○吉村正君 私は実は
証人として出よというお話でありますので、何か皆樣方がお話なさりますのを承認すればいいのだと思
つて参りましたところが、この
公務員法案についての
意見を述べよということであります。而もそれを十五分間に述べよということでありますが、これだけの
法案について細かい点について十五分で到底私の貧弱な
意見と雖もこれを申上げることができないと思いますので、私はこの
法案に大体賛成いたします。根本的の理由を申上げたいと思うのであります。
私はこの
法案につきましては個々の点につきましては多少異な
つた意見を持
つております。又
修正をして頂きたいという
希望もありますが、大体において今申しますように賛成をいたす次第であります。その理由は、この
法案というものは大体において何といいますか、世界の大勢に一致しておるものであると、こう私は
考えるのである。もう
一つは同樣な民主主義
國家の
官吏法とこれ又大体において一應一致しているものである。この
二つの点からいたしまして、私は大体基本的にはこの
法案に賛成をいたすのであります。大体私は実際
官吏をや
つたこともありませんし、実際
経驗は何もありません。唯少しばかり本を読んで
官吏制度、
官僚のことを噛
つたに過ぎないのでありますが、大体
官吏制度というものには三つの形があると思います。
一つは世襲的の
官僚制度であります。これは丁度家業を親から子へと傳えるように
官職を世襲いたすのでありますが、これは非常に古い形でございまして、大体農業
國家に適する制度だと言えます。衣の
官僚制度は選挙的
官僚制度であります。一年とか期間を限りまして
官吏を選挙いたします。これはやや進んだ都市
國家に適用される
官吏制度であると、こう言われております。ところが近代の文化
國家におきましては、こういうような世襲的
官僚制度若しくは選挙的
官僚制度によ
つては十分
官吏はその職責を果すことができないことになりまして、ここに原則として終身
官吏たることを
職業どいたしますところの專務的
官僚というものが発生する必然性が起
つたわけであります。それ故に近代文化
國家の持
つております
官僚制度は大体一生
官吏として
職業的に
官吏たることに勤務するという制度であると存じます。この近代的意味におけるところの
官吏制度に又私は
二つの種類があると存じます。
一つは御承知でもありましようがこれはプロシヤ式の
官吏制度でございまして、これはヨーロッパ大陸に行われて來た制度であります。今
一つはアングロサクソン的なイギリス並びにアメリカ合衆國に行われておる
官吏制度であります。この
二つの
官吏制度はいかなる特徴があるかと申しますと、前のプロシヤの
官吏制度と申しますのは、御承知の如く彼の三十年戰爭の結果できたものでありまして、三十年戰爭によりまして、プロシヤを中心とするドイツは戰爭のために非常な荒廃をいたしました。ところが外を見ますと、当時オランダ、
フランスその他の先進諸國が資本主義的に発展をいたしておりまして、その中にありまして、プロシヤ、ドイツがこれ等の先進國に対應して行きますためにはどうしても勢い資本主義というものを育成せざるを得なか
つたことは御承知の通りであります。そこでプロシヤの行いましたものは富國強兵策を行う。そうして民力を涵養して國を盛んにするという政策を取
つたのでありますが、このような要求に相應ずるものとして発展いたしましたものがプロシヤの
官吏制度でございます。これに対しましてイギリスやアメリカの
官吏制度は資本主義というものが発展いたしまして、それが
相当発展をして今度は資本主義の
弊害が起
つて参りまして、そこに
幾多の社会問題が起
つて参りました。そういう社会問題を解決したり、或いは社会政策を実行する必要に迫られまして、そのために在來のような
官吏制度ではこれを十分に行うことができない。もつと能率のある有能な
官吏を以
つてこれを行わなければならんという必要に迫られまして、起
つたのがイギリス並びにアメリカの近代の
官吏制度である。ところが御承知の如くイギリスにおきましては、一八五三年先ず第一にインドの
官吏に対しまして
官吏制度の改革を断行し、ひいてそれが模範となりまして、一八五五年現在のような
官吏制度の基礎を確立したのであります。即ち三人から成立つところの
官吏委員会とでも申しますか、シビル・サーヴィス・コミッシヨンというものを設置いたしまして、これをして
官吏の志願者に対しまして試驗を行わしめ、そうしてその試驗の結果合格したる者を登録するという
方法を取
つたのであります。併しながらイギリスにおきましてはその他
官吏の採用轉任、それから退職等に関することは、総てこれは大蔵省が御承知のごとく行
つておるのでありましてその点はアメリカとは違
つております。次にアメリカは御承知の如く
官吏制度が何遍も変
