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水久保甚作君 私は今日特にこの
委員會におきまして、
高等裁判所支部設置に關し當局に對して、
九州即を
福岡高等裁判所管内における
新設場所選考上の要領を陳述いたしまして、その
答辯を承りたいと存じます。
最高裁判所は、
事件の迅速なる處理を圖るために、全國に十五ヶ所の
高等裁判所支部設置を計畫し、目下その
設置場所を選考しておられるということを承
つております。而してこれに伴いまして、
九州でも一ヶ所設置されることになりまして、それをいずこに置くかと選考するために、去る一月三十一日
最高裁判所桑原第二
課長が
足立福岡高等裁判所事務局長とともに
宮崎市に出張の上、諸般の
實情を視察せられ、又來月早々
塚崎最高裁判所裁判官を同地へ派遣調査されるよう承
つております。更に
九州で
高等裁判所支部設置の
候補地は熊本、大分、
鹿兒島、
宮崎の四市であるそうであります。
高等裁判所支部設置については、
宮崎縣は地理的に不便なので、
宮崎縣内法曹關係者及び有識者間にその
要望を強く糾ばれております。よ
つて宮崎辯護士會では、既に昨年十二月初め
該支部設置上申書を
福岡高等裁判所長に提出し、又
安中宮崎縣知事及び
荒川宮崎市長も、
支部設置についてはでき得る限りの便宜を與え、協力を惜しまないことを表明いたし、その
設置方を
要望しておる次第であります。一
體宮崎縣は
地理的状態から
言つても、
交通状態から申しましても不便であ
つて、
福岡高等裁判所に上訴する
關係において、時間と
費用の點で非常なる損失を受けておることは今更申上げるまでもありません。今上訴のために、同
縣中心地である
宮崎市から
福岡市に行くとすると、少くとも二泊三日を要し、
汽車賃は二等往復六百十五圓、
宿泊料五百圓として一千圓を要します。他の諸雜費を加えると莫大な額になる現状であります。而して
刑事事件であれば、被告人も行かなくてはなりません。かくのごとく多額の
費用を要するために、一審の
裁判に不服であ
つても、經濟的に惠まれぬ被告人は止むを得ず上訴權を放棄しなければならんことになりまして、誠に同情に堪えないところがあることは周知の事實であります。而して昭和二十二年五月三日より同年十一月末日までの
福岡高等裁判所において取扱
つた事件數を見ますると、
福岡縣四百件を筆頭に、その次は地理的に便利に佐賀縣が百四十件を示しておるのであります。これに對しまして、
宮崎縣は僅かに六十八件に過ぎなか
つたのを見ても明らかであります。併し上訴件數は一應人口の多少にもよりますが、
宮崎縣の場合、佐賀縣と比較いたしまして、全體の
事件數では遥かに多いにも拘わらず、上訴件數では僅かにその半數にも及ばないという事實は一體何を物語るものでありましようか。かかる
實情によりまして、
事件數の多少のみを以て本問題を律することは當を得たものではないかと思いますが、更に地理的に不便であるため、又貧しいがために、
國民としての權利の主張ができないということは、新憲法下において基本的
人權の擁護にも反するものであると言わねばなりません。
次に四
候補地について見ますると、熊本は
福岡まで僅か四時間しかかからん近距離にありまして樂に日歸りもできるから、これは一應問題外として、
鹿兒島、大分、
宮崎三
候補地について見ますれば、
宮崎縣はその中間に位しておりますので
宮崎市に設置されることは大分、
鹿兒島兩縣民にと
つて最も好都合だと思う次第であります。若し
鹿兒島市に設置されたとしたら大分縣民にと
つては何等恩惠に浴することは不可能でありまして、大分市設置は
鹿兒島縣民の不利亦然りであります。
宮崎の
裁判所は右三
候補地中幸い戰災から免れた唯
一つのものでありまして、同
裁判所廳舎、
陪審法廷の如きは、高等
裁判所法廷として恥かしくない誠に立派なものであります。又判事宿泊建設についても知事、市長が最大の努力を拂あことを誓約しておる次第でありますから、何等心配はありません。廳舎住宅
關係もよく、更に旅館、食糧等の諸事情から
言つても以上各縣に劣
つているとは思われません。かくの如く
宮崎市は
高等裁判所支部設置地として最も好
條件を具備しております。しかもそれは
宮崎縣民のためのみでなく大分、
鹿兒島兩縣民にためにも、又熊本縣下人吉區
裁判所管内の如きは他の何れの地に設置されるよりも頗る便益を得まするので一番公平妥當だと思います。故に私は
宮崎市に該
裁判所の
支部設置を
要望する所以であります。この
高等裁判所支部設置については一部
關係者、有識者が非常な熱意を持
つているにも拘わりませず、
一般にはまださほど關心が薄いようでありますが、それは直接
一般人の日常生活に觸れていないからだと思います。しかし前述のように多額の
經費と時間のために上訴件數の少ない事實を
考えますと、その
裁判所支部の設置は、前申しました
通り便益を得る
關係國民が、新憲法下において基本的
人權を擁護するために求むべき喫緊の重要事であるという確信を以て、
最高裁判所事務當局の誠意ある
答辯を求むる次第であります。