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1948-01-27 第2回国会 衆議院 本会議 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年一月二十七日(火曜日)     午後四時一分開議     ━━━━━━━━━━━━━  議事日程 第六号   昭和二十三年一月二十七日(火曜日)     午後一時開議  一 國務大臣演説に対する質疑(前会の続)     ━━━━━━━━━━━━━
  2. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) これより会議を開きます。      ————◇—————
  3. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 國務大臣演説に対する質疑を継続いたします。佐竹晴記君。     〔佐竹晴記君登壇〕
  4. 佐竹晴記

    佐竹晴記君 全農有志議員クラブを代表して質問にします。私は、インフレーシヨンの抑制、物価と賃金の問題、農業生産の増強と供米割当合理化中小企業の振興と日本経済の再建、失業対策等についてお尋ねをいたしたいと考えておりましたが、時間の制限を受けまして、これを果たすことができませんので、ここでは、もつぱら平野氏の罷免並びに追放の問題について、片山内閣総理大臣西尾官房長官鈴木司法大臣に対し、事件眞相を究明するとともに、その責任を質したいと存ずる次第であります(拍手)  まず、冒頭一言いたしたいことは、総理大臣は、口を開けば道義を論じ、信義友愛公明正大を説かれるのであります。しかし、今回平野問題が起つて以來政府のとられた態度は、一体どうであつたでありましよう。実に不明朗であります。また冷酷であるとの印象を深刻に與えられたのであります。(拍手世人をして暗殺だと言わしめ、追放政爭の具に供するものだと憤激せしめましたのみならず、最後まで非該当と信ぜられた審査が、一夜にして覆され、社会一大暗影を投じ、正義の士をして、陰謀政治を排除せよと絶叫せしむるに至つたのであります。(拍手かくして、罷免から追放へ、あまつさえ、刑事問題の追打ちとまで迫つてくるのを見て、かつて同志を、こうまでしなくてもいいではないかという、暗い、冷たい感じを深うせざるを得なかつたのであります。(拍手)こういう状態のもとに、いかに道義を説かれても、いかに友愛信義公明正大を論ぜられても、國民は、もはやこれに耳を傾けないでありましよう。(拍手)この際、むしろすなおに事の眞相を明らかにいたしまして、すなおに責任の所在を明確にして、國民をして納得せしむるようにいたしますることが、何よりも最善の策であると私は思うのであります。よつて私は、次の五点についてお尋ねをいたしたい。  第一点、昨年の十月末、平野氏が未だ追放された事実がないのに、追放決定のごとく虚偽報道をいたしましたのは、一体何の根拠に基づくものであるのか。(拍手)また総理大臣は、その責任者を何ゆえに処分しないのか。第二点、司法大臣及び総理大臣は、刑事事件につき不実を述べて平野氏の辞職勧告をしたことは、司法権政爭の具に供する謀略行為ではないか。(拍手)第三点、農林大臣罷免した理由は一体何か。その罷免行為憲法違反と思うが、いかん。第四点、追放わくを拡げてまで平野氏を追放ようといたしました理由責任を問う。第五点、今回の中央公職適否審査委員会の不明朗極まりなき最後決定に対する責任の究明と再審査の要求並びに將來の対策、以上五点であります。  まず第一点より、順次お尋ねをいたしたい。十月の三十日、平野農林大臣供米懇請のために新潟へ出張いたしまして留守中、西尾官房長官は、突如として平野農相追放決定放送いたしました。三十一日毎日新聞記事によりますれば、その追放の事由まではつきりと書いてあります。すなわち追放理由は、戰時中皇道会有力メンバーであるとともに、機関雜誌皇道」の署名人であつたこと、当時の立候補資格申請書にこれが記入漏れとなつており、告訴されて刑事事件となつている点であるというのであります。しかし、平野氏が皇道会の有力なメンバーであつたこと、機関紙皇道」の署名人であつたことは、すでにすでに中央公職適否審査委員会の議題となり、昨年の三月及び五月の二回にわたつて、愼重に審議されて、非該当決定せられ、その後、何らのエヴィデンスも起つておりません。もちろん、右西尾氏の放送当時は、その委員会には全然関係なかつたのであります。申すまでもなく、政府といえども資格審査委員会にかけないで勝手に追放することのできないことは、当然であります。從つて、その委員会にかかつていない平野氏を、あたかも追放決定したよう報道するということは、まつた虚偽の事実を捏造報道したものと言わざるを得ないのであります。(拍手)  西尾氏は、十一月四日、社会党代議士会の席上、成重代議士質問に対し、平野君の追放の点は、新聞記者に問い詰められて、知らず知らずに話してしまつたので、遺憾であるとお述べになりました。しかし西尾さんは、実にしつかりなさつた方でありまして、とても心にもないことを、問い詰められて余儀なくおしやべりなさるようなお方ではないのであります。(拍手)かえつて、この事実こそ、平野氏の追放問題が、正規の機関にかかる以前に、早くも西尾さんの頭の中で、平野追放平野追放決定しておつたことを物語つて余りあるのであります。(拍手平野追放決定とは、委員会における決定にあらずして、西尾さんの頭の中で決定しておつたことを物語る以外の何ものでもない。(拍手)すなわち、心の中にあるものだから、問い詰められて知らず知らずに言つたことが、その本音を物語つた。すなわち、西尾氏の頭の中に描いた策謀を、みずから告白する以外の何ものでもないことを信ぜざるを得ないのであります。(拍手)もし、しからずとすれば、一体何がゆえにこの虚偽放送をしたのか、おのずからその根拠を明白に願わなければなりません。  総理大臣は、十一月五日、衆議院本会議において、中野代議士質問に対し、平野追放記事新聞の誤報であるといつてお逃げになりました。しかし新聞社から、逆にその責任を問われて陳謝をせられたことは、御承知通りであります。(拍手)これは虚偽の事実を放送したことを裏書したものといわざるを得ないのであります。しかるにその後、それにもかかわらず、何らの処置をとつておられません。しかもこの放送は、農相不在中、卒然としてこれをなし、ために世人をして暗殺と評せしめ、不明朗極まる印象世人に與えたのである。よつてこの際、一切の眞相を明らかにし、その責任をいかにするか、明確に答弁せられんことを望みます。  第二点は、平野氏に対する、資格申請書中記載漏れを告発いたしました事件は、平野氏が農林大臣就任後のことであります。当時鈴木司法大臣は、平野氏に対し、こういう事件は、五百件に一件もないことである、こういう事件は放つておきましようと言われた。その以後、そのままになつておりましたのに、平野氏が新潟へ立とうといたします朝、すなわち十月の二十九日の朝、突然に司法大臣は、平野農林大臣に向かいまして、君は農林大臣をやめたらどうか、それでないと、この事件起訴になると言われたのであります。しかし、事実は断じてそうではないので、平野氏は、その前日、出射檢事より初めてその取調べを受けておるのであります。平野氏は、相当弁解もいたしますし、立証しようともいたしました。