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1948-06-27 第2回国会 衆議院 司法委員会 第43号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年六月二十七日(日曜日)     午前十時三十五分開議  出席委員    委員長 井伊 誠一君    理事 鍛冶 良作君 理事 八並 達雄君       佐瀬 昌三君    松木  宏君       石井 繁丸君    猪俣 浩三君       榊原 千代君    中村 俊夫君       中村 又一君    吉田  安君       大島 多藏君    佐竹 晴記君  出席國務大臣         國 務 大 臣 鈴木 義男君  出席政府委員         檢 務 長 官 木内 曾益君         法務廳事務官  野木 新一君         法務廳事務官  宮下 明義君  委員外出席者         專門調査員   村  教三君         專門調査員   小木 貞一君     ————————————— 本日の会議に付した事件  刑事訴訟法改正する法律案内閣提出)(第  六九号)     —————————————
  2. 井伊誠一

    井伊委員長 会議を開きます。  刑事訴訟法改正する法律案について審査を進めます。鍛冶良作君。
  3. 鍛冶良作

    鍛冶委員 改正訴訟法における搜査補助機関として、警察官を利用するこのが、非常に廣くなつたように思うのでありますが、この範囲並びに権限について総括的のことをまずお伺いしたいと思います。
  4. 木内曾益

    木内政府委員 お答えいたします。現行法と違う点は、御承知通り警察法が実施されるようになりましたので、警察官及び警察吏員はそれぞれ國家警察あるいは自治体警察と、こうわかれることになりまして、それぞれ独立して捜査をなすことができることになついいるのであります。しかしながら、犯罪捜査は結局控訴権を実行するために必要なものであることは、御承知通りでありまして、從つて搜査権國家に專属するものと、かように考えておるのであります。そうしてそれをそれぞれ國家地方警察なり自治体警察に一部委任したという形になつておる、かように考えておるのであります。しかしながら、先ほど申しました通り、それぞれ檢察官とは別個に独立して捜査をすることができるのでありますけれども、さようなことだけでは、結局搜査統一をはかることができず、ひいては治安維持責任を全うすることができないという考えから、百九十三條の規定が設けられたのであります。これによりますと、第一には檢察官司法警察職員に対しまして、捜査に関して必要なる一般的指示をすることができる、かようになつておるわれであります。次に檢察官司法警察職員に対して搜査協力を求めるために必要な一般的指揮をすることができる。次には檢察官はみずから犯罪搜査しておる場合に、司法警察職員搜査補助をさせるために指揮をすることができる、こう三段になつておるわけであります。そうして搜査統一をはかろうといたしておるのであります。一般的指示というのは、どういうのかと申しますと、百九十三條の一項に規定しておりますように、公訴を実行するために必要な犯罪捜査の重要な事項に関する準則を定めることが、すなわち一般的指示という言葉で現わしておるのであります。準則というのは、現在行われております司法警察官職務規範のようなものを指のでありまして、これは一般的に捜査につきましての取扱い、その他に関しての基準を示すものであります。それからもちろん檢事がみずから自分犯罪搜査している場合におきまして、これを指揮し得ることは三項によつて当然でありますが、これは事件檢事の手に移つてからとすえことになるのであります。檢事の手に移らない場合、いわゆる司法警察職員が、檢察官とは別個に独立して捜査をする段階におきましても、檢事が、それではこの事件自分の方で、いよいよ自分の方が主体となつて引取つてやるというような場合には、もうすでに檢事みずから犯罪搜査をする場合に当るのでありまして、從つて当然三項によつて司法警察職員檢事指揮下にはいるわけであります。それから二項の一般的指揮という方は、たとえば統制違反のような場合でありまして、魚なら魚の一齊檢挙をやらなれればならぬというような場合におきましては、第二項が動いてくるわけであります。そうして一般的にこういうふうな事件をどういうふうに搜査を進めていくかということについての指揮をする場合であります。第二項を置きました趣旨は、たとえて申しますと、魚の場合ならば各生産地とかあるいは消費地等によりまして、それぞれの地方的な関係から、かような場合は檢挙してもらつては困るという場合があり、また一方においては、かような場合はひとつ檢挙してもらわなければ困るという場所もできてくるのであります。それがもしばらばらであつて、これを統一していくことができなかつたならば、國家全体の上から見ますならば、結局魚の統制をしておるというの目的を達しないことになり、ひいては國民全体に重大なる影響を与えることになるというので、かような場合におきましては、檢事の方で一般的指揮をすることができるということによつて犯罪搜査の円滑なる運行を考えており次第であります。
  5. 鍛冶良作

    鍛冶委員 大体においてわかりました。そこで今御説明の中にありました、まず私はこれを読んで疑問を起しましたことは、百九十三條の第一項には指示とある。第二項には指揮とある、第三項には補助とある。大体今の説明でわかつたようではありますが、この点の区別をいま少しくはつきりしておいてもらいたいと思います。第一の問題は指示指揮ということが、どこに区別があるか。補助も、今の説明ではわかつておるようでありますが、この三つは試驗問題を聽くようですが、これをはつきりしておかなければいかぬと思いますから伺いたいと思います。
  6. 宮下明義

    宮下政府委員 百九十三條第一項におきましては一般的指示という言葉を使いまして、同條の第二項及び第三項におきましては特に指揮という言葉を使いまして、用語を使いわけているわけでございますが、指示と申しますのは、指揮よりもその力が幾分弱いという感じを表わす意味で使つておるのでありますが、言葉をかえて申しますと、あるいは勧告とか、注意とかいう言葉に類似しておると思うのでありますが、一般的に檢事がその管轄区域に応じまして、ある準則を定めておきまして、犯罪搜査をする場合には、この準則從つて搜査を進めなければならぬ、こういう一般的な指示をいたしておくわけであります。これによりまして、その犯罪搜査自体が合法的に正しく行われまして、搜査手続自体において正義が顯現それるように考慮いたしたわれであります。第二項、第三項の指揮と申しまするのは、指示よりも強い意味をもつておるのでありまして、第二項におきましては、その範囲廣いわれでありますが、いずれにいたしましても、ある特定の対象に対しまして、これこれこういうことをせよ、あるいは第二項におきましては、檢事が立てました一般的な企画方針に基きまして、ある範囲司法警察職員に対して、その方針從つて搜査をせよということを指揮いたすわけでありまするし、第三項の場合におきましては、自分指揮下にはいつております司法警察職員に対して、自分指揮從つてその手足となつて搜査をせよということを指揮いたすわけでありまして、ごく大まかに申し上げますれば、指示の方が指揮よりも幾分弱い、こういう感じを現わす意味において指揮指示とを使いわけているわけでございます。
  7. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、こういうふうに言つては間違いでありましようか。第一項の指示というのは、司法警察職員が独立して搜査をする場合に、それに対していろいろの指図をするのだ、こう考えていいじやないかと思うのであります。そこで第二項になりますと、これは搜査協力を求めるためとありますから、これは搜査主体はやはり檢察官であつて、それに協力を求めるのだ、こう解釈してはどうか。これは第二であります。もしそれでよいということになりますと、問題は第三になりますが、第三はみずから犯罪搜査する場合、今私の言うたことにすると、第二項と第三項とは変りがないことになりますので、そうすると、指揮補助とはどこに区別があるか、こういうことが問題になるかと思いますので、この点に対して啓蒙していただくことを、お願いしたいと思います。
  8. 宮下明義

    宮下政府委員 第一項の指示につきましては、お説の通り司法警察職員檢察官とは独立いたしまして、その責任において搜査をいたしている場合に対する規定考えます。この点はまつたくお説の通りでありまして、檢察官はあらかじめその管轄区域全般司法警察職員に対しまして、犯罪搜査に関する準則を定めておきまして、司法警察職員犯罪搜査は、この準則則つてなすようにという指示をいたしたおくわけでございしまして、その限りにおいては、司法警察職員搜査は、あくまで檢事搜査からは独立の搜査であつて、その責任司法警察職員責任であると考える次第であります。  第二項につきましては、ややお説と見解を異にしているわけでありますが、この檢察官が第二項によりまして、ある特定範囲司法警察職員に対しまして、自己の立てました捜査企画方針從つて、それに協力して、その方向で捜査をせよという一般的な指揮をいたすわけでありますが、この場合の司法警察職員犯罪捜査も、必ずしもすべてがその指揮をいたしました檢察官手足となつていたしまする犯罪捜査というふうには考えておらないのであります。その場合に檢察官は、その一般的指揮のやり方が悪い場合には、その誤つた一般的指揮についての責任を負うことになりまするが、この指揮從つて司法警察職員個々捜査をいたしておりまする際の非違等は、それぞれその司法警察職員責任に相なると考えております。第三項の場合は、まつた檢察官の直接の指揮下に立つて檢察官補助として捜査をいたしておりまする場合でありまするから、この場合の犯罪捜査中の個々の行為についての責任は、すべて檢察官が負う。その捜査の間におきまして、司法警察職員人権蹂躙等非違がございました場合におきましては、檢察官が全般的にその責任を負うと考えておるわけでございます。
  9. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると第二項の場合もなお司法警察職員は独立したる権限捜査をする、その独立したものに協力を求めるのだと解釈してよろしゆうございますか。
  10. 宮下明義

    宮下政府委員 さようでございます。
  11. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで先ほどからずいぶん何遍も説明を聽きまする重要な事項に関する準則というものは、どういうものがどこにあるのでありましようか。この点をお伺いいたします。
  12. 宮下明義

    宮下政府委員 この刑事訴訟法につきまして、それが公判手続とか、あるいは控訴上告手続とか、裁判所手続に関まする場合におきましては、この刑事訴訟法裁判所規則によりまして補足いたすわけでございまするが、捜査段階につきましては必ずしも裁判所規則というものでは賄い得ないわけでございまして、この訴訟法の定めておりまする原則を具体的に噛み碎きまして、司法警察官が誤りのない適正な捜査をするように、現行司法警察職務規範に類似いたしました準則というものを定める予定でおるわけでございます。しかして現在考えておりまするところは、法務総裁あるいは檢事総長が、全般的、全國的におもな重要な準則を定めることを予定いたしておるのでありまするが、その法務総裁あるいは檢事総長の定めました準則ををさらに敷衍いたしまして、その下の檢事長あるいは檢事正がその管轄区域内の司法警察職員に対して、さらにその細則を定める場合もあるということを予定いたしておるわけでございます。
  13. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうするとそれは命令ですか。それとも訓令とか訓示のようなものですか。
  14. 宮下明義

    宮下政府委員 現行司法警察職務規範司法大臣訓令として発せられておるのでありまするが、百九十三條第一項に基きまする準則は、その規定に基き法務総裁あるいは檢事総長等指示という形式で発付されるものと考えております。その性質が行政法学におけるいわゆる上官の職務上の命令訓令というものかどうかということは、今後学説によつて定まつていくものと考えております。
  15. 鍛冶良作

    鍛冶委員 大体わかりましてよろしゆうございますが、なお承りたいことは、ここに司法警察業と前にはあつたのがなくなつて、総括的には警察吏員というもので現わされておると思います。これは百八十九條でわかる。ところが各條を読んで見ますと、いろいろの言葉が使われております。第一は「司法警察職員」、その次は「警察官」、その次に出ますのは「警察吏員」その次に出ますのは「警察官または警察吏員たる者以外の司法警察職員」、こういうふうにいくつも出ておるのでありますが、これらの内容をわれわれの頭へはいるように、ひとつ説明していただきたいと思います。
  16. 木内曾益

    木内政府委員 この百八十九條に出ております警察官警察吏員と書きわけてありますのは、國家警察の方が警察官で、それから警察吏員というのは自治体警察の方を言うのであります。これは警察法に書いてある文句をそのまま使つておるわけであります。そして三十九條の三項に「司法警察職員」とあるのはどういうのかということがあげられておるのでありますが、司法警察員及び司法巡査を総称して司法警察員というのであつて、現在の言葉で言うと、司法警察職員というのは、司法警察官吏にあたるわけであります。そして司法警察員というのは、現在の司法警察官で、司法巡査というのは司法警察吏にあたるわけであります。そしてまたこれが百八十九條に、もどつてきまして、他の法律または國家公安委員会、あるいは都道府縣公安委員会市町村公安委員会、もしくは特別区の公安委員会の定めるところによつて、この司法警察官または司法警察吏員のうちから、だれとだれとに司法警察職員職務を行わせるか、これを定めるのは、それぞれのいわゆる檢察官でなくて、ここに列記してあるような機関が定める。こういうことになるのであります。
  17. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうしますと、司法警察職員というのは國家警察警察官と、地方自治体の警察吏員と総称したるものを言うのだということはわかりましたが、司法警察職員というのは、今までの司法警察官という言葉同一に解釈してよろしゆうございますか。
  18. 木内曾益

