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公述人(
村木啓介君) 私は
運賃値上げ絶対反対を叫びます者でありますが、今までにいろいろ
新聞の輿論調査や或いは皆さんの声として傳えられました点は、一應
物價の騰りますことを前提にいたしまして論議されたように私は考えるのであります。私が今から申上げたいのは、
物價の
値上げをしないで以て、
運賃の
値上げも勿論しない、こういう線で私の主張をする者であります。その点先ず申上げたいと思います。なぜそのようなことを申上げますかといいますと、この
物價を上げますことによりまして、というより、むしろ
運賃を上げることによりまして、次々と
物價が大幅に
値上げされるであろうことは当然、それから
インフレも次々と高騰するだろうということが、これは常識的にも考えられる点でございまするし、そのように現在いろいろ申されているわけであります。そういう立場から先ず絶対反対をする者であります。
國鉄当局或いは
政府の
運賃値上げの
理由を伺いますと、その
運賃値上げの
理由によ
つて行われるであろうところの合理化、そういうものが私には逆効果にきりならないというようにしか考えられないのでございます。
運賃値上げの
理由につきまして一々反駁申上げて見たいと思います。これはお手許に「
鉄道運賃値上反対とその対策」というプリントを差上げて置きましたので、詳細は、詳細でもございませんが、大体の要点はそれを見て頂きまして、時間も余りございませんので、要点だけ申上げたいと思います。
先ず
運賃値上げの問題を当局がいろいろ御説明なさいますときにお使に
なつた数字の件でございますが、これが非常にまちまちであるということ、強いて申しますならば、詭弁的にこの数字が使われたのではないかという点、例えば昨日頂戴いたしました「
運賃値上の必要な
理由」というパンフレットを見ますと、
生計費が六十五倍にな
つてお
つて、
賃金が六十六倍にな
つておるというような数字が使
つておるわけであります。
昭和十一年に対して……。その数字がすでに疑問であるということははつきりしておるわけである、それから
物價の中に占めるところの
運賃の
割合というような数字が挙げられておりますが、その数字も
國鉄で御発行になりました白書の中の数字と、その後「二十二年を顧みて」という中で使
つていらつしやる数字と丸つきり違
つておるのであります。つまり今までいろいろ数字が使われておりますのは、その
政策をお示しになるときに、その
理由を御説明になるときに都合のよいような数字を常に使
つていらつしやるという点であります。こういう点につきましては、これはしばしばG・H・Qその他から出ておることでございますので、これは統計上いろいろな困難な
理由もあるかと思われるのでありますが、私はむしろそのことよりも、可なり
政策的にそういつた間違つた数字を使
つていらしやる、そのことを先ずよく十分御了解になるように申上げて置きたいと思います。それから
運賃値上げの
理由といたしまして、
財政の
收支の均衡を図るために行うのだということが第一の
條件にな
つておる、それからその次に経済の安定を図るために行うのだということが第二の点にな
つておる。それからその次は私鉄の
運賃を上げてやらなければならないから
國鉄の
運賃を上げなければならんという、非常に馬鹿げた
理由である。その第三点が大体
政府当局のお考えにな
つていらつしやる
運賃値上げの
理由かのように私は
承知いたしておりますし、プラントにもそのごとく書いておるわけであります。その点が如何に
運賃値上げすることにな
つて逆効果になるかということは、第三点の私鉄の問題につきましてはこれは若干議論がございますので後刻申上げることといたしまして、初めの二点につきまして反対の説明を申上げたいと思います。
その前にちよつと申上げて置きたいのは、今回の三・五倍の
運賃値上げというものは、
利用者の立場から納得できるかどうかという点でございます。これは今回
程度の三・五倍ぐらいは最少限度の
値上げというふうに説明されておりますが、これは私共が考えますると、最少限度どころか、これは最大限度の旅行を禁止するであろうところの
運賃であるというような先ず申上げたいと思います。例えば、その実費の内容を調べて見ますと、東京下関間の三等往復急行で以て旅行いたしますと二千六百円でございますが、この実費が千五百五十円にな
つております。つまり千五十円だけは儲けでございます。つまり千五十円だけは不当に
運賃を取られておる。実費という点から考えますならば、不当に
運賃を取られるということになる。この数字は、これは
