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1948-06-10 第2回国会 衆議院 司法委員会 第29号
公式Web版
会議録情報
0
昭和二十三年六月十日(木曜日) 午後一時四十五分
開議
出席委員
委員長
井伊
誠一君 理事 鍛冶 良作君
佐瀬
昌三君 花村 四郎君 池谷 信一君 石井
繁丸
君
猪俣
浩三君
山中日露史
君 打出 信行君
中村
俊夫君
中村
又一君 吉田 安君 大島 多藏君
出席政府委員
檢 務 長 官
木内
曽益
君
法務廳事務官
野木
新一君
法務廳事務官
宮下
明義君
委員外
の
出席者
專門調査員
村 教三君
專門調査員
小木 貞一君
—————————————
本日の会議に付した
事件
刑事訴訟法
を改正する
法律案
(
内閣提出
)(第 六九号)
—————————————
〔筆記〕
井伊誠一
1
○
井伊委員長
開会する。
刑事訴訟法
を改正する
法律案
を議題とし
質疑
に入る。
佐瀬昌三
2
○
佐瀬委員
本案
の
審議予定
は如何。
井伊誠一
3
○
井伊委員長
明日ぐらいまでに
総括的質問
を終り、次いで章節に分けて
質疑
を継続し、大体二十日ころまでには終りたいと思う。
佐瀬昌三
4
○
佐瀬委員
裁判
の
迅速等
の要請のため若干
基本的人権
の
擁護
が軽視された点があるように思うが、この点をどう苦心したか。
木内曽益
5
○
木内政府委員
裁判
の迅速と
基本的人権
の
擁護
の
関係
は、
控訴審
を
事後審
にしたことについてであると思うが、この点一審の
手続
きは丁重で、しかも
從來
と違い、
公判
にはまず
起訴状
だけが
提出
され、
裁判官
は
白紙
で臨み、
十分手
をつくし、
証拠資料
などは出しつくせるようにな
つて
いるから、
控訴審
でこれを繰返す必要はないと思う。
從つて
迅速という問題とともに、
被告人
の
人権
をも考慮している。
佐瀬昌三
6
○
佐瀬委員
裁判
について三
審制度
をと
つて
いるのは、
誤判
のないようにとの意図からである。これが
人権
を尊重することになるのであるが、三
察制度
と
複審
の廃止とは逆行すると思う。一審と二審とは事実審として、殊に二審においては
公判中心
の妙味を発揮するのではないか。
木内曽益
7
○
木内政府委員
一審が
從來
と異り、あらゆる面からの
証拠提出
ができるし、殊に
警察官
の聽取書がほとんど
証拠力
をもたない。まつたく
裁判官
が
白紙
で臨み、
誤判
の場合が少くなるように、一審の
手続
が詳細に
規定
されている。
佐瀬昌三
8
○
佐瀬委員
基本的人権
を
擁護
する
立場
から見て、
被疑者
に対する
強制処分
について、原案には
憲法
の趣旨に抵触すると思われる点がある。この点をどう
解釈
したか。
木内曽益
9
○
木内政府委員
憲法
第三十三條の
規定
は、事前に
令状
がでている場合は、結局
令状
によ
つて
逮捕
するものであると思う。
本案
における問題の
規定
は、
憲法
の
規定
の中に当然容認される。また
緊急逮捕
については早急に
令状
をもらえない状況にあるわれであるから、
憲法
の
現行犯
という意味をさように狹く考えなくてもよいと考えるので、
憲法違反
ではないと思う。
佐瀬昌三
10
○
佐瀬委員
前問に関連して
略式手続
についてはどう考えるか。
木内曽益
11
○
木内政府委員
略式命令
の
請求
は、非常に
範囲
を制限しており、
被告人
に
異議
のないときに限られ、発付するについては、
請求
を
被疑者
に告げてから七日間の
猶予期間
を置いている。
被疑者
が簡略な
手続
を要望しているのに、わざわざこれを
公判
に廻すのは必ずしも
人権擁護
ではない。結論として
略式手続
は
憲法違反
ではないと考える。
佐瀬昌三
12
○
佐瀬委員
略式命令
でも、
刑事裁判
である限り
民事的和解
というような性格をもつことになるのは、
刑事裁判
の本質を失うものとしてよくないと思うが、この点
実務的経驗
からどう観察するか。
木内曽益
13
○
木内政府委員
異議
のないということは、
裁判所
が
略式命令
を出す
前提
として
規定
されているから、檢事が
異議
なしとしても
命令
を発付するのは
裁判所
でうるから、
裁判所
へ
不服申立
ができる。また
略式命令
に不服があれば、
公判裁判
も
請求
できる。なおこれは
被告人
の利益を
基本
とするものであ
つて
、
民事的和解
という
観念
からではない。
佐瀬昌三
14
○
佐瀬委員
捜査