そこで檢事は、数名の証人を喚ぶことを約し、事件はまだ、これが初歩であります、まだまだこれから十分取調べなければなりません、さよう檢事はおつしやつたのである。事実、実際の取調べは、その後に始まつておる。司法大臣の言うように、辞職をしなければ今にも起訴されそうな状態では、断じてなかつたことは明白であります。  そこで平野氏は、こういう事件でやめるわけにはまいりませんと答えた。すると司法大臣は、あんたは、なおほかにも事件があります、やめなければ追放されますと言われた。しかしその当時、追放は何ら機関にかかつていない。これはうそだ。これは、ただいま申し上げた通りである。そこで平野氏は、それとこれとは違います、追放されるならば農林大臣もやめになるのだから、ことさらに農林大臣をやめるわけにはまいらぬと述べまするとともに、追放などは、ありつこありませんと答えた。そこで鈴木司法大臣は、総理大臣の所へ追放の指令が來ておるでありましようと言うた。そこで平野君は、それならば、片山さんの所に私自身行つて、それを見せてもらいましよう言つて出かけた。しかして、片山さんに会つて、何か來ておりますかとお問をいたしましたところ、何にも來ておらぬということであつた。それならば、新潟行きはやめるわけにはいかぬということで、片山さんの御了解を得て、二十九日の夜行で出発をしたのであります。すると、そのるす中、前述通り西尾さんからの虚偽放送が発せられた。  しかして、その後十一月一日の午後一時、社会党中央執行委員会が開かれた際に、司法大臣は、平野氏の起訴問題重大岐路に立つということを述べられ、今にも起訴になりそうな状態である旨を示されました。これは新聞はつきりと書いてある。しかして同夜、平野氏が新潟から帰つてまいりましたので、われわれ全農議員團は、九段において彼を迎えた。御相談の上に、あなたが直接行つては、感情がとがつているからよろしくない、私どもが参りましよう、まずひとつ御相談してみましよう平野氏に対する弾圧は、全農に対する弾圧でもある、われわれもじつとしてはおられませんというので、私以下全農議員團の者五、六名は、片山総理大臣をお訪ねいたしました。ところが片山総理大臣は、平野君の刑事事件は、起訴、不起訴を決すべき重大時期に到達をしておる、万一起訴にでもなると、閣僚中から被告人を出さんければならぬことになり、片山内閣の名誉のために、まことに耐えがたいところであるから、どうか今月中にひとつやめさせてもらいたい、明日にも置けば起訴になるかもわからぬと、総理大臣はつきりどもに申されたのであります。(「司法権の濫用だ」「陰謀々々」呼ぶ者あり)  ところが、事実はどうでありましよう。事実は、全然それと相違しておる。起訴、不起訴を決すべき檢察当局の本格的な取調べは、その以後に行われておる。その後二箇月を経ているけれども起訴、不起訴はまだ決定しなかつたではないか。(拍手)本年正月に入つて中央資格審査委員会決定を見て、初めて最後の断が下されたことは、これは嚴粛なる事実であります。十月の末から十一月の初めごろは、断じて起訴前夜の状態でなかつたと、私は固く信じて疑わない。  元來、檢察権の行使について政治的圧力を加えるがごときは、嚴に愼まんければならぬことはもちろん、檢察当局すら起訴、不起訴決定をすることのできない段階にある事件に対して、その上司たる司法大臣並びに総理大臣が、あたかも起訴前夜にあるかのごとき口吻を漏らし、一種の威圧を感ぜざるを得ない情勢下辞職勧告をあえてするというがごときは、まことに遺憾であるといわざるを得ないのであります。(拍手平野氏をして、政府行動権力を濫用する謀略的行為だと憤慨せしめましたことは、まことに無理からぬところであると思うのであります。政府は、一体何と考えられるか。もし政府にして、そうでないとおつしやるならば、私どもの心から納得のいきますよう、懇切なる説明あらんことを切望いたします。  第三点、政府は、当初追放だとおつしやいましたが、それが成り立たぬことを知るや、憲法第六十八条に基づいて罷免すると言い出されました。その理由は、内閣統一だというのであります。しからば、一体何が内閣の不統一であるか。総理大臣並びに司法大臣の御説明によれば、平野氏がスターズ・アンド・ストライプス、すなわち「星條旗」という雜誌記者に話したことがけしからぬとか、米価決定に際しての平野氏の論爭並びに地方での演説がよろしくなかつたとかいうのでありましたが、かようなことで、あの大事な農相の首を切られるということは、とても私はできないと考えるのであります。この点、すでに中央執行委員会においても論議を交わしましたことでもございますので、私はこれを省略する。しかし、これでもつて平野氏の首を切つたというのでは、世間がおそらく承知はいたしますまい。それかあらぬか、その後、農相罷免理由は不統一ではないのだ、非協力だと言い出した。初めは追放だと言い、今度は不統一だと言い、そうでないと、また今度は非協力だと言い出した。しかし平野氏は、農林大臣就任以來、窮迫せる食糧問題解決のために身をもつて当り、輸入食料懇請に、供出の促進に、最善を盡してまいつたのであります。その他農林行政百般にわたつて、過失なくその責任を果たしており、農林大臣として、こうも非協力ではなかつたと私どもは信ずるのであります。從つて、おそらく平野罷免原因は、他に隠されてあるのではないかと考えざるを得ないのは、けだし私一人でありましようか。もし、これがあるならば、この際卒直に、ここに示されんことを望んでやみません。  総理大臣並びに司法大臣の言われるところによれば、その筋から何らかの指示があつたことく承りました。しかし、もしそうだとしたならば、いかなる機関より、いかなる指示があつたのか、それはある機関を代表したものか、あるいは一部員が個人的になられたものか、またその指示は、文書によるものであるのか、あるいはまた單なる口頭による示唆に過ぎなかつたものであるか、これを明確に示されんことを望みます。その昔、いわゆる袞竜の袖に隠れて政敵を射たものがあると同様に、今日、その筋の名に隠れて政敵を射るものなしとはしない。われわれの聞くところにおいては、過去において、しばしばこの傾向があつたために、その筋よりの指示については必ず文書によることとし、正当なる機関による正しい命令ないし指示なるものを明らかにせられない限り、決して公式にとり上げないことにしていたことがあることを私は聞いている。今回の件は、はたしていかなる性質のものであつたか、ここに卒直にわれわれ國民の前に示されたい。(拍手)  なお、ここに重要なことは、この罷免の手続は、総理大臣としての職権行為であるから、内閣法第四條によりまして、閣議決定を必要とし、またその罷免が効力を生ずるためには、憲法第七條によつて天皇の認証を必要とし、この天皇國事に関する行為には、内閣の助言と承認を必要といたしますので、憲法第三條により、内閣全体としてその責任を負うべき事柄であります。この点についても、閣議決定を経なければならないことは当然である。しかるに総理大臣が、その閣議を開くことなくして、專横独裁の処分を敢行したのである。(拍手)まつた憲法違反行為といわざるを得ない。  あるいは総理大臣は、それは持回り閣議をやつたのだと言わるるかもわからぬ。しかし、平野君に対する辞職勧告は、十一月の四日午前零時十五分まで続けられている。私も、そのとき総理大臣の部屋におつたのであります。しかして、平野君とあなたとは、別室において相当長くお話をなさいました。遂に決裂を見たのは、四日午前零時十五分であります。やむなく、われわれは涙をのんで廊下に出た。