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1948-06-09 第2回国会 参議院 司法委員会 第38号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年六月九日(水曜日)   ―――――――――――――   本日の会議に付した事件刑事訴訟法を改正する法律案(内閣  送付)   ―――――――――――――    午前十時四十三分開会
  2. 伊藤修

    委員長伊藤修君) それではこれより司法委員会を開会いたします。本日は予備付託せられておるところの刑事訴訟法を改正する法律案を議題に供します。先ず政府委員の逐條の御説明をお願いいたします。第一編総則及び第一章を先ず御説明願いたいと思います。
  3. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 改正刑事訴訟法案につきまして、第一編第一章「裁判所管轄」につきまして、逐條的な御説明簡單に申上げたいと存じます。  先ず刑事訴訟法目次でありますが、目次の点から申しますと、現行刑訴に比べまして、第二章は「裁判所職員除斥忌避及回避」と現行刑事訴訟法にはなつておりましたが、本改正法におきましては、回避最高裁判所規則に讓ることにいたしましたので、この回避の点だけを二章の題目からこれを落しました。更に現行刑訴の第六章の「書類」、第七章の「送達」、これを一つの章に集めまして、第六章「書類及び送達」といたしました。この二つにいたしましたが、これにつきましての内容の変更は余りございません。次に現行刑訴の第十章「被告人訊問」の規定を削除いたしました。そういたしまして、改正案におきましては、第十四章に「証拠保全」という規定を新たに設けました。更に現行刑訴の第十五章の「通訳」というところを、改正法におきましては、第十三章「通訳及び飜訳」と書き改めました。次には第二編でありますが、第二編の現行刑訴におきまする第三章「豫審」、これは削除いたしました。更に現行刑訴の第四章の「公判」の第一節「公判準備」並びに第二節「公判手續」を一緒にいたしまして、第二編第三章第一節といたしました。更に第二編中の第三章の第二節に「証拠」という規定を新たに設けました。次は第三編でありますが、第三編につきましては、現行刑訴変りない章を設けております。更に第四編の「大審院ノ特別權限ニ屬スル訴訟手續」という現行法規定を削除いたしました。更に第九編の「私訴」を落しまして、あと現行法通り編別に從つております。  次に第一編の総則から申上げますが、第一編総則の第一條「この法律は、刑事事件につき、公共福祉維持個人基本的人権保障とを全うしつつ、事案眞相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」この第一條を新たに設けました。この趣旨につきましては、先きに提案理由におきまして詳細御説明申上げた通りでありまして、公共福祉維持と、個人基本的人権保障とを調和しつつ、而も刑事事案眞相を明らかにするということをこの法律目的とするということを明らかに規定いたしたのであります。  次は第一章「裁判所管轄」であります。第一章全般を通じまして、現行刑訴と異つておりますところは、第十九條に新たな規定を設けたのでありまするが、その他におきましては、現行刑訴内容を踏襲いたしております。ただ併し種々なる点におきまして、裁判所規則に讓るのを妥当と考えましたものはこれを規則に讓りましたので、現行刑訴とその点において多少の違いが生じております。  第二條は御承知の通りの、裁判所土地管轄規定であります。これは現行刑訴変つておりません。第三條は「事物管轄を異にする数個事件が関連するときは、上級裁判所は、併せてこれを管轄することができる。」この三條の規行も現行刑訴変つていないのであります。ただここに「高等裁判所特別権限に属する事件と他の事件とが関連するときは、高等裁判所は、併せてこれを管轄することができる。」という第二項の規定を設けてありますが、この高等裁判所特別権限に属する事件と申しますのは、大体独占禁止法によりまして高等裁判所特別権限に属せしめてある事件があるのでありまして、この事件と他の事件とが関連する場合におきましては、高等裁判所は併せてこれを管轄することができるという規定を設けております。第四條も、事物管轄を異にします数個関連事件上級裁判所に係属する場合におきまして、これを併せて審判する必要がないものがあるときは、上級裁判所は、決定管轄権を有する下級裁判所にこれを移送することができる。この第四條も現行刑訴趣旨変つておりません。それから第五條でありますが、第五條は「数個関連事件が各別に上級裁判所及び下級裁判所に係属するときは、事物管轄にかかわらず、上級裁判所は、決定下級裁判所管轄に属する事件を併せて審判することができる。」、これも現行刑訴変つていないのであります。これにつきまして第三條の二項と同じように、高等裁判所特別権限に属する事件高等裁判所に係属しておりまして、これと関連する事件関係におきまして、第一項との関係においての規定を第二項に設けておるわけであります。