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1947-10-16 第1回国会 参議院 労働委員会 第14号
公式Web版
会議録情報
0
付託事件
○
職業安定法案
(
内閣送付
) ○
労働基準法
の
適用除外規定設定
に関 する
陳情
(第二百五十二号) ○
失業手当法案
(
内閣送付
) ○
失業保險法案
(
内閣送付
) ○
企業再建整備
その他に関する
陳情
(第三百四十三号) ○
労働基準法
第四十條の特例に関する
陳情
(第三百四十四号)
—————————————
昭和二十二年十月十六日(木曜日) 午前十時三十四分開会
—————————————
本日の
会議
に付した
事件
○
一般
労働
問題に関する件(
末弘嚴太
郎君の証言)
—————————————
原虎一
1
○
委員
長(
原虎一
君)
只今
より開会いたします。本日は
一般
労働
問題に関する調査のうち、
中央労働委員会
より見た労資問題につきまして
中央労働委員会会長代理
末
弘嚴太郎博士
に
証人
の形において御出席を
願つたの
であります。
宣誓
をお願いいたすことにいたします。
宣誓書
良心に從い
眞実
を証言することを誓います。
証人
末弘嚴太郎
末弘嚴太郎
2
○
証人
(
末弘嚴太郎
君) 本日お呼出しによりまして、
只今
御指定のような
事柄
について
お話
をいたすのでありますが、どういう点がこちらで特に重要視される点でありますか、必ずしも我々に分りませんので、一應予定した
お話
をいたしまして、
あと
御
質問
に應じまして何なりお答えいたしたいと思
つて
おります。 初めに、これはもう御
承知
の方には釈迦に説法でありますが、
労働委員会
というものの
仕組
とどういう
職能
を持
つて
おるかということを一應極く簡單に申し上げます。
労働委員会
は
労働組合法
及び
組合法
の
施行令
で以てこの組織もでき
任務
も決ま
つて
おるのでありますが、この
任務
が二
種類
に分かれておりまして、
一つ
は
労働組合法
の第
二條
、いわゆるその
組合
の
適格
の
審査
をする。
從つて
その
適格
に当らないものは解散せしめられるというような、こういういわゆる
御用組合
を防止するための
審査
をする。それからもう
一つ
大きいのが、
労働組合法
の十
一條違反
について
審査
をして、そうして
檢事
に起訴すべきものであれば
檢事
に
請求
をするという、この
二つ
が大きな
役割
でありますが、その他三、四の
事柄
が
労働組合法
にそういう
審査
をする
職能
として出ております。そうしてこの
審査
的な
役割
は、
現行法
によると全部
地方
の
労働委員会
の
任務
にな
つて
おりまして、
中央労働委員会
は
関係
がないのであります。私は昨年から一年偶然のことで
中央労働委員会
と
東京
都の
地方労働委員会
と両方に
関係
しておりました
関係
上、その
審査
的な方の
仕事
もいたしましたので、その面から
皆さん
に
お話
したらよいと思うことを後に申上げますが、それは
東京
都の
地方労働委員会
として得た
体驗
から
お話
いたします。 それからもう
一つ
は
爭議
の
調停
、
斡旋
というようなことをやる
役割
でありまして、これは
労働組合法
及び
労調法
で以て決ま
つて
おる
仕事
であります。それで世間からは、この
調停
、
斡旋
をやる方の
役割
というものが主たる
仕事
のように見られておりますが、先程申しました
審査
的な
役割
というものが、
地方
の
労働委員会
には非常に重要なものとして現在あるわけであります。この
調停
の方の
役割
は、
地方労働委員会
も
中央労働委員会
も
双方共権限
を持
つて
おりますが、この
権限
の
関係
が各
都道
府縣
内に限る。
爭議
はその
都道
府縣
の
労働委員会
、それから二
府縣
以上に亘る場合及び
労働大臣
が必要と認めたときには、適宜に
管轄
を指定して変えることができるということにな
つて
おります。それから、
地方
の
労働委員会
に一應掛かりました
事件
が、そこで
調停
がなりません場合に、
中央労働委員会
にこれを更に
調停
に掛けるという
規定
が
労調法
にあります。そういう
関係
から、本來ならば
地方
でやるべき
事件
が
中央
へ出て來るということが出て参ります。例えばこの夏やりました
別子
の
鉱山
の
調停
、あれなどは
愛媛縣
の
労働委員会
がや
つた
が、結局
調停
が成立たない。その結果縣知事から
中央労働委員会
に
請求
をして來まして、それで再
調停
をや
つた
ようなことにな
つて
おります。それから現在
労働委員会
で非常に困
つて
おります
遞信省関係
即ち全遞の
爭議及び國鉄
の
爭議
、これなどは
組合内部
の何らかの事情に基くんだと思いますが、
本部
は
中央
に、
つまり
これは全國的の
爭議
ですから、
中央労働委員会
に提訴する。然るに同時に各
地方
でその
地方
毎に
地方委員会
に
調停
の
申請
をする。例えば
東京
都のごときは
本省
の
支部
というのと
新橋管理部
の中の
新橋支部
というのが
二つ
が
東京
都に出しております。そうして
調停申請
の内容を見ますと、やはり例の二千四百カロリーを本にした審議とか、或いは
赤字補填金
として
本人
二千円、家族千円とい
つた
ような、
つまり
本部
が
要求
しておると同じようなことをやはり
地方
で
要求
して出て來ております。そのために
地方
では非常に扱いにくい。それで
東京
都の
労働委員会
では、例えばそうしますとこれはとても
東京
都だけでは扱えないから、
労働大臣
に
申請
して
中央
に移して呉れという
方法
を取りまして、それで
東京
へ
本省支部
の
事件
は今移
つて
おる。それから全遞の
関係
も、
東京
に
中央地方協議会
という、いわゆる
中央
、
地方
というものの
事件
をやはり
中央労働委員会
に移しておる。こういうようなわけで
調停
の
管轄
は非常に実際上は窮屈なことにな
つて
おります。 そこで
只今
のようなことで、
労働委員会
に二
種類
の
仕事
があるということですが、先ず初めにこの
審査
的な
事務
の問題がどういうように動いており、又どういう意味を持つかということを一應申します。昨年は全國各
地方
の
地方労働委員会
は、大体
組合法
第
二條
による
組合
の
審査
という
事務
に一番忙殺されたのであります。これは
法律
を
施行
して、そうして
法律
に基いて
組合
をつくり、そうしてまあ
届出
をして來ましたから、各
地方
いずれもこの
審査
に忙殺されたわけでありますが、もう大体設立の
届出
をするものが済んでしま
つて
おりますので、この頃は新設された
届出
についての
審査
の
事件
というものは殆んど出て來ないようになりました。ところがたまたま
組合
が最近分裂する
傾向
があります。
つまり急進分子
と比較的穏健な
分子
が
組合
のやはり
権力爭い
をする結果出て來るのだと思います。そのために一方の
組合
が
相手
の
組合
を、彼は
御用組合
だ、こう言うわけであります。
つまり
第
二條違反
だというようなことを言います。現に最も極端な例で、最近に
