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1948-06-22 第2回国会 衆議院 司法委員会 第38号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年六月二十二日(火曜日)     午前十時二十四分開議  出席委員    委員長 井伊 誠一君    理事 鍛冶 良作君 理事 石川金次郎君    理事 八並 達雄君    岡井藤志郎君       花村 四郎君    松木  宏君       明禮輝三郎君    池谷 信一君       石井 繁丸君    猪俣 浩三君       榊原 千代君    吉田  安君       大島 多藏君  出席政府委員         檢 務 長 官 木内 曽益君         法務廳事務官  野木 新一君         法務廳事務官  宮下 明義君         法務廳事務官  岡咲 恕一君  委員外出席者         專門調査員   村  教三君         專門調査員   小木 貞一君     ————————————— 六月二十一日  法務廳設置法等の一部を改正する法律案内閣  提出)(第一六五号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  刑事訴訟法改正する法律案内閣提出)(第  六九号)  裁判所職員の定員に関する法律の一部を改正す  る法律案内閣提出)(第一五三号)  法務廳設置法等の一部を改正する法律案内閣  提出)(第一六五号)     —————————————
  2. 井伊誠一

    井伊委員長 会議を開きます。  刑事訴訟法改正する法律案について質疑を継続いたします。鍛冶良作君。
  3. 鍛冶良作

    鍛冶委員 第一にお聽きしたいのは、本法の第一條であります。近ごろはこういう立法例がはやつてまいりますけれども、これが新しい法律か何かならばよろしいかもしれませんが、六法とも言われる基本法にかようなものが必要なのかどうか、もしこれで不足なところ、もしくは不明なところがあるとすれば、かえつてわしめるような結果を生ぜしめぬとも限らぬと思いますが、本法にどうしてもかようなものを入れなければならぬ理由があつたならば、まずその点を承りたいと思います。
  4. 木内曽益

    木内政府委員 お答えいたします。第一條にかような條文を入れましたのは、改正案は一部改正でなく、全面的な改正であり、しかも從來訴訟法とは根本的に相違した点も多々ありますので、今度の改正案はこういう趣旨改正するのだということを明らかにするために、特にこの一條を入れた次第であります。
  5. 鍛冶良作

    鍛冶委員 御趣旨はわかりました。そこで承りたいのは、取調べの内容、その他についての個々の変革は、もちろんこの内容によつて承知いたしましたが、総括的、根本的改正なつたと言われる、いわゆる理念としての改正とでも申しましようか、それはどこにありますか、まずその点を承りたい。
  6. 野木新一

    野木政府委員 基本的な改革の点と申しましようか、今までの刑事訴訟法に比較して、今度の案で最も力を入れた点はどこかと申しますと、憲法趣旨に副いまして、今までの刑事訴訟法ではなお足りなかつた、あるいは明らかになつていなかつたところの、基本的人権保障という面を強調しておる点であります。しかしながら刑事訴訟法を全体としてみますと、やはり刑事訴訟法理念というものは第一條にうたつてありますように、「公共福祉維持と個人の基本的人権保障とを全うしつつ、事案眞相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」というのが、これがやはり刑事訴訟法というものの本質的な目的になりますので、在來の刑事訴訟法に比較して、この刑事訴訟法基本的人権を非常に、強調をしておると言いながらも、やはり刑事訴訟法の本質的なわくは破つていないのだということを表わしたいのが、この第一條趣旨であります。
  7. 鍛冶良作

    鍛冶委員 御趣旨のほどはわかりますが、なるほど新憲法においては公共福祉維持とか、基本的人権保障という言葉が現われております。けれども憲法においても、これを蹂躙してよいという思想のものであつたとは、われわれは考えない。また旧來の刑事訴訟法におきましても、これが明らかに両面ともに保護せられることを規定してあつたものと考えるのであります。しかしたまたまその間に基本的人権保障を欠いておるような実例はなきにしもあらずでありましたが、これは法の不備というよりか、適用者誤りでなかつたかと考えるのであります。從いまして新法はこれが必要なのだというふうな、旧法にはなかつたことが今新たに生れて來たのであろうかということの疑念が出るのであります。いやしくも法律として現われます以上は、かような精神はいずれの法律においても一貫したる精神でないかと考えるのでありますが、それとも前にはなかつたので、新法だけにかようなことが保護せられるのか。この点を承りたい。
  8. 木内曽益

    木内政府委員 お答えいたします。御質問通り、もちろん現行刑事訴訟法におきましても、基本的人権を尊重する建前からできておるのでありますが、しかしながらただ手続上の不備のために、いろいろ誤解を受けるような事案も多々起きたために、これを全然拂拭した次第であります。現行刑事訴訟法におきましても、適用者誤りのために基本的人権保障の障害となつたのではないか。むしろ法不備というわけにいかないのではないかというような御趣旨の御質問のように思われますが、むろん適用者誤りのために、いろいろな事態を起した実例もあることは、私どももまことに申訳ないと思つておる次第でありますが、しかし私どもはさような感を繰返さないように、十分條文の上においてこれを明らかにしておくことが一層必要ではないかという考えから、今回の改正なつた次第であります。
  9. 鍛冶良作

    鍛冶委員 御趣旨はわかりますが、してみれば現行刑事訴訟法においともこの精神を貫いておるが、たまたま適用する者がそれを誤つた実例があつた。今後さようなことをなくせんがためにこの規定を設けた。かようにおつしやるならば、むしろ法律に対する希望よりか、これを適用する人に対する希望根本じやないかと考えられます。してみれば本法かくのごときものだというよりか、これに反するがごときことを今後してはいかないということを書くことが、あなた方の今の御説明趣旨に合うものではないかと思われるのでありますが、これはいかがでありますか。
  10. 木内曽益

    木内政府委員 ごもつともの御質問考えておる次第であります。われわれはかような感を起すようなことの起きないように、今後一層の注意をいたす覚悟であることはもちろんでありますが、しかしながら法の不備のために、適用を誤つて誤解を受けるような事態もあつたわけであります。たとえて申し上げますと、現行刑事訴訟法におきましては、起訴する場合には捜査記録を一切起訴状につけて公判へまわすことになつておるわけであります。從つて公判開廷前に裁判官はその記録を精査して、十分頭に入れて公判に臨む、さような方法は一面公判の審理の促進の上においては便利な点もあると思うのでありますが、一面初めに捜査記録を一切精読しておるがために、被告人側の方から申しますれば、檢察官等捜査にのみ裁判官がとらわれて、そうしてこの事件について一つ予断を持つて臨むのではないかというふうな疑いを持たれがちであり、公判において弁護人側からも幾多そういうことを主張された実例があるのであります。これなどは決して裁判官捜査記録を見ておるがために、その事件について予断を懐いたとは私ども考えませんが、しかしながらさような疑いを受けること自体が、基本的人権の尊重の上から一つの好ましからぬ結果を生ずるのではないかと思うのであります。さような意味におきまして、これは適用者の過誤というよりは、法の建前がよろしくなかつたのではないか、かように考えるのであります。從つて今度の改正案におきましては、かような誤解を避けるために、起訴をする場合においては起訴状だけで公判に付す、まつた裁判官がこの事件について白紙で臨んで、そうして檢察官並びに被告人あるいは弁護人側提出する証拠に基いて判断をしていく。しかもその証拠提出につきましても幾多の制限を設けまして、たとえば最も從來問題にされておりました司法警察官の聽取書というようなものは、ほとんど証拠力がないというようなことに相なつておるのであります。かような手続等は要するに從來訴訟法不備補つて基本的人権保障を全うせんとした趣旨であります。
  11. 鍛冶良作

    鍛冶委員 御趣旨の点はわかりました。私も別に特に反対するわけではありませんが、私の聽かんとするところの要は、いくらりつぱな法律ができましても、これを適用する人にその精神を打込む方法をやつてもらわなくては何にもならないのでありますから、法の精神に変りはないが、人の考え方、やり方に一つ考えをもつてもらうということが本法改正根本精神でないかと考えるから私は申し上げるのであります。從いまして、ここに現われておらなくとも、どこかに人に対する考えについて、新しい規定が載つておるのでありましようか、これだけで十分とお考えになつておるのでありましようか。
  12. 木内曽益

    木内政府委員 仰せのごとくいかにりつぱな法律ができても、運用する人を得なければ結局効果はないのであります。御質問の御趣旨は私どももまことにごもつともだと思い、同感であります。そのためにこの改正案と同時に、これを運用する裁判官、あるいは檢察官等教養訓練につきましても、一段の努力を拂うことになつておる次第であります。殊に裁判所関係におきましては、司法研修所を拡充する計画もあり、まだ檢察官その他の檢察事務官等教養訓練につきましては、法務廳研修所を拡充いたして、さような点につき十分御信頼に副い得るような人を養成する考えでおる次第であります。
  13. 鍛冶良作

    鍛冶委員 詳細はいずれあと質問することにしますが、法の精神は今も前も変つておらぬのだから、法の精神をここであらためて申されるよりか、過去において弊害のあつた点をなからしめることを明文として出される方が最も妥当でないかと考えますから、これは十分に御考慮を願うことにいたしておきましよう。  なおついでに申し上げておきますが、字句ですが、あとの方に「刑罪法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」とありますが、適用実現ということは違うのでありまするか、実際に読んでみると私にはわからないのでありますが、どういう意味でありますか。
  14. 野木新一

    野木政府委員 実現というのを特に附け加えましたのは、この刑事訴訟法には刑の執行ということもはいつておりますので、その氣持を多少出したいという点で、「適用実現」という表現をしたわけであります。
  15. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうも今おつしやつたような意味は、ここだけでは出てまいりませんが、これを読んだところでは、適用することを実現すると見るよりほかはありませんが、今おつしやつたような意味であるならば、適切なる効果を現わすことを目的とするとでも言われなくては、ここでは適用実現するという以外にないと思いますが、いかがですか。
  16. 野木新一

    野木政府委員 適用実現するというようにわけないで、適用して、そうして実現する、どつちかと言えば、あとのような趣旨の頭で立案しておる次第であります。
  17. 鍛冶良作

    鍛冶委員 適用実現するというのは、何を実現するのでありますか。
  18. 野木新一

    野木政府委員 たとえば刑法について申しますと、刑法適用かつ迅速に適用して一定の刑を課し、それを執行段階において、その刑法をさらに具体的に刑を執行して実現していくという氣持で、適用だけでは少し足りませんので、そこを表わしたいというのが、この二つを並べた趣旨でございます。
  19. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それならば適用したら、その効果とか、実効を現わすとか、実現するとかいうことでなければわからぬのではありませんか。これだけでは、おつしやつたような意味は出てまいらないのではありませんか、私自身は何のことかわからないから質問したのであります。
  20. 野木新一

    野木政府委員 刑罰法令実現するというような言葉は有力な学者の著書にもすでに現われておりますので、それと先ほどの執行という氣持までも現わしたいという意味で、どうも適用だけでは少し足りないじやないかという議論から、二つ並べてその氣持を現わしたいという趣旨でありましたけれども言葉が多少足りなかつた点は非常に恐縮に存じます。
  21. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それはその程度で御考慮を願うことにしておきましよう。次に本法を通覽して、特に考えますことは、随所に裁判所の定める規則に從うという言葉が出ております。これを読んでおるときに、はたして裁判所規則にどういうものが出るのであろうか、疑問をもつて読まざるを得ないのであります。しこうして、その出方によつて根本的に覆えることを考えられるものもないではありません。そこで過日も聽いてはおつたのでありますが、まずその前提として、どの程度のものを裁判所規則に委ね、どの程度のものを基本法たる本法において定めんとする根本原則を立てておやりになつたか、その点を承りたい。
  22. 野木新一