原價計算ということが非常に問題がありますので、可なり問題があるとは思いますが、大体目安的にこの数字は信じてよいと思う。そういう点で先ず非常な問題がある。つまりこれは両方で三・五倍の
運賃を
値上げすることによりまして起るところの四百八十六億の
貨物の穴埋めを三等
旅客がやるのだということなのであります。この点を先ず
大衆が納得するかどうかという点である、強いて私がこのようなことを申上げますのは、今までの
運賃政策というものに非常に階級性がはつきりしておつたという点である。これは皆さんが十分御了解かと思いますが、過去の統計から調べて見ますと、
貨物運賃と
旅客運賃を比べますと、
旅客運賃は概ね五〇%儲か
つてお
つたのであります。そうして
貨物運賃は殆んでいつでも欠損をしてお
つたのであります。つまり
旅客の犠牲において
貨物は運ばれてお
つたのであります。
原價という立場から考え億ますと……。それから今度は
旅客自身について考えますと、一二等
旅客は三等
旅客の犠牲において運ばれておつたと、こういうことでございます。それはこの一二等客車の挙げる收益というものと三等客車の挙げる收益というものを考えて見ました場合に、三等の客車が挙げる收益を一〇〇といたしまするならば、今までの統計が示しておりまするように、大体八〇%前後が一二等客車の收益率でございます。つまり一二等
旅客は、別に高い
運賃を拂
つて旅行しているんじやなしに、三等
旅客の犠牲においてふんぞり返
つて運ばれていたということなのであります。
それから
貨物運賃の階級性について申上げますならば、これは直接消費されるところの米、味噌、醤油とか薪炭であるとかいうようなもの、
大衆が直ちに
負担するところのそういう
運賃、それと、それからもう一つは、生産
資材でございまする石炭とか、鉄鋼とかいうような、一應資本家が
負担して、それから製品とな
つて大衆が
負担うる
運賃、こういうふうに二つに分けてこれを分析して見ますると、はつきりその中にいわゆる
大衆收奪的な性格が見られるのであります。このことは
貨物の今までの実費統計というようなものを見ますればはつきりいたしておるわけなのであります。但しこの場合には逆にいろいろ宣傳されておりまする点は、從來ややもしますと、実費ということを考えないで、ただ價格の中に含まれているところの
運賃云々ということが言われるのでありまするが、そのようなことは内容を全然無視したところの詭弁に過ぎぬのであります。いわゆる
運賃制度の中にははつきりした階級性が織込まれているということ、非常に
鉄道輸賃というものは今まで
大衆收奪的なものであつたということ、このことを私は先ずはつきり申上げたいと思います。
その点に立
つて、先ずこの現在の
運賃法案というものの中に含まれておるところの矛盾、そういうようなものについても指摘をして行きたいと思います。これはこんなことを私言
つておりますと時間がなくな
つてしまいますが、その次に本論に入りまして、
運賃を
値上げいたしまして、果して目的が達せられるであろうかどうかという点でございます。第一の狙いでございまするところの
赤字を消す
方法、これは
運賃を
値上げしましても、
赤字は消えないのでございます。これは現在御
承知のように、
國鉄の経済費千三十九億の
予算が
議会で十分まだ
審議されておらないのに、その千三十九億の
予算が足許から先ず崩れておるということであります。まだ通過しない前から、
赤字がすでに予定されている百億以外に出ているということであります。今五ケ年計画の第一年次でありまするところの二十三年度、本年度におきまするところの一億三千万円、三十六億人の輸送に対しまして、当然この復興計画が行われる筈であるところの二百六十一億、その七〇%にな
つておる百八十一億に、現在それはもう削減されておるのであります。
從つて予定されるところのこの
運賃收入というものはむずかしいであろうという点が先ず考えられるのであります。それから
人件費につきましても、すでに三千七百円
ベースの矛盾、この面から起
つて來まするところの、若し私共が要求いたしておりまするところの五千二百円べースというものが支給されるといたしまするならば、これによ
つて百三十三億の
赤字が出て來るというような問題、それから七月一日から若し仮に
運賃が両方共三・五倍に
値上げされるといたしまするならば、そのときには現在一日一億七千九百万円
赤字、
運賃値上げの差額があるのでございますから、これの十五日分、二十七億すでに
赤字にな
つておるのであります。その他沢山いろいろ問題がございまするが、ともあれ現在ですでに
國鉄の
