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石井繁丸君 最近
警察当局としましては
不審尋問その他ができないので、
警察官の
職務能率が低下しておる、こういうことでは
警察官の
威信が崩れてくる、また
國家の
公安を
維持することができない、かように心配して
本法の
法案をしたのだと
考えておるのであります。その
前提に立ちまして、今まで
警察官がいろいろ
法律の
執行にあた
つて非難を受けるということは、
警察官が十分なる
威信と
責任をも
つて法規を
執行した場合には、
國民から非難されるようなことはなか
つたのではないかと
考えるのであります。たとえば
強盗犯人を逮捕した場合、その
強盗に傷を負わせたということ、つまり
警察官が
勇氣と
威嚴をも
つて処置した場合、それに若干いき過ぎがあ
つても、それを非難することはなかつたろうと
考えます。かような場合に
警察官がいろいろと非難されるのは、先ほど
猪俣議員が言われましたように、
行政執行法のような
法規がある場合、それを
法規の
範囲において適用しないで、不当にこれを
濫用するということが、
警察官の
威信を失墜することにな
つております。かようなことを
考えてみますと、現在の
警察官というものが
威嚴を失墜しないで、十分に
職務の
執行ができるというためには、いろいろの
法規を別段こしらえなくとも、現在の
状況におきまして、あるいは
刑事訴訟法なりあるいは
刑法の認めた
範囲、かような
立場において
行動して、そしてそれが
社会正義にかない、かつまた
社会の
常識に適合しておりますれば、
職務の
執行に差支えなく、かつまたそれらの
行為は賞讃されるであろうと
考えているのであります。さような
立場から、われわれの
職務の
執行というものが、何か
法規がないから十分に行われないのだ、かように
考えることなくして、むしろ
警察官の
職務執行のために、その指揮あるいは
監督、
指導の
責任を果される方方におかれては、
法規のあるなしということでなく、
警察官に
正義感と
社会の
公安維持に対する
ところの観念を持つた
ところの
行動、
処置をさせる、かような
観点に立
つて事を処するという氣魄が必要ではなかろうかと
考える。
法規ができたので、これによ
つてわれわれは仕事ができるのだというような
考えを持たず、
警察官本來の
職務というものは、たとえ
法規がなくとも、現在定められている
ところの
刑法あるいは
刑事訴訟法その他のもとにおいても、十分にその機能が発揮できるのだ、かようなお
考えをも
つて当
つてもらわなければならないと思う。
法律が足りないから現在
警察官の
犯罪捜査その他が不手際になる、
能率があがらない、かようにお
考えになるのは大きな間違いであるというような
前提に立
つて本
法律を眺めますときに、何か
法律の足らざることによ
つて警察官の
職務能率の不十分であるのを糊塗せんとするような気持がうかがわれるが、私
たちはこれに対しては遺憾の意を表せざるを得ない。
次に、この
法律の大
部分は
行政執行法に
規定されておりましたが、今議会の六月初旬に、
行政代執行法を出されまして、
司法委員会においてこれを議決しまして、
行政執行法中における代
執行の
部分だけを
規定して、
あとは廃したのですが、そのときに私は
法務廳の
佐藤長官に
質問をした、現在の段階において
行政執行法その他一切廃止して、
警察官その他が
職務執行上の
責任が持てるか、これについては考慮の余地があるのではないか、かように
質問したら、先ほど私が述べたように、大体
警察官というものは
正義感と
常識を持
つて事を処する限りにおいては、これに対する
処置があろうと思うから、
行政執行法は大胆にこれを廃止いたすのである、かような
答弁をいたしておるのであります。これについては相当重大な
法律であるから、
法務総裁あるいはその他において十分の
意見が述べられたのであろうと思うが、
あとでまたこれに代るような
法律が出るのではないか、いやしくもさようなことがあるならば、この
法律の廃止ということよりも、その
必要部分は残す方がいいのではないかというま意をいたしました
ところ、さようなことはいたさないという
答弁の
趣旨であ
つたのであります。そうした
ところ、
たちまちごの
警察官等職務執行法というような
法律が出てきたのでありますが、これらの点を
考えてみますとう
法律制定について、あまりに
朝令暮改の感を免れない。その後において大阪、神戸における
騒擾事件などが起きたりしたので、急遽
警察としてはかような
法案の
制定の必要があるというので、急いで立法ざれたと思うのでありますが、かような
関係上、まことに
朝令暮改のきらいを免れないのでありまして、われわれとしましては、一
應行政執行法を廃止したが、いかなる
態度をも
つて警察官の
職務を
執行し、そうして
國民に対する
ところの信任を受けるかということについては、糊塗的にかような
法案を急遽出して、そうして事を処そうというのではなく、大局的に問題を把握して事の解決をはからなければ、ほんとうの
國民の
信頼感の上に立つた
警察制度というものが確立できぬのではなかろうかと
考える。これらの点については、
警察官の
指導その他の局にあたる人は十分に御考慮願わなければならぬ。また特にこの
治安委員会における皆さんも、それらの点を十分によく御研究なす
つて、この
法案の
制定にあた
つていただきたいと思うのであります。私はかような見解から
警察官等職務執行法案を観察いたしておるのでありますが、具体的な問題について述べますと、このうちで一番
將來禍根ができようと思うのは、第三條の「二十四時間をごえてはならない。」この問題の
あとに、
警察官はやむを得ないときは
簡易裁判所に請求して、
許可状を得て五日までは拘留をするというような
規定を入れたことであります。大体
保護檢束をする場合におきまして、
あと五日やむを得ないでするというふうな
規定を設ける。こういうようなことは非常に
警察官の