    野木政府委員 御承知のように、憲法第七十八條で、最高裁判所に与えられました規則制定権國会の制定する法律との関係につきましては、新憲法発布以來非常に議論がありましたところでありまして、なお学説的にも公権的にも未確定に属する部分もあるんじやないかと思いますが、一應この刑事訴訟法を立案するにあたりましては、法律規則との関係につきまして、まず第一に憲法構造におきまして「國会は、國憲最高機関であつて、國の唯一の立法機関である。」という点、及び刑事訴訟法につきましては、憲法三十一條に「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」こういう規定がありますので、これと第七十七條の規定とを総合して考えて見ますと、やはり刑事訴訟法基本的構造に属する分、並びに人権に直接関係あるものにつきましては法律をもつて規定する。從つてルール法律の補充的と申しますか、法律趣旨に反しない程度でその余つておる分野について規定する。しかしながら本來法立に規定すべき事項、また法律ルールと一應概念的にはそういうように定めてありましても、その分界点になりますと、非常にデリケートなものがあるのであります。そうしてそういう分界点になるような事項につきましては、あるいは法律規定し、あるいはルール規定する。その選択権とでも申しましようか、それは法律の方が優位に立つて、それで法律が選択し得る立場でございます。從つてなお、さらに突込んで申しますと、刑事訴訟法に関する限りは法律に反するようなルールはできない。ルール法律と相反した場合には、法律の方が優先する、そういう基本的立場に立つて、この案はできております。さてこの案の中で特に訴訟法條文におきまして「裁判所規則の定めるところによる、」この裁判所規則というのは最高裁判所の定める規則という意味でございます。それに讓つておる点と、あるいは何も書かないで裁判所規則に大部分任せておくという点と二つあります。特にここに書いてあります点は、一つ注意的に書いてあるものもあります。あるいは分界点が多少はつきりしないので、ルールに、ほかの言葉で言えば委任と言いますか、訴訟手続に属する事項ですから、本來法律規定すべきような事項であつても、程度の軽いものについてはルールの方へ法律で委任できる。法律手続ですから、こういう見解も併せ用いまして、裁判所規則の定めるところによるという條文が大体できておるわけであります。内容的に申しますと、裁判当規則に讓りました規定は、一つ訴訟法の実際の運用上、裁判所訴訟関係人、その他の実務上の経驗に基いて定めた方が適切であると思われる点、あるいは事がいろいろこまかくなりますので、裁判所規則に任した方がよいという点、抽象的に申しますとそういうような点が裁判所規則の方に讓られているわけであります。
  23. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうも御説明ではわかつたようでわからない。抽象的にはわかつたようでありますが、ただいまの御説明基本的人権に関するものは入れてはいない、これはごもつともでございますけれども、たとえば二百九十一條に「被告人に対し、終始沈黙し、又は個々質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所規則で定める被告人権利を保護するため必要な事項」となつておりますが、これはどういうことを予想されているのか、われわれにはわかりません。今の御説明から言えば、被告人権利を保護するといういわゆる基本的人権関係のあることを裁判所規則で定めておられるのではありませんでしようか。その他そういうものがところどころにありますが、まずその点から説明を伺います。
  24. 野木新一

    野木政府委員 二百九十一條第二項におきまして「被告人に対し終始沈黙し、又は個々質問に対し陳述を拒むことがどきる」その点が一審基本的な重大な点でありますので、特にこれを法律をもつて書き、その他の点につきましてなおいろいろこまごました点、たとえばいろいろな証拠提出することができるとか、注意をしてやつた方が親切であるというようなこともあるかと思いますので、裁判所規則でそういうことを書き得ることにしたわけであります。
  25. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私の一番杞憂いたしまするところは、あなた方の方でこれくらいのことを定めてくれるだろう、またこれくらいのことは本法でやつてもよいだろう、こういう考えでおつくりになつても、最高裁判所の方で、いやそういうものはおれのところできめるべきものではない、いやそれはおれのところできめるべきものだ、こういうことになつてまいりますると、この法律根本がぐらついてくることになると思います。從いましてあなた方のその考え最高裁判所へぴつたりいつているのかどうか、また最高裁判所ではどういう意見をもつているのか、これを聽きたい。これでないと本法眞意根本が動くことになるのでさようなことを申すのですが、これはいかがでしようか。どう御交渉になつて、またどういう結果をもつてきておりますか、その点を伺いたいと思います。
  26. 野木新一

    野木政府委員 この案ができるにあたりまして、要綱的な部分につきましては、裁判官檢察官、弁護士、学者など全部はいりましてきまつたものであります。本條つきましても、逐次條文ができるごとに、最高裁判所事務局刑事部の方と連絡いたしてあります。それでありますから、こういう條文ができてくるということは、向うの注文を聞きまして、條文字句を訂正したりしておる箇所も相当あります。それからルールを制定する段階になりますと、最高裁判所には規則制定委員会というものがありまして、これには辯護士檢察官学者、それからたしか國会の方からも、議員が辯護士という資格でなしに、國会議員という資格で参加せられておつたと思います。そういうルール制定委員会というものが設けられておりまして、最高裁判所側で、その委員会ルールの案を諮問します。その諮問に基いて最高裁判所が決定するということになります。そうしてその委員会委員ももちろん、法務廳側関係官も、委員もしくは幹事になつておりますので、國会における論議は、十分その委員会の席上において、法務廳側からもこれを反映することができ、また國会議員としてそこに出席されている委員の方からも反映できるのではないかと存じておる次第であります。
  27. 鍛冶良作

    鍛冶委員 反映できると言いますが、そうすると抽象的のことであつて、はたしてどういうものができるかは、現在のところでは見当がつかないわけでありますか。
  28. 野木新一

    野木政府委員 この規則に讓つている点におきまして、大体のことも、こういうことになるだろうと推測できるものもありますし、またいろいろ委員会で議を練つてきめることになるだろうという点もあるわけでございます。
  29. 鍛冶良作

    鍛冶委員 まことに私としては心もとなく感じますが、一体かくのごとき大変革的の法律であるし、殊に五百條を超えるがごとき厖大なるものでありまするから、この法律が本委員会にかかりましてから、まだ一箇月にならぬと思うのでありますが、そういうものであればそうこの法律を急ぐことなくして、最高裁判所で研究せられた結果、この点はこういうことにきめよう。これはこういうことにしたらよかろうという案が出てこなければ、これはいかぬのではないか。私は初めからそういうことを憂えておつたのですが、今この二百九十一條だけを申しましたが、二百七十六條、または二百七十七條、その他たくさんあります。これと両々相まつて本法を審議すべきものではないかと思うのでありますが、その点は絶対心配はございませんか。
  30. 木内曽益

    木内政府委員 お答えいたします。お説の通りいたすのが一番いい方法であると、私ども考えておつた次第であります。ところが先般この席で私からこの改正案ができるに至つた経過を詳細御説明申し上げたのでありますが、さような事情でいろいろ関係筋との折衝もあり、そのために非常な日数を要し、しかも先ほども申しました通り、一昨年の司法法制審議会の答申いたしました要綱に基いて、法務廳が立案しました刑事訴訟法が、昨年の暮に一應成案を得たのでありますが、これがほとんど形を失つてしまつたようなわけでありまして、そうして全然新たな姿でこの改正案が出てまいつた次第であります。しかもこの改正案ができるにつきましては、先ほど野木政府委員の御説明にありましたが、最高裁判所あるいは檢察廳、在野法曹あるいは学者等各界の代表と、関係筋のこの法案相当者と相会合しまして、協議を進めて、そうして大体全員納得の上で、この改正案骨子ができたわけであります。骨子のできたのは先月の上旬でありまして、その後條文化することを急ぎましたが、いろいろその間にまた折衝する点も起きまして、ようやく二十日過ぎに至つて一應の成案ができた次第であります。しこうしてこの刑事訴訟法は、憲法の要請しておる基本的人権保障を具体的に実現していく上に最も必要な、重大な法案でありまして、結局この刑事訴訟法が実施されることにならなければ、憲法の要請しておる——いかに憲法明文が掲げてあつても、これを実現していくということは、非常に困難を生ずるおそれであるのであります。そこでどうしても一日も早くこの法案を実施しなければならない実情なつたわけであります。それでようやく先月二十五日に閣議を通り、二十六日に國会提案をすることになつた次第であります。かように押し詰まつて提案をし、しかもかような厖大な、重要な法案をわずかの期間で御審議願うということは、私どもといたしましてもまことに申訳ない次第で恐縮いたしておるのでありますが、さような実情にあるのでありますから、この点をひとつお含み願いまして、御了承いただきたいと考えております。
  31. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ごもつとものこととは存じますが、これはしかし昭和二十四年一月一日から施行することになつております。そこでなるほどこういう画期的の法律でありますから、施行に対する準備並びに一般に周知せしめる期間も必要であろうから、一日も早く通す方がいいとは私も考えます。けれども、そうかというて、今言うようなこの内容が動くのではないかというようなものを、急いで通してみたところが何にもならぬわけでもありますから、たとえ準備期間が短かくつても、最高裁判所から、こういうことをしようと思う、これでいこうと思うということを、急いでやつてもらつて、両々相まつて通すということでなかつたらいかぬのではないか、こういうことを私は申し上げるのでありますが、それとも最高裁判所ではとうてい間に合わぬというお見透しがあるのでありましようか、またいかに最高判所でひまがかかるといつてみたつて施行までにこの規則ができるのでありましようか、どうでありましようか。
  32. 木内曽益

    木内政府委員 御心配の点はまことにごもつともでございまするが、最高裁判所においては、いかに遅くとも十月中にはルールが完成するという予定でおられるのであります。
  33. 鍛冶良作

    鍛冶委員 同じ議論ばかりやつてつてもしようがないのですが、今私の希望として申し上げますることは、十月と言わずに、これはできるときから研究しておられるに違いないのですから、至急やつてもらいまして、それと相まつて完璧なるものを通すようにせられることが順序でもあるし、またそうしなければならないと考えますからして、これは私の意見と申しまするか、希望として申し上げて先に進むことにいたしましよう。  次にこれはこまかい問題でありまするが、土地の管轄について第二條を読んでみますると、「土地管轄は、犯罪地又は被告人の住所、居所若しくは現在地による。」こういうようになつておりまして、この犯罪地、被告人の住所、居所、現在地の四つは、いずれでも選択してやれるのじやないかと私読んでおるのでありまするが、あなたの方から頂戴しました改正案の要綱によると、そうじやなくて、ここに書いてある順序に從つて順番があるのだというようにも読めるのでありますが、これはどういうことでありましようか。
  34. 野木新一

    野木政府委員 第二條は、現行法の第一條とまつたく同趣旨でありまして、この犯罪地、被告人の住所、居所、もしくは現在地、この四者の間に法律上順序がつけられているという趣旨ではないと御解釈願いたいと思います。
  35. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうするとこれはどちらへやつても差支えないことになるわけでございますね。
  36. 野木新一

    野木政府委員 さようでございます。
  37. 鍛冶良作

    鍛冶委員 改正案の、移送をするときにあたつて、檢事の意見を聽くということはなくなつております。現行刑事訴訟法では、移送をするときにはすべて檢事の意見を聽くことになつているはずでありまするが、どういう意味でこういうふうに改正されたのか。また取扱つておらるる檢事が代るということになれば、公訴維持という意味においても支障を來すことなきにしもあらずと考えられるのでありまするが、この点はいかがでありまするか承りたい。
  38. 野木新一

    野木政府委員 ただいま御質問の点につきましては、確かに現行法と比較いたしまして、この案におきましては檢事の意見を聽くという点を省略してございます。しかしこの訴訟法は現行法よりも当事者主義的色彩を濃くいたしておりますので、檢事の意見を聽くということだけでは足らないので、むしろ檢事とともに被告人または弁護人側の意見も聽くということにしなければならないと思います。それで一々そういうことを書き添えるということも、一時は考えてみたのですけれども、先ほど申しました裁判所規則制定権との関係におきまして、その辺のことは規則できめてもらうようにしたらどうかという点におきまして、移送することの意見を聽くということは、汚文上からは一応落した形でありますが、実質的にはやはり両方の意見を聽くという建前になつておるものと思います。
  39. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで問題を生じますのは、公訴を提起したる檢事の所属していない裁判所にまわるということになりますると、前の公訴をそのまま維持するということになるのでありますか。新しく公訴が他の裁判所に移送された場合に、その公訴の係属は違つてくるのですか、お伺いしたい。
  40. 野木新一

    野木政府委員 たとえば第十九條の規定を例にとつて申しますと、この規定は新設の規定でありますが、この規定によつて事件が移送された場合には、事件の係属は甲の裁判所から乙の裁判所に移るわけでありまして、起訴はすでに前の裁判所にあつた起訴のみで、移送された後にそこでまた起訴を新たにするという考え方ではないわけであります。
  41. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、公訴を提起したる檢事が必ず行くのですか、それとも違つた檢事でやるのですか。
  42. 野木新一

    野木政府委員 法律建前といたしましては、起訴した檢事がその事件について移送を受けた裁判所へ行くということは法律上は必要ではありません。また運用上も檢事がついて行くようなことはほとんどないだろうと思います。
  43. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると原告が変つたことにならないのですか、私はその点を心配しておるのです。
  44. 野木新一

    野木政府委員 その点は檢察廳法の規定する檢事同一体の原則によりまして、必ずしも起訴した甲の檢事が全部その事件の判決まで担当しなければならぬ、そういうわけではないことになつております。
  45. 鍛冶良作

    鍛冶委員 その点は私もせかつておるのですが、そうすると公訴を提起したる後に行くのですから、檢察官捜査中に得たる書類、証拠その他、そのまま記録を移されるのですか。それとも檢察官檢察官だけとして、そういう書類の移送をやるのでありましようか。これはどういうことになるのでありますか。
  46. 野木新一

    野木政府委員 また第十九條の場合を例に引いて考えてみますと、この「移送の決定は、被告事件につき証拠調を回避した後は、これをすることができない。」ことになつております。從つてこの決定によつて移送する場合の書類は、起訴状とか、これに附随する手続的の書類に限られるものと思います。御質問檢察官捜査書類のようなものは、裁判所記録にまだなつておりませんので、それは檢察官から事件の送られた裁判所檢察官に、裁判所を通じないで引継がれることになるものと御承知願いたいと思います。
  47. 鍛冶良作

