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1948-05-25 第2回国会 参議院 司法委員会 第30号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年五月二十五日(火曜日)    午前十時五十五分開會   —————————————   本日の會議に付した事件人身保護法案伊藤修君發議)   —————————————
  2. 伊藤修

    ○委員長(伊藤修君) それではこれより委員會を開きます。  本日は人身保護法案を議題に供します。前囘に引續いて質疑を繼續いたします。
  3. 小川友三

    小川友三君 第七條の中の「直ちに拘束者」ということでありますが、「直ちに拘束者請求代理人竝びに關係者の陳述を聽いて」、とありますが、これを「直ちに」というのは直ぐというわけでありますが、そうすると間に合わない場合が多いのではないかと思うのでありますが、これを四十八時間以内にという工合に變更を願いたいと思います。お伺いいたします。
  4. 泉芳政

    專門調査委員泉芳政君) この拘束者と、申立てられた裁判所との距離などを一應考えますと、時間を決めるということは非常に困難になりはしないかと思います。それは例えば十條におきまして、答辯書を出すという期間は三日、それから審理を開始する期間申立ての時から一週間以内というふうに一應書かれてありますから、これすらも特別の事情があるときは、その期間を短縮又は伸長するというような規定があると同樣の趣旨において、一定の時間を限定するということは困難と考えるのであります。
  5. 小川友三

    小川友三君 第十條でありますが「五百圓以下の過料に處することがある旨を附記する。」というわけでありますが、これは現在のインフレ下では餘り安いので、五百圓くらいならというので、出頭が遲れて能率が下ると思いますので、これを一千圓以下の過料に處することができるという工合に變更する御意思がありましようか、お伺い申上げます。
  6. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 十條は十五條を受けておるのでありますが、今日の貨幣價値を以てしても、一應五百圓ということは相當じやないかと思うのであります。
  7. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 本法の第一條にありまする「法律上正當手續によらないで、」ということになつておりまするが、この第一條意義如何は、本法の活殺に關する極めて重要なる一條であると思います。若しこの一條が、いわゆる法文に現われておりますごとくに、「法律上正當手續によらないで、」とありまする反面、即ち法律上正當手續によつて身體自由拘束をされました者は入らないことになるといたしますれば、從來我が國の裁判實情から照し合せて考えて見ますると、殆んど本法案というものの活面というものは極めて徴々たるもので、恐らくは死法に等してような結果になりはしないかと思います。例えば法律上正當手續によつてつて拘束を始めまして、勾引状、或いは勾留状又は勾留に對する更新手続等法的形式條件を備えておりまするならば、當然この人身保護法範圍に入らないことになります。ところが若しこの意味が、假に法律上正當手續形式だけを備えておつただけではいけないので、實質的にも全然自由拘束理由なき場合の全部を含む場合であるといたしまするならば、本法活用は非常に廣くなつて來やしないかと思います。從つて憲法人身保護法に對しまする規定を設けて、そうしてこの人權尊重趣旨に副う效果を、本法によつて確保せんとする趣旨から考えまするならば、いわゆる從來我が國において正當なる手續によつたるものなりとして扱われておりまするものを、この條文通り解釋いたしまして、すべての手續は法に則つてしておるのであるからということになりまするならば、結局は今申上げた通り本法活用範圍が非常に狭くなるという結果になる。そこで人身保護法法案逐條説明書を拜見いたしますれば、かような法律上正當手續形式上できておるといたしましても、その手續實體的に甚だ不當であるというような場合も含むものであるとも見られます。そういうことになりまするならば、初めて本法活用が非常に廣くなつて制定意義があると思います。日本裁判の實際から見まするというと、必ずやこの第一條法文書き方からいたしますると、裁判所においては必ずやこの手續が一應法律上の定められたる形式を備えておるといたしました場合には、この申出をいたしましても條文通り解釋をされることだと思います。故に若しもこれを廣く解すべきものだ、いわゆる實質的のものも當然これに含まれたものであるといたしましたならば、この法文書き方を變えるにあらざれば、到底この趣旨を貫くことはできんと思います。この點について提案者の明快なる御説明を拜聽いたしたいと思います。
