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1948-03-29 第2回国会 参議院 司法委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年三月二十九日(月曜日)    午後一時四十八分開會   —————————————   本日の會議に付した事件 ○輕犯罪法案内閣送付) ○人身保護法案伊藤修君發議)   —————————————
  2. 伊藤修

    委員長伊藤修君) これより司法委員會開會いたします。今日は輕犯罪法案を議題に供します。委員外議員中野重治君より發言を求められておりますが、これを許可することに御異議ありませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 發言を許可いたします。中野重治君。
  4. 中野重治

    委員外議員中野重治君) この輕犯罪法案については質問が非常に澤山ありまして、私は委員外でもあつて十分整理もできないのですが、私としましては、一つはこの輕犯罪法案については、これが勞働組合運動その他の大衆的運動に對する彈壓のための施策ではなかろうかという不安が非常に大きくて、そのために勞働組合その他でも問題になつておりますし、それから本會議でも、勞働大臣の方でもそれから鈴木法務廳總裁の方でも、そういうものではないということが明言せられておるのですけれども、やはりそういうことが明言せられねばならなかつたような事情は嚴存しておりますので、それでさまざまな疑問が出て來るわけでございます。それからまだ正式には司法委員會の方へ連絡がないそうでありますけれども、先日の勞働委員会で、この問題は勞働運動の問題、勞働委員會の管轄の仕事關係が深いので、何とか司法委員會の方と連合で討議するような機會を持ちたいということが、懇談的にではありましたが、問題になつております。かたがた質問したいと思うのですが、一つは案のそれぞれの條目についての問題です。それからもう一つはこの法案の作られ方、その考えられ方というものに關する問題であります。  で、作り方の方からいいますと、私としてはこの法案構成そのものが自己矛盾していはしまいかということの考えられる點が一つあります。どの點かと申しますと、この案の理由として、昭和二十二年法律第七十二號(云云)第一條の四第二項の規定に從い、警察犯處罰令を廢止し、これに代るべき法律を制定する必要がある。」こういうふうに出ております。それで警察犯處罰令はこの檢事總長提案理由の中にもありますように、これは今までの警察權行使の裏付けに使われていたものであつて、特殊の匂をくつ附けていたもの、こうなつております。それで私共としましては、警察犯處罰令というものは非常に犯罪的なものであつて、これを廢止すべきものと考えます。それで廢止されるということになつたのですけれども、廢止せらるべきものに代るべきものを作ろう。但し法律によつてという考えが、第七十二號の第一條の四第二項の規定からは必ずしも出て來ないと考えます。あの點は手續だけの問題でありますから、若し警察犯處罰令というものが廢止されなければならぬものであるということになれば、それを廢止すればよいので、それを法玲ではなくて法律という形に整えて新らしく出す必要はないと考えます。これが一つです。  それからもう一つは、附則に、「この法律は、公布の日から起算して三十日の經過した日から、これを施行する。」とあります。ところが同時に「警察犯處罰令は、これを廢止する。」と書かれておりまして、この警察犯處罰令は、去年の第七十何號かのときに、五月二日でしたか三日でしたか、あれで廢止されるとなつております。そうすると公布の日から三十日經つてこの法律は實行されるのですが、若し審議に手間をとつて、そうして五月二日でしたか三日でしたか、その日から三十日を超えた以前にこれが通過しなければ、一方は廢止されますから、そこに一日、或いはそれ以上の空白が殘ります。勿論やり方によつてはこの空白を埋めることはできるだろうと思います。一つ警察犯處罰令廢止期日國會においてこれを延ばす、更新するということであります。併し「公布の日から起算して三十日を經過した日から、これを施行する。」という文句の入つたこの法案というものは、若しこれが國會を通らなければ、あつちの方を延ばす。又延ばすまでもなく、國會もこれを、向こうを延ばさなくとも豫定した日までに必ず通過するものを決めて置いて立案しているものと考えられます。  それですから、私はそういう立案の仕方は、國會というものに對する考え方が根本的に間違つていやしないか。この點はどう理解されるだろうか。但しこの場合にこの法案國會の多數を占めるところの三黨協定に基く政府によつて作られたものであるから、國會に掛かればこれは通るに決まつておる。又そもそも通すつもりである。どうしても通さねばならん。この法案作つたのだという理由が一應成り立つように見えますが、そういう答が出るものかどうかという問題。  この三つの點について先ずお答え願いたいと思います。
