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1948-06-23 第2回国会 衆議院 司法委員会 第39号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年六月二十三日(水曜日)     午前十時四十四分開議  出席委員    委員長 井伊 誠一君    理事 鍛冶 良作君 理事 石川金次郎君    理事 八並 達雄君    岡井藤志郎君       佐瀬 昌三君    松木  宏君       明禮輝三郎君    山口 好一君       池谷 信一君    石井 繁丸君       猪俣 浩三君    榊原 千代君       打出 信行君    中村 俊夫君       中村 又一君    吉田  安君       大島 多藏君  出席政府委員         檢 務 長 官 木内 曽益君         法務廳事務官  野木 新一君  委員外出席者         專門調査員   村  教三君         專門調査員   小木 貞一君     ————————————— 本日の会議に付した事件  刑事訴訟法を改正する法律案内閣提出)(第  六九号)  法務廳設置法等の一部を改正する法律案内閣  提出)(第一六五号)     —————————————
  2. 石川金次郎

    ○石川委員長代理 会議を開きます。  刑事訴訟法を改正する法律案について審査を進めます。鍛冶良作君。
  3. 鍛冶良作

    鍛冶委員 きのうお問いしておつたのですが、昨日聽いた被告人默秘権に相当疑問をもつてきたのであります。沈默する権利があつて、しこうしてそのことをぜひとも裁判所被告に告げなければならぬということを認める根拠は、一体どこから出ておるのでありましようか。まずその点をお伺いいたしたいと思います。
  4. 野木新一

    野木政府委員 この法文根拠を申し上げますと、第三百十一條第一項におきまして、「被告人は、終始沈默し、又は個々質問に対し、供述を拒むことができる。」という規定によりまして、いわゆる被告人默秘権を認めておる次第であります。この規定に照応いたしまして、三百九十一條第二項の規定を設けておるわけであります。
  5. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私の言うのは、三百十一條を設けなければならなかつた根拠を聽いておるのです。どうしてこういう規定を設けなければならなくなつたのか。そのことを聽いておるのです。
  6. 野木新一

    野木政府委員 根本的には憲法第三十八條第一項の「何人も、自己不利益供述を強要されない」というところがもとになつてきているのでありまして、立法政策上、多少これを布衍したと申しますか、この訴訟法におきましては、公判においては、被告人当事者的地位を現在の訴訟法よりも高める。そういう意味におきまして、「被告人は、終始沈默し、又は個々質問に対し、供述を拒むことができる」という規定を置いて、被告人の保護をはかつた。そういう立案の趣旨であります。
  7. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私もさようであろうと思つて、それで疑問をもつたのですが、憲法第三十八條には「何人も、自己不利益供述を強要されない」とあります。不利益供述を強要されないということは、言いたがらぬ者に、むりに言わせるようなことをしてはいかぬ。かように私は解釈いたしております。ところが沈默権利があるということになりますると、言いたがろうが、言いたくなかろうが、自己利益であろうが、不利益であろうが、おれは言わぬ。こういう権利を与えるということでありますると、憲法三十八條から見ればよほど大きなことになつております。これで弊害がないのならばよろしいが、昨日私が指摘しましたような実例等が出るということになると、この憲法三十八條をもつて三百十一條を設けられたということは、少し行き過ぎではないか、かように考えます。そこで何かこれ以外にやらなければならぬ、たとえば外國立法例とかその他の関係があれば、その点をお聽きしたい。こう思つて質問しておるわけであります。
  8. 野木新一

    野木政府委員 たしかアメリカの刑事訴訟手続におきましては、被告人証人となつて立てば、裁判所尋問を受けなければならないけれども、そうでなければ、いわゆる裁判所尋問対象にならない、そういうように了承しております。
  9. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ちよつと今のお話わからなかつたのですが、証人として喚ばれる場合は証拠になるが、しからざる場合は証拠にならぬ。そう言われるのですか。
  10. 野木新一

    野木政府委員 被告人自分で発言したいと思う場合には、証人自分がなるわけでありまして、証人とならない限りは、いわゆる日本の今までの被告人尋問といつたような、あれに類するような取調べは行われない。そういうことでございます。
  11. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると被告人取調べ対象証人としてやらう。こういうことになるわけですね。これは沈默よりもつとえらい。被告人は全然対象にしない。おろうがおるまいがかまわぬ。被告人はおらぬでよい。こういう意味ですか。
  12. 野木新一

    野木政府委員 そういう意味ではなくして、要するに日本では今まで被告人当事者であると同時に、証拠方法のように考えまして、被告人尋問という一つの制度的のものがあつたわけでありますけれども、英米法にはそういうことはありません。しかし被告人弁護人から見て、被告人にも陳述をさしたがよろしいと思う場合には、被告人証人として申請しまして、証人台の上に立たせる。そういう関係になりまして、その場合には被告人裁判所のもとに宣誓をし、裁判所尋問に答える。そういう義務が生ずるわけであります。このたびの案におきましては、わが國の実情に照しまして、被告人証人台に立たせるのは、まだまだ少し行き過ぎではないか。こういうことで証人には立たせない。ただ被告人供述を拒まない場合には、裁判所の方からこれを尋問する、供述を求めるということにしておけば、大体それで稀有な場合は除いて、運用上うまく賄つていけるのでないか、そういう考えのもとにこの案は立案されておるわけであります。
  13. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今の御説明でそこはわかりましたが、これはもちろん被告人尋問をもつて証拠方法とするということに対しては異議はないのであります。証人ということはこれは大なな問題で、はなはだ私らの今まで考えておりまする証人というものの観念と違いますが、それは議論になりまするからきようはやめますが、私の最もここで問わんとするところは、昨日言つた量刑資料にするということならば、それは默つてつてもよいのですか、言わぬでも、無理には強いないということでいかがかと思う。それ以外のことまでも三百十一條にあるように、終始沈默するということはどうかと思うのですな。これは初めから全部言わぬでよい、そういう権利被告人にあるのだという、今おつしやつたように、被告尋問をもつて証拠資料とする、証拠方法一つとすることはいかぬ。從つてそのために、被告尋問を強いることはいかぬ。これはわかりますが、初から終りまで默つてつてもよいのだ。しかもお前には默つてつてもよいという権利があるのだ。こういうことはどうもこれでは出てこないように思う。私はこれに弊害が伴わなければ言わぬが、大きな弊害が伴うことを予想できるので、昨日から法廷闘爭というようなことを使われておるが、これは最も大きな闘爭の材料に使われると思う。
  14. 野木新一

    野木政府委員 実は現在の訴訟法におきましても、被告人が終始默つておる限りは、これにむりに口を開かせるわけにはいかないわけでありまして、もし被告人默つていようとする意思が強ければ、この案のように三百十一條規定をおこうが、あるいは現行法のようにこういう規定がなかろうが、結果においては同じになるのではないかと存ぜられます。それからなおたとえば被告人住所とか、氏名とかいうものも、場合によりましては、被告人がその罪を犯したということを認めるということについて、重大な関係をもつ場合もありまするので、それはむしろこういうように廣く規定しておいた方が、被告人利益をはかるゆえんであるし、また実際の運用におきましても、こうしておけば大部分は住所氏名とか、そういう枝葉の点については、沈默をするというようなことはないだろうと、了承しておる次第であります。
  15. 鍛冶良作

    鍛冶委員 あまりくどいことは避けますが、今言う住所氏名のごときは、何ら証拠方法その他には関係のないことでありまして、もし私の言うようにすれば、そんなことは何も言つたつて言わぬたつて利益にも不利益にもならぬじやないか、こういう方が私は裁判をやる上においてよいと思う。ところが初めから言わぬでも権利があるのだ、そういうことになれば強いて口を開けて言わせるわけにもいかぬ。これは事実問題で法律問題ではない。そんなことまで默つておることはないじやないか。こういうことを認めることが裁判を進行する上においてよいと私は思うから申し上げるのであります。  それからもう一歩進んで私の深く憂いましたことは、言うことは言つてもいいが、都合の惡いことは言わんでもよろしい、こういうように聽えるのです。そうなりますと被告本人はどう思うてそうするかはしれませんが、われわれ弁護人の側から、ほかのところはしやべつていながら、そこのところだけ言わなかつたとすれば、かえつて不利益になることがあり得ます。それからこういうことを認めてやることにおいて、あべこべに反証、不利益のあることが予想できます。ほかのことを言つてそこだけは言いませんと言えば、もう言わぬでもわかつてくるということになる。しかしそういう場合は憲法三十八條によつて、強いてとは言われません。ここらはある程度のめどを設けて、この範囲ならば言わぬでもいいのだが、ほかのことは差支えない限り言つてもらはなければならぬと、こういくことが順当でないかと考えますので、この点に対するあなた方の御意見だけ聽けば、これはこれ以上の御答弁は求めません。
  16. 木内曽益

    木内政府委員 先ほど來野木政府委員からるる御説明申し上げたわけでありますが、なお重複するかもしれませんが、私からも一言御説明申し上げたいと思うのであります。  先ほど住所氏名等は大して犯罪にも関係ないのではないかというふうなお尋ねのようにお伺いいたしましたが、しかしながらこの影響があるかないかということは、被告人本人の主観的な考えであつて、これを客観的に判断していくことは困難であろうと思うのであります。たとえば住所の場合でありますと、その住所を申し述べたことによつて自分のおる所がわかり、あるいは場合によつては捜索を受けることもあり得るでありましよう。そうすればあるいは自分の所から不利益証拠が出てくることになれば、自分住所を述べたために、自分犯罪事実に重大な影響を來してくる場合もあろうと思うのであります。氏名等につきましても、自分氏名がわかつたことによつて不利益になりはしないかという主観を被告が懷いた場合においても、私は憲法三十八條精神からこれを言わせるようにすることはできないのではないかと考える次第であります。それから御承知通り公判廷においては当事者訴訟主義になつておるのでありまして、被告が言わなければ、その点について原告官たる檢察官立証責任があるわけでありまして、檢察官の方から、この人間の言わない点についてできるだけの捜査をして、証拠を公廷に出すということによつて、円満に公判が進行できるのではないかと考える次第であります。なお默秘権をまつこうからこれを認めておるといたしましても、被告人はおそらく自分利益になることなら進んで言うだろうと思うのであります。そこで都合の惡いことは言わない、こういうことになつてくれば、先ほどのお話では、あるいはそのために被告に逆に不利益な心証を得ることがあるのではないかという点を御心配のように私は了解いたしたのでありますが、そこで弁護人が必要になつてくるわけでありまして、そうしてとにかくこの訴訟法におきましては、強制弁護範囲を非常に拡張いたしておる。この点を認めておるという点は、要するに憲法三十八條趣旨等も考慮いたしまして、そうしてこの強制弁護の制度を拡張いたした。そこで弁護人被告人に注意してやるというのが、弁護人の私は義務であろうと考えるのであります。
  17. 鍛冶良作

