運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1948-06-23 第2回国会 参議院 司法委員会 第45号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年六月二十三日(水曜日)   —————————————   本日の会議に付した事件刑事訴訟法を改正する法律案(内閣  送付)   —————————————    午前十一時五分開会
  2. 岡部常

    ○理事(岡部常君) これより司法委員会を開会いたします。前回に引続いて、刑事訴訟法を改正する法律案の質疑を行います……。それでは説明を願います。
  3. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 引続いて第二編第一審三章公判の章を御説明申上げます。その第一節は公判準備及び公判手続でありまするが、先ず第二百七十一條は、新たにすべての公訴提起につきまして、起訴状謄本送達制度を新設いたしました。改正案におきましては、公訴提起はただ單に審判範囲を限定するだけではなくて、被告人に対して防禦範囲を知らしめる意味を持たせておりまするので、その当然の結論といたしまして、すべての公訴提起について、起訴状謄本被告人送達することにいたしたのであります。この手続は、略式命令請求につきましても、当然起訴状謄本被告人送達しなければならないと解釈いたしております。第二項におきまして、「公訴提起があつた日から二箇月以内に起訴状謄本送達されないときは、公訴提起は、さかのぼつてその効力を失う。」と規定いたしまして、起訴状謄本送達制度を特に嚴格に励行されるように配慮いたしたのであります。  次に二百七十二條は、憲法三十七條第三項におきまして、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、國でこれを附する。」という規定がございまするので、その趣旨に基きまして、裁判所公訴提起があつた場合には、遅滯なく被告人に対して弁護人選任ができること及び貧困その他の事由によつて弁護人選任することができないときには、弁護人選任裁判所請求することができる旨を、特に知らせなければらないという規定を新たに設けたわけでございます。これによつて被告人弁護人選任権を確保してやろうという趣旨でございます。  二百七十三條は、現行法の三百二十條の規定に相当する規定でございまして、趣旨において現行法変りがございません。ただ現行法におきましては、弁護人に対しても召喚状を発することにいたしておりましたが、事柄が適当でございませんので、弁護人及び補佐人に対しては檢察官と同樣、公判期日を通知するというふうに改めたわけでございます。二百七十四條は、公判期日の通知につきまして、若し被告人裁判所の構内におります場合には、これに対して公判期日を通知した場合には、正式の召喚状送達があつた場合と同一の効力を有するという規定を設けたわけでございます。二百七十五條は、現行法三百二十一條に相当する規定でありまして、現行法におきましては、召喚状送達と第一回の公判期日との間に三日の猶予期間法律によつて設けておるのでありまするが、この猶予期間につきましては、裁判所規則で十分実際の手続を研究した上に、適当な期間を定める方がよろしいというところから、この規定を設けたわけでございます。  二百七十六條は、現行法の三百二十二條に相当する規定でありまするが、從來刑事訴訟運用におきましては、いろいろな事情から公判期日というものが、再三再四延期変更されまして、公判手続が遅延いたしておつたのでありまするが、この弊害を是正する意味におきまして、又改正案によりまする刑事訴訟手続が、公判中心主義、直接証拠主義を採用いたしております結果、証人いろいろな迷惑を掛ける程度が強くなつて参りましたので、公判期日は成るべく変更しない、又憲法が迅速な審判ということを要求しておる趣旨から申しましても、公判期日変更愼重にすべきであるという建前から、第二項におきまして、「公判期日変更するには、裁判所規則の定めるところにより、あらかじめ、檢察官及び被告人又は弁護人意見を聽かなければならない。」ということにいたしまして、特に公判期日変更愼重にいたそうという配慮をいたしたわけでございます。而して二百七十七條におきまして、若き裁判所がその権限を濫用いたしまして、不当に公判期日変更いたしました場合においては、訴訟関係人は、最高裁判所規則又は最高裁判所の訓令の定めるところによりまして、その裁判所に対し、司法行政監督上の措置を求めることができるという規定を設けたわけでございます。これによりまして、裁判所法第八十條の規定による司法行政監督権の発動がなされることを予定いたしております。  次に二百七十八條は「公判期日召喚を受けた者が病氣その他の事由によつて出頭することができないときは、裁判所規則の定めるところにより、医師の診断書その他の資料を提出しなければならない。」という規定を新たに設けたわけでございます。從いたして、今後公判期日召喚を受けた者は、病氣でございましても、裁判所規則の定める通り診断書を出さなければならない。或いは又裁判所規則の定めるところによりまして、特に医者のいない村等におきましては、他の適当な証明方法を提出しなければならないということになりまして、若しこの手続をいたしませんと、正当な理由がなく召喚に應じないというような認定をされても止むを得ないという結果になろうと考えております。次に二百七十九條は、現行法の三百二十八條に相当する規定でありまして、趣旨において変りはございません。  二百八十條は改正案起訴状一本主義を採用いたしました結果、公訴提起があつた後、第一回の公判期日までに、勾留に関して、例えば勾留理由の開示の手続或は保釈の手続等いろいろな勾留に関する処分裁判所がしなければならないのでありまするが、これをすべて受訴裁判所がいたすということにいたしますると、起訴状一本主義と相反しまして、裁判所に第一回公判期日前は予断を抱からないという建前が崩れて参りますので、特に二百八十條の規定を設けまして、これらの処分受訴裁判所でなく、單独の裁判官がこれを行うということにいたして、その間の調和を図つたわけでございます。