○
徳田球一君
議会では、いつも
引揚者の問題がやかましく言われているのであります。わが党も、この
引揚者に対しましては、なるべく早く
引揚げるために、今
署名運動をいたしまして、
ソヴイエト方面の
代表者に向いましても
要求をしているわけであります。なるべく今年中に全部を
引揚げるように盡力をしているわけであります。
ところで、これに対しまして
—引揚げをするのは非常によろしい、よろしいが、一体
引揚げをした
人間がどういう
状態にあるか。そうして、
政府はこれに対して一体
責任をも
つた仕事をしているかどうか。これは重大な問題である。單に
引揚げてきさえすればよいというわけではない。
引揚げてこられた
人々に対しまして、われわれ
責任をも
つてその
生活を安定してやらなければならないのである。
今は
國務大臣でありますが、以前に
厚生大臣であられた
一松大臣は、月に十六万の
引揚者を受け入れて、そして、これに対して
生活の安定を與えることをちやんと準備を整えている、こう報告しているのである。しかるに実際においては、今まで
引揚げてきた
引揚者諸君の
状態は、そういう
受入態勢はちつとも確立しておらぬ。その
状態は次のことぐである。
昨年十二月末における
完全失業者が、
政府の調べたところによりましても五百六十万人にな
つておる。そのうもの四〇%、約二百万人は引傷者である。この二百万の
引揚者が実際に失業して、非常な苦境にあるのである。こういうのを、ただ
受入態勢ができてるできてる、そういう言葉だけではだめだ。事実が伴わなければだめだ。さらにまたこの
失業者の中で、
復員者が七四%である。
復員者を早く帰せ帰せ、これはよろしいだろうけれども、七四%も
失業者にな
つていて、どうする。
さらにこれにつきまして、驚くべき
住宅難が加わ
つておるのであります。
引揚者諸君は、今全体として、この
住宅難には非常に悩んでおる。今これを調べてみますと、これは
宮城縣の一例でありますが、
引揚者の二〇%の者が一人一
疊以下である。一
疊以下では、ほんとに寝ることさえもできない。横にでもならない限り、
まつすぐ平たくは寝られない
状態である。さらに二
疊以下になると四千%である。こういう
状態では、はなはだしき不衛生にもなり、また疾病にもかかる
可能性が非常に強いのである。はなはだしきに
至つては、三疊にに六人の
家族が重なり
合つておる
状態さえも現われておる。もつとはなはだしいものになると、馬小屋に住まわなければならない
状態にあるのである。
一体一松厚相は
——今の
國務大臣は、これでもなお
受入態勢が十分であると言えるかどうか。はなはだ無
責任なことを言うておる。
さらにこの
住宅難につきましては、大
邸宅を
引上げることにな
つておる。
東京その他においては、大
邸宅を
引上げまして、これは
引揚者並びに
戰災者に與えることにな
つておる。こういう
規定があ
つて、すでに
東京では、この大
邸宅をすべて登録しておるのである。しかるに、登録しておきながら、
一つだ
つて引上げた例がない。一体これは何ということだ。何のために登録したのだ。もう一年半も前から登録しておきながら、
一つも
引上げておらぬじやないか。この大
邸宅をも
つておる者は、すべて大
資本家であり、大地主であり、また
貴族である。こういう者の不利益のためには、
一つもや
つていないじやないか。(「
貴族なんていやせぬ」と呼ぶ者あり)元
貴族はいる。今は
貴族じやないけれども、元
貴族はいる。しかも、その
貴族に対して特権さえ與えておる。元皇族であ
つた者に対しては、特別の
下賜金をや
つておる。これは
國費でも
つてや
つておるじやないか。五千万円域上のものをや
つておる。今だ
つて特配もしておる。酒もタバコも特配しておる。こういう
状態であるから、実際この家屋ぐらいは
引上げればよいのだ。これを
引上げて、
引揚者並びに