第六條は、土地管轄を異にする数個事件が関連しますときは、一個の事件につきまして管轄権を有する裁判所は、併せて他の事件管轄することができる。但し、他の法律規定により特定の裁判所管轄に属する事件は、これを管轄することができない。これも現行刑訴変つてはおりませんが、この場合但書の「他の法律規定」と申しますのは、この場合におきましては独占禁止法等を予想いたしまして、「他の法律規定により」ということを、ここに書いたわけでございます。第七條でありますが、第七條は、土地管轄を異にする数個関連事件が同一裁判所に係属する場合におきまして、併せて審判することを必要としないものがあるときは、その裁判所は、決定管轄権を有する他の裁判所にこれを移送することができる。この規定現行刑訴変つておりません。次には第八條でありますが、「数個関連事件が各別に事物管轄を同じくする数個裁判所に係属するときは、各裁判所は、檢察官又は被告人請求により、決定でこれを一の裁判所に併合することができる。」、こういう規定になつておりますが、趣旨においては現行刑訴変つておりません。ただこの場合におきまして、現行刑訴におきましては、その七條でありますが、「事物管轄ヲ同シクスル數個牽連事件別ニ數個裁判所公判ニ繋屬スルトキハ裁判所ハ檢事請求ニ因リ」ということで、檢事請求によりまして、決定を以てこれを一つ裁判所に併合することができる規定になつておりますが、改正案の第八條におきましては檢察官被告人との両方の立場を大体対等に見ております関係上、ここに「被告人請求により」ということで、被告人請求によつて一つ裁判所に併合することができる趣旨規定いたしております。この点だけ現行刑訴と多少変つておると言えると思うのであります。次には第九條でありますが、「数個事件は、左の場合に関連するものとする。」、いわゆる関連事件というのは如何なるものであるかということを、ここに明らかにいたしておるのでありますが、これも現行刑訴と大体変りはございません。ただ併し現行刑訴の第八條規定しておりますが、「數人同時ニ同一場所ニ於テ別ニ罪ヲ犯シタルトキ」と、現行刑訴八條第一項の四号には、かような規定がありますけれども、これを改正法におきましては削除いたしております。その趣旨はこの第四号は、大体同時犯のようなものが考えられるのでありますけれども、非常にこういうものを関連事件として扱う必要性が少いのじやないかという考えから、この第四号は落しました。外に深い趣旨はございません。次は第十條でありますが、「同一事件事物管轄を異にする数個裁判所に係属するときは、上級裁判所がこれを審判する。」、「上級裁判所は、檢察官又は被告人請求により、決定管轄権を有する下級裁判所にその事件審判させることができる。」かようにいたしましたが、これも先程第八條のところで申上げましたように、現行刑訴の第二項におきましては、單に「檢事請求ニ因リ決定以テ管轄権ヲ有スル下級裁判所ヲシテ某事件審判セシムルコトヲ得」とありますのを、被告人請求によつても、これを下級裁判所にその事件審判させることができるようにいたしました。この点だけ現行刑訴と違つておるところであります。次は第十一條でありますが、「同一事件事物管轄を同じくする数個裁判所に係属するときは、最初に公訴を受けた裁判所が、これを審判する。」これは現行刑訴の第九條でありますが、これと変つておりません。ただ單に字の問題でありますけれども、現行刑訴におきましては、予審を認めておりますから、「豫審又ハ公判ニ緊屬スル」とありますけれども、内容におきましては何らの変化はございません。それからこの第十一條の二項も第八條、第十條二項と同様に「被告人請求により、」ということを入れまして、その点だけ現行刑訴を改めております。次は第十二條でありますが、「裁判所は、事実発見のため必要があるときは、管轄区域以外で職務を行うことができる。」この規定現行刑訴と全く変つておりません。次は第十三條であります。「訴訟手続は、管轄違理由によつては、その効力を失わない。」、この規定現行刑訴と何らの変りはないのであります。第十四條でありますが、「裁判所は、管轄権を有しないときでも、急速を要する場合には、事実発見のため必要な処分をすることができる。」この規定現行刑訴と少しも変つておりません。次は第十五條でありますが、「檢察官、左の場合には、関係のある第一審裁判所に共通する直近上級裁判所管轄指定請求をしなければならない。一 裁判所管轄区域が明らかでないため管轄裁判所が定まらないとき。二 管轄違を言い渡した裁判確定した事件について他に管轄裁判所がないとき。」これも現行刑訴変りはありません。次は第十六條でありますが、「法律による管轄裁判所がないとき、又はこれを知ることができないときは、檢事総長は、最高裁判所管轄指定請求をしなければならない。」かように規定をいたしましたが、これも現行刑訴とは少しも変つておりません。次は第十七條でありますが、「檢察官は、左の場合には、直近上級裁判所管轄移轉請求をしなければならない。」といたしまして、その一号が「管轄裁判所法律上の理由又は特別の事情により裁判権を行うことができないとき。」