    鍛冶委員 やつぱりそうなければならぬと思いますが、今おつしやるようなことはどの規定でやるのですか。これで見ると裁判所でやるのですか。今おつしやるような檢察官証拠書類その他のものが行くというのは、どの規定で行くのですか。
  48. 野木新一

    野木政府委員 この第十九條は、もつぱら裁判所を標準にした規定でありまして、從つて裁判所の手の中にある書類、証拠がここに送られることになると思います。檢察官の手中にある書類は、たとえば檢察廳の共助の規定、その他の精神から随時送つたり、送られたりする、そういう解釈であります。
  49. 鍛冶良作

    鍛冶委員 共助とはちよつと違うのではないのですか。第一、原告たる人間が変つてくるのです。共助なら同じ者が協力を求める。それはちよつと共助と違うと思いますが、それでも差支えないなら構わないが、心配するから申し上げるのです。
  50. 野木新一

    野木政府委員 原告が変ると申しますが、これも先ほど申し上げました檢察官一体の原則で、原告が変るという観念はむしろ無視してよいのではないかと考える次第であります。それから先ほどの書類の点は、第十九條に対するようなはつきりした規定がなくても、檢察官同士の間であるならば、書類の送付またはこれを受取るということは、現行法のもとにおいても行われておることでありまして、その点は現行法にもとにおけると同じでよいと思います。
  51. 鍛冶良作

    鍛冶委員 その程度にして、とにかく明らかになればよいので、疑問が起るから申し上げたのであります。  次に承りたいのは、改正案は「回避」の規定がなくなつておるように思うのであります。これはなくなつておるのでありましようか。またなくなつておるとすれば、どういうわけでなくなつたか。またなくとも差支えないか。この点をお伺いいたします。
  52. 野木新一

    野木政府委員 御指摘のように、この法案の文面からは「回避」という文字が落ち、從つて訴訟法上の回避という制度はなくなつたわけであります。しかしながらこれを悪いからなくしたとか、実体的に抹殺してしまうという意味ではありませんので、昨年來法律ルールとの関係を非常に議論しておりましたときに、回避という制度は、むしろ裁判所の内部的なものであるから、ルール規定しておけば足りるのである。この程度ルールに任した方が、むしろ憲法七十七條におきまして、裁判所規則制定権を与えた趣旨に適合するゆえんである。そういう考えのもとに、一應ルールに讓るという趣旨にもとに、訴訟法から削つたわけであります。
  53. 鍛冶良作

    鍛冶委員 よくわかりました。まことにごもつとものように思いまするが、それは最高裁判所で必ず入れるという保証を得られておるのですか。もし入れられなかつたらたいへんにことになる。
  54. 野木新一

    野木政府委員 この案のこのあたりの部分は、大体法務廳の原案そのものが載つておる部分でありますが、この原案をつくるにつきましては、裁判官檢察官——当時は今の新最高裁判所ができる前で、代行裁判所、代行最高裁判所ですが、そのころ裁判官檢察官など集まつてもらいまして、大体現行刑事訴訟法くらいの條項を盛つたこの前の案につきまして、ルールはどの程度まで法律でやつたらよろしいかということを議論したときに、回避ということについては、これはルールへ讓つた方がよかろうということにほとんど満場一致でなりました。從つて当事の状況から見まして、これはルール規定することになつております。それから今のおそらく最高裁判所当局も、事務当局は大体そういういきさつを知つておりますので、ルール規定し、また私どもルール制定委員会のときに出まして、その点を十分主張して、ルールにぜひとも規定してもらうつもりでおります。
  55. 鍛冶良作

    鍛冶委員 おそらくその点はさよう実現するものとは考えまするが、回避ということが必要なものだということは、われわれとしてはそのルールを見ない以上は安心ができないのでありまして、これはもとへもどる議論でありますが、とくと御考慮を願いたいと思います。  次は弁護人の規定であります。まず三十五條の「裁判所は、特別の事情があるときは、弁護人の数を各被告について三人までに制限することができる。」その次は「被疑者の弁護人の数は、各被疑者について三人を超えることができない。」これはほかの方々からもずいぶん質問のあつたこととは存じまするが、まずどういうわけでかような制限を付せなければならなかつたか。その理由から承りたいと思います。
  56. 野木新一

    野木政府委員 この第三十五條は、法制審議会の答申の要望に現われておる点の、残つておるものの少いものの一つであろうと思います。当時審議会におきましても非常に議論があつた後、こういうことにおちついた次第であります。この趣旨といたしましては、今までのずつと刑事事件を調べてみますと、ほとんど大部分事件が弁護人がせいぜい二人程度で止つておる事件が圧倒的多数であります。それからなお別に一つ事件について——まあ一つ事件といいますが、被告人の一人について三人くらいあれば、その権利を保護するのに大体十分であるということ、それから第三に一人の被告人について十数人という非常に多くの弁護人がついた例を見ますと、ある特殊な事件が多うございまして、あるいは同情弁護あるいは法廷闘爭のためとか、そういうことがありまして、それは本來の弁護権の行使というよりも、その濫用的の場合が多いように考えられたわけであります。そういうような事情を斟酌いたしました。しかしながら原則的に弁護人の数を各被告について何名と制限することは適当でありませんので、原則的には被告人については制限をおかず、ただ特別の事情があるとき裁判所は各被告人について三人までに——二人にすることはできないのです。——三人までに制限することができる、こういうことになつたわけであります。被疑者につきましては、これは新しい制度でありますし、大体三人あれば被疑者の正当な権利は擁護できるだろう。そういう見解で、大体三人を超えることはできないといたしたわけであります。むしろ議論は第一項の被告人の場合についていろいろ議論があつたことでありますけれども、この案の趣旨としてはただいま申し上げたようなわけになつております。
  57. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私の聽かんとする根本は、弁護人というものは三人以上要らないのだ、こういう論理的の建前から規定されたのか、それとも先ほどの説明から聽くと、法廷ではそんなにたくさん出られては困る、こういうことからきておるのか、この点が根本だと思います。訴訟手続上そんなに要らぬじやないか、少い方が簡單にいくのだ、こういうお考えなのか、それとも論理上弁護人はそんなにたくさん要るものじやないのだ、こういうお考えであるか、この点をまず明確にしておいていただきたいと思います。
  58. 野木新一

    野木政府委員 このできあがりました三十五條第一項の趣旨といたしましては、特別の事情があるときは三人までに制限することができるということでありまして、特に事情がなければ制限することはできないわけであります。從いましてこの案は弁護人としてはいろいろ議論もあるかと思いますけれども、案としては弁護人は三人ですでに十分であるとまで言い切つておるわけではないと思います。
  59. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると今度は特別の事情とはどういうことかということを聽かなければならぬのですが、具体的に例をあげてどういうときにやられるのですか。
  60. 野木新一

    野木政府委員 たとえば非常に複雜な帝銀事件とか、ああいうような非常に複雜な事件であれば、弁護人も三人で足りない場合も多かろうと思います。しかしながらごく簡單な事件、あるいはほんとうの被告人の弁護というよりも、むしろ今までときにあつた同情弁護と言いましようか、弁護人がたくさん並んで、必ずしも被告人の方に本質的に重要であると思われないような事項について弁論する。そういう場合とか、あるいはことさらに法廷闘爭を企てるとか、そういうような場合が特別の事情にあたる一番大きな場合だろうと存じます。
  61. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうも私納得がいきませんが、さきにあげられた例から言えば、原則として三人ぐらいでいいのだ。こういう議論からでないとそういうことは出てこないのであります。こんな事件にそんなたくさん要らぬじやないか、三人ぐらいを原則とするのだから、こう言つてはねる。こういうことに聞えます。それから法廷闘爭をやかましくやるなんということはあべこべの議論が出てくるわけです。無用なものをつけておるから要らぬ。こういうことになるので、それならば原則は制限がないのだが、無用だからやる。こういうことになると思う。今の御説明からいいますと、これは両立しない議論だと思います。原則はどれだけつけておいてもいいのだということになれば、三人は要らぬじやないかということは大きなお世話で、こんなにつけては困るというなら、特別の事情だと考えられます。これはよほどお考えを願いたいと思います。その点論理が違います。
  62. 野木新一

    野木政府委員 議論といたしましては、弁護人は各被告人について三人あれば十分であるという議論も成り立ち得るかと思います。しかしながらこの三十五條第一項「裁判所は、特別の事情があるときは、弁護人の数を各被告人について三人までに制限することができる。」こういう規定の立て方になりました以上は、やはり特別の事情があるときに制限することができるのであつて、特別の事情がなければ制限することはできない。そういう考え方に立つておるものと解せざるを得ないと思います。
  63. 鍛冶良作

    鍛冶委員 特別の事情があるときに限つて制限するのだ、そうでなかつたら制限しないのだという議論ですが、あなたが先ほどから上げておる例を聽きますと、こんな事件には要らぬじやないか、やめたらいいじやないか。これは特別の事情ではない。原則として三人でいいのだということでなかつたら出てこないと思いますが、何かこの事件にはこんなに必要ないのだ、こういうことでなければいかぬと思う。裁判所考えで、特別な事情でしなければならぬということになりますと、論理は違つてくると言うのです。どこまでも原則として制限はせないのだ、特別の場合だけ制限するのだ、こういうのであるならば、そういう議論が出てこぬとは思はれるのですが……。
  64. 野木新一

    野木政府委員 先ほどの説明では、三十五條ができ上るまでいろいろ闘はされた議論までもとりまぜて御紹介申しあげましたので、少し説明が混乱したかと思いますが、そのでき上つた第三十五條の解釈といたしましては、裁判所は、特別の事情があるときに限つて三人までに制限することが出來る、そういう趣旨に御了解願いたいと思います。
  65. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで私承りたいのは、先ほどの議論から結論いたしますと、弁護人の数を制限すればよいということは根本的の理論ではないのだ、裁判所で、この事件にはこういうものでなくてもよいという、その事情をもつてやるのだ、こういうふうに承つたことになります。そうするとこれこそ基本法たる訴訟法に載せないで、裁判所ルールに載せてしかるべきものじやないでしようか。これをここに載せられるということになりますと、基本的に三人でよいのだということがこれから來ておると考えざるを得ないことになるのですが、先ほどの説明から言えば、当然さようなことはルールでしかるべきものだと、かように考えますが、いかがです。
  66. 野木新一

    野木政府委員 確かに御説のやうな見解も成り立ち得るものとは思いますが、この案の考え方といたしましては、何ぶん弁護人の数を制限することになりますので、やはり法律規定しておいた方が適切である。そういう考えに基いておるわけであります。
  67. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これ以上は議論になると思いますが、根本的の理由じやない、そのときの裁判所実情からくるのだ、こう言えばこれはもう基本法におくべきものじやないでしよう。ルールというものがないのなら、われわれも考えますが、ルールで特別の場合——しかも特別の場合というときにはただ特別の場合ではいかぬ、いたずらに訴訟を長引かせるとか、いたずらに法廷を紛乱するとか、何かそういうことを具体的にあげて規定せらるべきものであつて、これは何としてでも、私はそういう理由であるならば、裁判所ルールでやつてたくさんな問題だ、こう思います。
  68. 野木新一

    野木政府委員 弁護人につきましては、憲法第三十七條におきましても「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。」というような趣旨も出ておりますし、弁護人の数の制限ということは、やはり非常に重大な事項ではないか、そういう見解のもとにこの法案に載せてある次第であります。
  69. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それから出るのならばさような制限を付すべきものではないではないですか。もしそうだとすれば、具体的の場合において、これでは法廷がやつていけぬということがあるが、それでも置かなければならぬというなら、ルールでやつたらどうかというので、今の御説明からいけば、制限は付すべきものではないと思います。
  70. 野木新一

    野木政府委員 憲法のただいま申しました條文は、絶対に制限を付してはならない、そういう趣旨に解すべきものではないと思います。しかしながら制限を付するにしても、それはやはり重大事項であるから、ルール規定するよりも、法律規定しておいた方が妥当である、そういう見解に立つたわけであります。
  71. 鍛冶良作

    鍛冶委員 同じことを議論してもしようがありませんが、憲法に基いた弁護権を尊重するという意味で制限を付すべきものではない、ただ裁判所実情によつて、國家に都合の悪いときがあれば制限してもよいというならば、その実情のあることは特別の場合だけですから、これは基本的にやるべきものではないのだ、実情というと、裁判長の法廷秩序維持権もはいるかもしれぬ。それ以上には私は適用すべきものではないと思いますから、これはどうしてもルールに載すべきものだということを本日強く主張しておきます。これ以上は議論にわたりますから止めます。  次に移つて三十三條に、主任弁護人をきめるということになつておりますが、この根本理由はいかなるところにありますか。
  72. 野木新一