の
段階
について、
司法警察官
の
立場
を
檢察官
の直属にすることによ
つて
、
犯罪捜査
の目的を達することが必要ではないか。
木内曽益
15
○
木内政府委員
警察官
は原則として
公安委員
のもとに活動し、
檢察官
とは独立しているが、
捜査
を実施するに必要な仕事は
國家そのもの
に属している。
本案
百九十三條に、
一般的指示権
や、
具体的事件
について
捜査
を補助させる
指揮権
があり、しかもこれに從わない
警察官
に対しては、
公安委員会
に対し罷免の訴追ができることにな
つて
いるから、これらの
規定
で強力に機能を発揮できると考える。
佐瀬昌三
16
○
佐瀬委員
経営査察官
に対する
法案
の
共同審査
について、
決意委員会
に交渉した結果の報告を願いたた。
井伊誠一
17
○
井伊委員長
決算委員長
と話合いの結果、明日の
決算委員会
で
司法委員
の
委員外発言
を許される手筈である。
佐瀬昌三
18
○
佐瀬委員
経済査察官
の
制度
は、
経済警察
に関連するにかかわらず、
一般
の
檢察官
の
指揮系統
から外れ、本來の
査察
を逸脱しているという
理由
から第一
國会
の
司法委員会
で葬られたのであるが、
実体
はまつたく同一のものが、再び他の
委員会
に
提出
されている。
政府
は
本案
との関連においてどう考慮したか。
木内曽益
19
○
木内政府委員
相接干與した
政府委員
が出席していないから、次の機会に許されたい。
佐瀬昌三
20
○
佐瀬委員
捜査過程
において、
被疑者
に対する
弁護人
の
弁護権
は、たとえば
立合権
とか、
記録閲覧権
において不十分と思うがどうか。
木内曽益
21
○
木内政府委員
捜査
は
被告人
の保護と公共の福祉との調和の点からも考えなければならない。問題の
犯罪
事実についても、
被疑者
はこれを知悉しているのに対し、
檢察官側
は
捜査
によ
つて
初めて事実の端緒を知るものである。
捜査
の
過程
においても一々
弁護人
に通知し、立合せるというような必要はないと思う。拘束中の
被疑者
については、
弁護人
は
秘密裡
に
被疑者
に接見し、一切の事実
証拠
を聽取することもできるのであるから、
弁護権
に欠けるところはないと考える。
佐瀬昌三
22
○
佐瀬委員
立体的眞
実
発見主義
は
捜査
の
段階
においても必要である。
弁護人
のためにこれを確立する必要がある。
木内曽益
23
○
木内政府委員
本案
においては
当事者訴訟主義
は
公判中心
であ
つて
、その
前提
となる
捜査
の
段階
にまで拡充することは、前述の
理由
で必要ないと思う。
佐瀬昌三
24
○
佐瀬委員
起訴陪審
についてどう観察したか、
立案経緯
を聽きたい。
木内曽益
25
○
木内政府委員
この点については特に考慮せず、ただ
人権蹂躙
についてのみ
檢察官
、
警察官
が誤解を受ける虞れがあるというので、
起訴陪審類似
の形を
とつ
たが、
起訴
を執行するのは
檢察官
に專属する
建前
をと
つて
いる。
佐瀬昌三
26
○
佐瀬委員
第三章第一節の
公判準備
の
條文
は、大体
公判手続
のための
形式的準備
のようであるが、
訴訟
を迅速に貫徹するためには
公判準備
を、
計数的複雜
なものについては実質的、内容的に
事件
を整備する必要があると思うがどうか。
野木新一
27
○
野木政府委員
本案
においては
起訴状
一本
主義
の
建前
その他から、
現行法
のように
公判
前に
実体
的な事項を
調査
することは考えられない。ただ二百九十
七條
の
規定
があるので、運用であらかじめ如何なる
証拠
があるか準備することができると考える。
佐瀬昌三
28
○
佐瀬委員
全体的に必要とは思わぬが、
経済事犯
や、背任や、横領などでは
纒まり
がつかないと思う。
証拠調
は事実を
前提
とするのであるから、論点がはつきりしなければ、
証拠
の問題は起らない。ただいまの二百九十
七條
の
精神解釈
は、事実
関係
をも
証拠準備
によ
つて
認定し得るのか。
野木新一
29
○
野木政府委員
二百九十
七條
は文字通りの
解釈
で、事実
関係
にまで深入りするのは予想しない。
佐瀬昌三
30
○
佐瀬委員
事実が一應構想されなければ出てこない。
野木新一
31
○
野木政府委員
起訴
の法式は、從前より明確であると思う。二百五十六條で公訴事実は
訴因
の明示を
規定
している。しかも
訴因
を明示するには、日時、場所及び方法をも
つて
罪となるべき事実を特定しなければならないので、ここに
起訴状
の