    木内政府委員 司法警察官吏にあたるわけであります。だから司法警察官司法警察吏員とを合せたものを司法警察官吏言つております。それが司法警察職員にあたるわけであります。そして司法警察官というのが司法警察員という言葉に今度は変つてきますし、それから司法警察吏、いわゆる巡査でありますが、これが司法巡査という言葉になつております。
  19. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで問題になりますのは「警察官又は警察吏員たる者以外の司法警察職員」、これは何であるか。
  20. 木内曾益

    木内政府委員 これは百九十條に掲げてあるものを指す意味であります。いわゆる特別司法警察職員を言うわけであります。
  21. 鍛冶良作

    鍛冶委員 よくわかりました。そうすると百九條の司法警察職員というのは、百八十九條の第一項後段にある司法警察職員同一でありますか。
  22. 木内曾益

    木内政府委員 百九條の司法警察職員、これは百八十九條と百九十條の両方含んであるわけであります。
  23. 鍛冶良作

    鍛冶委員 よくわかりました。そこで私は捜査についてもう一つ総括的に伺いたいことは、われわれは刑事訴訟法改正にあたつて、特に実現しなければならぬと考えておつたことは、犯罪捜査について被告人の自白に頼らないで、できるだけ他の証拠に基いてやる。第二は被疑者身柄を拘束しなければ犯罪捜査ができないものだという旧來の考えを拂拭して、できるだけ特に必要のある場合以外は拘束しない。この建前でやつてもらわなければならぬ。かように考えておつたのであります。この点については、第一の問題は本法を貫いておる精神であることは、よくわかります。第二の問題については、一昨日くどく、われわれははなはだ本改正について不満をもつておることを申し上げたのでありますが、いずれにいたしましても、このわれわれの理想を実現するというときには、旧來と変つた犯罪捜査方法にいつてもらわなくては、目的の達成はできぬと考えておりますが、この点に関して、特に新しい犯罪捜査というものは、この規定を眺めた上において見当らないのであります。近ごろはやります言葉で言うならば、科学的捜査の発達ということになりますが、これはどうもこの規定を読んだところでは見当りませんが、さようなことをお考えになつておるのかどうか。また本法のいずれにさようなことが現われておるか。しかしてまたそれをどうして実現しようとお考えになつておるか。これらの点を承りたいと思います。
  24. 木内曾益

    木内政府委員 御質問の御趣旨は、私どもまつたく同感であります。ただこの御質問犯罪捜査については、今日言われておる科学的捜査ということも、十分考慮に入れなければならぬのではないかという点と、それからなおその趣旨がこの訴訟法のどこに現われておるかという御趣旨でありますが、これは特別に規定はありませんが、犯罪捜査において目白というものはほとんどこれを認めないと同様の結果になつておるという建前から、当然その趣旨が含まれておるわけであります。そうして捜査方法につきまして、科学的捜査方法を十分組み入れなければならぬことはもちろんでありまして、その方面研究等につきましては、法務廳司法省時代から案を立てまして、いろいろ折衝をいたしておつたのでありますが、かような研究機関は、法務廳または檢察廳の所管すべきものでなくして、國家警察の手においてやるものだという注意があり、そのためにこれは法務廳側からの計画は、全面的に排除されたのであります。國家警察法でこの研究機関を設けて、その上の研究をやるということになりまして、その方面で進んでおる次第であります。
  25. 鍛冶良作

    鍛冶委員 國家警察でやりますことは、まことに結構なことで、われわれも喜ぶべきことだと思いますが、國家警察でやるから、法務廳もしくは檢察廳でやらぬでよいということになつては、これはたいへんなことだと思います。檢察官自身は、あるいは相当の知識があるからいいと言われるかもしれませんが、それは私は旧來と変つたことはない。いわんや今日は副檢事であるとか、檢察事務官というものを使つておられる以上は、これは國家警察以上にどうあつてもなければならぬと思いますが、いかがでありますか。
  26. 木内曾益

    木内政府委員 今私の説明が足りなくて、さらに御質問を受けまして、まことに恐縮でありますが、これは司法警察職員の場合を申し上げたのでありまして、なお檢察官あるいは檢察事務官に対しても、十分そういう方面研究も必要であり、その教養も必要であることはもちろんでありまして、それは法務廳におきまして、法務廳研修所において、あるいはその他の機関において、それぞれ研究を進めておる次第であります。
  27. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そういう点については、具体的の計画なり実施なりがありませんのですか。ただ御希望だけでありますか。それとも何かここに現われておるのですか。これは重大なことだと私は思うからお尋ねします。
  28. 木内曾益

    木内政府委員 御質問の点でありますが、科学的捜査をやる上におきましては、いろいろの設備もむろん必要でありまして、一例をあげてみますと、無電設備いたしたといたしましても、非常にその効果をあげ得ると思うのでありますが、無電設備だけでも、何億という予算を必要とするようなわけでありまして、今日の日本の財政状態では、非常な負担になるわけでありますし、その他いろいろの設備等もわれわれは考慮しておるわけでありますけれども、國家財政とにらみ合わせて、思うようにいかないという実情にあることを、御了承願いたいと思うのであります。
  29. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはよほど重大なことで、後刻総裁にも御意見を承りたいと思いますので、今のところは打切つておきます。  次に重要だと思つて承りたいのは、われわれは現在の刑事訴訟法に至るまで、多年の間、檢事局直属司法警察官をおくことはぜひ必要だ。かように痛感をしております。そしてその主張を続けてきたのでありますが、不幸にして今日まで実現いたしませんでした。ただ檢察事務官をおかれるに至つたことだけが、第一歩の踏み出しとして喜んでおつたのでありますが、この刑事訴訟法改正にあたつて、旧來のわれわれの考えとよほど変つたものが現われてきたのであります。この点は刑事訴訟法が変つたから、必要がないと思つておいでになりまするか、それとも相変らずその方がいいとお考えになつておりまするか。これを承りたいと思います。
  30. 木内曾益

    木内政府委員 私どもも御質問のように、直属司法警察官が非常に必要なものであり、これを拡充していかなければならないという考えは、從來も今日も少しも変つておりません。そこで檢察事務官制度を設けまして、十分これを活用していく考えであり、なお現に活用いたしておるのであります。しかしながら、まだこれだけの数では、とうてい直属司法警察官としての機能を十分発揮することができないのでありまして、今後ともさらに増員いたしまして、十分その実効をあげ得るようにいたしたいと考えておるのであります。いずれまたその点につきましては、國会にお願いいたしたいつもりでおる次第であります。
  31. 鍛冶良作

    鍛冶委員 たいへんわが意を得たお言葉でありましたが、今日は國家警察自治警察ができて、この統一にはあらゆる面において非常に必要でもあるし、また各当局においとも苦心せられておるところであろうことは十分わかります。殊に犯罪捜査にあたつては、先ほどからの説明でその点はお考えになつておるとは存じますけれども、決して旧來よりも便利になつたとは考えられません。從いまして、本改正案において、いわゆる法律の根本の趣旨に逆らうものでないというならば、一日も早くその実現を期するように御努力を願いたいと考えております。これはいずれまた法務総裁等質問する時期があれば、この点をお聽きすることにして、ただいまはそれで打切つておきます。  次いで承りたいのは、檢察官身柄抱束範囲であります。これは前に読んだ刑事訴訟法改正案の要綱にも出ておりましたが、これは前のように行政処理の十日とか、それが延びとも一箇月を延びてはいかぬというような規定はなくなつたようでありますが、その範囲はどういうことになりますか。これはもちろん裁判所にやらせるのでありますが、裁判所でやつた以上は、あとはすべて檢事には指揮その他はないものかどうか。これを明らかにしていただきたいと思います。
  32. 木内曾益

    木内政府委員 捜査段階におきましては、二百八條の規定で、拘束の期間は十日以内ということに原則を定めておりまして、第二項でやむを得ない事由ありと認めるときは、通じて十日を超えなり程度まで延長することができることになつており、最大限二十日となつております。なお現行刑事訴訟法におきましては、勾留期間は二箇月ということになつてつて、さらにこれを更新する規定があるのでありまするが、それはこの改正案ではなくなつておるのであります。從つて勾留期間は二箇月と限つたわけでありません。しかしながら、八十九條によりまして、勾留に対しまして権利保釈制度を認めましたために、十分その点は補える。それからまた、実情勾留期間は二箇月となつておりましても、更新手続というものは、まつたくむだな手続になつてつて、いたずらに裁判所手続煩雜にしただけで、実際の効果があがつていないのであります。從つてそのような規定は、事実上有名無実だから置く必要はない。むしろ裁判所の正常なる判断にまつて、そしてまたこの訴訟法の貫いている努めて被告人は拘束しない。そして自由な立場において檢察官と対等の地位において公判手続を進めていくという原則をとつているわけであります。從つてさような規定を削除したわけであります。
  33. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると二十日以内に公訴が提起されなかつた場合は、いやでも応でも釈放しなければならぬ。こう解釈してよろしゆうございますか。
  34. 木内曾益

    木内政府委員 お説の通りであります。
  35. 鍛冶良作

    鍛冶委員 次に承りたいのは、檢察官起訴、不起訴の決定でき得る裁量範囲であります。これはわれわれは旧來からでも非常に疑問をもつてつたのでありますが、どの程度の基準があるのか、本法では二百四十八條が主だろうと思いますが、これに関する基準なり、準則なりをどこに求めてよいか、どういう程度にあるものであるかを承りたいと存じます。
  36. 木内曾益

    木内政府委員 基準と申しますれば、二百四十八條に記載してある事項が基準になつておるのでありまして、もつと具体的にたとえて言うならば、犯罪の軽重というのは、どういうのが軽くて、どういうのが重いということを、もつと具体的に示すことが、非常に困難な問題でありまして、具体的事件につきまして、それぞれ妥当なる判断のもとに決定いたしておるわけでありまするし、今後もその方針であります。
  37. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはよほど重大なる結果を予想できるのでありまして、かりにこれが不分明なものであつたとすれば、檢察官の主観的意思によつて一つのものは起訴するが、一つのものは起訴せない。片一方では起訴した事実でも、ここでは起訴せなかつた。こういつたことが起り得ないとも限りません。そこで殊に檢察官は、行政官として上官の指揮命令に從うのでありまするから、何かそこらに標準というものがなくちやいかぬのじやないか。こう思いまするが、もしその標準がないならば、取調べたる檢察官の自由裁量を主とすべきものか。これを指揮せらるる上官の自由裁量を主としてやるものであるかどうか。この点が非常に疑問になつてくるのでありまするが、いかようにお考えになつておられますか。
  38. 木内曾益

    木内政府委員 その点につきましては、從來も実際上の取扱いは、取調べた檢事自分だけの判断で起訴、不起訴を決しておるのではなくして、地方檢察廳でありまするならば、上司が決裁をして、そうして起訴、不起訴を決定するということになつておるのであります。しかしながらその判断は上司の意見によるべきか、捜査を担当した檢事の意見によるべきか。どちらであるかという御質問のように承りましたが、これはどちらの意見に從うというのではなくして、要するに取調べた主任檢事には、主任檢事としての、その事件に対する意見があるわけでありまするし、その意見が妥当であるならば、上司はこれを承認することと思います。妥当でないとするならば、上司はさらに取調べにあたつた主任檢察官の意向を質し、そうして最後の決裁を下すということになつておるわけであります。從つて努めて間違いのないように手続を踏んでおるわけであります。
  39. 鍛冶良作

    鍛冶委員 御説明ではわかつたようでわからぬところがありますが、主任檢事の裁量と、上官の指揮または指示と、両々相まつてやるということの御説明は当然と思いまするが、主任檢事がこれは起訴すべきものだ。こう考えたときに、上官の方で起訴すべからざるものではなかろうか。こう考えられた場合には、直接審理にあたつておる者の意見を主としてやるということになると、消極的だけでいい。今の場合で言うと、これは起訴せなければならぬが、もう一遍調べてみぬか、こういう程度でいい。ところが上官の指揮が積極的に働き得るものだということになると、それはお前そう言うけれども、これは不起訴にすべきだ、不起訴にせい、こういうことまで言える。こういうことになると、重大な問題が起りまするので、これはわれわれよりか多年直接それらの点に当つておいでになつ木内長官のごときは、一番よくわかると思いますが、それはどうです。今私の言う積極的までやれるものですか、消極的の範囲のものでありますか。
  40. 木内曾益