    野木政府委員 この主任弁護人制度もまことに画期的な新しい制度になるわけでありますが、その立案の趣旨といたしますところは、この案の考え方といたしまして、今までの訴訟法によりも、弁護人の裁判所に対する訴訟公為が非常に多くなり、また法廷における弁護人の訴訟行為というものも、現行法の場合よりもはるかにたくさんになりますので、主任弁護人という制度を置いて、弁護人の統制と言いましようか、統制と言います少し言葉が強くなるかと思いますが、裁判所に対する意思表示をまとめるところがなければ、弁護人の意思が分裂して裁判所に表示されたりいたし、それがひいて被告人の利益をも害し、また訴訟の進行をも妨害する。そういうことになる心配が非常に多いということ、それから裁判所の出すいろいろの弁護人に対する通知等の事項も主任弁護人というものをきめておいて、そこにやるようにすれば、今度の訴訟法のように弁護人と裁判所との関係が非常にしげくなつた場合でも、円滑な訴訟の進行ができるのではないか、そういうような点、並びに英米における訴訟の実際におきまして、主任弁護人という制度がありまして、非常にうまく運用せられておるというような点をも参酌いたしまして、この主任弁護人という制度が定められるに至つたわけでございます。
  73. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今の御説明で二つの場合を予想せられるのでありますが、これはその二つの場合は私は相容れざる問題だと思います。  第一はなるほどたくさんの弁護人がおつていろいろ意見をまとめるのに復雜する。また被告人の防禦方法を完全にやることができない。かように考える点から主任をきめればよいという御議論でありますならば、なるほど議論は立ちます。けれどもそれはまつた被告人側の利益のためなのでありまして、また弁護人が忠実に弁護をしようと思うならばさようなことではいけない、これは裁判所から言わなくとも、弁護人においてさようなことをみずからやればよいことであつて、その議論から來るものであるなら、弁護人の自治に任してしかるべきものだ、裁判所がさようなことを強制すべきものでないと私は考えます。これは第一の議論であります。  第二は裁判所としても、たくさんおられては困るから、主任をきめてもらつた方が何かと書類を送達するのにもよろしいという裁判所の都合なんです。裁判所の都合で主任をおいてくれと言われるのならば、むしろ主任をおいてもらいたいということを申せばよいのであつて法律によつて主任をきめなければならぬという命令的のことは、いかがなものであろうかと考えられる。イギリスにおいてこの制度はよかつたからという議論もありまするが、私は主任弁護人をおいて悪いとは申しません。また実際において、われわれは今まででも大勢でやつたときにはおいておりますが、弁護人の自治に任すべきものである。それを法律によつて命令と言うか、強制と言うか、さようなことをなすべきものかということを私は申し上げるのであります。從いまして、私の言うような第一の理由でこれをやられるか、第二の理由でこれをやられるか、この点を承つておきたいのであります。
  74. 野木新一

    野木政府委員 主任弁護人制度を設けるに至りました理由は、ただいま御指摘になりました二つの理由を併せ考えておる次第であります。
  75. 鍛冶良作

    鍛冶委員 しからば今申し上げた結論を申し上げなければならぬのですが、第一の理由であるならば裁判所は強制すべきものでない、弁護人の自治に任すべきものである。もしくは被告人の依頼に任すべきものであると考えます。  それから第二の理由でありますならば、これは裁判所の都合によつて弁護人を縛つてさようなことをしようということになりますので、これははなはだ刑事訴訟法根本建前から相容れぬ理由であろうとかように考えます。從いまして、これは先ほどから言つたように、なるほど裁判所のルートできめるということになつておりまするが、ルールできめるならばこれを除いてもらつてよろしい。またかりにルールできめるといたしましても、主任をきめなければいかぬということはない。裁判所の都合によつて弁護人に主任をきめることを申し出ることができるとか何とかいうことにすべきであつて、命令したら主任をおかなければならぬ。そのものが主任としてほかのものとは全然違う。かようなことは私はおもしろくない。かように考えますが、いかがでありますか。
  76. 野木新一

    野木政府委員 何分主任弁護人という制度は、新しい制度でございまして、わが國の今までの弁護士制度と申しましようか、弁護人の制度と申しましようか、それに重大な変革を与えるものであることはあるわけであります。從いましてこの点につきましては、いろいろ見方も存し御議論のありますことは当然のこととは存じます。しかしながら、この案には、——訴訟法を基礎にして考えてみますと、これを円滑に運用していくためには、どうしても主任弁護人という制度が必要なわけでありまして、御説のように弁護人同士でお互いに話合つて主任弁護人がきめられる。そういう場合が多くの場合多かろうとは存ぜられますが、ただ今までいろいろ事例を聽きますと、中にはなかなかそうきまらない場合もある、そういうことでありますので、結局裁判所規則でどういう場合にどういうものが主任弁護人になるかということをきめてもらうようにこの案はなつているわけであります。おそらく裁判所規則の定めるところによつてというのは、第一義的には弁護人同士の話合、それがつかなかつたならば、被告人の意思というような点がおそらく標準になるのではないかと思われるわけであります。
  77. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今の御説明のようならば、われわれも納得がいくのでありますが、それならば何もこんな法律はこしらえる必要はないのじやないか。いかにも憲法保障せられている弁護人を裁判所がある程度制限するのでということになりますと、法の精神にも反するし、また弁護士の立場から申しましても、何もよけいな不必要なものを、むりにいつも入れて規定するようなことが考えられる点でございますが、これは何としてもわれわれの納得のいかぬところであります。私の申しますのは、すべてこういうものを削つてもらいまして、特に制限することの必要があるならば、裁判長の法廷秩序維持権として発動するという意味において、裁判長が制限する。それから主任を置くならば、主任を置くことを話合できめるようにするとかいうことで、根本は弁護人の自治に任せるべきものだ。かようなことを私は主張してこの点は打切りましよう。  次の質問に移ります。被告人の沈默する権利と申しますか、これも画期的のものでありまするが、どの範囲になりますか。初めから終りまで全部默つてつてもいいのですか。どの程度か、この規定ではわかりませんが…。
  78. 野木新一

    野木政府委員 二百九十一條第二項におきまして、「裁判長は、起訴状の朗読が終つた後、被告人に対し、終始沈默し、又は個々質問に対し陳述を拒むことができる旨」を告げなければならない。そういう規定に從いまして、被告人に沈默の権利保障していることを現わしているわけであります。そうしてこれで「終始沈默し」ということでありますから、初めから何も言わなくてもいいということは、この表現をもつてわし、また個々質問に対し陳述を拒むことができるという点は、初めはいろいろ話していたけれども、自分に都合の悪い質問があつた場合には、その点は答弁しなくてもよろしいという点を、「個々質問に対し陳述を拒む」という点で現わしているわけであります。
  79. 鍛冶良作

    鍛冶委員 極端なことを言うようですが、法廷が始まると、まず人違いでないことから聽く。そこで住所、生年月日等を聽くことになると思いますが、それも拒んでもよろしいですか。
  80. 野木新一

    野木政府委員 その点も被告人が拒みましたならば、強いてこれに答弁を強要することはできないものと考えております。
  81. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると人違いであるかどうか、起訴せられた者と同一の者であるかということは何でわかるのですか。
  82. 野木新一

    野木政府委員 そういう場合は、非常に稀有な場合と存じますが、かりに住所、氏名も何も言わぬという場合でも、被告人がいる限りは、はつきりわかつている限りは、ほかの体格とか人相で起訴することが可能でありまして、極端な例を申しますならば、あるいは番号をつけ、写眞でもとつて同一性を現わして進行し得ると考えております。
  83. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこまでやる必要があるのですか、私はこれはおそらく罪の成否に関する事項じやないかとばかり思つてつたのですが、第三百十一條を読みますと、「終始沈默し」と書いておる。いくら沈默することができるといつても、今私が聽いたようなことまで沈默する権利を認めていいのでしようか、これはよほど考えものだと思います。私はどうしてもこれは罪の成否に関する事例の取調べというものに解釈しなければならないかと思いますが、いかがですか。
  84. 野木新一

    野木政府委員 その点につきましては、この案においては、いわゆる被告人尋問の制度をなくしておりますので、被告人が沈默して何も言わないという場合には、ほかの証拠でこれを取調べて事実を認定し、刑を量定する。そういう建前になつておりますので、本人が初めから沈默しておつたならば、その供述を強要することはできないものと思つております。
  85. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今のお言葉は第三百四十一條の「被告人陳述をせず、許可を受れないで退廷し、又は秩序維持のため裁判長から退廷を命ぜられたときは、その陳述を聽かないで裁判をすることができる。」からだろうと思いますが、この点を読みましても、陳述を聽かないで判決をすることは、やはり罪の成否に関する答弁並びに証拠に関するものであつてあとの形式的のものまでもこれを予想しているのではないのじやありませんか。これはいわゆる沈默権とでも申しますか、沈默権というものは初めてでもありますし、どの程度かと思うから、特に私は明確にしておきたいと思いますが、一体そこまで認めなければならぬ理由がございますか。第三百四十一條精神から考えて、根本的に何かお考えがあるか、いかがですか。
  86. 野木新一

    野木政府委員 被告人のいわゆる沈默権は、憲法第三十八條第一項の「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」この規定趣旨から出ているのでありまして、一番中核的の点は確かに御指摘のように、犯罪事実に関するものを中心としたものであると思います。
  87. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこまでわかればいい。そうすれば第三百四十一條はよろしいが、二百九十一條の二項、並びに三百十一條等は、実質的の取調べに関するという制限を入れていいものでありませんか。そうでないと、裁判はやれぬと思います。先ほどおつしやるように、写眞をとつたり、番号をつけて歩いたりすることは、中にはあるかもしれませんが、私は何も言えぬ。それは僕らもそういう実例を聽いたことはあります。それで裁判所が非常に困られたということはあります。この点はひとつ御考慮をお願いいたしましよう。
  88. 井伊誠一

    井伊委員長 この程度で休憩いたします。     午後零時八分休憩     —————————————     午後一時二十七分開議
  89. 井伊誠一

    井伊委員長 休憩前に引続いて会議を開きます。石井繁丸
  90. 石井繁丸

    ○石井委員 改正刑事訴訟法によるところの審理の実情は、一体どういうふうに行われるであろうかという問題につきまして、質問を試みたいと思います。新刑事訴訟法によりますと、一応檢事が起訴状を出しまして、そうして起訴状の朗読によつて裁判が始まるのでありますが、実際問題としまして、起訴状の朗読をする、それから証拠調べにはいることになるのでありますが、ただちにその場所で証拠調べにはいれないいろいろな実情もありまして、証拠については、両方の意見を聽くことも多からうと思うのであります。簡單な事件にさようなことをやりますと、拘束されておる被告等につきましては、このために相当の時日を費すようなことができようと思うのであります。事件によりましては、さような形を一々踏んで訴訟をきめることはいたしましようが、これらの点につきましては、裁判を迅速に進めることについては、政府部内においてはどのような構想をもつておられるのでありますか。承りたいのであります。
  91. 野木新一

    野木政府委員 ただいま御尋ねの点についてお答えいたします。まず公判の審理は、檢察官起訴状を朗読いたして、それからそれに対して被告人が二百九十一條第二項によりまして、被告事件について陳述の機会を与えられる。そういうことになりまして、その後に証拠調べにはいる。こういう段階になつておるわけであります。しかしてたとへば、ごく卑近な例をあげますと、ごく簡單な窃盗事件で、しかも被告人が警察、檢察廳とずつと自白しておる。そうして被害者の始末書もそろつておるというような事件一つ考えてみますと、そういう場合には、被告人の警察官または檢察官の聽取書、及び始末書は三百二十條以下の規定によりまして、ただちにには証拠能力がないわけでありますし、また被告人公判廷で自白したといたしましても、それだけでは有罪の認定をすることができないということになつておりますので、一応どうしても檢察官は証人尋問の請求をするということになるのでありますけれども、ただいま例をとりましたような事件におきましては、多くの場合において、三百二十六條の規定適用になり、警察や檢察廳における取調べがおだやかに行われておりますなれば、その聽取書のようなものを被告人が爭うというようなことがない場合が多かろうと思うのであります。それでその聽取書、始末書というようなことは、おそらく三百二十六條の規定によつて証拠とすることができるということになつていく場合がほとんど大部分の場合だと思います。そうしてそのような書類につきましては、二百九十九條第一項後段の規定によつて、あらかじめそういうような場合に備えて、被告人の檢事もしくは警察官の聽取書、始末書、その他関係書類を弁護人ないし被告人にこれを閲覧せしめておく。そういう手続を履んでおりますれば、法廷におきまして被告人が自白する。そしてその聽取書や始末書を、被告人が被告事件について爭うことはない。結局自白ということになりますが、そういうときに檢察官は、本來ならば証人を喚ぶということになりますけれども、先ほど申し上げたように聽取書をあらかじめ弁護人に見せておく、弁護人側はその聽取書なり始末書なりを見て、大体間違いがないということになれば、それを証拠とすることに異議がないということになる場合が多かろうと思います。そうすると法廷でまず弁護人に示して、これを証拠とすることに異議があるか、弁護人は異議がないというと、そこで裁判所提出する。すなはちその書類を朗読して法廷に提出する。それがいわゆる証拠調べになるわけであります。そうなりますと、そこで被告人の供述と、たとえばその関係人の聽取書、始末書などを証拠にして事実の認定ができる。そういう場合には、おそらく一日の公判で済んでしまうということになろうかと思います。それから、もしその場合において被告人がその始末書なり聽取書なりについて異議を唱えられる。それは間違つているということを申述べて、それを証拠とすることを拒否するならば、檢察官はそこでどうしても証人の喚問を求めなければならないことになります。場合によつては、そういう場合にはどうしても次回の公判廷に事件が続行になる。そういうことになつていくと思います。
  92. 石井繁丸

