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1948-06-15 第2回国会 参議院 司法委員会 第41号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年六月十五日(火曜日)   —————————————   本日の会議に付した事件刑事訴訟法を改正する法律案(内閣  送付)   —————————————    午前十時三十八分開会
  2. 伊藤修

    委員長伊藤修君) それではこれより司法委員会を開会いたします。本日は刑事訴訟法を改正する法律案につきまして、前回に引続き質疑を継続いたします。先ず本日は第九章押收及び捜索、第九十九條より一應政府委員逐條説明をお願いいたします。それから質疑に入ります。
  3. 野木新一

    政府委員野木新一君) それでは第九章、押收及び捜索につきまして、逐條御説明申上げます。第九十九條は現行法の百四十條と同旨であります。ただ現行法では「之ヲ差押フヘシ」となつておるのを、これを多少強過ぎるので「差し押えることができる。」という権限の範囲から出ておるという点が違うのであります。次には第百條、これは現行法の百四十一條同旨であります。次に百一條、これも現行法の百四十二條と同旨であります。次に百二條、これも現行法の百四十條と同旨でありますが、現行法の百四十三條の第三項の「婦女ノ身体捜索」権を、本案では別條に持つてつてあります。後の方にそれは出て來ます。百三條、これは現行法の百四十八條同旨、百三條、百四條、これは現行法の百四十八條の一項が百三條、本四十八條の二項が百四條に大体相当するものでありますけれども、その後のいろいろの行政機構などの編成に從つて整理した、そういう程度であります。百五條、これは現行法の百四十九條に相当するものであります。それからただ主体を若干整理いたしまして、助産婦の下に看護婦というのを入れたということ、それから現行法弁護人を削つたということ、それから「宗教の職」ということで、「宗教若ハ祷祀ノ職」というのを包含して入れたということ、それから但書の点におきまして「押收の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合その他裁判所の規則で定める事由がある。場合は、この限りでない。」こういう但書が入りました。この点は証人尋問のところで、この但書規定は同じようなことが入つておりますから、そこで尚詳しく申上げたいと思います。  百六條、これは新らしい規定でありまして、いわゆる公判廷外における差押及び捜索につきましては、令状主義を取りまして、裁判所と雖も「差押状又は捜索状を発してこれをしなければならない。」そういう規定になつております。從いまして、今までのように、裁判所はみずから外へ出て行つて差押える、捜索をするということはなくなりまして、必ず差押状捜索状を出して個々の令状によつてこれを執行する。他の機関がこれを執行する。こういう関係になるのであります。ただ公判延内における差押捜索につきましては一々令状を出す必要がなくてできる、そういう建前になつております。次の百七條、これは令状記載要件などを決めたものであります。これは勾留の際に相当する規定と同じ趣旨であります。  次の百八條、百七條新設規定、百八條新設規定でありますが、これは令状主義を採りました結果、その令状は、檢察官指揮によつて檢察事務官司法警察職員がこれを執行するというのが原則でありまして、ただ第一項の但書におきまして、例えば檢察官指揮によつて執行させては、特殊の事件によつて被告人の保護のため十分でないと思われるような場合には、裁判所がそう認めた場合には、裁判長が特は裁判所書記又は司法警察職員にその執行を命ずることができるということにして、特殊の場合の構成員を担当することにいたしました。第二項は、執行が他の機関によつてなされるのでありますので、裁判所は必要な場合には書面で何か指示をすることができるということ、そういう規定であります。三項、四項は特に説明するまでもないと存じます。  次に百九條、これは現行法の百六十條に同旨規定がありまして、趣旨は同じであります。百十條、これは新らしい規定でありまして、処分を受ける者の権利を保護するための規定であります。百十一條、これは現行法の百四十六條に相当するものであります。次に百十二條、これも現行法の百六十一條に相当するものであります。次に百十三條、これは現行法の本五十九條、それから百五十八條に相当する規定を併せて規定したものであります。百十四條、これも現行法の百五十七條に相当するものであります。百十五條、これは先程申上げたように、現行法の百四十三條の三項を特にここに抜出して規定したものであります。  次に第百十六條、これは現行法の百五十五條に相当するものであります。ただ現行法では「日出前、日没ニハ住居主ハ看守者又ハ之ニ代ルヘキ者承諾アルニサレハ押收又ハ捜索ノ爲」云々の場所に「入ルコトヲ得ス」、こういうようになつておりましたけれども、本案におきましては、「令状に夜間でも執行することができる」そういう記載がなければいけない。そういうことにしまして令状主義を徹底させておる点が現行法と違うわけであります。  次に第百十七條、これは現行法の百五十六條と同旨であります。次に百十八條、これも現行法の百六十二條と同旨であります。次に百十九條、これは現行法の百四十五條規定同旨であります。次に百二十條、これは現行法の百六十三條の規定同旨であります。  第百二十一條、これも現行法の百六十四條の規定同旨であります。ただ第一項におきまして、所有者その他の者に保管をさせる場合には、その承認を得てということを入れまして、その所有者、その他の者が非常に不利益を蒙むる危險がないように、そういう危險を避けられるようにしておる点が多少違います。  それから百二十二條、これは現行法の百六十五條同旨であります。百二十三條、これは現行法の百六十六條と同旨であります。第百二十四條、これは現行法の百六十七條同旨であります。第百二十五條、これは現行法の百五十四條と同旨であります。それから百二十六條、これは現行法の百七十三條にこれと同旨規定があります。これは物の捜索ではありませんで、被告人捜索、人を捜す場合だけの規定であります。百二十七條は、以上の規定準用になる規定であります。現行法から落ちました條文につきましては、別表の「舊法を基準とする刑事訴訟法舊対照表」というのが御手許に行つておりますので、これで御覧願いたいと存じます。
  4. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 第十章の檢証の御説明を願つておきます。
  5. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 第十章檢証について御説明申上げます。百二十八人條の、裁判所が事実発見のため檢証ができるという根拠規定は、現行法と同様であります。ただ檢証につきまして、後に御説明申上げますように、身体檢査のための規定を特に數ヶ條設けました点が著しく現行法と異なつておりまするが、その他は大体現行法と同様であると御了承願いたいと思います。第百二十九條につきましては、檢証について必要に應じて身体檢査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊、その他必要な強制力を行使し得るという根拠規定を設けまして、これも現行法と同樣の規定でございます。  第百三十條、日出前、日没後には、住居主若しくは看守者、その他のものの承諾がなければ、檢証のために入の住居、人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内等に入ることができないという規定現行法と同樣でございます。次に百三十一條でございまするが、これは檢証のために人の身体檢査する場合がございますが、この檢証のための身体檢査について、百三十一條以下数條に新らしい規定を設けたわけでございます。すなはち百三十一條におきましては「身体檢査については、これを受ける者の性別健康状態その他の事情を考慮した上、特にその方法に注意し、その者の名譽を害しないように注意しなければならない。」という規定を特に設けまして、「女子身体檢査する場合には、医師又は成年女子をこれに立ち会わせなければならない。」という規定を第二項に設けたわけでございます。  次に、百三十二條におきましては、裁判所身体檢査のために、被告人以外のものを召喚することができるという根拠規定を新たに設けました。現行法におきましては、被告人以外の者を身体檢査にために召喚することはできなかつたわけでございまして、檢証のために、現行法においても、身体檢査ということは可能であつたのでありまするが、その身体檢査のために裁判所召喚するという根拠規定がございませんし、現場裁判所が出張いたしまして、被告人以外の者の身体檢査をいたそうという場合にも、窮極において、その者がその現場から逃走等をいたした場合には、裁判所として何とも手段がなかつたのでございまするが、改正案におきましては、これらの点を整理したしまして、必要に應じて被告人以外の者の召喚ができるということにいたしたのであります。尚被告人につきましては、被告人自体として召喚規定によつて召喚ができまするので、訊門のために限らず、身体檢査のためにも召喚ができるということになつております。  次に、百三十三條は、身体檢査のために召喚を受けた者が、正当の理由がなく出頭しない場合における過料制裁と、それから費用賠償を命ずることができる制裁規定でございます。  第百三十四條は、身体檢査のために召喚を受け、正当な理由がなく出頭しない者に対しては、第百三十三條によつて過料又は費用賠償を命じまする外に、刑罰といたしましては、五千円以下の罰金又は拘留に処することといたしました。情状によつて罰金及び拘留を併料することもでき得るようにいたしたわけであります。この第百三十三條及び第本三十四條は、証人召喚に應じない場合の制裁と歩調を同じくいたしておりまして、今回の改正案におきましては、一般國民刑事裁判に対する協力ということを特に要望いたさなければなりません関係から、証人召喚を受けて出頭しない場合、或いは身体檢査のために召喚を受けて出頭しない場合の制裁というものを特に強化いたしたわけでございます。  次に百三十五條は、身体檢査のために召喚をいたして者が、それに應じない場合には、更にこれを召喚することもできるし、又はこれを勾引することができる。こういう勾引根拠規定を置いたわけでございます。第百三十六條は、身体檢査のために召喫及び身体檢査のために勾引について召喫及び勾引規定準用いたした準用規定でございます。第百三十七條は、被告人又は被告人以外の者が、正当な理由がなく、裁判所身体檢査を拒んだ場合には、これに対して五千円以下の過料に処し、又は費用賠償を命ずることができるという制裁規定を設け、更に百三十八條におきましては、被告人又は被告人以外の者が、正当な理由がなく、身体檢査を拒んだ場合には五千円以下の罰金又は拘留に処する。情状によつて罰金及び拘留を併科することができるという、身体檢査を拒んだ場合の制裁規定を設けたわけでございます。この点におきまして被告人以外の者については別に問題がございませんが、被告人身体をその意に反して檢査するということは、憲法の三十八條第一項の「何人も、自己に富利益供述を強要されない。」という規定に反するのではないかという一部の議論があるのでございます。併しながら立案当局といたしましては、この憲法第三十八條第一項は「供述を強要されない」。だけであつて身体檢査をすることは、たとえその身体檢査を受ける者が被告人でございましても、敢えて憲法に反するものではないという見解から、この規定に設けたわけでございます。尚この点に関しまして最近におけるアメリカ各州判例も十分に研究いたしまして、一部の日本学者において、被告人身体檢査というものは、結局供述を強要することになるので、憲法違反であるという説をなす者がございまするが、日本憲法が或る部分において、その母法といたしましたアメリカ合衆國及びアメリカ各州憲法の類似の規定に基きました各州裁判所判例においても、最近におきましては被告人身体檢査は必ずしも憲法違反でないという結論になつておりまするので、この規定を設けたわけでございます。  次に百三十九條は、これまで御説明申上げましたように、結局被告人又は被告人以外の者の身体檢査というものは、その者の名譽を害しまするし、いろいろな点で人権に影響がございまするので、でき得るならば十分に身体檢査を受ける者の意向を付度して、その者の名譽を害しない適当な方法でいたさなければならない。それでも尚納得しない場合には間接強制規定を設けまして、その承諾を強制するという建前を採つたわけでございまするが、このようにいたしましても、尚且つ身体檢査を拒む場合には、結局裁判所が有罪の証拠を集めることが不可能になりまするので、その場合においては百三十九條で過料を処しても、或いは刑罰を科しましても効果がないと認められる場合には、そのまま実力を行使いたしまして、身体檢査を行うことができるという規定を設けたわけでございます。勿論この場合におきましても、裁判所はその方法等を十分に考慮しなければならないことは申すまでもないことでございます。  次に百四十條は、裁判所身体檢査を拒否する者に対しまして過料を科し、又は百三十九條の規定によりまして、実力を以て身体檢査をいたします場合においては、予め十分に檢察官の意見を聽きまして、身体檢査を受ける者の異議理由が邦辺にあるかということを、十分に知るよう努力しなければならないという規定を設けまして、その異議理由を十分に考えてやりまして、被告人又は被告人以外の者が納得するように努力せよという規定を設けたわけでございます。百四十一條檢証に際して、「司法警察職員に補助をさせることができる。」という規定は、現行法と同樣でございます。次に百四十二條の檢証について捜査の規定準用いたしましたが、これも現行法と変りございません。
  6. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 以上第九章、第十章に対するところの説明に対して御質疑がありますか。
  7. 大野幸一