    鍛冶委員 大体にしておきますが、そうすると弁護人は、被告人はいやだというが、君言うた方がよいと言うのはそれは差支えないのですか。
  18. 木内曽益

    木内政府委員 それはよろしうございます。
  19. 鍛冶良作

    鍛冶委員 次にお伺いしたいのは、四十八條規定してあります公判調書に記載する重要な事項という点であります。これも昨日來議論いたしましたが、裁判所規則に委ねるようになつておりますが、現在立法者として重要なる事項とはどの程度のものとお考えになつておるのでありましようか。まずその点からお伺いしたい。
  20. 野木新一

    野木政府委員 現行法第六十條第二項に、公判調書記載事項が掲げてありますが、おおむねこの程度のことになろうと思います。それから次に訴訟審構造本案のようになりました以上、第一審の公判記録というものは、現在以上に愼重、的確につくられなければならないことは、この訴訟法全体の構造から出て來る当然な要請になつてきます。
  21. 鍛冶良作

    鍛冶委員 公判調書、本訴訟の一貫したる趣意は、すべての取調べ基礎調書に基くということになつております。從いまして調書によつていかなるものを記載すべきかということは、その次に來るべき段階の訴訟手続が、殊に上訴至つてはなおさらでありますが、その根本をなすものであります。從つて訴訟根本的基礎といつて過言でないと思う重要な事項でありますが、これを裁判所ルールに任されたということは、私はちよつと腑に落ちないのであります。どういう意味裁判所ルールにお任せになつたか。
  22. 野木新一

    野木政府委員 公判調書にいかなる事項を書かねばならぬかということについては、本案の四十八條第二項において「公判期日における審判に関する重要な事項を記載しなければならない。」ということになつておりまして、この規定によりまして重要な事項と申しますれば、現行法六十條第二項に掲げてあるような事項はおおむねこれにあたりますし、そのほかなお訴訟手続が変りましたために、それから裁判所書記訓練などが向上するに從いまして、記載事項に多少條件を加えるというようなことも考えられますので、「裁判所規則の定めるところにより、公判期日における審判に関する重要な事項」というわくをはめておきますれば、かえつて今後の進歩のためにはよろしいのではないか。それからなお被告人側利益を害することもないのではないか。そういう考えのもとに、四十八條第二項のように「裁判所規則の定めるところにより、」というようにいたした次第でございます。
  23. 鍛冶良作

    鍛冶委員 立法者としてのお考えは今承りましたが、私のここで問わんとする要点は、この後における訴訟根本基礎になる調書記載事項裁判所都合によつてなし得るとか、訴訟を進める上の便宜でやるとかいうものとは違う、訴訟根本である、かように考えてみますると、根本法たるこれに規定すべきものであつて、他の裁判所ルール規定すべきものでないと、かように私は考えますから質問いたしておるのであります。これは裁判所ルールにしてもよいのだというその根拠を承りたい。こう申しておるのであります。どういうものを記載するかということは先に伺いました。
  24. 野木新一

    野木政府委員 その点につきましては、本案につきましても四十八條第一項におきまして、「公判期日における訴訟手続については、公判調書を作成しなければならない。」と書き、なお先ほど申し上げましたように、第二項におきまして、「公判期日における審判に関する重要な事項を記載しなければならない。」とし、その他五十條、五十一條等によりまして、証人供述等は当然これに記載されねばならないということが、間接にせよはつきり出ておりますので、これで基本的事項は大体法律規定せられているのではないか。あとは大体このわくのもとにおいて、具体的にこまかい点を規定するのであつて裁判所規則に任してもよい、そういう考えのもとに立案しておる次第でございます。
  25. 鍛冶良作

    鍛冶委員 われわれといたしましては、はたしていかなるものが記載されるのであろうか。この後における訴訟進行状態考え、または唯一の基礎となる調書でありますがゆえに、重大なる関心をもちます。しかるにこの基本法たる訴訟法を審議する上において、そのことはどうなるのかわからない、いずれ裁判所ルールが出ればわかるのだ。これでははなはだ私は心もとないと考えます。私はこのことは裁判所ルールに任すことは不穏当だと考えまするが、かりにルールに任してよいものといたしましても、われわれは本法を審議する上において、これを知らなくてははなはだ困ると考えまするが、これはあなた方の方でどうお考えになりますか。
  26. 野木新一

    野木政府委員 その点につきましては、一般に憲法ルール制定権ができたことに起因して、同樣の問題が起つてくるわけでございますが、この四十八條のような書き方になつておりますれば、ルールはこのわく内で、しかもこの精神從つてつくられなければならないわけでありますが、そう御心配になるような結果が生ずることは万々ないと確信しておる次第でございます。
  27. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはあなた方としてつくられた以上は、そうお思いになるでしようが、われわれとしてはこれを究めなければ、今後訴訟を進行する上において、基礎になるのははたしてどういうものかということがわからなければ審議できないと言つて過言でないと思います。これはきのうも申し上げましたように、裁判所ルールとの関係において憂慮にたえない。そんなものは要らぬのだと言われて、上訴へ行つて探そうと思つても困るというようなことでは、たいへんだから、これは何としてもある程度のものを表わしてもらわなければ、私は本法の審議はできぬとかように考えます。これ以上は議論になりますからやめますが、その点篤とお考えを願いたい。  次に私の承りたいのは四十九條で「公判調書朗読を求めることができる。」こうなつておりまするが、現行刑事訴訟法でもよく問題になるところでありますが、公判調書とあります以上は、しかも朗読ということでありまするから、調書ができておるものと心得るのでありまするが、たしかこれは当日でしよう。これは後日という意味ならば別ですが、どうもこれは当日だろうと思うのですが、これはやはり調書ができたことを前提としてできているのでありますが、またそうだとすればはたしてこれはできますか。
  28. 野木新一

    野木政府委員 公判調書の作成につきましては、第四十八條第三項におきまして、「公判調書は、各公判期日後できる限り速やかに、これを整理しなければならない。」と規定しておりまして、その公判期日その日にできるということは、一番望ましいのでありますけれども、事実上そういうこともできかねますので、ただいま申し上げたような規定になつておるのであります。ここにおきまして第四十九條におきまして、公判調書朗読を求めることができるという点は、これは公判調書ができてからの問題と御了承願いたいと思います。
  29. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それならば五十條で足りるのではありませんか。四十九條の場合は、どんなものができたのですか、ひとつ読んで聞かせていただきたいと言われれば、読んで聞かせなければならぬ。次回でいいというならば五十條で足りる。
  30. 野木新一

    野木政府委員 五十條及び整理後の五十一條等と関連して読みますれば、四十九條当該公判期日において、前の公判期日公判調書ができておるということを前提として、ただちにその日に閲覽を求め、または朗読を求めるという趣旨でないことはおわかりになるのではないかと存ぜられます。
  31. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私はそれがわからぬからお聽きしたいのである。
  32. 野木新一

    野木政府委員 ただいまの点について重ねて御説明申し上げますと、順序的に申し上げますと、公判調書が事実上は当該公判期日整理されることはほとんどなくて、その期日後速やかに整理される、そういうことになるわけであります。しかし次回の公判期日準備等のために、前回公判期日でどういう取調べがなされたかということを知る必要がありますので第五十條の規定がありまして、この規定によりまして公判調書ができていない場合には、弁護人側からの要求があつた場合に、証人供述要旨を告げなければならない。それで弁護人側は大体前回取調べがどういうように行われ、また自分が重要であると思つた供述要点が、正確に公判調書に記載されることになつておるかどうかということを確かめることができるわけであります。それからさらにその後になつて公判調書がいよいよでき上つたときを考えますと、弁護人は別に公判調書、いはゆる訴訟記録を閲覽する権利がございまして、弁護人がついておるという場合は、割合問題ございませんけれども、弁護人がない場合には、被告人自身公判調書を閲覽するという権利は、第四十九條規定において初めてこれを認めておるわけであります。被告人でございますから、公判調書を閲覽するについて弁護人と同じように自由に閲覽させたりして、その間いろいろ誤りが起つてはならない。そういう心配がございますので、「裁判所規則の定めるところにより」ということにしまして、その手続をきめるということになつておるのであります。そうして弁護人及び被告人四十九條規定によつてでき上つた公判調書を閲覽し、そうしてそれになお間違いがあるという場合には、整理後の第五十一條規定によりまして異議申立てをして、どういう点が間違つておるかという点について調書をつくつてもらう。そしてそれが公判控訴審においてこれを援用することができる。そういう関係になつております。
  33. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうしますと四十九條はそのときでなくてもいい、あとのときでもいいのだ、こういうことに聽くよりほかはございませんね。
  34. 野木新一

    野木政府委員 さようでございます。
  35. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると五十條に基いて、次回の公判期日において前の供述要旨を告げることになりますが、それを告げてもなお読んで聽かせていただきとうございますと言われれば、読んでやらなければならぬことになります。次回であろうが三回であろうが、そう言われたらいつでも読んでやらなければならぬ、こう解釈してよろしゆうございますか。
  36. 野木新一

    野木政府委員 さようでございます。
  37. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで五十條に移りますが、公判調書が次回の公判期日までに整理されなかつたときは、裁判所書記はただ請求によつて次回の公判期日において、またはその期日までに前回公判期日における証人供述要旨を告げなければならぬ、これはちよつとわからぬです。次回の公判期日までに整理ができなかつたら、次回の公判期日において要旨を告げる、こうなつております。そうするとこれは調書に基づかないで要旨を言うことなんですか。
  38. 野木新一

    野木政府委員 五十條の場合におきましては、まだ公判調書整理されていない場合を考えての規定でございますから、裁判所書記公判調書の原稿その他によつてその要旨を告げるという趣旨でございます。
  39. 鍛冶良作

