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岡本證人 私は現在
最高檢察廳檢事をつとめております。
長崎地方檢察廳の
檢事正在任期間は、
昭和二十一年三月七日同地に着任いたしまして以來、今年五月十五日
最高檢察廳檢事に轉任の命を受けるまでの
期間であります。
第二、私の
檢事正在任中、
長崎縣特に
佐世保地区に発生いたしました
隱退藏物資に関する
被疑事件につきましては、私が
檢事正といたしまして、その
捜査のすべての指揮をいたしたのであります。
内容を細分してありまする
事項イ、ロ、ハ、ニ、ホと順を追うて申し上げることにいたします。
長崎地区における
隱退藏事件の
摘発は、きわめて
廣範にわた
つておりまするから、ただ
ひとり佐世保地区のみに力を盡したものではありません。
長崎縣全体にわた
つたものであります。ところがその
隱退藏物資をめぐる
摘発対者は、あらゆる
業者が含まれております。このうちから特に
証言を要請せられておりまする
土建業者の間に行われた
犯罪の
概況いかんということになりますと、
土建業者として取調中明らかに
なつたものに
永富組があります。
梅村組があります。
水口組があります。
金納清松の
事件があります。
山嶺組があります。
吉田組があります。
星野組があります。
金子組があります。そうしてその
事件の
大要は、御
承知のように
隱退藏事件の罪名は、その適用せられる法令によ
つて種々雜多なものがあるのであります。私
ども大体今十種類ばかりの
法律をこれに適用しております。そのうちただいま私の
記憶に
はつきり残
つておりますもの
——これは註釈的に申し上げておきますが、私は十三日着任したばかりでありまして、御
承知の
通り時節柄
手もとの
資料がなかなか到着いたしません。未だその
資料も整備しておりませんので、ただ
手もとにわずかにも
つております
資料をも
つて申し上げますから、その間偽りのことは申しませんが、多少の不備の点があるかもしれません。
梅村組の扱われております
事件は
臨時物資需給調整法違反、
パイプ類臨時措置規則違反、
指定生産資材在庫調整規則違反、
金納組につきましては
臨時物資需給調整法違反、
山嶺組また同樣であります。
吉田組は
隱匿物等緊急措置令違反、こういうのであります。大体
隱退藏事件の
犯罪大要と申しますれば、そういうものであります。
このうちで最も重要な
法規は
隱匿物資等緊張措置令違反、
指定生産資材在庫調整規則違反であります。そのほかに軍の各
覚書等に基きまして、
非鉄金属のいろいろな
取締法規が出ておりますが、これに関する
違反が随時出てまいりますのと、またこれに伴う
統制令違反事件等があるわけであります。これがイに対するお答えであります。
佐世保市役所の
疑獄事件はいかなる
内容の
犯罪なりや。これについてお答えしたいと思います。
佐世保市役所の
疑獄事件と申しますのは、要するに
特殊物件の処理に関しましての
犯罪容疑事件であります。それは軍が
さきに
佐世保港の
内外で
使用しておりました
鉄線鎧装線及び
ゴム鎧装線、これは
海底電線のことであります。その
特殊物件が
進駐軍によ
つて押えられまして、軍のリストも明らかにできておるように聞いております。これは一旦
日本政府に引渡済みのものであります。そうして
國家がこれを保管中に扱
つたものの扱いに関する不正であります。御
承知のごとく、
佐世保港を中心といたしまして、鯛ノ浦という所があります。また
前畑という所があります。その附近にこの
海底電線があ
つたのであります。この
海底電線を
佐世保市が、
拂下げを受けたいということが
本件の犯行の
最初になるのであります。この
事件は
さきに
佐世保市
郊外駐在の三十四連隊が重要視いたしまして、
進駐軍M・
P隊長ムーア少佐並びに
熊谷軍曹がこの
事件の
摘発にかか
つておられたものでありますが、三月十七日に私
ども特別捜査班に対して、
さきに申しました
金納清松の軍の
木材不正入手関係等とともにぜひ
取調べてくれという御指示を得まして、その
内容を
取調べたのであります。
〔
委員長退席、
梶川委員長代理着席〕
ところが相当の
容疑がこれにあるのであります。御
承知のように、戰災地である
佐世保市は
終戰後その
復興を重点としていろいろ施策が行われましたが、そこに
國民学校等の
復興に関して
建築資材に不足いたしまして、その