    大野幸一君 この捜索檢証人権を尊重するために大切な章であるのであります。ここで大分詳しく人権が尊重されておるようでありますが、どの條文にも「急速を要する場合は、この限りでない。」、こういうように言つてあるのであります。本法第一條には「迅速に」という言葉が使つてあります。「刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」、この刑事訴訟法は迅速にやらなければいけない。ここに言う、いわゆる「急速」という場合とどれだけ違うか、御説明によると、只今、特に急速を要する場合はと、こういうふうにおつしやつて、特にという字を今言葉の中に入れておいでになりますが、條文にはそういうことが書いてありません。或いは事情を考慮してと、こういうときに、説明の上では十分事情を考慮してという説明になつておる。そういう言葉が入つておる。そこで私の憂うるのは、急速の場合をもう少し文字を強く制限したらどうかと思うんだが、これで差支ないかどうかということをお伺いしたい。それから順次御質問を続けたいと思います。
  8. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 御質問の点は、百十三條第二項におきまして、差押状又は捜索状執行する者、つまり執行者でありまするが、この者は予め執行の日時、場所を、前項の規定によつて立会権を持つております檢察官被告人又は弁護人通知をしなければならない。但し、これらの立会権を持つた者が、予め裁判所に立会わない意思を明示した場合及び急速を要する場合は、この限りでないという規定がございます。この規定を百四十二條によりまして、檢証にも準用になつております。それから百十五條で、「女子身体について捜索状執行をする場合には、成年女子をこれに立ち会わせなければならない。但し、急速を要する場合は、この限りではない。」、こうなつておるわけであります。これらの規定急速を要する場合に、この本則を排除する理由如何という御質問と考えるのでありまするが、勿論今回の改正案が、現行法よりも一層人権の尊重ということを、更に一歩を進めておりまするので、現行法においても、これと同趣旨規定があるのでありますが、それよりも更にその運用においては、本則を活かすような運用がなされなければならないと、こう考えておるのであります。併しながらこの百十三條第二項等の規定は、或いは裁判所受命判事によりまして、急速差押又は捜索をしなければならない場合もございまするし、又受託裁判所が嘱託を受けまして、急速差押捜索等をいたさなければならない場合もございますので、このような除外がございませんと、裁判所の活動が、場合によりましては不可能になりまするので、このような急速を要する場合の除外規定を設けてあるのであります。これを全然削除してしまうというのも如何なものかと考えられますし、要するに今後は、改正案全体の趣旨によりまして、事急を要しまして、通知をしておれない、或いは成年女子の立会いをし兼ねるという場合に、この但書が動いて参ると、こう考えております。第一條刑事訴訟を迅速に行わなければならないという場合よりも、更に一層制限された、事急を要する場合であろうと考えております。
  9. 大野幸一

    大野幸一君 この百五條弁護人を削つたという御説明ですが、その削つた理由を御説明願いたいと思います。弁護人であつても、或いは特定事件弁護人なつた以上は、弁護士と同樣に、その特定事件については同じように考えられるのですが、政府の所見は如何でしようか。
  10. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 弁護人を削りましたが、弁護士の職にある者或いはあつた者が、現行法通り存置してございまするので、多くの弁護人は、この弁護士によつて、本條によりまする押收拒否権というものを行使し得ると考えております。ただ弁護人を削りましたために、弁護士でなくして弁護人になるところのいわゆる特別弁護人が、この規定によつて押收拒否権を行使し得ない結果になるわけでございまするが、これらの特別弁護人というものは、むしろ被告人との特殊の関係を考慮して、弁護士では賄い得ない被告人性格等弁論、或いは特殊な術技を要しまする計算関係等弁論等をいたすために、特別弁護人という制度があるわけでございまするが、これらのものは必ずしも一般弁護士と異りまして、事務上或る者の委託を受けて物を保管しておるという場合は少いと考えまするし、又特殊な関係にある者が、この條文によつて押收拒否権を行使するということは如何なものかという考慮をいたしました結果、弁護人を削つたわけでございます。併しながら只今申上げましたように、弁護士が残つておりまするので、大多数の場合は弁護人はこの弁護士押收拒否権を行使し得るということになるわけでございます。
  11. 大野幸一

    大野幸一君 百七條の、差押状又は捜索状に対し、「裁判長が、これに記名押印しなければならない。」と、こうなつておるが、こういう場合に記名押印で足りるというのは、ちよつと不思議に思うのであります。現行刑事訴訟法において行われておる逮捕状においても、裁判長署名捺印しなければならないということになつていても、我々が見聞したところによると、面倒だから判事さんが名前を書いて、何通も書記の所に預けて置くというようなことが行われておる。これでは結局、裁判長の判というのは裁判所にあるのだろうから、いわゆる裁判所書記あたりが、幾らでも電話で以て裁判所と連絡して捺印して置くと、こういうような結果になつて、これはやはり署名捺印にしなければ愼重を欠くと思うのですが、如何なる見解ですか。
  12. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 現行法の百五十條に、裁判所押收捜索命令状という制度があるのでありますが、この場合におきましても、現行法百五十條第二項において、命令状には裁判長記名捺印をすると、こうなつております。又現行法においては、勾引状勾留状等裁判長記名捺印という制度にいたしておるのであります。この現行法制度改正案においても踏襲いたしたわけでございまするが、勿論裁判書或いは公判調書は、嚴格に裁判長又は裁判官の署名捺印ということを求めておるわけでありまするが、大体におきましては、これらの令状につきましては、必らずしもそれまでの必要がないのではないかという考え方から、現行法を踏襲いたしまして記名押印という形にいたしたわけでございます。
  13. 大野幸一

    大野幸一君 百三十一條身体檢査については、その性別健康状態等を考慮した上、特にその方法を注意し、その者の名譽を害しないように注意しなければならないと、こう書いてありますが、私はその名譽の中には、羞恥心も含まれなければならない。詳しく言えばその名譽を害し又はその羞恥心を傷けないように注意しなければならないと思うのですが、名譽の中に羞恥心を含むと解釈してよいかどうかということをお尋ねします。
  14. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 名譽と使います場合にはその人の信用等に対する社会的な批判、社会的な評價であろうと考えておりまするが、御指摘のような、羞恥心までが名譽という言葉に入るかどうかという点はやや疑問があろうかと考えております。併しながら趣旨におきましては、身体檢査についてその者の名譽ばかりでなくして、羞恥心等も十分に顧慮してやらなければならないというのが、この改正案の要求しているところであろうと考えております。
  15. 大野幸一

    大野幸一君 百三十四條の、召喚に應じない制裁として、五千円以下の罰金又は拘留に処するというのを、御説明によると刑罰として罰金又は拘留に処するということでありますが、一体これは刑罰としてやることが適当かどうか、或いは又行政罰の性質を持つていやしないかとこう考えます。國家捜索に協力するという者も、それは必要であるけれども、併しそれを直ちに刑罰ということに對しては、國民に対して甚だ過酷に失しはしないかと思うのですが、これは行政罰という見方か、刑罰という見方か、それは立法者はどつちでも構わない、こういうように学者の説に任して置くのか、刑罰ということで主張されるかどうかということをお伺いしたいと思います。
  16. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 百三十四條に規定いたしましたるところの五千円以下の罰金又は拘留、これら明らかに刑罰であると、こう考えております。從いましてこの刑罰に処しまする場合においては、正式に檢察官の起訴を要し、刑事訴訟手続によつて初めてこの刑罰を科し得るわけでございます。百三十三條の過料、これは明僚刑罰ではございませんが、百三十四條の方は刑罰と考えております。このような身体檢査のために召喚を受けた者が出頭しない場合、或いは証人召喫を受けて出頭しない場合に、過料のみを以てその制裁とするか、或いは進んで刑罰をも科するかということは、一つの立法政策になろうかと考えますが、日本刑事訴訟におきましては、英米のごとくコンテンプト・オブ・コート、包括的な制度運用されておりませんので、或いは証人召喫を受けて出頭しない場合に過料を科する、そのように個々的な條文しか規定しなかつたのでありますが、これでは円滑な刑事訴訟運用ができ兼ねるというところから、英米コンテンプト・オブ・コートの精神を採り入れまして、事情によりましては刑罰をも科し得るという形にいたしまして、制裁を強化いたしたわけでございます。
  17. 大野幸一