宮内省
の
大膳職
の何といいますか厨房の料理を作る人が罷められたのは十
一條違反
だと言
つて
要求
して來、同時に
宮内省
の中に今
懇話会
という形の一種の
労働團体
がある。それは
御用組合
だということで提訴して來ておる
事件
が
東京
都にありまして、到る所にそういうような
事件
があるのでありますが、
つまり
今日
二條
による
適格
審査
問題というのは、そういう
爭議
的な、
つまり
労働関係
の
粉爭
に聯関して
方々
に起
つて
おりますことが
一つ
、それからもう
一つ
十
一條違反
というのは、これは今もう全國的に非常に多いのであります。それでこの
原因
はいろいろありますが、
一つ
は根本的には
雇主
がだんだんに、殊に
中小工業
においては経営が苦しいということとそうして去年あたりは、
組合
がまあ相当活躍しても目を
つぶつて大体大目
に見てお
つた
。それに対して近頃ではこの
対抗手段
というような
傾向
が現われたということが一番大きな
原因
だと思います。これは最近にはもうどの
府縣
にも十
一條違反
というものが出て來ております。ところが、この十
一條違反
の
事件
というのは御
承知
のように、
労働委員会
で調べて、そうして
裁判所
に起訴する。そのためには
檢事
の喚問を受けることにな
つて
おります。そこで
労働委員会
でこれは十
一條違反
で罰すべきものであるとい
つて
檢事局
へ
請求
をする。
檢事
が更に調べてそうして初めて
裁判所
に
事件
が出る。こういうのが
法律
の
仕組
であります。 ところが今のところ、その点でだんだんに不都合が発見されて來て、
檢事局
と
労働委員会
、
つまり
檢察関係
と
労働委員会
との
関係
をもう少し調整しなければいけないという問題が最近に起りつつあります。それはどういうことかと申しますと、
檢事局
から見ると
労働委員会
は弁護士とかその他
司法事務
に訓練された人が必ずしも
労働委員会
の
委員
中におるわけでない、素人のや
つた
ことでありますから、いわゆる
証拠
の蒐集などが十分にできておらない。これを
檢事局
に出しますと、
檢事局
は在來の頭と同じ頭で調べるものですから、どうも
労働委員会
から出て來たものが皆
証拠
不十分な感じがして
仕様
がない。大体十
一條
というものが
証拠
の非常に取りにくい犯罪であります。
つまり
解雇するとか、或いは不利益の取扱いを與える、これは
証拠
が取れるのであります。ところがこれは
労働組合
を結成したとか、加入したとか
労働組合
の正当なる
行爲
をなしたることの故を以て解雇したことの
動機
を証明するということは非常にむずかしい。何故かというと
雇主
は頭からそんなことは言いません。彼は怠けて
仕様
がないとか、必ず外の
理由
を附けて解雇して來ます。そこでこれを
労働組合員たる
の故を以て罷めたのだということを立証するということは非常に困難であります。ところが
檢事局
に言わせると、その点が
はつ
きりしないと起訴するわけには行かない。こういうので
方々
ですでにその点で、問題に
なつ
たものもあり、又問題になりそうな問題があるのであります。これは何か
法律
を改正しなければならないのじやないかというふうにも考えられます。 殊にまずいのは、そういうことで
檢事局
が起訴すべきかどうかについて手間取るというようなことがありますと
労働者
の方は一應解雇されておりますから給料を貰えません。それで裁判が決まるまでは解雇されつ放しで困
つて
おるわけであります。食えないわけであります。それはどういう結果になるかというと、結局我々が十
一條違反
の
事件
を
労働委員会
で扱
つて
おりますと食えないものでありますから、
労働者側
が遂に中途で以て折れて
妥協
をする
つまり
飽くまでも十
一條違反
でこれなどは徹底的にや
つた
らいいじやないかと我々が思
つて
おりますと、
労働者側
が折れてしまうのであります。それで何故折れるかというと、金が続かんから
妥協
してでも金を貰えばいいということであります。
妥協
で
あと
の
労働関係
がよくなるならばそれは結構でありますが、そこに食えないがために
妥協
してしま
つた
というような
事件
が起るのであります。それで九月の八、九、十日の三日間
東京
に全國の
労働委員会
の
委員
が集まりまして
協議会
を開きましたときにも、この十
一條違反
の問題が一番やかましい議題になりまして、それでこれにつきましては、その
協議会
から
政府
に対して決議しましたものを提出しました。それで
政府
でもこれについても考慮するというようなことを言うておりますが、これは何らか
立法的措置
を要する点については、
政府
というよりはむしろ参議院及び衆議院即ち
國会議員
にお考え願う材料としてお役に立てばいいことじやないかと思うので、
協議会
の方でも、両院に、その点に関する
立法的措置
を要すると思う点については、
協議会
の意見を何らか
國会法
によ
つて
認められた形で提出をしたいということを考えておるような次第であります。 それから、
審査
の問題はそのくらいにいたしまして、
あと調停
の問題でありますが、
調停
の問題は、最近には
中央
は無論のこと
地方
も非常に殖えております。これは若しも御
要求
がありますれば、
労働
省で取れば一番早く全國の統計が取れると思いますが、あれは檢閲の
関係
で近頃
新聞
に余り載らんから、
皆様一般
に御存じないのですが、全國的に非常な数だと思います。それで
ひとり中央労働委員会
のみならず、
地方
も非常に忙殺をされておる
状況
であります。それでこれについては例えば私
東京
都の世話をしておるのですが
東京
都にどのくらい
事件
があ
つて
、どんなふうに裁かれておるかというようなことは、いずれ表にしてお目に掛けたいと思うくらい皆が忙殺されております。それから
中央労働委員会
としても、今すでに
調停進行
中のものが
國鉄
全
遞及び電氣産業
いわゆる電産、この三つでありまして、
つまり
殆んど百二三十万くらいの
関係労働者
の数があ
つて
、その
調停
をや
つて
おります。その外に
教員組合
の
関係
とかその他全官公とか、その種のものが今月中には全部出揃
つて
くれるのじやないかというような予想をいたしておるような
状態
であります。 それでその点について特に
皆さん
に
お話
をして置いていいと思いますのは実は
労働委員会
というものが
使用者
及び
労働組合
から
信頼
があれば
調停
の
申請
が多いわけであります。
信頼
がなければ
調停
の
申請
はないわけであります。担し
公益事業
の場合には
調停
に掛けなければ
爭議行爲
ができないものですから、
信頼如何
に拘わらず出て参ります。
公益事業
以外の場合には、一方からだけ
申請
しても、
相手
が應じなければ
調停
が始まりませんので、要するに
信頼
があるかどうかということで動くわけであります。それで去年の三月一日に
労働組合法
ができましてから
中央労働委員会
では、結局十月に電産の
調停
の
事件
が出て來るまでは、
中央
には
調停事件
が
一つ
もありませんでした。これは
一つ
は全國的の
爭議
がその
時代
には大体ありませんでした。むしろ