  5. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 第一點ですが、第一點の御質問趣旨は、警察犯處罰令を廢止して、これに代る法律を制定する必要がある。これが「昭和二十二年の法律第七十二號の第一條の四第二項の規定趣旨に從い、」というのでは出て來ない。又警察犯處罰令を廢止すれば、そのまま廢止してしまつてよいのではないか。かように伺つたのでありますが、警察犯處罰令は御承知通り警察犯處罰令内容そのままをこの度の輕犯罪法において存續させる。こういう趣旨ではないのでありまして、輕犯罪法においては、かような日常生活における卑近なな道徳律に違反するようなものを、やはり輕い犯罪として法律によつて處罰して行くということが社會生活秩序維持上必要である。こういう觀點から出發してできたものでありまして、勿論警察犯處罰令そのもの内容そのまま引繼ぐというのではないのであります處罰令内容の各項の改發を行なつて別な法を制定するということはこれは一向差支ないと考えておるのでありまして、從つて警察犯處罰令にある事項の中で必要且つ妥當なものは殘して參つたのであります。ただここにある昭和二十二年法律第七十二號は御承知のように昨年の五月三日以來この憲法施行になつて警察犯處罰令法律に改めなければ存續し難いものになりましたので、一應昨年の十二月三十日までに、その效力を存續させるものが當時できまして、更に三十一日までに、この警察犯處罰令效力がなくなりました後に、警察犯處罰令に盛られておる日常卑近な道徳律に違反するような輕い犯罪に對する取締ができない、こういう觀點から更に五月二日まで法律とみなすという規定にして延長さした次第であります。その五月二日に至る間にここに必要なものを取極めまして、輕犯罪法というものを作りました。そうして國會の御審議を願つておる次第であります。  更にこの第二點といたしまして附則の問題でありますが、これは實は輕犯罪法は早く國會に提出したいと思いました。この原案の當時におきまして、  「公布の日から起算して三十日を經過した日から、これを施行する。」こういう施行期日を定めたのでありますが、國會の御審議の状況によりましては、これはこのままの規定にいたしておきますというと、お説の通りに、五月二日を過ぎまして、警察犯處罰令當然法律第七十二號によりまして效力を失つてしまう場合も豫想されるのであります。私共といたしましては、甚だ勝手な要望でありまするけれども、五月二日に相成りまするまでの間にこの法案の御審議を願いたい。かように考えておる次第であります。場合によりましては、附則の御修正を願いまして、施行期日を五月三日というふうに改めましても差支ないと考えております。この法律はこの附則に擧げました「警察犯處令は、これを廢止する。」というのは、警察犯處罰令が尚且つ法律とみなさるべき、效力を存續していることら豫想いたしまして、これを廢止する。こういう規定をここに置いたわけでありまして、この間別に特別に意味があつてこういう規定を設けたのではないのであります。大體これで御了承願いたいと思います。
  6. 中野重治

    委員外議員中野重治君) この附則の問題につきましては、今のお答で發案者側での審議結了國會通過乃至期日の問題、これについて、そういう私がさつき臆測したような要望に、やはり事柄が基いていたというお答を得ましたが、そのお答の中味はそれで明らかになりましたけれども、私としましては、かかる要望附則として書込まれた案は、やはり案として極めて不完全なものであるという考えをそのままにしまして次の質問に入りたいと思います。  この法案審議材料としまして、外國のそれに似通つた法律材料として與えられておりますが、そういうものを見ますと、それぞれの項目を照し合せて考えて見ますと、日本が今これから作ろうという法律案は、ドイツフランスとプロシヤの實例が擧つておりますが、そのそれぞれを比べて見ますと、フランスのものは百五十年程前に出たものですが、このフランスの百五十年程前に出たものを比べてさえも、何といいますか、專斷的、封建的な點があるように見られます。