    ○石井委員 改正刑事訴訟法によりますと、起訴状一本によりまして、公訴の提起を行う。かようなことになりますから、裁判所予断を抱かせないというようなわけでありますが、弁護士側としましても、起訴状一本見ただけでは、一体どういう実状になつているかということが、全然わからない。しかるに檢察官側は、あるいは警察官等を使いまして、十分材料を集めている。そうしてこれを、いつでもときと場合に応じて提出をするという順序が整うわけであります。さようなことを考えますと、どちらかというと、改正刑事訴訟法のもとにおいては、檢察官側が非常に有利な立場に立つて、そうして弁護人側の方があるいは不利益な立場に立つというようなことも多かろうと思いますが、さような点を考えますと、先ほど政府委員が述べた通り、訴訟の迅速なる進行というようなことを考慮に入れますと、檢察官側で整えたところのいろいろな聽取書、あるいはその他の書類というものを、從來起訴する場合において一件記録として附属されたところの書類というものは弁護人側に見せる。大体取調べの機会を与えるということが、二百九十九條においては予定されておるというようなことになると思われるのでありますが、そういうふうに了解してよろしゆうございますか。
  93. 野木新一

    野木政府委員 大体御趣旨のように解してよろしいと思いますけれども、なお正確に申し上げますと、二百九十九條第一項後段の規定は「証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。」ということになつておりまして、もし檢察官側がたとえば捜査の経過に関する報告書とか、その他意見書とか、檢察業の素行調書とかいうようなもの、すなわち証拠として將來法廷に出す意思のない、相手方が同意しても証拠として出す意思のない、そういうものにつきましては、必ずしもこの法律建前としては、閲覧する機会を与えなければならない、そこまでには至つておりません。すなわち証拠として出したい。すなわち事実認定の資料に供したいというそういう書類については、必ず弁護人側に閲覧する機会を与えなければならない、そういう趣旨でございます。すなわちこの点は要するに不意討主義を封ずる。そういう考え方から出発しておると思います。
  94. 石井繁丸

    ○石井委員 從來は一件記録裁判所によつてこれを閲覧するというような形をとつてつたのでありますが、さような場合においては、檢察廳にかような証拠物等があるのでありまするから、その閲覧というようなことは裁判所において、今まで書記に書類を提出を願つて、そうして閲覧しておつたのでありますが、檢事局に参りまして、係りの書記、そのような人に書類を出してもらつて閲覧する、かような手続がとられるのでありましようか、その点をお伺いします。
  95. 野木新一

    野木政府委員 この案の考え方並びに現在の実務の実情から申しまして、大体お説の通りに運用していつたらどうかと思つております。ただ將來謄写術でも非常に発達した場合には、またおのずから別になつてもつと便宜な方法もあるかと思いますけれども、今のところは今まで裁判所証拠を閲覽したように、檢察廳でその証拠を閲覽する。そういうことにして、さしあたつてこの規定を運用していつたらどうかと存じております。
  96. 石井繁丸

    ○石井委員 この二百九十九條の規定は、これを運用よろしきを得ると、非常にスムーズな裁判の進行ができるのでありますが、逆にこれを弁護士の方で準備はないだろう、おれの方からこれを出さなければわからないというふうにして、檢察官側が弁護士側のいろいろな動きに応じて、重要なる証拠を逐次出すというようなことになりますと、いつも被告側に立つて、弁護人は、非常に戸迷うことが多いのであります。これに反し檢察廳側は非常な有利な地位に立つのでありますが、この法案は公益の代表者、單なる彈劾権を行使するというのではなくて、公益の代表者として、檢察側が活動するという趣旨が、本刑事訴訟法においても、各所に現われておる関係から見ますれば、十分に檢察官側において集めたる証拠物、少くとも公判においてこれを使いたいというような関係のものは、弁護人側に取調べの便宜を与えるということを考慮してもらわなければならないと思うのでありますが、さような点も考慮に入れて、本條すなわち二百九十九條は制定されておる。かように伺つておいて差支えありませんですか。
  97. 野木新一

    野木政府委員 結論的にまず申し上げますと、二百九十九條は御趣旨のような趣旨をもつておると解して差支えないと思います。と申しますのは、御指摘のように檢察廳法及びこの刑事訴訟法におきましては、檢察官というものは、なお公益者であるとともに、多分に公益の代表者であるという性格を維持しておるという点が一つ。それから訴訟全体が円滑に、迅速に進行していかなければならないということは、檢察官もこれを負担しなければならないことになりますので、あらかじめ聽取書、証拠書類、または証拠物を弁護人側に見せておけば、あるいは弁護人側も、そして今後はこの刑事訴訟法になりますと、取調べが非常に丁重になつて、今までのような無理が行われない結果、その聽取書は、その限度においては異議がないという場合が多かろうと思いますので、法廷でいきなりこれを出し、どうかと突きつけられますと、弁護人側もそれはちよつと待つてくれ、読んでみなければということで、期日も非常に遅れる結果になりますので、どうしても檢察官側としても、訴訟の全体の運行を円滑、敏速ならしむるためには、あらかじめでき得る限り手のうちを弁護人側の方にも示しておく。そういう運用になり、またそういうように運用していきたいものと思つております。
  98. 石井繁丸

    ○石井委員 さようにいたしますと、さような証拠物として出したいというものについては、記録の謄写というようなことを、弁護人側でもしたいというような場合も多かろうと思うのであります。かよな場合においては、本訴訟法のもとにおいては、いかなる御考慮が拂われておるか承つておきたいのであります。
  99. 野木新一

    野木政府委員 二百九十九條におきまして「閲覽する機会を与えなければならない。」ということになつておりまして、最小限度は閲覽する機会を担保しておることになつておるのでありますけれども、実際の運用におきましては、その記録を現在裁判所において謄写しておるように、弁護人側でこれを謄写する機会も与えられるということになつていくものと思います。
  100. 石井繁丸

    ○石井委員 実際問題として、今後の公判の進め方としましては、一応弁護人としては被告人実情を聞いてみる。そしてその実情を聞きました上で、今度は檢察官側の取調べの状況、あるいは証拠物等の内容を審査して、そしてまた被告人に面会をして、そしていろいろ質疑をいたしまして、態勢を整えて公判に臨む、かような結果になろうと思うのであります。かような場合において、被告側と会つて、そしてあと檢察官の取調べた記録等を見る機会がないというふうなことになりますと、訴訟というものは、いたずらに遷延をいたしまして、そうして被告につきましても、未決勾留を長くしたり、あるいは裁判の煩瑣を招くというようなことになろうと思いますから、この二百九十九條の規定というものは、政府委員がただいまお述べになりましたような趣旨のもとにおいてできておる。そうして十分に弁護人側において檢察官側の取調べの経過、あるいは証拠物等の閲覽については便宜を計らつてやる。かような処置あるいは指示等をしていただきまして、そうして今後の新刑事訴訟法のもとにおいて、裁判の運行に支障なからしめたいと思うのでありますが、それらの点につきまして、お考えを承つておきたいと思うのであります。
  101. 野木新一

    野木政府委員 ただいま御質問の点は、この刑事訴訟法がさいわいに成立しました曉におきまして、これを実施していく上におきましては、まつたく必要なことでありますので、御趣旨のように、檢察廳側においては、十分その点を徹底するような処置を講じたいと思つております。
  102. 石井繁丸

    ○石井委員 これと関連したことでありますけれども、二百九十七條によりまして、会議体の構成員に証拠調べの範囲、順序及び方法等をいろいろと協議させるということが規定されておるのでありまするが、そうしますると、そのときの会議体の構成員である判事は、いろいろと檢察廳側から、今までの取調べの状況あるいは証拠がどのようなものがあるかというようなことについても、若干提示をしてもらうというようなことがあろうと思いますが、かような場合があるかどうか。ほんとうにさような記録等には何ら解れない、單に証拠の範囲、順序または方法というだけであるのかどうか。一応今までの準備手続のように、檢察廳の取調べの結果等について若干深入りをした調べもしなければならないような、あるいは聽くようなこともあるのじやなかろうかと思うのでありますが、この点についてお尋ねしたいと思います。
  103. 野木新一

    野木政府委員 二百九十七條二項に「会議体の構成員にこれをさせることができる。」という規定がございますが、この規定の予想しておりまする点は、第一項にあります「証拠調の範囲、順序及び方法を定める」手続でございまして、証拠調べの内容的の事項、または事件内容に立ち入つてこれを聽取するというようなことは、ここでは予想しておるものではありません。
  104. 石井繁丸

    ○石井委員 しかし、実際問題としては、一応この事件は裁判においていろいろ証人等を呼ばないでも、被告の今までの聽取書、あるいは備わつたところの証拠等によつて、第一回の公判できまりがつくだろうというような場面もでてくるのではなかろうか。そういうふうにやつて、簡單な事件は大体のめやすをつけていかないというと、そうでなくても裁判事務が輻輳しておる場合において、実際に單なるこういうふうなわくだけでやつておるということによつて、裁判を一回で大体終らせられるのを、あるいは二回も三回も継続しなければならないことになるだろう。かような点の方針が立つていないというと、裁判所としても裁判の進行あるいは処理の上において、大きな支障と煩雜さが発生するのではなかろうかと思うのであります。実際問題としては、先ほど弁護人側と檢察廳側において、いろいろと証拠調べの結果について、記録等の調査の結果について、一つ事件進行の腹構えをなす、かような場合においても、さような会議体の構成員である裁判官は、一応の檢察側の捜査の経過その他を聽いて、大体証拠が備わつておるか、あるいは被告がこれを否認しておるだろうか、こんなことについての若干立ち入つた意見の取り交わし等もなければなるまいと思うのでありますが、さような点については、お考えにならないのでありますか。
  105. 野木新一

    野木政府委員 二百九十七條で予想しております点は、たとえば檢察官側には被告人その他関係人の聽取書があり、弁護人側もそれを事前に読んで、それを証拠とすることに異議はないということを、一応意思を表示しておる。そうなれば、大体証人を呼ばずとも済むというようなことや、あるいはそういう聽取書とか仕末書を証拠にしては困る。それならば一体証人をどういう順序で、どの程度呼ぶか、それから証人を呼ぶ順序はだれを先にするかという点、あるいはその尋問の方法などを、まず請求した方から尋問することにするか、あるいはこの法案建前のように、裁判長が尋問することにするか、そういうような方法などを、あらかじめ相談して、大体審理の証拠調べが円滑にいくように、いわばそういうような計画をきめるというようなことを考えておりまして、深くその事件自体をあらかじめ取調べをしておくというような方向では、この二百九十七條はではておるものではありません。
  106. 石井繁丸

    ○石井委員 この点をお尋ねしたのは、二百二十六條に、檢察官裁判官に証人尋問を公判前に請求することができるというような規定があるのでありますが、会議体の一員が公判前に、公訴提起前にかような証人調べをする、あるいはこの二百九十七條の場合において、会議体の構成員の一人が、いろいろと訴訟進行上の打合せをする。こういうような場合において、ある意味において、事件内容というものにいろいろとタツチするという場面が発生するのでありますが、かようなときにおいては、その裁判所にあらかじめ予断を懷かせたというようなことについて、いろいろと上告その他の問題が発生しなければならないようなことがあるのではなかろうかと思うのであります。この場合において、特に起訴前の証人調べというようなことに関係したところの裁判官が、会議体の構成員の一人として爾後の裁判に携わるということは差支えないかどうか、この点を一応お尋ねしておきたいと思います。
  107. 野木新一