メーデー
から
食糧メーデー
とい
つた
ような調子で、ああいう
労働組合
の
経済的闘爭
というような
方法
以外の
闘爭形式
が取られたりなんかしていたような
時代
でもあ
つた
のでありましよう。
労働委員会
としては、初めて
調停
らしいことをやりましたのは、九月に
國鉄
の
爭議
がありました。これは今度又非公式に出て参りまして、
斡旋
的なことをしたのであります。初めて十月に電産のストがありました。このときには
吉田内閣
があれを
公益事業
である、
電氣
ですから
公益事業
であるということにして、そうして
爭議行爲
に持ち出せないようにというので、非常に急いで、
法律案
が
議会
を通りましたのが十月の七八日だと思
つて
おりますが、
法律
の
施行
を
議会
ではなかなかしないとい
つた
ような
附帶決議
があ
つた
にも拘わらず、十三日
施行
いたしまして、それが
つまり
労調法
によ
つて
の初めての
事件
でありまするが、全國からい
つて
もあれが初めての
事件
であります。 それで
労調法
というものは、
公益事業
については、抜打ちの
爭議
を極力防ごうというために、御
承知
の三十七條に
規定
があります。それで
公益事業
における
労働者
は、この
調停
の
申請
をしてから三十日経たなければ
爭議行爲
はできない。即ち先ず
調停
に掛けて、それで
十分事
を調べて、そうしてできれば無事に
收め
る
方法
によ
つて爭議行爲
を防ごう、こういうので三十七條ができているのであります。ところが去年から今年に掛けての
経驗
からいうと、あれを立案したときの
目的
の半分は、どうも没却されているのじやないかというような
現状
であることは特に申上げて置きます。それは去年
最初
の電産の
爭議
のときには、この
労働委員会
も
組合側
も
使用者
も、いずれもこの一ヶ月間に何とか片付けようというつもりで一生懸命にや
つた
のであります。それで
施行令
に書いてある大体の段取に
從つて
や
つて行つたの
であります。ところが先ず第一に当時の
政府
が横槍を入れて、
政府
は
調停案
には賛成しないということをぽんとや
つた
ものですから、それで話は脱線をいたしまして、その結果
組合側
も
雇主側
も受けないということに
なつ
たものですから、到頭三十日の期日が來るまで事は解決せずに行きました。だからいよいよ
爭議行爲
ができる段取に入りまして、それで初めて
委員会
が更に
斡旋
をして、十一月の二十九日にどうやらこの仮
協定
を結ぶというようなことになりました。こういう現象を見ておりましたのがあの当時の
國鉄
と全遞でありました。あの
二つ
の
組合
は、十一月の下旬に、
我我
後で分
つた
のですが、頭から法定の一ケ月以内の期間に
調停
で事を
纒め
る精神はなくて、ただ一ケ月経てば
爭議行爲
はできる
状態
になることを期待して、いわば
爭議行爲
のためのパスポートを貰うために、
爭議行爲
を
労働委員会
に提訴するということがあ
つた
わけであります。 これは
労働組合
の人々にいわせると尤もだという
理由
があります。
つまり労働組合
というものは、
爭議行爲
ができるということで、初めて
自分
らの
取引能力
が十分あ
つた
。それを
公益事業
だからとい
つて
、
法律
で以て仰えることは、
自分
らの
取引能力
が弱いということになる。だから
爭議行爲
を仰えられておる三十日の間は
取引
した
つて損
だ。結局弱いから
十分目的
を達することができない。一ケ月経
つて爭議行爲
をしたければいつでもできる
状態
にな
つて
やれば、初めてよい
取引
ができるだろう。
法律
が大体惡いのだから、
我我
はそういう戰術を取るのだということを後に、
はつ
きり言うようになりましたが、
最初
は十一月の末に出して來ましたときには、殊におかしか
つた
のは、
國鉄
などはまだ
大臣
の方に
要求書
を出して、
大臣
の方の囘答もないうちに、我々の所へ
調停
を
申請
して來た。そうすると
爭議
はなしじやないか、
爭議
がなければ
調停
はできない。
從つて
申請
しても受理しないと我々言いました。御
承知
のように
労調法
の
規定
によりますと、
申請
をしたときから、三十日、こういうものですから、
申請
が來た以上、受理せざるを得ない。そこで受理すれば三十日はどんどん進行する。こういうことにな
つて
いるので、受理すべきかどうか非常に問題にな
つて
、それで十一月のあの
國鉄
、全遞のことが例になりまして、その後凡そ
公益事業
に関する
爭議
が発生せんとするに際しては、
労働組合
の側から
労調法
十八條の第一項第三号、即ち
組合側
から一方的に
申請
するという
事件
が非常い多いのであります。 それから
公益事業
の
関係
上、全國的な
爭議
が多いですから、
中央労働委員会
に持ち込んで出て來るものは
公益事業
の
爭議
であります。但し去年の秋、そういうことで
二つ
の大きな
公益事業
である
官廳
の
労働組合
の
調停事件
が出ましたが、爾來今日に至るまでそういうのでないものも、例えば全國の
金属鉱山
の
調停
でありますとか、その他、
新聞
に出ませんものですから
一般
に知られておりませんけれども、四月五月六月等に掛けて、全國の港湾の
労働者
の
爭議
でありますとか、或いは全國の
金属鉱山
の
調停
でありますとか、それから全國の
私設鉄道
の
爭議
の
調停
でありますとか、そういう大きな
調停
を
中央委員会
としてはや
つて
参りまして、そうして八月に先程
言つた別子
の
爭議
をやりました。その後に今度の
調停
が九月から十月に掛けて引続けて出て來ているというような
状況
であります。 それで今度の
爭議
の問題は、これはいずれ後に具体的に何か御
質問
があればお答えしたいと思いますが、要するに
中心
け
政府
の千八百円案というものを基礎とした
賃金ベース
、あれに対して
労働組合
の不滿というものが、根本の
動機
にな
つて
おるようであります。そのために特徴としては、どの
組合
をも通じていわゆる
理論生計費
というものを出しまして、即ち軽
労働
をする
人間
にと
つて
は二千四百カロリーの
栄養
の攝取がなければならない。これに尚
蛋白質
が幾らなければならないということを附けておるものもありますが、要するに二千四百カロリー取るという点を申しております。そうしてそれが全
生計費
の中の何%ぐらいであらねばならない。例えば六十%ぐらいであらねばならないということを言
つて
おります。そうしてそれから算出した
賃金
をよこせ。それで何でそういうことを言うかというと、今のようにこの物價が安定しない
状況
では、
名目賃金
を
貰つて
も何にもならない。だから
適正價格
で物資をどんどん配給して呉れればこれは勿論問題ないのですが。それを無論前提としながら、ともかく二千四百カロリーというものを軽
労働者
としては呉れる。そういう食物を買えるだけの
賃金
、而もそれは全
生活費
の中では六十%程度ということを言うてる
要求
、これを
中心
としたものが今我々の所に出ております。
調停
の
申請
及び今後出ようとしておる
申請
の殆んどすべてを通じている
要求
の
中心
