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中村(俊)
委員 次に第四号ですが「
被告人が罪証を隠滅する虞があるとき。」先般私は総括的
質問のときにも伺つたのでありますが、なるほど
立案者の
考え方は、保釈というものは権利なんだ、
從つて第一審の判決があるまでは、
被告人は無罪なんだという建前でいくのだというのであります。これははなはだ結構なことでありまして、この保釈の点については、この
法律が施行されまするならば、全國の
裁判官はこの立法の
精神をよく理解されて、保釈の点についても、その原則を守られることだろうとは信ずるのでありまするけれども、どうもこれは私どもの
考え方ではありません。おそらく先般も明禮
委員が
質問されたごとくに、保釈の点については、いまだに
日本の多くの
裁判官の頭に、原則としてはむしろ保釈を許さないという
考え方が支配をしておることは明らかであります。それで八十九條の原則は、保釈の
請求があつたときは、以下の五号の條件がない場合は、これを許さなければならぬということにな
つておりますが、一番危險なのが第四号でございます。「
被告人が罪証を隠滅する虞があるとき。」これもただいま
質問いたしました
決定に対してはなるほど即時抗告ができるわけですから、当然保釈の結果に対しては、今まで
理由を附せなければならなかつたはずです。これは瀧川幸辰教授も指摘されているごとくに、なお相当身柄を拘束する必要があると認めるから保釈の申請を却下するが、何のためになお拘留する必要があるかという
理由があげられていないのです。私が最もおそれるのは、やはりこの「
被告人が罪証を隠滅する虞あるとき。」という場合です。というのは、御承知の
通りこの
改正では
被告人の
黙秘権を強く認めております。
從つて今より否認
事件が続出してくるだろうということが想像されるのです。そうすると今までの取扱いは
事件を否認するものは絶対に保釈を許してくれませんでした。それとこの第四号とは相結んで
被告人が罪証を隠滅するおそれがあるということにして、許されないようになりはしないか。それから第四号は、そういう
簡單な
言葉にな
つておるのですが、保釈の取消しの場合に、九十六條の
被告人が逃亡したとき、逃亡もしくは罪証を隠滅すると疑うと足りる相当な
理由があるとき取消すことができるいう
意味の
規定は、四号を隠滅すると疑うに足りる相当な
理由があると保釈を許さないという
規定にする。ここにこういう
規定がむしろ必要であ
つて、その方が取扱い方が丁寧じやないかと
考えられるのですが、この点について重ねて
政府の御
意見を承りたいと思うのであります。
それからなお一点、これは
一つの立法的な
考え方でありまして、今ここで私の
個人の
意見としてお聽きを願
つておきたい。ただいま承れば、さいわい
公判調書について訂正の案をお出しになるというのでありますが、ついでにお
考えを願いたい。これは私は非常にいい
制度と
考えるのでありますが、これは保釈を許してもらいやすいという
一つの方法なんです。もつとも八十九條においては原則として保釈の
請求権は
被告人の権利だということにな
つておりますが、今申し上げたように、四号、五号——五号は
あとで伺いますが、この
規定の濫用によ
つて保釈がとかく許されないのじやないか。そこで私はこういう
一つの私案を
提出いたしたいと思うのです。保釈された者が逃走をした場合は、九十六條の
決定を取消し、そして保釈金の一部または全部を没收するというのでありますが、これでは足りないのです。
捜査をして再び拘引されるまでの
捜査費用というものを引受人に負担せしめるという
制度です。これをぜひ私はお
考え願いたいと思うのであります。そうすれば
弁護人も無責任なる引受をいたしませず、親戚その他の友人が引受けましても、むしろ責任をも
つて逃走をせしめないということになるだろうと思われるので、
一つの私案といたしまして、保釈金の没收以外に
捜査費用を引受人に負わしめ、そしてできるかぎり保釈を許すという方向に向
つても
つてい
つていただけないかと
考えるのであります。
それから五号であります。
被告人の住所不定の場合ですが、どういう場合に住所不定と見るのか私は問題だと思う。現に先般も私の経驗からいきますと、勝手に警察官が住所不定にしてしま
つておる。本人が親戚の家を住所としておるにかかわらず、
記録には住所不定ということにな
つておる。そうすると單にそういう外見的な面だけで
裁判所が住所不定だという場合には、これは許さぬのじやないかという疑いがあるのであります。もつとも五号には「
被告人の氏名及び住居が判らないとき。」とありますから、住居がわからないだけでは、この第五号にあてはまらないとは思いますが、「
被告人の氏名又は」ではありませんで、「
被告人の氏名及び住居が判らないとき。」でありますから、この二つの條件がそろわなければ、原則として許されぬと思うのでありますが、私はそう解釈するのです。これは「又は」という
趣旨に解すべきであるか、氏名及び住居がわからなければいけないのかという点でありますが、先ほどの
被告人の罪証を隠滅するおそれがあるというときは、かりに氏名及び住居が不明だという場合として、その住居不明だという場合は、どういう場合をも
つて住居不明だと判断されるのであるかという点と、私の私案について御
意見を伺いたいと思います。