    野木政府委員 ただいま御質問の点は、結局裁判所職員の除斥、忌避という問題になつてくるものと存じます。  まず除斥の関係につきまして、この案の考え方を御説明申し上げますと、第二十條の第七号において、裁判官がその事件についてこの第七号に掲げてあるような関係もつたときには、当然除斥されるということになつているわけでありますが、この第七号の除斥事由の中には、ただいま御指摘の受命裁判官として二百九十七條の手続をしたとか、あるいは起訴前に証人の取調べをした、そういう裁判官は第七号の中にはいつておりません。從いまして、そのような理由をもちましては、当然除斥されるということはないわけであります。それならばどうなるかと申しますと、一つは、それがそういう事件関係したために偏頗な判決をするおそれがある、そういう場合には、第二十一條規定によりまして「不公平な裁判をする虞があるときは、檢察官又は被告人は、これを忌避することができる。」という規定の活用によりまして、被告人側からみれば、これを忌避することができる。また裁判官自身の側から考えてみますと、どうもその事件に非常に深入りしすぎて、あまり將來関係していくのは妥当ではないような場合には回避——この訴訟法には回避という制度は落してありますけれども裁判所規定規定されることができるようになつておるのでありますが、その回避ということにもなつていくものと思います。なぜそういうように関係したものを除斥の理由にしたかという点につきましては、起訴前の証人の尋問というものはこの第七号の但書に「受託裁判官として関与した場合は、この限りでない。」というのと同じように、事件部分的にしか関係しない、事件の全般的にわたつて関係したものではない、從つてその除斥の理由にすることはないという思想と同じでありまして、受命裁判官の方も、すでに起訴された後の問題でありますので、しかも受命裁判官として関係したものでありますから、除斥の理由にするまでのこともなかろう。のみならず、あくまでも潔癖に除斥の理由にいたしますと、裁判官の現在の数という関係で、当然賄いきれなくなるのではないかという点を考慮しまして、この案ではただいま申し上げたような程度に止まつているわけであります。
  108. 石井繁丸

    ○石井委員 次に二百五十七條の公訴の取下げについてお尋ねしたいのでありますが、公訴の取下げはできることになつているのでありますが、今なで檢察官が公訴を提起して、訴訟の進行上、証拠があいまいになつたからと言つて公訴の取下げをしたというような実例は、どれくらいの率になつているか、一応お尋ねしておきたいと思います。
  109. 野木新一

    野木政府委員 ただいま手もとに的確な数字はもつておりませんが、終戰前までは公訴の取消しということはほとんどなかつたものと承知しております。ただ終戰後におきまして、いろいろの國際関係などによりまして、公訴の取消しということが若干行われた例はあります。今度の案が実施された後においてはどんなことになるだろうかという点について申し上げますと、おそらく終戰前よりもいま少し公訴の取消しなどということも、ゆとりがあつて運用されるようになるのではないかと考えられる次第であります。
  110. 石井繁丸

    ○石井委員 今まで巷間伝うるところによりますと、起訴した、しかるにその事件が無罪になつたというようなことになると、檢察官は成績が悪くなる扱いを受けておつたというようなことを述べる節もありのでありますが、公訴して以上は、あくまでこれを維持しろというふうな建前が今までは貫かれておつたのであろうかと思われるのであります。今後におきましては、軽卒に起訴するということは考えられないのでありますが、今までとはまた変つた考え方において、十分に証拠はあがつて、絶対に無罪になることはない、取下げをするようなことは絶対にない、かようなる確信がつかない場合においては、今までは公訴を提起しなかつてのでありますが、今後はそれらの点については、新刑事訴訟法下においては、いくぶん変化があろうと思うのであります。これら檢察官に対する指揮あるいは指導の方針というものは、法務廳においては、いかが行われるかを承つておきたいのであります。
  111. 野木新一

    野木政府委員 公訴の提起ということは、檢察官に与えられた最も重大な職責でありますので、檢察官としては、これを行使するについては、十分愼重でなければならないということは、現行刑事訴訟法においても、この案においても同じことであろうかと存じます。ただこの案は現行刑事訴訟法と違いまして、公判中心主義を一層徹底しておりまして、名実ともの公判で黒白を決しようという建前になつておりますことと、それからいわゆる檢察官が被疑者の身柄を留置して取調べるということは、事実上は從來よりも限られてきておりますので、捜査段階において、全部の証拠を百パーセント固めて公訴を提起するというようなことにはできがたい場合も相当あるようになるものと思います。從いまして、公訴をする段階におきましても、今までのように何から何までも全部固めて起訴するということでなくて、いま少し公判においてゆとりがあるように、犯罪の嫌疑があればそれで公訴を提起する。そしてあと公判でいろいろの証拠を出して黒白を決するように、だんだんとなつていくと思います。     〔委員長退席、石川委員長代理着席〕 從つて無罪の率などというものも、現在は非常に少いわけでありますけれども、この訴訟法においては、おそらく今までよりも無罪の率なども多くなるのではないかと思います。アメリカなどにおいても、無罪の率は相当多いように聞いております。この訴訟法施行した結果は、おそらくそういうことになるのではないかと予想されるのであります。
  112. 石井繁丸

    ○石井委員 今まで警察官等において、被疑者の取調べというものは苛酷にわたつたということは、ある意味におきまして、被疑者の自白というものがない限りにおいては、ほとんど公訴の提起をしない、公訴の提起ということは、あくまで被疑者に自白させてから初めて告訴をする、公訴の提起をするというふうな行き方であつた。かようなことが人権蹂躙問題等を起したのであろうと思うのであります。さようなことを考えてみますると、今後におきましては、被疑者に自白をさせるということが中心でなく、証拠を固める、そうして一応の犯罪の嫌疑があると確信がもてた場合に公訴を提起するというふうな建前、つまり公判中心主義の建前を貫いていただきたい。かように法務廳におかれまして、檢察官の指導、あるいは警察官等の指揮に当られたいと希望するのでありまするから、これについて法務廳側は、今後いかなる指示をし、あるいは指揮に当り、指導をするかという点につきまして、お尋ねをいたしておきたいと思います。
  113. 野木新一

    野木政府委員 御説のように、今までの人権蹂躙問題の発生した一番大きな原因は、自白というものを非常に重んじた結果でありまして、自白を得るために被疑者を長く留置したり、あるいはこれに不法なことを加えるということが、時として起りがちであつたわけでありますけれども、この訴訟法におきましては、その点をまつたくなくすために最大の努力を拂つておるわけでありまして、さいわいにこの訴訟法が成立いたしました暁におきましては、法務廳といたしましては、その訴訟法の一番大きな眼目であるところの基本的人権の尊重、殊に被疑者の身体的自由の尊重ということにつきましては、御説のように十分留意いたしまして、会合の機会を利用し、あるいは檢察官が警察官等を指導、訓練する機会を利用いたしまして、機会あるごとに最大の努力をもつてその点の趣旨の徹底荘はかりたいと存じておる次第であります。
  114. 石井繁丸

    ○石井委員 檢事公訴をした場合の取下げがあると、その費用は國家の負担というふうなことになつておるのでありますが、公訴取下げをした場合の費用の負担、かような点はいかがになつておるのでありますか、承りたいと思います。
  115. 野木新一

    野木政府委員 檢察官が二百五十七條の規定によりまして、第一審の判決があるまで公訴を取消すことができるということになつております。これに基きまして、檢察官が公訴を取消した場合には、これに関する訴訟費用は、もとより國家の負担ということになります。
  116. 石井繁丸

    ○石井委員 次に二百三十七條の告訴の取下げでありますが、これは檢察官側において公訴いたしますというと、もう告訴の取下げは許さないというふうの規定になつておりますが、これはいかなる建前から現行刑事訴訟法趣旨をかえたのであるか承つておきたいと思います。
  117. 野木新一

    野木政府委員 現行刑事訴訟法におきましては、第二百六十七條で告訴は第二審の判決あるまで、これを取消すことができるということになつておりましたのに対しまして、この案におきましては、御指摘のように二百三十七條におきまして、告訴は掃訴の提起あるまでこれを取消すことができるということになつておりまして、現行法の建前を改めたわけであります。この点はいろいろ御議論のあるところかと存じますが、趣旨といたしましては、すでに公訴の提起があつて裁判所が活動を開始した以上、一私人の意思でその訴訟の全部を押えようということはおもしろくないという思想から出ておるわけでありまして、結局どこでふんぎりをつけたらいいかという問題になつてくるものと思いますが、これを個人の意思の方を非常に重く見ていきますと、現行法の告訴は、第二審の判決あるまでこれを取消すことができる。この規定ですら狹いという見解が一方に立つわけでありますし、またこの案のように公訴の提起があつた後は、取消すことができないという考え方も成り立つわけでありますが、この案としてはむしろあと立場をとりまして、公訴の提起があつた以上は、裁判所の裁判に任して、一私人の意思で全訴訟を左右することは許せないという立場の方をとつたわけであります。
  118. 石井繁丸

    ○石井委員 実際問題といたしますると、いろいろな事件、特に強姦のような問題が起る。警察ではそれを調べる場合、告訴はいつまでに取消ができるか、あるいはどうであるというようなことは、全然告訴人に教えるというようなことなくして、そしてただちに告訴しろと言いまして、告訴状を書いてくれて、そこに判を押させる、そしてその場所でいろいろな調書をつくりまして、ただちに公訴の提起をするというような段取りになろうと思うのであります。つまりほとんど告訴人というものが、告訴の取消ができるかどうであるかというようなことを知らない間に、公訴の提起があつて、もはや告訴人の方においては、この処置が全然とれなくなるというような場面が多かろうと思うのでありますが、これらの点についてはいかがお考えであるか、お尋ねをいたしたいと思います。
  119. 野木新一

    野木政府委員 告訴という制度が認めました趣旨から考えまして、告訴人の意思というものは、十分これを尊重しなければならないわけであります。しかしながら、告訴人がその意思を正常に行使するためには、自分の権利がどういう権利であるかということを、十分承知しておることが必要でありますので、ただいま御指摘のようなことのないように、殊に今度の法律によつて公訴の提起があつた後は、告訴は取消すことができなくなつたのであるということも、よく徹底させまして、告訴人に十分自由な意思をもつて考え、告訴を提起し、あるいはそれを取消すということにおいて間違いなからしめるよう、いろいろ努力をしたいと思つております。
  120. 石井繁丸

    ○石井委員 現在の実情におきましては、親告罪等におきましても、警察で聽きこむ、そうしてこういうことがあつた、これではお前は相手を締めてもらいたいなどというようなことを警察官が言う。そこで親族やあるいは本人たちが、ひとつ何分よろしくお願いしますということによつて、いろいろと調書ができてくるというふうな段階になつておるのが多いようであります。そうしてその場合において、警察官が告訴状をこしらえてくる。それではひとつこれにお前の方も判を押せというわけで、実際告訴状かあるいは聽取り書に判を押したのか知らない間に、その方の書類もできてしまうというのが、実情であろうと、思われるのであります。かような段階におきまして、第二審の判決に至るまでは告訴の取消しができるというのが、一躍して公訴の提起があるまでこれを取消すことができるということになると、非常にこの間の点が行き違いができるのではなかろうかと考えられるのでありまして、これらの点については、現段階において、第二審の判決のあるまで取消しができるというところの現行刑法から、一躍告訴は公訴の提起があるまでこれを取消すことができると、新刑事訴訟法規定にまで飛躍するということは、少し飛躍がし過ぎておるのではないかと考えられるのでありますが、その点について御意見を承りたいと思うのであります。
  121. 野木新一

    野木政府委員 御指摘のように、二百三十七條の告訴の取消しは、非常に大きな変革になるわけでありますが、この趣旨をまずもつて一般に徹底させることが第一だと存じます。それからなお、檢察官において公訴を提起する際に、今までも、告訴事件のようなものにつきましては、原則として告訴人を呼びまして、その意思を確めておつたわけでありますけれども、今後はなおその点を一層愼重にいたしまして、誤りなきを期したいと思つております。     〔石川委員長代理退席、委員長着席〕
  122. 石川金次郎

    ○石川委員 二百九十三條についてでありますが、いわゆる論告と弁論との規定でありますが、現行法の被告人及び弁護人の最終陳述権をここで認めなかつた点がどういう理由であるか、お聽しておきます。
  123. 野木新一

    野木政府委員 この案の二百九十三條に相当いたします現行法の三百四十九條におきましては、「被告人又ハ弁護人ニハ最終ニ陳述スル機会ヲ与フヘシ」というような規定になつておるわけでありまして、明らかにこの案からはその規定が削られておるわけであります。その趣旨は、アメリカにおきましては、もとより州において多少相違があるのでありますけれども、むしろ檢察官側が最終の意見の陳述をしておるというところが大部分のようでありまして、この刑事訴訟法の案におきましては、なるほどアメリカのようないわゆるクロス・エキザミネーシヨン式の取調方法は採用しておりませんので、ただちにアメリカのそれと一致させるというところまでは考えておりませんが、また逆に現行法のように法律でその点を明記するというところまでも、必ずしも必要ではないのではないか。これは將來もこの訴訟の実際の運営にあたりまして、裁判所規則でそのいずれにするかということをきめていつてよろしいのではないか。そういうような建前から、これを落したわけであります。
  124. 石川金次郎

    ○石川委員 裁判所規則が制定せられませんうちは、弁護人の弁論に対して、さらに檢事の意見の開陳となり、さらにそれに対する弁護人の意見の開陳となりまして、果しなく続き得るのでありますか。
  125. 野木新一

