○網島逓信技官 それではただいま
委員長から御指名がございましたので、ごく
簡單に
放送事業の世界各國及びわが國の状況について御
説明申し上げまして、御参考に供したいと思います。
放送事業が世界で
最初に始められましたのは一九二〇年大正九年でございまして、約三十年ばかり前でございます。これはアメリカで行われたものであります。当時は
無線技術がまだ非常に幼稚でありましたために、
電波でこういう
放送ができるということにつきましては、世界的な驚異をまき起しました。それと同時に
放送に対する一般大衆の興味というものが非常に大きかつたのでありまして、非常な勢いを以てこの
放送が発達してまいりました。たとえば、アメリカの例を申し上げますと、初めて行われた一九二〇年から二年経ちました一九二二年には約三百九十局ばかりの
放送局がアメリカにできました。それから一年経つた一九二三年には千百五局というような非常におびただしい数の
放送局がアメリカにできたのでございます。これはアメリカばかりでありませんで、世界各國ともこういうような状況で
放送が非常に発達してまいりました。その結果各國ともこの
放送に非常にたくさんの
電波を使うようになりまして、これを放任しておきますといきおい
電波を使
つておりますところの他の重要な
無線通信、たとえば船と陸とを結ぶ
無線通信というようなものも妨害されるというようなおそれも出てまいりましたので、一九二七年にワシントンで開かれました国際
無線通信の條約
会議におきましては、各
業務に使う波長というものをきめたのでございます。当時この
放送に対してどの辺の波長を使わせるかということは、非常に各國間で議論に
なつたのでありますが、結局現在廣く行われております五百五十キロサイクルから千五百キロサイクルの間にこの
放送局を設置するということに決定されたのでございます。その後この
原則はずつと守られておりまして、世界各國とも大多数の
放送局はこの周波数の間に設置されております。これが今日いわゆる標準
放送と称せられておりますゆえんでございまして、今回提出した
法案の中にも標準
放送という名前がございますが、これはこういう意味合から來たものでございます。
それから後
無線の
技術がだんだん発達してまいりまして、特に第一次世界大戰後急激にこの眞空管
技術の発達に伴いまして、短かい
電波が容易に出せるということにな
つてまいりました。一方いろいろ実驗の結果、短かい波長の
電波は地球の表面と地球の上空百キロあるいは二百キロのところにありますガス体が稀薄になりまして、イオン化したところの電氣の粒の層があります。その電氣の粒の層との間を反射して、非常に遠くまで届くということがわかつたのであります。ちようど光を鏡にぶつつけますと、ある角度でも
つて反射されていきますが、それとまつたく同じ方法で
電波が傳わ
つていくのであります。この
電波を用いますと比較的小さな電力で非常に遠くへ到達するために、いろいろ便宜がございまして、國際
無線通信等に漸次使われてまいつたのでございますが、特にこれに目をつけまして、
最初に
電波を使つた
國際放送というものを初めたのが英國でございます。すなわち英國の
放送会社でありますB・B・Cが一九三二年でございまするが、いわゆる英國
放送の名のもとに自分の本國から各植民地に向けてこの短波の
放送を開始したのでございます。これは本國とその植民地とを
文化的に結びつけることに非常に効力を発揮いたしまして、逐次この設置を拡充して今日にまい
つておりますが、これと同時にドイツが第一次世界大戰後の國力回復を目ざしまして、またその抱懐するところの
政策を実行する
一つの
手段といたしまして、ヒトラーがこの短波
放送を大々的に始めたのでございます。一九三六年のベルリンオリンピック大会におきまして、ドイツが十数台の非常に強力な短波
放送機を設置いたしまして、これを世界各國に向けてオリンピックの状況
放送に利用されたことは、すでに周知の
通りでございます。このように短波
放送が非常に偉大なる勢力をも
つてまいりましたためにこれにならいまして、現在世界の強國といわれる國におきましては、大なり小なり、この短波
放送を実施している状況でございます。しかしながらこの短波の波長体は單に
放送ばかりではございませんで、もつとそれ以外に非常に國際的な電信電話の通信に利用されております関係上、むやみやたらにこれを実施することができませんで、自國内の
放送は、いきおい
先ほど申し上げた標準
放送に限定されるということになるわけでございます。
ところが
先ほどお話申し上げたように各國とも
放送が非常に盛んになりまして、その波長体ではどうしてもカバーできないという時代がまいりまして、それと同時に
無線技術の発達に伴いまして、だんだん波長の短かい短波を利用できるという状況にも立ち入りました関係上、最近におきましては、短波よりさらに波長の短かい超短波という、いわゆる深長で申しますと十メートル以下の波長を使つた非常に波長の短かい
放送が盛んにな
つてまいつたのでございます。この程度の波長になりますと、大体光と同じように直進する性質をも
つておりまして、