、二号は「地方民心訴訟状況その他の事情により裁判の公平を維持することができない虞があるとき。」、二項におきまして「前項各号の場合は被告人管轄移轉請求をすることができる。」この二項の規定は、先程八條以來申上げました観点からいたしまして、被告人管轄移轉請求をここに認めておりますが、これは現行刑訴変つておりません。ただ併し一号二号の内容におきまして多少現行刑訴変つた点があるのであります。現行刑訴によりまするというと、第十六條の一号におきまして、「管轄裁判所ハ裁判所構成第十三條第二項ノ規定ニ依り定メタル裁判所ニ於テ法律上ノ理由又ハ特別ノ事情ニ因リ裁判権行フコト能ハサルトキ」、それから二号におきまして、「被告人地位地方民心訴訟状況某ノ他ノ事情ニ因リ裁判ノ公平ヲ維持スルコト能ハサルトキ」と、こうありますけれども、内容におきましては変つていないのであります。そこで一号の「管轄裁判所法律上の理由」と申しまするのは、これは現行刑訴にもある通りでありますが、除斥、或いは回避等によりまして、管轄裁判所裁判権を行うことができないような場合、又「特別の事情」と申しますのは、疾病等によりましてやはり同様な事態が生じた場合を言うものと考えております。二号は大体「地方民心訴訟状況その他の事情」、「その他の事情」と申しますのは、これは被告人の側におきまするところの事情等がこれに入ると思います。そういうような点につきましては、第十七條現行刑訴とは変つておりません。多少書き方は変つておりますけれども、全体におきましては変つている点はございません。次は第十八條でありますが、「犯罪の性質、地方民心その他の事情により管轄裁判所審判をするときは公安を害する虞があると認める場合には、檢事総長は、最高裁判所管轄移轉請求をしなければならない。」この第十八條現行刑訴の第十七條に基きまして、内容においては変つておりません。第十九條でありますが、これは「裁判所は適当と認めるときは、檢察官若しくは被告人請求により又は職権で、決定を以てその管轄に属する事件事物管轄を同じくする他の管轄裁判所移送することができる。」、「移送決定は、被告事件につき証拠調を開始した後は、これをすることができない。」、この第十九條は現行刑訴にはない規定でありまして、裁判所が適当と認めるときは、主としてこれは被告人利益のためになる場合を予想しているのでありますが、裁判所が適当と認めるときは、檢察官或いは被告人請求によりまして、又は職権で以て管轄に属しております事件事物管轄を同じくする他の管轄裁判所移送する規定の問題であります。これは例えば、例を以て申しまするというと、被告人がたまたま東京に來ておりまして、元來郷里は大阪であります場合に、そこで以て東京裁判所で起訴される、ところが、被告人のためにはいろいろな関係からみますと、証人その他の関係等におきまして、大阪で調べた方が妥当と思われる、こういう場合には被告人請求によりましては移送することができる。或いは檢察官におきましても同様の事情がある場合には、檢察官請求によつてこれを移送することができる。又裁判所みずからそう認める場合には裁判所もこれを移送することができる。かように廣く裁判所がどこで行なつたらよろしいかということを判断いたしますのに、適当と認められる場合におきましては、廣くこの移送事物管轄を同じくする場合におきましてはできるという規定にしております。他の管轄裁判所でありますから、勿論管轄権を有しなければ直ぐに移送はできないのであります。それから十九條の三項でありますが、「移送決定又は移送請求を却下する決定に対しては、その決定により著しく利益を害される場合に限り、その事由を疎明して、即時抗告をすることができる。」、これは被告人のためには沢山証人もおり、弁護人もおり、被告人のために適当な親族関係があるというのに拘わらず、東京裁判所でやつた方が適当と認める場合にこれを移送する場合、さような場合においては、被告人はその決定により著しく利益を害されるという事実を明かにいたしまして、即時抗告ができろという規定になつております。大体管轄につきましては極く簡單でございますが、以上申上げました通りであります。
  4. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 以上第一章について御質疑がありましたら、この際御質疑を願います。
  5. 松井道夫

    松井道夫君 十九條の二項でありますが、「移送決定は、被告事件につき証拠調を開始した後は、これをすることができない。」とありますが、証拠調を開始した後ということにした理由を伺いたいと思います。
  6. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 被告事件につきまして証拠調を開始いたします場合におきましては、すでに一方の法益防禦の方法が起つて参りますので、証拠調まで入つたならば、これは他の裁判所移送するということは妥当でない、かように考えましたので、証拠調を開始した後は移送することはできないと、かようにいたしました。