    野木政府委員 その点につきましては、第二百九十五條に基きまして、合理的に解決されていくものと考えておる次第であります。
  126. 石川金次郎

    ○石川委員 被告は結局防禦の完璧を期さなければならぬのでありまして、最終論述が被告及び弁護士にとつては重要なところだと思います。それは御意見としては、いわゆる規則としては裁判所がそういう規則を制定するであろうということを予定して、ここに書かなかつたのでありますか。それとも裁判所の法令規則にゆだねるという意味でありますか。それをお聽きしておきたいと思います。
  127. 野木新一

    野木政府委員 この点につきましては、規定を落したという趣旨が、弁護人側の最終の尋問権を否定するという趣旨で落したわけでもございませんし、また裁判所規則で逆にそういう最終陳述権を必ず規定するというはつきりした見透しのもとに落したわけでもございませんで、その点はなおいろいろ將來の研究にまつて裁判所規則できめたらどうだというので、大多数の意見からこれは削られておるわけでございます。
  128. 石川金次郎

    ○石川委員 かような点になつてまいりますからお伺いしてまいります。三百八條の証拠の証明力を爭う一つ方法でありますが、裁判所証拠の証明力を爭うために、適当な機会を檢察官及び被告人、弁護人に与えなければならないというのでありますが、これは個々証拠調べが終りましたときに、証明力について爭つていくという意味なのか。証拠が全部そろつて最終にその証明力を爭うという意味なのか。それのいずれでもよいのか。それをひとつ承つておきたいと思います。
  129. 野木新一

    野木政府委員 第三百八條の趣旨といたしましては、お説の最後の御見解の通り、そのいずれでもよろしいというように解しております。
  130. 石川金次郎

    ○石川委員 断片的にお伺いするのでありますが、まず本法の第一條についてお伺いしたいと思います。第一編、総則、第一條となつて本法目的を書いておりますが、ここに目的を明白にいたしました理由をひとつ承つておきたい。
  131. 野木新一

    野木政府委員 第一條に掲げました目的は、要するに刑事訴訟法目的とするところと合致するものでありますけれども、特にこの案におきまして、このような第一條規定を設けましたのは、何分この訴訟法は私どもが長年慣れ親しんでおつた大陸法系と、まだ接してからあまり間がない英米法系とを合わせまして、新しい刑事訴訟法をつくるという、そういう考え方のもとにできておりますので、將來この刑事訴訟法を運用したり解釈していたりする上におきまして、第一條のような規定を置くことは、実益もありますし、また必要である。そういう見解のもとに、当然のことのような規定ではありますが、第一條規定を置いて、その趣旨を明らかにした次第であります。
  132. 石川金次郎

    ○石川委員 実はそれをお伺いしたかつたのでありますが、結局ここに第一條を現わしましたことは、刑事訴訟法の各法條の意義解釈の原理を示したもの、運営の原理を示したものとして私たちは了承してよろしいということになりますでしようか。
  133. 野木新一

    野木政府委員 第一條は、直接露骨にそういうことを申しておるわけではありませんけれども、この法律目的がこういうことにあるということを宣言いたしました関係上、おのずから解釈の基準などもこの趣旨からにじみ出る、こういうことになろうかと思つております。
  134. 石川金次郎

    ○石川委員 そこで、また飛びますが、昨日お伺いいたしました告訴人、告発人の審判請求に関する件で一点だけ聽いておきたいのであります。この告訴、告発人の審判が請求されまして、二百六十六條の決定があつたといたしますれば、その後はこれは取下げることができないということになりますでしようか。
  135. 野木新一

    野木政府委員 この二百六十六條の決定がありました以上は、たとえば審判に付する決定があつたときには、その事件について公訴の提起があつたものとみなされるわけになりますが、その点につきまして、檢察官はもとより二百五十七條の規定によりまして、公訴の取消しをするということはできないわけであります。また二百六十二條規定によりまして、裁判所の審判に付することを請求した者も、この決定があつた後はその請求を取下げたりすることはできないものと解しております。
  136. 石川金次郎

    ○石川委員 檢察官の提起いたしました公訴が、一審の判決があるまでは取下げることができることになつておりますのに、請求者の、審判を請求いたしました者の事案は、どうしてこれを取下げられないということにいたしましたのでしようか。
  137. 野木新一

    野木政府委員 二百六十六條第二号の規定によりまして、事件裁判所の審判に付されたものにつきましては、ただいま申し上げたように、公訴の提起があつたものとみなされるわけでありますが、このについて檢察官が二百五十七條の規定趣旨によつて公訴の取下げをすることができるというように解しますことは、裁判所の決定を檢察官の意思によつて左右するということになります。また二百六十二條の規定自体が、檢察官が公訴を提起しない処分に不服があつたときに、一定の者からその事件裁判所の審判に付してくれという請求があつたことに基くものでありますから、その点から考えてみましても、檢察官が公訴の取消をするという規定に準じて事件を取下げるということを許すことはできないものと信ずるわけであります。
  138. 石川金次郎

    ○石川委員 この二百六十六條の決定があつて、請求が理由ありとして裁判所の審判に付されるのであるが、公訴があつたと同一のものとなり、これをその後に公訴を維持するためにあたる者を弁護士の中から選定する。こういう順序でまいりまして、さて審理が始まつてつた、この事実——公訴が維持する必要がないというように、選任されました弁護士が考えて、請求者もまたこれを維持する必要はないと考えましたときでも、最終までこれをもつていかなければならないという理由をお聽きしたいのであります。審理の経過において次第に現われてくるのでありますから、こういうような請求をしなかつた方がよかつたというように考えられてきても、なおかつ審判しなければならないという理由を、お聽きしたいのであります。なお附加いたしますと、途中におきまして、請求者はこれはいけない、取下げようということを決定いたしましても、裁判所では、かりに進むということにした、その場合において、今度は訴訟費用の問題もあり、費用が非常に嵩んでまいりましたために、見込みのない事件をこの上さらに費用をかける必要がない、この上さらに日数をかけ、手数をかける必要がないと、こう思いましたときに、どうして取下げを許さないかという点であります。ただいまの御説明においては、ちよつと首肯しかねる点がございましたので、お伺いしておきます。
  139. 野木新一

    野木政府委員 ただいま御指摘の点についてお答え申し上げます。まず二百六十二條の請求は、二百六十三條の規定によりまして、二百六十六條の決定があるまではいつでもこれを取下げることができる。そういうことになつております。從いまして、その反面、解釈上二百六十六條の決定があつた以上は、この案の建前としては取下げをすることはできない。そういうことになるわけであります。なぜこういう建前にしたかという実質的の理由でありますが、その点につきましては、この案におきましては、公訴の提起があつた後は、これを取消すことができないという点とも一脈関連しているのでありまして、請求者が檢察官起訴処分に不服があつて、この請求をいたし、しかも決定に至るまでには、なお取下げの機会があるのに、その取下げもせず、いよいよ裁判所公判に付する決定があつたということになりました以上は、その後におきましては、その請求の取消しを認めるということは、あまりその必要もなく、むしろ告訴の場合など考え合わせまして、この案の立て方からいきますと、不適当ではないかという考えから、取消しは決定があるまでと限つた次第であります。
  140. 石川金次郎

    ○石川委員 公訴をいたしました事件を、一審判決があるまで取下げることができるのでありますから、公訴と同一の効果を生ずるということになりますならば、これも実際上は取下げを許していい問題じやないかと思われますけれども、御意見のままに承つておきます。  それから今度はこの前お伺いいたしました勾留の理由の開示について、お伺いいたしたいのであります。私まだはつきりわかりませんからお伺いするのですが、勾留に際して被疑者は公開の法廷において、その勾留の理由を示してくれということは、この項においては許されないものと存じますが、許されないでありましようか。
  141. 野木新一

    野木政府委員 この法律案の立て方におきましては、第八十二條におきまして、「勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる。」という建前になつておりますので、まだ勾留されていない者につきましては、第八十二條以下の規定適用がないわけであります。從つて大体お説のようになるものと解します。
  142. 石川金次郎

    ○石川委員 そこで日本國憲法施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律であります。その第六條第二項でありますが、これは「勾留については、申立により、直ちに被告人又は被疑者及びこれらの者の弁護人の出席する公開の法廷でその理由を告げなければならない。」という規定がございます。この規定を前段の「引致された被告人又は被疑者に対しては、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げなければならない。」引致せられましたものについては、こうしなければならない。勾留に際してはただちに被告人から申立があつたならば——なければよろしいのですが——公開法廷においてその理由を告げなければならないという御趣旨ではなかつたでしようか。
  143. 野木新一

    野木政府委員 刑事訴訟法の応急措置法第六條におきまして、憲法第三十四條の規定を承けまして、「引致された被告人又は被疑者に対しては、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げなければならない。」その第二項におきまして「勾留については、申立により、直ちに被告人又は被疑者及びこれらの者の弁護人の出席する公開の法廷でその理由を告げなければならない。」応急措置法はこのように規定してあるわけでありまして、今度の案は、さらにこれを敷衍して、詳しく規定したわけであります。問題はむしろ応急措置法のように「勾留については、」という表現の方が、より憲法に合致しはせぬかという御趣旨のように思いますが、この案のように、「勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる。」という建て方にいたしましても、憲法の要件を十分充しておると考えられるのであります。何となれば、被告人は勾留されたらいつでもただちにその理由の開示を請求することができるものでありまして、また請求があつたならば、裁判所は速やかに公開の法廷でその理由を示さなければならない、そういう建て方にしておりますので、憲法三十四條の要件は充しておるものと信じておるのであります。
  144. 石川金次郎

    ○石川委員 それで憲法第三十四條の読み方でありますが、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」と書いてあります。もつとも御説のように、勾留されたあとであるか以前であるかということは、必ずしも明確ではありません。しかしこの趣旨は、監禁される以前において、何ゆえに自分が監禁されるかということを知つておくという趣旨にとらなければならないと思うのであります。この点は、自分の意見のみでありませんで、人の力を借りるようでありますが、美濃部達吉博士の「日本國憲法原論」のちようど二百五ページでありますが、こう言つておるのであります。私の読み違いかもしれませんから、この点はもし誤つてつたならばお許しを願いたいのであります。監禁の要件として本條に定めることは——監禁と言いますことは前にも書いてありまして、つまり一定の場所に閉じこめる、こういうことであります。——その要件として定めるところは、監禁するだけの正当の理由があること、ただちに本人にその理由を告ぐべきこと、ただちに弁護人に依頼する権利を与うべきこと、要求があれば、ただちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷でと、ということが書いてあるのであります。もし御説のようなことであるといたしますならば、被告人は当初において勾留状ないし句留の理由を知らされ、あるいは勾留の際にその犯罪の事実等を知らせさ、つまり理由が告げられたということになりますならば、被告が勾留理由の開示を何回も請求する必要がないと思います。もしもすでに勾留せられた被告人が勾留の理由の開示——何ゆえ自分が勾留されるか、拘束されるかということの理由の説明を求めるならば、意義がありのでありますが、そうでなくして、第一回の勾留の時に勾留の理由が開示されたと御説明になつたのでありますから、また再び勾留の理由の開示が必要かということなのであります。またもう一つは、この勾留理由の開示の請求をいたす者は、直系の親族、兄弟姉妹、その他利害関係人まで行くのであります。——この利害関係人ということは、どういうことを言うのか、私はあとで聽きたいのでありますが——利害関係人もあります。そうすると、勾留の理由の開示の請求は、それに対する勾留するところの理由の説明が終れば、請求しておりましたものがなくなるという訴訟法規定になつておるのでありますが、しかしそれを終つた後に、さらにまたやつていけると思わなければならないのであります。たとえば兄弟たちが、勾留理由の開示の請求を三人でやつた。そうして一人に対してすでに示されたから、他の二つは勾留理由の開示が必要でないということになるけれども、その他の利害関係人からさらに請求をしたら、また勾留理由の開示をしなければならないということになつていかなければならぬのではないかと思います。この点の考えが誤つておるならば、お教えを願いたいと思います。これはそういうことになりますのは、その勾留するに際して、公開の法廷において弁護人の立会のもとにおいて、何がゆえに自分が勾留されたかという理由の説明を求めるというところに、意義がなければならぬと思うのでありますが、その点をひとつお聽きしたいと思います。
  145. 野木新一