であります。 この他にいろいろのものがちよいちよい別々にくつ附いておる点があります。この他に附いておるもので大事な問題は、
政府
が
閣議
で今年の一月、二月、三月ごろにかけて、
労働組合つまり官公吏
の
労働組合
と結びました
労働協約
、あれに対して
閣議
で決定をしました。そして各省申合せて、今後
労働協約有効期限
が切れて新らしく結ぶときには、この方針で参ろうという
協定
をした。これが今問題にな
つて來
ております。例えば今
現実
に
國鉄
なぞは、すでにこの間の八月で前の
労働協約
の
期限
が切れておりますから、それで新らしい
労働協約
について、
政府側
は
閣議
で決定された線に沿う、
組合
としてはそうでないというので、相当これはむずかしい問題を孕んでおります。 それからこの二千四百カロリーということを基にした
理論生計費
の問題であります。この問題につきましては今
労働委員会
といたしましては、或いは
栄養学者
を呼んだり、或いは
安定本部
の係官に來て貰
つた
りして、いろいろ
現実
の事実というものを調べているような
状況
でありまして、まだ
労働委員会
としては何らかくあるべきだというような結論に達してはおりませんが、非常にむずかしい問題があるのだということは当然であります。 それでここらの点につきましては、御
質問
に應じまして後に申上げるといたしまして、今ここに申しましたように、
中央
は無論のこと、全國の
労働委員会
というものは、非常に多忙を極めており、而もこの
労働委員会
がいかに動くかということが非常に重要なことにな
つて
おるのであります。この重要な役目を果すために、
労働委員会
は
中央
は無論、
地方
でも大いに努力いたしておりますが、先程申しました九月の初旬三日間やりました
協議会
のときに各
地方
から申立てられた
事柄
、これをだんだんに
纒め
てみると、各
委員会
の
要求
が現われておりますが、その
要求
の裏には今の
委員会
の
欠点
がある。その
欠点
を直したいという
自分
の要望が現われておる。それでこれは取
纒め
たものがすでに印刷してございますのでいずれこちらに資料として提出いたしますが、その中から一二重要なことを申し上げます。去年一年の間は
労働委員会
というものを、在來の
役所
が
方々
に置いた
諮問委員会
と同じように考えてお
つた
ものと見えまして、
委員
の
手当
とかいうものが、在來の
役所
の諮問的な
委員会
と同ぞようなことであります。それから
事務局
の
事務員
というものが
最初
は殆んど
役所
の
役人
の
兼任
、
労政局労政課
の
兼任
であるような
状況
で初めは動いてお
つた
わけです。それで初め余り忙しくない
状況
で、どこも驚かなか
つた
のでありますが、今年のように忙がしくな
つて
参りますと、少くとも
会長
或いは
会長
を相当助ける何人かの
人間
は、殆んど專務にな
つて
やらなければ事が片付かないというような
状況
が、忙がしい所については明瞭に出て参りました。そうなりますと、今まで與えられておるような
待遇
では到底十分に働いて頂くことができないということが分りました。殊に御
本人
の
待遇
の問題もさることながら、
地方
の
労働委員
などになりますと、旅費が丸でなくて、そのために手弁当で集
つた
り、
方々
に出掛けて行くというような実例があるようなひどい
状況
であります。この間集りましたときにもその点が一番やかましうございまして、最近には多少改善されつつありますけれども、表面に
予算
が幾ら取れたと書いてあるが、実情はもつと惡い
状況
で、これでは到底
労働委員会
の十分な活躍を全國的に望むということは到底できないような
状況
にあります。そうしてその問題は
ひとり委員
の
待遇
及び
委員
の活動する費用が足りないのみならず
委員会
の
仕事
の大部分というものは
事務局
の局員が優秀であ
つて
、そうして且つこれが忠実に懸命に動くかどうかということで決まると思うくらい
事務局
というものは極めて重要であります。然るに
事務局
の
予算
が非常に不完全で、殊に
事務員
の
待遇
が惡いのであります。これは
労働者
に言わせると、
官吏なみ
に扱うということは言うておるのでありますが、実際はそう行
つて
おりません。これは
あと
に御
質問
があれば、
現実
の数字は持
つて
参りましたが特に我々の方の幹事の
馬淵部長
に一緒に來て貰いまして申上げることにいたします。それでそのためにいい人を採ることが事実できないのであります。それで
地方
の
労働委員会
などにいたしましても、成る
たけ役人
でない民間の人で、そうして
労働
問題に熱意を持
つて
おる人を採ろうとするのですが今では
労働組合
の方の
給與
の方が
労働委員会
の
給與
よりもいいという
現状
にあるものですから、もう人は採れないような
状況
であります。最も惡いことは、
役所
にこれについて
要求
しますと何か
予算
を立てる技術上だということになるのだと思いますが、人を殖やすことだけをやるのであります。そうして定員は殖えるが、定員というのは安月給のただ
人間
の頭数を殖やすだけのことで、そういうものを幾ら採
つて
見ても事実上駄目なんであります。実は少人数でも一人々々にもつと
待遇
をよくするような途が考えられると私共思うのですが、何かそこらに
予算
技術に不都合があるのではないか。それからやはり
予算
技術の問題では、
予算
を立てる問題でなくて、今度
施行
する問題になりまして、会計法で会計官吏にあらずんば出納を扱えないというあの
規定
にな
つて
おるものですから、
労働委員会
に折角
予算
で金を與えてあ
つて
も事実財布を握
つて
おるのは会計課なのであります。そうして会計課というものは、
役所
にお
仕事
をなさ
つた
方はどなたも御存じだと思いますが、これは頭から金を少し頭刎ねる。金を五分くらい刎ねるのが慣習だと思います。その他又
労働委員会
のことでいろいろ実際に出そうという段にな
つて
、いかに
予算
があるからとい
つて
、取りに行
つて
も何とかかんとか言
つて
呉れない。これは全國
労働組合
は皆困り切
つて
おることです。そのために先日の連絡
協議会
では
労働委員会
の独立性ということを主張し、それから
労働委員会
の
予算
のやはり自主性というようなことを全國が要望した事実があるのであります。この点は今日
労働委員会
の
仕事
が非常に重要にな
つて
参りましたこの機会に是非何とか
一般
にお考えを願わなければならんことというふうに考えておる次第であります。 お尋ねの
労働委員会
から見た労資の問題という課題には、どうもそぐわないような
お話
を申上げたのでありますが、一應このくらいで話を打切りまして、
あと
はむしろ御
質問
に讓りまして申上げた方がよろしいかと思いますが……。
原虎一
3
○
委員
長(
原虎一
君)
只今
の
お話
ではむしろ
委員
各位から
質問
をされることを御希望のようです。御遠慮なく御
質問
願います。
山田節男
4
○山田節男君 今末弘博士のおつしや
つた
通り、
労働委員会
の過去一年有余に亘る実績から見てのいろいろの
お話
がありましたが、これは
労働組合法
も近く訂正しなくちやならんという個所が多々あります。そういうことから考えまして、やはり
労働委員会