    鍛冶委員 さように解釈いたしますと、精神としてはできるだけ早く公判調書をつくらなければならぬ、こういうことになつておるのだが、できなければ要旨さえ告げておけばいつでもいいのだ、このように聞えますが、もしそうだとすれば、これはどうも前からわれわれが最も憂えておつたところと一つも変らないことになりますが、これはどうでしよう。四十八條の「速やかに」ということは、ほとんど精神的なものになつてしまうと思いますが、いかがですか。
  40. 野木新一

    野木政府委員 第四十八條第三項に相当する規定として、現行法第六十二條におきましては、「公判調書ハ公判開廷日ヨリ五日以内ニ之ヲ整理スヘシ、」こういう條文があつたわけでございますが、書記手不足等のために、この規定がほとんど有名無実になつておるということは御承知通りでございます。今回も「できる限り速やかに、」としないで、あるいは日を限つたらどうかという議論もありましたが、今言つたような現状に鑑みまして、法文の上には「できる限り速やかに、」としておいて、裁判所規則書記訓練、向上及びその充員等と相まつて、漸次これを短かく切り上げていつたらどうか、そういう考えのもとに、法文では「できる限り速やかに」といたしたわけであります。  それから第五十條の規定をおきましたのは、ただいま申したように、公判調書はできる限り速やかに、その翌日くらいにできれば一番結構だと存じますが なかなかそういきませんという現状と、それからいつまでも公判調書ができなくて、次回の審理等のため、檢察官もしくは弁護人側にいろいろな不便を与えてはいかぬ、そういう点を考慮しまして、両者を調整する意味で、五十條の規定が設けられておるわけであります。もし次回の公判期日までに、公判調書整理ができておりますならば、弁護人裁判所においてその調書を閲覽することができ、また被告人も第四十九條規定によつて、これを閲覽しまた朗読を求めることができ、しかも公判調書の記載の正確性について異議があつたならば、この五十一條規定によつて異議の申立をすることができる、そういうふうな仕組になつておるのでございます。
  41. 鍛冶良作

    鍛冶委員 その仕組にわれわれはなはだ疑念をもたざるを得ない。現行刑訴法でわれわれ終始問題にするところであります。五日と書いてあつても実行できない。実行できないからといつてこれはできぬでもいいのだということになれば、私が先ほど言つたように、「速やかに」ということは精神的な問題になつてしまう。われわれはこれが実行できないものだから非常に困ると言つて、何とか実行できるようにしてもらわなければならぬということを希つてつたものが、今できます新しい刑事訴訟法においても、それはできないならいつでもいいのだということになると、これは改惡になります。五日ということが無理ならば、少くとも次回の公判期日までにつくらなければならぬということでなかつたならばいかぬと思う。それのみならずこの條文の上から理窟を言いましても、五十條に基いて供述要旨を告げてもらつた、そうしてそれに対して異議の申立をした、こういたしましても、調書ができていないのですから、單に要旨なんだから、はたしてできたものにどういうことが表われるかわからぬ。架空の異議の申立にならぬとも限らぬ。動かすべからざるものに対して異議の申立をするならば、これは理窟に合いますが、はたしてどういうものができるかわからぬ。これは要旨だ、おそらく書記の書いてある鉛筆のメモをもつて答えられると思いますが、これが調書になればどういうふうになるかわからぬ。そんなものに異議の申立をしても架空のものになる。そういう憂は間違いないと思いますが、それとも私の言うことが杞憂であるというならば、の点をお聽かせ願いたい。
  42. 野木新一

    野木政府委員 その点につきましては、たしか昨日か本日でしたか、内閣印刷局案の五十條、五十一條の点の正誤表を差出しておきましたので、その正誤表の第五十一條をごらんいただきますと、御指摘の点が解決されておることになるのではないかと存じます。
  43. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうしますと今の四十九條要旨に対して異議の申立をしておいて、さらにそれでもいかなかつたら、この新しい五十一條によつて最終的の異議の申立をする、こう解釈してよろしいのですか。
  44. 野木新一

    野木政府委員 さような場合もあり得ると思います。
  45. 鍛冶良作

    鍛冶委員 いずれにいたしましても、われわれは多年はなはだ不便というか不都合だと思つてつた。次回公判期日までに調書ができないでさらに審理を進めるということは、不合理だと思つてつた。今度の改正にはさようなことを改められるものだと思つたら、できぬでもいいんだという規定をつくられるということは、まことにわれわれ心外にたえないのでありまして、これは、お互い相談もしますが、立法者としても篤と御考慮をお願いしたいと思います。  それからもう一つ、これは、改正要綱に出ておりました、速記で調書にかえることができるというようなことをやるつもりだつたのですが、今度はここへ出ておりませんが、規定には出ておらぬでも、速記をつけたら何かそれに法律的の効果を与えるということは考えられないですか。
  46. 野木新一

    野木政府委員 ただいまの御質問にお答えする前に、先ほどの説明を少し補充いたしたいと思います。この訴訟法の案のもとにおきましては、公判期日というものは、今までのように、第一回を六月一日に開き、第二回をあるいは七月中ごろに開き、第三回を八月に開くというようなことはあまり好ましくないと考えておる次第でありまして、できるならば連日、あるいは一日おきくらいに開廷して事件を進行させていく、そういうような形態をむしろ考えておりますので、公判調書が次回の公判期日までに整備されるということは、日本語の文字の関係その他から、なかなか困難ではないかということが予想せられますので、その間の欠陷を補うため、この第五十條の規定及び正誤表の第五十一條規定等を置きまして、今までの欠陷を補うことにしよう、そういう考えでございます。  なお速記の点でございますが、將來のいき方といたしましては、裁判所書記にも速記術を習わせまして、漸次速記式の調書をとつていくようにしたいというのが、今後の進むべき方向であろうと信じております。それまで、たとえば弁護人が随時つけた速記者のとつた速記録を公判調書にかえることができるかという点につきましては、それをもつて全部公判調書にかえるということは、この規定の立て方からむずかしいこととは思いますが、裁判所書記がそれを場合によつては援用し得るというようなことは、規則等の規定によつてその手続を定めればできることになるのではないかと存じておる次第であります。
  47. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今のお話ではちよつと疑問がありますが、現行法ではないことですからその程度にしておきまして、またもとへ戻りますが、なるほど公判を連日やるということになると、調書はできぬということは考えられますが、それでは、少くとも判決をするまでには調書はできなくてはいかぬものだと思いますが、これはどうですか。
  48. 野木新一

    野木政府委員 判決を言い渡すまでには調書が完成するということは、まつたく望ましいことでありまして、おそらく裁判所の実際の運用としても、そのような方向に向うものと信じております。ただ何か非常に例外的の場合に、判決の言渡しまでに調書ができなかつたという場合も考えられますし、また判決言渡し期日調書は、どうしても言渡しまでにはできない関係にありますので、そういう関係考えまして、実際論としてこの第五十一條第二項の但書のような規定を置いた次第でございます。
  49. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、これはまた議論が戻りますが、たいへんなことになりはしないか。判決の済んだあとで、新設の第五十一條によつて異議の申立をする、証拠について異論があるというようなことにしておいて、何の効果があるのですか。上訴のためにやるのですか。
  50. 野木新一

    野木政府委員 上訴審においてその異議の申立をしておけば、その点を記録に現わしておけば、十分援用することができる。そういう考えであります。
  51. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはどうもはなはだ心得ぬことになります。一体調書上訴のためにあるのですか。現段階における裁判の正確性を保たせるために、かような異議の申立なり何なりするのであつて、一番かんじんな調書が間違つてつても、上訴でやればいいということでは、上訴ができないものはどうしますか。泣き寢入りでありますか。これはどうも心得ぬことだと考えますが、いかがですか。
  52. 野木新一

    野木政府委員 この案におきましては、公判手続におきましては口頭主義をとつておりますので、当該判決裁判所といたしましては、全部口頭で聽き取るということが原則になつておるのでありまして、調書の正確な作成というような点は、むしろ上訴審の審判というような関係とか、あるいは再審などの関係もありますけれども、大部分は、上訴審というものがありますので、調書の正確性というものは一層担保されなければならないという関係にあるのではないかと存ぜられます。
  53. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうなると、今のあなたの御説明からいくと、調書というものは上訴のためだけにあるのですか。その次の五十二條はわれわれはさようには考えておらぬのであります。私はこの五十二條があるがゆえにこの調書を重要視するのであります。今あなたの御説明によると上訴のための担保のように聞えるのであるが、われわれはさようには考えておりませんが、いかがですか。
  54. 野木新一

    野木政府委員 もちろん当該審級においても、調書作成において公判手続が客観的のものに具体化されるわけでありますので、重要なものであることは言えると思いますが、訴訟法考え方として、どこで何がために一番重要かと言えば、やはりこの審級制度をとつておるという点において、調書の正確性というものは一番大事になるのではないか、そう考えておるわけであります。
  55. 鍛冶良作

    鍛冶委員 同じところであまり議論ばかりしては時間を食いますが、私らはさように考えません。裁判官はなるほど直接審理をしておるのだから聽いておる。聽いておるから調書がなくてよろしいと言うが、聽いておることと調書に現われたことと違つてくる。そうすれば聽いておることよりか調書が確実ということになる。それが第二審のためにのみということでは意味をなしません。また異議申立てるときは、調書に基かなければ異議申立てようがない。それではこれはまつたく空文になります。これはひとつあなた方の方でそういう説明を固守せられないで、虚心坦懐にわれわれの憂えておるところを御考慮願いたいと思います。なおしかしあなたの方で固守せられるならば、私は議論してもよろしゆうございますが、そうでないならば、そう議論ばかりに時間をつぶしておつてもいけないと思いますからやめますが、いかがでしよう。
  56. 野木新一

    野木政府委員 その点はあまり議論にわたりますので、ある程度に止めたいと存じますが、やはり訴訟法の理論といたしましては、かりにこれを一審に限るという裁判の場合を考えてみますと、調書の重要性というものは、他にだれか批判する者があつて、客観的にその手続なら手続が合法的に正確に行われたか。そういう批判を受ける。そういう場合を考えると、調書というものは非常に正確にできていなければならないわけになりますけれども、全然一審限りで、しかもそういうような批判ということを考えないならば、調書の重要性はずつと減つてくるのではないか。そういうことを申し上げたいそういうわけでございます。
  57. 鍛冶良作