それはどういう點かといいますと、例えば第一條の二・三というようなものは、今お答えになつたように、新らしく作られたものであつて、昔の廢止されるべき警察犯處罰令の中にはないものとなつておりますが、「正當な理由がなくて刃物、鐵棒その他人の生命を害し、又は人の身體に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隱しい携帶していた者」と、こうあります。三にも「云々器具を隱して携帶していた者」というような規定があります。それから三十一項の「他人業務に對して悪戯などでこれを妨害した者」、「悪戯などで」というふうな規定がありますが、これをカリフオルニヤ法律、それからフランの法律ドイツ法律などに比べて見ますと、日本のこの法案に方の言葉規定は、カリフオルニヤの方でこの三に該當するものを見てみますと、四百六十六條に當るかと思いますが、そこでは合鍵、「のみ」、ガラス切りの、これに當るところなんですが、「重罪的に建物を破りこれに侵入する意圖を以て錠前を明ける建具、鐵挺、鍵その他道具を所持又は携帶する人若しくはこれを開くべき權利を有する人より求めざるに拘わらず或る建物の錠を開らく樣、鍵その他前記道具を知りながら作成又は變更し若しくは作成又は變更せんとする」云々、とこういうふうに明らかに客觀的に認められる規定が織込んで書かれてあります。それから二の場合はカリフオルニヤ法律では四百六十七條に當るだろうと思いますが、「他人に傷害を加うる意圖を以て兇器を携帶する人は輕罪に該當す」というふうになつております。こういう客觀的規定がなくて、それ自身非常に不完全であるように思われますが、この點はどうでしようかということと、もう一つそのために隱して携帶していた者、隱して持つていた者というふうな言葉となつて現われておりますことは、隱しているという以上は、これを調べなければ分らんということにどうしてもなるだろうと思います。そうすると、こういうことは、警察犯處罰令できこういう行爲は重罪にならなかつたそうですけれども、警察犯處罰令では實際の適用ではこれと同じことがいつもなされたのですが、カバンを持つている場合、そのカバンを調べるというようなことから、隱して持つていたとか、そうでなかつたとかいうような問題が起るようになります。それですから、こういうふうな言葉規定は、人が持つているカバンを調べるとか、それから十四項目の公務員の制止をきかずに大きな聲を出したというふうな場合に、それは大きな聲で迷惑を掛けたというようなことは取締の人が勝手に認定する、認定してもよいということにどうしてもなつてしまいます。第一條の一なんかでも「人が住んでおらず、且つ看守していない邸宅建物又は船舶の内に正常な理由がなくてひそんでいた者」、このひそんでいた者というふうなことにしても同樣なことが出て來るので、これはカリフオルニヤ法律でもフランス法律についてもこういうことは調べて見ても見當らないような思われます。それでこういうふうな主觀的認定をなぜ規定するかということと、それから尤もこのプロシヤ的なドイツ法律では日本のこれから作ろうとする法案に似たような規定がずつと見られますけれども、そういう二つの理由から私はフランス的に、カリフオルニヤ的に事を處理して行かなければならんのではないかと考えます。というのは假に外國にいろいろな法律があつて、これを參考にする場合に、外國に悪く規定されているから、日本が新らしく作る場合にもその悪い法を倣わなければならんという理由はないので、良いのが現にあるならば、それに倣うべきであるのに、なぜそうなつていないかということ、特に日本ではこれがとつて代るべきものと理由説明されている。その警察犯處罰令というものは、すでに檢事總長説明によつても特異の臭氣を持つてつて非常に悪かつたということが言われていて、このことは萬人承知のことですから、二重の意味外國のよう例を採入れるようにして作らなければならん筈であるのに、フランスについて見れば、百五十年程も前に出たものよりも更に古いものの方へ例を採ろう、模範を採ろう、というふうにしてできたというのは、どういう譯合かということをお尋ねしたい。
