭和二十三年度においては、犯罪が逐次増加いたしておりますることは、その通りでございまするが、その比率を申上げますると、昭和二十一年度に比し、昭和二十二年季の犯罪増加率は、刑法犯において二三%増加、特別法犯につきまして一九〇%増加ということにな
つて
おるのでありまするが、この特別法犯は、殆ど大多数が略式命令で片付きまする
事件
でありますので、さしてこの國選
弁護人
の必要のために運用に困ることはないのではないかと考えております。從いまして刑法犯に二三%増加というのが問題にな
つて
参るのでありまするが、これを概略いたしますると、多くても三〇%程度の増加と、こう考えております。從いまして最前申上げました十七人八分が三〇%程度殖えるということになろうかと考えております。 次に長期三年以上の
事件
につきまして、
法律
上
弁護人
を必要といたしました場合における予算の点でございまするが、只今計算いたしておりまするところでは、一件平均七百五十円として計算いたしまして、八千四百五十七万九千円という数字を出しております。この昭和二十一年度における、長期三年以上の
事件
の
被告人
数十一万二千七百七十二名というのは、全部の数でありまして、この中に私選
弁護士
が附けられる
事件
を含んでおるわけでございますから、從來のパセンテージといたしまして、二一%私選
弁護人
が附くという計算をいたしますと、只今申上げました、八千四百五十七万九千円から、二一%を差引きました、六千五百四十六万四千円という数字が、この國選
弁護人
の
費用
として、一應の数字を出しておるわけであります。
小川友三
13
○小川友三君 関連して……一件七百五十円でやることは、それは昔の七円五十錢以下ですが、こういう三年以上の大きな
事件
に対して、或いは死刑も無期もありますが、不可能であると思います。ただ政府が八千四百九十七万円と言いますが、それは予算を取
つて
の話で、通らなければ一錢も出ないのでありますから、この点については、先輩諸君と共に、
愼重
に
審議
いたします。この点については、大体はそれだけ。
星野芳樹
14
○星野芳樹君 第三百九十條の
控訴審
の場合、
裁判所
が、
被告人
の
出頭
が、その権利の保護のため重要と認めるときのみ、
被告人
の
出頭
を命ずることができるのは、甚だ人権擁護の立場から不十分ではないかと思います。なぜ
被告人
或いは
弁護人
から
出頭
の要求があつたときには、これをしなければならないというようになさらなかつたのか。
宮下明義
15
○
政府委員
(
宮下明義
君)
控訴審
におきましては、三百八十
八條
に
規定
がありまするように、「
被告人
のためにする
弁論
は、
弁護人
でなければ、これをすることでがきない」ことにな
つて
おりまして、
被告人
の
出頭
を
裁判所
が命ずる場合は、三百九十三條一項によりまして、事実の
取調
を始めまして、特に
被告人
の供述を聽いて見たいという場合には、この三百九十條但書の
規定
が働いて來るのでありまして、それ以外の場合には、
被告人
の
出頭
を命じて、
控訴審
の
公判期日
は、
被告人
の
出頭
を求めましても、
被告人
はただその
公判期日
に出て参
つて
、公判延に立会
つて
、その
審理
の模樣を聞いておるというだけに過ぎないのでありますから、必ずしも
弁護人
乃至
被告人側
から、
出頭
の
請求
権を認めるというまでの必要はないのではないかということころから、このような立て方をいたしたわけでございます。
伊藤修
16
○委員長(
伊藤修
君) では爾余の質疑は次にこれを讓りたいと思います。 では次に鬼丸議員提案にかかります
青年補導法案
を議題に供します。
鬼丸義齊
17
○
鬼丸義齊
君 只今議題となりました
青年補導法案
の提案
理由
を御
説明
いたします。現下の犯罪の激増振りは、曾てその例を見ないほどの状態であります。中でも青年の犯罪が極めて多いこと及び初犯の累犯の割合が戰前の三対七に頃べて七対三と逆轉いたしておりますことは、誠に民主日本の再興の上におきまして、大きな暗影を投ずる問題でありまして、誠に遺憾に堪えないところであります。この問題の原因は種々ありましようが、一般的に申しまして、現在我が國の置かれておりまする政治的、経済的乃至は社会最情勢、例えば國民道義の頽廃、政局の不安定物價の奔騰、失業の瀰漫、深刻な生活苦等を挙げることができると考えるのであります。殊に誤れる一部の指導者によ
つて