つておるのでありますが、大体一八二九年にアンドリュー・ジャックソンが大統領になりましたときに、彼は
官職は勝者に属すということを公言いたしました。そうして大々的な
官吏の更迭を断行したのであります。それまで
反対党によ
つて占められておりましたところの
官職を自分の政党の党員によ
つて占めるということを大々的に断行いたしました。爾來アメリカにおきましてはスポイルス・システム、即ち勝
つた方の政党が
官職を取る。四年目毎に政権を握る政党の変更に連れまして
官職が変
つて行くということが行われて参
つたのであります。ところがそういう
方法によ
つてやりました結果、アメリカには
幾多の
弊害が生じました。即ち
官職というものが政党の爭いの賭け物とな
つたのであります。又非常に無能力な人間が
官職につくということも起
つて來た。この点はイギリスも同樣でありまして、一八五五年の
官吏制度が行われる前におきましては、無能の者が縁故によ
つて官職につく。政党の縁故によ
つてのみ
官職につくということでありまして、何もできない者が
官職につくということも行われたのであります。ところがイギリスは段々選挙法を改正いたしまして、選挙権の拡張に伴いまして、一方におきましては先程も申しましたように、政務が非常に複雑にな
つて参
つて、即ち資本主義の
弊害を矯正するためにいろいろな社会政策を断行しなければならない。そういうような複雑な
政治を行うことが在來の
官吏ではできないという
弊害と同時に、他方におきましては選挙権の拡張につきまして、政党
政治家は党員から要求されるだけの十分な
官職を手許に持
つておらん。その
官職の要求の煩に堪え兼ねた。こういう
二つの事情が起りまして、イギリスにおいて
官吏制度の改革が行われたのでありますが、アメリカにおきましても大体スポイルス・システムを中心にして非常に
弊害が生じた。官金費消
事件というもが到る処に起
つて來た。それのみか調査員を出しても、その調査が極めて杜撰であ
つて、
本人は悔悟しているから
免職させない方がよかろうというようなことを調査官が申しておるのであります。こういうような調査報告を出しておるのでありまして、ここにおきましてアメリカにおいては市民の問から
官吏制度を根本的に改革しなければならんという運動が起
つて参りました。これが全國的に段々具体化して参りました。こうして一八八三年に
官吏制度の改革案が通過をいたしたのであります。即ちイギリスの範に則とり、三名からなるシビル・サーヴィス・コミッションを作
つた。それは大統領に直属しておるところの独立
機関であります。それがクラッシファイド・ポジションと申しますか、日本の
言葉で言うと
職階制による
官職と申しますか、とにかく試驗を受けて、それに合格したる者を以て
任用すると分類されたところの
官職であります。そういうような
一定の
官職につくべき者は皆公開
競爭試驗をや
つて、その試驗に合格したる者を以て
官吏とする、そうしてこの
官吏は身分上の保障が與えられると同時に、
政治的中立性を守らなければならんということが定められたのであります。そうして初めはこのクラッシファイド・ポジションは全体の
官吏の十分の一ぐらいに過ぎなか
つたが、これが段々増加して参りまして、この前のルーズベルトが大統領になる直前においては、全体の
官吏の約八〇%がこのクラッシファイド・ポジションに入れられたのであります。ルーズベルトが大統領にな
つたとき御承知の通りニュー・ディールを断行するために新しい
機関を設立いたしました。この新しい
機関を補充することは、即ち長く民主党が政権を握
つておらなか
つたので、民主党において是非クラッシファイド・ポジションから除外して頂きたいという要求が起りました。ここにこれらの新しい
機関はクラッシフアイド・ポジシヨンから除外せられることになり、いわゆる自由
任用によ
つて地位につくことにな
つたのであります。その代り民主党の中に
官吏任命に関する
一つの
委員会ができて、その
委員会がこれらの
地位を持たすということにな
つて、アメリカには
國家のシビル・サーヴィス、コミッションと民主党内におけるシビル・サーソィス・コミッションと文官
委員会が
二つあるような形を呈したのであります。これに対してルーズベルト
行政の仕方については段段
反対の声が起
つて來たのであります。そうして一八三九年ハッチ法というものが通過いたしました。この
法律によ
つてクラッシファイド・ポジションの
範囲を拡大したいという議論が大体採用されまして、その後漸次自由
任用の
範囲がせばま
つて、試驗を受けて
官吏になる者が段々増加しつつある傾向にあると私は承知しております。
そういう工合に
官吏の制度には
二つの種類がありますが、日本の今までの
官吏制度は御承知の通り、日本が
明治維新を断行して、丁度三十年後のプロシヤと同じように資本主義に非常に立ち後れておりまして、その立ち後れた日本の資本主義をなんとかして
