○立川
公述人 私は
日本機帆船業会
專務理事の立川でございます。機帆船は帆走裝置をも
つておる船だけれ
ども、
機関で航海をするという
意味の船でございます。大体の要点だけを簡單に申し上げます。津々浦々に散在しておりまする小さい木船業
——鉄船も多少ありますけれ
ども、木船
業者を私
どもは地区の
地方機帆船と申しております。その
立場からこの
事業者團体法につきまして申し上げたいと思います。この
法案は一面において大
企業の不当な
活動を抑制し、他面において小
企業が大
資本に対抗いたしまして正当な
活動をなし得るようにした、いわゆる
経済民主化の立法の
一つであると考えますので、賛成の意を表したいと思いますと同時に、前に申しましたように
地方に散在いたしまする小さい木船
業者、いわゆる地区機帆船の
事業者の
團体につきましては、漁業、農業、中小
工業に対すると同樣に、この
法案の第六條で
適用除外のものといたしまして、新たに第四号を加えていただきたい。文句を申しますと、「地区機帆船運送事業において、常時雇傭船員五十人を超えないもので、かつ私的
独占禁止法第二十四條第一号乃至第三号に掲げる要件を備える
事業者の
團体、」という文句を追加挿小していただいと、も
つて本
法案の
目的達成を一展奈全にしていただきたいことを切望する次第であります。
なお御
参考までに申しますると、現行法律の上でも一般的な商法のほかに、海運業につきましては特に海商法等がありまして、それと同樣に本案につきましても、どうも海運業に関することがなおざりに
なつていると申しますか、忘れられてあるかに思われる点がありまするので、今申しました以外でも種々あるのでありまするから、もし近き
機会にまたこの
法案が改正せられる、あるいは御審議の時分にすぐ
参考慮が願えるというのでありましたならば、ぜひこの海運業につきましても御考慮をお願いして、本法の完璧を期していただきたいのであります。以上が私の申し上げまする要旨であります。その内容はどういうわけでそう申し上げるかということを二、三
実例と数字で申し上げます。
地区機帆船の実態はどうかと申しますと、これは三井、三菱、川崎、近海、こういうような大
企業もしくは大
企業のひもを過去においてもち、現在は多分もたぬように
なつておると思いますが、そういう約十八社ある大
資本を有する近海各社に対する言葉でありまして、國内海運をわけますると、汽船に対するものと、中央機帆に対するものと、
地方機帆船に対するものとこの三つに大体業態がわかれますが、その中の
一つがこの地区機帆船でございます。そうして現在地区機帆船はどのくらいあるかと申しますると、昨年四月一日現在で概略一万六千隻の船がありました。そのトン数は四十八万トン、船員が六万人という大きな数字でございます。船員の数では船舶
運営会所属の汽船のものよりももちろん多くございます。船腹の面でも、概略全
日本の船腹の三分の一以上であろうと考えております。それで運びます
物資の輸送実績はどうかと申しますると、昨年の二十二年度の國内海運の全貨物が約三千五百万トン余りでございまするが、その半分の五〇%はこの
地方機帆船で運ンでおります。その中で貨物の大宗である
石炭だけは除いて、あとの木材であるとか、鉱石であるとか、水産物であるとかいうような、他の雜貨については七四%を輸送しております。農林
関係、水産
関係、
商工業用の重要
物資はもちろんのこと、
國民の日常生活必需
物資のほとんど全部の海運輸送を担当しておると申し上げても過言ではないのであります。瀬戸内の島々並びに離島、また不便にしてしかも
物資の多い沿岸地域の輸送は、この地域の機帆船がなくてはたちまち
産業を危殆に陥れ、また
國民の日常生活、民生の安定を脅かすことになるのであります。ところがこの地区機帆船は一万六千隻もありまして、この船主の数は約一万二千人もおるのであります。そうしてその中の九割がいわゆる一ぱい船主と申しますか、一ぱいしか船をもたない船主でありまして、しかもまたその一ぱい船主は、船主であると同時に船長でもあります。私
どもこれを称して船主船長と申しております。こういうふうなぐあいで、船員も一隻あたり三人五分
程度、船も平均いたしますと一隻あたり三十数トンしかないわけであります。それが全國津々浦々に散在して運輸を担当しておるのでありますが、これは事業主というよりも、船主であると同時に船員でありますから、むしろ