資材の
一つである
くぎの
入手に困りました結果、
昭和二十一年八月ころから同市の
技師牟田口某が
市長中田某にはかりまして、
佐世保市
直営で
製くぎ工場を営もうということにな
つたのであります。これがために
佐世保市は、
昭和二十二年の一月二十三日に
中田市長名儀をも
つて長崎縣知事に対して、旧
軍針尾電信隊に所属しております針尾島、鯛ノ浦にある
海底電線を、
古鉄線の名称のもとに約五百トン、
佐世保市
直営製くぎ工場用の
製くぎ材料として、その用途を制限いたしまして、この
特殊物件の
拂下げ申請をいたしました。ところがその翌日である一月二十四日に、当時の
長崎縣経済部長であります
中村勝治氏によ
つて、この
古鉄線を百トンに制限いたしまして
拂下げを認めたのであります。ところがこの
佐世保港
内外にある
海庭電線は、
取調べた結果、二十一年十月三十一日に一括して
熊本逓信局所管、
佐世保電氣通信工事局長に対し、その
物資はすべて
拂下げ済みのものであります。でありますから、縣の方でこれを重複して他に
拂下げすることのできない品であ
つたことがわか
つたのであります。
從つて佐世保市の
直営の
製くぎ工場はここに一頓挫を來さなければならぬような
状態にな
つたのであります。
ところが事実上そういう
状態にあ
つたにかかわらず、
佐世保市はあらゆる方面に運動いたしまして、この
資材をぜひ手に入れたいということで、当時
長崎縣廳佐世保出張所あるいはその
賠償課に運動いたしました結果、この問違
つて認められた
申請認可書を收竄し、
地区も変更いたしまして、名儀を
使用にたえざる
海底ケーブル線二巻ということに限定改竄したのであります。この
改竄書に基いて、
ゴム鎧装機雷探知機用の
細線ケーブルと私は呼んでおりまするが、これを二巻、價格にいたしまして六百五十三万四千百十六円、これを鯛ノ浦からでなく、
前畑地区から
入手することに成功しております。この間に、当時の縣職員の問に不正が潜んでいる
容疑であります。これでは
佐世保市の
製くぎ工場というものは進捗しない。しかもこの品物は
——ただいま問題にいたしましたキャップ・タイヤーと申しますものは、
くぎの
材料にはならないものである。針の
材料になるきわめて細いものである。
鉄線鎧装線といいますものは太いもので、
くぎの
材料になる。これは
くぎの
材料にならざるものを持
つて行つたのであります。
從つて佐世保市は、
特殊物件の
使用限定の範囲を逸脱して、これを他に賣却するようなことにな
つておるのであります。すなわち二十二年一月二十四日申請し、
認可を受けたその
認可書を改竄いたしまして、
前畑地区から
入手したキャップ・タイヤーこれを同年四月から十月までの間に大阪の
杉村齊彦に対して六百五十三万余円で賣却して
しまつたのであります。これが
合計五百三十五トン。そのほかに、
佐世保市は
くぎの
資材を
入手すべき他に手段がないにかかわらず、二十二年の二月二十四日縣の保有
物資である
鉄線鎧装線を五十トン、これは飽ノ浦という所、それから
佐世保の港務部の側岸から百十五トン、東ノ浦という所からワイヤー四トンを取
つてい
つております。この搬出について不正の
容疑がありまして、何ら正式の
手続がなされておりません。そのころ鯛ノ浦から同様に
鉄線鎧装線百四十トン、七十トン、八十トン、二百九十トンを勝手に取
つております。これは当時熊本逓信局が所有してお
つたものであります。この問に不正の
容疑があります。さらに二十二年の十月に、熊本逓信局が同様に所有してお
つた鯛ノ浦から
鉄線鎧装線百十三トン、
前畑地区から五十トンをも
つてい
つております。この搬出に関しても不正の
容疑があります。これが隠退藏
物資に関する本筋的の事案でありまするが、この事業に慣れざる市役所は、資金に窮したためにこれを他に賣却しておるのであります。その賣掛代金が大阪市のみに七百二十三万四千三百八十三円五十銭ありまするが、買い受けた杉村は、この市役所の不正扱いの足もとにつけこんで、その代金の支拂に應じておりません。そのうち現金を四十五万円、價格統制令
違反をあえて犯して、セメント一千袋三十五万円相当のものを受けただけであります。この代金の回收のために、のちに
佐世保市役所の製釘工場長になりました牟田口熊雄、あるいは市長の中田正輔、土木課長の渡邊、土木課主任の中田某が、随時大阪に往復して、その商人から代金支拂の猶予を求めるために、現金その他十四万六千円ばかりの收賄、饗應を受けておる事実があるのであります。これを私