    木内政府委員 だんだん問題がこまかくなつてきましたが、御質問の点はまことに重大な点だと思うのでありまするが、原則は御承知通り檢事同一体の原則であり、上官の命に從つていくというのが、その建前でありまするから、最後の決裁をするのは上司であります。從つてその決裁があつたならば、下の檢察官はこれに從わなければならないことは、当然と思うのであります。ただ御質問のように、決裁官とそれから主任檢事とが、意見が相違をしたというような場合においては、実際上は決裁官と主任檢事と二人の間だけで処理すべきものではなくして、そういうような場合には、他の檢察官も加える。あるいはその中間の次席檢事という制度もあるわけでありまするし、皆が研究し、妥当なる結論を得て、上司は決裁をする。從來もしておることであり、今後もそういう方法でやつていかなければならぬことは、もちろんであると考えておる次第であります。
  41. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今のお言葉の決裁ということの内容ですが、私は普通決裁というものは消極的なものである。これをもつてくる。それがいいか悪いか。よろしければ黙て通してやる。悪ければもう一遍考えてみぬか。これが消極の原則だろうと思います。そうして決裁するときに、これはいかぬ、これは起訴にすべきものじやない、不起訴にせい。こういうことになると、決裁ということよりか、進んで指揮をするということになるので、それがはたしていいものか、また旧來からもそういうことがあつたかどうか。今後もそういうことがあつていいか悪いか。これは政治論と絡んできますると、重大な関係がありまするから、私はくどくお聽きするわけであります。この見解をひとつ明らかにしていただきたい。
  42. 木内曾益

    木内政府委員 両方の場合が当然あり得ると思うのであります。大体主任檢事も、ただ個人的感情で起訴、不起訴を決するわけではないのでありまして、取調べの結果事件全体を見て、これを起訴すべきか不起訴にすべきかの判断をもつてくるのでありまして、通常の場合におきましては、それならばよろしい。これは足りないから、もう少しこの点を調べてみて、そうしてもう一遍持つてこい。要するに起訴の場合は二つの考え方があるわけであります。一つはこの事件はどうしても起訴しなければならぬ事件だということで、もう一つは起訴しても、公判が維持できる事件であるかどうかということ、その二つの点が証拠上維持できるかどうかということが、起訴する場合の重要なる問題であると思うのであります。さような点については、主任檢事十分考慮して、起訴する場合は起訴する。その点を見て不起訴にする場合には不起訴にするという意見をもつてくるわけでありますから、上司はむろんことを尊重せねばならず、また事実しておるわけであります。しかしながら、経驗の点からいきましても、若い檢事と監督者との間におきましては、相当の力の違いもあるわけでありまして、捜査にあたつた主任檢察官の判断を誤らしめないようにするということが、上司の責務であり、それが同時に事件の決裁ということになつて現われてくると思うのであります。しかしながら、事件そのものについて——私は経驗がありませんけれども、上司である決裁官と主任檢事との意見が相違するという場合があり得るということは、私は想像し得ると思うのであります。さような場合におきましては、先ほど申しましたように、單に決裁官がむり押つけをして決裁をするというようなことは、事実上においてないことと考えるのであります。しかもその決裁官の意見というものも、ただこれを個人的感情というようなことで判断すべきものではないのでありまして、先ほど申しましたように、一体この事件起訴相当なりやいなや、なお起訴して公判の維持ができるだけの証拠があるかどうかという二点が、事件をいずれに決するかの基準になると考えるのであります。
  43. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはきりのないことですから、その程度にいたしますが、この二百四十八條に「年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状」とありますから、これはもつぱら犯人そのものにくつ付いた事情で書いてあると思いますが、そのあとで「犯罪の情況」とありますが、これだつて犯人が今後どういう人間になるかというその情況でと考えまして、ここに書いてありますことは、もつぱら犯人そのものに附随というか、犯人そのものの條件だと思いますが、このほかに社会的影響その他等をも加味して、この裁量ができるものでありましようか、そういうことは一切いけないのでありますか。
  44. 木内曾益

    木内政府委員 二百四十八條は、仰せのごとく、犯人その者を主としての基準でありますけれども、結局その犯人が犯した犯罪の性質上、どういうふうに世間に影響するか、刑罰を科するということは、応報的な面ばかりでなく、社会に警告を与えるという面も含まれておるわけでありまするから、この犯罪が社会的にどういう影響を与えるかということも、むろん起訴、不起訴を決する場合に考慮さるべきことと考えております。
  45. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると二百四十八條、現行法における二百七十九條、これは犯罪の軽重という字が脱けておるだけで、ほとんど変りはないと思いますが、この中に社会的影響というものがはいつておるという御所見と承つてよろしゆうございますか。
  46. 木内曾益

    木内政府委員 この二百四十八條全体の趣旨からも社会的影響というような点は、先ほど申し上げました通り、当然含まれておるものと考えております。
  47. 鍛冶良作

    鍛冶委員 この條文を虚心坦懷に読んだところでは、われわれはさようなことは出てこないと思ひまするが、もしこの條文を拡張して、そういうことができるものだとするならば、何かそこに標準がなくては、その事件及びその人によつて非常に取扱いが動いてくるように考えまするが、別段そこには準則とか標準というものはございませんか。
  48. 木内曾益

    木内政府委員 この犯罪の軽重といううちにも、社会的影響ということが当然含まれて考慮されておるかと考えております。たとえてみますならば、情状のまことに軽い犯罪であるならば、社会的には大した影響でない。ところが先般発生しました帝銀の毒殺事件というようなものは、非常に社会的影響がある。これは犯罪それ自体が重いばかりでなしに、社会的影響も大きいというようなことが、当然この判断については犯罪の軽重の中にはいつてくると考えます。
  49. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると政治的影響はいかがですか。
  50. 木内曾益

    木内政府委員 場合によりましては、かような犯罪起訴したことによつて、國際的な重大な影響があるとか、あるいはそのために日本に全体として非常な不利益をこうむらせるというような場合があつたと、かりに仮定いたしまするならば、さような点を私は考慮してよいのではないかと考えております。
  51. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはいくら議論しておつても仕方がないから止めますが、何かある程度のめどがなくては、無軌道だという憂いをもちます。これはおそらく檢察当局自身においても、條文にしたようなものはなかろうけれども、何と申しますか、頭の中において、檢察官の良識において、何らかのものがあるだろうと思います。ここに現わすことができないならやむを得ないから、いずれまた研究することにして、今日この質問はこの程度にしておきます。  ついでお伺いしたいのは、人権蹂躪事件について、不起訴に対する告発の手続についてでありますが、二百六十二條以下二百六十八條までの間で、いろいろの疑問が起るのであります。第一に承りたいのは、告発の期間は別に「第二百六十條の通知を受けた日から七日以内に、請求書を公訴を提起しない処分をした檢察官に差し出してこれをしなければならない。」こうありまして、この七日以内と定められたのはどういうわけか、もしこの七日を越したら不服の方法はないということになると、非常に本法を設けた意味が薄らいでくるきらいがあるのでありますが、この点はどういうわけで七日以内ということにされたのか、まず承りたい。
  52. 木内曾益

    木内政府委員 その趣旨は、檢事の不起訴処分に対して不服なものが、それまでは何とも考えていなかつたが、一年も二年もの長い期間が過ぎてから、また不服だというようなことであるならば、かえつてその告発人の保護に過ぎると考えるのであります。從つて要するに通知を受けてからでありますから、通知を受けて少くとも、一般の常識において、一週間以内くらいにはこの不起訴に不服であるか、あるいはそれに從うかということが判断をする期間としては十分である、かように考えましたので、七日といたした次第であります。  それからもう一つの御質問は、七日を過ぎてからそうすると何らの救済方法がないのではないかという御所見でありますが、この訴訟法手続としてはありませんけれども、行政監督の手続面から言いますならば、現在すでに行われておりますような、上級檢察官廳に杭告をするという手続は別途にあると考えるのであります。これに対しては期間はないわけであります。
  53. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今おつしやつたのはどういう方法のことですか。行政機関というと、何か上官に対してやり方が悪いとか、または懲戒の申立をするとか、そういう意味ですか。
  54. 木内曾益

    木内政府委員 それは現在の不起訴処分に対する杭告の手続でございます。これは懲戒とか、そういう意味でなくして、原審の檢察官起訴処分が不当であるからといつて、地方檢察廳檢事の処分に対しては、高等檢察廳に杭告をしていくという、これは訴訟法手続でなくして、行政監督の面から出てくる問題であります。
  55. 鍛冶良作

    鍛冶委員 その次は、この請求は処分をした檢察官に差出さなければならない。この意味説明にもあります通り、二百六十四條で、檢察官はこの申立があつたときに、なるほどと思えば、みずから反省して公訴を提起するということで設けたというふうに考えておりますが、それだけの理由で檢察官にやらなければならぬということは、ちよつと見出されないと思うのであります。これは裁判所に出すとか、裁判所から檢察官へこういうものが出てきた、こういうときには、いくらも反省できる期間がある。方法はいくらとある。つまりこれを特に檢察官に出さなければならぬのは、どういう理由か承りたいと思います。
  56. 木内曾益

    木内政府委員 檢察官に提出しなければならないように規定いたしました理由は、二百六十四條の問題が一つであります。すなわち檢察官において不起訴処分に付したが、なお反省の機会を与える。そうして別の角度からこれを見て、やはりこれは起訴する方がいいのだということを考えた場合においては、あえてめんどうな裁判所手続を経なくても、檢察官の手においてただちに起訴できるという手続を残しておく方が便利である。かように考えたためであります。しかして檢察官はいわゆる公益の代表者でありまして、從來不起訴にしたから、それにこだわつで、どこまでも理窟があつても不起訴だという考えをもしもつならば、すでにそれは檢察官たる資格はないものである。さようなものを檢察官として予想しておるわけではないのでありまして、國家公益の代表者の立場からこれは判断すべきものである。その意味におきまして、二百六十四條の規定が設けられたわけであります。また從來におきましても、檢事が不起訴にした、それに対していわゆる行政手続による抗告をいたしました場合において、上級官廳から起訴命令が出たという場合もありますし、不起訴処分にしたその原審の檢察廳が、やはり別の角度からさらに檢討いたしまして、あえて抗告を上級官廳へ送らないさきに、その原審である檢察廳の手でただちに起訴をしたという例も、私らの経験からはこれを承知いたしております。そういう面からみましても、二百六十四條の規定は、私は必要だと思うのであります。それからもう一つは、裁判所はすぐ請求書を出すのがいいのであつて、わざわざめんどうな手数をかけて、檢察廳をまわつて出す必要はないじやないかということでありまするが、これはちようど公判において、一審において控訴した場合において、控訴状の宛名は控訴裁判所であるけれども、原裁判所に提出することになつております。それは一つはその裁判所が裁判をいたすその訴訟記録がそこにあるから、便利のためであります。これもやはり同じく不起訴にした記録がその檢察廳にあるわけでありますから、檢察廳を経由していけば、その記録とともに、その地方裁判所はその対等の裁判所へ送るということになる便利の意味であります。この二つの面から檢察廳を経由するという建前をとつたわけであります。
  57. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは私前もつてお断りしましたので、二百六十四條の理由は説明にもありましたから承知しておりますが、この点は私の先ほどつたのは、裁判所へやるについて、裁判所から、こんな請求があつた、こう言つて聽かせればそれで足りるものだと思う。それからあとの記録がそこにあるからと言われるが、それはそうかもしれませんが、やはりこれは公訴の場合と性質のよほど違うものでありまして、その者のやつたことが悪いといつて裁判所へ請求するのでありますから、悪いことをした者の手を経なければならぬということは、何だかどうもわれわれの常識にぴたつとこないようでありますが、これ以上議論してもしかたございませんから、それくらいにしておきます。  そこで続いて承りたいことは、その受けたる檢察官裁判所へどういう手続でもつてつて裁判所がどうしてこの事件の処理にあたるのか、これがこの規定ではわからぬようでありますが、これはどういうことになりますか。
  58. 木内曾益