  7. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 第十九條の移送決定又は移送請求を却下する決定に対しまして抗告が許されております。移送決定に対しては一裁判所決定は他の裁判所決定をやはり覊束するのでありますか。或いは又他の裁判所の方から移送決定に対して異議を言うことを許されないのであるか。若しそれとするならば、一つ裁判所決定を以て管轄を指定するようなことになりますが、その点は差支ないのかどうかお尋ねしたい。もつと分り易く申しますと、甲の裁判所乙裁判所移送決定になります。その決定乙裁判所を覊束することになります。いわゆる甲裁判所乙裁判所に対してその管轄権を指定することになります。その場合乙裁判所の方はその決定に無條件に從わなければならんのか。その点について、裁判所相互間における関係において支障がないか伺いたい。
  8. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 改正案の十九條におきましては、民事訴訟法のごとく、移送決定が、移送を受けた裁判所を覊束するという規定は設けませんでした。從いましてこの改正案第十九條の第一項による移送決定は、必ずしも移送を受けた裁判所を覊束するという建前にはなつておりません。從つて移送を受けた裁判所が、事情によりましては更に移送をするということもなし得るわけでありまするが、その辺は要するに裁判所の健全な常識に待ちまして、適当な裁決を図りたい、このように考えておるわけであります。
  9. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 そうしますと、法律で定めまする場合に、その帰趨が明確でないというふうな不確定の状態を予想されますので、むしろその場合に、移送を受けたる裁判所はそれに対して覊束を受けるというふうなことを法律で以て定めるわけには参りませんか。相互移送し合いしていると、結局帰趨は決まらない。私は民事訴訟法規定のことは存じませんが、何だかその点について大変不確定規定を作るような氣がいたしまするが、政府の御意見はどうでござりましようか。それを伺いたい。
  10. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 移送決定がありました場合に、当事者であります檢事官及び被告人側が不服がある場合には、第三項によりまして即時抗告をいたしますわけですが、即時抗告をいたしますと、移送決定確定力を妨げまするので、移送決定はその際には確定いたしませんで、上級審判断によつて、その移送決定が妥当であるかどうかという判断をば受けて、上級審判断で決まるということになるわけであります。それで当事者が不服がございませんで、移送決定がそのまま確定いたしました場合に、更に移送を受けた裁判所が再移送をして、俗に申しますように、キヤッチ・ボールにならないかという御心配の点御尤もと考えまするが、要するに最も妥当な裁判所被告人便宜のため或いは証人側便宜のために最も適当な裁判所で第一審の公判をするというのが最も適当であるという考え方によりまして、法律といたしましては、民事訴訟法のように一回の裁判所移送決定によつて他裁判所を覊束してしまうというところまで参りませんでした。併しながら移送を受けた裁判所証拠調に入ります場合には、第二項によりまして再移送ということは職権によつてもできないことになりますので、要するに証拠調に入ります以前の管轄をどこでやるかという点に、可なり裁判所自由裁量を與えたわけであります。
  11. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 「裁判所は、適当と認めるとき」ということになつておりまするので、移送に対して何らか一つ枠を定める必要がありはしないか。余りに廣汎に失しておりまする結果としては、或いはときに移送に次ぐに移送ということで以て、最も大切なる事物管轄というものが不確定地位に置かれますことは、訴訟の進行上において大なる支障を來しはしないか。でありますから、何が適当である、どういう場合にやるということについて、この際一つの枠を決めたならば、その弊害を除くことができはしないか。かように考えるのであります。
  12. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 一点御注意願いたいのは、十九條一項によりまする移送は、第二條規定によりまして土地管轄を持つておりまする裁判所同士移送でありまするので、或いは本人の犯罪地或いは住所地被告人居所地或いは現在地等移送するということになりますから、自由奔放にどこの裁判所へも移送するということは考えておらないのであります。
  13. 松井道夫

    松井道夫君 先程質問いたしました十九條の二項についてでありますが、忌避につきましては二十二條におきまして「事件について請求又は陳述をした後には、」云々……「裁判官忌避することはできない。」ということが書いてあります。それで移送決定の場合は「証拠調を開始した後は、これをすることができない。」というふうになつております。勿論移送決定忌避とはこれを同日に論ずることはできないかも知れませんが、併し一面似通つた場合もあると存ずるのであります。移送決定については「証拠調を開始した後は、これをすることができない。」、忌避につきましては、請求又は陳述をした後にこれをすることはできないというふうに区別をする理由がどこにあるか。御説明を願いたい。