そこには、多数の新聞記者がすわりこんでいた。われわれは、この間を潜つて去ろうといたしまするときに、この報道班に対して、平野罷免をすでに放送していたではないか。その間わずかに五分ないし十分、この間閣議の行われよう道理がありません。同日來ておつたのは、鈴木司法大臣西尾官房長官だけである、この間、いかにして持回り閣議をやつたでありましよう。電話をかけようつて、あの午前零時十五分に、各大臣の家にわずか五分や十分でかかるものではございません。私は、この罷免行為は、独裁專横の、憲法違反の所為なりと存ずるのであります。総理大臣は以下に考えらるるか、その所信をお伺いしたいのであります。  第四点は、追放わくを拡げてまで平野氏を追放しなければならぬ理由は、いずこにあつたのでありましようか。雜誌皇道」の編修人たりしことをもつて追放ようとはかつたが、この「皇道」がわく外にあることがわかると、これを拡げて平野氏をかけようとしたのである。こうまでもしなければならぬ理由が、どこにありましようか。政府は、このわく変更は決して平野氏のためにしたのではない、他の言論機関も共に考慮決定したのだというのでありますが、しかし、この平野問題が天下の重大問題となつておりますときに、この平野氏を追放するに必要な改正が、その目の前で行われたときに、いかに弁解しようとなさいましても、平野氏のための改正ではないとはたして言い得るでありましようか。そう言つてみたところで、大衆がこれを信ずるでありましようか。(「ヒヤヒヤ」「その通り」)しかも、もともと言論機関追放わくをつくつたのは、現在の司法大臣である。そのとき司法大臣は、雜誌皇道」はわく外にすべきものだという信念に基いて、これを除外なされた。しかるに、その後間もなくして、数箇月を出でずして、平野君問題が起つてまいりますると、朝令暮改とはこれでありましよう。たちまちにして、司法大臣はひつくり返りまして、これをわく内に入れようとした。しかして、これを断行して、平野君を追放することのできる再審査の機会を與えたのであります。しかして、遂に追放決定にまでこぎつけたのである。たれが、このわく変更平野追放関係なきものであるということが言われましよう。  ついでに私は、この際申し上げたい。わくを拡げて平野氏を追放しながら、その後任は、東亞連盟というわく内の常任理事をやつておられた波多野氏を起用されたのである。(拍手)これは、教学局昭和十六年十一月発行「思想研究」第十三集、百三十六ページを御参照になれば明確であります。ここに朱線を引いておりますから、ごらんになるなら、ごらんを願いたい。かくして、政府のごきげんにかなえば、どんなことでもできるが、一たび少々ごきげんを損なうたならば、法律をかえてでも首を切ろうとする内閣の存在は、大衆の前に受け入れられるでありましようか。私は、政府のお考えを深く承りたいのであります。  第五点、今回の中央公職適否審査委員会は、実に不明朗極まりなきものであります。平野資格問題は、すでに数回にわたつて該当決定されておりまして、今ごろになつて何で彼を追放しなければならぬのであろうかということは、社会一般常識であります。現に総理大臣も、組閣の際に、平野氏の資格には十分檢討を加ええられまして、これでよろしいという確信を得て、それを農林大臣に起用しておる。資格問題について審査を受くべき事項は、最近起つた事柄ではありません。ずつと昔に起つた事柄である。その後、何らの変更も見ていないのであります。常識を有する普通の人に判断せしめますならば、きのうときようと、さようにひつくり返るわけはないのであります。(拍手)  さればこそ、前述のごとくわくを拡げて、平野氏の再審査をなさしむることになつたけれども中央公職適否審査委員会は、昨年の末数回の審議を重ねました結果、十二月二十六日、七対二の多数をもつて、明確に非該当決定しておるのであります。(拍手)しかるに政府は、これを欲しなかつたもののごとく、再度審査を要望し、さらに会議が続けられることになつた。西尾氏は、新聞が傳えるよう最後的判断があつたのではないと否定をなさつておる。しかし、断じてさようは言わせません。  右委員会委員岩淵辰雄氏の手記によつて明確にされておる通り、事実はまつたくこれに反するものであります。岩淵氏は何と言つておる。十二月二十六日、委員会平野氏の資格を非該当と判定したとき、これが最終決定であること、この決定文書にして、公式に報告すべき所へは報告をすること、しかして、それに対する意見は、内閣からもどこからも、公文書によつて受取ることを申し合わせたのである。そして、その文書を作成したのである。その意味は、平野問題は世論の注目するところで、審査委員会権力の傀儡となつているのではないかという疑惑が一般に濃くなつている。審査委員会片山氏なり西尾氏の奴隷化することを警戒して、委員会の動向を注意していたので、二十六日の決定に対しても、一般の誤解を避けるために、一切の非公式の行動による取扱いはしないことにしたのである。こういうように、明確に最終決定がせられたことは、はつきりいたしておる。これで、事実はまことに明白である。  しかるに委員長は、その後しばしば片山総理その他内閣責任者を訪問いたしまして、二十九日以後の委員長においては、委員長態度がにわかに重大なる変化を見るようなつたということは、これまた、この岩淵氏の手記の中に明示されておるのである。かくて一月十三日、委員会においては、ついに四対五に逆轉し、平野氏は該当決定されたのである。  その直接の原因は、一体何か。その決定の前夜、牧野委員長は、白銀委員を伴い、内閣の自動車を駆つて大河内委員を訪問した。委員長大河内氏に対して、平野氏の該当とならねばならぬ事情を種々説明せられ、投票の場合には、岩淵氏だけはむづかしいかもわからぬが、他は少くとも承諾をしてくれたから、八対一にはなる、他の了解はちやんと得られたから、よろしくと言つて相談をもちかけた。大河内氏はこれを信じ、これに從つて投票したのである。ところが翌日大河内氏が出てきて投票して、開いてみると、まつたく意外なる結果であつた。非常に驚いた。しかして、良心の呵責に耐えられないで、平野個人に対して一札の手記を與えた。それには何と書いてある。ただいまのよう前提を省略いたしまして右のよう前提が滿たされていなかつたのであるから、自分投票一種の錯覚に基づいたものである、もし全員(岩淵氏を除く)が該当としての投票を行わないということならば、二十六日の委員会において一應決定された結果に從つて行動したいというのが自分眞意である、と書いてあるのであります。(拍手)私は、かくのごとき詐術による投票は、まつたく無効であると思うと同時に、政府にも重大なる責任があると思うのである。  政府は、この決定に何ら関係がない。委員会に対しても何ら圧力を加えたものではないというふうに弁解しておられますが、もし政府が何らの容喙をせられずに、眞に委員会の自由なる決定に任しておいたならば、十二月二十六日の決定は、そのまま確定したであろうということは、私が言わずとも明らかなことである。(拍手)しかるに、その決定に不滿を感ずればこそ、それを受け入れようといたしませず、再審査を要望し、二十九日に続行され、さらに一月に繰越したのである。  しかして西尾官房長官は、一月四日大阪において、「新春政局を語る」と題する新聞記事において表明されておる通り委員会審議に絶対に政治的考慮がはいつていないとも確信ができない。政府委員会がより高い立場から審査を行い、判定をすることを望んでいると、はつきりお述べになつておられます。