    木内政府委員 先ほど申しました通り裁判所の審判に付することの請求をいたす、その請求書は不起訴処分をいたしたその檢察廳に提出いたしますと、これを二百六十四條の規定によつてなお一応檢察官が檢討して、——檢察官といつても何も不起訴にしたその檢察官だけを指すのではないのであります。結局まず一応その檢察廳において檢討するという意味であります。檢討して、やはりどうしてもこれは起訴できないということであるならば、すぐその審判に付する請求を裁判所に送りますと、裁判所では二百六十六條によつて決定をするわけであります。そうして請求が理由があるときにはこれを管轄地方裁判所の審判に付するという決定をするわけであります。そうしますれば、当然さらに檢事起訴手続きをまたずしてその事件が公判に係属するという建前になつておるわけであります。
  59. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうも今の御説明では、われわれ受取れません。「処分をした檢察官」を書いてあります。処分をした檢察廳とは書いてありません。これがまず第一です。それからこれは裁判所へ出したということから、裁判所へやらなければならぬことは当然だと思いますが、規定がございませんから、幾日までにもつていかなければならぬとか、——どうも自分に関することを自分でやられたのだから、こいつちよつと調子が悪いから押えておいてやれというので、いくらでも押えておいたらどういうことになります。
  60. 木内曾益

    木内政府委員 私の先ほど檢察廳と申しましたのは、役所の建物を指したわけではありません。檢察廳におる檢察官を総称して申した趣旨でありますから、これは御了承願います。  それからいつまでもこれを檢察官が握つてつたらということの御心配でありますが、この点につきましては、私どもといたしましては、その期間等は最高裁判所のルールによつてきめていくという考えでおるわけでございます。
  61. 鍛冶良作

    鍛冶委員 処分をした檢察官と書いてある以上は、個人を指すのじやありませんか。処分をした檢察廳というのならどうか知らぬが、私らが読んだところでは、処分をした檢察官というのだから、その人だと思いますが、人でないというのなら、これを明確にしておいてもらえばよいと思う。それから、今言われた最高裁判所のルールで定めるというのなら、その点はここに明記でもしておかないと、最高裁判所で氣がついてくれればいいのですが、そうでないと、この檢察官から裁判所に移す手続については、最高裁判所の定める規則に從うとか何とかいうのがないと、それが出てこないと思います。
  62. 木内曾益

    木内政府委員 その不起訴処分をした檢察官ということでないといかぬということでありますと、私が檢事の時代において、木内という檢事が決裁した場合において、木内という檢事に請求書を出さないと効力がないということになりますと、私が檢事をやめて今日行政官に変つておりますと、請求する権利がなくなる、かように考えられるのであります。こういうことは、ちよつと考えられないので、その檢察廳檢察官という趣旨に御了承を願いたいと思います。  それから裁判所のルールの場合でございますが、これは最高裁判所とも大体の話合いがついているわけでございますから、その点は向うで落すということはないと考えております。
  63. 鍛冶良作

    鍛冶委員 この二百六十七條、二百六十八條を見ますと、この請求によつて檢事から裁判所に送るということになると、この二百六十六條第二号の決定があつた場合は、公訴の提起があつたものとみなす、こういうことになる。そうすると、そこで公訴状があつたと同じようなことになるわけだと思いますが、これは素人が請求をするので、どういうものを書いて出すか知りませんが、それを公訴状とみなして選ばれたる弁護士がこれを維持していくということになると、どうもここに非常に不便があるのではないかと思います。だから少くとも請求する上においてこれだけの要件がなくてはならぬとか、何かきめておかないと、公訴の維持ということが困難になりはしないかと思いますが、いかがですか。
  64. 木内曾益

    木内政府委員 請求書が公訴状の代りをなすという趣旨ではないのでありまして、裁判所の審判に対する、その決定が公訴状の代りをなすものであります。ちようど現行刑事訴訟法における予審の終結決定というような考え方であります。
  65. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、その二百六十六條の第二号によつて、ここで裁判所が明確に公訴の内容を現わしてくれるわけでございますか。
  66. 木内曾益

    木内政府委員 もちろん決定にはその事実を書いて、主としてこの事実には公判に付する、審判に付するのが相当だということを決定に書かれると考えております。要するに先ほど申しました通り、予審終結決定書というようなものと同じ形でできると思つております。
  67. 鍛冶良作

    鍛冶委員 二百六十六條で決定をしますと、決定をした裁判所自身がさらに審理をやるのでありませんか。そうするとその裁判所自分公訴の理由を書いたことになつて、ちよつと彈刻法と相容れないことになるようにも考えられますがいかがでしようか。
  68. 木内曾益

    木内政府委員 これは二十條の七号によりまして当然除斥されることになつております。
  69. 井伊誠一

    井伊委員長 休憩いたします。     午後零時十分休憩    ━━━━◇━━━━━     午後一時三十二分開議
  70. 井伊誠一

    井伊委員長 休憩前に引続き会議を開きます。鍛冶良作君。
  71. 鍛冶良作

    鍛冶委員 先ほど事務当局から説明を承つたのでありますが、本刑事訴訟法改正にあたつて、われわれの最も望んでおりましたことは、捜査にあたつては、被告人の自白をもつて証拠の中心とすることをやめて、やるべく他の証拠方法によつてこれを固めるという方針にしてもらいたいこと。第二は被疑者身柄勾留しておかなければ捜査ができないという旧來の考え方を改めて、でき得る限り身柄を拘束しないでも、捜査目的を達する。この二つの原則を確立することが、何より大切だ。かように考えておつたのであります。ところが本改正案を見ますと、勾留の條件は、かえつて現行刑事訴訟法よりも簡單になり、犯罪の嫌疑十分であれば、住所が定まつておろうが、他の理由がなかろうが、これを勾留し得ることになつております。これはわれわれの考えておりました改正の根本趣旨と、非常に離れたものがあると考えるのでありますが、この点につきまして、本法立案に当られた法務総裁としてのお考え、並びにかようになつた経過等を承りたいと思います。
  72. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 ただいまの御質問はごもつともでありますが、目白だけを証拠とせず、できるだけ客観的な証拠をもつて有罪、無罪を決定することは、刑事訴訟の根本理想でありまして、できるだけその方向に向つてあらゆる施策を完備していきたいと考えておる次第であります。勾留の点においても、原則は不拘束で調べるのが原則だと考えておりますが、やむを得ず拘束する場合は、ほぼ今回立案した程度の條件で、必要にして十分であろうということに決定した次第であります。これは運用の面において無理がなければ、申されるような弊害を生ずることはなかろうと考えます。
  73. 鍛冶良作

    鍛冶委員 この点はよほど重要なことでありますので、特にもう一応承つておきます。趣旨としては、今の私の質問と同樣に考えておられるが、運用の面で、それができるということであります。しかし條文の建前から見ると、問題は六十條でありますが、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、これを勾留することができる。」こう書いてあるのみでありますから、ただいまのような疑問が出てくるのであります。條文にはかように書いてありますけれども、犯罪の嫌疑があるだけではなく、他にも勾留を要する理由がなければ勾留しないのが建前だと解釈してよろしゆうございますか。
  74. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 その点は結局檢務長官がお答えした通りであると申し上げておきます。
  75. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすれば、精神はそうであつても、犯罪の嫌疑あるという相当の理由があれば勾留できるということになりますと、本法改正が基本的人権の保障を目的とするものであるという第一條の精神に反する憂いなきにしもあらずと思います。この点は少くともわれわれはここで何とか表わさなければならぬと思いますが、表わさぬとすれば、少くとも今後の適用において、かくあるべきものだという責任ある御答弁を得ておかなくては、私は改正意味をなさぬように思いますので、それでお聽きするのですが、いかがですか。
  76. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 その点は鍛冶委員の仰せられる通り、その趣旨に基いて考えておるつもりでありまして、從來は罪を犯した疑を受けた者は、勾留ができたわけでありますが、今度の法律では、「相当な理由があるときは、」というしぼりをかけておるだけでも、非常に違うのでありまして、この点は運用の上において、十分抑えていくことができるように、御趣旨のごときことを実現してまいりたい。こういう趣旨で立案をいたしておるのであります。
  77. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それはその程度にしておきまして、あとでまたお伺いいたしましよう。ついでこれに関連してお聽きしたいことは、この精神をもつて貫こうとするときには、旧來の捜査方針と根本的に改まつた考えで係官に臨んでもらわなければならぬと考えるのであります。しかしこのために、かえつて罪ある者を看過するというようなことになれば、これは由々しき問題でありますから、この補いを考えることが、最も大切だと考えます。そこでわれわれ考えますのは、近ごろ言われております科学的捜査ということの必要を痛感するのでありますが、先ほど來事務当局に質問しましたところ、現在科学捜査の具体的の施設については、警察官の方では現われておるが、檢察廳方面には、具体的に現われておらぬというお答えを聽きましたので、はなはだ心もとないと考えたのであります。從いまして、これはぜひともやらなければならぬ問題である、必要ありということは、当然総裁つてお答えになると思います。問題はどうやろうとしておるか。今後どういう方法で実現することに具体的に進めておいでになりますか、その点を承りたいと思います。
  78. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 鍛冶委員の御質問は、まことに大切な点を指摘されておるわけでありまして、私どももこの刑事問題を処理していきまする上において、最も心を痛めておりますのは、その点であります。第一に科学的捜査方法を、画期的に取入れなければならないということは、警察制度改正と、新しい檢察制度の確立に伴いまして、第一に考えられたことでありまして、制度の上においても、ぜひこれをそれぞれ具体化したいということを熱心に希望いたしたのであります。警察制度の方では、これは関係方面の強い支持もありまして、警察の全目的犯罪捜査にあるのだ、犯罪捜査ということは、元來警察が專管的に担任すべきものであり、捜査してきた犯罪を処理することが、檢察の仕事である。こういう考え方に立つておられるのでありまして、その意味で警察の方にまず警察大学をつくり、犯罪科学捜査研究所をつくり、無電台その他一切の科学的な捜査の施設、設備を完備せよというようなサゼッションがありまして、私どもの直接の管轄でありませんが、至極ごもつともであるから賛成であるということで、閣議においても議題に供したのでありますが、何しろそれらを皆実行に移そうということになると、ただちに一千億くらいの予算を要求しなければならぬ。これは日本の現状においては、あまりに理想にすぎるので、できる分から少しでもやつていこうということで、御承知のように、警察大学というものだけは、小規模ながら着手いたしたのであります。犯罪科学捜査研究所も、独立の大学の研究部くらいをつくりたいという希望でありましたが、そこまではいきませんが、ごく小規模の研究所をつくつたわけであります。それから檢察廳方面におきましては、重複して同じような施設をつくるのもいかがかと存じますから、できるだけこれらの施設を利用させていただくことにいたしまして、内地留学のような形で、時々そこに研究のために派遣し、滯在をして、新しい技術に習練をするというような機会を与えようと考えておるのであります。科学的犯罪捜査は、御承知のように廣い意味においては、ただいま申し上げますような、物理学的な方法を使い、あるいは法医学的な方法を使うというようなのは、狹義の科学的捜査でありまして、その必要なことはもちろんでありますが、廣く心理学的な、あるいは論理の推究に訴えていつて、相手方を遂に承服せしめるというようなことは、よほど頭脳が啓発されておる檢察官でないと、そういう技術に至りますと、雲泥の差を生ずると思うのであります。われわれの理想は、願わくば檢察陣には大岡越前守のように、推究していつて、相手方を遂に屈服せしめるという迫力をもつた人で充満させたいという希望をもつておるのであります。そのためには、これは單純な論理学や心理学の教授で達せられる問題ではないのでありまして、頭脳全体の改造と申しましようか、再教育の問題として考えていかなければならない。その方面はさいわいに法務廳には調査部という特殊の部を持つておりますし、資料統計局というようなものも持つておりますので、あらゆる方面から資料を集め、また特殊の研究施設を持ち、各大学とも密接な連絡をもつて、そうして新時代の檢察官としての頭脳の養成のために努力してまいりたい。それから先ほど申し上げるような物理学的な、医学的な、自然科学的な犯罪搜査の施設につきましては、警察と共同して利用してやつていきたい。行く行くは國家財政が許すようになりましたならば、われわれの独特のものも持つことを許してもらいたい。こういう希望をもつておるわけであります。
  79. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、今の警察大学に相応したような、檢察廳独特のものを設立せられる御計画でもあるのでございましようか。
  80. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 具体的な計画は私一人の胸の中にはあるのでありますけれども、國家財政の現状から、今ここで三億、五億、十億という経費を要求しても、とても閣議において容れられる見込みはないのであります。実際は私どもの要求の二十分の一、三十分の一を実現して、満足しておるような状態でありまして、これを各大臣が、おのおのその自分の抱懷しておる理想を実現する案を持出しますと、おそらく國家財政は兆をもつて数える額になると目されるのでありまして、それでは日本の國は敗戰國でもあり、財政は逼迫して、とうてい立ち行かないのでありまして、今までやつてつたことも止めてほしいというように窮迫しております今日、私としては熱心に希望はしておりますが、本年、明年のうちにこれを実現するというようなことは、ちよつとお約束いたしかねるのであります。しかし乏しい施設の中でも活用して、できるだけ、その方向に向けていくということは、十分にお約束いたすつもりであります。
  81. 鍛冶良作