    鍛冶委員 同じところを議論せざるを得ないが、これはまつたくわれわれ弁護人として殊に最重要なところなんです。なるほど先ほど言つた裁判官が直接審理に立会つておるから、聽いておるからいいのだということは、弁護人の立場から見ますと、あの証言が裁判官にどう頭にはいつておるだろうか、これが一番われわれの氣になるところであり、知りたいところである。それによつて裁判がいかに出るかということがわかつてくる。それを何で判断するかといえば、調書以外に弁護人は判断のしようがないのであります。しかるにその調書がそれほど重要じやないのだ、第一審限りのものは要らぬのだと言われるのは、どうもわれわれとしてはたいへんな考え違いだ。そういう意味でこの調書考えておるものとすれば、根本的に改めてもらう以外にはありません。これはわれわれと絶対に相容れぬところだと思います。
  58. 野木新一

    野木政府委員 調書はただいま鍛冶委員が仰せられたような意味で、重要性を有するということは、もちろんその意味は否定するわけではございません。
  59. 鍛冶良作

    鍛冶委員 しからば裁判をするまでにその点を確定しておかなければいかぬのじやないですか。どういう頭で見ておるのかわからぬ。どんな裁判をせられるかわからぬ、そうなればおみくじを引くことになります。
  60. 石川金次郎

    ○石川委員長代理 ちよつと速記をやめて……。     〔速記中止〕
  61. 石川金次郎

    ○石川委員長代理 速記を開始してください。
  62. 鍛冶良作

    鍛冶委員 次に移りまして承りたいことは、本改正案は現行刑事訴訟法より勾引並びに勾留について範囲を拡張せられたものであるか。それとも嚴格にやるべきものとして、範囲を縮小して、なるべくそういうものを避けようという御精神からできておるか。この点をまず承りたい。
  63. 野木新一

    野木政府委員 ただいまの御質問の点につきましては、勾引しまたは勾留し得る場合といたしましては、現行法に比較いたしまして、ある面は狹まつておると言えるし、ある面は廣くなつておる。そう言えるかと存じます。一番重要な勾留の点について申しますと、現行法におきましては第八十七條におきまして勾引の原因を規定し、第九十條におきまして「第八十七條ノ規定ニ依リ被告人ヲ勾引スルコトヲ得ヘキ原由アルトキハ之ヲ勾留スルコトヲ得」といたしておるわけであります。この点は法律の立て方といたしましては、たとえば被告人が定まつた住居を有しないとか、被告人が罪証隠滅をするおそれがあるとか、被告人が逃亡したときまたは逃亡するおそれがあるとき、こういう場合には一応犯罪の嫌疑ということは、法律條件とはしないで勾留することができる。そういう形になつておるのでございます。ところが本案におきましては、第六十條におきまして、今言つたような條件を一応落すとともに、実体的の要件といたしまして、「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」、こういう場合にはこれを勾留することができるということにいたしましたので、その点について差があります。  それから勾留の開示の点についてはそうでありますが、今度は勾留継続の要件と申しましようか、勾留の継続の方の場合を考えてみますと、現行法におきましては、勾留の期間というものは区切つてつたわけでありますが、本案におきましては、その期間をとりやめいたしました。その代りにむしろ実質的に勾留の不当に長くならないことを担保するために、第八十七條の規定によりまして、弁護人被告人等に勾留の取消の請求権を認め、また八十九條におきまして、一定の場合には必ず保釈をしなければならないとし、それからなお不当な勾留が行われないようにするために、八十二條の規定によりまして、「勾留の理由の開示を請求することができる。」ものとし、また身柄拘束中の被告人弁護人の援助を借りる機会を保障するために、弁護人をつけることができることを告げるとか、あるいはその被告人を勾留した場合には、その被告人の選びたいという弁護士や、またそういうものがない場合には、弁護士会に通知するという規定を置き、またいよいよ弁護士がついた場合には、そういう被告人弁護人とは何らの立会人なくして祕密裡に話をすることができる。そういう規定をも置きまして、実質的の面から被告人の保護をはかる。そういう考えになつております。
  64. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ただいまの説明で私もさように心得てはおつたのでありまするが、わかりましたことは、勾留の要件は非常に狹められておる。簡單に勾留、勾引ができるようになつた。また六十條によりますると、逃亡とか、証拠湮滅の憂いがなくても、犯罪の容疑があれば勾留できるということになつた。こう解釈するほかないのであります。われわれは基本的人身の保護ということは、何が一番大事かと言うと、自由を奪われる、勾留されるということより大なるものはないと思うのであります。これを保護してやるということ以外に、基本的人権の保障というものはない。本法一條では、基本的人権を保障するために本法を設けたといつて麗々しくこれをあげているならば、事いやしくも人心を束縛することを認めるという、かような改正は、一体改善であるのか、改惡であるのか了解に苦しみますが、立法者においてこれでも改善であるとお思いになつておりまするか、この点をまずお伺いいたしたいと思います。
  65. 野木新一

    野木政府委員 ただいま御指摘の点につきましては、なるほど明文の上からは、現行法の八十七條第一号ないし第三号に掲げるような点は、勾留について落ちているわけでありますが、現行法のもとにおける運用考えてみますと、本法のような書き方にしておいても、実際上はほとんど変らない。むしろこうしておいて、あとの方の実質的に関する方を強くいたしまして、被告人の人権の保護をはかつてつた方が実質的であるという考えであります。なおアメリカの法制におきましては、大体この案のような線でなつているようでありまして、その代りただいま申し上げたように、あとの実績の担保をする、そういうようなことになつて行われておりますので、かりにこの案がこうでありましても、アメリカなどの例を見ましても、決して現在よりも人身の保護を不当に薄くするということはなくて、むしろ実績面を見るとずつとよいのではないか、そう考えておる次第であります。
  66. 鍛冶良作

    鍛冶委員 先ほど來述べられましたいろいろの人身保護という御説明は、勾留された後において、理由があつたから救済するとか、なるべく早く解放するとかいうことで、人身保護はこういうふうに聞えますが、一体問題は人を縛るということにあるので、あなたは人身拘束、縛ることを廣く認めておきながら、あとでこれを救済してやることができるというふうに言われることは、根本的に相容れぬと考えます。それから……。
  67. 石川金次郎

    ○石川委員長代理 鍛冶君、これで休みにして、午後質疑を続けることにいたします。  午後一時まで休憩いたします。     午後零時十一分休憩     ━━━━━━━━━━━━━     午後三時七分開議
  68. 井伊誠一

    ○井伊委員長 休憩前に引続いて会議を開きます。
  69. 中村俊夫

    中村(俊)委員 八十八條の解釈についてなお一点お尋ねいたしたいと思うのであります。  今度の改正刑事訴訟法によりますと、八十九條において原則として保釈は権利だということに定められたことは、非常に結構なことだと考えておるのでありますが、三百四十三條、三百四十四條の規定によりますと、一審判決があると、この二つの條文によつて、せつかく保釈を許されておる被告人がまた收監される。しかも第二審においては八十九條の適用がないことになつておるのであります。これに関しましては今般私どもの党から修正案を出しておるのでありますが、八十八條の請求保釈だけは第二審においてもなし得るのであるかどうかを特に明らかにしておいていただきたいのであります。
  70. 野木新一

    野木政府委員 まず結論を申し上げますと、第八十八條規定は第二審においてももちろん適用があります。ただ三百四十四條におきまして、禁錮以上の刑に処する判決があつた後は、これを適用しないと書いてありますので、何だかこう見ていきますと、保釈の請求権もなくなつてしまうように誤解を起も心配もあるかもしれませんけれども、立案の趣旨としては、ただ原則として保釈をしなければならないという義務が、裁判所からはずれるだけでありまして、保釈の請求権は依然二審においても残つております。從つて現行刑事訴訟法と同じように、裁判所の裁量保釈権は依然として残つておるわけであります。逆に申し上げますれば、第二審においては大体現行法と同じような運用になると御了承を願いたいと思います。
  71. 中村俊夫

    中村(俊)委員 從つて第二審におきましては、八十八條の適用と同時に、別個に九十條の適用がある、こう了解してよろしゆうございますか。
  72. 野木新一

    野木政府委員 まつたくお説の通りであります。
  73. 中村俊夫

    中村(俊)委員 結構であります。
  74. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 伺いますことで重複しておることがございましたら、簡單に結論だけで結構であります。三百十一條被告人の默秘の権利ということであります。民事においても刑事においても同じことだと思いますが、重要なる取引になればなるほど、二人だけでやる。犯罪もその通りであつて、白晝街頭でもつて犯罪をやることはまずないのであります。そこで民事においても刑事においても、本人に聽き質すのが一番早途で、またほんとうに実質を得るゆえんであると思います。証人などに聽きますのは、いわゆる隔靴掻痒の感があるのであります。またそれらは被告人本人から聽いたから知つておるというのが非常に多いのであります。これらのことを日数をかけて聽くことはばかばかしいのであります。また眞実を得るゆえんでもないと思うのであります。今度の案では默秘権を認めておりますが、これはどうしてもこうしなければならぬものだろうか、その点だけ伺いたい。すでに証人、つまり何ら関係なき人に向つて、國家が尋問する権利がある以上は、檢察官が起訴した刑罰の対象となるべき者について、尋問権利がないということは、理論上もいかがかと思われますが、お答えを願います。
  75. 野木新一

    野木政府委員 この三百十一條の、いわゆる被告人默秘権は、めざすところは憲法第三十八條の「何人も、自己不利益供述を強要されない」という規定精神を布衍したことになるわけであります。そしてこの訴訟法におきましては、殊に公判手続におきましては、現行法よりも一層当事者主義的色彩を濃くいたしまして、被告人当事者としての地位をはつきりさせ、そういうことによつて被告人の保護をはかるという精神を強調しておりますので、その意味で第三百十一條第一項の規定を設くるに至つたのであります。
  76. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 尋問するということは、何も自己不利益なる供述を強要するということではないと思います。被告人犯罪事実その他について聽き質すこと、また被告人が理論に合わない実驗則に反したること、さようなことを追究することは、何も不利益なる供述を強要するということではないのであります。尋問というものはただ單に、お前やつているやつているというようなぐあいに、子供が聞くように簡單な同じことを繰返す、かようにあることが決して尋問じやない。しかるに從來裁判所におかれましては、少しも理論に基いたり、実驗則に基いたりして聽くというようなことは、日本中いずれの裁判所においてもなかつたようです。ただはずかしげもなく千篇一律にばかばかしいようなことを繰返し繰返し聽く、これをもつて尋問と心得ている。なるほどそれならば不利益供述の強要に相なりますが、理論に基き、証拠に基き、社会の実驗則に基いて聽くということは、これは何ら不利益供述の強要ではないと思うのでございます。從來裁判所がおやりになつてつたことは、ただ單に同じことを何遍となく聽く。これならばあるいは不利益供述の強要になるかも知れませんけれども、ほんとうに尋問するところの意義に徹しますれば、何ら不利益なる供述の強要と相なりませんし、またいやしくも國家に司法権のある以上は、証人に向つて尋問する。理論に間違つておることは聽き逃さないで、あくまでも追究するという権利、それをなし得る以上は、被告人に向つてそれをすることができなければ、國家が司法を設けた目的を達することができないと思うのであります。一番かんじんな人であります。そのほかの証人は、これは被告人から聞いたから知つておるというような頼りないものでありまして、それは犯罪なり、あるいは民事の取引なりにおいて、もつともなことです。そこで私は憲法第三十八條の、尋問自己不利益供述の強要にはならないということと、実際問題といたしまして、被告人に向つて尋問する理論と実驗則に基いて、被告人を追究する、これは決して失礼なことでも、人権蹂躪でもなんでもないのです。これは從來警察、檢事局でも、裁判所でもあまりにおやりにならなかつたことです。これを大いにやらなければ司法の目的を達することができぬという、この二つ点について重ねてお答えをお願いいたします。
  77. 野木新一