  8. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 鬼丸委員の御指摘になられた點は一々御尤もでありまして、提案者といたしましては、「法律上正當手續によらないで、」という言葉でおつしやるような場合も含め得るというふうに解釋しておるのでありますが、言換えますると、例えば勾留が正式になされてはおりまするが、審理の都合その他で慢然と延びておるというような場合、或いは保釋金がべらぼうに高く決定されたというような場合も、この第一條によつて救濟し得るというふうに解釋してはおるのてありまするが、お説のように、裁判所がこの法律解釋いたします場合、果して提案者の言うような意味解釋して呉れるかどうかということは、甚だ疑問である次第であります。實に本法制定の當初におきましては、憲法の三十四條と符節を合せまして、「正當な理由がないのに身體の自由を拘束されている者は」というふうに立案したのであります。かような言葉づかいを以ていたしますならば、お説のような場合もすべてこれを包含し得て、餘すところがないと考えられるのでありまするが、關係方面との折衝の際に、いろいろな迂餘曲節がありまして、遂に法律上正當手續によらないでと書き改めざるを得ないとうなことになつたわけでありまして、この點はお言葉によりまして、十分研究して見たいと思つております。
  9. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 實は只今の御説明で了解得たのですが、又一面考えると、お説のごとく、法律上正當手續によるということを實質的に解して、正當な理由なくしてと假にいたしましたときには、ここに本案裁判を、裁判所において審理をいたしておりますることと並行して、本法審理が優先的にいたされまする結果は、この本法審理範圍というものを、餘程一線を畫するにあらざれど、本案實體を捕促するためには、やはり本裁判と同じような裁判をするに非らざれば、正當な理由があるかないかということが明確にならないというやうな慮れがあるために、自然この正當な理由ということのごとく廣くするのがよくないんじやないかということになつたのではなかろうかと推察しておるのであります。若しそれといたしますならば、それとして、本案裁判より離れたる、この法案によりまする救濟申出審理範圍というものを、或る程度において一線を畫して審理をいたしまするならば、何等不都合が生じんように思います。この點についてもとより提案者の方で十分なる御調査、御研究を頂いておることと思いまするので、そういうような場合におきまする矛盾と申しましようか、複數的調べを無限に同樣竝行されますならば、何だか非常な調べが重複する感がございます。その點はどういうふうなお考えがあるかを併せて伺いたいと思います。
  10. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 人身保護法によつて賄われる範圍は、結局拘束形式的に適法であるかどうかということが中心をなるのでありまして、言葉を換えますと、その實體をなす、例えば刑事事件における犯罪があるかないかというような點には及ばないのであります。そのことはたびたび申上げた點でありまするが、お言葉のように、正當な理由がないのにと書きますると、ややもすれば、その實體判斷にまで入る得るのではないかという虞れが、言葉の上から窺われるということを心配して、「法律上正當手續によらないで、」というふうな表現に改めざるを得ないことになつたものと考えるのであります。その言葉づかいに、いずれにいたしましても、實體判斷には入らないという點は御了承願えるだろうと思います。
  11. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 誠に表裏一體のものであつて、微妙にその點は關係があるのじやないかと思います。というのは、法律拘束さるべき理由ありやなしやということの實體を捕捉せんとするならば、どうしてもやはり本案審理を或る程度調べるにあらばれば、それが黒か白かということが明白にならないと思います。そこでその本法審理範圍というものを、實體に觸れずして、而もそれが拘束する理由ありや否やということを、掴むということは、非常な困難なことになるように願います。そこで私は、この法文書き方自體に對して、今一歩踏込んで、そうした本裁判本法との適用範圍を、一つ一線を畫して、そこの矛盾を明確にする必要がありはしないかということを思うのであります。例えば、法律一つ違反行爲がある、その違反行爲というのは、本案審理をするにあらざれば、最後的の結論には至らないけれども、併しながら、客観的には、それに嫌疑をかけることは行過ぎであるというようなことを考えて見まするならば、私は何らそこに本案と並行いたしましても無理のない、一つ一線を畫することがどきやしないかと思います。よくこれに似通いましたる事件として、例えば刑事訴訟法等におきましても、恐らくは一つ犯罪嫌疑に對する起訴の適否を決めます場合に、それが客観的に嫌疑をかけるに十分な理由がありや否やによつて損害賠償の成立するや否やによつて決まることもあります。曾てやはり當委員會において審議されました國家賠償法審理中にもございましたごとく、審理の結果、實體的には結局嫌疑事實なしという無罪の判決を受くるに至つたといたしましても、檢事が一つ嫌疑をかけることは客観的に適當である、こういうような場合には國家賠償が成立しないと同じような趣旨において、その理由ありやなきやは、その客観情勢によつて定めるのだ、こういうようにしたならば、私は何ら法律上正當なる理由なくしてというふうに定めましても不都合はないじやないかと思います。この點重ねて提案者の御意見を聽かして頂きたいと思います。  それから次は第二項の、即ち本法によります救濟は無限に裁判所に向つてなし得ることになつております。そういたしますというと、事件というものの扱いの上において著しい不安を感ぜしめ、或いは濫訴の虞れがあるようにも心配されます。この點について或る程度制限を加えた方が適當ではないかとも思います。提案者のこの點についての大原則を本法適用するわけには行かないといたしましても、少くともこれ又無限になし得るということになりますならば、自然濫訴の虞れも考えられます。このままにして行くことが適當か、或いはそれとも只今申しますごとくに、一線を畫して行つた方がいいじやないかとも思います。重ねて伺います。
