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1948-05-28 第2回国会 衆議院 司法委員会 第22号
公式Web版
会議録情報
0
昭和二十三年五月二十八日(金曜日) 午後一時五十分
開議
出席委員
委員長
井伊
誠一君
理事
鍛冶 良作君
理事
石川金次郎
君
理事
八並 達雄君 佐瀬 昌三君 佐藤
通吉
君 花村 四郎君 松木 宏君
明禮輝三郎
君 池谷 信一君 石井
繁丸
君 猪俣 浩三君 榊原 千代君 中村 俊夫君 大島 多藏君
出席國務大臣
國 務 大 臣
鈴木
義男君
出席政府委員
法務政務次官
松永 義雄君 檢 務 長 官 木内
曽益
君
委員外
の
出席者
專門調査員
村 教三君
專門調査員
小木 貞一君 ————————————— 本日の
会議
に付した
事件
刑事訴訟法
を
改正
する
法律案
(
内閣提出
)(第 六九号) —————————————
井伊誠一
1
○
井伊委員長
会議
を開きます。
刑事訴訟法
を
改正
する
法律案
を議題といたします。
本案
について
提案理由
の
説明
を求めます。
鈴木法務総裁
。
鈴木義男
2
○
鈴木國務大臣
ただいま上程に相なりました
刑事訴訟法
を
改正
する
法律案
の
提案理由
について、御
説明
申し上げます。 新
憲法
は、各種の
基本的人権
の
保障
について、格別の注意を拂
つて
いるのでありますが、なかんずく
刑事手続
に関しましては、わが國における
從來
の
運用
に鑑み、特に第三十一條以下数
箇條
を割いて、きわめて詳細な
規定
を設けているのであります。しかもこれらの新
憲法
の
規定
は、
英米法系的色彩
の濃いものでありまして、これを完全に実施するためには、
大陸法系的傳統
のもとにつくられた
現行刑事訴訟法
には、根本的な
改正
を加える必要があるのであります。さらにまた新
憲法
は、第六章におきまして、
司法権
の
独立
を強化し、
最高裁判所
に
違憲立法審査権
や、
規則制定権
を與えるとともに、その構成にも、特別の配慮をいたしているのであります。そのため新たに
裁判所法
や
檢察廳法
の
制定
が必要とされたのでありますが、この
方面
からも、
現行刑事訴訟法
には、幾多の
改正
が免かれないことにな
つたの
であります。
政府
におきましては、さきに
臨時法制調査会
を設け、
憲法附属
の他の諸
法律
とともに、
刑事訴訟法改正法律案
の要綱についても
審議答申
を得まして、これにその後の
研究
の結果を加え、昨春、一應の成案を得るに
至つたの
でありましたが、いろいろの事情で、そのままこれを提案する運びにならなか
つたの
であります。それでやむなく、新
憲法
の要求する
最小限度
の手当をするため、この案の中から要点を拔き出して、
應急措置
を講じて、新
憲法施行
の日を迎えた次第でありました。これがすなわち
日本國憲法
の
施行
に伴う
刑事訴訟法
の
應急的措置
に関する
法律
でありまして、殊に
犯罪捜査
の部門において、
一大変革
をもたらしたものであります。以下
簡單
に
應急措置法
と畧称いたしますが、新
憲法下
の
刑事手続
は、この
應急措置法
と
現行刑事訴訟法
とが、二
者一体
と
なつ
て、そのもとに運営されてきているのであります。
政府
におきましては、その後も引続き
研究
を進めてまいり、昨秋
最高裁判所
の
規則制定権
との
関係等
をも考慮に入れ、先ほど申し上げました案にさらに
修正
を加えた案を完成したのでありました。しかして、今回、さらのこの案に対して、有力な学者、
裁判官
、
檢察官
、
弁護士等
の意見を参酌し、根本的な
修正
を加えまして
最終案
を決定し、
國会
に提出し、ここに御
審議
を受ける
運びになつた
次第であります。
本案
は、ごらんのように、七編五百六
箇條
からなるきわめて
厖大
なものであります。これを
現行刑事訴訟法
に比較しますと、
編別
、
章節
の区分は、大体
後者
になら
つて
いるのでありまして、大審院の
特別権限
に属する
訴訟手続
及び私訴の二編がなくなり、新たに
証拠保全
の章が設けられ、また第二編第一審で、予審の章がなくなり、第三章中に
証拠
の節が新たに加えられたほかは、一、二
章節
を併せたものがある程度であります。
條文
の数は、附則を別として、九十七
箇條
を減じましたが、これは私訴等を削つたことや、
手続
の細部の的もので、
裁判所
の
規則
に
讓つた
ものがあるためであります。 次に、
本案
の
内容
にはい
つて
御
説明
申し上げることにします。
本案
は、長年慣れ親しんできた
大陸法系的刑事
の
手続
と、新
憲法
に現われた
英米法系的刑事手続
とを渾然調和させることによ
つて
、新しい
刑事訴訟法
の確立を目指したものでありまして、
改正点