労働者に近いものであります。しかも船主であり、船長でありますから、船に乘
つておるのであります。
從つてこれらの
業者は陸上に店をも
つておりません。また事務所もも
つておりません。大部分の者はみな海上生活をしておりまして、少し露骨な言葉で申しますと、その多くはいわゆる回漕店に隷属しておるわけであります。あるいは荷主に隷属しておるような者もあります。殊にごく少数は、各地区に機帆船運送会社というのができておりますが
——これは多く船主が寄り集
つてこしらえた会社でありまして、その船主が集荷配船の
仕事をや
つておるのであります。
從つてこれらは先も申し上げましたように、船に乘
つておるのでありますから、陸上の中小企
業者に比較しまして、店ももたない、事務所ももたない、こういうぐあいでありますから、
企業主としましても、陸上のものに比べれば一層弱い、こういうわけであります。また海運の
取引の相手方になりますつまり荷主、この荷主は海運
関係におきましては、鉄道と違いましてみな大きな
企業主であります。こういうようなわけで、とうてい対抗の力は天と地の差であります。また海運界自体におきましても、この一ぱい船主のごとく一隻平均三十トン、大きいので三百トンというのもありますが、小さいのは十九トンなんボというような船もあります。また何千トン、何万トンもも
つておる事業主もありまして、非常に幅があります。
從つてこれらの一ぱい船主は、その力を集めて團結させなくては、実際に民主的な
仕事はや
つていけない。集荷配船の業務の面でも、また
資材や用品並びに金融等の面では、とうてい大
企業には対抗できないわけであります。殊に海運界は非常に競爭の激甚な事業でありまして、今日では大会社がある
程度壞滅的な状況になりかけた点もありますが、しかしそれに対する反撥の力といたしまして、大体の傾向といたしましたならば、國内海運の方面に
——以前は國内海運に非常に
発展しておつたのでありますが、今日では國内海運に着目いたしまして、漸次前に申し上げました地区機帆船を圧迫してくる傾向があるのであります。また他面では例の船に対しまする海上保險の木船保險が解散いたしまして、現在では無保險というような危險
状態に
なつております。またインフレのために小さい船主は、船の修繕費にも困る。こういう状況であります。なぜかと申しますと、陸上の中小
工業は、大なり小なり皆手持船をも
つております。ストツクと申しまするか、それをも
つておりまして、その値上りで多少とも浮かぶ面もあると思いますが、船の方は手持品が全然ありません。これは完全なサービス業でありますので、修繕費の増大による打撃は非常にひどいのであります。かれこれ一口に申しますと、だんだん壞滅的な自滅的な傾向にあると言
つても差支えないのではないかと思われるのであります。しかしわが國の地勢の状況から申しまして、いまさら言うまでもないと思いますが、延長蜿蜒二千キロに及び、島の数約一千、こういう島々から成つた細長い島國で、北海道と九州の
石炭が多少汽船に適する荷物をも
つておりますが、後の多くはすべて機帆船に適する
程度の荷物の数量しか出ないのであります。また他方港湾の方面から見ましても、小さい港ならいくらでも惠まれておる。こういうわけでありまして、言わば今日の機帆船の発達は、
日本の
産業によくマツチした有機的な発達を來しておる。こうも言えるかと思うのであります。ただあまり小さい小さいと申しますので、多少
誤解が起きますが、小船舶とは申しましても、鉄道と比較しますと、鉄道の貨物列車の一列車分くらいは、一遍に一ぱいの船で運び得るものがたくさんあるのであります。荷物の量からしますと、相当のものであります。三千トンの貨物船でありますれば、沿岸を航海するのに、四百五十トンは優に運ぶのであります。また現在船舶は、鉄船の方は
資材その他で非常に困
つておりますけれ
ども、海運の増強という
立場から見ましても、
地方機帆船の方は木造船でありますから、これは建造も鉄船に比べて実に容易でありまして、輸送の増強並びに貨物の海上轉移という点から申しましても、相当役立つのではないか。それでこの地区機帆船の力さえ結集すれば、將來といえ
ども日本の
産業の復興なり、民生の安定なり、輸送力の増強の上に非常に重大な貢献をなし得る次第であると考えるのであります。ところが從來はこの地区機資船に対しましては、あまりに無視せられたかつこうであり、これを放置せられて何等の措置が講じてない。それでこの事業に対しては、いわゆる先に申したように、農業や、水産や、中小