    大野幸一君 最後に女子身体の意味の中に、女子陰部は含れるのか含れないのか、お尋ねしたい。これは詰らないようなことでありまするけれども、重大なことと思いまするから、その場合に裁判所みずから女子陰部檢査することがてきるかということについて、お尋ねして置きたい。
  18. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) ただその構造等を観察いたしまする場合においては、言い換えますれば、或いは強姦の被害者性交能力があるかどうかという点を観察いたしまする場合においては、やはり檢証としての身体檢査として女子陰部をも檢査し得る、こう考えております。女子が性病を持つておるかどうかという点まで調べるという場合には、檢証としての身体檢査ではなくして、後にございます鑑定としての身体檢査ということになろうかと考えておりますが、いずれにいたしましても、檢証のための身体檢査に際しましても、女子陰部だけを見得る、こう考えております。
  19. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 一点だけ、百二十六條にあります「檢察事務官又は司法警察職員は、勾引状又は勾留状を執行する場合において必要があるときは、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物、若しくは船舶内に入り、被告人捜索をすることができる。この場合には、捜索状は、これを必要としない。」かようにありまするが、勾留状及び勾引状の要件としてありまするのは、第六十四條によつて被告人の氏名及び住居、罪名、公訴事実の要旨、引致すべき場所勾留すべき監獄、その他有効期限等を書いてありまするので、勿論何人の住居、或いは邸宅、建造物内にも、苟も勾留状、勾引状を以て対人捜索をいたしまする場合には、その勾引状、或いは勾留状に何ら場所の指定がなくとも、何人の家にも自由に入ることができるというふうに解釈いたしておりますが、そういうふうに見てよろしいのか、どうか。
  20. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 御質問のように、百二十六條の場合におきまして、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物、若しくは船舶の内に入り得る場合というのは、特に場所の制限というものは規定してございませんので、何人の家にも入り得るという結論になろうと考えております。で、この規定は、憲法三十五條によりますると、捜索について必ず状状を必要とする、こうなつておりまして、但し憲法三十三條の場合は除外する、こうなつております。三十三條の場合は、現行犯として逮捕する場合、又は権限を有する司法官憲が発した令状によつて逮捕をいたす場合には、必ずしも捜査令状がなくして、他人の住居等に入りまして捜索することができるという憲法第三十五條規定がございますので、それを受けてこのような規定を設けたわけでございます。勿論御指摘のようにやや不安の感無きにしもでございまするが、この百二十六條によります捜索は、被告人捜索だけでありまして、現場において從來行われておりましたガサ、つまり現場の物の捜索ということはいたさないのでありまするので、必ずしも御心配がないのではないか、このように考えております。
  21. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 第百二十七條によりますと、百十一條、百十二條、百十四條及び百十八條規定準用があります。勾引状勾留執行に当りましては、相当な強行手段を用いることを許されておりますので、若しこれを殆んど無制限に勾留状、勾引状がある限りにおいては、何人の家でも自由に強行捜索をなし得ることにして置いて、果してこの我々の居住権の保障が完うし得ることができるだろうかということについては、非常な不安を感じますのみならず、恐らくは憲法第三十五條規定におきましてもそれ程までの私は廣義に解すべきものではないと感じておりますが、その点政府委員はどうでしようか。
  22. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 勾引状勾留状というものは、必ずしもこれを執行する場所というものを特定しておりません。勾引される対象或いは勾留される対象を特定しておるだけでございます。でこの勾引状又は勾留状を持つて勾引すべてき被告人、或いは勾留すべき被告人を捜して、その執行をいたすわけでございまするが、必ずしもその人間が、或る特定場所におるということは限りませんので、その勾引状勾留状によつて、適宜その対象となる人間のおる場所を捜して、その家の内に入つてその執行をいたすわけでありまするが、勿論この場合におきましても、勝手に何人の家にも入るということは、檢察事務官又は司法警察職員といたしましては適当でないのでありまして、十分にその人間が、その家におりそうな状況というものがあります場合に、初めて入つて行くという運用になろうかと考えます。法律の規定の上におきましては、必ずしも入り得る場所を限定してはございませんが、実際にこの條文を活用いたしまする場合には、特別な状況がありまして、その勾引又は勾留の対象となるべき人のおりそうな住居、その他に入ると、こういうことになろとう考えております。
  23. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 一例を挙げますと、勾留状及勾引状がありまして、それを苟くも携えておりましたならば、無鉄砲にどこもかしこも入るということは、檢察官、檢察事務官、或いは司法警察職員としてはあり得べからざるに拘わらず、法規の上において自由に入り得ることになり、やがては錠を外し、封を開き、その他必要な処分をなし得るという、例えば、百十一條規定等でございまするので、そういうようなことで以て嚴格に一方においては規定をなしながら、他方においてこういうような大きな穴を作つて置いて、果して憲法趣旨に適うものと政府はお考えになつておるかどうか。又これに対して物件の捜索等については、物の指定を法律は嚴格に規定しております。然るに逮捕の場合については何らそれについて法的制限がない、勾引状勾留状がある限りは、何人の家にも自由に入つてつて、錠もあけることができる、封も開くことができるということにして置いて、我々の一体民主國民権利というものは保障されるものと御覽になつておるかどうか。重ねてこの点をお伺いいたします。  尚又規定の上において、その制約規定が技術的に非常にむずかしいというのであるならば、まだしもでありまするが、手放しでこういうようなことの規定をなしますることは、却つて我々の居住権というものは、全くこれはもう不安の中に置かれるようなことになりますので、併せてこの点も重ねて伺いたいと思います。
  24. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 御心配の点、誠に御尤もと考える次第であります。併しながら一面被告人又は被疑者というものを極力追及いたしまして、これを勾引し、勾留し、又は逮捕しなければならないというのは、國家社会の要請であろうかと存じます。勾引状勾留状につきまして、或る特定場所のみを指定しまして、それ以外の場所でこの状状を執行してはならないという建前にいたしますると、人間というものは動いておりまするので、実際問題といたしましては、勾引状、又は勾留状の執行が大多数の場合不可能になつて來るのではないかと思います。或いは勾引状勾留状を執行するために、その被告人住居に参りましたなれば、これを察知いたしまして、その被告人が逃げたというような場合には、それを追跡して、他の人の住居等に入つて行かなければならない場合もございまするし、事情によりましては、必ずしも被告人住居でない場所においても、その執行をしなければならない必要もございますので、人権の尊重と公共の福祉という両方面の要請を十分に考慮いたしまして、その中間の線を引く意味において、この規定に設けた次第でございます。
  25. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 被告人捜索して、逮捕して、そうして速かに治安の維持をなさなければならんということは言うまでもありませんが、併しながら一方においては、犯人を隠匿いたしまするならば、それについて重大なる隠匿者に対する刑事責任がある。そういう意味において、一般を戒めます規定というものは、嚴格なる実体法規定によつて、それを規定して戒めましたら、その点で十分じやないかと思います。若しそういうようなことなくして、自由に、今状ある限りにおいて軒並にやられましたならば、我々の居住権というものが、果して安住することができるかどうかということに対しまして、非常に不安を感ぜざるを得ないと思います。これ以上議論いたしましても致し方ありませんが、余りにも手放しの規定のように思いますので、伺つたのであります。
  26. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 御心配の点、立案当局といたしましても十分に考慮いたしたのでありまするが、勾引状勾留状を執行いたしまする場合には、人の住宅だけでなくして、場合によつては旅館その他の場所も対象にいたさなければなりませんので、御心配のような点もあるのではありますが、百二十六條のような規定を置きまして、被告人勾引勾留或いは被疑者の逮捕ということが、十分になし得るように配慮いたしたわけであります。併しながら御質問のように、勾引状勾留状を持つておりますからと言つて、何らその家にその被告人がおりそうもないような家を軒並に入つて歩くというならば、それは司法警察職員所しては明らかに権限の濫用であると考えております。
  27. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 他に御質疑はありませんですか。それでは第十一章証人尋問のところを御説明願います。