    鍛冶委員 少くともその構想をもつて、ずつと法務廳の大方針として、でき得る限りの御努力をせられることを希望して、この点は終ります。  そこで今ちよつと出ましたが、われわれは多年理想として述べてまいりましたことは、檢察官補助機関として使用する司法警察官に関して、でき得限り、檢察廳專属の司法警察官をおくということを理想としておるわけでありますが、今日前の内務省直轄の警察というものがなくなつて國家公安委員の構想に基く警察官ができたので、少しは変つてはまいりましたが、それにいたしましても、今日あらゆる場面で出てまいります問題は、國家警察官と地方自治警察官との連絡統一ということであります。これが非常にめんどうになつてまいりました現状から考えますと、なお一層搜査の面において、これを統一することが困難だというならば、少くとも檢察廳專属の司法警察官があることが、最も願わしいのではないかと考えるのであります。そこでこの刑事訴訟法が根本的に変りまして、われわれが今まで学んでまいりました訴訟法と構想が変つてきたのでありますから、もしや改正刑事訴訟法が実施せられる曉においては、さようなことはいかぬのだということになつたのか。それとも差支えないのであつて、相変らず檢察廳專属の司法警察官があることを望んでおいでになるのか。これを承りたいと思います。
  82. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 その点も私の抱いておりました希望としては、鍛冶委員のもつておられますお考えと、完全に一致するのであります。その線に沿うて今日まで努力してきたつもりでありますが、実は警察法の立案につきましても、この新刑事訴訟法の立案につきましても、御承知通り関係方面の強いサゼッションに基いてできておりますような次第でありまして、警察に対する考え方は、理論的には正しいと、私は思うのでありますが、関係方面等では、あくまで犯罪搜査は警察が全部責任をもつ、いわば專管事項であるということに考えておるのであります。それはアメリカなどのような國情において、警察官が眞に義務の観念に徹しており、そして州とか連邦とかいう区別なく、敢然としてあらゆる犯罪搜査に赴くという習慣が確立されておるところにおいては、その通りでいいとも思われますが、日本の実情においては、なかなかそれは問題であるということから、私は日本においては警察が大体犯罪搜査の專権を掌握することに異議はないけれども、特殊の犯罪については、どうしても檢察直属司法警察官というものがあつて、そうしてこれが敏活に活動するのでなければ、犯罪の檢挙というものは、完璧を期することはできないということを、強く主張いたしたのであります。これは私との会談録が速記に残つていると信じますが、そういうことで、いかに私がそういう点を強く主張して努力したかということは、後日明らかになるときが來ると思うのであります。ただ遺憾ながら、どうしてもただいま申しましたような建前から、あまり強く檢察直属司法警察官というものを、ただちに大量におくことを許すということに支障があつたわけなのであります。けれども私の主張はもつともであるということも認められまして、その数は三千五百と記憶いたしまするが、それだけの檢察事務官をおく。その檢察事務官は、いわゆる書記官でなくして、犯罪搜査にあたるところの司法警察官であります。これをおいて、そうして自治体警察や、あるいは國家地方警察では、ちよつと手を下せないような特殊な事件に、檢事が直接にこれを指図して、犯人の逮捕、証拠物の押收等に從事させる。この檢察事務官をおくことが許されることになる露頭をここに出しているわけであります。將來実績に徴し、また警察の方がわれわれの期待に副わないようなことがありますならば、私どもの主張というものは、十分に了解されているのでありますから、この数を殖やしていくということは、期待できる状態にあるのであります。  私の理想は、鍛冶君と同じように、もつと大規模な数万をもつて数える底の檢察直属の司法警察制度を樹立することにあたつたのであります。しかしそれはあまりにも檢察権というものを強力ならしめ、檢察と警察と二つもつことになるということで、強い反対が関係方面にあつたのであります。その疑いを受けない限度においてならば、十分に御趣旨のようなものを実施し得ると考えます。また私どももその方面に進めていくつもりであるということを、お答え申し上げます。
  83. 鍛冶良作

    鍛冶委員 御趣旨はよくわかりました。そこで今のことは具体的には檢察廳法か何かに出ておりましたか。
  84. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 檢察廳法を改正いたしまして、定員を殖やしたわけであります。
  85. 鍛冶良作

    鍛冶委員 次に承りたいのは、第二百四十八條の檢察官の、起訴起訴を定める標準であります。この二百四十八條を虚心平氣に読んでみますと、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」こうなつております。ここに現われておりますのは、もつぱら犯人そのものに專属しておる事実に基くものと解釈するのでありますが、この以外に社会的事情とか何とかをも加味して、起訴、不起訴を定めるということができるのか。これを嚴格に解釈して、犯人に專属する理由だけを基準としてこれを決定すべきものであるか。この点に関する総裁の御意見を承つておきたいと思います。
  86. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 その点は立案者としては、御趣旨のように、大体犯人というものを標準にして考えておるのであつて、そのほかに社会的、政治的、種々の状況等を考慮に入れて、とまで考えておるものでないと申し上げてよろしいと思うのであります。しかしながら、その犯人の性格とか、境遇とか、犯罪の軽重、情状とかいうものは、決してその犯人單独の人というものを見ることによつて解決できる問題でなくして、常にその社会、環境等において考えられる問題でありますから、そこのところは、あまり機械的にはつきり申し上げるわけにはいかぬと思うのであります。そこで根本においては、犯人の主観を土台にして、これらの條件を考えるのであるが、必要なる限りにおいて、その他の一般的な情状というものが訴訟、不起訴の決定に影響を与えるということは、抽象論としては、申し上げておかなければならぬと思います。
  87. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこでわれわれの疑念をもちますことは、何かそこに基準がないということになると、そのときの情況もしくは政治的の情勢等によつて、甲に対しては起訴をやるが、乙に対しては訴訟をせなかつた。乙に対しては起訴をしたが、甲に対しては起訴をせなかつた。こういうことが起り得るものではないかと思うのでありまして、いかに自由裁量に任せるとは言いましても、そこらには、ここに形に現われぬでも、もつといえば、檢察官としての常識と申しますか、良識と申しますか、そういうものがなければならぬものではないかと思いますが、もしあるべきものだとすれば、どの程度のものがあつてよいと思つておられるか、その点をお聽きしたいのであります。
  88. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 これはまことにデリケートなむずかしい問題に相なると思うのでありますが、抽象的にはいかようにも考えることができますけれども、実際の起訴、不起訴を決定する場合は、具体的に良識に訴えて考えていくよりほかはないのであります。またそれが批判されることによつて、正当か正当でないかということが、だんだん明らかにされてまいりまして、殊に新しい制度では、不起訴をいたしました場合には、抗議を提起して、審査会に付するというようなことすら考えられておるような次第でありますから、そこで裁判所の方に判例ができるように、檢察廳の方にもおのずから起訴、不起訴の基準についての一種の基準例とでも申しますか、そういうものが発達するはずだと思うのであります。それによつて一々の事件について眞劍に考え、いろいろの方面から批判されて、やはりこれは起訴しない方が妥当だ、これは起訴したことが正しいのであるというふうに判定せられて、それがだんだん集積していくことによつて、おのずから客観的基準というものが樹立されていくのである。かように考えるのであります。
  89. 鍛冶良作

    鍛冶委員 まことにわが意を得た御答弁でありまして、ぜひそうなくちやならぬと思うのでありますが、ただ判例だとか判決は表面に現われるのでありますが、檢察当局のものは現われないものだから、これは何かそういうことで、これを不起訴にしたのは、この理由でやつたんだ。これを起訴したのは、この理由でやつたということを、ぜひ表面に現わすことを、今の御答弁からしてお考えを願うと同時に、具体的に実現せられることを希望しておきます。  そこでさらに進んで聽きたいのは、檢事一体の原則から、上官がこれに対して指揮と申しますか、監督とでも申しますか、やつておられるのであります。これは先ほどからの事務当局の答弁でみますと、上官の方にもつていきますと、決裁をせられるということになります。この決裁はもちろんなくちやならぬし、あるべきものだと思いますが、その決裁というものは、われわれの常識から考えて消極的のものであろうと思う。係官が調べた結果、この通りだと思いますというときに、それに対して受身になつて、よろしいとか、これは持つてくれ、この点はどうだとかいうような程度のものであると思います。それとももつと決裁は積極的のものであつて、不起訴だといつてきたときに、これは起訴にせい、おれの調べたところではこうだ。ここまで言えるだろうか。これが私には大きな疑問がもたれるのであります。要するに消極的のものか、それともひつくり返して積極的にやるものか、お伺いいたしたい。
  90. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 ただいまの御質問も、非常にわれわれの間で問題になつてつて、実際上きわめて興味あり、かつデリケートな問題であります。主任檢事とその上官たる決裁官との意見が一致せざる場合に、どういうことになるのか。主任檢事は常に良識の所特者である。通常上官は、その具体的事件については、自分が調査しておらないから知らないということは考えられますが、しかし少くもその他の檢察事務一般については、主任檢事よりも経驗も豊かであり、見識もあるいは高いかもしれないという人が、このもつてきた問題を批判するという立場に立つのであります。決裁はただ消極的のものであつて、同意を与えるだけである。最大限度指揮するということがえり得るかもしれないが、少くもかえろうとう命令まで含んでおるかどうかという御質問でありましたが、その点はいやしくも決裁という以上は、消極並びに積極の両面を含むものと考えるのでありまして、よく協議をして相談して、どうしても両者が一致しないということになりますれば、ここに不幸な事態を生ずるわけであります。どういうふうな解決をそこに生ずるかということは、むずかしい問題になりますが、そういう場合は、非常に少いのであつて、大体よく話し合つて考えつてみると、ある一致点には到達し得る場合が多いだろうと思うのであります。原則として主任檢事考えを尊重する。またその具体的に調べた結果について尊重するということは、一般原則としては、相違ないのであります。しかしまれにその上官が自己の経驗上、その種の事件を取扱うについてもう少し別な取扱い方をしてはどうかという示唆を与えることはあり得ることであります。あつても決してそれは悪いことでないと考えるのでありまして、それは内部的に統一体の原則でありますから、矛盾なき形において外部には表現されなければならないけれども、最悪の場合は、結局主任檢事が、どうしても自己の良心に反する納得がいかない、承服しかねるということになりますれば、遂にその職を去るというようなことも起るかもしれない。どうしても意見を何か作為的な意思があつて、押しつけるというような上官があつたならば、これはもつてのほかでありますから、当然これは別個の責任問題を生ずることは明らかでありますが、そうでなく、お互いに眞に良心的に問題を考えて意見が一致しない場合には、行政系統の建前上、どうしても上官の意見を尊重せざるを得ないのでありますから、上官は主任檢事をかえることもできる。また新たに別な檢事をしてその事件研究せしめ、その結果もまた同じならば、初めて上官の方も自己の考え方が間違つておるのであろうという反省をすることになる。そして結果においては、最初と同じことに帰着するかもしれませんが、そういう結論に到達するということも考えられ得るわけであります。とにかく何らかの形で矛盾なく統一体の原則を実現していくようにするほかはないのでありまするから、そういう意味において、決裁権というものは、消極、積極両面をもつておりますが、同時にむりに主任檢事を圧迫して動かすというようなことは、あるまじきことである、まずないであろうとお考えつてよろしかろうと思います。
  91. 鍛冶良作

    鍛冶委員 大体わかつたようでありますが、今のお言葉にもありましたが、まじめにその事件考えてやるならばよろしいが、他の目的をもつてやるということになればいかぬという、その点をわれわれは憂うるのであります。そこで基準とか法則ということを求めたいと考えるのでありますが、具体的の例によつてみますと、これは起訴すべきものだ、理論上は起訴すべきものだ、けれども政治的に考えてみて、これは起訴せぬ方がいい、もうちよつと持つてくれ、こういうことを言う。そこでどうもさようなことで、本件を繋がれては困る。こういうようなことを係官が言う。こういうことになると、それははたしてどつちが正当ということになりますか。
  92. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 その御質問は少し抽象的でお答えするのに非常にむずかしいと感ずるのでありますが、政治的な理由で起訴を持つてくれというようなことを申すことは、ほとんどあるまいと思うのであります。それはまれになきにしもあらずでありますが、その場合には、それだけの権限をもつた上官でなければ、そういうことはやれない。そのためには、属下に対して責任を負担しておるのであつて、それが誤つておる場合には、彈劾の対象となる。あるいは明らかにその責任を負わなければならぬという立場であつて、初めてそういうことがやれるわけでありまして、そうでなくて、ただ上官が、主任檢事がもつてきたにもかかわらず、これは政治的に少し持つてくれというようなことを言うことは、ちよつと考えられないだけでなく、まああり得ない、こうお答えしておきます。
  93. 鍛冶良作