  12. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 第一點でありますが、「法律上正當手續によらないで、」ということの要件は、事を刑事手續の場合に限つて考えますならば、拘束形式的に法規根據に基いておるかどうかということ、それから法律の定める手續方式從つておるかどうかということ、竝びにその令状が權限ある者によつて發せられておるか、どうかという點などが考えられねばならんと思うのでありますが、如何なる場合に逮捕状が出せるか、又勾留状が出せるかということは、御案内のように、刑事訴訟法或いは應急措置法等において、それぞれその要件規定されておりまするので、本法による救濟は、その要件を充足しておるかどうかということの判斷によつて決まるのではないかと思います。從つて言葉のように、全然犯罪嫌疑がない、それが客觀的に明瞭であるというような點は、やはり形式的な價値として考えられるのじやないかと思います。それが實體的判斷であるか否かということは、結局非常に微妙な點になるわけでありまするが、今申上げた客観的に明瞭な嫌疑なしという一つ形式的要件を缺いておる場合には、本法適用されて然るべきだと思うのであります。そこの線は、實際問題としてはかなりデリケートなものがあるだろうと思うのでありますが、理論的に突詰めますと、そういうことにならざるを得んと思います。  それから第二の一事不再理の問題につきましては、本法ではお言葉のように一事不再理は考えておらないのでありまして、そこで非常に多くの事件が發生することを豫想されないこともありませんが、その點は第二條で、實はそれを戒めた意味におきまして、責任ある辯護士代理人としてこれをしなければならないというところで一縛り縛つたわけであります。尚管轄規定も可なり廣く規定はされておりまするが、一應のそこに枠を設けました。ただ誰でもがこの人身保護請求ができるという點は、憲法の三十四條にも「何人も、正當な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその辯護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」という規定の「何人も」を受けて、實は制限しないで、誰でもができるということに規定したのであります。憲法の三十四條は、日本文で續みますと、どうもちよつと「何人も」が今申上げたような説明にぴつたりしないものがあるように讀めるのでありますが、實は英文の方を讀みますと、やはり「デマンド・オブ・エニイ・パーズン」ということが書いてあります。つまり不法に拘禁されておるというようなものに對しては、誰でもその理由の解疑を求めることができるというふうに讀むべきであろうと思うのであります。そういたしますると、これは憲法上、すべての人に與えられた一種の權利ということが言えると思いますので、本法でもこれを受けて、第一條の第二項に、何人も被拘束者のために、人身保護請求をすることができるというふうに書いたわけであります。イギリス法では、赤の他人はいかんというふうな制限があるようでありますが、この法案では、そこのところが抜術的に非常にむずかしく感ぜられましたので、別に人身保護請求をする請求權者については、制限を設けなかつた次第であります。そこでお話のように、非常に廣くなつたわけでありまするが、事實上の取扱としては、その保護對象になる被拘束者のために一度請求がなされれば、これは相當愼重にやるだろうと思います。二度、三度ということになると、やつぱり決定を以て却下する五條或いは準備調査で棄却するなどの手續が、相當有效に働いて來るのじやないかと思われますので、御心配になる程、非常に混雜するということもないのじやないかと思うのであります。
  13. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 それに續きまして、第三條に「被拘束者その他關係最」とありますが、その「關係者」というのは、如何なる範圍を言われるのであるか。又現に簡易裁判所におきましても、刑法二百三十五條の罪について裁判權を持つに至つておるのでありまするが、元來本法審理会議體においてなすことになつておりまするが、簡易裁判所は、すでに二百三十五條の罪についての審理權を持つておるので、その簡易裁判所管轄する上級と申しましようが、地方裁判所或いは高等裁判所に對して請求をしなければならんということになるますると、大變地理的にも亦時間的にも不都合が生じて來やしないかと思います。この點は、特に会議によらなければならなかつた理由は、愼重を期するという意味ではあるでありましようが、若し簡易裁判所自體が不法拘束をしておるというのであるならば、簡易裁判所に一應請求書を出して反省をして貰つて、簡單に解決するという途もあながち考えられんこともないように思うのでありますが、その點はどういうふうにお考えになつておりますか。ここにいわゆる關係者というものをはつきりしておく必要があるかと思います。尚いわゆる拘束者というものは、前囘の説明にもありましたが、ひとり裁判所に限らず、刑務所長、或いは警察署長をも含まれるように説明を承わつております。そうしますと、その請求關係者というものは、被請求者というもの、關係者中には勿論刑務所長、或いは警察署長も含まれるのであろうと思います。そうした人達にはこの請求對象となるものが、即ち刑務所長、或いは警察署長、こういうふうになるのであるかどうか、從つてここにいわゆる拘束者というものは、ひとり警察署長ばかりでなく、又逮捕、監禁、そんなのがいずれも入ることになりますと、自然警察官の場合も含まれる。こういうこともやはり併せて含むか否やも明快にして置く必要があると思います。御説明を願いたい。