も変えなくちやならんことは我々も考えておるのでありますが、
只今
の
労働委員会
というものが非常に弱い。
從つて
何と言いますか、不正
労働
慣行の摘発という方面にも、これがどうも我々が予期したほどの十分な実績が挙
つて
おらない。それにはいろいろ事由があるだろうと思いますけれども、
只今
おつしや
つた
ような
委員会
の機構を動かすための諸種の障害、例えば
委員会
の
手当
が少い、職員の優秀な者が少い、その他現制度の会計法の下に縛られておる、こういうようなことがいろいろあるだろうと思いますが、こういうような、殊に
中央労働委員会
の過日の連絡
協議会
でもいろいろ議論に
なつ
たということを我々は了承しておるのでありますが、これはやはり
労働大臣
の任命するものではなくて総理
大臣
の任命にしてそうしてこれはアメリカ式になりますけれども、やはり
一つ
の飽くまでヴオート式にして行く。これが私は根本的に必要でないかと思うのですが、これに対しまする末弘博士の御
経驗
からこの構想に対する何かヒントをお與え願うことができましようか。
末弘嚴太郎
5
○
証人
(
末弘嚴太郎
君) 申上げます。
只今
の点は私共も大体そのように考えまして、何か
労働委員会
をやはり法制化する。今は
労働委員会
のことは
法律
にはちよつと簡單に書いて、
あと
は
施行令
にな
つて
おるのですが、丁度公正
取引
委員会
のような程度にするというならば、日本にも先例があるので、ああいうような程度にするということが考えられます。ただ非常に実際上むつかしい問題といたしまして、
中央
はそれでよいのですが、
地方労働委員会
との
関係
をどうするかということにむつかしい問題が出て参ります。
つまり
中央
は内閣総理
大臣
が任命されるという形で、そうして
地方
をそれと連絡のついたものにしようとすれば、
中央
地方
むしろ一本の
労働委員会
制度というものができるような形のものになりますし、それが一番理想的なものですが、それをやりますと、各
府縣
廳と出先の
労働委員会
との
関係
がうまく参りません。なかなか在來でもいけなか
つた
。殊に今度の
地方
自治制にな
つて來
ると
地方
廳と無
関係
な
役所
を
地方
に作ることは、相当実際上うまく行かない面が出て参ります。それで考え方によ
つて
は、同じく
法律
を作るにしても、
地方
はやはり各
府縣
今の通り、今の
府縣
に属するもののような
労働委員会
にしてただ両方の
関係
を
法律
でどうするとか或いはその点
予算
の問題などで
地方
と
中央
の
関係
をつけるとか、或いは人事を交流させるような点で何か考えるとか、いろいろな
方法
は考えられますが
中央
に関する限りは今の
お話
の通りで私共もよいと思
つて
おりますが、
地方
との
関係
がむつかしい。それで今も外國の例のことをちよつとおつしやいましたが、御
承知
のアメリカで最近問題にな
つて
おるタフトハートレー法、あれでは在來のあそこの國の
労働委員会
というのは、これは日本でいえば、
最初
私が今日の話で申方げました
組合法
の第
二條
及び第十
一條
、いわゆる不正
労働
行爲
の
審査
をやる部分がありますが、これがあの國の
労働委員会
で、これは在來のいわゆるワグナー法というものとほぼ同じ制度を残しておるのですが、これは大統領が任命した全國一本な
役所
があるのであります。併し御
承知
のようにあそこでは聯邦で、各ステートの
権限
が非常に強いのですから各ステートはステートで又そういう
労働委員会
を持
つて
おるので、それで
中央
が
地方
に多少出店を持
つて
おりますけれども、日本と事情が違うので、州内だけの
事件
は州内の
委員会
がやる。それから今度のタフトハートレー法の非常な違いは、在來の分では調整の
仕事
はこの
委員会
制でなしに
政府
がや
つて
お
つた
のであります。
政府
に
調停
斡旋
局みたいなものがあ
つて
、
役人
がや
つて
お
つた
。ところが、これは日本のようにやはり民間の人を入れた
委員会
の方がいいということに氣が付かれたらしくて、今度は
調停
についての
委員会
にそういう民間の者を入れた
委員会
を作
つた
、これは
最初
の不正
労働
行爲
に対する
審査
をする部門と全然別にな
つて
独立したものであります。それでいずれも局長及び
委員
長或いは
会長
は、大統領がセネートの同意を得て任命する、こういうあの國で一番最高の取扱いをしております。後の
調停
の方の
委員会
も、必要があれば全國に出店を出せるということに
法律
ではしております。併しこれもやはりあの國には、各ステートにそれぞれ
調停
の
仕組
が沢山ありますので、結局
中央
がやる必要があるのは、全國的若しくは二ステート以上に亙
つた
場合にあるのでありますが、日本の場合には、日本の
府縣
というものはあの國の州のような歴史を持
つて
おりませんし、あの國の州のような独立性を持つべきでもないように私は考えております。現在は厚生省、GHQでも、何か
府縣
内の
労働
爭議
は
府縣
の責任でやるべきものだという思想にな
つて
おります。ところが
現実
に我々
事件
を扱
つて
おりますと、今日はどんな小さな
爭議
と雖も全國的な意味を持
つて
おる。政治的にのみ解決できる。だから
府縣
の
爭議
は
府縣
内の問題だという思想そのものに誤りがあるのじやないか。そうだとすれば、先程山田さんからおつしや
つた
ような方式で、
中央
で総理
大臣
が任命するような形の
委員会
を作る。そうして
地方
も全部それの
支部
のような恰好にするという考え方というものも成立
つて
行くのだろうと思います。こんなふうに考えております。実際は先程言いましたように、各
府縣
廳と
中央
の出先機関との
関係
はなかなかうまく行かないという難点があるということだけ御
承知
願いたいと思います。
山田節男
6
○山田節男君 今のお答えに関聯してでありますが、アメリカにおきまして二州以上に互る場合に、何といいますか
地方
事務
所、レジョナル・オフィスというものでや
つて
おります。これは過日の
職業安定法案
の審議の際にも私はその必要を述べたのでありますが、要するに
労働委員会
の
仕事
はサービスである、サービスが本体であるという建前から考えて見ますと、やはり日本が領土は小さくても、そうして日本の
都道
府縣
というものがアメリカのステートのように独立性がない、こう言いますが、博士もおつしやるように、
地方
におきまする
爭議
がやはり全國に影響があるのみならず、單なる
爭議
の
斡旋
仲裁、
調停
ということは
賃金
問題にも関し、
労働
時間にも関し、その他
労働
條件にも関するものが多いのであります。そういう意味から申しまして、どうしても私職業安定法で今度とり得るような
中央
と
都道
府縣
との中間的な
地方
的なものができて、そうしてそこに必ず
中央
から直接いろいろ折衝その他についてのルートができるようにしてそうして各
都道
府縣
の
地方
事務
所管内の情報を漏れなく蒐集して、それを
中央
に送
つて
行く。ですから現在の日本の今の考え方によりますと、
地方
における
労働
状態
、いわゆる
爭議
の虞れがあるというようなことは、これはなかなか
中央
では分らない。ですから
