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天野委員長 それでは前会の結果について御
報告申し上げます。前会衆
参両院議員全員の署名をも
つてスターリン及びマツカーサー司令部、それから國際連党、トルーマン大統領等に嘆願書を出す、こういう御決議を願いました。早速シーボルド議長のところへ参りまして、その由を申し上げましたところ、シーボルド議長には非常に喜んで、われわれの話を約三十分にわた
つてそれぞれ聽いていただきました。そうして帰還促進にはできるだけの
努力をしよう。そうしてその嘆願書の斡旋については、スターリンとマツカーサー元帥に対しては自分で
取扱つてやろう、こういう御快諾を得たのであります。それによりまして、ここに文案を作成いたしまして、ただいまお手もとへ差上げましたが、これを皆樣に御檢討願いまして、お差支えなければ、これをも
つて決定した嘆願文案といたしまして、これに署名をつけて、さつそく御傳達方をお願いしたいと
考えております。どうかごらんを願いたいと思います。一應嘆願文を朗読してみますが、お氣づきの点がありましたら、しかるべく御訂正が願いたいと思います。
ソ連関係地域よりの
引揚促進懇請に関する
マツクアーサー元帥宛書簡案
マツクアーサー元帥閣下
親しく占領政策の遂行に当られ、我が國の現在及び將來について日夜肝膽を碎かれつつある閣下に対し、私共衆議院及び参議院に議席を占むるもの一同は、心からなる感謝の意を表します。
ここに、一同の連署を以て特に書を呈し、全
國民に代わり、
ソ連地域残留者の
引揚促進について懇願致しまする所以のものは、その帰還を待つ三百万
家族の衷切なる心情をこの上座視するに忍びざると共に、今なお多数の抑留者を残しているこの事実が絶えず一
般國民に深刻なる不安の念を與え、為めに
日本國再建の歩みを阻むこと大なるものあるを深く憂うるが故であります。
閣下
私共
日本國民は、誠に時宜を制する諸般の御政策に深く信頼し、あらゆる
努力を以
つてこれに協力しつつある次第でありまして、在外残留者の引揚を繞る諸問題についても完全なる御認識を有せらるることは、私共が確信して疑わぬところであります。そこで、或いは統計を掲げ、或いは実例を挙げて従らに閣下を煩わすことは、この際これを避け、只
國民衷情の一端を末尾に添えましたる嘆願書によ
つて御推察頂き度く存ずるのであります。
ここに、私共が衷心よりの感謝と共に、閣下に対し特に
報告致し度き二つのことがあります。その
一つは、故アチソン議長及び現シーボルト議長の屡次の対日
理事会に於ける引揚問題についての御盡力と、昨年末
ソ連側の還送中止前後に於ける総司令部の御
努力とが
國民に対し格別なる感銘と感激を與え、ひいて、
日本國民が愈々深く占領政策の精神趣旨を理解するに至れる事実でありまして、このことは、最近
各種國民大会等に於いて私共が
現実にこれを確認しつつあるところであります。なおその
一つは、去る二月十二日の極東
委員会に於ける
ソ連地域抑留
日本人捕虜の
取扱いに関する決定及びその採択に関するアメリカ
当局者の御
努力に対し、我が
國民が、想像を超え深く感動致している事実であります。
これ等の事実は、
日本國民が在外残留引揚者
引揚促進の問題につき如何に深き関心を抱いているかを物語るものでありまして、かくまで深きこの
國民の関心が、たとい如何ようなる
理由あるにせよ、又感激すべき米國側の御
努力にも拘らず、
ソ連よりの還送が全く中止せられている現事態に於て、今や憂うべき焦燥の念に変りつつある状況も
報告致すべき事項の
一つであります。
ソ連側の
各種理由を挙げての声明も、昨年九月五日より十月十五日の間
引揚促進連盟全國協議会の提唱に應じた嘆願書の提出四二〇万に余るという事実が示
す
國民の激しい心情を決して納得せしむるものではないと申さなければなりませぬ。抑留者の還送が更に、遷延して今一度抑留地に越冬せしめるが如き事態となり、為めに
日本國が蔭微の間永くその心に、あらゆる武器を投げうち非武装平和の文化
國家として、新しき歩みを続けんとするに、特に有害なる恨みの情念を残すに至らんことは、私共の最も恐れる所であります。
私共
日本國民は、無暴なる
戰爭を引き起した償いとして加えらるべき神の鞭を、敢えて免れんとするものではありませぬ。この鞭によ
つて過去に対する反省を愈々深くし、占領政策に衷心より協力して、新たなる国家再建の遂に上らんとしつつあるのであります。然しながら私共は、ポツダム直言の完全履行を誓う
國民が、他面抑留
同胞の身の上を思うて抱くその至情の深く且つ正しきを認めざるを得ないと申し上げ度いのであります。而して正しき
國民感情なるが故に、常に閣下を始めとして、連合軍側の御同情を得つつあるのみでなく、更のその御盡力によ
つて、喜びの日を迎える日も決して遠からざることは、よくこれを承知いたしておるのであります。然るにも拘らず、抑留者還送終了の日を明確に承知し得ざる
國民大衆が、今や深き憂いに陥
つている次第と共に、又その不安感を一刻も速かに拂拭し去
つて全
國民が相携えて專心
國家再建の遂に進み得ることを念願する私共の微意は、ともに閣下の御賢察を賜わり得るを信ずるものであります。
措辞非礼且つ意を盡さざるを恐るるのでありますが、閣下從來の御厚志に対し深甚なる感謝の念を捧げつつ
國民大衆と共に切に懇談するところのものは、一日一刻も速かに
ソ連関係地域からの抑留者還送が再開せられ、且つ第四十四回対日
理事会におけるシーボルト議長御主張の
通りにその速度を倍加し、我々
同胞が続々内地に帰還せんことの一事であります。而して國内の受入れ諸準備については、あらゆる
努力をも
つてきの上ともその整備拡充に努め、方ケ一にも御期待に副わざるが如きことなきを、固く誓うものであります。
最後に、閣下の御健勝と占領政策の円滑なる御遂行とを衷心より祈願致しつつ、この書簡を終ります。
〔
速記中止〕