この間、前述する通り委員長政府との間にはしばしば折衝が行われた。十三日の決定の前日十二日には、その日は委員会のない日であるのにかかわりませず、牧野委員長太田事務局長西尾官房長官曾禰次長等会合協議をいたしましたことは、その当時、ラジオによつて明確に報道されておることである。(拍手政府が、その権力にものをいわせて、委員会が抑えたとの嫌疑は、歴然たるものがあるといわざるを得ないのであります。  これを総合してお考えいただきましても、平野氏の資格問題が何ら正式機関にかかつていないのに、官房長官の頭では、もう追放決定と最初から刻みつけられておる。実に、この初一念はどこまでも押し通される。また通されたものであることを、われわれは認めざるを得ないのである。(拍手)この初一念司法大臣に通じて、司法大臣は、起訴、不起訴つたく不明の段階であるのにかかわらず、起訴前夜であるかのごとく述べ、辞職勧告をなし、平野氏がこれを拒否するや、今度はあらたまつて総理大臣罷免権行使となり、進んでは、わくを拡げて追放にかかる。しかして、十二月二十六日に至つて該当決定となるや、これを拒否し、西尾氏みずからが、委員会審議には政治的考慮のはいることもあり得る、政府委員会がより高き立場から審査を行い、判定することを望んでおると公言をしておられる。もつて委員会を動かし、委員長等はしばしば政府要路者と会つて協議を重ねた末が、委員長大河内氏訪問となつておる。よつて一票を詐術にかけてとつておる。もつて該当をひつくり返したのである。何ぞ政府関係なしと言われましよう。(拍手)  かく政府は、委員会の数度にわたる非該当決定はあくまでも認容いたしませず、最後にわずかに一票の差、しかも詐術による該当決定が現れるや、待つてましたとばかり、ただちに該当指令を急いでお出しになつた。これは普通ならば、前は非該当々々々で來ておりますから、たつた一票の差くらいで該当が出ましても、ほんとうに公正無私、ほんとうに明朗にして公明正大な方であつたならば、これはどうも疑わしい、その該当についても、もう一度お考え直しをやつてはどうかということが、私はほんとうの姿であるだろうと思う。(拍手)非該当がどんどんつくと、これをけつしてしもうておいて、今度詐術による一票でひつくり返ると、待つてましたとばかりに指示を出してしまう。何の公明がここにありますか。(拍手かくのごときは、実に委員会制度を破壊するものであり、日本民主化の敵であるといわざるを得ないのである。(拍手政府は速やかに右一月十三日の決定を拒否し、再審査を命ずべきであると思うが、はたしていかん。同時に、かくのごとき委員会は日本の將來を誤るものである。これを最高裁判所に移し、眞に公正無私、何人にも拘束されず、自由に判断することのできる機構に改むべきであると同時に、他面、この國会内にその不当決定の実情を調査する委員会を設くべきであると思うが、いかん。(拍手政府のお考えを伺いたいのであります。  われわれ全農有志議員十六名は、平野氏の問題に憤激し、社会党を離脱いたしまして、新生面を開拓いたすべく、今や團結しておる。私も、一片の義心やみがたく、司法政務次官を棒に振り、なつかしの同志とそでをわかつて、遂にこの壇上に立たざるを得なくなつておる。(拍手)われわれの胸中を十分に御洞察賜りまして、卒直にして誠意のある答弁を切望してやまない次第であります。(拍手)     〔國務大臣片山哲君登壇〕
  5. 片山哲

    國務大臣片山哲君) 多年の同僚にわかれなくてはならないことになりましたのは、まことに遺憾であります。佐竹君の御議論は、人情問題というような点に主点をおかれたようでありますが、この問題は、それ以上嚴粛な問題でありまして、冷静に、理論的にお考え願いたいと思うのであります。私は多年の友達でありまする平野君を罷免するに至りましたる理由は、この前の國会において、るる詳細に申し上げた通りでありまして、追放とかあるは告訴問題を理由にいたしていないのであります。閣内の問題、閣内非協力問題を理由にいたしまして、平野氏に辞職を要求いたしまして、聽かれなかつたものでありまするから、やむを得ず罷免いたしたような次第であります。新憲法の規定によりまするならば、罷免権は内閣総理大臣に與えられたる権利であります。これを、やむを得ざる場合においては行使することができるのでありますから、この権限を行使するとは、決して非立憲、憲法違反行為ではないのであります。この手続につきましては、この前の國会においてお答えいたしておりまする通りでありまして、罷免をいたすについては…     〔発言する者多し〕
  6. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 靜粛に願います。
  7. 片山哲

    國務大臣片山哲君)(続) 閣議に諮る必要はないのであります。認証を得まする手続については、閣議を経る必要があるのでありまして、これは、この前お答えいたしました通り閣議において総理一任という形式になつてつたのであります。前回のお答えと同様でありまして、決して憲法違反行為をいたしていないことを、あらためて明らかにいたしたいと存じます。(拍手)  なお、詳細の点は司法大臣からお答えいたすことになりまするが、私は、一月十三日に中央資格審査委員会決定いたしましたる決定が正しいと信頼いたしております。でありまするから、ただいま佐竹君があげられましたる一、二の委員の意見を採用いたしまして、再審議するというような考えはもつておりません。組織上、規定上、定められたる委員会が、最も公正に、最も民主的にやつておられるのであります。一委員の書面によりまするならば、佐竹君がおあげになりましたのと違つた理由も発表になつておるのでありまするから、佐竹君のおあげになりましたる理由だけを信用することはいけないのでありまして、委員長の正式の報告を正確なりと私は信じておる次第であります。以上のような次第でありまするから、審議をやり直すとか、さような考えはもつておりませんので、この委員会の決議に不服があるというような場合においては、正規の手続きによつて訴願をなさるという手続が残されておるだけであると考えておる次第であります。こういう問題が政治道義に違反するということで、政治道義の問題を取上げられておるようでありまするが、この前お答えいたしましたる通り、お互いの政治問題に携わつておりまする者が、意見の相違を來したり、政策に関する見解を異にいたしたる場合においては、わかれるということは、これはやむを得ないことでありまして、道義の問題と別個にお考え願わなければならない問題であると私は考えておる次第であります。以上のような次第でありまするから、決して政府のとりましたる態度は、事を構えて、追放理由にして追い出すとか、あるいはまた委員会に干渉するというような考えは、断じてないということを明らかに申し上げておきたいと思います。     〔國務大臣西尾末廣君登壇〕     〔発言する者多し〕
  8. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 靜粛に願います。
  9. 西尾末廣