  7. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) お答いたします。只今指摘になりました一條の二號、三號竝びに十四號等におきましては、別に外國立法例をそのまま參酌いたしまして、どちらがよいかということで採つたというわけじやございませんから、今日の事態に處しまして、殊に二號、三號のごときは、今日の世相から考えましてこういう規定が必要であろう。こういう觀點からできたものでございます。ただこの規定趣旨はお説の通りに、カリフオルニヤの刑法のごとくに、この二號、三號のおきましては別段目的罪にしなかつたわけであります。しなかつたのは、かような人の身體に重大な害を加える者とか、或いは他人邸宅建物に侵入することに使われるような器具を隱して持つていた。こういう状態自體が、こういう犯罪性質上、すでにもう社會的危險があるのではないか。そこでこういう犯罪性質上、末端におきまするところの犯罪捜査に當つておる者の運用を誤らせないようにというような考え方から、別に目的罪にしなかつたのであります。若しお説の通りにいたしましても、目的につきましての考え方捜査官の主觀にいたしますれば、やはり同樣の結果が起るのでありまして、ただその間の末端運用を明らかにするためにかような目的罪としなかつたのが第一點であります。  更に只今指摘になりましたが、こういうものにつきまして隱しているというような状態認定末端捜査官のみに任すことはよろしくない。又かような隱すという状態を探るためにカバンを開けるとかいろいろ問題がある。かようなお話でありますが、それは又かような認定といいましても、主觀的認定ではなくして、やはり認定というものは、社會通念が標準になるものと思うのでありまして、全く捜査官の勝手な考え方を許すものではないのであります。殊にこの法の實際上の今後の運營におきましては、從來の處罰令を扱いました即決處分がなくなりましたので普通の訴訟手續によりまして簡易裁判所が扱うことに相成つておりまするから、その認定もおのずから單なる捜査官の主觀的認定だけでは許されないのでありまして、社會上通念が基準になるのであります。別に外國立法例にあつてどちらが都合がよいからこれを採つたという趣旨ではないのであります。
  8. 中野重治

    委員外議員中野重治君) そうしますと、目的罪……私は法律上の用語を知りませんから違うかも知れませんが、目的罪的に取扱わなかつたということは、一應分りましたがそうすると、そういう場合、例えば人を殺す目的を以てとかいうようなはつきりした規定を書入れてさへ、從來日本實情としては、末端運營において踏み外すことが非常にあつたということがあります。そうしたならば、そういう場合に、そのことを客觀的にも認定できるように書入れる方が一層はつきりする。こう私共は考えておるのですが、これが私の今のお答を聞いての感じであることをいうのに止めて、時間がありませんから次の問題に移りたいと思います。  一つは、實際警察官がこういう取締仕事に當るのだろうと思いますが、何といいますか、お答にもあつたように、現在の世相移り變りというものを肚に置いて、こういうこともいわねばならんようなことになつて來たというお話でしたが、現在の實際からいいますと、我々の感じとしては、道徳法律が干渉するような色彩を含んでおる。こういう法律が假に通つても、實行することがどうして今の警察陣營でできると發案者の方で考えられるだろうか。なぜかといいますと、大體犯罪が非常に殖えております。ここでいつておるような輕犯罪も殖えておるかも知れないが、重犯罪が非常に殖えておる。そうしてその重犯罪は、檢擧されておる場合もありますけれども、檢擧されないものの方がインフレ的に進んでおる。これは認めざるを得ない。そうして警官の數と組織、それからそれの正しい運用のための樣々な施設その他というものは、非常に不十分であるといわねばならんと思うのであります。そうすると、今日の實情について考えて見ますと、輕犯罪法案さえも考えられるような現状では、重犯罪すら極めて僅かしか取締り得ない現在の警察陣營の力を經犯罪の方へ割く外どこにもない。力の源はないということになります。そうすれば、それは重犯罪取締そのものを更にこれ以上妨害することになりはしないか。これが一つであります。このことは、言い換えて見れば大きな聲を出したら取締るとか、股を出したら取締るとかいうようなことをやる力が、現在の警察陣營實情を見て、どこを押せばそんな音が出るかというような感じを抱かせる。卑近な言葉を使えばこういうことになります。それが一つであります。併しながらそれをやらねばならんとすれば、輕犯罪法規定されたものの中で特殊なものへ取締の手が集中されざるを得ないのじやなかろうか。なぜかといいますと、例えば汽車に乘りますと、特殊なグループがいて横暴を極める。これは明らかに輕犯罪法案に書いてあるようなことをやつております。それはどうにもできない。お客もできないし車掌もできませんし、それから汽車の中には、名前を忘れましたが警官が乗込んでおります。「何か危險があつたり、不法なことをやる者があつたりした場合は、直ぐにこれを告げて下さい」ということが書かれておりますけれども、その言葉通りのことがなされたことは絶無ではないでしようが、日常にはこれが殆んどポスターだけになつておる。