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井出公述人 ただいま紹介にあずかりました
井出と申す者であります。実はラジオ、あるいは
新聞に中村というのが來るはずにな
つておりましたが、突然用事がありまして、私昨日呼び出されまして参つたわけであります。そのために
資料などの点において不十分であるかもしれませんが、その点御了承願います。私は学生でありますから、学生の立場として、また
國民一般の立場として、この
運賃値上げに対して全面的に
反対いたしたいと思
つております。
まず第一番として
政府の今後の
運賃値上げというのは、インフレ克服のために何らの
手段を打たないで、單なる安易な
手段として、
運賃値上げという
手段を用いたという点をまず衝きたいのであります。そしてまた次には学生として学生の生活が非常に窮迫している。この事実をも
つて議員諸賢に訴えたいと思います。
まず学生の実情から
お話いたします。これは非常に新しいデーターであります。まず学生
一般に言いまして、非常に生活が困窮している。こういうことは言えると思います。しかしながらその学生の困窮の仕方が、必ずしも一樣に困窮しているのではないということ、すなわちいわば階級分化が非常に行われているということを物語
つております。すなわちなぜかと言いますと、今年の四月の学友会、これは東大の文学部の自治会のデーターなのでありますが、非常にこれが
はつきりて現われているのであります。すなわち下の方は一千円から一千五百円月にかかる人間があるかと思うと、その上の方になると四千円、五千円、あるいは六千円も使
つている人間がいる。こういう
状態を
はつきり現わしております。すなわち少数の学生が非常に裕福である、しかしながら大多数の学生は食うだけで一ぱいである。そしてまた書籍の購入費まで手がいかない。こういう
状態であります。それからまた月に五百円くらい大抵
赤字が出るのでありますが、それは大抵本とか衣類を賣
つてしのいでいる。こういうこがちやんと
数字に出ております。從
つてここにおいて教育の機会均等というのが非常に破られてきた。これが学友会の新入生のデーターに現われているのであります。この学友会の文学部の新入生というのは、われわれの思つたより裕福な人間が多いのです。これは高等学校時代アルバイトをしていた者、こういう人間は、今度の六人に一人とか、七人に一人とか、ああいう競爭率の非常に高いところではすべて振り落されて、勉強の余裕のあつた者がはいれた。こういう現象ではないかと思
つております。しかもただいまアルバイトのことが出ましたが、そのアルバイトと学業とは漸次両立しなくな
つている。こういうことが言えると思います。すなわちなぜかと言いますと、アルバイトの賃金というものは
一般の
物價に比べて非常に上り方が遅いのであります。それでただいま一日働きますと、大体八時間働いて六十円から百二十円とれるのであります。平均七十五円というところであります。これでいきますと、食費でさえ浮かない、こういう
状態にな
つております。しかも学生はいわゆる組織
労働者ではありませんために、非常に首切りの対象になりやすいあるいはまた低賃金を押しつけられている。こういう現状なのであります。それからまた最近のデーターによりまして学生の生活の大体
一般的な平均的なものをと
つて御報告いたしたいと思います。それは一箇月の
生活費というのは二千五百円である。しかして食費は大体その八〇%の二千円かか
つている。そうしてまたここで問題とな
つているところの交通費というのは大体二百円である。從
つて交通費は大体八%であります。その残りの大体三百円という
数字が書籍とか、あるいは娯樂とか、いろいろな会にはいつた会費とか、そういうようなものになるわけでありますが、ほとんどここにおいては書籍の費用も出ない、こういう
状態であります。これが現果の学生の生活なのであります。
このような
状態にありますから、もしもここにおいて
運賃が三・五倍、こういうことになりましたら、今まで二百円だつた
運賃交通費が、たちまちにして七百円になり八百円になり、結局これが
赤字になる。しかも賃金の方は殖えない。こういう実情であります。学生生活は全面的に崩壞を招くのではないかとおそれている次第であります。
次に学生のことから
國民一般のことに目を移したいと思いますけれ
ども、
一般國民のいわゆる勤労大衆というものは、やはりわれわれと同じような生活をしている。すなわち三千七百円ベース
——今は二千九百二十円ベースなのでありますが、その大部分というものも、やはり学生と同じようにその八〇%を食費に費していると思います。そして学生とまたほとんど同じに、さつきの
加藤さんですかが言われたと思いますけれ
ども、やはり八%から一〇%の割合が交通費にな
つておる。こういうような
状態なのであります。從
つて現在の日本人の
收入では
運賃の占める割合が非常に低い。あるいはまた
物價に比べて
運賃の占める割合が非常に低い。こういうふうなことを言われて三倍
値上げでも構わない、こういうような論を言われる方もあると思いますけれ
ども、それは実は、
國民がその八〇%というものを、ほとんど食うために使
つておる。そしてまたその二〇%のうち八%を現在交通費に出している。こういう現状を思わなければならない。これは非常に無謀な挙である。こういうことが
はつきりおわかりになるのではないかと思うのであります。それで特にこの