工業に対する
團体法であるとか、事業法というようなものは未だ
一つも制定せられておりません。こういうようなわけで除外しましても、法律の名前で
除外例を設けるわけにはいきません。そこで初めに申し上げましたような文句の
除外例を認めていただいて、その力を結集しなければ、とうてい大
企業と対抗して公正な
取引をすることができないのではないかと思います。あるいは
協同組合の方法によればよいのではないか、こういうお考えもあるかと思いますが、現行の
協同組合法もまつたく海運の小機帆船、地区機帆船のことについては
一つも考慮がしてないのであります。何だかよその猫をも
つてきて借りたかつこうのようなぐあいで、うつらないのであります。また多少こまかい点では、不適当なものも
ちよい
ちよいあります。運輸業でありまするから、北海道の木材を東京にも
つてくる。九州の
石炭を阪神から伊勢湾並びに東京のガス会社にも
つてくる。こういうことを考慮した
意味の
協同組合法に
なつておりません。また今度は多少
協同組合法が改正になるということでありまするが、これもこの
國会には間に合わない。こういうようなわけであります。地区の機帆船につきましては、大きな
仕事をして非常に大事なものであるにもかかわらず、こういう
事業者團体法ができまする結果は、大きな穴があいてくる。地区機帆船のごときにとりましては、この穴が非常に手痛い。こういうわけであります。それでぜひこの
除外例だけはどうしてもひとつ皆様のお力で、一項加えていただきたい、こう考えます。
なお賛成の理由等につきましては、抽象的なことは申すまでもないと思いまするから、最後に
一つ例を申し上げて皆様の御
参考にいたします。
石炭輸送、これは十分御認識だと思いまするが、
石炭輸送につきまして九州、山口炭の大部分は、ある海運会社が毎月約五、六十万トンの輸送をしております。ところが地区機帆船の方は、
石炭船團
委員会というものを設けまして、民主的な方法でや
つております。しかしその運びまする数量は、大会社の十分の一にも足らない三万二千トン、こういう数字であります。ところが地区船團ということになりますると、この
事業者團体法の上には、眞正面からぶつかるのではないかと心配するわけであります。ところが片方の大会社の方になりますると、ほとんど触れないだろう。こう言われております。それではその大会社の輸送いたしまする内容はどうかと申しますると、さつきも申しましたように毎月五、六十万トん運びまするが、その運びまする九割五分以上は、地区の船なのであります。およその数字を申し上げますると、千九百隻そこに所属しておりますが、その千八百なんぼというものは、地区の
地方の小さい一隻船主、つまり小さい事業主が集ま
つて、しかも自分が船長でそこについておる。露骨に言えば一種の隸属であります。これはどういう
関係になるか、普通私
どもは運航委託だとか、あるいは委託船だとか申しておりまするが、その
関係がどういうことになりまするか、手数料というような形で運賃をもら
つておるのもありましようし、そういう形になれば契約の相手方になり得るか、どうか、おかしいというような点もあります。直接一千八百何隻かのうち、これまた大部分が一隻船主でありまするから、そのものは直接契約ができておりません。そういう点になりますと、手数料とも言い得ないようなものがそこにあるわけであります。契約の相手方は配炭公團でありますが、こういうわけで相当研究を要するものがあります。同時にこの地区の
石炭船團の
委員会の方におきましても、その大会社を通じてや
つておる。これも三%ばかりの手数料を拂
つておる。こういうようなぐあいでありまして、この
事業者團体法の上から見れば、大会社の方には触れないで、小さなしかも民主的にや
つておる
地方船の方が触れる。これは完全にこの
法案と逆の現象を來すのじやないか。こういうことはあ
つてはならぬのだろう、こう思いまするがゆえに、なお私
ども研究の足りない点もありますが、皆様のお知慧を拜借しまして、また皆様の御同情ある御理解のもとに、ぜひ前に申しました例外の一
條項は入れていただきたい。こういうようにお願いするのであります。またそういたしますることが、この
法案の趣旨の徹底とその完備を期する
ゆえんではないか。こういうように思うのでございます。言葉そのほかでまことに御無礼な点もあつたと思いまするが、どうぞ御容赦願います。