戰災者に住わすべきである。にもかかわらず、これはや
つていない。
それで、こういう大
邸宅で今何をしておる。あの有名な元
田中運輸大臣は、
めかけをも
つて、ここで
裏口営業をや
つておるじやないか。
天ぷら御殿といわれているじやないか。こういうことを勝手にさしているじやないか。また
大村子爵邸においては、
エロ行為をや
つてみせた事実があるではないか。そういうものには、たくさん使
つておるのだ。そういう腐敗堕落せしむる、風紀を乱すことには使われるのに、何
ゆえに
引揚者の
住宅にこれを
引上げないか。
戰災者の
住宅にこれを
引上げないか。怠慢きわまれるものではないか。これでも
受入態勢が整えてあると言えるか。
さらに今度は
旅費の問題でありますが、
政府はこの
引揚者諸君に対しまして、わずかに終点で衣食と三百円の
旅費しか與えておらぬ。着いた港から家へ帰るまでた
つた三百円。三百円といいましても、それは名前だけたくさんのようだけれども、昔からいえば、一円五十銭か、せいぜい三円くらいのものだ。これでは、ろくすつぽ飯も食えないじやないか。これだけしか與えておらぬ。ちつとも
保護しておらぬじやないか。
さらに今度は
留守家族の
保護であります。これは非常に重大な問題である。
抑留者の
留守家族に対しては、
休戰條約並びに協定によりまして、十分なる
保護をすることにな
つておる。しかるに、実際はこれがほとんど
保護をされておらぬ。私
たちの調べたところによりますと、一
家族に対して一箇月わずかに四百円。四百円ぐらいでは、
あめ玉もしやぶ
つていられはしない。そういう
状態である。
これに対しまして
生活保護法を適用しなければならぬが、この
生活保護法の
規定を適用するに際しまして、厚生省は本年二月二十四日に、各
縣知事あてに次のような
通牒を発しておる。
生活保護法を適用した場合は、未
復員者の
手当を差引かなければいかぬ。こういうばかなことを言
つておる。これを差引いてでないと
生活保護法は適用しないと言う。だからこのために、
生活保護法の適用に対して、未
復員者の
家族というものは非常な大きい損害をこうむ
つておるのである。未
復員者の
家族に対しましては、特別に一率に
手当を給することにな
つておりますから、この
手当は当然受取るべきものである。しかる後に、なお
生活ができない者に対しましては、
生活保護法を適用して、
生活保護法の金はすべて與えなければいかぬ。それは当然である。だのに、これを二つ合せてやつと
生活保護法の額に上るべきだ。こういうのである。だから、いかに未
帰還、未
復員者の
家族がわずかなものしかもら
つていないかがわかるじやないか。こういう
状態でどうして
生活できる。
今の
生活保護法と言いましても、きわめて零細なものである。これくらいでは
生活できない千円か千二、三百円くらいのものである。今、
人間一人千円か千二、三百円ぐらいでは、とても生きておれるものではない。
お互い御
承知の
通り、少くとも食糧だけでも二千円以上かかる。だのに、こんな金さえ出し惜しむ。こういうしみ
つたれでなんだ。しかも、大
資本家のためには莫大な
價格差補給金をや
つておるではないか。これが
保護に対しては至れり
盡せりではないか。大
やみ業者は盛んに家をこしらえ、盛んにきれいな着物を着、また
料理屋にい
つて莫大な費用を
使つて豪遊をきわめておるではないか。こういうのと思ひ合せて、一体何ということだ。これでも
つてなおかつ
失業者諸君、
労働者諸君、
農民諸君、未
帰還者の
家族の
諸君が反抗するからとい
つて、反抗をするのは非
國民であるが
ごとくこれを彈圧しようとするに
至つては、何という暴圧だ。これを
暴政と言わずして何が
暴政だ。
芦田君などに
至つては、今
インフレでありながら
景氣はよくな
つておる、非常に
復興しておると言う。その
復興しておるものは何だ。決して
引揚者や