  28. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 第十一章証人尋問の章を御説明申上げます。  改正案におきましては、被告人尋問の章を総則から削除いたしまして、被告人尋問は、ただ公判の三百十一條規定によりまして、必要がある場合な、裁判所が適宜必要な事項の供述を求めるという規定だけを置きまして、從來行われておりましたような、裁判所が公判の先ず冒頭において、被告人を詳しく尋問するという立て方を、改正案においては止めまして、その代りその被告人の有罪を立証いたしまするのには、先ず証人、書面、物等の証拠によりまして認定をするという建前を取りました関係上、証人尋問というものも今回の改正案においては、可なり重点を置きまして改正をいたした次第であります。  先ず百四十三條の裁判所が何人でも証人としてこれを尋問することができるという根拠規定は、現行法と同樣であります。「この法律に特別の定のある場合」と申しまするのは、本章の後の條文でございます。  百四十四條の、公務員又は公務員であつた者が知り得た事実について、本人又は本人の属する公務所から、職務上の秘密に関するものであるということを申立てた場合には、当該監督官廳の承諾がなければ証人として尋問することができない。この規定現行法と殆んど変りがございません。ただ現行法におきましては、特別の官吏につきましては勅許を要するという規定を設けてあつたのでありまするが、新憲法下におきましては、勅許にかからしめるということは、憲法違反の疑いもございまするので、この規定を削除いたしまして、当該監督官廳は國の重大な利益を害する場合を除いては、この承諾を拒むことができないという但書を設げたわけでございます。  百四十五條につきましては、第百四十四條の規定によつて、公務員又は公務員であつた者が、職務上の秘密に関するものであることを申立てるのでありまするが、その場合において百四十五條第一号にありまする衆議院議員、参議院議員又はこれらの職に在つた者、第二号の内閣総理大臣その他の國務大臣、又はその職に在つた者は、いわゆる監督官廳というもののない公務員でありまするので、第百四十四條の規定によりませんで、百四十五條で衆議院議員、参議院議員につきましては、その院の承諾がなければ証人として尋問することができない。内閣総理大臣、その他の國務大臣につきましては、内閣の承諾がなければ証人としてこれを尋問することができないと、こういう規定を置いたわけであります。而して「衆議院、参議院又は内閣は、國の重大な利益を害する場合を除しては、承諾を拒むことができない。」とこのようにいたしたわけであります。  第百四十六條は、從來の規定を整理いたしまして、証言拒否に関する規定を百四十六條と百四十七條の二つの條文に整理いたしたわけであります。百四十六條は何人も自分が刑事訴追を受け、或いは自分がすでに起訴されておりまする場合に、有罪判決を受ける虞れのある証言は拒むことができる。これは憲法三十八條第一項に基きまして、自分自身を危險に陷れるような証言は、絶対に強制されないという趣旨に基いておる規定であります。尚百四十七條は、何人も百四十七條第一号乃当第三号に掲げるものは、刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞れのある証言を拒むことができる。これも從來はこの百四十七條に相当いたしまする規定が可なり廣範囲でありまして、而もこのような関係がありまする場合には、如何なる証言もすべて拒否できるという形になつておつたのでありまするが、例えて申しますれば、親族のうち血族は、從來四親等でありましたのを三親等に減じ、姻族につきましては三親等でありましたのを二親等に減じましたし、その他條文を整理いたしまして、証言拒否をなし得る範囲といういものを狹くいたしおります。尚拒否できる証言は、すべての証言ではありませんで、刑事訴追を受け、又は有罪判現を受ける虞れのある証言のみを拒否できると、このようにいたしたわけであります。この百四十六條、百四十七條の意味は、これからの刑事訴訟におきましては、無暗に証言を拒否されますると、被告人は終始黙秘権を持つておりまするし、他の証人によつて証拠を得ることも不可能となるということを考慮したしてまして、從來の証言拒否巻の範囲を狹め、整理いたしたわけでございます。  百四十八條は、現行法にありまする規定と同樣でありまして、共犯又は共同被告人の一人又は数人に対して、前條の親族、後見人、後見監督人、保佐人等の関係がある者でありましても、他の共犯又は共同被告人のみに関する事項については、証言を拒むことはできないといたしました。  次に第百四十九條の規定は、最前押收拒否権について御説明いたしたところと同樣、「医師、歯科医師、助産婦、看護婦弁護士、弁理士、公証人宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたたる知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、証言を拒むことができる。」と、これは現行法にもある規定でありまして、押收拒否権について整理をいたしましたと同樣、或る程度の整理をいたしまして、やはり証言拒否権の範囲を幾分狹めたわけでございます。この百四十九條の証言拒否権も、但書の場合において、その本人が承諾しておる場合、又は証言の拒絶がただ單に被告人の利益のためのみを考えまして、権利の濫用と考えられる場新、その他裁判所の規則で定めました事由がある場合には、証言拒権がないということにいたしたわけでございます。  次に百五十條及び百五十一條は、召喚を受けた証人が、正当な理由がなく出頭しない場合における制裁の強化の規定でございまするが、百五十條におきましては、五千円の過科且つ費用賠償を命ずるということにいたしまして、百五十一條におきましては、刑罰として五千円以下の罰金又は拘留に処する、情状によつて罰金及び拘留を併科することもできるということにいたしたわけでございます。これは身体檢査のための召喚について御説明申上げましたように、一般國民が、今後より以上に刑事訴訟に協力して頂かなければならない関係からいたしまして、從來以上に、召喚を受けた証人が出頭しない場合の制裁を強化いたしたわけでございます。百五十二條は、召喚に應じない証人を更に召喚でき、又は場合によりましては勾引もできるという根拠規定を置いたわけでございます。これは現行法と変りございません。百五十三條は、この証人召喚及び証人勾引につきまして、被告人召喚及び被告人勾引規定準用いたしました準用規定であります。  次に百五十四條は、証人の宣誓に関するる規定でありまするが、原則といたしましては、証人に対しては宣誓をさせなければならないという規定を設けました。然して宣誓の方式、宣誓書の記載事項等は、すべて裁判所の規則に讓つたわけでございます。百五十四條は、宣誓をさせないで尋問する場合の規定でありまするが、現行法におきましては、宣誓させないで尋問する場合の規定は二百一條規定でありまして、現行法においては、十六才未満の者、宣誓の本旨を解すること能はざる者、現に供述をする事件被告人と共犯の関係のある者も又はその嫌疑のある者、又は現行法百八十六條第一項に規定する関係がある者であつて証言を拒まない者、百八十八條の場合で、証言を拒まない者、被告人の傭人又は同居人、このように沢山のものにつきまして、宣誓をさせないで尋問をせよという二百一條規定があつたのであります。この現行法趣旨は、これらの者は、必ずしも眞実を言わない、又は眞実を僞証の制裁を科してまで言わせるということは苛酷であるという配慮をいたしまして、宣誓をさせないで、とにかく或る供述をさせ、その嘘も本当も混つて供述の中から、裁判所が自由心証によりまして正しい供述を証拠として選び出すという考え方に立つておつたのでありまするが、今回の改正案におきましては、この現行法二百一條條文を整理いたしまして、百五十五條におきまして、ただ「宣誓の趣旨を理解することができない者は、宣誓させないで、これを尋問しなければならない。」という規定といたしました。その以外の者につきましては、すべて宣誓をさせなければならない、こういう立て方をいたしたわけであります。勿論この場合におきましても、最前御説明いたしました百四十七條との関係がある者は、刑事訴追を受け、有罪判決を受ける虞れのある証言は、個々の質問に対する証言というものは、拒否できることは申すまでもないことであります。次に百五十六條の、証人が実驗した事実から推測した事項を供述することができるという規定は、現行法と同樣でございます。  次に百五十七條、これは証人尋問につきまして、檢察官被告人又は弁護人立会権規定でありまするが、檢察官被告人又は弁護人は、証人の尋問にすべて立会権がある。從つて証人尋問の日時、場所はこれらの者に通知しなければならない。但しこれらの者が予め裁判所に立会わない意思を明示しておつた場合には通知しなくてもよろしい。檢察官被告人、又は弁護人証人尋問に立会つた場合には、裁判長に告げて、その証人を直接尋問することができる。こういう証人尋問立会権及び証人の尋問権を規定いたしました。これが公判以外の場合の証人尋問の原則となる規定であります。  次に百五十八條規定でありまするが、この改正案におきましては、証人尋問は原則としては裁判所召喚してなすべきものである。但し、百五十八條の例外の場合にのみ裁判所外に召喚をし、又はその証人が現在しておりまする場所に臨んで、そこで尋問をすることができるという例外の規定を百五十八條で設けたわけであります。即ち裁判所は、証人の重要性、年齢、職業、健康状態その他の事情と、現在裁判所が審理いたしておりまする事業の軽重とを考慮いたしまして、檢察官及び被告人、両当事者の意見を聽いて、必要のある場合にのみ裁判所外に証人召喚し、又はその現在場所に、臨んで尋問をすることができる、こういうことにいたしたわけであります。この場合には第二項によりまして、裁判所は職権で尋問をいたします場合であつても、或いは檢察官被告人の申請によつて証人尋問をいたします場合であつても、その尋問事項を当事者に知る機会を與えなければならない。檢察官被告人、又は弁護人裁判所から知る機会を與えられた尋問事項を読みまして、その尋問事項では足りないと考えた場合には、その尋問事項に附加して、必要な事項の尋問を請求することができる。從いまして今後の裁判所外の尋問、即ち受命判事、受託判事等によつてなされます尋問につきましては、予めその尋問事項を当事者に知らせまして、当事者がその尋問事項を不満足と考える場合にはそれに附加して、尋問事項を附加えて、そうしてその尋問事項を受命判事に渡し、或いは受託裁判所に送りまして、そこで尋問がなされる、こういう形になるわけであります。この百五十八條規定は、憲法被告人は、すべての証人を十分に審問する機会を與えられなければならないという規定によりまして、現行法のように如何なる事項が尋問されるか、被告人が知らない間に証人尋問がなされることを防ぐ意味におきまして、このような規定を設けたわけでございます。  次に百五十九條は、百五十八條によつて受命裁判官、又は受託裁判官による証人尋問が行われるわけでありまするが、このような百五十八條規定による証人尋問に、檢察官被告人又は弁護人が立会わなかつた場合には、その証人尋問が終つた後で、証人尋問の内容を当事者に知る機会を與えなければならない。前項の証人尋問被告人に予期しなかつた著しい不利益なものである場合には、被告人、又は弁護人は更に必要な事項の尋問を請求することができる、こういう規定を設けまして、被告人憲法上保障されました証人の尋問権というものを確保しようといたしたわけであります。勿論この再尋問の請求が、その理由がないと認める場合には裁判所はこれを却下し得るわけであります。  次に百六十條及び百六十一條規定は、「証人が正当な理由がなく宣誓又は証言を拒んだ」場合の制裁規定でありまして、過料制裁は五千円に強化いたしまして、更に事情によりましては百六十一條で「五千円以下の罰金又は拘留に処する。」ことができる、こういう規定を設けたわけであります。その趣旨は最前より説明いたしておるところであります。  次に百六十二條の、「裁判所は、必要があるときは、決定で指定の場所証人の同行を命ずることができる。」、「同行に應じないときは、これを勾引することができる。」という規定現行法と同樣であります。次に百六十三條の「裁判所外で証人を尋問すべきときは、会議体の構成員にこれをさせ、又は証人の現在地の地方裁判所若しくは簡易裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる。」、という規定現行法と同樣であります。この規定は百五十八條で、裁判所外の例外の場合の証人尋問を、この百六十三條によつて、受命裁判官或いは受託裁判官になさしめ得るということになるわけであります。百六十四條の「証人は、旅費、日当及び宿泊料を請求することができる。」、併しながら「正当な理由がなく宣誓又は証言を拒んだ者は、」その請求権がないという規定現行法と同樣であります。
  29. 伊藤修