次に、二百八十條の第二項は、逮捕状によつて逮捕された者、或いは緊急逮捕をされた者、或いは現行犯逮捕をされた者についきまして、檢察官勾留請求をしないで、直ちに公訴提起をいたしました場合においては、裁判官は、公訴提起があつた後、速かにその被疑者に対して、被告事件を告げ、これに関する陳述を聽いて、勾留状を発する必要があれば、勾留状を発しまするし、その必要ないと思料するときには、直ちにその釈放を命じなければならないという規定を設けまして、その間の橋渡しの規定を設けたわけでございます。次に、二百八十一條につきましては、総則の証人尋問章下において、特に百五十八條規定を置きまして、証人裁判所以外に召喚し、又はその証人の現在地において、例外的に尋問のできる場合を規定したのでありまするが、公判期日審理につきましても、特に二百八十二條規定を設けまして、原則としては、証人公判期日尋問をしなければならないものであるが、裁判所が、第百五十八條に掲げる事項を考慮した上に、檢察官及び被告人又は弁護人意見を聽いて、必要があると考える場合には、公判期日以外において尋問することができるという規定を設けたわけでございます。要するに原則は、この改正案におきましては、証人公判期日において尋問するのが原則であるという建前を謳つておるわけでございます。二百八十二條は、現行法の三百二十九條に相当する規定で、趣旨において変りございません。  次に二百八十三條乃至二百八十六條は、公判開廷條件としての被告人出頭に関する規定でございます。先ず二百八十三條において、改正案は、被告人法人である場合には、如何なる場合においても、代理人出頭させることができるという規定を設けました。二百八十四條の以外の場合においては、法人機関が出張しなければならないのでありまするが、その機関が欲しまする場合には、特に裁判所許可等の必要もなく、その意思によつて代理人出頭させることができるという規定を、法人につきまして、特に設けたわけでございます。二百八十四條は「五千円以下の罰金又は科料にあたる事件については、被告人は、公判期日出頭することを要しない。」という規定を設けまして、特にこのような軽微な事件につきましては、被告人がその出頭を希望しない場合には、必ずしも出頭を要しない。從つて裁判所といたしましても、被告人の勾引をすることはできないということにいたしたわけでございます。但し、被告人が望む場合には、代理人出頭させることができることは、但書規定がある通りでございます。二百八十五條は拘留にあたる事件につきましては、被告人判決宣告をする場合には、必らず公判期日出頭しなければならないが、その他の場合には、裁判所被告人出頭がその権利の保護のための重要でないと認めるときは、被告人に対し公判期日出頭しないことを許した場合には、必ずしも出頭する必要がないという規定を設けたわけでございます。第二項におきまして、長期三年以下の懲役若しくは禁錮又は五千円を超える罰金にあたる事件被告人は、公訴事実に対して陳述をする場合、及び判決宣告をする場合には、必らず公判期日出頭しなければならないのでありまするが、それ以外の場合においては、裁判所公判期日出頭しないことを許した場合には、必ずしも出頭する必要がないという規定を設けたわけでございます。而うして二百八十六條において、前三條の場合以外の場合においては、被告人公判期日出頭しないときには、開廷することができないという規定を設けたわけでございます。  次に二百八十七條現行法の三百三十二條に相当する規定でありまして、但書が幾分違つておりまするが、趣旨においては、変りございません。  二百八十八條現行法の三百三十三條に相当する規定でありまして、これも第二項が少しく現行法と異つておりまするが、趣旨とするところは変りございません。  二百八十九條は現行法の三百三十四條を著しく変更いたしまして、死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件審理する場合には、必ず弁護人がなければならないという規定を設けたわけでございます。現行法におきましては短期一年以上の懲役又は禁錮にあたる事件について法定弁護制を採つてつたのでありまするが、新憲法精神に則りまして、長期三年を超える懲役若しくは禁錮以上の事件については、必ず弁護人を要することといたしたのであります。この点について現在の日本弁護士の数が六千人であることを考えますると現実の運用としては可なり不安を持つておりまするし、又そのために相当な國費を要することとなるのでありまするが、憲法精神を貫きまする以上当然のことと考えまして、この規定を設けたわけでございます。  次に二百九十條は現行法の三百三十五條に相当する規定でありまして、趣旨において現行法変りございません。  二百九十一條乃至二百九十三條は公判見続の骨格に関する規定でありまするが、先ず二百九十一條は、現行法の三百四十五條に相当する規定でありまして、公判は先ず檢察官起訴状朗読して始まります。その起訴状朗読終つた後に、裁判長被告人の対して、黙秘権及び裁判所規則で定めまする所の被告人権利を保護するために必要な事項を告げました後、被告人及び弁護人被告事件について陳述する機会を與えられるのであります。この被告事件について陳述する機会というのは、立案当局として予想いたしておりまする所は、起訴状記載自体に対する爭い、或いは管轄爭い等をも含めて考えておりまして、ただ單に公訴事実に対する意見弁解のみとは考えておりません。要するに本論に入りまする以前の管轄或いは起訴状そのものに対する爭いがこの二百九十一條によつて、なされるのであると、このように考えております。この二百九十一條手続が終りました後に、二百九十二條によりまして、証拠調べに入るわけでございます。