    鍛冶委員 その点はその程度にしておきます。  次にこの機会に総裁から承りたいのは、三百四十三條以下の点であります。これは先ほどから申しましたように、できる限り必要のない拘束はやめなければならぬと考えておるのであります。これは三百四十三條に、禁錮以上の刑に処せられる判決がありますと、せつかく保釈しておる者も当然消えるということで、判決確定前においても、身柄を拘束されることになるのではないかと考えるのであります。そうなりますと、どうも犯罪のあつたという事実で、身柄を拘束すべきものだということになつて勾留の要否ということを考慮に入れぬでもよろしいという法律ができたように考えられるのでありますが、この点についてどうお考えになりますか。
  94. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 これは檢務長官からお答えがあつたのではないかと思いますが、御承知のように、三百四十三條の規定意味は、禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたときには、保釈または執行停止は、その努力を失うということで、一応異なるのでありますが、檢事保釈は、一審の判決まででありまして、その後は裁量保釈でありますから、すべての裁判所の裁量によつて、お説のような、これはすぐに執行に移すには、あるいは勾留を続けていくのには苛酷であるというふうに考えられます場合には、おおむね保釈が許されるであろう、こう考えるのでありまして、その点はそれほど御心配になる必要はない、かように考えます。
  95. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうだとするとよろしいのですが、保釈または勾留の執行停止はその効力を失う、こういうことですから、これで当然保釈が取消されることになる。その次、三百四十四條によつて「八十九條の規定は、これを適用しない。」こうなつておりますから、保釈の請求を許さぬということになつてくると思うのであります。そこでわれわれはたいへんな規定が出てきたと思つておるのであります。これは第一審だけであつて、別に控訴をしたときにも問題になると思う。控訴でも保釈はだめだ、こういうことになると、控訴に偉大なる制限が出てくることになるのですが、控訴は控訴審として別にやれる根拠があるならば、まことに結構でありますが、その点を伺いたい。
  96. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 その点は檢務長官からお答えいたさせますが、大体これは御承知のように、アメリカの新しい制度訴訟法において採用したのでありまして、ひとつの模範とする制度をとりました以上は、一貫しませぬで、ちぐはぐにいろいろな國の制度のよいところだけとるようなことをやりますと、意外な破綻を露呈いたしますので、大体アメリカの制度で一貫しておるわけであります。そこでこの原則は、一審で有罪判決後は、無罪の推定は受けないという考え方に帰着しておりますので、こういう規定になつておるわけであります。すでに一審で有罪の判決を受けてしまえば、無罪を推定すべき実跡がないと認められる。その後はすべて保釈を許すことは、その都度の裁量によるという建前でありますから、理論上に仰せられるような御懸念もありますけれども、建前がそうである以上は、やむを得ないというふうにお考えを願いたいと思います。
  97. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうだとすると、どうもまことになさけないことに考えます。またこれは前にもお聽きしたと同じことで、本法では第一條において基本的人権を保障するといつておりながら、保釈の制度も、未確定ではあるが、有罪の判決があつたというだけで、身柄を拘束し得るものだということになれば、どうもまことに保障を欠くのはなはだしいものだと思うのであります。その点は、過日來事務当局と、しばしば質疑応答したところでありますが、本改正案趣旨は、身柄を拘束しても、できるだけこれを救済する規定を設けておる。その意味において、基本的人権の保障が全うできるのだという御説明もありました。しかし基本的人権の保障の根本は、できるだけ身柄を拘束せぬということであつて、これほど大きな基本的人権の保障はない。拘束しておいて、拘束しても救済するところがあるから保障するのだということは、これはもうげすのげすの議論だと思う。そういう意味で、われわれはできるだけ必要のないものは、これを拘束せざることという建前でなければいかぬと考えまして、先ほど質問の、捜査中の勾留においても疑念をもつてつたのであります。さらにこの規定になりますると、これは先ほどの御説明にもありましたが、保釈の方法はないじやありませんか。ないということになると、どうもわれわれの理想とえらく相反してくるのであります。よくわからないのですが、何か特に保釈の方法はありますか。
  98. 木内曾益

    木内政府委員 第八十九條によりまして、一審においては一号ないし五号の場合を除いては、保釈の請求があれば当然保釈を許さなければならない。これを私どもの方では権利保釈言つております。それは少くとも一審の裁判があるまでは、被告人は無罪である。だから無罪の者は拘束しないということの建前からきた規定であります。ところが一審において有罪の判決があれば、それで一応有罪の認定を受けた者であるから、当然從來の保放あるいは執行停止が効力を失うものであつて、その後は現行刑事訴訟法のような形で保釈の請求があり、あるいは職権をもつて、さらにこの事件については元告人を勾留しておく必要がないことになれば、裁判所の裁量によつてただちに保釈なり、あるいは執行停止なりができるという建前をとつているのであります。また執行関係の実情から見ても、要するに一審の有罪判決があつて、そのために逃亡し、執行が不能になるような場合が相当多いのであります。從つてそのような点も考慮して一応入れるが、しかし入れたら入れつぱなしというのでなく、要するに八十九條の規定を適用しないというのでなくて、いわゆる権利保釈でないということを明らかにして、要するに裁判所の裁量保釈にしたのだということを明らかにしただけで、決して今度は入れつぱなしであるということを、ここで規定しているわけではないのであります。
  99. 鍛冶良作

    鍛冶委員 たいへんいいお答えですが、三百四十三條では保釈はその效力を失う。こうなるのでありまして、しかも九十八條を適用して、ただちに勾引できることになつておりますから、收監しなければならぬ、こういうことになつてくるのですが、そうすると三百四十四條は、八十九條の適用はないけれども、別の意味において保釈の請求ができる。こう解釈してよろしゆうございますか。
  100. 木内曾益

    木内政府委員 要するに八十八條によつて保釈の請求ができ、九十條によつて請求がなくとも、また職権で保釈を許すこともできることになるわけであります。結局八十九條だけがつけられて、権利保釈が裁量保釈になるという趣旨であります。
  101. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると一旦九十八條によつて收監せられる、その上で八十八條で保釈の請求ができると解釈するのですか。それともこれは保釈の理由があるから待つてくれ、こう言えるのですか。
  102. 木内曾益

    木内政府委員 御質問のように、すぐ入れることになるわけであります。しかしその場ですぐこれを出してくれという請求はできるわけであります。
  103. 鍛冶良作

    鍛冶委員 保釈の理由がもしあつたとすれば、何も入れて、また出さなければならぬということはないので、これで見れば少くとも三百四十三條の九十七條の規定を適用することは要らぬのではないか。これは收監せいと書いてあるのですから、これだけはもう除いてもいいのではないかと思いますが、いかがですか。
  104. 木内曾益

    木内政府委員 これは先ほど申しました通りに、一審の判決がいよいよ有罪だ。それでは逃げろ逃げろというようなことが起きることを防ぐためであります。
  105. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはしばしば言いましたから、そう言いませんが、逃亡のおそれがあるとか、住居不定になつたとかそういう理由がなかつたら、これは横暴主義がここに現われているように思えてならない。九十八條の準用を除いたらいかぬでしようか。
  106. 野木新一

    ○野木政府委員 九十八條の規定を準用しておきませんと、保釈もしくは勾留の執行停止の効力を失つた場合に、実際それを準用しなければならなくなつた場合に、一体どういうふうにしてそれを收監することができるか、そういう根拠がなくなりますので、どうしてもこの規定は準用しておかなければならない関係になつております。
  107. 鍛冶良作

    鍛冶委員 保釈が取消しになれば、自然もとにもどるのだから、入れるということは、必ず收監しなければならぬということに聞えることに疑念をもつのですが、これはもとにもどつていくのがあたりまえだということと、收監しなければならぬということの違いをわれわれは考えておつたのであります。ただこの法律建前から、これではいかぬのだということになつてくると、そういう手続上の関係ということになれば、相当私は考えていいのではないかと思います。この点だけもう一点……。
  108. 野木新一

    ○野木政府委員 法の建前として「保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。」となつておりますので、失つた以上、これを執行する方法が当然出てこなければならないのでありまして、一面保釈もしくは勾留の執行停止を取消す決定をした場合等の執行の方法につきましては、九十八條に規定してありますので、三百四十三條の効力を失つた場合につき、何も規定がないと、その執行方法につきまして、非常に疑問を生ずる次第でありますので、これを明確にしたわけであります。ただ実際の運用といたしましては、禁錮以上の刑に処する判決の宣言があつたときには、ただちに被告人側から保釈の申請をし、また非常に明白な場合には、裁判所はほとんど同時に職権で保釈の決定をするということになりまして、プラス、マイナス消えて、運用上はそうきつくならない場合も生ずるものと思います。
  109. 鍛冶良作

    鍛冶委員 その点はそれだけにして、法務総裁がおいでになりまするから、もう一点だけ承りたいが、問題は控訴の続審制をやめられた点でありますが、基本的人権の保釈の問題は今いう身体の不要なる拘束をせないということになりますと同時に、でき得る限り無辜の犯罪をつくらぬということに、根本がおかれなければならぬと考えられる。その意味において、上訴を許された以上は、控訴審において、さらに今一遍不服の点について事実を調べ、証拠を調べるということは、最も基本的人権保護の根本的要素に適合するものと思いまするが、事実審理をさせぬことになつておりまするが、これを改正せられまする根本的の理由をまず総裁から伺いたいと思います。
  110. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 この点は立案の際相当議論の生じたことでありまするが、結局農業でも何でも、二度やり直しということはないのでありまして、一度つくつて失敗すると、それきりということでありまするから、眞劍勝負で命がけでやらなくちやならぬ。またやれるというつもりで、やり直しますることは、あまり褒めたことでないのみならず、これは非常に今度は丁重にやりまするから、非常に時間と費用と労力とがかかるのであります。その同じことを二度も三度も繰返すことは、行政経済の原則からも、許されないことでありまして、そういう意味において、特に一審は丁重に、公平に、無辜を罰しないように努力しておるということは、鍛冶委員といえども、お認めくださると思うのであります。これを経たのちは、よくよくの誤りでなければ、再び同じような裁判をやらない。こういう建前になつておるのでありまするし、それから一審では予断を抱かせないために、起訴状一本で法廷に臨む、すべての証拠は裁判所の前に相互に提出をして、直接法廷における心証に訴えて決していくのでありまして、そこに新しい訴訟法の特長があるのであります。ところが二審となりますると、すでに記録ができておりまして、それを読んで法廷に臨むことになるので、どうしてもその程度の予断というものをもつことになるのでありますから、せつかく予断を抱かせずに判断しようとする建前が、ここに崩れてくることになるおそれもある。これはつけたりの理由でありまするが、とにかくそういうような意味において、今度は原則は一審限り、そのつもりでひとつ眞劍勝負をやつていただきたい、こういう建前にいたしたのであります。
  111. 鍛冶良作

    鍛冶委員 もちろん裁判の理想といたしましては、一審限りで何人も心服するという裁判ができれば、これほどの理想はありませんです。ところが裁判官はいくら愼重にやられたといえども、また今後いかにりつぱな裁判官が出られましても、人間は人間でありまする。それに対して、もう一遍ひとつ調べ直してもらわなければならぬという理由はないとは限りません。決して何でもかんでもというのではありません。從つて一審が丁重に取調べられるということになれば、控訴をする数も、おのずから減少してくるものと考えます。しかしながら、なおそれでも不服があるということになれば、今一遍調べてやるということになつても、理論上悪いことでないと思いますが、この点は丁寧に調べる以上は、さようなことはしていかぬものだという理論的な振拠はないと思いますが、いかがですか。
  112. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 それは仰せの通り根拠はありません。丁寧に何回でも調べる方がいいということは確かであります。ただ実際問題として、一つの國家制度として、裁判というものは考えなければならぬのでありますから、無限に丁重を繰返しておるわけにはいかない。どこかで一つのピリオドをうたなければならぬというところから、ここういう解決案に到達したわけでありまして、人員も費用もすべての設備も、許すならば、鍛冶委員の言われるようにありたいと、私どもも考えておりますが、なかなかむづかしいことであります。しかし三百九十三條のような規定もありまして、控訴裁判所の方で、この裁判はどうもあやしい、これは間違いじやないかと思つたら、職権で事実審理をすることもできる。そうして多少の欠点を発見したならば、常に原審に差もとしてまたやり直させることができるのでありますから、ほぼ御要請に応じ得るのではないか。どれもこれも例外なくやれという御趣旨のように聽くのでありますが、それまでやらぬでも、この程度の途が開かれておりますならば、人権を権護するに、ほぼ欠くるところがないのじやないか、かように考える次第であります。
  113. 鍛冶良作