    委員長伊藤修君) では本章に対する質疑は午後に讓りたいと思います。  尚この際お諮りいたしたいことがありますから御報告申上げます。治安及び地方制度委員会から、同委員会に附託せられておるところの警察官職務執行法案、この審議に際しまして司法委員会と合同審査をいたしたいと、こういう申出でがありましたから、これは本刑事訴訟法の法案とは至大の関係を有しておりますから、この申込を承諾いたしまして、本委員会において連合委員会を開くということにいたしたいと思いますが、御異議ありませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  30. 伊藤修

    委員長伊藤修君) それではさよう決定いたします。從つてその連合委員会は、明後日の午前十時から開かれる旨の申出でがありますから、御了承を願いたいと思います。午後は一時半から再開いたします。これを以て休憩いたします。    午後零時九分休憩    —————・—————    午後一時五十三分開会
  31. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 午前に引続きまして、司法委員会を開会いたします。刑事訴訟法を改正する法律案について引続き審議を継続いたします。午前中の御説明に対して、御質疑ありませんですか。
  32. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 第百四十六條の「何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。」、こういうふうになつておりまするが、これはただ有罪判決を受ける場合のみに限定されておりますのは、非常に狭きに失しております。と思いまするのは、人として恐れることは、單り有罪の場合のみならず、情状等に関しましても、有罪判決を受ける以上の大きな本人に痛痒を感じまする場合があるのであります。それのみならず、何人も名誉を重んじ、名誉によつて生きておるというふうな場合も沢山あり得ると思います。なぜ今度はこういうふうに從來の刑事訴訟法を改めて、証人範囲というものを縮少したかという、この理由をこの際承わりたいと思います。少くとも自己の権利を著しく不利益に導くようなことを強いることは、暴力以上の大きな圧迫だと思います。この点について一應御説明を伺いたいと思います。
  33. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 現行刑事訴訟法の百八十八條によりますと、証言をすることによつて、自己又は自己と百八十六條第一項の関係のある者が刑事訴追を受くる虞れがあるときは証言を拒むことができるという規定があつたわけであります。從いまして、被告人に関する限りにおきましては、現行法百八十八條をさして狭めたということはできないと考えております。ただ現行法においては、二百二條の規定がございまして、証人供述が、証人若しくはこれと百八十六條第一項の関係のある者の恥辱に帰し又はその財産上に重大なる損害を生ずる虞れがあるときは、宣誓をさせないでこれを訊問することができるという規定があつたのでありまするが、この二百二條の規定は、今回の改正案では削除いたしてございます。  次に現行法の百八十六條によりますると、被告人の配偶者その他の親族、被告人の後見人、後見監督人、保佐人、或いは被告人を後見人、後見監督人又は保佐人とする者は、その関係がありますれば、何らの事情を述べることなしに、すべての証言を拒むことができるという規定があつたわけであります。この百八十六條の規定は、改正案の百四十七條のごとく、その範囲を狭めますると同時に、拒否し得る証言の事項を制限いたしまして、刑事訴追を受くる虞れ又は有罪の判決を受ける虞れのある証言のみを拒むことができるというふうに制限いたしたわけであります。このように二百二條を削除いたし、百十八六條の範囲及び事項を制限いたしました趣旨は、今回の改正案が、被告人に終始沈黙する権利、陳述を拒否する権利を與えました半面、一般國民刑事訴訟に十分に協力しなければならないという趣旨から、現行法の百八十六條のごとく、親族等の関係がありますれば、それだけですべての証言を拒んでしまうというのでは、刑事裁判を遂行し兼ねるのではないか。又一面逆に考えますると、被告人の有利の証人でありまする場合ならば、たとえこの現行法百八十六條のごとき関係のありまする者であつても、必ずしも全面的に証言を拒否する必要はないのでありまして、有利な証言はどんどん証言して黙るべきものという考えもございまして、改正案百四十七條のごとく、刑事訴追を受くる虞れのある供述又は有罪の判決を受くる虞れのある供述だけを拒むことができると、これは憲法から申しましても、これらの供述を強要するということは、憲法上でき得ないことでありますので、刑事訴訟法の上においては、この憲法の線で止めまして、廣く一般供述を求め得るという建前に改めたわけでございます。この点が鬼丸委員は証人の名誉心或いは恥辱心、財産上の利益、その他各種の利益を無視して証言を求めることになるのではないかという点、御心配いたしておられるわけでございまするが、被告人の徹底した黙祕権を認めまする半面、この程度の証言を求める権利を訴訟法上規定いたしませんと、刑事訴訟の運営ができ兼ねるという趣旨から、このように改正をいたしたわけでございます。
  34. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 被告人に黙祕の権利を與えましたることはさることながら、その被告人の黙祕権を認めたことによつて、何ら第三者の関係なき者に対して、自己に刑罰以上の大きな利害関係等がありまするような場合があつても、それをみずからの口によつて公けにしなければならんということになりまするならば、むしろ私は有形的物資力を加える以上の大きな拷問ではないか。而もそれがみずから求めたる不徳のために刑事被告人になつておるというなら別でありますが、何ら自己の責に帰すべからざる理由によつて被告人の沈黙権を認めたその影響として、さように善意の第三者に対しまして、こういう自己を護るの途を法律によつてとらしめますることは、如何にもどうも不自然であると思います。定めしこの点については原案を作りますときにも、当然相当な議論があつたものと思います。若しも他に又この点に対しまする有力なる理由がございましたら、この際御開陳願いたいと思います。  それから続いて百四十九條の但書の末項に「但し、本人が承諾した場合、証言の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合その他裁判所の規則である事由がある場合は、この限りでない。」ということになつております。先程も大野委員から質問がございましたごとくに、百四十九條の前項においては如何にも権利を保護したるがごとくになつて、実は直ちにそれに対しまして、権利濫用ということに持つてつておりまするばかりでなく、こうした法文上の但書を明記いたしております場合に、特にその他裁判所の規則で定める事由がある場合というふうにいたしまするならば、どんなことを一体予想して、こういうふうな除外例を、特にこの際裁判所の規則に讓つた理由はどんな理由でありまするか、お聽かせ願いたいと思います。
  35. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 第一点の、百四十七條の範囲及び事項を制限した立法理由につきましては、最前お答え申上げましたように、被告人の黙祕権を徹底強化いたしました半面、一般の第三者でありまする國民刑事訴訟に十分協力して頂きたい。それがその証言が若し第三者、本人を刑事上不利に陷れるごとき供述であります場合においては、憲法上当然証言を拒否し得るわけでありますが、ただ單に財産上の損害がある場合であるとか、或いはただ單にその者の恥辱となるという程度の不利益であるならば、その程度の不利益は我慢して頂いて、刑事司法権の実現に協力して頂きたいというのが、この百四十七條の立法趣旨でございます。この点が被告人を保護するからと言つて、第三者の権利までも侵害するごとき改正案は如何なものかという点につきましては、十分御批判を受けたいと考えておりますが、いずれにいたしましても、被告人権利の保護と同時に、一般公共の福祉という両面を常に刑事訴訟法においては考えて参らなければならない関係上、このような改正をいたしたわけでございます。  次に百四十九條の但書において、本文を裁判所の規則の定める事由で、その除外事由を決めておる理由如何という御質問でございまするが、百四十九條の根本的な考え方といたしましては、百四十七條において御説明申上げましたごとく、一面医師、歯科医師、弁護士等、百四十九條に列挙したしました者の業務の保護、及びこれらの業務に從事する者の顧客の保護を図ると同時に、その証言拒否権を余りに強くいたしますると、これ又刑事訴訟の運営に支障を來たすというところから、現行法においては但書が、ただ單に本人が承諾した場合だけが例外になつておつたのでありまするが、その本人が承諾した場合の例外に、更にその証言拒否が被告人の利益のためのみにする権利の濫用と考えられる場合、その他裁判所の規則で定める事由がある場合には、証言を拒否することができないという規定を置きまして、本文の証言拒否権に或る程度の除外事由を規定いたしたわけであります。それで裁判所の規則で定める事由は何かという御質問でございまするが、本文の証言拒否権というものが余りに強過ぎますると、刑事訴訟の運営上は困る場合が予想されますので、將來裁判所の規則で、本文の証言拒否権に或る程度の制限を設けてもよいという除外事由を規定したわけでございまして、現在において具体的な事例というものは必ずしも予想いたしておりません。
  36. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 一般人に対する証言拒否の範囲は「自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある」場合のみでありまして、ところが百四十九條の方では、医師その他の業務に携わる人が、業務上知り得た事実で他人の祕密となつておりますこの範囲と、それからして百四十六條との範囲には相違があるように思います。というのは、百四十九條というものの方で以て但書で、被告人のためのみに権利の濫用をする場合のみは、拒否権が認められぬとなつておりますが、その他は拒否してよろしいということになつております。そうするというて、百四十六條の範囲と百四十九條の範囲とは相違ができて來ると思います。のみならず、そこへこの百四十九條の但書の「裁判所の規則で定める事由」というのが新らしく加わりまするから、これで以て調整するというお氣持であるのか、若しそういうことであるとすれば、予め予想することができるのでありますから、立派に本文に規定しなければならん。法律で以て規定するにあらざれば、いけないことに拘わらず、特に同樣なる價値ある事項を裁判所の規則に定めることも許すということはどういうのであるか、況んや只今の説明によりますると、裁判所の規則で定めるという事項というものは、今は予測する何ものもないということに至つては、全然法文の裏に何らか含むものがあるごとくに思います。もう少し明確なる法文にしなければならんのではないかと思います。御説明願いたいと思います。
  37. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 百四十六條及び百四十七條の証言拒否をなし得る事項というものは、自己又は自己と親族関係ある者が刑事訴追を受ける虞れのある証言又は有罪判決を受ける虞れのある証言と限られておりまして、百四十九條の方の証言拒否の範囲は「業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の祕密に関するもの」でありまするので、御指摘のように百四十六條及び百四十七條の証言拒否権の範囲と、百四十九條の証言拒否権の範囲とはその範囲が異つております。言換えますると、百四十九條の証言拒否権の方が、百四十六條、百四十七條の方よりも範囲が廣いとこう考えております。百四十九條におきまして、医師、歯科医師、弁護士、弁理士等が、その業務上の委託を受けて知つた事実で他人の祕密に関するものであるというので、すべて証言を拒否いたしますると、百四十九條に掲げまする職業にある者につきましては、適当な証言が得られないという結果になりまするので、本人が承諾した場合のみならず、裁判所の規則で定める事由がある場合には、その証言拒否権を行使することができない、除外事由を定めることにいたしまして、その調節を図つたわけでございます。「裁判所の規則で定める事由」は、將來裁判所の規則制定委員会等によりまして、適当なる線が引かれることを予測いたしてあります。
  38. 大野幸一