  14. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 三條の管轄を決める規定の中の被拘束者、その他關係者所在地管轄する裁判所という場合の關係者と申しまするのは、被拘束者はここに明示されておるわけでありますが、その外拘束者、それからこの人身保護請求をいたしまする請求者及び請求者代理人であるところの辯護士、それらの者の所在地管轄する裁判所という意味解繹しておるのであります。それから管轄裁判所の中に、簡易裁判所考えなかつたかという御質問でございましたが、人身保護請求は、裁判所が主として發した令状によつて拘束されたものが對象となる場合が非常に多かろうと考えられますので、その裁判所の發した令状を批判するような形になると思うのであります。そういたしますると、地方裁判所が出した令状は、その地方裁判所と同格の地方裁判所で批判するということすらもどうだろうかというような縣念が非常に濃厚だと思うのであります。それで一部には、人身保護請求管轄最高裁判所一つに限るべきだというふうな議論、つまり非常な權威を持つてやるべきだというような見地から、最高裁判所に限るべきだ、全國非常に遠隔の地に發生した事案についても、二三日で解決するわけには行かないのだから、關係者の犠性を忍んでも權威あらしめるものとして、最高裁判所にやらせるべきだという有力に議論もあつたのでありますが、これは又イギリス等の沿革から、そういう議論も出て來るのだろうと思います。併し英國のように、数百年に亙つてこの制度が發達して參り、今やこの制度あるが故に、この法規適用を受けるような事案が非常に少ないというところまで、人身保護の思想が發達しているところは別としまして、今日この法律を施行することによつて日本では相當數の事件の發生が豫想されるのではなかろうか。そういたしますると、將來は別といたしましても、當分は到底最高裁判所で賄うというわけには行かないという見地から、各高等裁判所ぐらいでどうだろうかというような意見もあつたのでありまするが、まだそれでも少し陣容の關係から不足するだろうというので、他の法律にはちよつと類のない高等裁判所又は地方裁判所という一審と申しますか、管轄規定したわけであります。簡易裁判所はそういう次第で、實は地方裁判所請求を出すにも、さまで距離的にも、時間的にも不便を感じないだろうというような見地、及び先程申上げました、自分自分のことを判斷するというようなことをなるべく避けたいというような趣旨から、簡易裁判所管轄を認めなかつたわけであります。それから拘束者という點は、お説のように警察署長或いは拘置所長刑務所長などを指すのであります。現にその拘束責任者であるものを主として指摘しておるのでありまして、その途中において關與した警察吏員などは、拘束者の中には含めておらないのであります。
  15. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 第一條でありますが、これは申すまでもなく、法律適用範圍を定められたものであると思いますが、今專門調査員の御答辯によりますると、結局實體法上全く不法拘束されておるという者が殖えて來ると、犯罪がないのに拘束させられておることが明瞭である場合は、やはりこの法律でやるようになる。こういうような御説明であつたと思います。そういうことになると、非常にこれは個々の法律適用について混雑を來するのではないかと私は考えられるわけであります。御説明は私は一應納得いたしました。この第一條説明中にありまする法律上の正當な手續要件は、一、拘束形式的に法規の根本に基くこと、二、拘束法律の定める手續の方式に從う。三、拘束がその權限ある者によつて行われること、つまりこの説明の第三にある、拘束が、その權限ある者によつて行われることということが、やはり正當な手續要件になることになるますると、御説明のようなことも言われるだろうと考えるのでありますが、そうなると、結局これが實體法上本當に犯罪にならないのであるかどうかという解繹も、これは請求する者の判斷によつてつて來ることになるじやないかと思うのであります。そうすると、結局むしろ手續というよりも、將來はその法律が悪用せられて、實體法上の中に入つて行くというような危險があるように考えられるわけでありまするが、私はやはりこれはこの條文を正面から解繹して、單に正當な手續によらない手續だけに止めるということが、この法律狙いでないかというふうに考えるのでありますが、その點について、もう一度もう少し詳しく御説明を願いたいと思います。  それから第三條の管轄の問題、これは關係者というのは、やはり辯護士までも關係者というものの中に含めるという御説明であるようでありますが、そうすると、結局辯護士の所在が地方裁判所管轄を別にするような場合、そういう場合には非常に困るのじやないかと考えるわけであります。その關係者というのは、やはりそういうふうに廣く御解繹になるのですか。又實際において辯護士所在地管轄する裁判所ということになると、むしろ距離その他手續上關係において、この法律趣旨に反するような結果になるのじやないか、迅速にやり得るということにならんのじやないかというふうに考えるのであります。その點について御答辯を願いたいと思います。