併しながら二百九十三條について証拠調が終りました後に、現行法通り檢察官が事実及び法律の適用について意見陳述いたしまして、被告及び弁護人がこれに対して意見陳述する、こういうことになるわけでございまするように、被告人及び弁護人に対しては、最終陳述する機会を與えなければならないという規定を特に本案は削除いたしておりまするが、この点は將來裁判所規則を定めまする際に、十分に研究した上に、或いは被告人最終陳述機会を與えるか、或いは檢察官側最終陳述機会を與えるかを決して頂くという趣旨において、現行法規定を削除いたした次第でございます。御承知の通り英米の実際の訴訟におきましては、最終意見を述べまするのは檢察官でございます。然るに現行法被告人側最終意見陳述するということになつておりまするので、この両者を如何ように考え、將來如何ように決めて行くかという問題は、裁判所規則讓つたわけでございます。  二百九十四條は、公判期日における訴訟指揮権に関する規定でございます。裁判所法ができまする以前の裁判所構成法におきましては、百四條に、裁判長訴訟指揮権に関する規定があつたのでありまするが、裁判所法においては、この訴訟指揮権に関する規定は、訴訟法的な規定であるという観点から、削除いたしましたので、これを補足する意味において、改正案において二百九十四條の規定を設けたわけでございます。  二百九十四條は新らしい規定でございまして、裁判長が、訴訟関係人のいたしまする尋問陳述が前の尋問陳述と重復するとき、又は事件に全然関係のない事項に亘るとき、その他相当でないと認めた場合には、訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り、その審問又は陳述を制限することができるという規定を設けたわけでございます。訴訟関係被告人に対して供述を求める行爲についても同樣であつて裁判長訴訟指揮権に服するわけでございます。  二百九十六條はいわゆる檢察官冒頭陳述に関する規定でございます。公判におきましては、再三申上げましたように、起訴状一本主義を採用いたしまして、第一回公判期日に臨み、裁判所はその事件について知識を持つておりませんので、証拠調の初めに当りましては、檢察官自分証拠によつてこれから証明して行く事実を明らかにしなければならないといる規定を設けたわけでございます。そしてこの場合におきましても檢察官は、証拠能力のない証拠、或いは今後自分証拠調請求する意思のない証拠等に基いて、裁判所事件について偏見、予断を生ぜしめる虞れのある事項を述べてはならないことは勿論でございます。この冒頭陳述によりまして、裁判所檢察官側の持つておりまする証拠を知ることができまして、その後の訴訟の運び方を考え得るわけでございます。  次に二百九十七條規定は同樣起訴状一本主義と、裁判所審理如何ようにするかという調和に関する規定でありまするが、裁判所檢察官及び被告人又は弁護人意見を聞きまして、証拠調範囲順序方法を定めることができる。これによりまして、裁判所証拠調の初め、或いは中途においてでもよろしうございまするが、今後行なつて参りまする証拠調範囲順序方法等当事者双方意見を聞いて適当に定めて、訴訟進行の円滑を図ることができるわけでございます。そしてこの手続は第二項によりまして、受命裁判官にこれをさせることもできるわけでございます。第三項によりまして、裁判所は一旦定めました証拠調範囲順序方法を適当と認める時は何時でも変更することができるのであります。  次に二百九十八條規定でありまするが、改正案におきましては、証拠調原則といたしましては、檢察官被告人又は弁護人即ち当事者請求によつてこれをするものであるという原則を第一項に掲げまして、裁判所職権証拠調をいたしますのは補充的なものであるという趣旨を第二項において規定いたしたのであります。從いまして改正案におきましては、必ずしも裁判所職権審理主義を捨てておるのではございませんので、裁判所は補充的に職権を以て各種の証拠調をして行かなければならないということになつておるのであります。  次に二百九十九條の規定でございますが、この規定も全く新たなる規定でございまして、檢察官被告人又は弁護人証人、その他の者の尋問請求するについては、予め、相手方に対してその氏名及び住所を知る機会を與えなければならない。証拠書類又は証拠物取調請求については予めこれを相手方に閲覧する機会を與えなければならないという規定を設けまして、いわゆる不意打主義を避けようといたしたのであります。今後檢察官又は被告人等は、証拠調請求をいたします際には、証人であればその住所等を予め相手方に知らせて置く、証拠書類でありますればこれを予め相手方に閲覧する機会を與えて置く、こうすることによりまして相手方はその証拠調に対して適当な異議の申立をすることができるわけでございます。又或いは事前に閲覧することによりまして、すでにその証拠を爭う必要がないと考えますれば、その証拠調に対して同意をいたしまして手続が円滑に進行するということになるわけでございます。將來の問題といたしましては、檢察側といたしましては、証拠書類等につきましてはすべて写しを作りまして、これを被告人又は弁護人側に交付するというのが最も円滑な手続であろうと考えまするが、現在の日本の実情及び謄写技術等を考えますと、今直ちにそこまで行くことは不可能でありますので、差当り二百九十九條の規定を設けたわけでございます。  次に三百條乃至三百三條は証拠書類取調請求等に関する規定でございます。全く技術的な規定でありまして特に御説明するまでもないことと存じまするので、説明を省略いたまして、御質問によつてお答をいたしたいと考えます。  次に三百四條の規定でありまするが、これは証拠調の基本となる規定でありまして、改正案現行法に比べまして著しく当事者主義を強化いたしました以上、証人尋問につきましても、いわゆる英米流クロス・エキザミネーシヨン制度を採用すべきだという議論がありますことは、政府といたしましても十分承知いたしておるわけでございます。併しながら現在の日本弁護士の数、即ち全國を通じて六千人に過ぎない、然るに実際の刑事事件というものは非常に数多くありまして、すべての被告人が優秀なる弁護士自分弁護人として持つということはなかなかできかねるのであります。