國家の育成、培養に引上げなければならんという必要に迫られたものですから、そこに採用された
官吏制度というものがプロシヤ的
官吏制度であ
つたことは当然のことであると思うのであります。その特徴とするところはなんであるかと申しますると、命令を上から下に嚴格に傳えるということであります。これはプロシヤ
官吏制度の特徴であり、又長所とするところであ
つて、いわゆるミリタリー・システム或いはライン・システムとも
言つておりますが、軍隊式に作り上げられたところの制度であります。そういうような制度が有効に行われますには、その前提として
政治というものが
権力によ
つて支配するということがその背後にあると思うのであります。つまりその当時の日本の
政治、プロシヤの
政治は
権力によ
つて支配するということが
政治の本則である。こういうように
考えられてきましたが、今日の
政治の
考え方は最早これとは異な
つておると私は思うのであります。今日の
政治というものは
國民生活を安定し、維持発展させるためにいろいろなサーヴィスをすることである。
権力によ
つて國民を
支配するというようなことは、これは
政治の本則ではない。
政治の本則が一変したものと
考えられなければならんと思うのであります。そういう工合にサーヴィス本位の
國家にな
つた結果といたしましては、どうしてもそれに合うような
官吏制度というものが採用されなければならんのであります。その点においてアメリカの
官吏制度は大体能率というものを重要視して、丁度産業の、私の企業におきまして経済と能率、エフィシェンシー・アンド・工コノミーということがアメリカで行われましたが、そういうこととが、ケーラーによ
つて始められたところの産業の合理的経営というものに関する原則を
政治の上に取り入れて、極めて経済的且つ能率的に
國家の仕事をや
つて行く。そのために適するような
官吏制度であるという点に、このアングロサクソン系統の
官吏制度の特徴があると思うのであります。日本が今
官吏制度の改革の必要に迫られておるということは申上げるまでもありませんが、これがなに故に
官吏制度を改革しなければならんかというと、言うまでもなく日本が
憲法さえ改めまして、民主主義
國家としてこれからスタートしようとする点にあるのでありますが、実は日本が戰いに敗けずして
憲法を改正しなか
つたら、
官吏制度を改革する必要はなか
つたかと申しますと、私はさようなことではないと思うのであります。日本はそういうような條件がなくとも日本の
政治というものが先程言
つたように、
権力支配からサーヴィス本位の
政治に移
つてきた、この間に應じまして、こういうことがあろうがなかろうが、
官吏制度を根本的に改正する必要に迫られてお
つたのでありまして、私共に言わせれば
官吏制度の改革は非常に遅い。もつと早くやらなければならなか
つたのでありまして、や
つてお
つたらもつとよい結果があ
つたかと思うのであります。それ故
官吏制度の改革ということは
民主化ということを
考えなければなりませんが、それと同時にもつと廣い、もつと先を見通したベースの上に立ちまして、この
官吏制度を改革する必要があると思います。日本は戰いに敗けて
民主化というものが今行われておる特殊事情があると同時に、もつと世界の普遍的な情勢、
一般的な情勢、その
二つの
考えの上に
官吏制度というものを
考えていかなくちやならない、こう私は
考えるのであります。
從つて官吏制度の改革は
民主化ということと、能率化、この二点に盡きると思うのであります。
さて、今度のこの
公務員法案を見ますると、
民主化という点については
人事院を設置しております。この
人事官は内閣が
両院の同意を得て
任命するということでありまして、その内閣は民主的に作られた内閣でありますから、今のやり方よりは極めて民主的にな
つたということができると思います。又
職階制を設けて今までのような
官吏制度の最も惡いことの基礎にな
つた高等試驗というものが廃止されることになる、恐らくなるでしよう。又それはそうしなければならん。して頂きたいと思いますが、その点が
民主化という点について大いに貢献するだろうと思うのであります。又
官吏制度自体の
民主化ということも行われておるのであります。即ち
職階制を採用いたしまして、今までのように
官吏の
地位というものが梯子段のように上に上るための
一つの段階に過ぎなか
つたというようなことが廃止されるようになるということになりまして、
職務によ
つて官吏の職を分けるということは、
官吏制度内部における
民主化である。こう
考えられると思うのであります。又不
利益な
処分を受けた者は、その
審査を請求することができる。これで
官吏制度内部の改革をやることができると思うのでありまして、最初の
二つは全体の意味から云
つて官吏制度の