惹き起された戰爭に駆り立てられて、終戰と共に家を、家庭を、職業を奪われた青年は、全く前途の目標を失いまして、そのまま社会悪の渦中に投ぜられ、遂に道を踏み誤
つて
罪を犯すに至つたのであります。このような
事情
によりまして罪を犯しまする青年に対し、直ちに刑を科しますることは果して適当でありましようか、そもそも罪を犯した者に対し刑罪を科する所以のものは復讐的又は應報的観念によるべきものではなく、社会的に犯罪を防衞すると共に、犯罪者を教化して正常な社会人として再出発せしめることにあるのでありまして、学者間におきましてもこうした
考え方
が支配的になりつつありますることは御承知の通りであります。併しながら飜
つて
我が國の行刑の現状は必ずしも満足すべきものではありません。その効果につきましても幾多の疑問の点があるのであります。ここにおいて行刑
制度
及で犯罪者の予防更生
制度
の根本的改善の必要が痛感されるのでありまするが、更に又刑を科しますることは、その者に前科の刻印を押することもなるのでありまして、社会の嫌悪を買
つて
結局再び悪の道に踏み込ませる結果となる虞れが多いのであります。このような現状から申しまして、前途洋々たる青年が罪を犯しましたる場合に、これを犯罪と社会悪の中から救い上げて正常な社会生活を営ましめますためには、直ちに執行楢予を言渡してそのまま身体の自由を與えることは累犯の虞れがなしといたしません。又一般の懲役刑を科することが眞に行刑の目的を達成する所以でもない場合が非常に多いのであります。ここに刑罰に代えまして、職業補導を中心といたしました適切な施設に收容して、正常な社会人として再生せしめる処分が絶対に必要であると考えられるのでありまして、本法案提出の
理由
も亦ここに存する次第であります。 法案の内容につきまして、簡單に御
説明
申上げます。法案は一、処分の性格、二、青年補導所の構成、三、補導及び処遇の内容より成
つて
おるのであります。 先ず第一に処分の性格でありまするが、処分は
手続
その他につきましては刑罰に準じた取扱をいたしまするが、純然たる保護処分でありまして、刑罰に代えてなされるものであります。先に述べました本法案の目的から生ずる当然の帰結であります。 第二点の青年補導所の構成でありますが、これは法務総裁の管理に属する國立の施設でありまして、その運営に関しましては、青年補導所運営委員会を置きまして、所長の專断に陷らしめず、極めて民主的に運営する立前にな
つて
おります。 第三に補導及び処遇の内容でありまするが、補導は必要な教養を施し、勤務で規律ある生活の下に主として在所者に適廳いたしました職業の補導を通じまして、正常な社会人として再生させるようにこれを行うのであります。その処遇につきまして重要なる
事項
は、補導所運営委員会の議を経ることにいたしまして、公正な取扱が行われるようにいたしてあります。 尚第一回國会におきまして提案いたしました際と内容の違つた点がございます。第一に仮退所の
規定
を削除いたしました点でありまするが、これは犯罪者の予防更生事業の全面的なる再檢討が目下関係方面におきまして考慮せられつつありまして、仮退所者につきましてはその
制度
にすべて讓ることにいたしたいと考えたのであります。第一に補導所には、この
法律
の
規定
のみでなく、他の
法律
によ
つて
適当と認めまする者をも入所せしめ得る途を拓いた点であります。これは、この施設を余するところなく利用することを期待した
趣旨
からであります。 以上
青年補導法案
の提案の
理由
につきまして御
説明
申上げましたが、何卒
愼重
御
審議
の上速かに御賛同贈らんことをお願い申上げます。
伊藤修
18
○委員長(
伊藤修
君) 本案につきまして尚内容の逐條
説明
は明日に讓りまして、然る後に御
審議
を願いたいと思います。 〔「異議なし」と呼び者あり〕
伊藤修
19
○委員長(
伊藤修
君) 次に
裁判官
の判事
事件
の不当処理等に関する
調査
会を開きます。本
調査
会につきまして、先に
松島丸事件
につき、岡部委員並びに來馬委員の御出張を願いましたのですが、その出張の結果の御報告を願うことにいたします。
岡部常
20
○岡部常君
松島丸事件
に関しまする
裁判官
の刑事
事件
不当処理等の
調査
に関しましては、來馬委員並びに本員が命を受けまして、六月十四日と十五日の両日、木更津市並びに千葉市に出張いたしまして、更にその補足的
調査
を行いました。その結果をここに御報告申上げます。詳細につきましては書面を以て御報告いたしますが、極くそのあらましを申上げたいと思います。 先ず日程を申上げますと、第一日、六月十四日には、松角檢事並びに石橋事務官の両人を