  16. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 第一點でありまするが、「法律上正當手續によらないで」ということは、拘束形式的に法規根據に基いておるかどうかということも、その判斷の中に入るのでありまして、先程私申上げましたのは、理論的に突き詰めると、そうならざるを得ないということを申上げた次第であります。そういうことは恐らくこれまでにはなかつただろうと思われるくらいの、全く或いは議論の遊戯になるかも知れないのでありますけれども、併し理論として考えれば、そういうことも考えられるというぐらいの意味にお聽き取りを願いたいと思うのであります。今日裁判所判所令状を發するという場合に、そういう嫌疑のないことが非常に明白であるというにも拘わらず、令状を出すというようなことは、問題にするのが野暮なような氣がいたしますけれども、例えば逮捕状發出要件として、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相當な理由があるときには、裁判官の逮捕状が求められるというので、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相當な理由ありということが、一つ逮捕状發出要件になるのであります。そこで要件を缺く場件には、結局逮捕状を發出してはいけないことになりますから、形式的に法律根據に基かないということになるのではないかと考えております。從つて説明書には犯罪を構成していない場合でも、適当な勾留状拘束されておるならば、請求は棄却されることになるというふうに説明したのでありますが、むしろこれが殆んど九十九と言いますか、恐らく例外なしに皆これに嵌まるのではないかという感じはいたしますけれど、理論的にはやはりそういう議論の餘地が殘されると考えます。そこでそれを理由にして請求するものが相當あるということは考えられないではありませんが、併し恐らくそれが取上げられる例は先ずなかろうと考えます。それから次に管轄に關する關係者所在地の問題でありまするが、ともかく當事者をして……當事者と申しますか、請求者をして簡易迅速に手續を執らしめ得るというところを狙いといたしまして、この管轄規定を決めたのでありまして、この規定から見ますると、殆んど土地の管轄はあつてないような感じがするのであります。そのくらいに廣く、而して簡易迅速に手續をなさしめる。お説のように請求者の方の手續は簡易迅速になされるが、却つてこれを取扱う裁判所の方の手續が、これに伴なわないという憾みは或いは出て來るかも知れません。併し建前といたしましては、やはり請求者に厚く、裁判所としては機能を十分に發揮して、これについて行くべきだという考え方をしておるわけであります。
  17. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 第一條關係ですが、理論を突き詰めると、そういうことになるという御答辯に私も同感であります。併し實際の問題として私の考を申上げますと、それはこの請求は、成る成らんは別問題といたしまして、請求をし得るかどうかということが、先ず前提となつて考えられる。請求をする者がこの要件を缺いておる、いわゆる實體法上要件を缺いておるというふうに考えた場合にも、請求はできるのだというふうになると思います。非常に私はその手續をする者が多くなるのではないか、むしろ悪用する者が出て來るのではないかというふうに考えられるわけであります。それで結局これはやはり理論的な考え方でなく、實際にその手續上の方だけに適用されるのだというふうに解釋するのが、本法狙いではないかと私は考えるのであります。理論的に許されるものが、實際的に許されないということはあり得ないわけであります。理論的にこういうふうに考えられるならば、手續上請求ができるということは、これは當然のことであると思います。むしろ私は將來において、或いはそういうようなものの實體法を基礎とするものが多くなるじやないかという心配が非常に多いのであります。今御説明を聽くと、九十九まではそういうものはなかろうという御説明でありますけれども、私はそう考えないのであります。その點一つもう一度。  尚第三條の「關係者」の中に辯護士が入るということは、私はどうも辯護士關係者代理人であつて、訴訟の關係者ではないと私は考えるのであります。辯護士關係者であり、辯護士所在地管轄する裁判所請求ができるということになると、實際において先程申上げたように、遠い所の辯護士を頼む、實際においてそういうことはないかも知れませんが、鹿兒島縣の者が熊本縣の辯護士を頼むというようなことは、或いは個人の事情によつてあるかも知れない。鹿兒島縣の問題を熊本の地方裁判所請求し得るということになると、迅速にやるという目的は、大半失われることになるのじやないかと考えられる。やはり關係者という中に辯護士も含むというお考なんですか。むしろ私は關係者というものには辯護士は入らずして、辯護士關係者代理人だという見方が正しいのじやないかと考えます。