民主化、後の
二つは
官吏制度の内部における
民主化、この四つで
官吏制度の
民主化ということが行われる。こうい
つてよかろうと思います。それから能率という点につきましては、
職階制を実現いたしまして
職務によ
つて官吏を分類する。これによ
つて最も能率が上げられると思うのであります。この点につきましては、これは私の申上げる
権限の
範囲内に属するかどうか知りませんが、
官吏制度だけを改革しても、
官吏の能率は上らんと思います。それと同時に、
行政組織の根本的改革を断行しなければならんと思います。日本の
行政組織は、前の
官吏制度に丁度相應ずるものでありまして、やはりライン・システムで上から下え命令を傳えるためには、非常に都合よくできるのでありますが、いわゆるファンクショナル・システム、機能本位に作られておらないのであります。そのために幾つも印形を押さなければ、
一つの文書の決裁ができないというようなことが起
つておるのであります。アメリカにおいては、この点に関して
行政組織が日本と根本的に異な
つて、いわゆるファンクショナル・システムの上に立
つております。從いまして横の連絡がついておるのであります。上下の連絡のみならず縦横の連絡がついております。日本の今までの
行政組織は、上下の関係だけついておりまして、上の命令を下へ傳える。
権力支配をやるにはそれでいいが、併し
國民生活のためにいろいろのサーヴィスをやるという点から云えば、この
官吏制度では如何なる立派な方が
官吏にな
つても、能率を上げることができないようにできておると思います。であるから
官吏制度の改革と同時に、
行政組織を根本的に改革いたしまして、ファンクショナル・システムの上に立
つたものにして頂きたい。そうすれば能率が非常に上るだろうと、こう思うのであります。それからもう
一つ能率の点は、
人事院の設置によ
つて統一的に
人事行政をやる。この点も今までのような
各省の割拠主義というものが取り除かれて、統一的に
人事行政が行われ、
人事行政に関する限りにおきましては、
各省間に行われておりますところの重複、或いは
各省間に行われておりますところの相違というものが除かれまして、能率的に
人事行政を行うことの途が開ける。こういう点におきまして、第二点がまあ主たる点でありまするが、細かい点はいろいろありますが、極く大ざつぱに申上げますれば、第二点に盡きると思うのであります。能率化ということもここに行われておる。かように今度の
公務員法案では、大体
民主化、能率化という点が行われます。而して大体先進民主主義國の
官吏制度に相應じて、又大体日本の現在並びに將來の
政治の在り方の上に立
つて考えて見ても、これに適應したるところの制度であるとい
つてよかろう、こう存ずるのであります。
もう
一つ最後に
希望することを許されるならば、今までの
官吏制度においてもそうでありましたが、私は
官吏の養成、或いは再教育ということについて、もつと力を注がなければならないのでないかと思うのであります。アメリカあたりにおきましては、この点につきまして
相当の努力が拂われており、ハーバート大学には
行政大学院なるものをすつと前に設けて、ここに普通の学生のみならず、現職の
役人を半分入れまして、大学院において
行政の勉強をさしておるのであります。どうもアメリカの人と話して見ますと、日本の
役人には休暇というものが非常にない。勉強する時間がちよつともないということに、彼等は驚いておる状態であるのでありまして、もう少し暇を與えて勉強して頂いて、いい
行政をや
つて頂くという方面が、この
法案にはないか知れませんが、これを入れて頂きたいと思うのであります。もう
一つは、
官吏制度を見ましても、これは
政治全体、
政治組織、
行政組織全体との関聯においてこれを見なくては、効果が上らんのでありまして、
法律の上にどんな
規定を置いても、実行できなければなんにもならんのであります。私はそういう観点からいたしまして、
官吏に対してデモクラティツク・コントロールを行うには、なんとしても
議会並びに政党の、殊に
議会の力というものが、もつと強くなるような具体的な組織を、これと同時に作らなければならんと思うのであります。これもただ法規や法文の上に、
規定を幾らしてもなんにもならんのであります。現実において
官吏をコントロールするところの力を、
議会がお持ちになることが必要であると愚考いたしておるのであります。そういうような方向に持
つて行かれないと、
條文の上においていかなることを決めましても、結局はなんにもならん。これに反しましてそういうような制度が十分に取られるならば、よし
條文においては多少の不備がありましても、
官吏制度の
民主化、能率化ということがより十分に行われるであろうと、こういうふうに
考えておるのであります。甚だつまらんことを申上げましたが、有難うございました。(拍手)