又日本の一般の國民は必ずしも刑事手続というものに習熟いたしておりませんので、このような現状におきまして直ちにクロス・エキザミネーシヨンを採用いたしますと、攻撃者側の方が強くなりまして、被告人側却つて不利益を受けるという心配がございまするので、それらの点を考慮いたしました結果、三百四條におきましては、証人等尋問は先ず裁判長がやる。その裁判長尋問終つた後で補充的に檢察官被告人又は弁護人がその証人尋問する。こういう形を採つたわけでございます。併しながら十分能力のある弁護士弁護人として付しておりまして、而も事案は極めて複雜であつて起訴状一本によつて公判に臨みまする裁判長によつては、十分意を盡した尋問ができないという事案も数多いことと考えられまするので、第三項におきまして、裁判所が適当と考えるときは、檢察官及び被告人又は弁護人意見を聽きまして、第二項の尋問順序変更いたしまして、いわゆるクロス・エキザミネーシヨン・システムを採用することもできるということにいたしたわけであります。実際問題といたしましては、只今申上げましたよう複雜事件、而も十分能力のある弁護士の附いておりまする事件等につきましては、三百四條第三項の規定が今後十分活用されるものと考えております。  次に三百五條規定は、現行法の三百四十條に相当する証拠書類取調に関する規定でありまして、特に御説明するまでもない規定であると考えております。三百六條は、現行法の三百四十一條に相当する証拠物取調に関する規定でありまして、これも趣旨においては、現行法と大差ございませんので、特に御説明いたすまでもないことと考えます。  次に三百七條は、証拠物の中で書面の意義証拠となるものについての取調に関する規定でありまして、これは三百六條によりまする外、三百五條規定によりまして、その内容を朗読しなければならないということにいたしました。  三百八條は、現行法の三百四十七條に相当する規定でありまするが、「裁判所は、檢察官及び被告人又は弁護人に対し、証拠証明力を爭うために必要とする適当な機会を與えなければならない。」という規定を設けたわけでございます。この適当な機会と申しまするのは、個々の証人取調終つた場合でもよろしいのでございますし、その証拠調手続全部が終つた後に、その全体の証拠調について、そこにおいて取調べられました証拠証明力を爭う機会を與えてもよろしい、いずれでもよいというふうに考えております。今後これらの点は技術的な問題でありまするので、裁判所規則によつて定められて行くものと考えております。  三百九條は、現行法の三百四十八條に相当する規定でございまするが、先ず第一項におきましては、「檢察官被告人又は弁護人は、証拠調に関し異議を申し立てることができる。」という規定を設けたわけでございます。この「証拠調に関し」と申しまするのは、これから行われようとする証拠調そのものに対する異議は勿論のこと、一旦証拠調の終りました後で、その証拠調の方式に関する異議をも含むものと考えております。第二項におきましては「檢察官被告人又は弁護人は、前項に規定する証拠調に関する場合の外、裁判長処分に対して異議を申し立てることができる」という規定を設けたわけでございます。三百十條は証拠調が終りました証拠書類又は証拠物は、遅滯なくこれを裁判所に提出しなければならないという規定を設けました。これは起訴状一本主義で、從來のごとく公訴提起と共にすべての捜査書類裁判所に廻るということはございませんので、証拠調終つた後でその証拠書類又は証拠物等裁判所に提出するということにいたしたわけでございます。  三百十一條は、從來被告人尋問に相当する規定でありまするが、第一項におきましては被告人に默祕権を認めまして、第二項において、被告人が任意に供述する場合には、裁判長は何時でも必要とする事項について被告人供述を求めることができるという規定を設けたのであります。從來刑事訴訟法におきましては、檢事公訴事実の陳述がありました後、裁判長の記録を読みまして、事案についていろいろな事情を十分に知つた上に、先ず第一に被告人尋問を詳細にいたしまして、その後に証人尋問等を補足的にするというのが大体の形であつたのでありますが、今後の公判手続におきましては、檢事起訴状朗読、これに対する被告人側陳述がありました後、原則としては直ちに証人尋問等に入つて行く、その証人尋問が行われまする中間において随時裁判長被告人に対して必要な事項供述を求めるということに変つて参ると考えております。第三項におきまして、陪席の裁判官檢察官弁護人等は、いつでも裁判長に告げて被告人供述を求めることができるわけでございます。  三百十二條はいわゆる起訴状に記載された、訴因罰條の追加、撤回、変更に関する規定でございます。改正案におきましては、前回説明いたしました通り公訴提起意義を、ただ單に審判範囲と限定するという意味だけではなくして、被告人側防禦範囲を知らしめるという意味を持たせました結果、起訴状には、起訴状に記載すべき公訴事実は訴因を明らかにしてこれをしなければならないということにいたしました。裁判所起訴状に記載された訴因に拘束されまして、その訴因以外の犯罪事実を認定することができないのでありまするので、檢察官公判審理の状況を見ておりまして、自分が記載した訴因が間違つておると考えた場合には、公判審理の途中において「訴因又は罰條の追加、撤回又は変更を許さなければならない。」「裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、」裁判官に対して「訴因又は罰條を追加又は変更すべきことを命ずることができる。」と、こういう規定を設けたのであります。併しながら「訴因又は罰條の追加、撤回又は変更」が被告人にいろいろな不利益を生ずる場合がありまするので、第四項におきましてこれらの追加変更によりまして」被告人防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認めるときは、被告人又は弁護士請求により。」適当な期間公判手続を停止しなければならないということにいたしたわけでございます。  第三百十三條は弁論の分離、併合、再開に関する規定であります。現行法におきましては、弁論再開に関する規定はありましたが、弁論の分離、併合等は刑事訴訟法上の規定がなく、実際の裁判所運用に委されておつたのであります。