どもは、
佐世保市役所に絡まる
疑獄事件と呼ばれておるものだろうと思うのであります。
関係人もただいま私が申し上げた
通りの事案であります。しかもこの事案には、ただいま申しましたように、逓信省も
関係しておりまするし、縣も
関係しておりまするし、その役職員も
関係しておりまするし、
佐世保市の公吏も
関係しておりまする事案でありまするから、相当重大視しておる事案でありまして、きわめて愼重に取扱
つてまいりました。現にその
捜査が密行せられておるわけでありまするが、一々の
捜査事項に関しましては、ここで
説明いたすことを私は遠慮する次第であります。
昨年四月五日に行われました
長崎縣知事選挙に際して発生したる
犯罪並びにその
関係人いかん。これは御
承知のごとく、当時の公選知事の
選挙違反といたしましては、すでに時効にかか
つた事案であります。本年一月十一日に參議員議員の
補欠選挙が
長崎縣下において行われまして門屋盛一氏が当選しておられるのでありますが、
佐世保地区における隠退藏
事件の
摘発中に、不幸にしてその
関係者の間から、その門屋氏に関する
選挙違反が発覚したのであります。その
関係者の
書類をまた精査しておりまするうちに、詳しく申しますると四月の二十八日でありましたが、これは申すまでもありません。門屋の
選挙違反についての
取調べの
関係者の
書類から、知事の
選挙違反がまた発覚するに至
つたのであります。しかしこれは
選挙事案として取扱うことを得ませんが、きわめて重大な影響をもつ事案と私は当時思考いたしまして、その
取調べを進めたのは、この公選知事が、官選知事当時、及び公選知事の後におきまして、
進駐軍の特建工事並びに維持保管工事に関して、
土建業者との間における契約の当事者であります。
資材斡旋に関して、また請託を受ける地位におる人で、この知事
選挙に扱われておりまする金を精査いたしますると、約百四十万円と申して差支えないと思います。差支えないのでありません。その
通り出ております。約百四十万円と言いますると、特定していないじやないかという御疑問が残るかもしれませんが、これは各
関係人の供述その他によりまして、なかなか特定が
捜査中困難であります。その百四十万円の醵金が、
佐世保における
土建業者から出ておるのであります。これは
佐世保市に百以上の
土建業者がありますが、
佐世保市
復興建設協会というものを設立しておりまして、その多くの
理事諸君が金を出しております。
土建業者の
関係者の名前を、わか
つておるだけを申し上げます。萩原興、西田茂平、門屋盛一、福山松太郎、山領浜夫、梅村忠一郎、
金納清松、水口正行、小野徳一、金子正、長岡梅右衛門等であります。で、この
犯罪に関しましては、なお現に
捜査中のものとして残
つておりますのは、涜職の
容疑に関するものであります。
次の二の
事項について御
説明申し上げます。本年一月十一日に施行せられました
長崎縣の參議院議員
補欠選挙につきまして、門屋一派の
選挙違反の発覚いたしましたのは、三月十三日に
土建業者の梅村忠一郎の家屋捜索をいたしました結果、同人の机の中にしま
つてあ
つた一つの文書から、この
選挙に
土建業者が第三者運動を装うて三十万円の特別賦課金を課して、
業者からその金を集めて運動しております。これは申すまでもなく勅令九十六号
違反であります。これは法定運動資金に当然加算されるべき金であります。三十万円きつちり出ております。この
事件につきましては、すでに起訴、
報告しておる事案でありますが、
関係者は梅村忠一郎、小野徳一、山領浜夫、金子正、萩原興、水口正行、飯塚邦三、西田茂平、長岡梅右衛門、福山久太郎、
金納清松、岩崎清七などであります。
最後に
佐世保旧海軍工廠の敷地並びにその周辺に工場事務所を有する
佐世保船舶重工業株式会社、S・S・K内における隠退藏
物資の
摘発並びに
非鉄金属等届出についての
違反事件ありや、ありとせばその
事件の
内容及び発覚の端緒、
捜査の結果いかん。この点について申し上げます。
事件の
内容はきわめて
廣範なものがあります。本年の二月十五日にS・S・K構内において隠匿
物資があるということの現認者を発見することを得て、その人から同様の情報が提供せられたわけであります。そして二月十六日に
長崎軍政部の民間財産管理課長ミラー氏立会のもとに
摘発に着手いたしました。なぜその必要があ