はきわめて多岐にわたり、その
一つ一つ
がいずれも重要なものを含むものでありますが、その一々の詳細は、別に
政府委員
から
説明
させることにいたしまして、私からは、特に重要と思われる四つの点について、申し上げることにしたいと思います。 まず第一の点は、
公訴提起
の
方式
の
改正
であります。
從來
は
公訴
の
提起
と同時に、
捜査書類
及び
証拠物
を、全部
裁判所
に提出していたのでありますが、
本案
では、
起訴状
には、
裁判官
に
事件
について
予断
を抱かせるおそれのある
書類
その他の物を添附したり、またはその
内容
を引用したりしてはならないことにいたしました。
從來
の
方式
では、どうしても、
裁判官
は、
公判廷
に臨み
被告人
に面接する前に、記録を調査し、
事件
の概要を頭に入れることによ
つて
、
予断
を抱きやすい傾がありますので、今後は、
公判廷
に臨むまでは、
裁判官
は、できるだけ白紙の状態におき、
公判
の
審理
によ
つて
、初めて
事件
の心証を得るようにさせたのであります。これによりまして、眞に公平明朗な
裁判
が確保されるわけであります。なお
本案
の考え方としましては、
公訴
の
提起
は、
裁判所
に対し、
審判
の
範囲
を限定するとともに、
被告人
のために
防禦
の
範囲
を明確にさせることをも目的とするものであります。この
後者
は、
從來
わが國ではその
重要性
が十分意識されていなか
つたの
でありますが、
本案
ではこの
方面
をもきわめて重視しているのであります。從いまして、
公訴
の
提起
は、口頭によることを許さず、必ず書面によることとし、かつ
起訴状
に
公訴
事実を記載するには
訴因
を明示してすべきものとし、罪名を記載するには
罰條
を示すべきものとし、
起訴状
はこれを必ず
被告人
に送達すべきものとし、また
公訴
事実の
同一性
を害しない
限度
で、
起訴状
に記載された
訴因
または
罰條
の追加、撤回または
変更
を許すが、この場合には、
被告人
に十分な
防禦
の準備ができる余裕を與えるべきこと等を定めているのであります。これらの点は、わが國の
刑事裁判
の実務の上においても、
被告人
の
人権
を
保障
する面においても、眞に画期的のものであろうかと思います。 第二の点といたしましては、
公判
の
審理
及び
証拠
に関する
部分
の
改正
であります。前述の
公訴
の
提起
の
方式
の
改正
と表裏しまして、
本案
では徹底的な
公判中心主義
が採用されることになります。殊に、後で述べまする
控訴審
に関する
改正
と相まち、第一審の
公判
が、
名実とも
に全
刑事手続
の
中心
となるように構想されているのであります。この
部分
に関する
改正
として特に重要なのは、一旦指定された
公判期日
の
変更
には、愼重な
手続
を経なければならないものとし、
審判
の
迅速化
をはかり、また
從來
のような
被告人迅問
の
方式
をやめ、
被告人
に
黙秘権
を認め、ただ
被告人
が任意に供述する場合のみ、その供述を求め得ることとし、
被告人
の
当事者的地位
を高め、また長期三年を超える罪にあたる
事件
については、
弁護人
がなければ開廷できないものとし、このような
事件
につき
弁護人
がないときは、
國選弁護人
を付するものとし、
被告人
の
保護
を一層厚くしたこと等であります。なお
弁護人
は拘禁中の
被告人
と
官憲
の立会なしに
面接等
をすることができることに
なつ
ている点も、御留意願いたいと思います。 次に
証拠
の点でありますが、
公判廷
における
自白
であると、
公判廷外
の
自白
であるとを区別せず、
自白
だけを唯一の
証拠
として、有罪の認定をすることができないものとし、
從來
のような
自白
を偏重する傾向を是正し、また
傳聞証拠
を極度に制限し、たとえば
捜査官憲
の調書やこれに代る
証言等
は、例外的にきわめて限られた場合にのみ
証拠
となし得るものとし、その場合を詳細に
規定
し、
証拠
の一節を設けた次第であります。なおいわゆるアレインメントの
制度
は、
被告人
の
保護
に欠けるきらいがあるので、これを採用せず、また
交互尋問制
は、なお
研究
を要すべき点がありますので、明文上はこれを取り上げず、ただ
運用
の面で、これに近い
方式
がとり得るように
なつ
ていることを附言しておきます。 第三の点といたしましては、
審級制度
に関する
改正
であります。まず
控訴審
を
從來
のように
覆審
としないで、
事後審
としたことが一番大きい点であります。
從來
は御承知のように、
控訴審
では、
事件
を最初から調べ直して、新しい
判決
をする構造に
なつ
ていたので
手続
がきわめて鄭重になり、かつ
被告人
の
保護
の方法も十分厚く
なつ
た以上、
控訴審
で
從來
のように