    野木政府委員 御意見はまことに傾聽すべき点を多々含んでおると思います。まず第一点の、憲法第三十八條第一項の解釈論でございますが、この点は御意見のような意味尋問でありますならば、それがただちに三十八條第一項の供述を強要する、そういう趣旨になるものとは考えておりません。ただ今度の改正におきまして、第三百十一條第一項のような規定を設けました趣旨は、ただいま御意見の中にもありましたように、わが國の今までの裁判の実際を見ますると、どうも供述を強要することを疑わせるような場面も多々ありましたし、被告人の人権を擁護するためには、被告人供述だけに頼るよりは、むしろほかの証拠で事実を認定する、そういうような方法をとつた方が、一層憲法全体の精神にも合致するというような考えのもとに、この第三百十一條第一項のような規定を設くるに至つた次第であります。
  78. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 從來民事におきましても、当事者、本人尋問という制度があるにかかわらず、裁判所は、すべて本人は、どうせ起訴状あるいは答弁書に書いてある通りを言うにきまつておるから、本人は喚ぶ必要がないというような考え方が、裁判所を風靡しておつたように思うのであります。これは尋問の何たるかを知らない人の議論であります。ほんとうの尋問はその天地が無限なもので、際涯なきものと思うのであります。次から次と人権を蹂躪せずして、無限に問いが進展していくものでありまして、さようなものが從來まだ司法部になかつたように思うのであります。そこで民事においても、きわどい事件は、ことごとく誤判であるというような評判もあるようでございます。わかりきつた事件は、たとえば郵便局に行つて二十円拂つて、二十円の小為替券をもらうようなものであつて裁判所の法的権力を通さなければならぬのですから、裁判所にお願いするだけで、わかりきつた事件に成功したからといつても、これは何ら意味がないのでありまして、事件らしき事件に成功しなければ、私は誤判率は百パーセントであると思います。民事におきまして、取引はすべて重要なれば重要なるほど二人でやる。余人を交えるというようなばかなことはあるべきはずはない。男女の情事から、その他金銭上の取引に至るまで、ことごとく余人を交えずしてやるというのが実社会のありさまであります。これに証人があるように思うのが大体認識不足です。民事において証人があると思うのは認識不足です。実際取引においてかくのごときものがあるべきはずがない。民事におきましては、それですから原告、被告という当事者、本人は最も尊重すべきものであると思います。刑事においても同樣でありまして、まず大抵の調官が被告人に聽くことが一番多い。そこで被疑者、被告人の調べを終つたら、それでもう調べが七、八分まで済むのでありまして、分量から言いましても、証人に聽くべきその他の分量はいくらもない。いくら丁寧に聽いてみたところが、被告人以外の人は被告人ほどものを知らない。たまに知つてつても、被告人から聽いたから知つておるという、実に頼りないものでありまして、実質から申しましても、分量から申しましても、被告人以外の者を証人として聽く形式は、いかにも今お説を承つておりますると結構なようでありますけれども、さようなことでは眞実を発見して、司法を設けておる目的を達することができないということを私非常に心配するものでございます。そこでかような制度をとつておる英米におきまして、実際の眞実の眼から見た有罪を、かような制度のために何パーセントくらい逸しておるか。またその逸しておるものは、特に惡辣なる捨ておきがたい、たちの惡い者ほど逸せられるのではないか。無罪の方に送りこまれるのではないかというような統計、これはごく大体でよろしゆうございますから、さような点と併せて伺いたいのでございます。
  79. 野木新一

    野木政府委員 ただいま統計のはつきりした数字は記憶しておりませんが、たしかアメリカの有罪率というものは、日本よりもずつとはるかに低いように記憶しております。これはあながち被告人默秘権を認めたそこからのみ起因しておるものとは考えられません。むしろ今まで日本では起訴前に警察や檢事が万事みな調べ過ぎた、そのためにかえつて起訴前の手続きが非常に長くなつてしまつて公判で黒白を決するために審理するということが、行われなくなつてしまつた傾向にあつた。そういう結果だと思います。ところでこの法案のようになりますと、警察官も時間その他の関係で、今までのように長く被疑者を留置して、徹底的にこれを調べ上げるということもできなくなりますので、いきおい審理の中心がほんとうに公判に移つていき、從つて無罪の率なども今までに比べてはるかに多くなるのではないかと思います。そうしてそのことは必ずしも今までよりも人権を蹂躪するパーセンテージが多くなつたということを意味するものではないと考えるものであります。
  80. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 この默秘権があるために有罪率が少いと、かように承つてよろしいのでございましようか。
  81. 野木新一

    野木政府委員 默秘権があるために有罪率が少いというふうに断言するわけではございません。
  82. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 これはかような條文をこしらえなければ治まらないのでございますか、あるいはどうともなるのでございましようか。
  83. 野木新一

    野木政府委員 このような條文を置きましても、被告人が終始沈默したりする場合は、実際の運用においてはほとんど稀有な場合ではないかと思います。普通の場合には、被告人は陳述する方が有利の場合が多いのでございますから、三百十一條第二項の規定によつて裁判長は被告人について、その供述を求めることができるということになりまして、かりにこの規定が置かれたとしても、今までの運用とそう変つてくるものとは考えておりません。
  84. 井伊誠一

    ○井伊委員長 速記を中止して下さい。     〔速記中止〕
  85. 井伊誠一

    ○井伊委員長 速記を始めて下さい。
  86. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 ただ私の憂えますところは、下層階級の犯罪ほど街頭でやつたり、人の耳目の触れる所でやりますから、いわゆる犯罪証人が多いのでございます。上層階級の犯罪は奧まつた所が二人だけでやり、あるいは一人だけでやるのですから証人が得られない。そうしてそれらの人々は黙秘権があるということをよく心得ておりますから、上層階級の人々、あるいは大犯罪になればなるほど逃られる。下層階級の者は默秘権があると言われましても、ちよつと問われると答えてしまうというような、はなはだ頼りないものでございまするが、知識階級、上層階級の人々は、これに反してそこをがんばり通すというようなぐあいになつてきまして、不公平な結果を來しはせぬかということを憂うるものでございます。それらの点はいかがでございますか。
  87. 野木新一

    野木政府委員 一面確かに御説のように、たとえば選挙違反とか涜職とかいつたような犯罪につきましては、搜査も困難になり、取調べも默秘權を行使せられるとむずかしくなる点はあると思いますけれども、その点は他面いろいろ搜査方法を研究し、また証拠の蒐集等の研究によつて十分補つていけるのではないかと思つております。
  88. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 今の默秘權につきましては、私ははなはだ不滿足なのでございます。同時に從來の裁判所尋問もほとんどなつていないという点について、多大なる不滿をもつておるのでございますが、それだけにいたしておきます。三百十八條の「証拠の証明力は、裁判官の自由な判断に委ねる。」は現行法と同じ條文でございますが、これを人もあろうに、判事その人が從來すこぶる惡用しておつたのでございます。信用しなければならぬ証拠でも信用しない。仔細に檢討すれば虚偽ということがわかりきつた、その調書自体に虚偽ということが躍動してあるようなものでも、形式が完備しておると、それを信用する。世間の人は皆笑つておる。かくのごとくにして無罪が有罪になる。あるいは有罪たるべき大犯罪を続々逃しておる。そうして裁判官自身は、自由な判断に從つたのである。証拠の取捨判断は裁判所の專權であるというぐあいにうそぶいておられる。そこで三百十八條をもう少し裁判官に向つて、ほんとうに自由な——自由という意味は良心に從つた判断力を鋭くすることであるが、こういうような意味が徹底するようにお書きかえになつてはいかがでございましようか、これは最も重要な点だと思います。
  89. 野木新一

    野木政府委員 この三百十八條條文の自由ということは、まつたく氣まま勝手だという意味ではないことはもちろんでありまして、今まで運用があるいはよろしくなかつたというような御指摘の点も、中にはあつたかもしれませんが、表現としてはやはりこれで十分ではないかと信じております。ただあと裁判官の訓練、その能力の向上等にまつていきたいと思つておる次第であります。
  90. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 三百十九條の自白でございますが、民法において詐欺、脅迫を同列に置いて意思表示の効果を制限しておるようでございます。そこで三百十九條にも、詐欺とか欺罔とかいう文句を加えていただいたらどうかと思うのでございます。実際には強制、脅迫、拷問というよりも、警察官なり檢察官その他、裁判所は少いかもしれませんが、詐欺によつて自白を促すことが非常に多いのであります。そこで詐欺という文句をこれらの文句と同列に置いていただくお考えはないか、それをお伺いいたします。
  91. 野木新一