職務を怠慢にすることになり、かつまた
権利を
濫用する、あるいは
人権を蹂躙する
ところの基を開くことになるのでありまして、かような
簡易裁判所の
許可を得て五日を通じて
檢束をするということに対しては、少くとも
最短時間のうちにかような
保護檢束の
目的を全うするという気魄がなければなるまいと思うのでありますつこういうようなことによ
つて、
精神病者あるいはその他異常なる者の処理でありますから、急速にやりますれば、
目的が達するのであります。そうしてその短時間のうちに事を仕上げる。二十四時間を超えてはならない。かようなわけではなく、
最短時間のうちに事を処するという
規定が希望されるのであります。この点は第三條の一日二十四時間を覆えてはならない。特に
許可を受けたときにも五日を超えてはならない。かような時間的なゆとりをとるというようなことは、他日また
行政執行法においていろいろなる
檢束の
むし返し等によ
つて人権を蹟欄したその基を開くものであろうと思うのであります。これらの点については
治安委員会におきましても十分に御
研究おきを願いたい。またこの点については
当局においても十分に御
研究おきを願いたいと思います。
それから第六條の場合でありますが、第六條の場合において、
興行場、旅館その他にはい
つてくるいろいろな
犯罪の
嫌疑者、これに対していろいろな
処置をするというようなこの
規定は、実際は
刑事訴訟法の
目的からいいますと、
犯罪捜査は旅館その他については現行犯人ということによ
つていろいろな
処置ができるということにな
つております。この場合においては、それらの点についていろいろな不都合が起きたときに、かような
規定を設けておいて、
一つの強制権を
警察官に與えてもらいたいというような
意味でありましようが、今まで族館その他について
警察官が非難されたのは、みだりに旅館等に
行つて一ぱい飲んだり食つたりすることの機会を求めたか、あるいはみだりに芝居等にはいりたがる。たとえば山手の
警察の者が下町の
警察あるいは浅草の
警察官内に行き、あるいは旅館等にやたらに
行つて飲食を要求するというようなことが非常に行われておる。こういうようなことが実際は非難された。正しく
興行場、族館あるいは料理店その他に
行つて犯罪捜査その他の
処置をする場合に、
警察官がかれこれ言われたとはわれわれには
考えられない。これを
考えてみると、むしろこれらの
規定については深甚なる注意が必要である。それによ
つて今後は
警察官が大びらに
興行場に行つたり、あるいは料理店なんかへ
行つて、今までの悪評の種を重ねるようなごとがあ
つてはならないと思われるのでありまして、この点は
治安委員会の各
委員の方におかれましても、十分に討論のときに御研究を瞬いたい。むしろ一番われわれが心配しておるのは、
國家公安委員会とか、あるいは自治体の
公安委員会等ができまして、
警察力がその下におかれる。そうしますと
公安委員の中におきまして、たとえば和書の興行師あるいはばくち打ちというような人が幅をきかしまして、この族館、
興行場その他において公然と賭博が行われる。これを
公安委員会が押えてお
つて、
警察官がこれを見逃しにするということで、当然の
権利行使ができる
ところを
警察官が
権利行使をしない
ところに今後のいろいろなる
社会の疑惑、あるいは
警察が非難を受ける
ところの問題が発生するのではなかろうかと
考えております。これらの点を十分に御研究の上に、この第六條の御檢討をされ、いろいろと改めべき
ところは改めていただきたいと思う。それから第七條におきまして、先ほど
猪俣君が言われましたが、
社会運動あるいは
農民運動、その他いろいろの運動について問題を起すことがないか。かような点でありますが、ひとつ十分に御
研究おきを願いたいのは、われわれが軽
犯罪法を扱つた場合において、軽
犯罪法の適用において、これはほとんど現在の実情としては軽
犯罪法では
人権蹂躙にはならないが、しかしか
つて違
警察罪即決例、
警察犯処罰令が相ま
つて人権を蹂躙したのであります。
警察犯処罰令それ自体においては多くの
人権蹂躙がない。違警罪即決例それ自体が
人権蹂躙の根拠であ
つたのであります。しかしながらなお念を入れて、
司法委員会においてはこの軽
犯罪法が
制定されるときに、特に第四條において、この
法律の適用にあた
つては
國民の
権利を不当に侵害しないように留意し、その本來の
目的を逸脱して、他の
目的のためにこれを
濫用するようなことがあ
つてはならない。かような点に念を入れて、かようなる
社会運動あるいはその他の一般的
犯罪、つまり
社会的に非難をされるような
犯罪でない、かようないろいろな
社会問題の伴うものについては事情を嚴重に調べろ。かような
意味から第四條に一項を加えたのであります。これは
行政執行法の代案であり、あるいは
警察犯処罰令というような点が少し加味されてくる。あるいは
治安警察法のにおいもつく。この
法律におきましては、この
法律制定にあた
つて、十分にわれわれが
司法委員会において軽
犯罪法を扱つた
処置等にならいまして、この
法律が適用になります場含におきまして、いかなる場合においてはいかなる
処置がとらるべきであるというような点を御考慮くださいまして、そうして後世において、この
治安委員会においてこしらえた
法律が悪法として
國民から非難をされないように、十分に御考究くださることをお願いてやまない次第であります。
はなはだ権威ある
治安委員会の席をお措りいたしまして、皆さんの質疑終了後におきましてわれわれの
意見を開陳し、かつまた
司法委員会における軽
犯罪法の取扱い方を述べましたのは、はなはだ僭越の至りでありまするが、いろいろと
法律の
制定というものはその後におきまして影響があり、その
法律が
國民に及ぼす作用が、特に
本法のごとき、
國民大衆を相手にする
法律でありますから、他の立法と違いまして、將來のこの
法律の適用の結果いかん、かような点をも考慮し、そうして愼重なる
ところの結論に到達されんことをお願いいたす次第であります。これをも
つて私の所見を終ります。