  18. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 第一の點でありますが、私も先程來、實質的な犯罪の性質ということについて審査をするということは決して申上げておらんのでありまして、飽くまでも審査の對象形式的な手續に限られるのであります。そこで嫌疑ありや否やということは、犯罪があるかないかということとは觀念上區別して考えらるべきものを存じておるのであります。嫌疑があるかないかということなので、つまり犯罪があろうがなかろうが、それはともかくとして、一應そういう嫌疑があるということになれば、令状發出の要件は滿されるわけであります。ですから極端に言いますと、犯罪はやつておるのだが、嫌疑がないという場合すらも考えられるのであります。理論的には、その意味におきましてやはり手續上判斷だというふうに解釋しております。決して實體に入つて犯罪をしたか、しないかというところまで判斷するという意味ではないのであります。この點において御質問の御趣旨とは結局において一致するのじやないかというふうに思うのです。それから管轄に關する被拘束者、その他關係者所在地という中へ辯護士を入れることは不都合だという御説でありまするが、これも實は解釋の問題でありますから、立案者としては入れた方がよくはないかというふうな氣持でおります。ただ如何にも關係者という言葉が甚だ明瞭を缺きますので、そういう疑が起るのではないかと思います。何か適當言葉がありましたら、一つ御修正を願つても一向差支ないのでありまするし、又このままで、辯護士は入れない方がよかろうという御解釋が御贊同を得られるようでしたら、私共説明員としても、辯護士を入れないというふうに考えてもいいのであります。けれども、ちよつと明瞭を缺くという點は誠に立案者としては遺憾であります。
  19. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 犯罪の疑嫌があるかどうかということは、結局立場々々によつて違う場合があるだろうと思うのであります。檢事の方では犯罪嫌疑が濃厚であるというように考える場合でも、被拘束者、或いはその關係者、そういうものは全然犯罪嫌疑はないと、こう見る場合があります。更に又明確に人違いがあるということもあると思います。人違いで拘束するということ、これは非常に多いだろうと思う。特に最近に多いと思います。窃盗などが多いときには起り得るかと思うのであります。そうなると、そういうような場合には、結局この法律によつて請求ができる。いわゆる實體法の問題に入つて行くということになるんじやないか、明確に人違いであるということが、はつきりしているという場合、檢事の方ではそうじやない。併し實際においてこれは人違いであるということがはつきりしておる場合が幾らも出て來る。そういう場合には、この場合どうなりますか。
  20. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 事を令状に限局いたしまして、その令状が發出された當時の事情によつて判斷すべきであろうと考えるのであります。從つて令状發出の當時においては、嫌疑がありと考えることが客觀的に普通であつたというような場合には、その令状發出の行爲、從つてそれによる拘束は一應適法なものと考えられねばならんと思います。後に至つて諸種の事情から、それは明確な人違いであつたというような場合には、本法によらないで、刑事訴訟法によつて爭われるものと考えるのであります。
  21. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 刑事訴訟法によつて爭うことは、この場合でもできるのでありますが、この法律趣旨は、迅速にそういう者の拘束を解いてやろうということなのですから、明確に人違いであるというような場合は、やはりこの法律でやれるということになるのではないかと思う。私はやはりこれは、どうしてもはつきり線を引く必要があるのではないかと思うのです。單に手續なら手續だけだ、理論的にも或いは實際的にも實體法には入つて行かないのだということをはつきりしないと、取扱の面において非常に混雜するのじやないかと考えるのです。
  22. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) そこで「法律上正當手續によらないで、」という書き方にして置きますと、これは到底實體には入り得ないということは明瞭であろうと思うのであります。ただ先程鬼丸委員から御指摘になられましたように、今状は一應適正に發出されたが、裁判所の大した理由のないいろいろな事情によつて、非常に拘束が長引いておるというような場合を、これでは含まない嫌いがないかというような惱みがあるわけであります。そうした場合も含めて人身保護法は結局實體には入らない、ただ手續關係だけを判斷範圍としておるというふうに解釋しておるわけであります。
  23. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 こういうふうに解釋してよいわけですか。理論を突詰めて行くと、結局實體の問題にも觸れねばならないが、根本の趣旨實體の方には入らん。ただそこには、ここに謳われておる通り、法律上正當手續によらない場合だけをこの法律でやるのだ、こういうことに承わつてよいわけですか。私はそこに明確にして頂きたいと思うのです。