併しながら今後の訴訟手続におきましては、弁論の分離、併合等も又被告人権利にいろいろな影響を持つて参りまするので、特に規定を設けまして、裁判所は「檢察官被告人若しくは弁護人請求により又は職権で、決定を以て、弁論を分離し若しくは併合し、又は終結した弁論を再開することができる。」ということにいたしたわけでございます。言い換えますると、これらの請求権を当事者に認めたということが重要な点であろうと考えております。第二項におきましては、裁判所は、被告人権利を保護するため必要があるときは、裁判所規則の定めるところによつて特に弁論の分離をしなければならないという規定を設けました。一例を挙げますると、或る親分と子分とが同一の公判審理をされますると、子分の権利の保護という点において欠くるところがある場合もございまするので、このような場合においては裁判所は特にその弁論を分離いたしまして、親分は親分、子分は子分と、別の公判手続において審理を進める。これによつて被告人権利の保護を全うしようといたしたのであります。  第三百十四條は、現行法の三百五十二條に相当する規定でありまして、趣旨においても大差ございませんので、説明を省略いたします。  第三百十五條規定でありまするが、改正案におきましては、公判手続の更新につきまして、開廷後裁判官が変つた場合についてのみ公判手続を更新しなければならない、という規定を設けまして、現行法の三百五十三條を削除いたしております。現行法においては、十五日以上公判を開廷しなかつた場合、或いは公判手続を停止した場合におきましても手続の更新をいたしたのでありまするが、実際の実情を考えますると、これは全くの形式に止まつておりましたし、又改正案によりまする今後の訴訟手続は、迅速な裁判という趣旨に基きまして、どんどんと行われるということも考えまして、三百十五條においては特に裁判官が変つたときのみ公判手続を更新するということにいたしたわけでございます。  第三百十六條は、地方裁判所において一人の裁判官がいたしました訴訟手続は、被告事件が本來会議体で審判すべきものであつた場合にも、その効力を失わないという規定に特に設けたわけでございます。
  4. 岡部常

    ○理事(岡部常君) それではこの程度で休憩いたします。    午前十一時五十八分休憩   —————————————    午後三時三十四分開会
  5. 岡部常

    ○理事(岡部常君) これより午前に引続きまして刑事訴訟法を改正する法律案の審議をいたします。政府委員の御説明を伺います。
  6. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 引続いて第二節証拠の節を御説明申上げます。  三百十七條現行法の三百三十六條に相当する規定でありまして、刑事訴訟において、事実の認定はすべて証拠によらなければならないという原則を揚げたわけでございます。三百十八條は、現行法に三百三十七條に相当する規定でありまして、いわゆる自由心証主義規定した條文でございまして、証拠証明力は、裁判官の自由なる判断に委ねるということを規定したわけでございます。この点は現行法と何ら異るところがないわけでございます。  次に三百十九條は、憲法趣旨に則りまして、特に自由について規定を設けたわけでございます。從來刑事訴訟の実際の運用が、自由偏重の弊に堕しておつたということは、今更多言を用うる必要もないくらいに皆さんにおいて御承知ことと考える次第であります。憲法の三十八條第二項におきまして、「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」という規定がありまするので、これを受けまして三百十九條第一項の規定を設けたわけでございまするが、更にその趣旨を敷衍いたしまして、憲法の掲げる自白のみならず、「任意にされたものではない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。」という規定を設けたわけでございます。第二項は、憲法三十八條第三項を受けた規定でございまして、被告人の自白が公判廷における自白でありましても、或いは公判廷外における自白でありましても、その自白が、自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされないという規定を設けたわけでございます。この点に関しましては最高裁判所の判例が異る判断を下しておるのでありまするが、憲法の解釈は判例のごとくであるといたしましても、今後の実際の刑事訴訟運用におきましては、改正案第二項の趣旨の方が適当であるという考えから、公判廷における自白であると否とを問わず、單に自白しかないという事件につきましては有罪とされないということにいたしたわけであります。第三項は、「前二項の自白には、起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む」という規定を設けました。自白は積極的な犯罪事実についての告白でありますが、單にそれのみでなくして、憲法が言うておる自白は起訴された犯罪についてギルティーであるという認諾をも含んでおるという趣旨を明らかにいたしまして、この有罪であるという自認だけでも、それだけでは有罪とはされないという趣旨を明らかにいたしたわけであります。  三百二十條以下は書面又は供述証拠能力に関する規定でありますが、憲法三十七條第二項におきまして、すべて刑事被告人は十分に証人を審問する機会を與えられなければならないという趣旨に則りまして、應急措置法においては一應十二條規定がございまして、尋問調書であると、聽取書であると否とを問わず、被告人請求があつた場合には、その供述者を公判廷において尋問しなければ、これらの書面を証拠とすることができないという規定を設けたわけでございまするが、本案におきましては、更にその趣旨を敷衍いたしまして、三百二十條以下の詳細な規定を設けたわけでございます。  