    國務大臣西尾末廣君) ただいま佐竹君から御質問のあつた点につきまして、それからの経緯につきましては、司法大臣から詳しくお答えすることにいたしまして、私は、私に関する点についてのみお答えいたしたいと思います。  問題を正確に理解するためには、何が事実であるかということを明確にすることが何よりも大事であろうと思うのであります。その意味におきまして、佐竹君の言われた、政府は未だ追放ときまらないのに、すなわち平野君が新潟行つている留守中に、追放決定と発表したというお言葉がありましたが(「号外が出た」と呼ぶ者あり)政府は決して、平野君が追放決定したと発表したことは、絶対にありません。これもみな、事実を明らかにいたしておきたいと思うのであります。  その次に、一月十三日の委員会決定の前日、私をも交えて牧野委員長と会つたというお話がありましたが、私は前日にも会わないし、また昨年末以來牧野委員長とは一回も会つたことはありません。これは事実です。  それからもう一つは、一月四日の読賣新聞記事の私の談話について言及せられたのでありますが、あの談話は、当時記者に会つた時に、記者は約一時間の間私と話しておつたのでありますが、一枚のメモを持たず、一本の鉛筆も持たず、いろいろ座談をして後に書いたのでありまして、私が決して公表したものではありません。殊に私は、新聞記事の一つ一つについて責任はもてないのであります。このことを明らかにいたしておきます。     〔國務大臣鈴木義男君登壇〕     〔発言する者多し〕
  10. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 靜粛に願います。
  11. 鈴木義男

    國務大臣(鈴木義男君) ただいま佐竹君から、平野農相追放問題について御質問があつたのであります。平野君の問題は、その経過上にいろいろの波瀾がありましたために、はなはだしい誤解が廣く行われておるのであります。また佐竹君の御陳述の中にも、たくさんの事実の間違があるのでありまするから、この機会に、私から一應経過を御説明申し上げまして、兼ねて御質問にお答えいたしたいと存じます。  平野氏の追放が、何かと政略的なものから起つたものではないかということを言われました一つの理由は、昨年十月三十日の各新聞紙上に、突然平野氏の追放問題が大きくクローズ・アツプされたことに基づくように思うのであります。あの時に報道せらるべきものがあつたとすれば、総理大臣平野氏に辞表の提出を求める意向だということであつたのであります。これも、一般には青天の霹靂であつたろうと思いまするが、その直後の事情に鑑みて、不自然でなく受取れることであつたのであります。追放のことは、当時調査課程にあつたのでありまするが、まだ発表すべき段階に達しておつたのではないのであります。これは辞職の要望とは別に、なお相当の日時を要することであつたのであります。それが、あの時突如として報道されるに至つたということは、大きい誤解を生む原因なつたことは否定できません。首相が平野氏に辞職を求めたことは、追放と何ら直接の関係はないのであります。(「至上命令と言つたじやないか」と呼ぶ者あり)  首相が平野氏に辞職を求める決意を固められましたのは、私の聞いておるところによりますれば、九月、十月の交において、平野さんが、たびたび、内閣の閣僚としては許されない放言を内外の新聞社に向つてなしたためであります。(発言する者あり)私は、首相が辞職を要望し、聽かなければ罷免を決意せられたということは、無理からぬことと思われるのであります。これに対して、雜誌皇道」の発行兼編修人たることに関連いたしまして、一旦昨年の五月九日に資格審査を通過しておつた平野さんの資格が、再び新しく審査の対象になつてきましたのは、まつたく別個の徑路をたどつたものであります。(「その理由を言え」と呼び、その他発言する者あり)罷免の有無にかかわらず、近い將來に再審させらるべき運命にあつたのであります。ただ、罷免がなければ平明に進行すべきはずであつた審査が、罷免がありましたために、不必要に波乱を重ねたと言うことができるだけであります。(発言する者あり)  昨年の五月九日に、平野氏の資格は、その資格申請書に基づいて一應決定をしたことは、事実であります。しかるに、現内閣成立後、昨年六月二十六日に至りまして、東京地方裁判所檢事局に、高知縣の長野一之なる者が、平野氏の資格申請書には重要なる事実の脱漏があるものとして、皇道会の重要役員として活動したこと、機関紙皇道」の発行兼編修人であつたこと等を、証拠を添付して説明をいたしまして、戰時中、軍國主義的、戰意高揚的活動を活動をなしていたことを指摘し、政治道徳の高揚をモットーとする…。(「東亞連盟の理事はどうした」と呼び、その他発言する者あり)あとで申し上げます。(「西尾はどうする」と呼び、その他発言する者あり)政治道徳をモットーとする片山内閣は…     〔発言する者多し〕
  12. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 靜粛に願います。
  13. 鈴木義男

    國務大臣(鈴木義男君)(続) この問題を最も公明に処理すべきことを要望して、告発してきたのであります。(発言する者あり)  当時私は、刑事局長から文書をもつて、かかる告発のあつたこと並びに近く捜査に着手する旨の報告に接したのでありますが、事情やむを得ないものと認めまして、取調べは公正になすべきこと、被疑者の名誉は十分に尊重すべきことを訓示していたのであります。(発言する者あり)平野氏は、私に好意をもつておられたのでありまして、その友人同僚である平野氏の事実について取調べを命じなければならない私の立場は、断腸の思いであつたのであります。(「断腸とは何だ」と呼び、その他発言する者あり)しかしながら、司法大臣としては、あくまで情実等に左右されず、法の執行は嚴正公平でなければならないと信じておりましたから、その後も、機会あるごとに下僚に向つて、政党政派の区別なく、その人の地位のいかんにかかわらず、檢察は常に公正でなければならないということを訓示してきておるのであります。(「何を言うか」と呼び、その他発言する者あり)その後七月の上旬に、主任檢事は一回平野氏を取調べたのでありまするが、非常に多忙でありまして、取調べは相当時間を要するので、問答による尋問は一應打ち切りまして、別に文書で詳細の答弁を提出せしむることして処理した旨の報告を受けたのであります。しかし平野氏は、なかなかこれを実行されなかつたのであります。  一方これとは関係なく、内閣監査課において、前内閣以來言論報道機関追放調査が着々進められておりまして、私はそれを引継いだのでありまするが、六月三十日、追放該当が発表せらるるに至つたこれは一つのセンセーシヨンを起こしたのでありまして、各方面から、自分該当しないはずだという主張や、あの雜誌が指定されないのはふしぎだというような指摘が殺到したのであります。数千の新聞雜誌についての調査でありまするから、いかに誠実にやつても、多少の過誤なきを保せないのであります。ゆえに、それらの主張に対しては愼長に再調査して、除くべきものは除き、加うべきものは加えることを約束したのであります。このうち、現閣僚に関係のあるものとして各方面から強くして期せられましたのが、雜誌皇道」と新聞「ジヤパン・タイムス」であります。(発言する者あり)私は、これらも基準に照らして、公正に判断すべきことを監査課の事務当局に命じておいたのであります。  かくて、この二つの取調べと調査とは、互いに無関係に進んでおつたのでありまするが、平野氏にとつて不幸なことには、八月、九月ころ、平野氏は建築制限の法令に反して、許可を得ずに(「何を言うか」と呼び、その他発言する者あり)湯殿、ガレージ、天文台等を建築しておることが、新聞紙上に報告せられたのであります。  (「関係がないじやないか」と呼び、その他発言する者多し)