  24. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 私が先程來申上げておりますのは、決して有罪無罪には入らないということは一貫して申上げておるつもりであります。實體には入らないということは、これは大原則であります。例外なしであります。ただ嫌疑があるかないかという點には入る。嫌疑ありや否やという點は、これは實體にあらずして、私は形式手續の問題だと思うということを申上げて置く次第であります。
  25. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 そうすると、嫌疑があるかないかということは、主觀的な問題になるわけですね。
  26. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) それはやはり客觀的な標準で判斷しなければならんと思います。
  27. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 いや請求があつた場合に、あなたの御意見のようであると、結局請求は一應受理しなければならんということになるわけでありますね。
  28. 泉芳政

    ○專門調委員(泉芳政君) 申立があれば、その理由があろうとなかろうと一應はともかく受理して、そうして五條ではねるか、十一條ではねるか、或いはもつと先の手續もありまするが、これは御案内の通りであります。そこで實體を問題にして申立てがあつた場合には、恐らく五條ではねられるような結果になるのではないかと思います。繰返して申上げるように、飽くまでも實體判斷はいたさないので、先程來、疑いありや否やということも、客觀的な標準に從つて嫌疑があるかないかということを判斷する、これは結局手續の問題であり、形式の問題であるというふうに考えております。
  29. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 先程から申上げた人違いなどの場合はどうなるのであります。か明確にこれは人違いだというような場合……。
  30. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 令状發出後に、いろいろな事情によつてそれが人違いであるということが疑いない、非常に明瞭な人違いであるという假設の場合には、やはり本法によつて受理することが妥當であろうと考えますので、先程の私の答辯は訂正いたします。
  31. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 そうすると、やはり實體法の中に入つて行くということになるのではないのでありますか、そうすると、結局犯罪ありや否やということの判斷になるのであります。
  32. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) それはやはり法律上正當手續によらない拘束という範疇へ入ることは、實體の問題じやないのじやないかというふうに考えられますが。
  33. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 説明書の第三條ですね。まあその程度で私の方も一つ研究して見ましよう。
  34. 伊藤修

    ○委員長(伊藤修君) それから先程御質問がありました通り、第三條の「被拘束者」の下の「その他關係者」とここうあるのを、「又は拘束者」とこう改めることになつてつたわけであります。たまたまここに今見ますと、この前差上げました修正案がここに脱落しておるらしいのであります。
  35. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 どういうふうに……。
  36. 伊藤修

    ○委員長(伊藤修君) というのは、今御指摘になりましたような、やはり疑義がありますし、尚且つ第一條の第一項を受まして、「何人も」とありますので、いわゆる「何人も」というのは、日本全國誰でもということになりますが、そうすると非常に管轄は廣きに失する、旁々御指摘のような「關係者」という文學も不明確である。現在の日本裁判機構では、それだけの多數の豫想される手續を受け入れるだけの態勢にある得ない、又準則を期待するならば、あながちイギリスの通りにこれをやらずして、日本日本的にやるべきが至當ではなかろうかと思うふうな、最高裁判所あたりの御意見が強かつたのであります。それは第三條の「被拘束者」の下の「その他關係者を削つて、「又は拘束者」と改めまして、それで管轄を非常に制約すると、こういう考えで、これを修正することになつておりましたですが、たまたま梶田さんの印刷されました部分が落ちておりましたから……。
  37. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 「被拘束者」、それから……。
  38. 伊藤修

    ○委員長(伊藤修君) 「又は拘束者。」
  39. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 それなら明瞭です。
  40. 伊藤修