運賃値上げというものが、從來われわれの
経驗によりますれば、
物價高騰の先頭を切
つて行われている。こういうことを指摘せずにいられないのであります。すなわち
運賃が上り、次にはやみの米の値段が上る、それからほかのやみ値が上る。それに続いてそれを追つかけるようにして公定價を上げる。こういうふうにしてどんどん他の
物價が上
つていく。こういうことが現在われわれの
経驗しているところではないかと思うのであります。しかも今度
政府は二十三年度総
予算においては、全然インフレ克服に対する対策を打
つていない。こういう現状におきまして、この三・五倍
値上げ、あるいはまた授業料の三倍
値上げ、こういうものが必ずやもつと大きなインフレを招くということは確かだと思うのであります。從
つてわれわれはこのようなインフレーシヨンを招くような
値上げに対しては、断然
反対するものであります。たとえばこのインフレ助長に関してはゐその実質的
影響と心理的
影響、こういうものがあると思われます。ただいま言いましたのは実質的
影響なのでありますが、結局
運賃値上げということは実質賃金を非常に減すということである。しかもまた心理的
影響も非常に大きい。こういうことを言いたいと思うのであります。また
運輸省においては、賃上げは大衆に対して何らの
影響も與えない、その証拠には輸送量が依然として変らない、こういうことを言われておるのでありますが、これは全然間違いだと思うのであります。何となれば、どうして
運賃値上げのあとに輸送量が変らないかといいますと、
鉄道というものは独占企業であるということ、これなしには
國民が歩けない。これなしには
國民が物を運べないというこの事実に基くものであります。何ら実質的
影響はないというものではないと思うのであります。從
つてわれわれがここで問題にしたいのは、
運賃値上げをすることではなくて、まずインフレを止めることである。このインフレを止めるべき策を講ずることである、これが第一番であると思います。すなわち賃金を上げてインフレを増進さしていくのは、明らかにこれは
政府のインフレ政策の誤診であると思うのであります。この点におきまして、同じ生活基盤に立
つておるところの学生も、また
一般國民もまつたく同じ立場に立つものと思
つております。
次に
政府が現在とりつつあるところの政策を批判したいと思います。私は最初に
國民的立場からや
つてい
つて、そうして学生の立場をそれに織りこんでやりたいと思います。まず第一に指摘したいのはスペシヤル、サービスということが非常に行われておるということであります。これは貨車の四八%がそれに使われておる、客車の一一%がそれに使われておるという事実が物語
つております。これは当然終戰処理費から出されるべきものであ
つて、これが非常に
負担にな
つておるということは一考を要するものではないかと思うのであります。次は交通公社の問題であります。交通公社に現に二億円の支出をされておるのでありますが、これは現在の
國民の
一般大衆にと
つてはあまり價値がない、むしろよけいの存在である、こう判断してこの交通公社に対するものは明らかに除いて差支えないものと思
つております。次にいわゆる交通警備員というのがあります。交通警備員、これまた特別会計から出しておるのでありますが、これは明らかに
一般会計、保安の方の会計に属すべきものだと思います。次はやはり
鉄道会計について言わなくてはならないのです。それはこれまで午前中に語られた方も、それから前に語られた方も指摘されたことでありますが、
石炭のことであります。ただいま私の手もとにおきましては、二十二年度の
資料しかなか
つたので、二十三年度については
ちよつと言えないと思います。二十三年度については、
國鉄の
加藤委員長が言つたと思いますから、その点は略したいと思います。たとえば
石炭は年に七百八十万トン
國鉄が必要とする。これを二十二年度におきましてはトン当り一千四百六十円で買
つておつたわけであります。從
つて一年間金額において百十三億八千八百万円、こういう
状態なのであります。ところがこれは重点的産業にしておくならば、実は去年の値段において六百円なのであります。從
つてここに約六十三億の黒字が出るはずなのであります。ところが現在の日本の
政府におきましては、これを
実行していない。何となれば、これは現在の日本の
石炭の消費量のうち三一%を
鉄道が使
つておる。從
つてこれは炭鉱業者に対して甚大なる
影響を與える、こういう
状態であると思うのであります。次は
石炭の炭質をよくするということ、これも
先ほどからしばしば言われております。すなわち
昭和十一年には六千四百四十カロリーであつたものが、
昭和二十二年度においては五千三百カロリーから三千九百カロリーに落ちておる。それから炭質が非常にまちまちであるために、蒸氣が上らなかつたり、あるいはまたむだな
石炭を使
つておる、こういう
状態なのであります。從
つて炭質をよくすれば、おそらく去年の
價格であ
つても二十億から三十億、今年であればさつき言いましたように、六十億くらいの黒字が出る、こういうことが言われております。しかもまた人件費と
物件費との
関係であります。すなわちこれはどういうことかといいますと、現在
國鉄は六十万人いる。か
つては四十五万人であつた。從
つて十五万人というものは、ほとんど無益に近い余剰人員である、首切りをしてしまへ、これがインフレ克服の
手段である、こういうふうに言われておるのでありますが、