覆審
することは、実際上の見地からも不可能に近いことであり、かつ
被告人
の
保護
のためにも、絶対不可欠とも言うことができないので、
本案
では
覆審
の
制度
はやめ、
事後審
の
制度
としたのであります。すなわち
控訴審
はもつぱら第一審の
判決
の当否を批判する
審級
とし、
原判決
に不当な点があれば、それを破棄し、原則として原審に差し戻し、調べ直させることにしたのであります。なお、
控訴
の申立をしたときは、別に
控訴趣意書
を提出すべきものとし、その
方式
を詳細に定めて、
原判決
の攻撃すべき点を明らかにさせることにしたのであります。もつとも
控訴審
では
控訴趣意書
で攻撃してきている点以外の点でありましても、いやしくも破棄の事由にあたるものを発見したときは、
原判決
を破棄し得ることに
なつ
ている点に御留意願いたいと思います。次に
上告審
は、
最高裁判所
のみがこれを取扱うこととし、
上告理由
は
憲法違反
があること、もしくは
憲法
の
解釈
を誤まつたこと、または
判例違反
があることに限り、も
つて
上告審
の主たる任務が
憲法
問題の
裁判
と
法令
の
解釈
の統一にあることを明らかにするとともに、別に
最高裁判所
は、
法令
の
解釈
に関する
重要事項
を含むものと認められる
事件
については、特別に
上告審
として
事件
を受理することができるものとし、又量刑不当、事実
誤認等
があ
つて
、
原判決
を破棄しなければ著しく正義に反すると認める場合にも、
原判決
を破棄することができるものとし、も
つて
、
最高裁判所
が
具体的事件
について、妥当な解決をはかり得る道を開いたのであります。この
最高裁判所
の
権限
は、
現行刑事訴訟法
と
廳急措置法
との中間を行くものとして、適切なものであろうと思います。 なお
刑事
につきましては、
控訴審
は、全部
最高裁判所
、
上告審
は
最高裁判所
で取り扱うものとする前提のもとに
本案
はできていることを附言いたしておきます。 最後に、
檢察官
と
警察官
及び
警察吏員
との
刑事訴訟法
上の
関係
について申し上げます。申すまでもなく
警察
は、
警察法
の
制定
によりまして、当然
犯罪捜査
の職責を負うことになり、
警察官
及び
察警吏員
は、
從來
のように
檢察官
の補佐または
補助
としてでなく、
独立
の
主体
として
犯罪
の
捜査
をする建前にな
つたの
でありますが、なお
檢察官
との
関係
につきましては、別に
法律
で定めるところによるとされておりまして、これは、両者の
関係
が新しい
刑事訴訟法
で終局的に確定されることを予定していたのであります。
本案
においては、この点につきまして、まず
刑事訴訟法
上の概念として、
從來
の
司法警察官吏
に相当するものとして
司法警察職員
、
司法警察官
に相当するものとして
司法警察員
、
司法警察吏
に相当するものとして
司法巡査
の用語を用いることとし、
警察官
及び
警察吏員
は、他の
法律
または
國家公安委員会
、都道府
縣公安委員会
、
市町村公安委員会
、または特別区
公安委員会
の定めるところによ
つて
、
司法警察職員
として職務を行うものとし、
檢察官
と
司法警察職員
とは、
捜査
に関し互いに協力すべきものとしているのであります。しかして
檢察官
は、
從來
のように自己を補佐しまたは
補助
する者に対する
指揮
ということではなく、
独立
の
捜査主体
たる
司法警察職員
を予定し、これに対し、
公訴
を実行するため必要な
犯罪捜査
の重要な
事項
に関する準則を定めるための
一般的指示権
、
捜査
に協力を求めるため必要な
一般的指揮権
及びみずから
犯罪
を
捜査
する場合において必要あるときの
捜査
の
補助
をさせるための
指揮権
の三種の
権限
を認め、これに從わない場合には懲戒または罷免の訴追をすることができるものとしたのであります。
檢察官
と
司法警察職員
たる
警察官
及び
警察吏員
の
刑事訴訟法
上の
関係
は、このようにきめられたわけでありますが、これは
警察法
の理念にも背馳せず、かつわが國の実情に適合した最も妥当なものと考えられるのであります。 以上
簡單
ながら
改正刑事訴訟法案
の最も重要と思われる点を畧説いたした次第でありますが、何分先ほどからも申し上げましたように、
本案
は
基本的人権
の
保障
を強調する新
憲法
の
附属法典
として、最も重要なものの
一つ
であり、
國内的
にも國際的にも注目の的と
なつ
ておるのであり、きわめて
厖大
かつあらよる点で、画期的なものを含んでいるのであります。何とぞ
愼重御審議
の上、速やかに御可決あらんことを望む次第であります。
井伊誠一
3
○
井伊委員長
本日は
本案
の
総括的提案説明
だけにいたします。 それではこれで散会いたします。 午後二時六分散会