そうすると輕犯罪法案の中に書かれておるようなもののうち現在の力を割いてまで事柄を運ぶとすれば、多くのものはやはりほつたらかされてしまつて、その中の特定のものだけが狙われざることを得ない。その狙われるのは結局どういうことになるかといえば、この新らしい輕犯罪法案の中で、説明にもあるように、警察犯處罰令の中になかつた新らしいもの、それから新らしいものと同樣のもの、例えば今ちよつと觸れました第一條の二、三、それから五、これは新らしいもの同樣と説明にはあります。十三、これも新らしいものと同樣。十四、これも新らしいものと同樣、それから二十八、三十二、三十一、こういうものへどうしても集中するようにならざるを得ない。そうするとこういうものを見てみますと、これは例えば三十一の「他人業務に對して悪戯などでこれを妨害した者」という、この「悪戯など」というのは規定はないのですから、この一つというわけでなく、他の條章と組合せて考えて見ると、勞働組合團體交渉權というものはこれによつて、妨害されるという虞れが非常にあります。殊に第二十八の「他人進路に立ちふさがつて、若しくは、その身邊に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覺えさせるような仕方で他人につきまとつた者」というようなのは、相手が正當の手續においては、どうしても交渉に應じないというような場合に、交渉相手勞働組合との間に起る事態をしつかり捉えておるというふうにも思われます。それから、ラジオの演説とか、ポスターを貼ることとか、そういうことの方へどうしても行つてしまう。そうすると、そういうものは、今言いましたように、勞働組合運動大衆運動に密接な關係があるものばかりでありますから、乏しい警察陣を割いて、輕犯罪法取締の方に廻さなければならない。然るに輕犯罪法に該當するようなものは右のようなものですから、その乏しい力を割くとすれば、割いたものは、特殊の所へ集中しなければ不經濟の使い方ということになる。そうすると、今いつたような大衆運動勞働組合運動彈壓關係する方向へ向わざるを得ない。それは極めて政治的な運營の仕方にならなければいかないというふうに考えられます。説明は少しだらだらしたかと思いますが、その點を一つお答え願いたいと思います。
  9. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) お説の通りに、非常に重大な犯罰が多く發生いたしまして、その檢擧能率の悪い事態であるということは私も承知しておるのでありまして、これに對しまして、警察力檢擧能力を十分に伸長しなければならんことは當然であります。併し、この輕犯罰法は、現在の状態ばかりに對處したものばかりではなく、相當の恒久的の考え方も入つておるのでありまするから、秩序は段々次第に囘復して來るのではないか。又この種の輕犯罪の方の犯罪のために特別な、この捜査班を作るという必要は毫もないのであります。警察官が目に觸れた場合、どうしても、この社會生活上そういう小さな行爲でありましても、社會生活上許して置けないで、放つて置けないものにつきまして、初めて、輕犯罪法違反として處理するものと考えられるのであります。從いまして、特に輕犯罪等にのみ警察力を集中しまして、重要な犯罪の對して警察力の集中を阻害するという事態は、この法案ができましても、そういう事態は豫想し得ないというふうに私共は考えております。そうすれば、お説の通りに、輕犯罪法のごときものは、殆んど警察官が使わないではないか、無意味ではないかというような御反問があるかと思いまするが、これは併し日常の目に觸れて起つて參ります極く小さい犯罪でありまするから、警察官の目に觸れる場合も、實際多いのだろうと思うのであります。而もその目に觸れました場合、警察官のみならず、一般國民から申しまして、大きな犯罪ではないけれども、この犯罪に觸れておるような行爲自體が非常に面白くないと思われる場合に、初めて法律に觸れる行爲警察官の處理の對象になつて來ると存じまするから、警察力を阻害するということは殆んど考えられないと存ずるのであります。尚この全三十四號の發動に當りまして、警察力が非常に弱いのであるから、自然に限られたものに集中するのではないか。それは五號とか、十三號、十四號とか、或いは二十八號、三十一號等に對して向けられるのではないか。こういう點でございますが、成る程この五號などにおきましては、これは今日の時代から致しまして、汽車、電車或いはその他公會堂劇場等におきまして、非常に無作法な状態が現出しておりますので、自然目に觸れ易い點も多かろうと存ずるのであります。