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公述人(
岡本正平君) 私は
社会教育連合会におります
岡本正平であります。
先程
委員の方から御説明がありましたように、本
年度予算の中、
煙草の賣上の
益金が九百四十三億一千七百万円を見込んでおるのでありまして、これは全
歳入の二五%にな
つており、非常に大きな
立場を持
つておるのであります。
從來煙草益金が
歳入に対して
占むる地位は約二一・三%であ
つたのに比較いたしますると、今回のその見込は約二倍近くにな
つておるのでありまして、今
年度予算編成に当りまして、
財政の穴の大部分を
煙草の値上によ
つて埋めようとするということが、はつきり現われておりまして、
政府に取
つては誠に都合のいい代物でありましようが、我々
煙草の
消費者に取
つては甚だ迷惑な措置と言わざるを得ないのであります。
收入がないから
煙草を値上しようということであるならば、これは誰にもできることなんでありまして、敢えて政治の專門家に
お願いする必要はないのであります。殊に一
般國民大衆に取りまして、
煙草は不可欠のものであることは、すでに御
承知の
通りでありまして、幾ら
政府が値を上げようと、この
煙草の需要というものはそう多く減ることはないのでありまして、從いまして
煙草は賣れるのでありまして、又
國民大衆は無理をしてもそれを買うのであります。いわば病気と
言つてもいいこの
煙草を一方的に而も大巾に値上をするということは、人間の弱点を狙う誠に詐欺的な行爲であり、極めて卑劣なやり方と私は断ぜざるを得ないのであります。
煙草が
必需品であるか、
贅沢品であるかということは、すでに先程の
公述人の方からも申述べられたのでありますが、これは現実に明らかなところでありまして、敗戰下惨めな
國民生活に取りまして、安くてうまい
煙草を喫いたいということは決して無理な註文でもないのであります。極めてつつましい欲求でもあろうと思うのであります。然るに今回の値上は
物價改訂後の
生計費の中において占める地位は非常に大きいのでありまして、私自身一日に約十本を喫
つておるのでありますが、これに
配給の
煙草を含めましても、今安い
煙草はないのでありまして、結局「
ピース」を買うのでありまするが、そういたしますれば、月に約手二、三百円かかるのでありまして、これを我々の平均賃金、今度新たに定められるであろう三千七百円というぺースから見ますれば、その
割合は非常に大きいのでありまして、かようにいたしまして、我々
國民大衆のこのささやかな欲求さえも無残に断ち切ろうとする今回のやり方は、誠に現実を無視した極めて政治の貧困を思わせるのであります。政治は現実の追求でなくてはならないことは申すまでもないのでありまして、僅かな
國民大衆の感情を捉え、それを日本再建の方向に指向せしめることこそ、今日政治家に取
つて最も必要なことであろうと思うのであります。かかる政治的なセンスの欠除は、遂に
國民をして
政府不信頼の本となるのでありまして、決して賢明の策ではないと思うのであります。併しながら私はこの
國家財政の中で非常に大きな
立場を占るところのこの
煙草の値上案を、ただ感情的に
反対しようというのではないのであります。それでは余りにも無責任であり、結局今
年度の
予算案との関連において、この
煙草の問題を考慮しなければならないことは申すまでもないのであります。
新聞の報道によりますれば、
專賣局の当局の方ですから、今回の
煙草の値上には
反対であつたということなんでありまするが、而もこれらの
反対を押切
つて、尚値上を
決定しなければならないこの
國家財政の困難なことも、私は十分
承知しておるのであります。即ち
煙草の
益金に代る
財源が他に求め得るか、或いは値上せずにこの予定の
益金を上げ得る方策がありやということが問題であろうと思うのであります。私はこれについて十分ありと断言したいのであります。
先程岩野教授からも
代り財源について詳細な御説明がありましたが、私は先ず第一に、
政府は何を措いても
インフレーションを急速に終熄せしめねばならないということを申上げたいと思うのであります。今日の
國家財政の驚くべき膨脹は、急激な
インフレーションの進行によることは勿論でありますが、これを敗戦後の惡
條件に更に敗戰後の
政府の無責任と貧困なる政治力とによ
つて、更にそれが絡み合
つてこの