三百二十條においては、「第三百二十一條乃至三百二十八條規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて、書面を証拠とすることはできない」という規定を設けたわけでございます。この條文について、昨日お手許に配付になりました刑事訴訟法を改正する法律案の正誤表の中で、正誤をいたしてありまするので、特にその点に触れますると、「供述に代えて書面を」というのを、「供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述証拠とすることはできない」と、このように改めました。趣旨とするところは異つておらないのでありまして、單に書面だけでなく、供述を内容とする、供述証拠の能力をも三百二十四條等において制限を加えてありまするので、その趣旨を明らかにいたしたわけでございます。次に三百二十一條を御説明申上げまするが、その第一項は、被告人以外の者が作成した供述書又は被告人以外の者の供述を録取した書面の証拠能力に関する規定であります。即ち被告人以外の者が作成した供述書、例えて申上げますと、始末書のごときものでありまするが、それと被告人以外の者の供述を録取した書面で、供述者の署名若しくは押印のあるもの、例えて申しますれば、聽取書等でありまするが、これらのものは、一号乃至三号の場合に限つてこれを証拠とすることができるということにいたしたわけでございます。一号は、裁判官の面前における供述を録取した書面に関する規定でありまして、これは第二項との対比によりまして、この裁判官と申しまするのは、二百二十六條、二百二十七條規定による裁判官の面前における供述を録取した書面及び証拠保全、裁判官の面前における供述を録取した書面に限られるのでありまして、公判準備における供述を録取した書面はこの第一項の制限にはよりませんで、第二項の規定によりまして、当然証拠能力があるということにいたしてございます。從いまして第一項第一号は、只今申上げましたように、第二百二十六條、第二百二十七條及び証拠保全の場合の裁判官の取りました調書、この調書は、その供述者が死亡、心身の故障、所在不明、外國にいる等の事由で、その公判準備又は公判期日に呼んで参りまして供述させることができない場合、又はその供述者を公判準備若しくは公判期日に呼んで一應供述をさせたのでありまするが、その公判期日等における供述が前の供述と異なつておる場合、この場合には前の調書を証拠にすることができると、いずれを信用するかは、裁判所の自由心証に委されるわでございます。第二号は、檢察官の取りました調書に関する規定でありまするが、檢察官の面前における供述を録取した書面は、その供述が死亡、心身の故障、所在不明、外國にいる等の事由のために、公判期日等に呼んで來て供述をさせることができないとき、又は公判期日等において、前に檢察官の前でいたしました供述と全く相反する供述をするか、若しくは実質的に違つた供述をした場合には、これを証拠とすることができる。併しながらこの場合には、特に但書規定がありまして、諸般の情況によりまして、公判期日等における供述よりも、檢察官の面前における供述の方が、より信用すべき特別の情況がある場合に限られるわけでございます。第三号は、一号の裁判官の面前における供述を録取した書面、及び二号の檢察官の面前における供述を録取した書面以外の他の書面についての規定であります。即ち司法警察職員の取りました聽取書等は、すべてこの三号に入るわけでございまするが、この書面につきましては、供述者が死亡、心身の故障、所在不明、國外にいる等の事情がありまして、公判期日等に呼んで來て、供述をさせることができない、而もその供述が、犯罪事実の存否の証明に欠くことができない重要なものである場合に限つて証拠とすることができる。併しながらこの場合にも、但書規定がございまして、この警察官の面前等における供述は、その供述をいたします情況が、特に信用すべき情況の下になされたものでなければ証拠とすることができないという制限が設けてございます。第二の但書の制限よりも更に強い制限でございまして、例えて申しますれば、被害者等が、今まさに死なんとする時に、司法警察職員に対し、或る供述をいたしまして、それを司法警察職員が、聽取書に取つたというような、特に信用すべき情況の下になされた供述である場合には、この書面も証拠とすることができるわけでございます。次に、第二項の規定でありまするが、第一項の規定に拘わらず、公判準備又は公判期日におきまして、被告人以外の者が供述をして、これを録取した書面、言い換えますれば、公判準備における証人尋問調書又は公判調書等は、第一項の制限を受けませんで、そのまま証拠能力を認めておるわけでございます。これは事柄の性質上何らの圧迫も受けておりませんし、又公正にその調書ができ上つておるものでありまするので、当然に証拠能力を認めて差支ないものと考える次第であります。尚第二項において、裁判所若しくは裁判官が、檢証をいたしまして、その檢証の結果を檢証調書に記載しておるわけでありまするが、これも亦そのまま証拠とすることができるということにいたしたわけであります。第三項は檢察官、司法警察職員等が檢証をいたしまして、その結果を記載した檢証調書は公判期日にその檢証いたしました檢察官、司法警察職員等が出廷いたしまして、証人として正しくその調書を作つたものであるという供述をいたしますれば、これを第一項の規定に拘わらず証拠とすることができるということにいたしました。これは必ずしも傳聞証言とも言えないものでありまして、要するに檢察官又は司法警察職員等が自分自身で檢証をいたしました結果を記載した書面でありまして、それをその檢察官公判廷に証人として出廷いたしまして、眞正に作成したものであることを証言し、被告人側から反対尋問を受けてその眞正に作成されたものであることについて立証がされまするならば、それをそのまま証拠としてもよろしいという見地から、このよう規定を設けたわけであります。鑑定の経過及び結果を記載したいわゆる鑑定書につきましても、その鑑定人が公判期日出頭いたしまして、証人として反対尋問を受けるならば、これも亦証拠とすることができるということにいたしたわけでございます。  