    大野幸一君 條文の順序に從つてお尋ねして見ます。先ず冒頭の百四十三條の「何人でも証人としてこれを尋問することができる。」という意味は、その何人の中には天皇陛下は入るのか入らないのか、こういう点であります。
  39. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 現在の國法上甚だむつかしい御質問でございますが、現在の解釈といたしましては、天皇は証人尋問の対象となられない、このように解釈いたしております。
  40. 大野幸一

    大野幸一君 本員は天皇が証人の資格を有せられることについては、別に天皇の、日本國民統合の象徴である天皇の地位を傷けるものではないと思いまして、この條文の中には天皇を含むものと解して差支ないものという意見を持つております。まあそれは政府の意見と私の意見との相違点でありますが、それは解釈論に任すことといたしまして、次の條文に移ります。  百四十四條の中頃に「当該監督官廳の承諾がなければ証人としてこれを尋問することはできない。」、こういう当該官廳の承諾は誰が求めるのでありましようか。証人自身が求めるのか、尋問者が当該官廳へ求めるのか、裏から言えば、当該官廳の承諾は何人に対してなされるのか、尋問者に対してなされるのであるか、証人に対してなされるのであるか、この解釈を承わりたいと思います。
  41. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 百四十四條本文の「当該監督官廳の承諾」と申しまするのは、尋問をする裁判所又は裁判官が求めるものと解釈いたしております。但し尋問を受ける証人が、適宜自己の監督官廳の承諾を得て参りまして、尋問に應ずる場合には、この規定が事実上は働いて來ないことになりまするので、そのような運用もあり得ると、こう考えております。
  42. 大野幸一

    大野幸一君 次に百四十七條の「刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。」、この意味は、いわゆる証人の尋問中、その一部に対して証言を拒み得るという規定でありますか。
  43. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 御質問の通りと解釈いたしております。現行法によりますると、被告人の配遇者その他の親族等は、その関係がございますると、すべての証言を拒否できたわけでございますが、百四十七條は、第一号乃至第三号に揚げます事由がある者でありましても、必ずしも全面的な証言拒否権はない。個々の発問につきまして、刑事訴追を受ける虞れ又は有罪判決を受ける虞れのある事項に限つて、証言を拒むことができるというふうに規定を改めたわけでございます。
  44. 大野幸一

    大野幸一君 それから百五十條、百五十一條でありますが、百五十條には「召喚を受けた証人が正当な理由がなく出頭してないときは、」とこうあるのです。次は「証人として召喚を受け正当な理由なく出頭しない者は、」と、こういうように、文章が幾分違つて、而も意味は同じようにとれるのですが、この文章を変えたところに何か意味があるのですか、ないのですか。
  45. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 百五十一條につきましては、從來の刑罰規定が、何々した者は何々の罰金に処するという書き方をするのが通例でございまするので、百五十一條のごとく、召喚を受けた証人が正当な理由がなく出頭しないときは、五千円以下の罰金に処するという書き方をしなかつただけでございまして、その内容においては全く同樣に考えております。
  46. 大野幸一

    大野幸一君 次に百五十八條に、裁判所は一定の場合に、必要であるときは裁判所外にこれを召喚することができることになつておりまして、その場合のきに尋問順序を変更する規定がないようでありますが、これはやはり置く必要があると思いますが、ここにお省きになつ理由をお伺いします。これは公述人から得た注意でありますが、政府の所見を質したいと思います。
  47. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 公判期日における証人尋問の順序につきましては。三百四條に規定がございまして、その第一項において、先ず裁判長又は陪席の裁判官が尋問をし、第二項において檢察官被告人又は弁護が尋問をする、このような尋問順序の規定が第一項、第二項にありまする関係上、第三項において、当事者の意見を聽いて裁判所がその順序を変更するという規定を設けたわけでございます。併しながら百五十八條の場合におきましては、百五十七條において証人尋問の順序の規定がないのであります。百五十七條は第一項において立合権、第三項において、立合権を有する者が立会つた場合に証人尋問権を持つておるということだけ規定してございまして、この百五十八條の場合における証人尋問の順序に関する規定がございませんので、從いまして三百四條第三項のごとき尋問順序の変更に関する規定を設けなかつたわけでございます。然らば、この百五十八條の場合の尋問の順序をどうするかという点は、この法律自体には規定がございませんで、裁判所の規則に讓られておる。從つて裁判所の規則が、若し裁判所が先ず尋問して、その後に檢察官被告人が尋問するという尋問順序の立て方をいたした場合には、場合によりましては、三百四條第三項のごとき規定が必要になつて來るのではないかと、こう考えております。
  48. 大野幸一

    大野幸一君 最後にもう一点お伺いいたします。一体この刑事訴訟法を作られる時なんか、この條文に現わす前に、一定の例を採られ、或いは実例を採られ、いろいろな場合を想像せられて、そうして、それを定めるためにこの文章に現わされるということが、私は必要だろうと思うのであります。初めから抽象的に、どんな場合でもあり得るだろうと言つて規定を決めて置くと、そういう頭からできた法律だと、解釈する裁判官、檢察官が非常に迷う、こういうようなことに私はなると思うのであります。從つてこういう場合を、私は政府に一つ例を示して置いて貰いたい。これは全裁判官の解釈資料となるために、例示して置いて貰いたい。本日ここで例示の用意がなければ、これは次の委員会でよろしいですから、二、三の場合について例示して置いて貰いたいと思うのであります。それは百四十八條の「共犯又は共同被告人の一人又は数人に対し前條の関係がある者でも、他の共犯又は共同被告人のみに関する事項については、証言を拒むことはできない。」、これを適用する場面に至りますると、相当これは爭が起きると思います。従つて一の共犯事件を例に採られて、その例示のして置いて貰うことがいいかと思うのであります。次の百四十九條にも「証言の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用」、こういう場合はさてどういう場合であるか、これも例示的に一つ設例を挙げて御説明を、他の機会でもよろしいから、して置いて頂きたい。それから鬼丸委員が御指摘になりました通り、その証言拒絶権がない場合に、裁判所の規則で定めることを、今も尚どんな場合か予想しないで、漫然と委任しておるということの御説明であつたが、例えばその場合でも我々の普通の解釈からすると、「権利の濫用と認められる場合その他」というと、やはり権利の濫用と認められるとか、これと近いような事項に限つて裁判所が規則で定めることができるというようにも解釈することができる。「何々その他の場合」というと、多く前の文章は例示的になるので、ここでは例示的に使われないということにしますか、こういう解釈がなかなかむずかしくなりますから、こういう点でも一つ次の機会までに、裁判所が規則を定めるというのは、まあ、予想すればこういう事柄だというくらいの例を用意して置いて頂きたいと思うのであります。
  49. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 百四十八條につきましては、現行法にもある規定でありまするが、百四十九條の但書の「証言の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合その他裁判所の規則で定める事由がある場合」というのは、現行法にない規定でございます。而して只今仰せのありました通り、すべての條文を作ります場合においては、具体的な事例というものを十分に檢討した結果、條文を書くのが至当であるという御議論は誠に御尤もでありまして、すべての條文はそのようにしてでき上らなければならないものと考えておりまするが、御承知のようにこの案自体が非常に急速に各方面の意見によつて作りました関係上、十分御満足の行くように仔細な檢討がなされておらないという非難は確かにその通りと考える次第であります。從いまして百四十八條及び百四十九條の御指摘の点につきまする具体的な設例を、次回までに準備してお答えいたしたいと思いまするが、御了承願いたいと思います。
  50. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 証人尋問に対しまして、申請者の方が先が尋問をするのであるか、或いは又裁判所が先にするのであるか、この証人尋問について交互尋問というふうなことについては、政府ではお考えがなかつたのでございますか。この点お伺いいたします。
  51. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 最前御説明申上げましたように、公判における証人尋問につきましては、三百四條において、その順序を規定いたしたのでありまするが、公判以外の証人尋問につきましては、規定の上においては、尋問の順序は規定いたさなかつたのであります。その公判以外の場合の証人尋問の順序につきましては、裁判所の規則に讓りまして、裁判所が先に尋問し、その後に申請者が補充的に尋問するという建前を若し採りますならば、三百四條第三項のごとき事情によりましては、その順序を変更することができるという規定を設けなければならないと考えております。
  52. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 先程大野君の質問に係るところの第百四十六條の、「何人」の中に天皇を含まないという、その理由の法律上の根拠を伺つて置きたいと思いますが、若しあれでしたら十分御研究になつて次回に御答弁願つてもよろしいです。
  53. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 刑事訴訟法、從いまして、それ以前のこの刑罰法令が、天皇に適用があるかどうかという点につきましては、只今までの我我の考え方といたしましては、刑事訴訟法は天皇に適用がないと、このように考えておりますが、更に十分政府部内におきましても討議を進めまして、後程更にお答えをいたしたいと考えております。
  54. 伊藤修