  14. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 最前十九條二項の立法の趣旨についてお尋ねがございまして、更に十九條二項と二十二條本文との関係についての御質問でございまするが、十九條二項については二百九十一條及び二百九十二條を御覽願いたいのでありますが、改正案考え方といたしましては、二百九十一條第二項の後段で、檢察官が先ず起訴状を朗読いたしまして、その次に裁判長被告人に默祕権その他の権利を保護するため必要な事項を告げました後に、被告人及び弁護人に対してその被告事件について陳述する機会を與えよ、こうなつておりますが、この「陳述する機会」と申しまするのは、この改正案考え方といたしましては、或いは起訴状の不備を攻撃する、或いは管轄等につきまして自分の主張を述べるという意味を含ましておりますので、從來のように單に控訴事実についての答弁というだけを考えておらないのであります。それよりももつと積極的な意味を持たせておりまして、ここで本案以前の爭を檢察官及び被告人にさせる、こういう考え方を採つておるわけであります。それでその爭が收まりまして、後で二百九十二條本案証拠調に入つて行くと、こういう建て方を採つておりまするので、それと歩調を合せまして、十九條二項は、証拠調を開始した後はできない。で、管轄等の爭はその前にやる、こういう建て方を採つたわけであります。二十二條本文の方は、それよりももう一歩前の段階考えておりまして、要するに今被告人が法廷に、この被告人がその受訴裁判所において審判を受けることに決まりました場合に、その受訴裁判所を構成いたしましたる裁判官忌避するかどうかという問題が二十二條でありまするので、これは二百九十一條段階に入らない前に、つまり言い換えますれば、事件について請求又は陳述をする以前に、この裁判官忌避するかどうかということを決めて貰う。で一應その受訴裁判所を構成しておりまする裁判官の面前で、その事件について審判を受けるという態度を表明した以上、言い換えれば、事件について請求陳述をやりました以上は、もう忌避できないという建て方にいたしたわけであります。
  15. 伊藤修

    委員長伊藤修君) これは当然のことかも分りませんが、被告事件について証拠調を開始した後というのは、証拠調前は無論含まれないのですね。
  16. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 含んでおりません。
  17. 中村正雄

    中村正雄君 この十九條は新たにできた條項なんですが、現在の刑事訴訟法関係で、こういう條項を設けなければいけないという不便が現実に起つた事例がありますか。
  18. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 特にかような條件を設けなければ、これまでの訴訟において非常に支障を來したことを救うことができないと、こういう顯著な事例というものは今日まで実は起つたことはないのであります。併し全体の訴訟法の建て方といたしまして、被告人の正当なる権限訴訟におきまするところの正当なる権利行使等考えまして、又裁判所檢察官並びに被告人の双方の権益を十分に考える、こういうまあ観点に立ちますと、この十九條を設けた方がよろしいのではないかと、こういう考えから新たにこの第十九條を設けたのであります。
  19. 中村正雄

    中村正雄君 一應事件をどこの裁判所管轄に属させるべきかということは、檢事がどこの裁判所に起訴するかということによつて第一に決まるわけでありますが、そういたしますと、この條文によりますと、檢察官移送請求者になつておりますが、こういう檢察官移送請求をするということと、檢事の方が起訴するという場合に、どこの裁判所が適当かどうか、それは土地管轄関係ではありますが、何か齟齬するように思えるのですが、この点何か別な理由で。檢事請求の中に入れられておるわけですか。
  20. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 大体お説の通り檢察官が適当な裁判所と認める所で、管轄権のある裁判所に公訴を提起いたすのでありまするけれども、時によりましては檢察官がここが適当だと思つて起訴したときにおきまして、証人取調その他について、他の裁判所移送した方が尚適当であるということが考えられないこともないのでありますので、「檢察官請求」ということをここに入れて置いたわけであります。
  21. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 他に御質疑がなければ、進行いたしまして、第二章裁判所職員除斥及び忌避を、政府委員から説明願いたいと思います。