  14. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 靜粛に願います。
  15. 鈴木義男

    國務大臣(鈴木義男君)(続) これらは、いずれも後になつて許可されたのでありますが、これらの一連の事実は、関係方面でも深甚な関心をもつに至つたのでありまして、檢察当局は、これらの点を調査することとなつたのであります。  檢事局は、長野市の告発を受理いたしまするや、ただちに中央公職適否審査委員会事務局に請求して、一昨年と昨年の平野氏提出の審査請求書原本を取寄せ、檢事局が戰時中から蒐集保存しておりまする思想運動史の証據資料と対比して調査いたしましたるところ、平野氏は、氏が戰時事中参加して重要な役割を務めたところの右翼的團体、全日本農民組合同盟、國家社会主義学盟、あるいわ國家社会関係の記載をも省略していることを認めたのであります。皇道会も含めまして、これら團体の成立事情や、その活動目的は、思想係檢事をもつておりました檢事局といたしましては、十分に承知いたしておるところでありまして、檢事局の見解によれば、これらの團体がポツダム勅令のG項團体に該当し、平野氏が重要なる役職員の地位を占めていたことは、ほとんど議論の余地のないことであつたのであります。ゆえに、平野さんの答弁が、人違いであつたとか、その地位がまつたく違つてつたとかいうことでないかぎり、追放該当事項の省略としては、起訴を免除するわけにはいかないことの見透しであつたのであります。  この点が、後に中央資格審査委員会で非常な議論となり、反対意見も相当出たということは、むしろふしぎとするくらいなものであつたのであります。このことは、檢事局の意見としては、十月の二十四日平野氏を喚問して、午前午後にわたつて十分に弁明を聽取いたしました後、主任檢事並びに檢察首脳部の一致するに至つた意見であつたのであります。檢事局が、この段階で一時静観することになりましたのは、決裁を請求しようとしておつた瞬間に、追放問題が新聞紙上に大きく取上げられまして、続いて平野氏の罷免が行われたので、檢察が政治的に動くという誤解を避けるためであつたのであります。  しかし、そのことを知つておりました私は、十月二十八日、仙台から帰りまして、総理大臣辞職要求の決意を聽きますや、事態を放置すべきでないと考えまして、懇談によつて波乱少なく解決しようとして、まつたく私の独断をもつて、二十九日、平野氏と懇談したわけであります。私の企図した、波乱少ない解決策は、その進行途上において、追放の表面化として各新聞紙上に大きく取上げられましたために、まつたく水泡に帰したわけであります。しかし、このことがあつたのにもかかわらず、雜誌皇道」のリスト追加と、申請書に記載省略の刑事訴追の調査処理とは、そのまま進行を続けたのでありまして、十一月二十五日、雜誌皇道」は「國粋」その他十種類の雜誌とともに、基準に該当する雜誌としてリストの上に追加発表されたのであります。その結果、十二月上旬から、中央資格審査委員会において、改めて雜誌並びに平野氏が再審査されることとなつて、世上周知のごとき経過をたどつたのであります。  平野氏の再審査と勅令違反の起訴とは、上述のような経路をたどつて到達をしたのでありまして、社会党内の内紛とか、西尾氏と平野氏の関係が昔日のごとくでないということは、あえて否定いたしませんが、それは純然たる私事である。私事のために、追放というがごとき公事が亳末も影響を受けるものでないことは、私の断言してはばからないところであります。あるいは罷免問題とも、何のかかわりもないのであります。偶然同時に競合いたしましたために、疑惑と誤解とを生んだのであります。内閣の監査下も、檢察当局も、かかることはまつたく無関係に、公正に、事務的に処理していつたものであることを断言いたします。  そこで問題は、中央公職適否審査委員会審査について佐竹君からお疑いでありますが、審査会は祕密会であつて一般の場合には、主管の大臣といえども内容は聞知しないのであります。しかるに奇怪なことには、平野氏の審査内容は、その都度、若干歪曲されながら、かなり詳細に新聞紙上に公表されたことであります。一般に関心をもたれておりますることは否定いたしませんが、何らかの作為なくしては、かかることは可能ではあり得ないのであります。これは、ほとんど類例のないことでありまして、私どもの遺憾とするところでありまするが、岩淵氏が指摘されましたように、委員会は不覇独立であつて権力の奴隷となつてはいけないとともに、また被審査審査を受ける者の代理人となるようなことがあつてもならないのであります。  委員会のこの審査内容は祕密でありまするから、これに対して詳細に批評をすることは避けたいと思いまするが、平野氏の審査は、しかく難しい問題ではないのでありまするに、傳えられるように紛糾したといたしますれば、委員会の一部は世論に動かされて、この問題の起りを西尾氏対平野氏の確執にありと信じ、その渦中に陥つてはならないという警戒心が必要以上に働いたためではないかと思われるのであります。もし、そうだといたしまするならば、これは道途の説に動かされた邪推でありまして、再審査の要求が、他の多くの審査要求と同じく、前述ように事務的必然性をもつて提起されてきておつたことを看過したものであります。何らの戒心をもたずに問題に対していただきたかつたのであります。  私は、十二月二十六日、委員会は一應の結論に到達して、委員長はその結果を関係方面へ報告し、審査のなお不十分な点について注意を喚起されたということを聞いております。事追放に関する限り、関係方面が発言と再審査の権限を有することは、覚書並びに勅令に明記されているところでありまするから、当然のことであります。これに対しても、成心をもつて臨むべきではないのであります。ただ、その注意なり意見なりが合理的であるかどうかということを檢討すれば足りるのであります。十二月二十六日の可否の比率——は採決はとらなかつたように聞いておりまするが、その後回を重ねて、一月の十三日に最後決定をしたときには、過半数が該当の意見を表示したことには間違いはないのでありまするから、これが委員会の到達した結論と申すほかはないのであります。  大河内委員の表示が問題となつようでありますが、同委員が平野夫人に手交されたメモの中に「錯覚」という言葉が使われておりまするために、疑念を惹起こしたわけでありますが、その意味は、採決の手続が希望のごとく運ばれなかつたということを遺憾とするという意味でありまして、事務局長を通じて公式に出されました声明並びに今回総理大臣、マツカーサー司令部に出しました弁明書によりますれば、大河内一男君の自書した、これは弁明書でありまするが、「その文中に、あたかも私が錯覚に基づき自分の信念に反した投票を行つたかのごとき誤解を牽き起こす個所がありますが、私の投票は、私が資料の檢討と総体しての判断の結果決意したものであります。」「平野氏に対しては私個人としてはまことにお氣の毒にたえませぬが、最終決定に参加した私は、自分の信念に基づいて投票したものであることを申し上げておきます。また牧野委員長が拙宅に御來駕くださつたことは確かですが、過日私が弁明書にも詳細書き記しておきましたように、該当投票するよう私を勧説されたごときことは絶対にございません。從つて私の投票に関連して委員会が再投票又は最審査を行うというような必要はないものと考えます。」