    野木政府委員 ただいまの御質問の点について御説明申し上げます。説明の便宜上、憲法第三十四條の前段の方から申し上げていきますと、憲法第三十四條の前段におきましては、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。」ということになつておりまして、この規定を承けて、この案では、第七十六條第七十七條におきまして、勾引したときまたは勾留するときは、公訴事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨云々を告げなければならないということにしたわけであります。そうして憲法第三十四條前段の「理由」というのは、英文の方を見ますと、確かチヤージということになつておりまして、これは大体公訴事実ということで差支えないと存ぜられるわけであります。  次に三十四條の後段の方でありますが、「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、」ということを承けては、大体拘禁ということは、刑訴に直しますと、勾留抑留は大体勾引に該当する、そういうように大体通説的になつておるものと思います。ところで、「正当な理由がなければ、拘禁されず」という点につきましては、この案におきましては、裁判所がこの第六十條におきまして「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、これを勾留することができる。」という趣旨にこれを承けておるのであります。そうして憲法第三十四條の「要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示さなければならない。」という点につきましては、美濃部博士の御説でありますと、勾留する前に勾留開示の前提要件という趣旨に、嚴格に解しておるようでございますけれども、実際問題としては、被告人を勾留するかしないかという点につきましては、とつさの間に定められることが多いのでありまして、勾留前に公開の法廷を開くということは非常に困難で、むしろ不可能である場合もあるのではないかと存ぜられる次第であります。從いまして、勾留しておいて、それから請求があればただちに告げるという建前をとりましても、ただちに憲法趣旨に反するものとは考えられない。そういう趣旨のもとに、この案は立案した次第であります。
  146. 石川金次郎

    ○石川委員 八十六條であります。同一の勾留について八十二條の請求が二つ以上ありました場合には、開示は最初の請求についてこれを行いまして、その他の請求には開示の手続が終つた後、決定でこれを却下するということになつております。そこで却下せられまして、一応開示の撤回が済んだといたしましても、その後において、八十二條に基いて、さらに別のところから勾留の理由開示の請求がありましたときにも、やはりやることになりますか。やらないことになりますか。
  147. 野木新一

    野木政府委員 勾留の理由の開示は一回限りで、その後の申立についてはやらない趣旨で立案しております。
  148. 石川金次郎

    ○石川委員 一回限りであるということは、八十二條のたれか一人が行えば、行う権利がなくなるという意味でありますか。そして一回限りでやらないという御趣旨は、法のどこに現われておりますか。
  149. 野木新一

    野木政府委員 勾留の理由の開示の手続は、第八十三條によりまして「被告人及びその弁護人が出頭しないときは、開廷することはできない。」ということになつておりまして、必ず被告人がこれに関係することになつております。すなわち八十二條第二項の、被告人以外のものから、かりに勾留の理由の開示の請求があつた場合におきましても、八十三條第三項の規定によつて、必ず被告人関係することになる次第であります。從いましてこの手続きを一回限りといたしましても、被告人の非常な不利を与えるということは起り得ないわけであります。一回限り、二回以上はできないという趣旨は、裏面的には八十六條におきまして「同一の勾留について第八十二條の請求が二以上ある場合には、開示の手続は、最初の請求についてこれを行う。その他の請求は、開示の手続が終つた後、決定でこれを却下しなければならない。」という規定の半面から現われてくるものと解釈します。
  150. 石川金次郎

    ○石川委員 被告は勾留の理由の開示を二回聽き得るということに相なりますか。当初勾留されましたときに、公訴事実を聽かされることによつて、勾留の理由が明らかにせられたことになる。さらに勾留の理由開示の請求によつて、二度聽くことができ得るということになりますか。そうなりますことは、どういう理由でありますか。
  151. 野木新一

    野木政府委員 憲法第三十四條におきましては、「理由」という言葉が三箇所に出てきておるわけでありますけれども、たしか英文の方を見ますと、前後の「理由」はチャージになつておる。あとの「理由」はコーズです。そういうように書いてあつたと思います。そこでこの案におきましても、七十六條、七十七條におきましては、憲法を承けまして、「公訴事実の要旨」というようになつており、第八十二條におきましては、はだかのまま「公訴事実の要旨」ということにいたしませんで、「勾留の理由の開示」という言葉を使いましたのは、その間の多少のニュアンスを表わしたい、そういう氣持ちでございます。     —————————————
  152. 井伊誠一

    井伊委員長 次に法務廳接置法等の一部を改正する法律案を議題といたします。提案説明を願います。
  153. 岡咲恕一

    岡咲政府委員 ただいま議題となりました法務廳設置法等の一部を改正する法律案提案理由を御説明申し上げます。  政府は昨年第一回國会に、法務廳設置法案提出して御審議を仰ぎ、同法律は両院を通過成立して、本年二月十五日から政行せられておりますことは、御承知の通りであります。そしてこの法律案提出した当時は、昭和二十三年三月三十一日までに少年の保護に関する機構を根本的に改革し、少年法等を改正して少年裁判所を設立することとするとともに、同年四月一日から少年の保護に関する法務総裁の権限の一部を縮減することを前提として、同法第十條第五項第二号及び第三号において「少年裁判所によつて保護処分に付された少年犯罪人の保護に関する事項」及び「少年裁判所によつて保護上分に付された少年に対する司法保護事業に関する事項」を、法務廳少年矯正局の所掌事務として規定し、同法第十五條第一項において「法務総裁は、昭和二十四年三月三十一日までは、從來司法大臣の管理に属した私立の矯正施設に関する事務を管理する」が、「昭和二十三年四月一日からは、政令の定めるところにより、右施設の運営について、厚生大臣と協議しなければならない」ことを定め、同條第二項において、「法務総裁は、昭和二十三年三月三十一日までは、從來司法大臣の管理に属して少年の保護に関する事務を引き続き管理する」が、「罪を犯す虞のある少年に関する事務は、少年裁判所によつて保護処分を受けた少年に関するものを除いては、同年四月一日から、これを厚生大臣の管理に移す」ことといたしたのであります。しかしながら、諸般の事情により、右期間内には、少年法等の改正法律案國会提出して御審議を願うことができなかつたので、本年二月政府より法案提出し、両院を通過成立して昭和二十二年法律第六十五号、裁判官の報酬等の応急的措置に関する法律等の一部を改正する法律昭和二十三年法律第十号)によりまして、法務廳設置法第十五條第一、二項に規定する法務総裁が私立の矯正施設の運営につき、厚生大臣と協議し、また罪を犯すおそれのある少年に関する事務を、厚生大臣の管理に移すベき時期を三ケ月間延期し、同法第十條第五項第二号及び第三号中「少年裁判所」とあるのは、昭和二十三年六月三十日まではこれを「少年審判所」と読みかえることといたしたのであります。そしてその後も鋭意少年保護機構改革につき研究を重ねた結果、このほどようやく成案を得、少年法改正法案は、数日前これを國会提出いたしたのでありますが、右改正法及びこれに関連して提出されるべき他の法令の制定及び施行準備のためには、今後なお相当の日時を要し、本月三十日までにこれを完了することは、とうてい望み得ないことが明らかとなりましたので、ここにさらに法務廳設置法第十五條第一、二項に定める法務総裁の厚生大臣との協議開始、及び同大臣への所管事務移転の時期を六ケ月間延期し、同法第十條第五項第二、三号中に「少年裁判所」とあるのを「少年審判所」と読みかえる期間を、昭和二十三年十二月三十一日までとすることといたしたく、この法案提出いたした次第であります。  何とぞ愼重御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願いいたします。     —————————————
  154. 井伊誠一

    井伊委員長 なおこの際裁判所職員の定員に関する法律の一部を改正する法律案について、政府委員から敷衍説明の発言申出がありますので、これを許します。
  155. 岡咲恕一

    岡咲政府委員 裁判所職員の定員に関する法律の一部を改正する法律案につきまして、前会概括的な提案理由の御説明を申し上げましたが、これについて多少御説明を敷衍いたしたいと思いまして、委員長にお願いいたした次第でございます。  この法律案の第一條は、前会にも申し上げましたように、判事補の定員を現在より五十五人増加することを認めんとするものでございます。これは地方裁判所におきまして、最近令状関係事件が非常に錯綜してまいりまして、昭和二十二年五月三日から昨年の末までの地方裁判所及び支部におきまして取扱いました行政処分の請求事件の数は、東京高等裁判所の管内におきまして、合計三万一千四百六十九件でございまして、全國の総計を見ますと、九万八千三百八十二件という厖大なる数字に上つておるのでございます。これは現在判事もしくは、判事補が主として処理いたしておるのでございまするが、現在の人員では、とうていこの令状関係事務を迅速に処理いたすことは、はなはだ困難でございますので、もつぱらこの令状関係の事務を処理いたさしめますために、新たに五十五人判事細の増員をお願いしておる次第でございます。  それから第二項は司法研究所の教官の増員をお願いいたしますとともに、現在は一級の教官は一人でございますが、これを全部一級の教官にいたさんとするのでございます。司法研究所におきましては、申すまでもないことと存じますが、裁判官檢察官、あるいは弁護士たらんとするところの司法修習生の教育訓練を主務といたすものでございますが、昭和二十三年度におきましては、この司法修習生の教育のみならず、さらに裁判官の個別研究をも指導いたす計画をもつておりますし、そのほか二級及び三級の裁判所事務官、それから簡易裁判所判事の再教育といつたような問題も計画いたしまして、種々実施計画表を作成いたしておるのでございます。たとえて申しますと、司法修習生の二十三年度の実施計画表によりますと、一年間に約四百人の司法修習生の教育をいたさなければなりませんし、簡易裁判所判事の指導再教育という点について申しますと、二十三年度中に二百七十人の再教育を一応予定いたしております。裁判官の研究につきましては三十人、二級裁判所事務官の再教育につきましては百八十人、三級裁判所事務官の再教育につきましては六百人という多数の人員の訓練、教育を予定いたしておりますので、この重要なる任務を担う指導教官を選びますためには、現在のように二級の教官をもつて充てることは、まことに不十分でございますので、教官を全部一級官にいたしますとともに、今申し上げました実施計画を完全に遂行いたしますために、その定員を増加いたしまして、專任十人に改めんとするものであります。  それから第三項の修正は、裁判所事務官の増員をお願いいたすものでございますが、これはもつぱら家事審判所事件の処理を迅速ならしめんがためでございまして、三級の裁判所事務官のうち五名は、司法研究所の機構の拡充のためにお願いいたしておる次第でございます。家事審判所における受理件数は、昭和二十三年一月から三月十五日までの全國の数を調べてみますと、審判事件につきまして二万二百三十九件、調停事件につきまして四千八百三十一件、法律相談の事務につきまして八万二千五十四件というきわめて厖大な数字を示しております。現在の定員をもちましては、とうていこの事務を適切迅速に処理いたすべき裁判所事務官の補助的な仕事を行うことが困難でございますので、人員の増加をお願いいたす次第でございます。  この法律案につきまして、実は御説明を兼ねてお願いを申し上げたい点がございます。それは最後に申し上げましたこの裁判所事務官の増員の点でございますが、これは現在の定員は、この改正法律案では、第四條中專任三百二十一人二級、專任三千六百九十五人三級を、專任三百六十九人二級、專任三千九百三十六人三級に改めるというような條文になつておりますが、現在の定員は專任二百五十九人二級、專任三千百五十七人三級でございまするが、現に國会提案になりまして審議中の檢察審査会法の附則におきまして、その定員を改めまして、專任三百二十一人二級、專任三千六百九十五人三級に改めるような規定を附則の中に設けられておりますので、この檢察審査会法がおそらく國会を通過するであろうという予定のもとに、本案を起草いたしました関係上、第四條中の基本の員数が、檢察審査会法の附則によつて改正されました員数を基本といたした次第でございます。もし檢察審査会法がこの國会において御可決を得ないということになりますと、この基本の数字を現在の定員に改めていただきます必要があろうかと存ずるのであります。それからさらにその定員に関する改正法律案は、昭和二十三年度の暫定予算によるところの増員に基きまして法律案を起案いたしたのでございまするが、現在國会提案しておりまする二十三年度の本予算におきまして、さらに増員の予算が認められまして、これが御審議を仰いでおるのでございまして、おそらくこの予算案は國会において御協賛を得られるのではないかと期待いたしておりまするが、もしさような結果に相なりまするならば、この法律案の新しく増員を認められまする定員は、相当数増加になりまして、その限度におきまして、これまた御修正をお巣いしなければならないであろうと考えておる次第でございます。なおその詳細につきましては、御質問によりましてお答え申し上げてもよいかと思いまするが、予算で認められておりまする新しい増員の部分は、司法研修所の教官が專任十三人で、これが全部一級の教官が認められた次第でございます。言いかえれば現在專任の教官は一級は一人でございまするが、新しく十二人増員として認められた次第でございます。そうして現在ある二級五人の專任教官は削られたわけでございます。  次に裁判所調査官の員数は、專任が二十人でございまして、そのうち十人を限つて一級とすることができるように現行法ではなつておりまするが、二十人全員を一級とすることができるように予算では認められた次第でございます。  次に裁判所事務官の点でございまするが、これを二級官を総数で申しますると六百九十七人、三級官を四千七十一人に改めることを認められた次第でございます。  さらに裁判所技官の員数でございまするが、これが現在は專任二人二級、專任十一人三級となつておりまするのを、專任四人二級、專任二十五人三級に増員を認められた次第でございます。この予算面において認められました限度おいて、本法律案もまた増員をお認め願いまして、御修正をお願いいたしたいと考えておる次第であります。  簡單でございまするが、補足的な御説明を申し上げた次第でございます。
  156. 井伊誠一

    井伊委員長 本日はこれにて散会いたします。     午後三時三十六分散会