  22. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 第二章「裁判所職員除斥及び忌避」でありますが、この章におきましては、概括的に申しますと、忌避規定を一切裁判所規則に讓ることにいたしました点が大きな違いであろうと存じます。改正案におきましては、第二十條におきまして、裁判官除斥の場合の規定を設けました。第七号までございますけれども、このうち第七号が現行刑訴とは変つた規定を設けておるのでありまして、この第七号におきましては、第二百六十六條第二号の決定、この規定は、人権蹂躪の事件につきまして不起訴処分のあつた場合に、被害者から裁判所の方に不服の申立をいたしまして、裁判所がその不服を審判することに決定いたしました場合に、その取調に関係した裁判官が、この第二百六十六條の第二号の決定をした場合、それから現行刑訴の場合におきましては、略式命令に関與いたしました裁判官は、解釈上除斥規定に入らないことになつておりましたが、これを新たに略式命令に関與いたしました裁判官除斥理由があることにいたしました。次に前審の裁判、それから「第三百九十八條乃至第四百條、第四百十三條若しくは第四百十三條の規定により差戻し、」云云とありますが、これは控訴審或いは上告審におきましての差し戻し若しくは移送の場合でありまして、その場合における原判決又はこれらの裁判の基礎となつた取調に関與した裁判官除斥されることにいたしたのであります。この第七号をかように改めましたのは、大体改正案が、公訴提起の際に、起訴状だけで公訴提起をいたしまして、裁判審判に当りまして、裁判官に予断を抱かせない趣旨を徹底さしておりますので、それにも大体照應いたしまして、第七号をかように改めたのであります。次は第二十一條でありますが、これは大体現行法変つてはおりませんです。それから第二十二條でありますが、「事件について請求又は陳述をした後には、不公平な裁判をする虞があることを理由として裁判官忌避することはできない。但し、忌避の原因があることを知らなかつたとき、又は忌避の原因がその後に生じたときは、この限りでない。」、この点につきましては、只今岡咲政府委員からお話を申上げましたが、「請求又は陳述をした後」というふうにいたしまして、大体現行刑訴とその趣旨変つていないのであります。第二十三條、「会議体の構成員である裁判官忌避されたときは、その裁判官所属の裁判所が、決定をしなければならない。この場合においてその裁判所地方裁判所であるときは、会議体で決定をしなければならない。」、「地方裁判所の一人の裁判官忌避されたときはその裁判官所属の裁判所が、簡易裁判所裁判官忌避されたときは簡轄地方裁判所が、会議体で決定をしなければならない。但し、忌避された裁判官忌避の申立を理由があるものとするときは、その決定があつたものとみなす。」、以下三項四項とありますが、これらはいずれも趣旨におきまして現行刑訴変つてはおりません。それから第二十四條でありますが、この規定訴訟遅延を目的とした明らかな忌避の申立は、これは却下しなければならない。そうしてこの場合におきましては、忌避を申立てられました裁判官が、この却下決定に関與して差支ないことが規定してあります。これは現行刑訴とは変りはないのであります。第二十五條は、忌避の申立を却下する決定に対します不服の申立でありまして、現行刑訴と同様に即時抗告を認めております。第二十六條は裁判所書記に関しまする忌避規定であります。これは当然に第二十條の七号の場合を除きまして、その他の場合に除斥の事由によることを明らかにしております。この二十六條の規定趣旨におきまして現行法刑訴と変つたところはございません。
  23. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 「第三章訴訟能力」をお願いします。
  24. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 「第三章訴訟能力」でありますが、これも全体におきまして現行刑訴変つた点はないのでありますが、第二十七條は、被告人又は被疑者が法人であるときは、その代表者が、訴訟行爲についてこれを代表する。代表者が数人ある場合におきましても、訴訟行爲については各自がこれを代表する。法人の訴訟能力を明らかに認めておる規定であります。第二十八條でありますが、これは刑法の第三十九條乃至第四十一條規定を適用しない罪に当る事件につきましては、被告人又は被疑者が意思能力を有しないときは、その法定代理人が、訴訟行爲についてこれを代理する。こういう規定でありまして、この「刑法の第三十九條乃至四十一條規定を適用しない罪」と申しますのは、只今非常に少くなつておりますが、税法等にこれを散見いたすのであります。こういう罪につきましては、これは法定代理人が訴訟行爲についてこれを代理する規定を設けております。これも現行刑訴とは変つておりません。第二十九條は、前のような二條規定によりましても代理する者がない場合に、檢察官請求によりまして、又は裁判所職権で特別代理人を選任しなければならない規定を設けております。ここでちよつと違いますのは、第二項の規定でありますが、「被疑者を代表し、又は代理する者がない場合において、檢察官、司法警察員又は利害関係人の請求があつたときも、前項と同様である。」、こういう規定を設けまして、被疑者の訴訟行為を代理する者の場合を規定いたしております。被疑者はこの弁護人選任の件、或いは今回の改正法におきましては被疑者が訴訟行爲を遂行する場合が規定してありますが、その場合におきまするところの第二十七條、二十八條に該当するような場合におきまして被疑者を代表する者を規定する規定をここにおいたわけであります。この第三項はこれはただ「被疑者を代表し」という点が現行刑訴変つておる点でありまして、あとは現行刑訴そのままの規定でございます。以上「訴訟能力」について申上げました。