次に三百二十二條規定は、被告人供述書についての証拠能力規定でございます。この條文につきましても、昨日のお手許に配布いたしました正誤表で第二項を附加してございますので御注意願いたいと思います。第一項は被告人が作成した供述書、即ち上申書のごときもの、又は被告人供述を録取した書面、即ち被告人の聽取書のごときものは、その供述被告人に不利益な事実の承認を内容とすのものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限つて、これを証拠とするこができるという規定を設けたわけであります。被告人はこの改正案におきまして、本來默秘権を持つておりまするし、その取調を受ける際には、特に搜査機関から不利益な供述を拒むことができるということを告げられた上取調を受けるのでありまして、そのような情況において尚且つ自己に不利益な事実を承認しておる場合には、これを証拠として差支ないのではないか。又後段につきましては、或る特別な情況がありまして、その被告人供述を信用するに足りるような情況下になされた供述であるならば、これも亦証拠としてよろしいのではないかという見地から、この規定を設けたわけでございます。併しながら、この場合におきましても但書規定を設けまして、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その証人が自白でない場合におきましても、任意にされたものでないという疑いがあるときには、これを証拠とすることができないということにいたしたわけでございます。三百二十二條第二項につきましては、被告人公判準備又は公判期日における供述を録取した書面につきましては、これをそのまま証拠とすることができるという規定を附加いたしたわけでございます。  三百二十三條は、前二條以外の書面についての証拠能力に関する規定でありまするが、その第一号は、いわゆる証明文書、例えば戸籍謄本、公正証書謄本等のごとく公務員が職務上証明することができる事実についてその公務員の作成した書面、第二号は、商業帳簿、航海日誌等のごとく、業務の通常の過程において作成された書面、第三号は、その他特に信用すべき情況の下に作成された書面、例えて申しますれば、日記帳のごときもの、これらは事柄の性質上、特に今問題となつておりまする刑事事件を頭に描きながら作り上げた書面でもございませんし、当然信用して差支ないという性質のものでありまするので、三百二十三條におきまして、これについては例外的に証拠能力を認めたわけでございます。陪審法第七十二條等にもすでに先例のある規定でございます。  次に三百二十四條は、供述に録取した書面ではございませんで、他人の供述を聽いた者自身が公判廷等に証人として立ちまして供述をする場合、即ち傳聞証言の場合に関する証拠能力規定でありまするが、第一項は、被告人以外の者が公判期日等に出頭して証言をいたしまする場合に、その証人が、自分被告人からこれこれの事柄を聽いたということを証言しようとする場合には、三百二十二條條件に当嵌まる場合に限つてその証言をすることができる。第二項におきましては、証人公判期日出頭いたしまして供述をする場合に、他の証人がこれこれのことを言つておつたということを聽いたという証言をする場合には、三百二十一條第一項第三号の條件に当嵌まる場合に限つて、その証言をすることができるという傳聞証言についての証拠能力の制限の規定を設けたわけでございます。その趣旨は三百二十一條及び三百二十二條と同様の趣旨に出ておるわけでございます。  三百二十五條は、前四條の規定によつて証拠とすることができる書面又は供述でありましても、裁判所は予めその書面に記載された供述又は公判期日等における供述の内容となつた他の者の供述が任意にされたものかどうかということを調査した後でなければ証拠とすることができない。特に証拠として採用いたしまする前に、その任意性の調査をしなければならないという規定を設けたわけでございます。  三百二十六條は、以上のよう証拠能力に関する規定に拘わらず、檢察官及び被告人証拠とすることに同意をした書面又は供述はその書面が作成され又は供述のなされたときの状況を考慮し相当と認める時に限り、これを証拠とすることができるといつた規定を設けました。從いまして三百二十一條乃至三百二十五條の嚴格な制限があるわけでございまするが、若し檢察官及び被告人がその書面を証拠とすることに異議はない、或いはその供述公判延に提出することについて異議がないという場合には、これを証拠とすることができるということにいたしたわけでございます。第二項において改正案は、或る場合には被告人出頭がなくても証拠調を行うことができると規定いたしておりまするので、この場合においては被告人の不出頭ということは同意があつたものとみなされるという規定を設けたわけでございます。  三百二十七條のはいわゆる合意文書に関する規定でありまするが、檢察官及び被告人又は弁護人が合意をいたしまして、或る文書を取寄せたならば、その文書にはこれこれの内容が書かれてあるのに相違ないという合意をいたしまして、その合意書を裁判所に提出した場合には、これを証拠面とすることができる。又或る証人裁判所公判期日出頭させたならば、これこれの証言をするに相違ないということを両当事者が認めまして、その合意書を裁判所に出した場合には、その証人取調べなくてもこれを証拠とすることができるという規定を設けたわけでございます。これは審理の迅速を期する趣旨におきまして特にこのよう規定を設けたわけでございます。  以上は事実認定の資料とすることのできる証拠に関する証拠能力規定でありまするが、三百二十八條はそれと異なりまして、いわゆる反証に関する規定であります。即ち第三百二十一條乃至三百二十四條の規定によりまして証拠とすることができない書面又は供述でありましても、公判準備又は公判期日における被告人証人等供述証明力、即ち信用性を爭うためには、如何なる証拠でありましてもこれを使用することができるという規定を設けたわけであります。