    野木政府委員 一応ごもつともな御意見のように存じますが、この條文におきましても、詐欺の非常にひどいようなもの、要素の錯誤を來すというような場合には、少くとも任意にされたものでない疑いがあるというところで証拠能力がなくなつていく、そう考えられます。それ以下の軽いものでありますと、いろいろ具体的の場合にどの程度かわからない場合もありますので、一概に証拠能力をなくしたとしないで、あと裁判所の健全なる判断によつて取捨選択をしていこう、そういう考えのもとにこの案は立案されておる次第であります。
  92. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 法律もだんだん民主國家にふさわしく民主的になつて、そうして殊に國民の権利に関する刑事訴訟法なんかにおきましては、読む人によく意味がわかることが必要だと思うのでございますが、これを読んでみますと、ほんとうのことを言つても、ともかく強制、拷問、脅迫があるというような場合にはむろん証拠にすることができない、かように読むだろうと思います。ところが一般民衆の中には、ほんとうの自白である以上、少々強制、拷問、脅迫があつてもよいじやないかというような愚論をする國民もいるだろうとも思うのでございます。ところが裁判を誤らしめるものは、自白が眞実でありさえすれば、強制、拷問、脅迫があつても何ら裁判そのものには影響がないのでございまして、一般國民の望むところもそこにあるのじやないかと思う。眞実でありさえすればよいじやないか、被告御本人にはお氣の毒かもしれませんが、自白が眞実でありさえすれば、たとえ多少の強制力を用いてもよいじやないかというのが、國民一般の感情ではないかと思う。そこで自白に最も戒むべきは、内容が虚偽の自白、これが一番恐ろしい。これ以外に恐ろしいものはないと言つても私は過言でないように思うのでございます。そこでこの三百十九條は、これだけで見ますと、強制、拷問、脅迫が惡い、こういうふうに相なつておりますが、これは結構でございますが、そのほかに自白が虚偽のときには証拠とすることができない、こういうわかり切つたことでありますが、裁判官みずから虚偽の自白をとつて平然としておられるようなことがよくあるのです。そこでそれらを戒める意味において、虚偽の自白は証拠とすることができない。また國民の感情もそこにあると思うのでございますが、そういう文句をお加えになるお氣持はないでしようか。
  93. 野木新一

    野木政府委員 この刑事訴訟法におきましては、第一條にうたつてあるように、事案の眞相を明らかにするという点が非常に大きな重点になつておりますので、自白の点につきましても、それが虚偽であるということを知りながら、これを虚偽でないものとして断罪の資料に供するということは、ただいま申し上げました第一條規定趣旨からいつても、とうていそういうことはあつてはならないと信ずるものであります。
  94. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 私は最近自白の内容がまつたく虚偽なる事案を受持ちまして、そうして声をからしてそのしかるゆえんを述べたのでございますけれども、何ら顧られなかつた。そのあまり、被告人は憤慨して記録を燒いてしまつたという事件が起きました。私はあるいはこれは場合によつては、國会における裁判官彈劾にまでもつていかなければならぬじやないかとまで、司法権のために悲しんておるのでございますが、調書をおとりになる方は、一見虚偽の自白でないようにおとりになるのです。これは警察においても、檢察廳においても、裁判所においても、虚偽の自白でないように、少々工合の惡いところは削つて書かないようにする記録をつくる技術を使うのですから、非常に判断力を鋭くし、勘を鋭くしなかつたならば、虚偽の自白を眞実の自白というように見逃す憂いが非常に多いのでございます。そこで虚偽の自白のときは無効とするような條文をお加えになつた方が、立法技術上もよいでないかと思うのでございます。くどいようですが、いかがでしようか。
  95. 野木新一

    野木政府委員 お説ごもつともの点があると存じますが、そういう條文を加えるまでもなく、虚偽の自白は司法証拠としてとれないということはきわめて明瞭であろうと思います。あと裁判官の訓練、向上にまつ以外にはいたし方がないと思つております。
  96. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 三百四十三條、これは判決の宣告があつた以上は、確定しなくてもただちに保釈または勾留の執行停止はその效力を失う規定のように拜見されます。ところが八十九條を見ましても、「被告人が、罪証を隠滅する虞があるとき。被告人氏名及び住居が判らないとき。」とあつて、かような保釈を許し得る條件は、判決があつたからといつても何も変らないのでございまして、理論がどうも合わないように思うのでございますが、いかがでありましようか。
  97. 野木新一

    野木政府委員 第三百四十三條の基本的の考え方といたしましては、第一審で禁錮以上の刑に処する判決をした場合には、さらに被告人を保釈するかどうかという点をまたそこで考え直す。そういう趣旨が三百四十三條の立法趣旨であります。それからついでに次の三百四十四條の規定趣旨は、ただいま御質問の中にありました第八十九條の規定は、禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつた後はこれを適用しないということでありまして、第一審で禁錮以上の刑に処する判決があつた以上は、被告人に保釈を求める権利は依然としてありますけれども、必ず保釈を許される権利はなくしてしまうという趣旨であります。すなわち一審の判決というものに非常に大きな意義を認めまして、一審の判決前は大体被告人は無罪の推定と申しましようか、有罪性が非常に薄いわけでありますけれども、いやしくも一審で有罪の判決、禁錮以上の刑に処する判決があれば、そこで被告人は有罪性が非常に濃くなる。從つてこれに八十九條のような必ず保釈を許される権利は認めないで、現行法と同じような請求もしくは職権による裁量保釈を認める程度にしようというのがこの案の考え方であります。
  98. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 現行法におきましても、一旦保釈を許されたならば、一審の有罪判決を受けましても、ただちに效力を失うことがないように思うのでございまして、今度初めてできた條文のように拜見いたします。被告人が無罪の推定を受けるというようなことは、一審判決までという意味でございましようか。あるいは判決確定に至るまでという意味でございましようか。また有罪無罪ということと保釈を許す許さぬとは何ら関係がないようでございまして、理論の点からも三百四十三條、三百四十四條は保存することのできない條文ではないかと思うのでありますが、その点重ねてお伺いいたします。
  99. 野木新一

    野木政府委員 理論的には十分説明がつくものと思います。要するに一審の判決のあつた後は、いわゆる権利保釈の規定はこれを適用しないというだけでありまして、被告人から保釈を請求する権利までも全部奪つてしまうという趣旨ではありませんので、その点何ら矛盾はないと信ずるのであります。
  100. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 從來は第一審判決前には、保釈をお願いしてもなかなか許されなかつたのでございます。そうしますとこの條文から見ますると、第一審の判決前に保釈が許される場合の方が多いことを予定しておられるようでありますが、さようでございましようか。
  101. 野木新一

    野木政府委員 この訴訟法が実施された暁におきましては、おそらく現行刑事訴訟法のもとにおけるよりも、保釈ということはずつと多くなるものと予想する次第であります。
  102. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 この三百四十三條、三百四十四條については、民主党の方からも削除の修正案が出ておるようでありますが、私も同感でございます。とにかく保釈を許すということと、有罪無罪ということは何ら関係がないことと思うのでございます。殊に判決もまだ確定しない、これから確定しようというときでありますから、かような條文を設けますと、さらにまた保釈の申請が出て判断を要するというような複雜なことにも相なつてくるように思うのでありまして、ぜひこの二箇條は削除していただきたいのでございます。  その次に今度参議院の方から出ておりまする人身保護法によりますると、不当な勾留の取消しを求めることも人身保護法によつてやろう、こういうお考えのようでございますが、そうなりますと、裁判所はそれを判断する記録もございませんし、事件もよくお知りにならない、訴訟経済上もつまらないように思うのでありますが、刑事訴訟法の建前から申しますと、さような人身保護法というようなものは無用であるというお考えでありましようか。あるいは大いにやつてもらいたい、こういうお考えでございましようか。
  103. 野木新一

    野木政府委員 人身保護法と刑事訴訟法関係でございますが、この刑事訴訟法案におきましても、いろいろ人身保護法的規定も取入れてあります。しかしながらこの刑事訴訟法は刑事手続による身体の拘束のみを規定しておりますので、この刑事訴訟法だけではあらゆる場合の、いわゆる人身の保護というものを盡しておるわけではない建前になつております。参議院の方で御提案の人身保護法案とこの刑事訴訟法案におきましては、一部刑事訴訟法手続きによる身体の拘束につきましては、重複と申しましようか、どちらでもいけるというような、重なり合つた点もございますが、それはそれとして人身保護の請求をする側の選択に任せてやらせるという考え方でございます。おそらく実際問題としては刑事訴訟法の方が手近でありますから、救済を求められるものはまず刑事訴訟法の救済を求めるというような運用になつていくのではないかと思つておる次第であります。
  104. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 私がお伺いいたしましたのは、刑事訴訟法の勾留のことであります。人身保護法にあります、惡漢がある者を監禁しておるというような場合でなくて、勾留の場合でありますが、そういう場合に人身保護法と重複するように思うのです。願わく裁判所におかれては、從來のごとき官僚的態度をおやめになつて條文にあればどしどしお許しになるというぐあいになされたいものであります。今日本は國家再建に忙しいのにかかわらず、さような屋上屋を架するような條文ばかり設けることは國家の再建、振興を阻害するものと思うのです。  そこでもう一つ最後に一点でございますが、お伺いしたいのです。やはり三百四十三條、三百四十四條でございますが、今までは第一審の公判において自白を飜すかもしれないから、あるいは証拠を隠滅するかもしれないから、まず第一審の判決までは保釈を許されない。第一審判決が済みますれば、それまでに第一審の公判廷に現われた証拠というものも完備してまいりまして、保釈を許してもよき段階に達するのでございます。被告人はそれを樂しみにして第一審判決を待つてつた。ところが第一審判決で有罪の判決があるというと、この八十九條のごときは適用を受けない。はなはだ苛酷なる、峻烈なる扱いを受ける。こういうことに相なりましては、これはいつそ保釈というような制度をやめてしまつた方がよいのではないか。保釈制度なきにひとしきものでないかとまで思われるのでございます。八十九條には麗々しく「左の場合を除いては、これを許さなければならない。」こう書いてあるのであります。この八十九條の條文も、どうせ被告人ですから、大体有罪の見当をつけて起訴したのでございますから、何も第一審の判決があつたから、有罪の判決があつたから、どうこうという格段の理由はないようにも思われるのでございます。その点重ねてお伺いいたします。
  105. 野木新一