インフレーションに拍車をかけたということは疑いないところでありまして、現
政府は何を措いてもインフレーーションの終熄に全的の努力をしなければならないと思うのであります。然るに現
政府は組閣以來しばしば
インフレーションの終熄は放送しておるのであります。或いは言うところは、外資導入の可能性の展望がその主なる論拠であるように思うのであります。先日の大藏大臣の議会における演説の中にも、中間安定策とか申しまして、大体その意図を仰しやられたようでありますが、これは多分にひとりよがり的であることは、少くとも現実の経済のあり方を見る者に取
つては、直ぐ了解できるのであります。いずれにしても外資導入の実現を見なければ望み得ないものでありまして、仮に外資の導入を得たといたしましても、果してこちらの希望するだけの額があるとは、私には思われないのであります。結局
インフレーションの終熄の主体は、どこまでも
國民の努力と
政府の政策以外にはあり得ないのであります。我々はかかる他力本願的なことでなしに、
政府は眞劍にな
つてインフレの安定を企図すべきであると思うのであります。然るにも拘わらず、今年の政策に向
つて徹底的な措置が取られておるかどうか、例えば運賃値上といい、郵便料金値上といい、
煙草値上といい、いずれも
政府みずからが
インフレーションを
助長することばかりしておるのであります。若し
政府に眞にその決意があるならば、今
年度の
予算にそれが指向されなければならない筈であります。
國民所得に見合うような
支出の圧縮がなされていなければならない筈であります。然るに今年の
予算案を見ますれば、インフレを促進して名目的な収入を図るか、或いは
歳入の
欠陷か、或いは
國民生活の
欠陷か、いずれにしても極めて困難な見透ししか持ち得ないものにな
つておるのであります。このことは今回の
物價改訂にも言えることであろうと思うのであります。このようなことで果してインフレが昂進しないと、
政府が自信と責任を以て言えるかどうか、私はこの点が問題であろうと思うのであります。
第二には、各方面にもしばしば指摘されておりまする行政整理についても同様であるのであります。今
年度の
予算編成に関連いたしまして、
政府はしばしば行政整理を断行すると言明しておるのでありまするが、その要点は、人員において約六万二千名を整理し、これによ
つて十数億円の人件費を節約せんとしておるのでありますが、現在官吏の定員は四十二万名でありまして、而も一方には警察官、税務官、刑務官、教員等の不足を訴えておるのでありまするから、これを補充するならば、果して実質的にはどれだけの整理ができるかどうか、甚だ疑いなきを得ないのであります。官吏が不当に多いということは、すでに周知の事実でありまして、官廳事務の能率化、合理化は、すでに輿論の一致しておるところであります。官吏の新給與は、
政府は三千七百円と言い、官公廳側は五千二百円と
言つております。いずれにしても今日の
物價から見れば、甚だ低きに失するのでありまして、このためにいつもストライキがあり、サボが行われるのであります。而もこの額さえも賄
つて行けないで、その
代り財源を
大衆課税に求めようとするならば、これは誠に本末顛倒も甚だしいと言わなければならんのでありまして、私自身中央官廳、又地方官廳に奉職いたしました経験から見ましても、今日の官吏が十分働いているかどうかということは甚だ疑問なのでありまして、
國民のすべてが從前よりも、もつと多く働かなければならない時に、官吏が今まで
通りであ
つていい筈はないのでありまして、官吏の数が不当に多いことは、單に
國民の
負担を重からしめるばかりでなく、官吏自身の
待遇を惡くし、更にインフレさえも
助長するのでありまして、むしろ合理的な人員整理は、官吏自身によ
つて希望されるべきであると思うのであります。そうしてその人件費は更に又厖大な物件費を伴うのでありまして、我々は速やかに行政整理に徹底的な手段を講じ、少くともこれによ
つて数百億
程度の
節減は決して困難ではないと確信する一のであります。
次に一方に歳出を極度に切詰めると共に、
收入を増すことに努力すべきことは申すまでもないのでありまして、採算の確実なものについては特別の公債を発行するというようなことをするとか、先程申されたような
闇利得者の徹底的な捕捉によ
つて、これ又
相当額の
増收が見込み得ると思うのであります。我々はなすべきことをなさずして、大衆的な
負担になるもののみに目を着ける