(拍手)こう述べておられるのであります。決定の正当性につきましては、疑問の余地はないと信ずるのであります。  平野氏の該当が、やむを得ないものであるかどうかということは、過日発表せられました委員会の判定理由書を一読せらますれば、おのずから明らかであろうと存ずるのであります。これに対しましてまで政略的だと言う者がありますれば、何らかの成心をもつて見るものというほかはないと存ずるのであります。追放は、もともと政治思想に対する批判であります。犯罪構成要件を批判するように、あまりに分析的になりまするときに、かえつて正鵠を失するのである。木を見て森を見ないという非難を受けるのであります。  私は平野氏の偉大なる一面を認め、農民運動上の功績は高くこれを評価するものでありまするが、およそ、この追放事由のありますものについては、その他の違法行為に対する責任究明とともに、何人に対しても公平でなければならないと信じます。ゆえに…(「ジヤパン・タイムスはどうするか」と呼ぶ者あり)ジヤパン・タイムスが該当せざることは、すでに発表済であります。波多野農林大臣に御指摘のごときことがありまするならば、追放該当することはもちろんでありまするが、ただいま十分に調査中であります。その他、いやしくも疑いがありまする場合には、公正に取調べをいたしますことについては、人によつて区別するようなことは断じてないのであります。これをもちまして、佐竹君の御質問に対するお答えといたしたいと思います。(拍手
  16. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 佐竹君、申合せの時間が五分ほどであります。申合せの時間が非常に迫つております。発言を許します。     〔佐竹晴記君登壇〕
  17. 佐竹晴記

    佐竹晴記君 まず、片山総理大臣に対し再質問いたします。  憲法六十八條二項に基づく罷免であるから、理由を示す必要なしと言わんばかりの答弁であります。しかし、憲法六十八條による罷免は、天皇の認証を要する重大な國事の一つである憲法第三條によつて内閣全体が責任を負わなければならぬ重要事項の一つである。それのみならず、國務大臣罷免に止まりませず、農林大臣という行政府の長たる資格を奪うのでありますから、憲法六十六條第三項に基づいて、國会に対して連帶責任を負わなければならぬ行政権の行使として、相当の理由を具備しなければならぬことは当然である。(「その通り」)さらに一歩進めて考察するに、憲法六十八條二項に、任意に罷免することができるとあつても、それは総理大臣の右重大なる國事に関する権限の規定であるから、どんな氣隨氣ままなことでも、自由にやつてよろしいという趣旨ではない。あくまで公人として、公正妥当に事を処理することを前提として任意にやつてよろしいというのである。公正妥当な事由なしに、勝手な行動を許されたものとは、私は断じて思わない。  他面総理大臣は、國民全体の奉仕者である公務員の選定並びに罷免は、憲法第十五條に示す通り國民固有の権限である。農林大臣という行政府の長を任免することは、この固有の権限に由來するものであることに鑑みるならば、この農林大臣罷免するためには、國民の何人にも理解ができ、また國民の何人も納得のいく客観的事由の存在することを要し、いたずらに專恣の振舞を許さるべきものでないということは、私がここに申し上げるまでもないのであります。(拍手)もし総理大臣が、事由のいかんにかかわらず、ほしいままに閣僚の首を切ることができるというときは、私的感情の報復のために、事由に罷免権を行使することができる。ときには、政爭の具に供するおそれがある。(「ヒヤヒヤ」)かくては、新憲法專横独裁の権限を附與した法典と化し、民主憲法の精神は、断然根底より破壊さるるに至るでありましよう。(「ヒヤヒヤ」拍手)  本件罷免の前後をごらんなさい。当初は追放言つておられる。刑事問題にからまつて、不実の事実を土台として辞職を迫り、平野さんが聽かぬということになると、今度は不統一だ。これを爭うと、今度は不一致とくる。しまいに、わくを拡げてこれを切ろうとした。そうして、先ほど申し上げまするように、遂に委員会まで手を伸ばしておる。こんなことが、はたして許されるでありましようか。私は少なくとも、公正妥当な、客観的に正当な事由があつて罷免をしたと、國民の前にこれをさらけ出して御判断を願うが一番適当だ思う。何とぞ明快なる御答弁を煩わします。(拍手)  私は、さらに西尾氏及び鈴木氏に徹底的にこれから申し上げようと考えますが、しかし、議長より時間を制限されましたので、(「やれやれ」と呼ぶ者あり)ただ西尾氏に一言申し上げたいことは、追放に関し新聞記者に話したことは、この佐竹の言うような、それとは違うのだとおつしやられたが、それなら、また再び新聞が誤傳であると、また新聞責任をなするところの前の総理大臣の答弁に返るのである。さきに総理大臣は、そのときに陳謝をせられて済んでおるんじやないか。(拍手)これをむし返すことは卑怯千万である。また、一月四日の新聞記事について責任を負えないというけれども、なるほどメモはなかつた。一時間も話した、これは弁解になりません。およそ何も言わぬことを、新聞記者諸君が書くわけはない。ある程度これについて責任を負うということは当然である。違うならば、ここが違つておる、これこれしかじかであつて、私の眞意はこれであるという親切な答弁があつて、初めて答弁である。答弁になつておらぬ。  また鈴木氏のごときは、私の問いに対して何ら答弁をしないではないか。どこでお書きになつて、どこで御協議になつたかしらぬけれども、長い書面を書いてきて、私の質問には一向つじつまが合わない。それをここで読み上げておる。これがなんの答弁であるか。答弁ではない。しかも、私が靜かにお聽きを申し上げたそれについて、つぶさに、もう一度五項目について、順を追うて御答弁を願いたい。私は、あなたが、いかにも委員会を弁護し、何でも委員会を弁護し、委員会と一体となつて政府委員会が一緒くたになつて平野氏を陥れた感じを、あなたの答弁によつて受けこそすれ、あなたの答弁によつて、私どもの疑問は何ら氷解したものでないことを、はなはだ遺憾に存ずる。  なおお聽き申し上げたい点がありまするけれども、私は時間を許されませんので、この程度に止めておきますが、ただいまの御答弁には、絶対に承服することはできません。他日適当な機会において、なお徹底的にお尋ねすることの機会があることを留保いたしまして、質問を打切ります。(拍手)     〔「答弁々々」と呼び、その他発言する者多し〕     〔國務大臣片山哲君登壇〕
  18. 片山哲

    國務大臣片山哲君) 平野罷免理由は明らかにいたしておるのであります。すなわち、内閣協力という理由であります。この理由で十分であろうと考へております。     〔「抽象的じやいかぬ」と呼び、その他発言する者多し〕     —————————————
  19. 山花秀雄

    ○山花秀雄君 國務大臣演説に対する残余の質疑は延期し…     〔発言する者多く、聽取不能〕
  20. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 山花君、ただいまの動議をもう一度繰返してください。     〔「答弁をさせなければだめじやないか」「きのうもそうだ」と呼び、その他発言する者、離席するもの多く、議場騒然〕