  25. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 以上第二章、第三章に対して、御質疑がありましたら御申出を願います。
  26. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 先だつて提案理由説明のときお願いして置きました、これまでの忌避の取扱についての実績調査でありますが、どんなふうになつておりましようか。
  27. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) その点につきまして早速統計を調査いたしましたが、統計が忌避だけの統計はございません。外のものと一緒にした数になつておりますので、今それを分るだけ整理したいと努力しております。それから尚その際委員長から回避の御請求もございました。それに関しましては全然統計がございませんので、どうも御希望に副い難いと思います。
  28. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 私の承知しておりまする範囲においては、從來もやはり同樣な忌避或いは除斥とか回避とかいう規定につきまして規定がありました。忌避の申立については相当の数のものがあつたものだと記憶しております。然るに現行刑事訴訟法が施行されまして以來、私は寡聞にして忌避の申立が裁判所において容れられたという先例は未だ曾て一件もないと承知しております。若しそれそういうことであるとするならば、この際最もこの裁判を公正に、信用をいやが上にも高めて行かなければならない裁判において、こうした空文的な規定を作つて置いて、それでよいのであろうかどうか。当然政府において改正法案を研究するにつきましては、立案に当つていろいろその点も考慮に入れたであろうと思いまするが、何らかの方法において、從來の先例を考慮に入れて、少くともそうしたような我田引水的のようなことに終らないように、制度の上においてする必要がありはしないかと、かように思いまするが、政府はどういうふうにお考えを持つておるかをこの際伺いたいと思います。
  29. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 御指摘のように、忌避につきまして、忌避の申立が成立したということは私は実はあつたかどうかにつきまして甚だ疑問を持つております。併し忌避の申立があつたことは非常に多かつたということを承知しておるのでありまして、これは仮にこの裁判所の方におきまして、みずからこの忌避をされる理由がない、又客観的にそう思うと考えておりました場合にも、訴訟関係人から申しますと、忌避すべき理由があろうと思うのであります。そういうことにやはり訴訟関係人の十分なる裁判所に対する意見を開陳する方法を存置して置くことは最も必要であろうと存じまするし、又同時にこの裁判所の公正確保の意味におきまして、この際除斥並びに忌避規定というものは、訴訟法上必要であると考えておるのであります。ただ併し現行刑訴にもありますように、又本改正案もこれを採入れましたが、改正案の第二十四條におきまする訴訟を遅延させる目的のみでなされたことの明かな忌避の申立ということは、決定で却下しなければならない、この規定でございますが、この規定の運用が相当に忌避の問題を、或いは裁判所の一方的な判断のみに委ねられる虞があるようにも考えられるのであります。併し訴訟法全体から申しますると、先程も申しましたように、忌避につきましての忌避申立並びにその結果につきましての十分な統計がございませんので、甚だ遺憾でございますが、それに即應したような改め方というものを、甚だ忽忙の際でございましたので、考えることはできませんでしたけれども、併しその制度というものは、この訴訟関係人のためにも、是非存置して置かなければならない。で、今後の運用におきましては、尚一層これが改正案趣旨といたします点から考えましても、有効に十分に運用しなければならんと、かように考えますので、本法においては、大体現行法をそのまま踏襲をいたしまして、ここに存置した次第であります。
  30. 伊藤修

    委員長伊藤修君) ちよつと速記を止めて。    〔速記中止〕
  31. 伊藤修