中央
は常にそれを察知しておる或いはいろいろな情報でこれを知
つて
おるというふうなことにするためには、やはり中間的な、
一つ
の
地方
事務
所的なものを持
つて
、それを
中央委員会
が又握
つて
おる。そうして
中央
と
都道
府縣
との、先程おつしや
つた
現制度上の困難な点はこれは
地方
事務
所と
都道
府縣
との
関係
において何か調整する途があるのじやないか。こういうように私は存じております。殊にこれから我々が予想される
労働
不安ということを考えますとこの
労働委員会
の
中央
、
地方
の構成というものはこれは
一つ
是非速急に我々は考えなくちやいかんと考えておりますが、そういうために中間
地方
事務
所を置きまして、そうして
只今
末弘先生のおつしや
つた
ような
現実
における困難な点を除くことはできないのですか。
末弘嚴太郎
7
○
証人
(
末弘嚴太郎
君) 我々の仲間にも、今おつしや
つた
ような、
地方
は
府縣
にや
つて
頂いて、全國幾つかの区域に分けて、その地域ごとに
中央
の出先機関を置いて、それでその連絡を十分図る、こういう考えがいいのじやないかという考えの人もあります。
天田勝正
8
○天田勝正君 先程來十
一條
の問題を
お話
下さいましたが、実際この十
一條違反
の問題は、誠に困
つた
問題で、一体これをどうして防遏するか、これが問題であります。確かに違反をしたと我々がはたから見てお
つて
も思えるのに
証拠
がないのにやたらに檢挙するというわけにも行きませんし、それではどこで
証拠
とするかということにな
つて來
ると、先程御指摘のように、今日ではまごまごしておるうちに、
労働者
の方が折れざるを得ないようなことにな
つて
しまいまして、私たちはどうしても一方的に何らかの措置を講じなければならないと実は考えてお
つた
。本日は私、そうしたうまい措置が、例えば外國のこうした立法例があるとか、或いは博士は特に
法律
の方の專門家なんで、そうした專門的な立場からしてどういうようなことを講じたらいいかというようなことが、若し腹案とでも申しますか、そういうことのお考え付きのことがあれば、
一つ
お伺いして置きたいと思います。
末弘嚴太郎
9
○
証人
(
末弘嚴太郎
君)
只今
の
お話
の点は
二つ
方法
があると思います。
一つ
は、アメリカのワグナー法が考えておるように、日本の
法律
と違
つて
むしろ罰則を止めるのです。罰で臨むことを止めまして、そうして
労働委員会
が違反と認めたら、それにすべて原状囘復を命ずるわけです。
つまり
解雇した者を元へ戻すとか、全部原状囘復を
労働委員会
が命ずる。併し
労働委員会
は
裁判所
でありませんから、憲法上
法律
的拘束力がありませんから、そこで調節をとるために、
労働委員会
のその指示に対して不服ならば
裁判所
へ異議の申立ができるということにして、但し異議の申立は、この
委員会
の指示の執行の効力を停止しないということにして後に
裁判所
がいけないということを言えば指示が覆えるが、それまではとにかく
労働者
を後に戻す。この程度の
権限
を
委員会
に與えて、そうしてそれに應じなか
つた
ならば、
裁判所
に申立てて罰して貰うというようなことで、要するに民事の原状囘復を主とした、こういう
方法
でや
つて
行く。これはアメリカのワグナー法的なやり方で行けば今の刑事問題を逃げてしまうのです。刑事問題の厄介にな
つて
いない。 それからもう
一つ
の
方法
は、私少し乱暴のようですが、御
承知
のように、イギリスなどの刑事訴訟では、何も
檢事
というものが間になければ刑事訴訟ができないというのではないので、
つまり
被害者が原告にな
つて
刑事訴訟が起るというのがむしろイギリスでは根本の建前である。英米の刑事訴訟というのはそういうものです。そうすると十
一條
の違反のごときはむしろ原告に
なつ
た被害
労働者
、これに弁護士がついて、これが刑事訴訟における原告、
檢事
の立場にあ
つて
、
檢事
抜きにして公判に掛けたならばどうだという見解を私共として持
つて
おる。それはなぜかと申しますと、
檢事局
へ持
つて
参りますというと、
檢事局
は
自分
の成績、昔からの考えである成績を考える。殊に日本の
檢事局
は世界的に有名なほど成績がよいのであります。成績がよいというのは
自分
の起訴したものが無罪にならない。というのは
檢事
がいつまでも
事件
を握
つて
いるということなのです。
つまり
誰が見ても有罪だということが
はつ
きりする場合でなければ、起訴しないから、結局成績がよいのであります。ところが、それは普通の犯罪の場合には、疑いなくば起訴しないという、軽きは起訴しないという、こういうことです。ところが今の第十
一條違反
の場合には、とにかく
労働委員会
で、公開の席上でさんざんやりまして、そうして
労働委員会
のあの十五人の
人間
が、これを起訴すべしと決めた
事件
であります。これを公開されていない
檢事局
の中で調べて、そうしてそれがうやむやに、これは
証拠
不十分だということで、不起訴になるということになると、
労働者
は納得いたしません。公開の席で、十五人もで、これは一應起訴すべきだと言
つた
ものが、
檢事局
で、公開しないところで、起訴処分をしない場合は、少くない。それで私は
檢事局
が間に入るということは非常によいようだが、この
事件
の性質は
檢事局
が中に入らなくて、むしろ被害者に
労働組合
あたりが弁護士を附けてそうして
事件
を公開の席で
はつ
きり言う。このやり方がいいんじやないか。もう
一つ
この方式がいいと思いますのは、今のままで行くとこうなる虞れがある。
檢事
がいよいよ起訴いたします。そうしますと、刑事訴訟であるに拘わらずその被害者である
労働組合
或いは
労働者
を弁護するのは
檢事
だけです。職務上
檢事
は熱心にや
つて
頂くでしようが、
檢事
はその性質上弁護士ほど熱心ではあり得ません。然るに被告の方は会社の方でどんな優秀な弁護士でも傭
つて
、それで被告のために弁護士が一生懸命に弁護する。片方は職務上
檢事
が主張してやる。こういうことだと非常に無罪になるチヤンスがそこから出る。無罪になるべき者が無罪にな
つて
もいいのですけれども、これはやはり
労働組合
の建前というものを
我我
は考えなければならない。であの十
一條違反
というものが出て來るところを見ておりますと、違反だとか、臭いところが非常に多いのであります。然るに立証が取れない。なかなか
証拠
が掴めないというのが
現実
なんです。ですから元來
証拠
をやかましく言えば無罪になり易い
事件
であります。それが今のような手続でありますと、尚更無罪の機会が殖える。殊に最近にありました
事件
で、まだ起訴処分にな
つて
おらないのですが、起訴処分になるということがこの間大体内定したようですが山形の仁丹体温計の
事件
、これは私共結局調べて見ると、この
証拠
の程度では不起訴より
仕様
がないと思
つて
いる。私は不起訴処分そのものはそれでもいいと思うのだが、私共あれが
檢事局
の中だけで、結局外には公開されない。在來の刑事訴訟法及び
檢事
の習慣では不起訴処分のときには発表しない。当人の名誉を守るためだということにな
つて
おりますが、発表していないのであります。不起訴のときにはその不起訴の