併しこれのみに集中するということは考えられないことでありまして、その他におきましても一様に、發生する程度は異つておりましようけれども、やはり一部の警察官の目に觸れて來るものが全條に亙つてあるだろうと考えるのであります。  更に二十八號の點につきまして、特にお話がございましたが、「他人進路に立ちふさがつて、若しくはその身邊に群がつて立ち退こうとせず、」云々とありますのは正に勞働争議等におきます團體交渉の際に適用されるものではないかという、こういう御懸念でありますけれども、團體交渉をいたしますことは、御承知通り憲法で保障されておる重大な權利でもございます。更にこれは組合法にとりましても、その争議行爲が正當である限り、一切のこの違法性を阻却することになつております。又この法律全體から申しましても、輕犯罪法全體から申しましても、「正當の理由がなくて」或いは「みだりに」という文字を使つておりますし、それらが書いてありませんでも、すべてこの刑法上の違法性を阻却する趣旨にこれはできておるのであります。當然に勞働團體の行動、團結權竝びに団體交渉というような場合におきますこころの、勞働組合員の行動、竝びにいわゆる大衆運動等におきますそれに當然随伴して起つて參ります大聲を擧げるとか、或いは旗竿を持つということは、社會通念當然に許される行爲であります。これはやはり刑法の總則の規定から考えましても違法性を阻却される。この場合直ちにこの法が動くとは私共考えておらないのであります。從つてそういう御心配は要らないと私は考えております。
  10. 中野重治

    委員外議員中野重治君) 警官が力を集中して輕犯罪を捜査して廻るというのでなくて、警官日常目に付いたうちで、これはというものを取締るのだというふうな話がありましたが、これを實際に照して見ますと、警官は檢察事務は、重大な犯罪の捜査については、或いは取締については無能を……これは止むを得ないという事情がありましようが、無力を現わしておる。例えばどこかのマーケットに調べに行つた。ところが料理場に閉ぢ籠められて袋叩きになつたというようなことが今日の新聞に出ております。そこで強い者に對しては、重大な者に對しては力が弱い。それから目に付いた者で輕犯罪法を適用する場合があり得ると思いますが、そうするとその場合は、相手は非常に弱い者ということになります。そうすると、輕犯罪法の實施ということは、強い者に對しては相變らず無力で、そのまま弱い者に對しては強く力が注がれるという結果になる。一口に言えば、それは弱い者いじめになるということになると思いますが、この點はどうでしようか。
  11. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) その點は輕犯罪法に限りませず、あらゆる法令の實施が正にそういうような危險があるのでありまして、これは私共が最も囘避しなければならん點でありまして、弱い者に強く、強い者に弱い、こういう法の運用の仕方であつては相成らんものと考えております。それは單に輕犯罪法のみに限りませず、只今指摘になりました料理屋の問題も、恐らく料理飲食營業の緊急措置令の違反の問題と思いますけれども、私共といたしましては、さような事態とさような感じを國民の方に持たせないように警察官の指導訓練等を十分にいたしたい。かように考えておるのでありまして、それは法自體から出て来る問題ではないと私は考えております。
  12. 中野重治

    委員外議員中野重治君) そうしますと、この法案では客觀的規定された違法を取締るというのみならず、道徳的なもの、無作法を取締るというところにも、さつきお答えがあつたように手を延ばしておるのですが、どういう人間が警察官になつて警察官として取締の任に當るかということに問題が及んでも來ると思います。そこで今警官の素質の改良、教育というふうなお話がありましたが、實際日本警官は、現在は非常に質が低下しておる。これは原因が樣々あるだろうと思いますが、その大きな原因の一つ警察官は團結權を禁止されておる。これを取上げられておる。そこで自分達の苦しい生計を維持するために、警察官當然取締の對象とせねばならんというような仕事に自分が入つてつて、辛うじて自己の生活を維持するということが止むを得ないこととして放任されておる。はつきり言えば、相對的にはその方で解決するように進められておる。こういう形にあります。それですから、この問題を解決することなしに警官の質の向上ということは到底望めないと考えますが、この點に關しては、勞働法規の改正に關して、檢察廳関係のことはどういうふうに考えられておるかということと、それからそれ前に現在警察官の養成ということは、學校或いは教習所、そういう形で行われております。