先ほどお話申し上げました電離層というものをつき抜けて行
つてしまいます。從
つて大体見透しの距離しか届かないのでありますが、高い建物を利用したり、あるいは山の山頂を利用いたしますと、相当廣範囲にこれをカバーすることができます。
一つの都市あるいは
一つの地域を対象とした
放送には、非常に好都合のものでございます。殊にこれはあまり遠距離に行きません関係上、同じ波長を各地で利用できるという便宜もございまして、今後この超短波
放送は非常な勢いをも
つて発達する
可能性がございます。
以上は普通の音樂あるいは人間の声を作る
放送でございますが、これとは別に写眞でありまするとか、あるいはまた文字というようなものを直接
電波で一般大衆に
放送するという試みも行われてまいりました。これは天氣図でありますとかその他いろいろ機械の図面というようなものを一般に廣めるために、非常に便宜なものでございまして、これがこの
法案におきましてフアタシミル
放送と称せられるものでございます。この種類の
放送もすでにアメリカ等におきましては、数年前より実施されておりまするし、わが國におきましても一、二の通信社におきましては、これによりまして
日本の複雜な文字をただちに送りまして、ニュースの速達ということを計画し、その実現を計画しておるという状況にあるのでございます。
さらにテレヴイジヨン
放送でございますが、これは今度の戰爭前より世界各國の
技術の優秀な國におきましては、それぞれ実驗を開始しておつたのでございまするが、戰爭中の
電波兵器、すなわちレーダーと称せられる
技術が、このテレヴイジヨンの
技術と非常によく似ておりまして、この
電波兵器の発達に伴いまして、テレヴイジヨン
技術も急速な発達をいたしてまいりました。從いまして戰後まずこれに大きな力を注ぎましたのはアメリカでございまして、今日アメリカの統計によりますと、アメリカにおいては、すでに十四の都市におきまして二十三のテレヴイジヨン
放送局が実施されておるということにな
つております。さらに建設許可を受けたものは七十三局ございまして、
放送局を申請しているものは百九十一局あるという非常に盛んな状況にございます。殊に最近はこのテレヴイジヨンを天然色テレヴイジヨンといたしまして、自然の状況をそのまま送ろうという
技術も完成いたしまして、目下一、二の
放送局において実施中であるという、まつたく驚異的な発達をいたしておるのでございます。これらのテレヴイジヨンは、大体
一つの画面を五百から五百五十くらいの線に分けて送
つておるのでございまするが、その鮮明度は大体十六ミリ映画程度の鮮明度を持
つておりまして、懐中時計の針のごときも明瞭に出るという状況でございます。從いまして今後このテレヴイジヨンの発達というものは、おそらくわれわれの想像以上に上るのではないかというふうに考えられるのであります。先般のアメリカからの通信によりますと、ビキニ環礁で行われました原子爆彈に関連いたしまして、この原子力の研究あるいはその原理等がテレヴイジヨンによ
つて一時間数十分間アメリカに
放送されたという記事もございます。そういうような時代でございまして、將來の
放送というものは、おそらくテレヴイジヨンが中枢をなすのではないかと思われるのでございますが、特にテレヴイジヨンは
先ほどお話した超短波あるいはさらに波長の短かい極超短波を利用することによ
つて初めて可能となるのでございます。その
理由は一般の中波あるいは短波の
電波でございますると、その
電波が複雜でありますので崩れたり重
なつたりしますが、超短波、極超短波ですと大体光と同じような作用で傳わるためにそういうようなおそれはまつたくないのであります。從いましてそれらのことを考慮いたしまして、今回の
放送法にはテレヴイジヨンについてはフアクシミルというものを特に
放送の範疇に入れまして、將來の発達に備えたような次第でございます。
以上は大体設置の面から見ましたところの
放送の状況でございますが、
放送を
経営いたしまするところの
事業面からこれを見ますと、大体大きくわけて三つに分類できると存ずるのであります。その
一つは、
放送をその國の
独占事業とする行き方でありまして、これは
先ほどの英國の英國
放送協会がその代表的なものでございます。そのほかに
放送を國の大きな
政策を遂行する
一つの
機関として考えておる國におきましては、
放送を独占
企業体にさせておる場合が多々ございまして、このやり方もソ連のように、まつたく國有國営という行き方もございますし、またスエーデンのように、
設備は國が持
つてお
つてその
経営は特殊
事業体に委任するという行き方をと
つておるものもございます。また
先ほどお話いたしました英國の
放送協会は
設備も運営もその特殊
企業体が行
つておるという状況でございます。それからこれとまつたく対蹠的なものはアメリカの行き方でありまして、これは
自由競爭的な
立場をとらせております。この
自由競爭的な
立場をと
つておる國におきましては、
放送は非常に発達しております。
先ほどお話申し上げましたように、一時アメリカにおきましても、全國の