    委員長伊藤修君) それでは速記を始めて。他に御質疑ありますか。今の点は御明確になつたと思いますが、よろしうございますか、鬼丸委員。
  32. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 裁判官忌避に対しまする問題については殆んどこうした規定がありますに拘わらず、從來空文化されておりまする謙いがあるので、この際そういうように状態に置きますることは、やがて司法権の一般的信用を傷つけるの虞が多分にありますので、法案改正のときに当つて、特にこの点を、政府の方において、この規定に励行が的確に実行されまするようなふうなことにおいて、尚一段の一つ御研究をお願いして置きたい。
  33. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 先程も申上げましたように、忌避の申立てが非常に多く行われておることを私共承知しておりますが、併しその結果が統計上はつきり分つておりませんので、これが空文に帰しておると言われても、さような事情にあるように考えられる点につきましては、先程申上げました通りでありまするが、この忌避の申立てがありました場合に、この本章の規定全般が全然空文に終らないように、立案の際におきまして、一應十分考えたのでありますけれども、現行刑訴の第三十條におきまして、忌避の申立てがあつたときには原則といたしまし訴訟手続を停止すべきことにいたしておりますが、ただ訴訟を遅延させる目的でなされたと明らかに見られる場合におきましては、訴訟手続を停止しなくてもよろしいということに相成つておりまして、これが現行裁判の実際におきまして非常に行われておつたのでありまして、この現行刑訴の第三十條の規定につきましては一應考慮いたしましたが、私共といたしましては、これを最高裁判所規則に讓りまして、忌避の申立てがありました場合に、訴訟手続を進行させるか或いはこれを停止するかということはルールによつて定めるという方針を採つた次第であります。尚御要望の点につきましてはルール制定の際におきましては十分に考慮したいと思います。
  34. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 私は他の場合は別といたしまして、裁判官忌避の申立につきましては、徹頭徹尾この現行刑事訴訟法の制定されまして以來、裁判所忌避の申立を入れたという先例がないと称しておりますることは先例申上げた通りであります。政府委員の方において私は常に統計は嚴重に取つておられますに拘わらず、この点に対してのみ統計がないというようなことは、私はこの法文を空文に終らしておりまする一点からいたしましても実は信用し難い。そういうことでなく折角この重要法案改正の期でありまするから、裁判例を調べますることには、私はそれ程の困難はないと思いまするので、実際上私より質問申上げましたごとくに、忌避の申立を容れたという先例がないというのであるならば、潔く私はお認め願つて、それに対する訴訟遅延に悪用されない意味における現状に、そのまま良心的な裁判ができまするような制度に私はして置くことが必要と思います。この際その点について只今お分りにならなかつたならば、重ねて一つお調べを願い併せて若、しそうであるとするならば、これまで訴訟遅延の目的のためにこれを悪用したようなことも私共あり得ると思いまするし、必ずしも全部が全部そういうふうには取り得ないのであります。その点を考慮に入れられまして本当の法文にして頂きたいと思います。是非一つ資料の点をもこの際お示し願いたいと思います。
  35. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 重ねて資料につきましての御要望でありますが、先程申上げた通りのような次第でありまして、完全な統計がございませんので、御満足な数字をお目に掛けることはできないと存じまするけれども、尚できるだけの努力をいたしまして、どけだけの忌避の申立がこれまでになされておるか、更にその忌避の申立が認められた事態があるかどうかという点につきまして、尚他のいろいろなものを取調べまして、できるだけ御要望に副うように努力したいつもりであります。
  36. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 他に御質疑なければ今日はこれで散会いたします。    午前十一時五十八分散会  出席者は左の通り。    委員長     伊藤  修君    理事            岡部  常君    委員            大野 幸一君            中村 正雄君            水久保甚作君            鬼丸 義齊君            宇都宮 登君            來馬 琢道君            松井 道夫君            宮城タマヨ君   政府委員    法務廳事務官    (檢務局長)  國宗  榮君    法務廳事務官    (檢務局刑事課    長)      宮下 明義君    法務廳事務官    (法務廳調査意    見第一局長)  岡咲 恕一君