    野木政府委員 三百四十三條及び三百四十四條の規定趣旨とするところは、要するに禁錮以上の刑に処する第一審の判決の宣告があつたときには、保釈するかしないかをいま一度考えてみようということと、いま一つ裁判所義務的に保釈をしなければならないという規定の適用を排除しようというだけのことでありまして、裁判所が一審の禁錮以上の刑に処する判決以後は、絶対に保釈をしないのだという趣旨では少しもございません。また被告人側から保釈の請求権すら奪つてしまうという趣旨でもございません。從つて実際の運用考えてみますと、禁錮以上の刑に処する判決の宣告があれば、ただちにまた保釈の申請をする。そうして多くの場合は、すでに保釈になつているような場合には、また保釈になる場合が多いだろうと予想される次第であります。
  106. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 三百四十三條はそうしますとはいつたり出たりして、非常にこれは混雜を來し、國家機関にも無用の混雜と手数をかけるように思われ、いたずらに物事を複雜にするのみでないかと思います。それからその次の三百四十四條の場合、実際の適用はいかがあそばされるのでございましようか。八十九條の規定は適用しない。しからばどういう標準に基いてこの保釈申請に処するのであるかということが、まつたく不明なのです。これをひとつ伺いたいと思います。
  107. 野木新一

    野木政府委員 現行刑事訴訟法におきましても、この案の第八十九條に相当する規定はありません。從いまして第二審におきましては、現行刑訴と同じような立て方になるものと御承知おき願いたいと思います。また別の方面から御説明申し上げますと、第八十九條第一号の、被告人が死刑または無期の懲役もしくは禁錮に当る罪を犯した者であるとき、こういうときには保釈を許さなければならないという場合から除かれてあります。しかしこの場合絶対に保釈を許さないのかというと、そうではないのでありまして、裁判所は、現行法の場合と同じように、諸般の事情を斟酌いたしまして、この場合でも保釈を、裁量によつて、すなわち八十八條によつて被告人の保釈の請求があり、またそれの請求がない場合には、九十條によつて職権をもつて諸般の事情を勘案して保釈を許すことができる。そういう建前になつておるのでございます。
  108. 池谷信一

    ○池谷委員 三十九條の弁護人被告人との接見の点についてちよつと伺いたいと思うのでありますが、弁護人が立会人なくして接見したり、書類もしくは物の授受をすることができるというこの規定は、弁護人の人格を重んじ、弁護権を尊重し、また一方被告人の防禦権を十分行使せしめるために設けられた新しい規定であると思うのでありますが、これはかえつて弁護人の立場から申しますと、立会人がないために被告に対して罪証の隠滅を教唆したりする事実がないかというような点を誤解を受けるもととなるのではないかと思うのでありまして、弁護人としてはかえつて好ましくない規定ではないかと思うのでありますが、この点に対するお考えいかがでありましようか。
  109. 野木新一

    野木政府委員 この三十九條第一項の、身体の拘束を受けておる被告人または被疑者と弁護人とが立会人なくして接見する、こういう権利は、刑事被告人弁護人たる者の基本的権利の最も重要なものの一つと存ずる次第であります。この交通権を確保してありますので、弁護人被告人と何らの干渉を受けることなく接見でき、被告人も少しも遠慮することなく事の眞相を弁護人に打明ける。そうして弁護人は、どういう関係を調べたならばどういうことが大体聽き得るかという点も、これによつて十分知り得て、そうして公判において被告人の弁護をし、また裁判所の眞実の発見に協力するということも、この規定運用によつて出てくるものと信ずる次第であります。
  110. 池谷信一

    ○池谷委員 ただいまの御説明至極ごもつともとは思いますけれども、弁護人の立場から申しますと、たとえ立会人があつたところで、何らやましくない。堂々と会見し、堂々と文書の授受をすればいいのであつて、立会人がおつたからおらないからといつて、別に何ら変りないのでありまして、もちろん立会人がないから悪いことをするというのではないのでありますから、立会人がいてもちつとも苦しくないのでありまして、後日誤解を生じたり、いやなことを疑われたりすることのないためには、むしろ立会人があつた方が好ましいのではないかと思いますが、いかがでございましようか。
  111. 野木新一

    野木政府委員 御意見も確かに一面の眞理を含んでおるものと思う次第であります。しかしながらこの規定は、英米法的思想から言いますと、きわめて当然な、しかも非常に大事な規定になつておるのでありまして、各方面の弁護士会なども、応急措置法のもとにおいてこういう趣旨規定を刑訴に設けることを要望しておつたように思う次第でございます。
  112. 池谷信一

    ○池谷委員 それから八十九條の第四号でありますけれども、これに被告人が罪証を隠滅のおそれがあるということを規定しておりながら、被告人が逃亡するおそれがあるということを全然予想して規定しておらないのでありますけれども、この逃亡ということを省いたことについて何か理由があるのでございましようか。
  113. 野木新一

    野木政府委員 まことにごもつともな御指摘と存ずる次第であります。ただこの案の考え方といたしましては、氏名及び住居がわからないときはともかく、その他の場合におきましては、保釈金を積ませるということによつて、その間の調整をはかりたい。そういう考えをもつて立案されておる次第であります。
  114. 池谷信一

    ○池谷委員 ただいまの答弁では、保釈金を積むことによつてこれを調整するという御説明でありましたけれども、そうしますと、逃亡ということに対しましては、比較的寛大な態度をとつておられるのであると思うのでありますが、それに反しまして、罪証隠滅の点につきましては、ただ單に罪証を隠滅するおそれがあるときというのでありまして、この点に対しては非常に嚴格過ぎるのではないかと思うのであります。ただ單に軽い意味で罪証隠滅のおそれがあるといえば、おそらくすべての場合に多少このおそれはあるのではないかと思うのでありまして、これを濫用する場合におきましては、結局この八十九條の「保釈の請求があつたときは、左の場合を除いては、これを許さなければならない。」というこの規定が死んでしまうのではないかと思うのでありまして、この点につきましては、罪証隠滅のおそれが顯著なるとき、とでも改めた方がいいのではないかと思うのでありますけれども、この点いかがでございましようか。
  115. 野木新一

    野木政府委員 まことにごもつともな御質問と存じますが、この刑事訴訟法が出來ますれば、その全体のにじみ出た精神によりまして、現行法のもとにおけるような罪証隠滅というような運用のしかたが、ぐつと変つてくるものと予想しておる次第であります。
  116. 池谷信一

    ○池谷委員 それから第九十條と第八十九條の関係でございますけれども、八十九條におきましては、左の場合を除いて、当然保釈を許さなければならないということになつております。これは当然許さなければならないわけでありますが、第九十條の「適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」とありますのは、第八十九條の許さない場合に該当するものであつても、職権で保釈を許すことができるという解釈でよろしゆうございますか。
  117. 野木新一

    野木政府委員 第九十條はまことにお説の通りでございます。なお附け加えて申しますと、第八十八條において保釈の請求があつた場合におきましては、八十九條各号に該当しない場合は、裁判所はまず許さなければならないのであります。さらに八十九條各号に該当する場合であつても、保釈の請求によつて裁判所はいろいろの事情を勘案してこれを許すことができる。そういう建前であります。すなわち九十條は保釈の請求が全然ない場合を考えての規定であると御了承おき願いたいと思います。
  118. 池谷信一

    ○池谷委員 ただいまの御説明によりますと、九十條は全然保釈の請求がない場合を予想してのことと承つたのでありますけれども、そうしますと次の九十一條は請求が條件になつて、しかも一方拘禁が不当に長く続いたというときに制約されて、それで九十條と九十一條をわざわざ区別する必要があつたのでありましようか。
  119. 野木新一

    野木政府委員 第九十條の方は適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。として権限の規定にしてあるのでありまして、これに反し第九十一條の方は、勾留による拘禁が不当に長くなつたときは、裁判所は保釈を許さなければならないという義務規定、この点が違うのであります。
  120. 池谷信一

    ○池谷委員 それから百五十條と百五十一條関係でありますけれども、百五十條の一項と百五十一條一項の前段は、それぞれ私どもちよつと読みますと、まつたく同じことが規定されておるように思うのでありますが、その罰則に対しましては、百五十條の方は「五千円以下の過料に処し、」百五十一條の方は「五千円以下の罰金又は拘留」というように非常に区別があるのでありますが、これはいかなる理由に基いてさような相違が出るのでありましようか。この点を承りたいと思います。
  121. 野木新一

    野木政府委員 同じような規定が二つ並びましたので、御疑問を起されるのもごもつともと存ずる次第でありますが、この立案の趣旨といたしましては、第百五十條の方は過料、すなわち刑罰に属しない制裁を規定しておるのでありまして、第百五十一條は五千円以下の罰金又は拘留という、まさしく刑法の刑罰に関する規定となつておる次第であります。從いまして証人が正当な理由なくして出頭しないときは、その軽いような者はおそらく五千円以下の過料の方でその都度裁判所が過料に決定するということになろうと思います。情状の重い者につきましては、実際の運用考えますと、裁判所檢察官に告発するなりいたしますと、檢察官が一般の刑事事件と同樣にそれを取調べ、起訴を相当と認めたときには起訴をいたし、その起訴によつて裁判所は審理して、百五十一條規定する罰の範囲内で刑罰を科する。そういうことになつているものと思つておる次第であります。
  122. 池谷信一

    ○池谷委員 そういたしますと、百五十條の「召喚を受けた証人」というのと、百五十一條の「証人として召喚を受け」た者というのと、その区別がありますけれども、どうして区別したらいいのでありましようか。何かそこにいま少しだれが読んでも一目瞭然とするような書き方はないものでありましようか。
  123. 野木新一

    野木政府委員 これは全然同じ趣旨でありまして、ただ刑罰規定の方は、刑法等をごらんになりますとただちにわかることでございますが、何々しないものは罰金拘留に処する、そういう書き方になつておるのが普通でございますので、百五十一條はそういう通常の型をとつた次第であります。百五十條の方の過料の書き方などは、通常こういう書き方になつておりますので、出頭しないときは決定で何々することができる、そういうふうな普通の型に從つただけで、特に書き方を変えたために実質的の意味の差があるという趣旨ではございません。
  124. 池谷信一

    ○池谷委員 そういたしますると、この点同じような関係にあるのでありますが、百三十三條と百三十四條の関係、また百三十七條と百三十八條との関係、さらにまた百六十條と百六十一條関係も、すべて百五十一條と百五十二條の関係と同じことに相なるのでありましようか。
  125. 野木新一

    野木政府委員 さようでございます。
  126. 池谷信一

    ○池谷委員 それから百九十九條の「裁判官のあらかじめ発する逮捕状」でありますけれども、これは檢察官または司法警察官の請求がありさえすれば、裁判官としては何ら考慮することなく、形式的に逮捕状をただちに発するようになるのでございましようか。
  127. 野木新一

    野木政府委員 檢察官等で逮捕状を請求するためには、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由がある場合に限られております。從いまして逮捕状の請求を受けた裁判官も、はたして被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があるかどうか、その点を審査いたしまして、それから逮捕状を発する、そういうことになるわけであります。
  128. 池谷信一