理由
を、そこで例えば山形縣の仁丹体温計の
事件
など仮りに不起訴でいいとしても、なぜ不起訴であるということは、余程親切に
檢事局
が説明してやらないと
組合
の人は納得しません。そのことを私共
檢事
の方に特に注文したのです。この十
一條
の
事件
は不起訴の場合には何故不起訴になるかということを極力説明をしてくれないと、
労働組合
の方が困る。それから山形のあの
事件
では非常に困ることは、一方
労働組合
の方は、
爭議
のときにやはりちよつと乱暴をしておる。併しこれは有名な埼玉縣の上尾
事件
のような乱暴じやない。穩当な乱暴……というのはありませんが、大して不穩当でない。ところがこの方は、
一つ
は業務妨害、
一つ
は傷害罪、その中の全治二日というような傷は傷害の中に入らんと思うのですが、その全治二日の傷害、それから業務妨害というので、それは一審はすでに有罪で、そうして控訴審が仙臺でやる。そうすると
労働組合
の方は十
一條違反
というのは何だかちつとも進行しないで、それで結局不起訴になると、片方は仙臺に行
つて
二審をやる。一審は有罪であるが二審も有罪になるかならんかということになりますと、
労働組合
は、よく我々が説明すれば分るでしようが、そんな理窟はなかなか分らないのですから、何となく日本の司法制度に対する不信を持つ、これが私は非常に危險だと思う。そうでなくても警察だの
裁判所
というものは、今まで日本の
労働組合
に非常に不信用のものです。で、日本の今後の
労働
と司法の
関係
をよくや
つて
行くためには、
裁判所
はすべて信用できるということが非常に大事なことだと思います。これに対して私は現在起
つて
いる山形の仁丹体温計の
事件
それものについて、
檢事局
若しくは
裁判所
に対していいとか惡いとかいう批評を具体的にここでは申しません。併し
組合
の者にはそういう誤解が非常に起り得るような扱いに自然にな
つて來
る。それで
労働委員会
ではこの間協議しましたので最高
裁判所
の長官にも檢察廳の長官にもお目にかか
つて
特に
お話
をしたのですが、すでにそういう
労働
問題と國民の司法政策という微妙な問題もありますので、在來のような考え方ではいかんと考えるのであります。お答えになりますか、なりませんか、そういうことであります。
栗山良夫
10
○栗山良夫君 先程末弘博士のお言葉の中に、
地方
における小規模の
爭議
においても、國の政策に
関係
する面が多分に包含される
状況
にあるので、全國的な規模において考えなければならない、こういうことがございましたが、ここで今後の
爭議
の
調停
におきましては、ますますその勢いが
地方
においても
中央
においても濃くなると思います。そこで
労働者側
から出しましたところの或る程度理論化されたところの
要求
というものは、正しいということを確認された場合に、國の政策に相当に同調し得ない部面が沢山出て來るだろう。こういう問題についての
労働委員会
のお考え、御所信というものを伺いたいのであります。と申しますのは、先程のお言葉にもありましたが、昨年秋の電産の
爭議
の場合におきましても相当に理論的に正しいと確認されたところの電産の
組合
の
要求
に対しまして
中央労働委員会
もこれを確認せられまして、そうして
調停案
ができたときに当時の
吉田内閣
はこれに、國の政策に反するというような考え方から相当な干渉を加えて、そうしてこれが
爭議
解決に好ましくない影響を與えた。こういうことが事実でございますが、今度の
只今
起きておりますところの、千八百円の問題にいたしましても、
組合側
はそれぞれ昨年の
経驗
に基きまして、現段階においてどうして生きて行くかという理論的な
生計費
の実体からそれぞれ
要求
を出しておるわけであります。こういう問題の解決については、ただ生きるということを主体にして考えますならば、恐らくあの
生計費
はその百%であるか九十%であるかは別といたしまして、相当な正しさを以て確認せられざるを得ないのではないか、こういう工合に考えておりますがそれが現
政府
の持
つて
おります千八百円ベースの線とがつちりぶつかりましてそうして
労働委員会
は非常にお困りになる点が出て來るのではないかと思います。昨年はあの
吉田内閣
の干渉に対しまして、
労働委員会
は実に毅然たる態度をお採り願いまして、そうして当時輿論は
労働委員会
の正しさを認め、且つその独立性、更には
労働委員会
の権威をお護り下さいましたことについて相当な敬意を表してお
つた
のでありますが、今後この問題については非常に困難な問題が起きて來ると思います。この点についてお答えを願いたい。 それから更に、
賃金
問題を離れまして、これは極めて重要な問題でありますが、最近の各
組合
の
要求
を見て参りますと、いわゆる産業平和を通じて、
労働者
が生産を復興したいというような考え方から、いわゆる資本主義経済の
一つ
の修正とでも申しまするか、企業の社会化とい
つた
ような線に向いまして、相当大きな、純経済
要求
でないところの企業の運営に対するところの意見を
要求
をして出しておるのであります。こういうものも企業整備と馘首の
関係
その他に考えましても、非常に國の政策と大きな繋がりを持つところの高度の政治性を持
つた
要求
が出ておるわけであります。こういうことにつきましては、これは経済闘爭の枠とは相当に隔りがありまして、
中央労働委員会
で
調停
せられましても、それが実行されるためには、國会との
関係
も生じましようし、或いは更に占領政策との
関係
も生ずることと思いますが、こういうものについてどういうようなお考えを以て今後の
調停
にお臨みになるかその御所信を伺いたいと思うのであります。
末弘嚴太郎
11
○
証人
(
末弘嚴太郎
君) 非常にむずかしいお尋ねでありますが、具体的には結局
労働委員会
というものが、
労働者側
、
使用者
側及び中立の合議制の
委員会
でありますから、結局どういう結論になりますかは、私はこうしたいと思うておると申しましても、そうならんかも知れませんし、それから私の立場として、今
自分
はこうしようと思うのだと言
つて
はいけないのだと思いますので申せません。ただこれだけは申せると思います。去年の電産のときには
政府
に殆んどいわゆる経済計画というものがなか
つた
のであります。
つまり
安本が八月にできたにも拘わらず、今の内閣で示しておるような経済計画というものがないのであります。ですから我々としては、
労働組合
側からどうしても生活にはこれだけかかるということを
要求
され、そうして
雇主
の側もその事実を認めた以上、それに基く
賃金
を認める。これが日本の全体の
政府
の経済計画にどういう
関係
を持つのかということを考えると我々は何ら材料がないわけでありますから、
政府
はあの当時依然としてインフレの方が経済を復興するのだということを大藏
大臣
が公言してお
つた
時代
でありますからこういう
時代
では國の経済復興の全体の計画にいかなる影響を及ぼすかということを考えることのできないような
状況
でありました。 これに反して、現在においては、先ず第一に
政府
が去年から
生計費
の調査その他可なり信用すべき統計資料を與えて來ております。それに應じて
組合側
の
要求
を批判するにしても、我々はもう