    委員長伊藤修君) もう一点、先程大野委員からお尋ねになりました百五十條と百五十一條、事実は同じような書き方でありますが、これはどういう事実の区別があるかどうか、一つ設例を設けて御説明願いたいと思います。
  55. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 從來のこの刑罰規定の、実体的な刑罰規定の書き方が百五十一條のごとく、何々をした者には何々の刑罰に処するという書き方をいたしておりまするので、百五十一條はその書き方を踏襲いたしたわけであります。百五十條の方は刑罰規定でございませんので、「召喚を受けた証人が正当な理由がなく出頭しないとき」という書き方をいたしましたので、百五十條も、百五十一條もその構成、要件、事実は全く同一と考えております。
  56. 伊藤修

    委員長伊藤修君) それじや他に御質疑がなければ進行いたします。第十二章鑑定。第十三章通訳及び飜訳。第十四章証拠保全。第十五章訴訟費用。以上四章について政府委員の御説明を求めます。
  57. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 先ず第十二章鑑定の章を御説明申上げます。  百六十五條、「裁判所は、学識経驗のある者に鑑定を命ずることができる。」という鑑定の根拠規定現行法と同樣であります。百六十五條の「鑑定人には、宣誓をさせなければならない。」という規定現行法と同じでありまするが、宣誓の方式、宣誓書の記載事項等はすべて裁判所の規則に讓つた次第であります。尚現行法の二百二十一條の鑑定の経過及び結果の報告の方式、二百二十二條の必要ある場合には鑑定人に裁判所外で鑑定をさせることができるという規定等につきましては、手続規定でありまするので、これも規則に讓つた次第であります。  百六十七條被告人の心神又は身体に関する鑑定をさせるについて必要がある場合には、期間を定めて病院その他相当な場所被告人を留置することができるという規定現行法と同樣であります。ただこの場合に現行法においては、特に留置状を発することが必しも必要ではなかつたのでありまするが、今回の憲法及びその下におきまする刑事訴訟法が、すべて令状主義を貫きました関係上、すべてこの場合でも第二項において必らず留置状を発してしなければならない。そうしてその留置状には勾留に関する規定準用するという建前をとつたわけでございます。  次に百六十八條の、鑑定について必要である場合には、鑑定人が裁判所の許可を受けて、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物、若しくは船舶等の内に入ることができ、又は身体檢査し、死体を解剖し、墳墓を発掘又は物を破壊することができるという強制処分を用いることができる規定現行法と同樣であります。ただこの場合におきましても、この裁判所の許可は、第二項におきまして令状主義を貫いて、許可状を発してこれをするという建前をとつたわけでございます。而して鑑定のために身体檢査をする必要があるのでありまするが、この鑑定のための身体檢査につきましても、檢証のための身体檢査と同樣、特に特別の考慮をいたしまして、第三項において裁判所は鑑定人がなしまする身体檢査に関し適当と認める條件を附することができる。例えて申しますれば、この身体檢査は病院で行わなければならない。或いは妊婦等の身体檢査でありまする場合には、特に産婦人科の病院でしなければならない。適当な條件をつけることができるという規定を設けたわけであります。この鑑定のための身体檢査につきましては、百六十八條末項において、檢証の場合にするところの身体檢査に関する規定準用いたしておりますが、ただ百三十九條を準用をいたしてございません。その意味は、鑑定人はたとえ裁判所の許可を受けましても、実力を以て身体檢査をすることはできないという建前をとつたわけであります。この場合におきましては、鑑定人が許可状を得ても、被鑑定者が身体檢査を拒んだ場合につきましては、百七十二條に規定を設けまして、「鑑定人は、裁判官にその者の身体檢査を請求することができる。」という建前をとつたわけであります、この場合には、裁判官は第十章の檢証規定に準じまして、窮極においては、実力を以つてその者の身体檢査をすることができるという立て方にいたしたわけであります。  百六十九條の、鑑定について必要な処分を受命裁判官にすることができるという規定は、現行法二百二十五條と全く同樣であります。百七十條の、檢察官及び弁護人の鑑定の立会権についても現行法と同じであります。百七十一條の、鑑定について勾引に関する規定を除いて、証人尋問に関する規定準用いたしましたことも現行法と同樣であります。百七十二條は最前御説明いたした通りでありまして、百七十三條は、「鑑定人は、旅費、日当及び宿泊料の外、鑑定料及び立替金の弁償を請求することができる。」という根拠規定をおきましたことも現行法と同じであります。百七十四條において、「特別の知識によつて知り得た過去の事実に関する尋問については、この章の規定によらないで、前章の規定を適用する。」学説上この点にいては爭いもございまするので、このような規定を設けたのでありまするが、これも現行法と全く同樣であります。  次に第十三章、通訳及び飜訳につきましては、百七十五條乃至百七十八條規定を設けたのでありまするが、これは全く現行法と同樣でありまするので、説明を省略いたします。  次に第十四章、証拠保全につきましては、この証拠保全の規定は、全く今回の改正案が新たに設けた規定でありまして、現行民事訴訟法においては、その三百四十三條以下に証拠保全の規定がございまして、從來から民事訴訟法においては、当事者訴訟主義をとつておりまする関係上、証拠保全の制度を認めておつたのでありまするが、それと相呼應いたしまして、当事者訴訟主義を著しく徹底いたしました改正案においては、証拠保全を新たに規定することにいたしたのであります。  この百七十九條によりますると、被告人、被疑者又はこれらの者の弁護人は、第一回の公判期日前に限り、即ち起訴前であると起訴後第一回の公判期日前であるとを問わず、予め証拠を保全して置かなければ、その証拠を使用することが困難な事情がある場合は、裁判官に押收捜索檢証証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができるということにいたしたのであります。「あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情」と申しまするのは、例えば証人が今まさに死にかかつておりまして、この証人せ今尋問しておきませんと、その証言を公判において使うことができないと予測される場合、或いは重要な証人が外國旅行等に出発しようといたしておりまして、現在その証人を尋問して置きませんと、証拠として使えない場合、或いは檢証等におきまして、現在檢証いたして置きませんと、現場が変つてしまうというような場合におきましても、この証拠保全の規定が活用されるものと考えております。  第百八十條は、証拠保全によりまして、保全した記録の閲覧、謄写権に関する規定でありますが、檢査官及び弁護人は、裁判所においてこれらの書類及び証拠物を閲覧し又は謄写することができる、即ち檢事が檢察廳へ持つて帰つたり、或いは弁護人が自己の弁護士事務所を持ち出して、これを閲覧し宣は謄写することは許しませんが、裁判所においては常にこれを見ることができる。被告人又は被疑者も裁判長の許可を受けました場合においては、裁判所においてこれらの書類又は証拠物を閲覧することができる。但し弁護人がない場合に限る。このような規定を設けまして、被告人、被疑者又はこれらの弁護人が、公判前に十分な準備を整えまして、公判においてその防禦を完全にする配慮をいたしたわけであります。  次に第十五章、訴訟費用につきましては、大体現行法と変つておりません。  第百八十一條第一項及び第二項は、現行法通りでありまして、ただこの第三項が新たに挿入された規定であつて檢察官のみが上訴を申し立てた場合において、上訴が棄却されたとき、又は上訴の取下があつたとき、言換えますれば、上訴が成功しなかつたときに、その上訴費用被告人に負担させるということは苛酷でありますので、そのような上訴費用は如何なる場合においても被告人に負担させることができないという規定を設けたわけであります。これに関連いたしまして三百六十八條以下に、このような場合においては、國家が当該事件被告人に対して、上訴によりその審級において生じた費用の補償をするという規定を新たに設けまして、檢察官の上訴を愼重ならしめると共に、檢察官の上訴が理由がなかつた場合における被告人の保護を厚くいたしたわけであります。  第百八十二條の、共犯の訴訟費用の連帶負担の規定現行法と同樣であります。第百八十三條は、告訴、告発又は請求によつて、公訴の提起があつた事件について、被告人が無罪又は免訴の裁判を受けた場合に、告訴人等に故意又は重大なる過失があつた場合には、それらの者に訴訟費用を負担させることができるという規定でありまして、現行法の二百三十九條に相当する規定であります。第百八十四條は、檢察官以外の者が上訴又は再審の請求を取下げた場合に、そのものの上訴又は再審に関する費用を負担させる規定でありまして、現行法の二百四十一條第一項に相当する規定であります。百八十五條は、裁判によつて訴訟手続が終了する場合に、被告人に訴訟費用を負担させるときには、職権でその裁判をするという規定であつて現行法の二百四十二條に相当する規定であります。百八十六條は、裁判によつて訴訟手続が終了する場合に、被告人以外の者に訴訟費用を負担させるときには、職権で別に決定するという規定でございまして、現行法の二百四十三條に相当する規定であります。百八十七條は、裁判によらないで、例えば上訴の取下げ等によりまして、訴訟手続が終了する場合において、訴訟費用を負担させるときには、最終に事件の係属した裁判所が、職権でその決定をするという規定であります。現行法の二百四十四條に相当する規定であります。百八十八條は、現行法の二百四十五條に相当する規定でありまして、現行法の二百四十五條趣旨を一層明かにいたしまして、訴訟費用の負担を命ずる裁判に、その金額が掲げられておりません場合には、訴訟費用の負担を命ずる裁判の執行指揮する檢察官が、その計算をするという規定趣旨を明らかならしめたわけでございます。
  58. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 以上政府委員説明に係る部分に対する質疑に入ります。
  59. 大野幸一