昭和二十二年度におきましても、人件費と
物件費の割合は実は四一%と五九%であります。今年になると、それが三五%と六五%と、もつと差がひどくな
つておるのであります。從
つて國鉄の
赤字というものは、人件費にあるのではなくて、むしろ
物件費にある。さつき言いましたように、特にその中の主要な部分を占めるところの
石炭にある、こう申したいのであります。たとえば首切りを敢行した場合、十万人私が首を切
つてみます。去年の計算で行きますと、これは結局二十二億の黒字しか浮かないわけであります。それから三千七百円ベースで切
つても、四十四億しか浮かない。從
つてさつき言いましたように、二十二年度の計算においても、
石炭に関しては六十三億も黒字が浮くのでありますが、十万人を首切
つても、たつた四十四億しか現在でも浮かない、こういう実情を申し上げたいと思うのであります。その他
國鉄の会計については、特殊
物件費とか、あるいはまたそれに附属しておるところのいろいろな施設、こういうものに対しても税制を加えることによ
つて黒字が出る、こういうような結論に達したわけであります。
しかしながら、なお最後に、最も大事なことは、インフレ政策を打破すること、これが一番の最大の要点である、こういうことを申し上げたいのであります。私の前に申された方は、みないくらかの
値上げはしかたがないであろう、こういうような結論に達したであろうと思うのであります。それは
皆さんが、インフレやむを得ないという前提に立
つているからだと思うのであります。すなわち現在
政府が組んだところの総
予算額四千億円、これがやむを得ない、これに伴うところの三・五倍をやむを得ない、授業料の三倍もやむを得ない、こういうような立場に立
つておるから、必然的にそれが
値上げやむを得ない、しかし
値上げは何とかして
運賃二・五倍、
貨物五倍、このくらいのところに納まつたらいいじやないか、こういう結論に達するのであります。しかしながら、私はその前提であるところの
政府のインフレーシヨン政策というものを衝きたいのであります。從
つて今回の
運賃値上げに対しては全面的に
反対する、こういう立場に立
つております。
最後に
定期券のことについて一言申し上げたいと思います。
定期券は非常に
利用者が多い、ところがそれに反して
收入が少い、こういうのが事実であります。しかしながらこれを
数字化してみますと、
昭和十一年においては、人員にして定期が五六%、定期外が四四%、二十二年度におきましては、定期六〇%、定期外四〇%、すなわち定期の方は四%増加しておるのであります。ところがこれに対して
收入の方は、十一年度においては定期一〇%、定期外九〇%、二十二年度におきましては、定期一一%、定期外八九%、こういう
状態にな
つておるのであります。從
つて定期の
利用者が激増したがゆえに
赤字に
なつたという結論は出ないと思うのであります。また
鉄道利用者たるわれわれの例から言わしていただくならば、サービスという点においては非常に劣
つておる。サービスの割合にペイを拂うというのが、今までの経済の大体の傾向じやないかと思います。この事業が独占事業であろうとも、やはりそのサービスに比例してペイが拂われておる、こういうのが実情だと思います。その証拠に一等、二等、三等という区別がある。しかしながらわれわれから言わしむるならば、
定期券というものは明らかに三等以下の五等あるいは十等に値するものである、こういうことが言えると思うのであります、それを今
数字の上で言いますと、二十二年度におきましては、十一年度に比較して定期
利用者は三・〇五倍にな
つております。普通の
旅客は二・九九倍で、定期の
利用者が多少殖えております。しかしながら定期利用の輸送距離が延びておるということを指摘しなくてはならない。これはなぜかというと、戰災とか、疎開とか、住宅難のために非常に近郊に疎開した者が多い、こういう
状態であります。從
つてこれが一・四五倍に延びている。從
つて輸送量は非常に大きなものにな
つて、結局混雜の度合が四・三九倍、すなわち四倍半にな
つているという現状なのであります。しかもわれわれのような定期
利用者は毎日々々混雜時を利用して
——混雜時というのは大体普通の時間の二十倍に價する時間なのでありまして、サービスの割分から
考えますと、それこそ百分の一くらいの料金しか拂わなくてもいい、こういう結論になるのじやないかと思います。しかも学生定期のことを言いますと、現在の学生生活の窮状から、これは当然じやないかと思いますが、しかも学生のアルバイトということを
考えていただきたい。すなわち学生は学校におきましても一週五日制を布いている、こういう学校が非常に多いのであります。すなわち
一般の方々よりも一日少いという
状態なのであります。しかも学生がアルバイトしておるために毎日通学し得り者は非常に少い。こういう
事情にありまするから、明らかに学生定期は
一般の定期よりも少し割引にな
つていい、こういう点も了承されるのじやないかと思
つております。もちろんただいまの
定期券のこと
はつけ足りでありまして、私がほんとうに言いたいことは、
政府は現在のインフレ政策というものをただちに放棄して、
國民大衆の生花がもつと向上することを望むものであります。そのためには現在
國民所得の一兆九千億円、この中の大体九千億円というものが、全然捕捉できないところのやみ利得にな
つている、こういう現状を御指摘したいと思
つておりました。以上。