  21. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 官房長官並びに司法大臣よりは答弁がないそうでありますから…。     〔「動議は成立していない」「動議を諮れ」と呼び、その他発言する者多く、議場騒然〕
  22. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 山花君、先ほどの動議は議場に徹底しておりませんから、もう一度はつきり言つてください。
  23. 山花秀雄

    ○山花秀雄君 國務大臣演説に対する残余の質疑は延期し、明二十八日定刻より本会議を開きこれを継続することとし、本日はこれにて散会せられんことを望みます。     〔「異議あり」と呼び、その他発言する者多く、議場騒然〕
  24. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 山花秀雄君より、國務大臣演説に対する残余の質疑は延期し、明二十八日定刻より本会議を開きこれを継続することとし、本日はこれにて散会すべしとの動議が提出されております。     〔発言する者多し〕
  25. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) ただいまの動議に賛成の諸君は白票、反対の諸君は青票、これより記名投票を行います。議場の閉鎖。氏名の点呼を命じます。     〔参事氏名を点呼〕     〔発言する者多し〕
  26. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 賛成の諸君は白票、反対の諸君は青票を持参されんことを望みます。     〔参事氏名の点呼を継続〕
  27. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 投票漏れはありませんか。——投票漏れなしと認めます。投票箱閉鎖。開匣。開鎖。  投票を計算いたさせます。     〔参事投票の数を計算〕
  28. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 投票の結果を事務総長より報告いたさせます。     〔事務総長朗読〕  投票総数 二百十九  可とする者(白票) 百三十  否とする者(青票) 八十九     〔拍手
  29. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) 右の結果、山花君の動議は可決されました。     —————————————     〔参照〕  山花君の動議を可とする議員の氏名    赤松  勇君  足立 梅市君    淺沼稻次郎君  荒畑 勝三君    井伊 誠一君  井上 良次君    伊瀬幸太郎君  伊藤卯四郎君    池谷 信一君  石神 啓吾君    稻村 順三君  大島 義晴君    加藤 勘十君  笠原 貞造君    片島  港君  片山  哲君    勝間田清一君  川島 金次君    久保田鶴松君  黒田 寿男君    佐々木更三君  佐竹 新市君    堺  一雄君  笹口  晃君    重井 鹿治君  島田 晋作君    鈴木 雄二君  鈴木 義男君    田中繊之進君  田中 松月君    田淵 実夫君  館  俊三君    玉井 祐吉君  戸叶 里子君    中崎  敏君  永井勝次郎君    成瀬喜五郎君  成田 知巳君    西尾 末廣君  西村 榮一君    野上 健次君  馬場 秀夫君    原 彪之助君  細川 隆元君    細野三千雄君  前田榮之助君    前田 種男君  正木  清君    松永 義雄君  松本 七郎君    水谷長三郎君  森田 道輔君    森 三樹二君  森戸 辰男君    矢尾喜三郎君  矢後 嘉藏君    安平 鹿一君  山口 靜江君    山崎 道子君  山下 榮二君    山中日露史君  山花 秀雄君    吉川 兼光君  米窪 滿亮君    和田 敏明君  安東 義良君    荒木萬壽夫君  伊藤 恭一君    飯村  泉君 生悦住貞太郎君    宇都宮則綱君  馬場  晃君    梅林 時雄君  小野  孝君    大上  司君  大澤嘉平治君    大森 玉木君  岡野 繁藏君    押川 定秋君  金光 義邦君   木村小左衞門君  喜多楢治郎君    小島 徹三君  小平 久雄君    小林 運美君  小松 勇次君    椎熊 三郎君  田島 房邦君    田中 萬逸君  高岡 忠弘君    竹田 儀一君  武田 キヨ君    橘  直治君  坪川 信三君    寺本  齋君  苫米地義三君    中垣 國男君  中島 茂喜君    中曽根康弘君  中村 又一君    長野 長廣君 長野重右ヱ門君    西田 隆男君  西山冨佐太君    原   彪君  一松 定吉君    福田 繁芳君  舟崎 由之君    細川八十八君  三好 竹勇君    武藤 嘉一君  最上 英子君    八並 達雄君  矢野 政男君    山崎 岩男君  山下 春江君    吉田  安君  米田 吉盛君    石田 一松君  今井  耕君    川越  博君  木下  榮君    河野 金昇君  酒井 敏雄君    笹森 順造君  竹山祐太郎君    豊澤 豊雄君  萩原 壽雄君    松原 一彦君  松本 瀧藏君  否とする議員の氏名    青木 孝義君  有田 二郎君    石田 博英君  石原 圓吉君    泉山 三六君  稻田 直道君    岩本 信行君  内海 安吉君    江崎 真澄君 小笠原八十美君    小澤佐重喜君  大石 倫治君    大瀧亀代司君 岡村利右衞門君    加藤隆太郎君  花月 純誠君    柏原 義則君  片岡伊三郎君    川村善八郎君  木村 公平君    北浦圭太郎君  佐々木盛雄君    佐瀬 昌三君  坂本  實君    澁谷雄太郎君  島村 一郎君    白井 佐吉君  鈴木 仙八君    多田  勇君  高田 弥市君    高橋 英吉君  竹尾  弌君    辻  寛一君  冨田  照君    仲内 憲治君  西村 久之君    野原 正勝君  原田  憲君    平島 良一君  廣川 弘禪君    本多 市郎君  益谷 秀次君    松浦 東介君  松崎 朝治君    松野 頼三君  水谷  昇君    村上  勇君  森 幸太郎君   山口喜久一郎君  若松 虎雄君    渡邊 良夫君  東  舜英君    井上 知治君  尾崎 末吉君    生越 三郎君  工藤 鐵男君    佐々木秀世君  田中 角榮君    中村 嘉壽君  根本龍太郎君    原 健三郎君  原  孝吉君    平澤 長吉君  降旗 徳弥君    本間 俊一君  八木 一郎君    赤松 明勅君  衞藤  速君    大石ヨシエ君  叶   凸君    佐竹 晴記君  鈴木 善幸君    田中 健吉君  高瀬  傳君    平野 力三君  藤田  榮君    本藤 恒松君  松澤  一君    松本 眞一君  水野 實郎君    小西 寅松君  田中 久雄君    只野直三郎君  外崎千代吉君    中村元治郎君  前田 正男君    加藤吉太夫君  高倉 定助君    綱島 正興君     —————————————
  30. 松岡駒吉

    ○議長(松岡駒吉君) よつて本日はこれにて散会いたします。     午後五時五十八分散会