政府のこの不見識、不手際を衝きたいと思うのであります。
煙草が
一般物價に比して安過ぎるから上げるということなら話は分るのでありますが、
財源がないからして、
煙草ならよかろうという安易な考え方は、
物價体系も、経済の
一般的な原則も無視した、誠に許すべからざる暴挙と言わざるを得ないのであります。
煙草の
價格が原料の買上
價格に比して、実に百倍以上であろうということは、これ又周知の事実でありまして、
煙草耕作者に対といろいろな干渉と圧迫とを以て強制的に買上げて、而もそれを百倍以上の値段を以て大衆に押し付けるということは、如何に
專賣局であ
つても、これは公盗的と言わざるを得ないのであります。私はこの安い原料に加工といろいろな費用を見積
つても、「
ピース」のごときは大体二円見当でできるのではなかろうかと思うのであります。若しそうとすれば、これは正に暴利でありまして、敢て
政府がこれを強引に押し切ろうとするならば、これは政治の濫用であり、暴圧政治と言わざるを得ないのであります。私は
煙草が專賣であるということ自体にも
反対なのでありまするが、少くとも現在の
配給組織につきましては、非常に疑問を持
つておるのであります。一日に高々二本
程度のものを以て足れりとするこのやり方、而もその
反対に
自由販賣には非常に
高級煙草を沢山造るということ、このことが今日の我々の
生活を一層苦しくする大きな
理由にな
つておるのであります。又
煙草の種類のごときも、先程來いろいろな種類の実物を見せて頂いたのでありまするが、精々これも三種類
程度に止めるべきではなかろうかと思うのであります。これによ
つて、つまり
配給組織を廃める、或いは
煙草の種類を減らすことによ
つても、
相当の
経費の
節減ができるのではなかろうかと思うのであります。
更に又
專賣局自身の合理的な経営も考慮せられなければならんと思うのであります。その点において十分当局が
檢討されたかどうかその点疑いたいのであります。少くとも
專賣局員であるが故に只で持ち出されるような
煙草、或いは官廳や議会方面に出る、いわゆる特配と称する
煙草も、この際全廃すべきではなかろうかと思うのであります。この
経費も決して少くない筈であります。百倍で街あきたらず、これを更に百二十倍にしようとする惡代官的なやり方は、必ず大衆の反撥を買うことは必要でありまして、
國民大衆の懷にも限度があるのであります。このことは先般の「
新生」を四十円にしたときにどういう現象が起つたか、これが何よりもいい教訓なのであります。まずい、そうして量の少い「
新生」に
國民は見向きもしなか
つたのであります。そうしてもつと安くで美深い、量のある
闇煙草に走
つたのであります。
政府がいかに鐘太鼓で宣傳しようと、「
新生」は埃にまみれて店頭に堆く積まれてお
つたのであります。そうして遂に
政府は臆面もなく四十円を一躍二十円に値下をしたのであります。二十円で賣れる物を四十円に賣るということは、いかに
國民感情に與えたろ
影響が大きかつたか、而も今回は更に大きな値上であるのであります。一体六十円の「
ピース」を誰が喫えると思うか。恐らく
政府の見込んだ額は、到底得られないであろうことは明かであるのであります。そればかりでなく、
闇煙草の氾濫を
政府は一体どうするつもりなのであるか、
闇煙草は嚴に取締られねばならないのであります。違法行爲は断乎排撃されなければならないのであります。我々は仕事の性質上遵法運動を
從來からや
つておるのでありまするが、現実に
政府みすからが闇行爲を煽るような施策をしたのでは、その実効が挙らんのみか、遂に國を挙げて闇横行の暗黒
時代を招來するのであります。
煙草は安いから値上をするというような安易な考え方は、この際禁物であります。
國民の納得しない政策を強行する時、
政府の威信は地に堕ち、世道人心は乱れるのであります。独占事業たる官業の底止するところを知らないこの値上は、日本経済の破局を招く以外、何ものでもないのでおります。
政府は闇退治に強権まで振り廻し、これに多額の
経費を注ぎ込むより、経済の原則に合致した政策を採ることが、何よりの闇退治であることをこの際知るべきであると思うのであります。
更に
委員の
方々におかれましても、單にこの案を呑むということなく、愼重
審議せられまして、この惡法に対しまして、徹底的に追究して頂きたいことを、この際
お願いしたいと思うのであります。
國民は議会を監視しておるのであります。