赤字というものは、ペーパー・プランの上でも崩れておるということであります。その上
物價を上げること、
物價自身が現在予定されている
物價で果して止まるかどうか、現在のような
物價政策におきまして……。このような点から考えましても相当矛盾がございますので、千三十九億円の経営費ではとても止まる筈もないし、又
收入も当然減
つて來るだろうという点から、
運賃値上げをしても
赤字は絶対に解消しない。その赤金の解消しない
程度のものは、恐らく第一次、第二次、第三次の
追加予算でいろいろいじられるであろうが、こういうようなものは恐らく非常に大きな数字になるだろうというように私は考えるものであります。
それから一番問題になりますのは、
國鉄の
財政の
收支の均衡という問題を
國鉄の枠内でやろうとしておられるということなんであります。現在
國鉄のような非常に荒廃し切つた
企業というものが、ただ
國鉄の枠内でこれをいじり廻したことによ
つて、これが解消できるかどうか。これは
國家の全
産業組織の上でこれがいろいろに
考慮され、いろいろに計画されなければ、これは解決しない。小さい
國鉄だけの枠内で経営をいろいろ合理化したり、いじつたりするようなことをや
つても、本質的には問題は解決しないというように私は考えるのであります。
それからその次に、
物價と
運賃の均衡ということがいろいろ言われておるのでありますが、例えば
物價が百十倍に
なつた場合に、
旅客、
貨物共に三・五倍にした場合には、八十倍前後というように言われておりますが、まだそれにしても安過ぎるというような議論が行われるのでありますが、現在の
國鉄の持
つております能力は、大体戰前の輸送キロその他から考えまして、三〇%ぐらいに低下しておる、つまりサービスは三〇%くらいに落ちております。これは
貨物輸送の場合には若干数字が違
つて参りますが、ともあれ質が下
つておるのであります。
從つて私共が、價格が高いとか安いとかいう場合は、当然質を考えて、そのことは言わなければ
意味がないのであります。
從つて三・五倍になれば八十倍だから云云というような議論程馬鹿げた議論はないということであります。以上
政府の言われますところの、いわゆる
運賃値上げに掛けられておる期待、こういうようなものは全然
意味のないものだ。おやりにな
つても逆効果になるものだということを私は強く申上げたいのであります。
その次に、
國有鉄道運賃法案の問題でございますが、これには
運賃料金の決定原則といたしまして公正妥当なものであるとか、或いは
原價を償うものであるとか、或いは
産業の発達に寄與するものであるとか、或いは賃銀、
物價の安定に資するものとかいうような四つの
條件が挙げられておるのでありますが、このことと、先程申上げました
運賃の矛盾、
運賃が実費を償うものであるかどうかという点につきまして、例えば三・五倍に両方いたしました場合に、当局のお出しにな
つていらつしやる数字を見ましても、
旅客運賃は四〇%儲かりますし、
貨物運賃はそれでも尚一六〇%の欠損ができておるのであります。このことを何と説明されますか。同じ
運賃法案の、一つの法案の中でさえもこのようにお互いに矛盾し合つたことを決めていらつしやるわけであります。それから尚この
運賃法案について申しますれば、
貨物等級の問題とか、
賃率の問題とか、いろいろ問題があるのでありますが、これは長くなりますから、その点で省略さして頂きます。
それから、然らば君は、
物價を改訂しないで、
運賃値上げをしないで、賃銀を大幅に五千二百円に上げたいというが、それで一体
國鉄の経営をどうするつもりなのかという御
意見があるだろうと思います。それは差上げましたパンフレットの終りに、
資金の計画表と、それから大体の、これは非常に杜撰でございますが、一應の試案といたしまして、このように
予算を組めばいいのであるという一つのテーマを與えておるわけであります。そういう点を一つ御了解願いたいと思います。尚このことを実行いたしますためには、これは全官の佐藤さんがおつしやつたように、本
予算の方を全面的に組替えて頂かなければ
意味がないのであります。本
予算自身は
物價改訂を前提にしておいでになりますし、本
予算自身の三千九百九十四億という
厖大な
予算の中には極めて半人民的なおかしな
経費があるのであります。例えばドレーパー報告書におきましても指摘しておいでになるように、
終戰処理費の問題にも大幅な問題があるわけであります。そういうような問題を含めまして、根本的にこの本
予算の方を作り直して頂きたい。そのためには当然これは現在の
政策を変えて頂かなくちやならないわけであります。現在の
政策を変えることなしに、
國鉄の