    鍛冶委員 だんだんこまかくなつてきますが、今のお話でこの三百九十三條は「必要があるときは、職権で事実の取調をすることができる。」今度は大分範囲を狹めて申し上げるのですが、少くとも趣意書に包含せられた事実であれば、職権で事実の取調べができるならば、その範囲内においてぐらいは申立によつて事実の調べをしてもそう大きな弊害がないのじやないか。今のは何でもかんでも皆ということではない。少くともこれぐらいのことはいいのじやないかと私は考えておりますが、やはりそれもいけませんでしようか。
  114. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 その点は立案当局としても十分考えたのであります。御趣旨はごもつともでありますが、諸種の事情を考慮いたしますと、困難でありますから、結局ただいま申し上げましたような、職権で調査するということの発動を促すというようなことでやつていきたい。そういうふうに結論に到達しておるのでありまして、それ以上にこの條文をかえるということは、非常に困難があるということを申し上げておきます。
  115. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると少くとも趣意書には事実が述べてありますから、この点は職権でぜひやりたいが、調べられないから、これは職権で調査されるべき事項と思うから、調査してもらいたい、こういうことは差支えないわけですね。
  116. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 差支えありません。
  117. 鍛冶良作

    鍛冶委員 もう一つそれについて同一のことになりますが、現在現われておる証拠についてを判決ではこういう決定をしておりますが、これは違うのだ、その内容はこういう事実だ。こういうことの新しい申立は、どうも訴訟をいたずらに遅延することでもなく、不都合なわけでもないから、それぐらいのことは差支えないじやないかと思うのでございますが、これはいかがですか。これはこの間ずいぶんやかましくここで論議はしたのですが、調書との関係で非常に大きな問題です。
  118. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 それも新たなる証拠は権利としては提出することはできませんが、職権の発動を促す資料として出すことはできる。こういうふうに考えております。
  119. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それでたいへん明確になりました。現在現われておる証拠についての判断——これはこの間調書の点で、ずいぶん議論いたしましたが、どうもこの改正法によりますと、毎日毎日連続してでも法廷をやると言われるのでありますから、調書がきちつきちつとできるということは予想できないのであります。そこでこの間私は少くとも判決をせられるまでには、調書がそろつていなくては困るのではないかと言つたのだが、それの予想もできないというようなお話がありまして、その代りあとで違つたところがあれば、異議の申立をすればよろしいということでありましたが、これでは非常に不便なところがある。從つてわれわれはこの証拠は積極の証拠として十分であると思つてつても、裁判所がそれを証拠として消極ということになつた場合には、おのずからここに不服ということが出てこざるを得ないのであります。これらの点から見ましても、少くとも原審に現われたる証拠に対しては、相当爭い得る途を開いておかなくては、この点から申しても不十分であると言わざるを得ぬと考えますが、この点はいかがですか。
  120. 野木新一

    ○野木政府委員 その点はまつたくごもつともだと思います。私も在野法曹としての経驗から、十分同感であります。從つて最大限努力いたすつもりであります。なお実際上の取扱い、及びどういうふうに解釈すべきかということにつきましては、政府委員からお答え申し上げたいと思います。
  121. 鍛冶良作

    鍛冶委員 総裁についてはあまりこまかいことをお聽きしても何ですから、その点について事務当局から、こまかく一般のお考えを聽かしていただきたいと思います。
  122. 野木新一

    ○野木政府委員 ただいまの調書の点について御説明申し上げます。調書の点につきましては、今度の案におきましては、第四十九條ないし五十一條におきまして、現行法にないところの新しい規定を設けておりまして、調書の正確性を担保しておる次第であります。しこうしてこのような規定を設けましたのは、もとよりこういう規定を置くことによりまして第一審の手続が正確に行われることを担保する面もありますが、いま一つの大きな面といたしましては、控訴審行動とも関連してくるのでありまして、控訴審を今度のような制度にいたしますと、一層一審公判調書の正確性というものは、強く要求せられるようになるわけであります。それで、まず第四十九條におきましては、今までなかつた権利を被告人に与えまして、被告人に弁護人がないときは、公判調書を被告人も閲覧することができる。読むことができないとき、もしくは盲人であるというような場合には公判調書の朗読を求めることができる。そういう規定を置いてある次第であります。しかし本案におきましては、三年を超える事件につきましては、弁護人があることになつておりますので、第四十九條は、それ以外の事件であつて、しかも私選弁護人がない場合、そういう場合がここにはいつてくるものであります。なお弁護人の公判調書閲覧権等につきましては、現行法と同じように、第四十條に「弁護人は、公判の提起後は、裁判所において、訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し、且つ騰与することができる。」という規定によつて、当然四十九條に相当することはできることになつておる次第であります。次に、公判調書は、理想的に言えば、即日にも整理せられるのが理想であり、少くとも次の公判日期までには整理できるということにしたいと思うのでありますが、なかなか現実の問題として、そこまでもつていくわけにはいきませんし、また將來におきましても、かりに原則としてはそういうふうになつたとしても、例外の場合もありますので、第五十條におきまして、公判調書が次回の公判期日までに整理されなかつたときは、裁判所書記は弁護人などの請求によつて、その証人の供述の要旨を告げなければならない。こういう規定を置き、さらに同條の第二項におきまして被告人及び弁護人が出頭なくして開廷した公判期日の公判調書、たとえば五千円以下の罰金などに当る事件、こういうような場合におきましては、被告人弁護人は、前回の公判期日の樣樣を知らなくては、その権利を十分主張することができませんので、第五十條第二項の規定によりまして、「裁判所書記は、次回の公判期日において又はその期日までに、出頭した被告人又は弁護人に前回の公判期日における審理に関する重要な事項を告げなければならない。」こういうことにいたしまして、不出頭の被告人、弁護人の保護をはかつておるわけであります。なおさらに第五十一條の規定を設けまして、公判調書が完成した後におきましても、あるいはその記載に誤りがある場合があり、または重要な点において脱漏がある場合がある。そういうことがありますので、そういう場合を慮りまして、檢察官被告人または弁護人は公判調書の記事の正確性について異議を申立てることができる。異議の申立があつたときは、その異議の申立があつたこと及び、どういう異議の申立があつたか、そういう内容も調書をつくつて整えておかなければならない。こういうことになつておる次第であります。これが結局この控訴のところの原記録に現われた事実という点に響いてくるのでありまして、こういうような手続によつて、この控訴の非常に嚴重になつておるような点も、被告人並びに弁護人側において第一審において精力を集中しまして、できる限りの主張をし、また証拠調べの請求等をしておけば、それを二審に至つても援用し主張することができることになつておりますので、運用においては、さほど苛酷になるようなことはないものと信じておる次第であります。
  123. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはこの間あなたにもずいぶん聽いたのですが、またいろいろな疑問がありますが、第一に、先ほど総裁に承つたのですが、三百九十四條に基きまして、「第一審において証拠とすることができた証拠は、控訴審においても、これを証拠とすることができる。」これは、ただこの証拠を援用するということは問題ではありませんが、そこで、これは実際問題でないと、抽象的に申してもわかりませんが、ここにいてありますけれども、この内容はこういうものです。この証拠をもつてきて、ここに有罪の決定をしてあるが、これはそういうことにできないのだ、これは無罪であるべきものだ。こういう主張をするとか、もしくは先ほどつた、なるほど調書にはこうやつてつているが、これは事実と違つておりましたので、これはこういうことであります、だからこれを調べてもらいたい。こういうようなことなどもできるのでありますが、内容の取調はしないのだ、出ておるものだけでやるのだ、こういう意味でありますか。これからまず確定してもらわなければならぬ。
  124. 野木新一

    ○野木政府委員 まず第一次的に申しますと、控訴裁判所は、訴訟記録及び原審で調べた証拠、結局証拠物のようなものが実際問題になると思いますけれども、それを調べてみまして、控訴人の言つておる主張を考えてみても、その記録に照らしてみて、はたして控訴人の言つておる主張が認められるかどうかという点を基準にして調べてみるわけであります。そうして、しかしどうも記録だけでははつきりしない、この点をなお調べてみないと、どうもはつきり決定できないという場合には、それは却下かあるいは原判決を破棄するか維持するかを決定できない。原判決を維持するか、あるいは破棄するかを決定するためには、なお記録のほかにこの点を調べなければならぬというような場合には、いわゆる事実の取調をすることができるという規定によりまして、あるいは証人を呼んで調べるとか、そういうことができるわけでありますが、それはこの建前におきましては、あくまで職権でやる、当事者はしかし別に職権の発動を促す意味で、これを調べてくれと言うことはできる。それでありますから、もし当事者の言つておることが非常に重大なものであるならば、裁判所は当然職権で調べなければならない。結果的に申しますと、そういうことになるかと思つておる次第であります。
  125. 鍛冶良作

    鍛冶委員 大分わかりましたが、そうすると、三百九十四條の証拠とすることができるということは、証拠にするという意味は、原審のままそのままを証拠にするという意味ではなくて、証拠である以上は、それについての証拠調べもでき得るのだ、但しそれは三百九十三條に基く職権で調べるのだ。こういう解釈でよろしゆうございますか。
  126. 野木新一

    ○野木政府委員 三百九十四條の規定を置きましたおもな目的といたしましては、たとえば、この規定がありませんと、たとえば三百二十一條の第一項第三号の例をとつてみますと、供述者が國外にいるため、公判準備または公判期日において供述することができない、そういう條件がある場合に、第一審ではそういう條件が存在したために、たとえば檢察官の聽取書を証拠にとつた。ところが控訴審に行きましては、その人は帰つて來ておるといたしますと、三百九十四條の規定がありませんと、もう控訴審へ行つては、その聽取書は証拠物ではないのじやないかという疑いが出るというような点が一つ。そういうような誤解をなくすために三百九十四條の規定を置いた次第であります。
  127. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それはわかります。從つてこの証拠とするというのは、そのまま証拠とするのでなくて、そういう必要があれば、さらに進んでその証拠の内容に対しても取調べができるのだ、こう解釈してよいだろうと思つて、その点を聽いたのです。
  128. 野木新一

    ○野木政府委員 その点につきましては、むしろ三百九十三條で、職権で事実の取調べをすることができるという点で、その事実の取調べという中には、たとえば人を証人として呼んで調べる。そういうことも含むわけでありまして、今のような調書が証拠になつておるような場合におきましても、証人が帰つて來たというような場合には、場合によつて裁判所は三百九十三條の規定によつて、その帰つて來た証人を職権で調べることができる。そういうような関係になつておるのであります。
  129. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで今度は第一審において証拠としたものでありまするが、第一審において出し遅れた、もしくは現われなかつたもので、今度出てきたら、さつき総裁はやつてもよかろうというふうに聽きましたが、もう一遍はつきりしておきたいと思いますが、いかがですか。
  130. 野木新一

    ○野木政府委員 第一審で主張もせず、また從つて証拠調べの請求もしておらなかつた事実もしくは証拠につきましては、この控訴趣意書という制度を設けました以上、控訴人は権利として裁判所に向つてこれを主張し、もしくはその取調べを請求するということは、できないわけでありますが、先ほど申し上げましたように、裁判所が原判決を破棄する事由があるかないかを調べるために必要な場合には、職権で事実の取調べをすることができる。そういうことになつておりますので、裁判所は職権でそういうものについて、事実の取調べをする。そういうことは当然この規定としても、予想しておるわけであります。すなわち職権では新たな証拠もこれを調べることができる。そういうことになるわけでありまして、從つて当事者側としては、その職権の発動を促すということはできる。そういうことになつておるわけであります。
  131. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、却下せられたらもうそれで異議の申立はできませんね、職権ですから……。そこでそういうことになると、ぜひともやつてもらいたいということを、職権でなくて、当事者からでき得るということにしますれば、これではできませんでしようか、新たにやるということにしては、この改正法律案建前から、非常にぐあいの悪いことがありますか。それともそういうものを当事者の申立で処分ができるとしたら、それくらいのものはいいと思いますか。
  132. 野木新一

    ○野木政府委員 この控訴制度の立案の趣旨には——趣旨というのは崩れてくるわけでありますが、技術的に申しますと、控訴趣意書を出すという制度をとつていまして、控訴趣意書には、訴訟記録及び原裁判所において取調証拠に現われておる事実であつて云々というようなことになつております。そこと衡突しておる、そういうような関係になるわけであります。
  133. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ただそうすると、趣意書に、原判決の場合はこれだけでありましたが、これこれの事実があることであつて、それにはこの証拠があるということがわかります。こういうので、原判決に含んだ事実をさらに立証する意味において附け加えるということになつたら差支えないのじやないですか。
  134. 野木新一