    ○委員長(伊藤修君) そうすると、管轄がそこのところに制約されますから、鬼丸さんの御指摘のような、いろいろな疑義が起つて參らんというふうに考えましたのですが、先にそう考えておりましたが、それは私の方で考えておりましたが、これは修正案の方が落ちておりますから、その點だけ釋明して置きます。
  41. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 そうすると結局被拘束者拘束者だけになるのですか。
  42. 伊藤修

    ○委員長(伊藤修君) そうすると明確になります。
  43. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 そういうことになりますれば、第一條の第二項の「何人も」というのをもう少し狹くした方がいいのではないかと思います。ということは、實際上の問題からして往々この訴訟を遲延ならしめるために、いろいろな手段、まあ訴訟上手段が行われる場合が想像されます。そこで實際上の審理には成る程入らないとしても、やはり全然記録を離れて、それだけの審理をするということは、事實裁判所の責任においてなす場合にある得ないと思います。そういうことになりますと、非常な濫訴が豫想されますので、濫訴の結果、訴訟の進行を非常に遲延ならしめる手段に本法を利用されはしないかということを恐れます。それについての何らかの符約的規定を設けるか、或いは憲法の條章を尊重して、「何人も」という文字を入れることが正しいとあるならば、別に何らか制約的の規定をした方が濫訴を防ぐ一つの何になりはしないかということを申上げます。あと前之園委員の申上げましたごとくに、第三條の「關係者」という文字を除いて、被拘束者及び拘束者に限定されまするならば、非常にその點が明確になつて來ると思いましたので、私先程この點をやはり伺つて、何らかその濫訴の弊を除くのがよいのではないかと思う趣旨から、先程關係者の内容を伺つたのであります。それから尚第六條中にあります「申立に因り」というのがありますが、この「申立に因り」というのは、誰が申立てするのかということをこの際明確にして頂きたい。
  44. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 第一條の第二項に、本法による請求何人も被拘束者のためにこれをすることができるというふうにいたしました經緯につきましては、先程申上げた通りでありますが、こう書いてありましても、事實上は全然赤の他人が被拘束者のために請求をして呉れるとも考えられませんので、おのずからそこに限度が生まれて來るのじやないかと思うのでありますが、一つさように御了承願いたいと思います。それから訴訟遲延の目的を以つて人身保護請求を濫用するということは、或いは絶無ではないかも知れませんが、これは民事の訴訟と違いまして、お説のように、民事訴訟ではしばしば訴訟遲延の目的で以て、あらゆる方策を講ずることは御案内の通りであります。刑事訴訟法におきましては、むしろ從來裁判所があれこれ鞭撻されておるような形であり、當事者も又審理の促進を熱望しているような實情でありまするから、そういう面からも多少制約されるのではないかというふうに考えられるのでありまするし、本法請求を審査いたしまするについて、本案の記録が相當な關係を持つて來るということは否めない事實でありまするけれども、これ又運用に當りましては、努めてそのために本案の訴訟事件が遅延することのないように、裁判所に嚴重な注意をして頂きたいと思つておりますので、その邊のところで一つ御了願いたいと思います。  それから第六條の管轄移轉について、「申立に因り又は職權をもつて、」とございますのは、この申立は請求者の方より申立てる、それは例えば、この「何人も」という條項によりまして、方方に人身保護法請求事件が係屬したというような場合に、合してなすことを適當を認めるような場合、或いは職權で、或いは當事者がそれを知つた場合には、片方のものを片方に移送して、そうして合してなすというような便宜もあろうかと思いまして、かような規定を設けたのであります。
  45. 鬼丸義齊

    鬼丸義齊君 第六條の「申立に因り」だけでは、どうも明確でないと思いますが、請求者の申立というふうに入れたならば、何か弊害があるのですか。そういたしますれば法文の體を成し、誠に明瞭になると思いますが、それを入れたならば、何か支障のできることがありましようか。その點特に入れてないところを見ると、何かの利益があるかも知れない。
  46. 泉芳政

    專門調査員泉芳政君) 別に特段の理由はないのでありますが、一つの研究して見たいと思います。
  47. 伊藤修

    ○委員長(伊藤修君) ちよつと速記を止めて。    〔速記中止〕
  48. 伊藤修

    ○委員長(伊藤修君) 速記の始めて……それでは、本日は質疑はこの程度にしておきまして、明後日いたすことにいたします。明日は裁判の不當處理に關する調査會を午前十時より開くことにいたします。本日はこれを以て散會いたします。    午後零時十七分散會  出席者は左の通り。    委員長     伊藤  修君    委員            齋  武雄君            中村 正雄君            水久保甚作君            鬼丸 義齊君           前之園喜一郎君            來馬 琢道君            松村眞一郎君            星野 芳樹君            小川 友三君   專門調査員            泉  芳政君