放送局の数が千を超えるような状況でございました。もちろんその
経営者はナシヨナル・ブロード・キヤステイング・カンパニー、コロンビヤ・ブロード・キヤステイング・システムといつたような大きな國全体に
組織を持つたものもございますが、それと同時に
一つのデパートでありますとか、あるいは学校、または宗教
團体といつたようなものが
一つ二つの
放送局を持
つてもらうというような小さいものもございまして、まことに種々雜多でございます。その結果
聽取者も非常に莫大な数でございまして、最近の統計によりますると、アメリカにおける
聽取者数は五千万を超えるということが報告されております。それと同時にこのように
放送局がたくさん出てまいりますと、そこに
電波の混乱という問題が起
つてまいります。從
つてこれらの
電波を統制いたしますためには、どうしてもここに
國家的な
一つの統制が必要とな
つてまいりまして、この点同じ
文化事業でありまして、しかも性質の非常に似ております新聞、雜誌等と
放送と非常に違う点は、
放送においては
電波を使う、その
電波に限度があるということでございます。アメリカのように非常に自由主義的な國におきましても、これを整理するために電報通信
委員会というものが設立されまして、その整理に鋭意努力してきております。今日におきましてもまだ完全に整理してはおりませんけれども、着々その効果が発揮されまして混信問題等も大分減少しているのであります。
第三の
事業形態といたしましては、一方において公器的な
放送事業を認めると同時に、他方商業
放送的な
放送を認めていこうという行き方でございます。それは比較的最近立法化された
法律をも
つておる國におきまして行われておるやり方でありまして、濠州あるいはカナダというような國はこういう行き方をと
つておるのであります。わが國の
放送事業は、從來は独占形態をと
つておつたのでありますが、今度の
法律化におきましては、この第三の行き方をと
つております。この行き方はなお今後いろいろな
経驗を経なければ、なかなかその結論は得られないかと存ずるのでありまして、
法案におきまして一應五年という年限を区切つたのもそこから出ておるのであります。
次にわが國の状況につきまして
簡單に御
説明申し上げたいと存じます。わが國に
放送が初めて行われましたのは大正十四年でございます。当時は東京、大阪、名古屋にそれぞれ單独の
社團法人の
放送事業体ができまして、競爭的な
立場でこの
放送事業を
経営しようとしたのでございます。ところがこういう行き方をとりますと、いきおい
放送の普及が大都市に偏重されるという傾向になりやすいのでございまして、この傾向は現在アメリカにおいても見られるところでございます。
政府におきましては、できるだけ早くこの
放送を大都市のみならず、山間僻地におきましても普及させなければならないという
政策をとりました結果、この三つを一緒に統合いたしまして、今日の
日本放送協会というものの設立を勧奬したわけでございまして、これが設立されたのが大正十五年八月でございます。爾來
日本放送協会におきましては、その
政府の方針に則りまして
放送の普及発達に努めました結果、今日におきましては第一
放送、第二
放送を含めまして全國に百六局の
放送局を有しておりまして、その
電波も大体において
日本全國をカバーしておるという状況でございます。しかしながらまだ北海道の一部あるいは東北
地方の一部、九州の南部
地方等におきましては、
電波の普及が十分でない所もございまして、これらにつきましては、今後鋭意その普及をはかるべく計画を進めておるという状況でございます。今日わが國の
放送聽取者数は六百五十万を超えるような状況でございまして、普及率といたしましては、必ずしもそう悪いとは考えておりませんけれども、まだまだ英國がや
つておりますように、第一
放送、第二
放送、あるいは第三
放送というようないろいろな
放送の種類にわけて、
放送のそれぞれの使命に應じたプログラムを組んでいくというような面からいうと、まだまだ足りないという感じをもつのでありまして、今後ともこの点は十分努力していきたいと思
つておる次第でございます。
以上のような状況でございまして、世界各國の
放送の発達及びわが國の状況は最近目ざましいものがございますが、今日この
放送を規律しておりますところの
無線電信法は、大正四年につくられたものでございまして、当時は今日の
放送というようなものの出現は夢想だもしておらなかつたという時代につくられたものでございます。從
つてこの
法律をも
つて今日の
放送事業を律するということは、これはまつたく不可能なことであります。殊に最近におきまして
民間放送の出願もいろいろ出てまい
つております。今日まで
逓信省に参
つております数は約八つございまして、これらの処理をいかにすべきかという点に関しましては、至急この基準となるべきところの立法措置を必要とするということを私どもは痛感しておる次第でございまして、今日の状況の鑑みまして至急この
放送法案の御
審議をお願いいたしたいと存じておる次第であります。
以上
簡單でございますが御
説明を申し上げる次第でございます。