    ○池谷委員 審査と申しましてもただ提出された、簡單な書面によるだけであると思いますが、そういたしますとほとんど逮捕状を発するということで、形式に流れまして、被疑者を逮捕するについて、かような裁判官の逮捕状についての制限を設けたにかかわらず、これがまつた有名無実になつてしまうおそれはないか、私はそのことを案ずるのでございますけれども、この点に対する御心配はないでしようか。
  129. 野木新一

    野木政府委員 檢察官が逮捕状を請求する際に提出する資料によりまして、被疑者が罪を犯したことを疑うに足る相当の理由がないと認められる場合には、裁判官は逮捕状を発する義務はないわけでありまして、請求者側としては相当の資料を調えていかなければならないわけでありますから、御心配の点はないものと信ずる次第でございます。
  130. 池谷信一

    ○池谷委員 それから二百六十四條の点でありますけれども、これに「檢察官は、第二百六十二條第一項の請求を理由があるものと認めるときは、公訴を提起しなければならない」とあるのでありまして、二百六十二條によりますと「刑法第百九十三條乃至第百九十六條の罪について告訴又は告発をした者は、檢察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、その檢察官所属の檢察廳の所在地を管轄する地方裁判所に事件を裁判所審判に付することを請求することができる。」となつておるのでありまして、檢察官が公訴を提起しない処分に不服がある場合においては、地方裁判所にその救済を求めることになつておると思うのでありますが、これに対してその公訴を提起しない処分をした檢察官が、また公訴を提起するというのは何か矛盾があるように思うのでありますけれども、この点どんな関係になるのでありましようか。
  131. 野木新一

    野木政府委員 この二百六十四條の立案の趣旨といたしますところは、いわゆる再度の考案というものを檢察官に与えようということでありまして、あたかも四百二十三條におきまして、裁判所が決定をし、その決定に対して不服の申立があつた場合におきまして、その決定をした裁判所は、その抗告に理由があるものと認めるときには決定を更正するという規定があるのと、まつたく同じ趣旨に出ておる次第であります。
  132. 池谷信一

    ○池谷委員 この刑事訴訟法の改正原案によりますと、尊属親に対する告訴告発の禁止が取除かれておるのでありますけれども、これはわが國の醇風美俗に基いて、これまでの刑訴法におきましては、これが禁止されておつたことはもちろんでありますが、ただそれだけではなしに、むしろ進んで本質的な人間性に基いて、かような規定が設けられておつたのではないかと思うのであります。今回民法におきましては、家族制度の廃止その他によつて、わが國から封建思想を抹消しようとしておるのでありますが、しかしかくのごとき子が尊属親に対するところの観念というか、感情というか、これは古今東西を通じて不変なものでありまして、強く人間の本性に基くものであると思いますから、これはやはり禁止した規定を置く方が好ましいのではないかと思うのでありますけれども、これはいかがでございましようか。
  133. 野木新一

    野木政府委員 御意見はまことにもつともな点を含んでおるものと存ずる次第でありますが、本案におきましてこの規定を削りました理由は、一つは民法における家の廃止とか、憲法に現われました平等思想とか、そういうような民主的な考えを一層徹底させるという点も一面あるのでありますが、他面從來の運用を見ますと、親子の間で問題が起りますのは非常に特殊な場合が多く、しかもわが國において認められております養子制度などに起因する場合が非常に多くございまして、かえつてこの規定を置くことによつて、いろいろの弊害を生じたという例も相当見受けられた次第であります。それからなお子が親を告訴するということは、人間の本性に反するという点はまことにその通りでありまして、從つてその点はむしろ道義という点に任しておきまして、法律上の規定としては今言つた弊害考え合わせ削つておいた方が適切であろう、そういう見解から出発しておるわけでございます。
  134. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 今池谷委員からお尋ねになつた点でございますが、三十九條ですが、今までは看守立会いのもとに面会、接見しておつたのでございますが、これは今後はどういうことになりますか。まつたく二人だけでございますか。
  135. 野木新一

    野木政府委員 お説のように弁護人被告人と、まつたく二人だけで自由に会談ができる、そういうことになつたわけであります。なおこの点は現在においても監獄法施行規則の改正並びに通牒によつて運用上は大体このようにすでになつておる次第でございます。
  136. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 そうすると、これは罪証の隱滅は自由自在ということになるのでございましようか。
  137. 野木新一

    野木政府委員 この点は結局弁護人に信頼することになるわけでありまして、もし刑法の罪証隱滅の罪に触れるようなことがあれば、刑法の処罰規定が働くことになるわけでございます。
  138. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 弁護人被告または被疑者と接見いたしまして、だれにこういうように言つてくれとか、あるいはどういう者を処分してくれとか、それからまた弁護人から被告人、被疑者にあの件はこういうぐあいに言つたら免れるとか、自由自在にできるように思うのであります。それでまた証拠隱滅罪を構成すればそれでやつたらよいではないかということは、これは國民をわざわざ罪に誘発するようなものである。大体これでは刑事訴訟法の目的を達することもできません。その点まつた犯罪を製造するごときものである。私は研究が足りませんので知らなかつたのでございますが、かような條文をおつくりになるという、これではりこうな者はいかようにしてでも刑罰を免れることができるように思うのでありまして、これはまことに重大な規定である。また第二項におきましても「物の接授を防ぐため必要な措置を規定することができる。」とありますが、このくらいの條文では何にもならないのでございまして、どういうものか書類という文字が拔かしてございますが、また書類あるいは物の授受、こんなものはどうでもよいのでございましてそのほかに証憑の湮滅できる方法はいくらもございますが、そういう点を少しも考慮されておらぬように思うのです。弁護士会はどう申したか知りませんが、弁護士はただ被疑者が無罪になればいいというような傾向が非常に多いのです。これらは一國の司法という見地からあまり顧みるに足りないものではないかと思うのです。弁護士の方は自分の担当しておる被告人が無罪になることが一番大事件でありまして、それがただちに天下國家に響くというわけではないのでありますから、まず第一番に被告人のことを考え、それでお終いである。これは弁護士にとつて無理もないことです。しかし一國の司法としてはそれでは相済むまいと思いますが、第三十九條を拜見してみますと、実に奇々怪々な規定と思うのでございますが、もう一度これを御考慮される余地はないものでありましようか。
  139. 野木新一

    野木政府委員 私ども大陸法系的頭になつてつた者から見まして、初めこの規定はある意味行き過ぎではないかと思つたこともございましたが、だんだんよく考えてみますと、この規定被告人、弁護士という制度を認める以上は当然なことでありまして、英米におきましてはつとにこのことが実行されておりまして、さしたる弊害も生じていなかつたという実情に顧みましても、刑事弁護人の制度としては欠くことができないものではないか。ただこの規定はいかにも御指摘のように、いわゆる双刄の劍のようなところがありまして、私どもとしてはわが國の弁護人に十分信頼し、この規定を誤りなく活用していきたいと思つておる次第です。
  140. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 わが日本におきましては愚直なる者のみ、ばか正直な者のみ、可憐な者のみ罰せられる。そしてほんとうに惡いやつが皆免れる。殊に知力、権力、財力のある者はことごとく免れ得ると思うのです。いかなる聖人君子が弁護人になりましても多少の誘惑は受けると思うのです。きようは被告人と接見するという場合に、この程度証拠湮滅は大したことではあるまいというように心理的の影響を受けると思う。どなたがおやりになつても多少の証拠湮滅をやると思う。英米のことはどうか知りませんけれども、ほんとうに一國の司法というものを重くお考えになるのであつたならば、こういう條文は篤と御考慮を願いたいのでございます。なお多大の費用を投じて未決監などをこしらえる必要はないと思う。しやばに置いておけば結構です。弁護士が自由自在に動くことができるのだから拘留しておく必要は毛頭ない。被告人も何もしやばにおつて、だれともかれとも会わなければいけないという理窟はないのです。弁護士と会いさえすれば証拠湮滅という目的は満点的に達せられる。かんじんかなめの人に会うのですから、これ以上のことはない。そんなにまで人権を尊重しなければならぬのならば、拘留をしないようにすればいい。司法権も廃止したらなお徹底するのではないか。こういう議論になつてきて、何のために拘留するのかちつともわからぬと思うのです。これらの点については司法部内の最高の会議を経てこういうぐあいに決定せられたのであるか。それらの点をいま一応お伺いしたい。
  141. 野木新一

    野木政府委員 この点につきましては法務廳におきましてもいろいろ研究の結果、これでよいとしてこういう案になつた次第であります。     〔速記中止〕
  142. 岡井藤志郎

    ○岡井委員 私も弁護士会に属しておりますが、一國の司法ということをお考えになる場合には、ただ無罪になつたらよろしいというような弁護士会の意向にはあまり拘束されないように、今後司法部は毅然たる態度をとつていただきたいのです。その代りに哀れな者が有罪の判決を受けたり、非常識な重い刑罰に処せられた者が数限りなくございます。それらの点について高い深い眼光からものを見ていただきたい。今池谷委員も仰せられたのですが、百三十四條、百三十五條、百五十條、百五十一條、こういうものは何とか改められないと、二箇條を読んで比べてみても、どこが違うのかさつぱりわからぬ。何とか整理していただきたいということを最後に申し上げておきます。
  143. 井伊誠一

    ○井伊委員長 それでは他の質疑者の都合もありまして、本案についてはこの程度にいたします。     —————————————
  144. 井伊誠一

    ○井伊委員長 次に、法務廳設置法等の一部を改正する法律案を議題といたします。提案の説明によりますと、本案はきわめて簡單な内容でありまして、單に読みかえの效力を延長する程度のものでありますから、早急に処理したいと思います。別に問題の点もないと思いますので、お諮りいたしますが、本案については質疑及び討論を省畧することに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  145. 井伊誠一

    ○井伊委員長 御異議なしと認めます。それでは省畧に決しました。  これより採決いたします。本案については、内閣原案の通り決するに賛成の諸君の御起立を願います。     〔総員起立〕
  146. 井伊誠一

    ○井伊委員長 起立総員。よつて本案は全会一致をもつて原案の通り可決いたしました。  なお事案の委員会報告書作成並びに事後の取扱い方は委員長に御一任願いたいと思いますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  147. 井伊誠一

    ○井伊委員長 御異議なしと認めまして、さようにいたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後四時五十一分散会