変更
という
観念
が生まれてくる。このように
訴因
の
変更
を認めている事情を見れば、この問題は現在より明確になると考える。
佐瀬昌三
32
○
佐瀬委員
起訴状
の
積極的犯罪
事実に関する
証拠
ではなく、これを積極的に別個の事実で否認することに関する
証拠
は、
防禦側
から見て重要な意義を持つ。
從つて
二百九十
七條
は、これを含めて
解釈
しなければならないと考える。第二節の事実の認定は
証拠
によるという
規定
の事実は、
廣くし
てはならないと思うがどうか。
野木新一
33
○
野木政府委員
現行法
を同
樣犯罪構成
事実を積極、消極に立証する事実を含むを考える。
佐瀬昌三
34
○
佐瀬委員
自白
の点について、いわゆる
共犯者
の
自白
を
訴訟法
上どう取扱うか。
木内曽益
35
○
木内政府委員
例をも
つて
説明すれば、
選挙違反
の場合等であるが、一人が
自白
しても他の一人がこれを否認すれば、全部について
証拠
がないと考える。
佐瀬昌三
36
○
佐瀬委員
この場合
実体法
上の
共犯観念
について
必要的共犯
、
概括的共犯
を分けて考える必要はないか。
木内曽益
37
○
木内政府委員
双方とも同樣と考える。
佐瀬昌三
38
○
佐瀬委員
以上で
概括的質問
を終り他は
逐條審議
に讓る。
猪俣浩三
39
○
猪俣委員
新潟縣下
における
人権蹂躙
問題として、
公務執行妨害
で留置されている六名が、取調べが終
つて
いるにかかわらず、依然留置されたまま
家族
や
弁護人
に対しても面会が禁止されている。このような事態は今後どうなるか。
野木新一
40
○
野木政府委員
新
法案
では、第一に
弁護人
については第三十九條により、
起訴
後拘留中の者は
弁護人
と
秘密裡
に接見できる。
家族等
とは、第八十條によ
つて法令
の
範囲
内で面会できる。しかし第八十一條で
罪証隠滅
を疑うに足りる相当な
理由
がある時については、
家族等
との接見を禁ずる
規定
がある。
猪俣浩三
41
○
猪俣委員
証人に対する
補充訊問
の最中、
檢察官
が
弁護人
は
誘導訊問
をや
つて
いるから禁止してもらいたいと
裁判官
に
請求
されたという事例がある。
本案
ではこのような
権限
が
檢察官
に與えられているか。
野木新一
42
○
野木政府委員
英米法的に言えば「イエス」か「ノー」かの形の
質問
が
誘導訊問
と言われるが、
誘導訊問
の可否について
本案
では原則的に確立されていない。これはやがて判例的に確立されるものと予想される。ただ
本案
について触れているのは、三百九十五條の
規定
で、その他相当でない時はとあ
つて
、はなはだしい
誘導訊問
は
裁判長
の
訴訟指揮権
で制限できることがあると思う。またさらに三百九條においてはなはだしい
誘導訊問
には、
異議
の
申立
ができるものと考えられる。
佐瀬昌三
43
○
佐瀬委員
経済査察官
の取扱う
事犯
は、
経済警察
と密接な
関係
があるので、いかに考慮したか。
宮下明義
44
○
宮下政府委員
立案
の当初においては、
経済警察
に関する取締りは
査察官
一本の
考え方
であつたが、その後重大な
事件
については
査察官
が行うが、
一般
の
警察官
も行うのであることに
警察法
に
規定
された。現在は
査察官
の
権限
については、
査察官
の
事犯調査
は
犯罪捜査
ではなく、それ以前の
調査
の
段階
、すなわち
檢察官
に告発するかどうかの
資料
を集めるだけである。たとえば
税関官吏
が
違反
について
調査
して進告する
段階
と
類似
の
考え方
であ
つて
、
檢察官
の
一般的指示権
を被せなくても
調査
せられる。
佐瀬昌三
45
○
佐瀬委員
査察官
の
強制処分的行為
は、
勅令
として指定されるものか。また
査察官
が同時に
司法警察官
の職務を行うことができるか。
宮下明義
46
○
宮下政府委員
本案
に引続いて
提出
を予定されている
司法警察職員指定法
では、
査察官
を
司法警察職員
としていない。
刑事訴訟法
上の
司法警察職員
ではなく、現在は
査察員法
に基づく
犯罪捜査
前
段階
の
調査
の
権限
をもつ。
税関官吏
なども
裁判官
の
許可状
があれば
強制処分権
を使い得るのであ
つて
、この点
査察官
も
令状
により、もとより自ら執行しないが、
警察官
を同行して
逮捕
までできる。この点については
犯罪捜査
でない
段階
でも、ある程度の
行政権
は行使できると考える。
井伊誠一
47
○
井伊委員長
散会する。 午後三時三十分散会