証人
として
取調べ
ました。又辛島判事、古賀判事に対しましては実情
調査
を行
なつ
たのであります。第二日、六月十五日には、杉井卯之助並びに松島嘉久藏を
証人
として
取調べ
ました。又庄司久滿は参考人として
取調べ
をしたしました。更に六月二十八日には最高檢察廳の竹内檢事につきまして実情
調査
を行いました。
調査
の場所は木更津市においては
裁判所
の廳舎、千葉市においては千葉刑務所内において行いました。
調査
の方針につきましては最高
裁判所
の「松島嘉久藏
事件
の
調査
について」と題する報告書に基きまして先般当
事件
につき作成いたしました松島嘉久藏
事件
調査
要領に基いたものであります。本件につきましては次の三要綱を中心といたして
調査
を行いました。その要綱は、 第一、本件に対する
裁判所
の國際的関係の認識について。 第二、裁判遅延の
理由
について。 第三、裁判が正当な
事情
の下に行われたかについて。 右の三要綱に基きまして次の
事項
を
調査
いたしました。 第一、裁判遅延の
理由
。 その内訳といたしまして (1) 捜査の経過 (2) 第一
審裁判所
の構成及び
審理
の経過 (3) 第二
審裁判所
の構成及び
審理
の経過 第二、本件に対する係判檢事書記の取扱は如何であつたか。 (1) 松角武告檢事について (イ) 本件
調査
の
事情
(ロ) 区檢察廳に
事件
送致の経緯 (ハ) 略式命令による
公訴
提起の
理由
及び改めて公判
請求
の経緯 (ニ) 木更津支部檢察廳と千葉軍政部との打合せの
事情
(ホ)
事件
に対する認識の程度 について調べました。 (2) 木更津
簡易裁判所
辛島男司判事について、本件を千葉
地方裁判所
木更津支部
移送
の経緯 について調べました。 (3) 千葉
地方裁判所
木更津支部古賀清三郎判事について (イ)
事件
審理
の経過 (ロ) 調書作成の遅延の
事情
(ハ)
事件
に対する認識の程度 について調べました。 (4) 千葉
地方裁判所
木更津支部書記石橋平八郎について (イ) 調書作成遅延の
事情
(ロ) 当時の事務の繁閑の状況 (ハ)
事件
に対する認識の程度 について調べました。 (5) 千葉
地方裁判所
木更津支部上席判事については (イ) 当時の事務の繋閑の状況 (ロ) 人員配置の状況 (ハ)
事件
に対する認識の程度 について調ベました。 第三、関係方面の連絡の
事情
。 (イ) 檢察廳と関係方面との連絡
事情
(ロ)
裁判所
と関係方面との連絡
事情
について調べました。 第四、古賀判事、松角檢事、
被告人
又はこれの属する会社との関係の有無については。 (イ) 判事、檢事と会社及び
被告人
弁護人
との関係 (ロ) 庄司久滿 について調べたのであります。 この詳細は、先程申上げましたように、書面を以て詳細報告いたしますが、極く概括した
調査
の結果を申上げますと、裁判の遅延の
理由
につきましてはこれはこの
事件
には限つたわけではありませんが、実際上必ずしも完璧ではなかつた。相当
事情
もあることではありますが、少々時間が掛り過ぎたという
非難
は免れないと感じたのであります。 それから國際的関係、この認識につきましても詳細
取調べ
ましたが、我々が想像する以上にその筋との連絡は付いておつたように受取れるのであります。併しながらその後発展いたしました國際情勢等から見まるする、結果におきましては、必ずしも満点ではなかつたかた考えられるのであります。その点結果的に見まして、遺憾の点なしとしないと考えておるのであります。 併しながら最後の点でございます裁判が正当な
事由
の下に行なわれたか、この間に何らか疚しい不正のことでもあつたかどうかという疑念に対しましては、いろいろな方面から
調査
いたしました結果を綜合いたしまして、私共は何らここに疚しい点がなかつたという結論に到達いたしたのであります。以上でございます。
伊藤修
21
○委員長(
伊藤修
君) それじや以上の御
説明
に対しまして、十分一つ御檢討を煩わしたいと思います。では本日はこれを以て散会いたします。明日午前十時から開会いたします。 午後零時十八分散会 出席者は左の通り。 委員長 伊藤 修君 理事 鈴木 安孝君 岡部 常君 委員 大野 幸一君 中村 正雄君 遠山 丙市君 鬼丸 義齊君 前之園喜一郎君 松村眞一郎君 宮城タマヨ君 星野 芳樹君 小川 友三君
政府委員
法務廳事務官 (檢務局刑事課 長) 宮下 明義君