つたかと申しますると、S・S・Kの構内は
進駐軍の管理区域でありまして、常人の立入りを禁止してある場所であります。
從つてそこに昨年における安本の
摘発等につきまして何ら
容疑を受けなか
つた理由もあるのであります。その
摘発の当日二月十六日、私
ども特別捜査班は
進駐軍の
許可を受けてその地域にはい
つたのであります。そしてその
摘発に從事することを会社の職員に予告いたしました。当時
進駐軍の方ではS・S・Kの取締役某、と
資材課長某に対して、二十二年九月二十二日に
佐世保船舶工業株式会社が作成しました、九州軍政本部に対し七月十五日現在同会社
佐世保工場において保有せる
非鉄金属類の在庫数量
報告書の記載を示しまして、この
内容に虚偽があるかどうかを尋ねたわけであります。会社側はその届出に虚偽なしという答えであります。しかしながら私
どもの得ております情報に相当根拠があ
つたので、進んでその場で
摘発いたしました。ところが不幸にしてそのS・S・Kの構内、しかも事務所の地域から出ております防火用の水溜が二箇所、そのうち一箇所
摘発いたしましたところが、亞鉛バラストが五百四個、亞鉛地金が三百八十四枚、電氣銅が百四十枚、故銅の地金が二百九十三箇、鉛バラストが四百三十七箇、亞鉛バラストが九十六箇、これらが出たのであります。この品物について追求いたしましたところが、この品物は航空母艦隼鷹を解体した際にその船底にあ
つたものを二十二年四月ごろ第四ドックに陸揚隠匿したと言いました。軍艦の解体につきましては兵器処理の
関係もありますから、解体結果
報告書が
提出せられておるはずでありまするが、
本件の
資材がいかように
報告せられておるかどうかにつきましては、なお
捜査の手が延びておりません。ただいまの
資材のうち、亞鉛地金と、電氣銅、故銅は電氣工場内の地下一尺のところにか
つて埋めてあ
つたものを、二十二年五月中に発掘いたしましたが、從來会社の資産台帳に記載されてないので、当時隠退藏
物資摘発の声が高か
つたために、これを隠匿するに至
つた事情が判明しております。このほかになお発見したものがあります。すなわち電氣銅三千三百十九枚、これはその会社が
檢察廳の
摘発の前日に、鑄物工場の地下二尺のところからこれを発掘して、他に隠匿しようとしたものでありましたが、これを
檢察廳が押えたのであります。これは会社が創立の際に、機械工場の第三倉庫内に藏置してあ
つたものを、当時大藏省
佐世保地方官業部から継承する場合に計算違いであ
つたと言うておりまするが、無償継承してお
つたものであります。この点につきましては、しかし
捜査の要があります。まだ大藏省を
取調べておりません。二十二年の六月中に、安本の
摘発の声に脅えて、一旦構内の営繕倉庫内にこれを隠匿し、昨年の九月二十三日、さらにこれを鑄物工場の地下に隠匿したものであります。次いで私
どもは二月の十八日にも現場を
摘発いたしました。亞鉛地金二千二百八個を発掘いたしました。これはS・S・K構内の第三ドックの脇に軍艦を解体してある駆逐艇の船底に
——非常に高い山が見えます。その船底に特に隠匿したもので、上に鉄板を被せてあ
つたのであります。その附近の起重機を使
つて会社が隱匿したものであります。これは二十二年の八月、安本の
摘発の声に脅えて、機械工場の第三倉庫内に電氣銅とともに、会社創立の際に、前のものと同樣、数量をごま化して処理してお
つたものをトラックで搬出して、起重機で搬び上げて隱匿してお
つたものであります。次いで二月十九日にまた
摘発いたしました。これは
資材課の第一倉庫横の防空壕内にありました。ニッケル地金、フェロクローム地金、赤鉄鑛、アンチモン地金、マンガン鑛、はとの目、電線等であります。このほかになお同会社には、指定生産
資材在庫調整規則に基く法的届出に際し、会社は不要の品物のみを届け出て、重要
物資の届出
手続を履んでおりません。おびただしい品物があります。これは同会社の第一倉庫、第二倉庫、第三倉庫内の重要
資材全部についてと言うても過言でありません。型鋼、棒鋼、厚板、薄板、珪素土鋼板、線材、鋼管その他種々のものがありますが、これは尨大な数量でありまして、
檢察廳は瞥見いたしましたきりでとうていその手数、費用がないために未だ詳細な調査ができておりません。この額が幾億円に上るかということを推定いたしましても、私
どもの方ではその推定が今なおできておりません。
以上をも
つて御要請にこたえることができたと思います。