そこでその教習所内の實情については、新聞の投書によつて見ますと、これは新聞の投書で、私がまだ實物について調べたわけではありませんが、非常に内部が封建的であつて、昔の軍隊におけるものよりももつとやにつこく封建的だということを報道されております。そこでこういう教育に當る者は、警察の仕事を長くやつて來た人であつて、又そういう仕事關係のある人々であつて、追放はされなかつたという人々がやつておる。ところが、そういう人々は、警察犯處罰の精神によつて長い間仕事をし、訓練されて來た人々であるということになると思います。そうすると講習所その他における教育というものは、そういう人々の手で行われておるということ、それから、從つて寄宿舎その他の仕組が極めて封建的であるということ、それからその封建的なものを打破して、これを民主化すべき基本的な權利、團結權が奪われておるということ、こういうことのために道徳的のもとへ法律的に干渉しようとさえする。警察官というものの質の向上が實際は阻害されておる。という外ないと思いますが、この點に關してはどういう心組でいられるでしようか。
  13. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 警察官の教育制度でありますが、これは私の所管外の事項でございまして、どういう教育内容を持つて、又どういう方針を持つてつておられるかは詳しくは存じておらないのでありますが、私共犯罪の捜査を所管しております檢察廳の立場から申しますと、檢察廳といたしましては、それはおのずから警察官の訓練というものを別個にいたしておるのであります。これは警察官を各檢察廳に來て頂きまして、そうして技術的な面と、それから基本的人權の考え方、こういうものにつきまして十分な教育を各廳でいたしております。併し警察自體で學校を持つてつておられます。教育自體につきましては、私遺憾ながら詳細を承知しておらないのであります。尚警察官の團結權の問題のことにつきましてのどういう考えかということでございますが、これは非常に大きな問題でございまして、私としては簡單に御答辯することはできないと存じております。
  14. 中野重治

    委員外議員中野重治君) そうしますと、この働く者の團結權というものは、基本的人權の必然的の具體化だと思われますが、その團結權を奪われておるということは、みずから基本的人權を自主的に守る力を奪われておるということにならざるを得んと思いますが、みずから自己の人權を守る力を組織的に奪われておる人間の集團が、一般に他の人權を守り、社會道徳を守るために取締をやるというふうに教育され得るということは矛盾ではないでしようか。
  15. 國宗榮

    政府委員國宗榮君) 少くとも警察官は團結權は今法律で禁止されておりますけれども、併しながらみずからこの身を挺して人に奉仕することは要求されておるのであります。その限りにおいては警察官もみずからの身を正しまして、そうして只今指摘になりましたような、こういう輕い日常の或る程度の道徳律に反しまして。社會秩序に或る危險を及ぼす者に對しまする取締は可能であろうと私は考えております。
  16. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 他に御質疑ありませんですか。ではこの法案に對する質疑はこの程度にいたしまして、次に人身保護法案を議題に供します。人身保護法案について一般的な説明を私から一言申上げて置きます。  人身保護法は、憲法の保障する基本的人權の中の最も重要な身體の自由の保護を實現するために、身體の自由を不法に奪われ又は制限された者に對して、刑事訴訟法の普通手續を俟たないで、人身保護命令を以て、より實效的に、より簡便により迅速にこれを救濟する目的を以て、何人にも容易に利用し得る手續方法を規定するものであります。これを端的にいえば、身體の自由に對する不法拘束のあつた場合の急場を救うために、裁判所に駈込み訴えをする非常手續規定したものであります。それ故に身體の自由拘束に對する刑事訴訟法の救濟手續、例えば勾留に對する上訴が事實上效果を收め得ないと思われる場合、又は急速に間に合わない場合に、本法の手續が用いられるのであつて、刑事訴訟法の普通手續に對する非常例外的措置であります。從つて合法的に行われた刑事訴訟法の逮捕、勾留その他の手續を否定したりこれを妨げるべきものではないのであります。  次に本法の手續と刑事訴訟法の手續とは、その適用範圍を異にする部面があります。