    大野幸一君 條文について、百六十八條の最後の鑑定人が「物を破壞することができる。」、こういう意味のこの「物」の中には不動産を包含するのかどうでしようか。
  60. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 動産のみならず、不動産を包含するものと解釈いたしております。
  61. 大野幸一

    大野幸一君 十四章の証拠保全の冒頭の百七十九條に、「被告人、被疑者又は弁護人は」、と、こうあります。この機会にお伺いして置きたいのですが、「被告人」とは、訴追を受けたもので分りますが。「被疑者」の定義が明らかでないのです。いわゆる被疑者たる身分は、いつ取得するのか。こういう点を先ず一点お伺いして置きたいと思います。
  62. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 犯罪の搜査の対象になつておりまする者が、いつから被疑者としての身分を取得するかという問題は、非常にむつかしい問題でありまして、ドイツの刑事訴訟法におきましても、被疑者にいろいろな訴訟法上の権利を認めておりまする関係から、被疑者たる身分はいつから取得するかという点について、いろいろ議論があるのでありまするが、現在までにおきましては、立案当局をいたしましては、或る人が搜査機関から搜査の対象として取調を……、搜査の対象となつておるという時期から、被疑者の身分を取得するものと考えております。從いまして必ずしもその被疑者本人を檢事、司法警察職員が出頭を求めて、その取調をしてからということに限りませんで、搜査機関を或る者に犯罪の嫌疑を掛けて、そのために押收、搜索等を始めておりますれば、すでに被疑者ということが言えるわけでございます。
  63. 大野幸一

    大野幸一君 そうすると、仮に過失犯を犯した、これも犯罪である、過失犯を犯したときに業務上傷害罪を犯した、誰にも発覚しないという場合に、まだ搜査の対象となつてはいないのである。併しその犯人は予めここで言つておかなければ、却つて自己に不利益な場合があるだろう、この場合の規定がまだないことになるのですが、そういう場合にはどうするのでありましようか。そこでいや、それならば自首して出たならばいいじやないか、被疑者としての身分をみずから取得したならばいいだろう、こういうのですけれども、敢て何にも自首しなければならんというわけのものでない。発覚しないでおれば過失犯だからいいのだ、こういう場合には、これに対する本條は適用がないのでしようか、どうでしようか。
  64. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 或る人が犯罪の嫌疑を受けて、搜査の対象とされる段階から初めて被疑者となるのでありまして、百七十九條によりまするその被疑者の身分を取得して、初めて証拠保全請求権がある、こういう解釈をしております。この証拠保全の制度刑事訴訟法上採用するにつきまして、立案当局におきましてもいろいろな議論をいたしたのでありまするが、御指摘のように、或る罪を犯した者が、まだ何等搜査機関から疑を掛けられておらない、搜査機関が搜査を始めとおらない場合においても、尚且つ証拠保全の必要があるのではないかという点もいろいろ考慮いたしましたが、この証拠保全という制度は、この規定を濫用いたしますることによつて、虚僞の証拠が固められてしもうという心配もございまするので、その被疑者の権利の保護と同時に、絶対眞実の発見という両方面を考慮いたしました結果、百七十九條のごとく、被疑者の段階に入つて初めて証拠保全の請求権があるという立て方をいたしたわけでございます。
  65. 大野幸一

    大野幸一君 次の百八十條に「檢察官及び弁護人は、裁判所において云々」とあります。「書類及び証拠物を閲覽し、且つ謄写することができる。」とあり、但書のところに持つてつて「但し、弁護人が証拠物の謄写をするについては、裁判官の許可を受けなければならない。」そこで檢察官が拔いてある、この檢察官を拔いてある意味は、檢察官裁判所の許可を得なくても謄写ができるということであつて弁護人だけが裁判所の証拠物について裁判所の許可を受けなければならんということは、当事者対等の地位からいつてどうかと思うのですが、どういうわけでこれを弁護人に限つたわけでしようか。
  66. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 弁護人の証拠物の謄写を裁判官の許可に掛けました趣旨は、弁護人が謄写した証拠物というものは、檢察官、裁判官の場合に比しまして、廣く一般人の手に渡り得るという場合を考慮いたしまして、世間一般に廣まることは面白くないというような場合を考慮して裁判官の許可に掛けたわけでありまするが、檢察官の場合においては必ずしもその必配がないというところから、但書において檢察官を外しまして、弁護人だけについて裁判官の許可を條件といたしたわけであります。
  67. 大野幸一

    大野幸一君 この條文の第二項に、弁護人があるときには、被告人又は被疑者にこの権利を與えないということは、即ち弁護人と常に被告との間に円満にのみ行われている場合もないことがあるのであります。その場合に被告人を保護するに欠けるところがあるように思うのだが、弁護人があるときでも、被告人又は被疑者に書類又は証拠物を閲覽させてもよかりそうなものですが、政府はどうお考えになつているのでしようか。
  68. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 被告人又は被疑者本人に、訴訟に関する書類、証拠物等を閲覽させるかどうかという点につきましては、実際の実務の面から申しますると、幾分の不安は免れない点であります。但しこの改正案におきましては、被告人権利というものを十分に考慮いたさなければならない関係から、公判調書につきましても、第四十九條において、被告人弁護人がないときには、公判調書そのものも被告人に閲覽権を認めたのであります。併しながら被告人弁護人がある場合には、被告人本人は公判調書の閲覽権がございますんで、弁護人に見て頂く、この証拠保全の記録につきましても、被疑者又は被告人弁護人がございます場合においては、その弁護人に訴訟記録、証拠物等を閲覽して頂く、弁護人がない場合において、初めて被告人又は被疑者本人にも閲覽を許す、こういう立て方をいたしたわけであります。被告人、被疑者等は、場合によつてはその書類等を破損したり、改竄したりする等の危險もなきにしもあらずと考えられまするので、そのような配慮をいたしたわけであります。
  69. 大野幸一

    大野幸一君 最後に一点……。この訴訟費用の百八十八條の最後ですが、「執行指揮をすべき檢察官が、これを算定する。」と、こういう意味がある。檢察官に算定の義務を與えたものであつて、その算定に裁判所が拘束されたわけでもなさそうに考えられます。從つてこの意味は算定をしなければならないという意味に解してよかろうと思うのだが、政府の意見はどうであるか。
  70. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 御質問の御趣旨の通り、執行指揮をすべき檢察官が算定をしなければならないという意味を考えております。訴訟費用の負但を命ずる裁判は勿論裁判所がいたすものでありまして、その裁判において訴訟費用の全部又は一部を負担させるという裁判がございまして、如何なる金額をその時に要しておつたかということは、一見記録上明白でございまするので、甲証人に給した旅費、日当、宿泊料、乙鑑定人に給した旅費、日当、宿泊料、或いは立替金の弁償等ということによりまして明白に算定ができますので、その算定は檢察官にさせる、而もこれは必ず檢察官がしなければならないという趣旨でございます。
  71. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 他に御質疑はありませんですか。
  72. 星野芳樹

    ○星野芳樹君 少し遡るんですが、百四十五條の「衆議院若しくは参議院の議員又はその職に在つた者。」、この「衆議院」は新憲法以來の衆議院ですか、ずつと遡るわけですか、どうですか。
  73. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 百四十五條の解釈といたしましては、新憲法施行以前の衆議院議員も含むものと考えております。
  74. 星野芳樹

    ○星野芳樹君 そうすると、内閣総理大臣も、これはその以後のことでありますか、以前には遡らないわけですか。
  75. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 衆議院議員及び参議院議員、それから第二号の内閣総理大臣その他の國務大臣等が、百四十五條で院又は内閣の承諾がなければ尋問することができないというのは、この法律が施行された後のことでありまするが、「その職に在つた者」というものに関しましては、衆議院或いは第二号の内閣総理大臣等については、曾ての衆議院議員、曾ての内閣総理大臣等を含むものと考えております。
  76. 星野芳樹

    ○星野芳樹君 そうしますと、参議院議員は前はないんですが、貴族院議員というのはどういうところへ入るのですか。
  77. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 規定がございませんから、貴族院議員で在つた者は、この百四十五條の適用を受けないということになると考えております。
  78. 星野芳樹

    ○星野芳樹君 そうするとその前の「公務員」というのも、ずつと前からということになつて、結局陸軍省とか、海軍省とか、そういうようなものも含まれるということになりますか。そうですか。
  79. 宮下明義

    政府委員宮下明義君) 「公務員であつた者」というものは過去の者も含むものと考えております。併しながら但書において「國の重大な利害を害する場合」というのは、非常に限られた場合と考えておりますので、現在の日本においては國交上において極度に祕密を要する事項は別といたしまして、それ以外のものについては百四十四條等の適用がないというふうに考えております。
  80. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 外に御質問ありませんか。では、本日は第一編だけで終りまして、明日午前に第二編に移りたいと思います。本日はこれにて散会いたします。    午後三時十一分散会  出席者は左の通り。    委員長     伊藤  修君    委員            大野 幸一君           大木野秀次郎君            遠山 丙市君            水久保甚作君           池田七郎兵衞君            鬼丸 義齊君           前之園喜一郎君            宇都宮 登君            松村眞一郎君            星野 芳樹君   政府委員    法務廳事務官    (檢察局総務課    長)      野木 新一君    法務廳事務官    (檢務局刑事課    長)      宮下 明義君