    ○野木政府委員 原審の訴訟記録に現われておる事実であるならば、控訴趣意書に書いてこれを主張することができると思います。ただその主張事実に対する証拠というものを、もし原審に出していなかつた場合に、その証拠を出し得るかという点につきましては、先ほど申し上げましたように、裁判所の職権の発動を促すという意味のことはできるわけで、それ以外にはちよつとむずかしいと思つております。なお附け加えて申しますが、裁判所が完全な常識と申しますが、心構えをもつて動くということを期待しますれば、いやしくも実際事実に変更を加える必要があるというような場合には、裁判所も当然職権でこれを調べる、そういうような運用を期待しておるのであります。
  135. 鍛冶良作

    鍛冶委員 この訴訟記録及び原裁判所において取調べた証拠の現われておると書いてありますから聽くのでありますが、訴訟記録に現われておる事実で、なお証拠としては不十分な点があると思いますか。これこれの証拠がありますと言つてみたところで、大した訴訟事案になるとかいうこともないように思いまするけれども、やはりそれは根本方針に違いますか。
  136. 野木新一

    ○野木政府委員 この控訴審の控訴は、まず第一に原判決の当否を調べるのが目的でありまして、事件の内容にはいつて、あるいは刑を言渡し、あるいは無罪にするということは、直接の目的ではないわけであります。從いまして、事実の取調べと申しましても、直接に意図するところは、原判決の当否を決定する限度において、事実の取調べをするという建前でありまして、たとえば原判決の窃盜は間違いで、強盜に認定した方がいいというような、積極的認定のための目的ではないわけであります。從いまして、御質問の証拠の点につきましても、三百九十三條におきまして「職権で事実の取調をすることができる。」という建前にしておりますので、その半面当事者からは事実の取調べを要求するということはできないという建前になつておるわけであります。
  137. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それ以上はいくら議論しておつてもしようがありません。要するに私らの考えは、職権でやれるならば、当事者の申立てた通りつたらいいじやないかと思うのでありますが、そこまで明白になればよろしゆうございます。あとは考えまして、あなた方の方でもお考えつておきたい。この法律建前はそうであることははよくかりました。その点で議論のわかれるところであります。  そこで続いて伺いたいのは、三百七十六條に書いたありまする疎明資料または保証書というものでありますが、これは今までなかつた新しい制度でありまして、これは三百七十七條以下にあるのだろうと思いますが、どれが疎明資料として現われておるのか、どの程度のものであるのか、保証書というのは、どういう形で出るのか、どうもはつきりわからぬのでありますが、これは一つ明確なる標準を聽かしていただきたいと思います。
  138. 野木新一

    ○野木政府委員 まず疎明資料というのが出てきますのは三百八十三條でありまして、たとえば再審の請求をすることができる場合にあたる事由があるときには、控訴を申立てすることができる。その場合には控訴趣意書に再審の請求をすることができる場合にあたる事由があるという、何らかの疎明する資料を添附しなければならない。これを申しておるわけであります。  それから保証書を要求しておりますのは、三百七十七條でありまして、この保証書というのは、たとえば三百七十七條の第二号の場合を考えてみますと、法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したということになつております。これは第二章の第二十條に裁判官が除斥される場合を規定してありますが、このことは必ずしも訴訟記録等によつてはわからない場合がありますので、この三百七十七條第二号の規定によつて、控訴申立をする場合には、その裁判官がたとえば被害者の親族であるというような場合を考えてみますと、保証書によつて、公判になつたならばその点の資料を出して見せる、そういう趣旨の一種の誓約書を出すわけであります。それがここにいう保証書ということになる次第であります。
  139. 鍛冶良作

    鍛冶委員 わかりました。そこで三百七十六條に「この法律又は裁判所規則」とあるのですが、法律は今おつしやつた通りですが、ほかに裁判所規則で、そんなようなことを要求される場合は、どんなようなことを予想できるのでありましようか。
  140. 野木新一

    ○野木政府委員 裁判所規則によつて、これ以上に疎明資料なり保証書をつれる場合に、いかなる場合かということは、今さしあたつて具体的には予想しておりませんが、たとえば裁判所規則の定めるところによりというのが、その訴訟期日とか、少くともいろいろな点をきめ得る、そういう点の含みをもつておる次第であります。保証書について提出のこまかいいろいろの規定でありますとか、そういうことは、今少くともここで予想していないわけであります。この法律規定しておる場合以外の場合において、新しく疎明資料または保証書をつけるというようなことは、今のところは具体的にどれがそれだということはまだ考えておらない次第であります。
  141. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで問題になつてきますのは、保証書にどういう責任を負わせるつもりか知れませんが、もしも保証書のごとくできなかつた場合、ただ單に徳義上の責任を負わすのか、それとも何か法律上特別の効果を認めておられるか。
  142. 野木新一

    ○野木政府委員 保証書の通りできませんでしたら、これに対する過料とか刑罰とか、そういう制裁は規定しておりません。ただ控訴が棄却せられるとか、そういう意味の不利益をこうむることになるものと思います。
  143. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、やはり控訴理由の一つになるわけでありますね。名前は保証書と書いてありますけれども……。
  144. 野木新一

    ○野木政府委員 控訴の理由と申しますか、要するに控訴趣意書の一つの方式に属することになると思います。
  145. 鍛冶良作

    鍛冶委員 上告の場合にわからぬ條文が一つあるのですが、第四百十一條「上告裁判所は、第四百五條各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義の反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。」この正義という意味はどういう意味ですか。ちよつと今までない文字でありまして、社会的通念の、前から言つておるような原則を言うのでありますか、それとも倫理的の意味を含めておるのでしようか。
  146. 野木新一

    ○野木政府委員 この「著しく正義に反すると認めるときは、」というのは、倫理的の正邪善悪とというような意味合はないのでありまして、やはり刑事裁判を運営していく上におきまして、社会通念から見て、どうしても放つておけない、看過できない、そういうような場合のことを考えておる次第であります。
  147. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは前からよくありました社会通念上、正義の原則の反するとか、そういう意味でよろしいのですか、何かもつと深い意味があるのですか。
  148. 木内曾益

    木内政府委員 これは大体御質問の御趣旨のようなことでありまして、相当廣く解釈をもたしておるわけであります。そうして先ほど來、いろいろ御説明がありましたが、いわゆる上訴審というものを、相当制限をしておりますが、これで非常な幅をもたせようという含みも多分にあるのであります。
  149. 鍛冶良作

    鍛冶委員 かような原則に反するものは破棄するのが当然でなければならぬと思います。ところがここには「破棄することができる。」となつておる。こういう原則があつても、破棄せぬでもよいということを裏書きしておるようであります。ここに疑念をもちます。こういうことは、判決をもつて破棄しなければならぬと思います。
  150. 野木新一

    ○野木政府委員 御趣意まことにごもつともと存ずる次第であります。ただ四百十一條におきまして「破棄することができる。」と書きましたのは、その冒頭が「上告裁判所は、第四百五條各号に規定する事由がない場合であつても、」とありまして、上告裁判所の第一の問題とするところは、四百五條各号に規定するような点を論ずるのが第一の場合でありまして、四百十一條というのは、それのいわば補充的につけたような形でありますので、原則の方との関係上、「破棄することができる。」と書きましたのでありまして、趣旨としては、いやしくも著しく正義に反すると認めた場合には、破棄しなければならないという結果になると思つておる次第であります。
  151. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ちよつとわからなかつたのですが、これはこういうように承りたいと思います。四百五條の各号の事由というのは、上告趣意書にこれを規定するわけでありますか。そうすると上告趣意書になかつた場合でも、裁判所みずからがこれを取調べて著しく正義に反しておると認めたら、破棄ができるのだ、こういうように解釈してよろしいのですか。
  152. 野木新一

    ○野木政府委員 さようであります。
  153. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうでありますと、さらに進んで正義に反すると認めるときは、破棄しなければいかぬのだ、こう言わなければならぬのじやないかと思う。この点に対してあまりこまかい点でなくして、簡潔な御答弁を願いたい。
  154. 野木新一

    ○野木政府委員 上告裁判所が原判決を破棄する。原則的の場合は四百五條に掲げておる自由に当る場合であります。四百十一條はどちらかというと、例外的の場合でありますので、例外的と申しますか、補充的と申しますか、「第四百五條各号に規定する事由がない場合であつても、」そう書き出したもので、その言葉を受けて「破棄することができる。」というように表現したわけであります。趣旨といたしましては、御説の通りでありまして、最近におきまして、「と認めるときは——破棄することができる。」というような権能的の書き方にうる場合もありますので、前後の文章の後からそういたしたわけであります。
  155. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすれば破棄することができるとは書いてあるが、前の文章の続きで書いておるのであつて、正義に反するときは破棄するのだ、かように解釈してよろしゆうございますね。
  156. 野木新一

    ○野木政府委員 さようであります。
  157. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それから四百十五條がわからぬのですが、「上告裁判所は、その判決の内容に誤のあることを発見したときは、檢察官被告人又は弁護人の申立により、判決でこれを訂正することができる。」これは何ですか、上告裁判所の判決をみずから訂正するのですか。また上告を破棄するまでもないが、原判決が單なる誤りであるというので、訂正できるというのですか。この点はつきりいたしません。
  158. 野木新一

    ○野木政府委員 御説の前者の方であります。
  159. 鍛冶良作

    鍛冶委員 上告裁判所だけなんですね。
  160. 野木新一

    ○野木政府委員 さようであります。
  161. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、上告裁判所以外の判決は、どういうことになつておりますか。
  162. 野木新一

    ○野木政府委員 上告裁判所以外の下級の裁判所の判決におきましては、もし誤りがあるならば、上訴の手続によつてこれを救済する途もありますので、このような制度を置きませんでした。ただ上告裁判所の判決に対しては、すでに上訴という制度がありませんことと、上告裁判所の裁判官は最も権威ある人が集まつてつて、誤りということはほとんどないと言つても過言ではないと思いますが、何分人間でありますので、ときとして誤りがあつたような場合に、それを是正する途を開いておいた方がよいのではないか、そういう趣旨からこの規定はできたのでありまして、これまたアメリカの方の制度にならつたものであります。
  163. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、下級審の裁判であれば、上訴によつて訂正する。そうすると高等裁判所の裁判に対して上告があつて、上告裁判で、これが誤りだつたということになると、訂正はこの規定でやらないで、どれかほかの規定でやるのですか。
  164. 野木新一

    ○野木政府委員 高等裁判所の判決に誤りがあるような場合には、上告裁判所で原判決を破棄する等の手段によつて、これを是正することになるのであります。
  165. 鍛冶良作

    鍛冶委員 続いて四百三十條でありますが、第三項の「勾留に対しては、前項の規定にかかわらず、犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告をすることはできない。」これはどういう意味です。前項の規定にかかわらずというのは、勾留に対して一切、犯罪の嫌疑がないという理由で抗告はできないのだ、こういう意味なのでありますか。それとも何かほかの理由があればやれるという意味でありますか。これがわからぬのです。
  166. 野木新一

    ○野木政府委員 四百二十條第三項の規定趣旨は、お説のように、勾留に対しては犯罪の嫌疑がないということを理由としては抗告することができない。しかしそれ以外のことを理由といたしましては、四百二十條第二項の規定によつて抗告ができる。そういう趣旨であります。すなわち逆に申しますと、勾留に関しては、四百二十條第二項の規定で、一般定的に勾留に関する処分については抗告ができることになるわけであります。そうして第三項の規定によつて、その一部を打消しまして、犯罪の嫌疑がないという理由では抗告することができない、そう規定した次第であります。その立法の趣旨といたしましては、犯罪の嫌疑の有無ということは、まさしく本來の裁判所が決定すべきものであつて、このような抗告審のような派生手続できめるべきものではない、そういう思想に出ておる次第であります。
  167. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、前に勾留に関する異議の申立であるとか、取消の申立であるとか、開示の申立であるとか、そういうものはここで排除する何ものもないわけでありますね。
  168. 野木新一

    ○野木政府委員 さようであります。
  169. 鍛冶良作

    鍛冶委員 まだたくさん、やればやれますが、あまり長くなつてもいけませんから、きようはこの程度で打切つておきます。
  170. 井伊誠一

    井伊委員長 これにて散会いたします。次回は明日午前十時から会議を開きます。     午後三時三十八分散会