從いまして、例えて申しますれば、三百二十一條第一項第三号によつて証拠能力が否定されまする司法警察職員の聽取書でありましても、被告人公判廷における供述の信用性を爭うためには勿論これを公判廷に提出して差支ないのであります。併しながらそのものを事実認定の資料に使つてはならないということになつておるわけでございます。  次に第三節公判の裁判につきまして御説明申上げます。この第三節は殆んど現行法と変つておりませんので、特に現行法と異なりまする改正の要点だけを御説明申上げたいと思います。その他の点は御設問に應じてお答えいたしたいと思います。  先ずその第一点は、三百三十五條第一項の規定でありまするが、即ち「有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない。」ということに改正いたしました。現行法におきましては、有罪の言渡をいたしまする場合に罪となるべき事実、証拠によりこれを認めた理由及び適用すべき法令を示さなければならないということになつておりましたのを、「証拠の標目」と改めただけでございます。この点は從來裁判所の実際の運用から可なり強い意見がございまして、從來のいわゆる証拠説明というものが形式に堕しており、一面又裁判官の重大な負担になりまして、審理が遅延するという結果もございましたので、今度の改正案におきましては、判決を書く手数というものは成るべく省きまして、実際の公判において事実の眞相を発見する面において裁判官の主力を使つて頂きたいという趣旨から、三百三十五條第一項のごとく「証拠の標目」で足りるということにいたしたわけでございます。  次の重要な改正点は三百四十條の規定であります。現行法三百六十四條によりますと、檢察官公訴の取消をいたしまして、公訴棄却の決定があつた事件について再び公訴提起いたしますると、判決公訴棄却の言渡をされたのでありまするが、改正案の三百四十條においては、公訴の取消による公訴棄却の決定が確定した場合に、公訴の取消後犯罪事実について新たに重要な証拠を発見した場合に限つて、同一事件について更に公訴提起することができるということに改めたのであります。この点は改正案によりますると、搜査手続というものが著しく困難になりまして、起訴前の短期間において搜査機関が十分な証拠を集める可能性というものは、現行法よりも可なり少なくなつて参りましたので、檢察官は勿論確信を持つて公訴提起をいたすわけでありまするが、公判審理の経過に鑑みまして、到底その事件について有罪の判決を得る確信がないという場合には、現行法以上に公訴の取消を或る程度自由に許しまして、その後若しその犯罪事実について新たな重要な証拠を発見した場合には再起訴ができるということに改めたわけでございます。これは一旦公訴提起をいたしました事件について、若し無罪の判決があつて、その判決が確定したしますると、憲法関係から申しまして、ダブル・ジェパディによつて再びその事件を起訴するということができかねますので、その点の調節を図る意味において、この三百四十條の規定を設けたわけでございます。  次の重要な改正点は三百四十三條の規定であります、即ち禁錮以上の刑に処する判決宣告があつた場合には、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失うという規定を新たに設けたわけでございます。前に御説明申上げましたように、一定の事件については、被告人権利として保釈を受けることができるのでありまするが、その趣旨とするところは、第一審の判決前においては、被告人は一應無罪の推定を受けておりまして、從つて軽微な事件につきましては権利として当然保釈を許されておつたわけでありまするが、すでに一日第一審において禁錮以上の刑に処する判決宣告がありますると、この無罪の推定というものは破れまして、その宣告と同時に保釈又は勾留の執行停止は効力を失いまして、一旦直ちに身柄を拘束される、それで、その後には三百四十四條にございまするように、権利保釈ではなくして、裁判所の裁量による保釈が許される場合があるということになるわけでございます。これと相表裏いたしまして三百四十五條におきましては、現行法三百七十一條と異りまして、無罪、免訴、刑の免除、刑の執行猶予、公訴棄却、管轄違い、罰金等の裁判が必ずしも確定いたしませんでも、その判決宣告があると同時に即時勾留状効力がなくなりまして、その場から被告人が放免されるということに改めたわけでございます。  次に重要な改正点は三百四十八條規定であります。これは改正案が新たに設けました規定でありまして、裁判所罰金、科料玉は追徴を言渡す場合に判決の確定を持つてつてはその執行をすることができなくなり、又は執行をするのに非常に困難になるという場合には、檢察官請求により又は職権で、いわゆる仮納付の裁判をするという規定を設けたわけでございます。即ち罰金、科料、又は追徴に相当する金額を仮に納付するということを明じまして、この仮納付の裁判は本案の判決の確定を待ちませんで、即時執行することができるということにいたしまして、執行の確保をいたそうというのであります。その他の点は現行法と殆んど趣旨において変つておりませんので、御説明は省略させて頂きたいと思います。
  7. 岡部常

    ○理事(岡部常君) 皆さんにお諮りいたしますが、今日は少し沢山御説明頂きましたから、研究した上で質疑をした方がよろしかろうと思いますので、今日はこれで散会いたしたいと思いますが、お差支ありませんか。    〔「異議なし」と呼び者あり〕
  8. 岡部常

    ○理事(岡部常君) ではこれを以て散会いたします。    午後四時十五分散会  出席者は左の通り。    理事            鈴木 安孝君            岡部  常君    委員            大野 幸一君            中村 正雄君            遠山 丙市君            水久保甚作君            鬼丸 義齊君           前之園喜一郎君            宮城タマヨ君            小川 友三君   政府委員    法務廳事務官    (檢務局刑事課    長)      宮下 明義君