運賃を三・五倍にする問題は本質的には解決しないということを私は申上げたいのであります。
それから
國鉄の経営の合理化がいろいろ言われておるのでありますが、これはただ狹い
國鉄の枠内でこの合理化の問題を取上げても駄目なんであります。これは強力なる外部の圧力によ
つてのみ私は
國鉄の経営の合理化ができる、それでなければできないのだ、こういうことを申上げたいのであります。例えば石炭などがいろいろ問題になるのでございますが、この石炭なども例えば質を良くするような問題とか、或いは御
承知の方もあると思いまするが、現在貨車で運ばれておりまする石炭は、この檢收に当
つては別に数量を正確に計
つておるわけじやないのでありまして、五%ぐらい欠斤があるのであります。十トン貨車に積まれておる石炭は、十トンと評價されておるのでありますが、実際は八・五トンぐらいしかないという欠斤の問題があります。又質と量の問題があるのでありますが、この問題は
國鉄がこれを單独に取上げてがちやがちや申しましても石炭業者の方が納得しないのであります。つまりそういうものは闇の部分に考えられておるわけであります。そういう点を、全体の
産業面からそういう問題を取上げて、適性運轉用炭を配炭するとかその他のことが言わけなければ、ことは言うべくして行われない。例えば、おれのところは石炭は少し少いというと、
國鉄には石炭を納めない、納めたがらないのが今までの実情なんであります。それからその他外廓團体の問題とか、
國鉄内部の腐敗の問題であるとか、臭い物に蓋をするような
方法は、そういう問題はもう少し積極的にやらなければならん。そういうことを前提にしてのみ今私の出しました私案というものは成立するものであります。
それから次に、
運賃値上げをしてサービスの改善を図れという御
意見がいろいろ行われておるのでありますが、これは私は焦点が違うと思うのであります。なぜならば、
運賃値上げはサービスをよくするために行われるのじやないのであります。
國鉄の
財政の
收支の均衡を図るためとか、先程言いました
インフレの問題とかということを、後を追い駆けて行くために
運賃の
値上げは行われるであ
つて、決して三・五倍の
運賃を
値上げすることによ
つて、車を余計造つたり或いはその他の施設をよくしたりすることによ
つて、輸送力やサービスがよく
なつたりするのじやないのであります。ただ從事員に対する問題は若干問題があると思いますので、このことは
運賃値上げの問題と別個にお考えを願いたいと思うのであります。
それから最後に申上げたいのは私鉄の
運賃の問題でございます。
國鉄の
運賃のみが國会においていろいろ論議されておるのでありまするが、全体の輸送量から見まして、三〇%は私鉄によ
つて運ばれておるのであります。
收入面においても大体三〇%が私鉄の
收入にな
つておるわけであります。そういう面も考えまして、私は今までのようなやり方で、陸運監理局とか或いは
物價廳の二三の官僚の方が、いろいろ経営者の方と論議なす
つて簡單にお決めになる
方法は、私は非民主的だと思うのであります。而も私鉄は全輸送
貨物の二%きり
貨物の輸送を受持
つていないのであります。それから経営について申しますると、
旅客收入が九五%で五%が
貨物收入に過ぎないのであります。
國鉄の現在の
赤字は
旅客によ
つて起
つておるのではなしに、現在二〇%
程度儲か
つておるのでありますが、
貨物によ
つて赤字は起
つているのであります。而も走行キロについて申しますと、石炭を焚いて走
つております私鉄は走行サロにおきまして九%、大体電氣が八七%という数字でございまして、
補給金の問題もございまして、電氣料金は非常に安いのでございます。そういう点で、私鉄の性格と
國鉄の性格と非常に内容的に違うのであります。私鉄の
運賃値上げの問題については、この席で問題になることではないかも知れませんが、十分お考え願いたいと思うのであります。尚、当局の言われまする輸送調整をやるために
運賃政策を採るのだというお説ほど馬鹿げたお説はないと思うのであります。それは別途に行われる問題だと思うのであります。
以上申上げましたように、
國鉄の
運賃を上げることによ
つて何がプラスになるか、プラスになる面は恐らくないのでございます。私共は私共の労働の再生産を行うこともありまするし、或いは全
産業を活發に復興して行く使命も持
つておりますし、こういう点をすべて考えまして、
物價を上げないで、
運賃を上げないで、その
政策の下においてのみ
國鉄の
收支の均衡の問題も起るだろうし、
インフレの問題も起るだろうし、そういうことを私共は主張したいのでございます。非常に長く時間を取りまして恐縮でございました。