戰災者が
復興しているのじやない。
復興すべき
人間は、この
引揚者や
戰災者であるべきである。
インフレでもうかり、
やみでもうか
つておる
人間が、いくら
豪遊をきわめ、いくら栄華の
生活をしてお
つたつて、それは
復興にも何もなりはしない。そういう者は害毒である。そういう者は、この
國民経済を破壊し、
日本民族を破滅させる
有害者である。こういう者が栄え、こういう者が
復興するということは、むしろ憎むべきであるか。この
引揚者並びに
戰災者諸君の
復興こそ大事なのに、これをさしおいて、こういうばかげた
犯罪者ばかり繁栄しているのを、これをも
つて芦田君は、彼等の政治が正当の方向によく進んでいるという証拠の
ごとく言うに
至つては、あきれかえるではないか。
それ
ゆえに、この未
復員者の
給與は、一律無
條件にくれて、そしてさらに
生活保護法を適用すべきことが正当である。こういう
法律を無視した官僚の勝手な
通牒なんというものは、これはどんどん取消すべきである。こういう
通牒を発した者まで、どんどんこれは追放すべきである。そうしないと世の中がよくならない。
そこでわが党は、次の
要求をしたいのである。
帰還者の故郷に帰る
帰郷費は、
旅費は一人少くとも一千円を支給しなければならぬ。これはぜひともやるべきである。
第二に、
帰還者も、これは
兵士の
帰還者であるが、もう
引揚者と同様に
取扱つて、そうして
物資を配給すべきである。今までは、
兵士諸君の
帰還者に対しましては、一般の
引揚者、すなわち大連だの奉天だのに住いをも
つていた
引揚者とは違いまして、これに対しては
物資の支給をしておりません。しかし実際におきましては、こういう
兵士諸君の窮乏は非常にひどいものである。これは家があるからという、これだけでも
つて、これに
物資を支給しないというのは、まことにこれは
暴政である。実際今の
状態におきましては、若い、二十台の人ばかりが行
つておるのではない。三十台、四十台の人も行
つておる。こういう
人たちが帰りましても、今のような
状態ではきわめて不安定な
状態でありますので、多くは失業しておる。こういう
状態にある人を、
引揚者、いわゆる向うで
生活してお
つた人と別個に考えるということは、実情に適さないのである。でありますから、これは
引揚者も
帰還者もすべて同一に
物資を支給すべきものであると思うのである。これを
要求するのである。
第三は
生業資金でありますが、この
生業資金の貸出しが二千円だの三千円だのというのでは、今問題にならぬ。そんなものは小遣にしかならない。それではどうしてもだめだ。少くとも五万円以上を保障しなければならぬ。五万円以上ないと、今
一つの
商費も始まらないことは、
諸君の御
承知の
通りである。ただ名義だけ
生業の
資金としてくれましても、
生業の
資金にもなんにもならない。実質上
生業をや
つていけるだけの
資金はくれなければいかぬ。それといたしましては、少くとも最低が五万円、
東京などに至りましては十万円、十五万円以上くれなければだめである。これをぜひ実行してもらいたいのである。
第四に、
職業を斡旋する。この
職業の斡旋につきましては、
職業安定所その他がありますけれども、事実
職業安定所などで
職業を斡旋しても、非常に低賃金なために、ほとんどものにな
つておりません。また
引揚者並びに
帰還兵士諸君に対しまして、
集團をこしらえて、
開墾をやらせておりますけれども、これまたきわめて不成績である。いずれのところへ行きましても、この
開墾はほとんど墓場に行くようなものだ。成功したためしは
一つもありません。北海道の
ごときところがあるが、ただ身柄ばかり行きましても、とてもだめだ。ちよつとばかりの
保護をしただけでは、とてもだめだ。事実この問題につきましては、
一大不満が勃発いたしまして、
方々においてこの
開拓営團が問題を起しているのである。でありますから、どうしてもこの