即ち刑事訴訟法は、犯罪あることを前提として行われる刑事事件に關する手續であるが、本法は必ずしも刑事事件のみに關するものではない。犯罪には關係なく、又犯罪があるとしても、それが刑事事件として取上げられる前に、例えば從前の強制檢束のような、強制取締處分によつて不法な身體の自由拘束があれば、これを排除して被拘束者を救濟することをもその目的としているのであります。又本法は公權力によつて身體の自由が侵害された場合に限らず、私力即ち個人又は團體に力によつて身體の自由が侵害された場合、例えば法律上の正當な手續によらないで、精神病院又は私宅監置室に監置したり、未成年者をその監護權のない者が懲戒場に入れたり、坑夫を監獄部屋に入れて勞役に服させたり、その他政爭關係、選擧の關係、勞働爭議等の關係から、反對側の要人を抑留したり、軟禁したりする場合にも、その不法な自由侵害を現實に排除して、被害者を救濟するために本法が適用されるのであります。  又刑事訴訟は警察官又は檢察官の手で犯罪の捜査をなし、檢察官の公訴提起によつて手續が進行されるのであるが、本法の手續は、身體の自由を侵害された者又はその親族友人その他關係者等、誰でもが裁判所に對して不法な自由拘束を排除してその救濟を求めるのであるから、私人の訴によつて手續が進行するのであります。即ち私人訴追であつて、公の訴追によつて行われるものではないのであります。  以上説明申し上げました通り、本法による身體の自由の保護救濟の手續は、その本質において刑事訴訟とは異なるのであつて、本法は民法上の私權たる身體の自由に對する侵害を現實に排除することを目的として、私權保護の請求を行使する手續と見るべきであります。即ち民法第七百十條は身體の自由が侵害された事後においてその損害賠償の請求を規定しているが、本法は身體の自由に對する現實の侵害を排除して、被害者を救濟する途を與えたものであるから、私權保護の請求について新らしい途を開いたものと信ずるのであります。そうしてこの私權保護の請求は、被害者又は關係者が原告の立場に立つて裁判所に訴え、侵害者たる拘束者が被告の立場に立つて答辯して、裁判所が取調べの上、不法な自由侵害が行われているか否かを判斷するのであるから、米國の或る州では特殊の民事訴訟の性格を有するものとしているのであります。  本法は英國の法制において「ヘイビアス・コオパスの手續」、即ち「身柄を差出す手續」として、一六七九年に發布されました人身保護法律に倣つたものであります。即ちこの法律は人身を不法に拘禁した者に對して、被拘束者の身柄を直ちに裁判所に提出し、且つ拘禁の理由を明瞭にせよという命令、いわゆる人身保護令状の手續を定めたもので、人權の尊重保護を主眼とする民主主義憲法の裏書をなすものであります。この人身保護令状の手續は、アメリカの獨立戰爭當時にすでに確立された制度となつていて、一七八七年九月制定のアメリカ合衆國憲法においても「人身の自由保護の令状の特權」として認められておるのであります。それ故にこの人身保護令状に關する法制は、英米法系の國に固有のものであつて、大陸法には存在しない制度であります。  日本國新憲法は、民主主義憲法として、基本的人權の尊重保護をその中核とするものであつて、殊に人の身體の自由を保護することを極めて重要視して、これに對する侵害を排除して、被害者に救濟を與える趣旨から、第十三條、第三十一條及び第三十四條等の規定を設けているのであつて、新憲法の實施と共に、これらの規定趣旨を十分發揮し得るような立法を必要とするのであります。殊に第三十四條後段は、如實に人身保護の方法を指示しているのであるから、この規定趣旨を十分に實現し得るような法律を制定することが要請されておるのであつて、本法はこの要請に應えて立案されたものであります。故に本法は新憲法の直接附屬法として必須且つ不可缺の立法であることを特に御留意願いたいと存じます。  以下逐條に對しまするところの説明は梶田專門調査員よりいたさせます。  本日はこの程度にいたしまして、明日午後一時から開會いたします。    午後二時四十七分散會  出席者は左の通り。    委員長     伊藤  修君    理事      岡部  常君    委員            大野 幸一君            齋  武雄君            中村 正雄君           大野木秀次郎君            水久保甚作君            鬼丸 義齊君            松村眞一郎君            星野 芳樹君   委員外議員    中野 重治君   政府委員    法務廳事務官    (檢務局長)  國宗  榮君