職業を正しく斡旋しなければいけない、
生活ができるように斡旋しなければいかぬと思うのである。
同時に、失業している間、すなわち
職業を與える前までは、ぜひとも
失業手当を支給してもらわなけれぱいかぬ。こういう
失業手当を支給しないからこそ、現在大きな社会不安になりまして、社会的に大きな犯罪が起りつつあるのは、多くここに基因している。最近の多くの犯罪の中に、特に凶暴犯の中に、
帰還兵士諸君が相当の数を占めている。これはきわめて遺憾である。戰爭に狩り出すときには、
國家のためだ、何のためだと言
つて引出しておいて、そして身が眞裸にな
つて帰
つてきたけれども、何らの
職業も與えず、
失業手当も與えずして、それで正常の
生活をしろというても無理じやないか。戰闘行為に從事して氣が荒れておれば、必然これは凶暴にならざるを得ない。社会に対して大きい憤懣を感じ、
國家に対して大きい憤懣を感じ、そのためにこういう犯罪は頻発するのである。でありますから、ぜひとも
失業手当を給さなければならないと思うのである。
第五に、
住宅を保障する二と。この
住宅の保障は、先ほども申しました
通り、至急に大
邸宅を開放し、この
住宅の保障をしてもらいたい。殊に
政府のも
つております、軍事用に使
つた家島がまだ相当余
つている。病院などでも相当余
つている。これを療養所に使うとか何とか言いながら、事実は使
つておらぬ。その数も莫大だ。こういうものを早く手を入れて、立腐れになるのを防いで、どんどん
住宅を保障しなければならない。のみならず、早く新しく建てて、
住宅を與えなければいかぬ。しかるに、この新築に対しましは、土木建築請負業者のブローカーに食われているのがたくさんある。東骨都などの
ごときは、はなはだしいものである。何十万戸建てる、何百万戸建てると、口ばかりで一松君は大きなことを言
つて、事実建てるかというといや
予算がないと言う。
予算がなければ言わなければいい。
予算がなくて大きなほらを吐くのは犯罪である。
國民をごまかすのは犯罪と言わなければならない。であるから、どうしても
住宅を至急に建てて、これを保障しなければならないと思うのである。
六番目に、医療診察をしなければいかぬ。現在は、この診察料が非常に高く、また藥品が非常に高いために、実際病氣にかかりましても、ほとんど治療なしにほ
つたらかされておる。こういう
状態では、社会不安は増す一方である。厚生省は何を考えておるか知らぬが、昨年中でさえ、この藥品の値段は二十倍に上
つておる。こういうぱかげたことをしていては、
帰還同胞や
引揚者諸君が治療にほとんどかかれないのは当然である。でありますから、これは
國家が当然無料で治療すべきであると考えるのであります。
第七には、
留守家族の
生活補助費を少くとも一箇月五千円以上はやらなければいかぬ。三人
家族がいるにしましても、五千円なくてはとてもや
つていかれない。奥さんと子供が二人いるのは普通である。一家庭当り平均五千円以上、こういうことにすれば何とかや
つていけるのでありますから、これをぜひとも至急にや
つてもらわなければならぬと思うのであります。
本日は
政府委員が一人もおりません。答弁を求めたいと思いますが、こういうように、ごらんの
通りの怠慢の
状態である。はなはだも
つて遺憾である。(
拍手)これは
議員諸君の怠慢を云云する前に、まず
政府が精励でなければいかぬ。
政府当局者は一人も出てこぬ。
政府が無
責任に、
自由討議だからとほ
つたらかしておくのがわからぬ。
自由討議でも、
議会がある以上は、
大臣を初め
政府委員はみな緊張して聽いておらなければいかぬ。(「その
通り」)しかるに、
かくの
ごとく怠慢で、職をむなしゆうするにおいては、われわれは憤懣にたえないのである。かかるようならば、早く
内閣をほつぽり出すがよろしい。共産党は、いつでも組閣をする用意がある。(
拍手)