組合
はこう言
つて
おるからとい
つて
も、それをそのままに受けません。
つまり
組合
の出しておる
生計費
調査なるものを批判する材料を
一つ
持
つて
おります。 それからもう
一つ
大きいことは、事のよし、惡しに拘わらず
政府
が千八百円というベースを基礎にした新物價体系というものを作
つて來
ておるわけであります。それでこれによ
つて
は
労働者
は実際上これでは食えないという実情にあるということを
労働者
は言
つて
いる。その点を我々が目下調べております。そしてどうしてもあれでは無理だということを、我々調べた結果、自信がつけば、その点について
政府
に具体的な進言をするというようなことになるかも知れません。その前に非常に大事なこととしては、去年の七月以來聯合軍側の指導によ
つて
官吏の
給與
制度というものが非常に單純化したということは、現在の実情からい
つて
非常に困ると思いますことを考えるべきじやないかと思います。例えば國有鉄道とか、遞信省の
仕事
なんというものは、あれは企業
官廳
というよりは、いわゆる企業なんでありまして、この企業
官廳
の
給與
制度が普通の
役人
の
給與
制度と同じようなことにな
つて
おる。元ならばいろいろな形で
手当
などをやるような考えを持
つて
お
つた
のです。例えば元は通勤費など或る程度以上掛かるものには通勤費をや
つて
お
つた
。そういう特殊のものは去年の七月以來取れちや
つた
。そうして成るたけ
方々
の違う
給與
体系というものをなくなして來ております。それから
地方
差、
地方
による差なども非常に單純にな
つて
おるのです。一体去年から始めておる、單純化されたるあの
給與
制度が果して現在のような実情に適するかということも非常な疑問を持ております。更に徹底的にいえば、
國鉄
でも、全遞でもああいう國営であるというような、そして又今度独立採算制なんという、あれは言葉だけで、本当の独立採算制でない。ただ今までのように赤字が出たからとい
つて
やたらに大藏省から金を貸さんという独立採算制で、本当をいえば、本当の企業と同じで、國家が投資した
一つ
の株式会社みたいで経営される形にな
つて
行けば、そうすればあすこの現業員の
給與
というものは、官吏の
一般
給與
で縛ることは間違いで、経営の方で、千八百円ペースを作
つて
おるが、能率を挙げたところはそれより余計や
つて
もいい。その点は比較的民間は官吏の場合ほどひどくな
つて
いない。國有鉄道でもそういう方式の経理であれば行くのであります。
官吏なみ
で、そうして一々國会のお世話にならなければ金が取れない、こういう
状況
であります。あの五十万とか、六十万の
人間
を扱
つて
おる運輸
大臣
は非常にお氣毒で、責任ばかり重くて、実に自由にならない
人間
を使
つて
、そうしてや
つて
る。何か
給與
制度そのものに……或いは
國鉄
だの全遞だのの今の経営
方法
というものでは、今までより良くして行けないのじやないかということも考える。変えれば問題の解決はやさしくなるのじやないか。こういう面があるということを申上げたいと思います。
竹下豐次
12
○竹下豐次君 甚だ漠然たるお尋ねですけれども、
労働
爭議
は沢山お取扱いにな
つて
いるのでお感じがあるだろうと思
つて
おります。大変漠然たるお尋ねで又お答えにお困りになることかと思いますが、現在この頃の
状況
で、労資双方の主張をどつちの方に無理のある場合が多いとお感じになりますか。
末弘嚴太郎
13
○
証人
(
末弘嚴太郎
君) 非常にむつかしい問題であれですが、非常に目立つことは
雇主
が苦しくな
つて來
たなということ、去年あたりに較べて、殊に
東京
あたりの小さい企業になると、苦しくな
つて來
たなということは非常に目立ちます。ですから
組合
も少し下手まごつくと共倒れになる虞れがあるから何とかして会社を倒さん程度で
妥協
して欲しいというような
事件
が
東京
都あたりにも殖えて來ました。そのために
労働委員会
の
調停
が進んでは丸でそこの工場の経済復興
会議
みたいなものに変形する場合がときどきあります。銀行の世話までしてや
つた
実例なんか出て参ります。ですから
労働委員会
では少くとも中立
委員
の中あたりに、会社の経理のことなんかに相当詳しい人が一人くらいおりますと、
東京
とか大阪とか
事件
が多いところでは非常に役に立つ有様であります。どうも
法律
家ばかりだの、学校の先生だとか、理窟を言う人の外に、やはり一方には会社の経理なんかに詳しい人とか、いろいろなバラエティーを持
つた
人が中立
委員
として選ばれることが非常に必要でありますが、どうも今まで
地方
では殊に人を得るのが非常に困難なものですからそういう点が考慮されていません。非常に偏
つた
人を入れるものですから……理想的にいうと、そういう問題は非常に大事な点であります。
竹下豐次
14
○竹下豐次君 それからもう
一つ
お尋ねしたいのですが、私の申しますことは古くなりますけれども、
爭議
の場合に
労働者側
の代表者として交渉に來る人は、どういう人が選ばれるかというと、まあ過激な思想を持
つた
ということは当
つて
おるかどうか知りませんが極く急進的であるとか、或いは弁舌の極めて爽やかな人というような人が好んで選ばれていたような
傾向
があ
つた
時代
があ
つた
かと思いますが、近頃はその点は余程よくな
つて
いるだろうと思います。
中央
あたりで問題になるような人はこれは問題ないだろうと思いますが、
地方
の小さい
爭議
ではどういう
傾向
でございますか。
末弘嚴太郎
15
○
証人
(
末弘嚴太郎
君)
調停
に出て來た場合と、我々が間に入らないで團体交渉をやるときとは余程お行儀が違うらしいので、我々の上の方へ出て來ると余程お行儀がよくな
つて
出て來ているから、今の尋ねのようなことはちよつと分りませんね。併し去年と今年と較べてみて分ることは、去年より大きな声を出さなく
なつ
たことや、余り沢山來なく
なつ
たこと、大体において眞面目な態度にな
つて來
ました。去年はやたらに沢山來て騒ぐような
傾向
があ
つた
。一番ひどか
つた
のは、私
最初
にぶつか
つた
一昨年の暮の読賣の正力君を追出した
爭議
、あれなぞは最後の日に
組合
員が廊下に來て革命歌を歌うのです。そんなことはやりきれない。そんなことは全くなくなりました。それから出て來る
委員
もこの頃は大きな声をして役員を呶鳴りつけるようなことは殆んどやりません。そういうことは大分減りました。
松井道夫
16
○松井道夫君 先程主として刑事
関係
からいろいろ
裁判所
に対する御意見がありました。民事の角度からその点はどうでありますか。例えば仮処分が
労働
爭議
に関して
使用者
側から
申請
されて行われる。それがどんな場合に行われるのか。それに対する先生の御註文、御意見というものを伺いたい。それから生産管理とい
つた
ような形式の
爭議
これに関聯いたしまして、いつぞや問題にな
つて
横領罪とか何とかいうて処罰されたという
新聞
記事が見えておりました。生産管理とい
つた
爭議
の方式で適法に行われるものもあり得ると私は信じておるのであります。その
爭議
のルールといいますか、そうい
つた
ものを
労働関係
調整法が適当であるかどうか分りませんが、
法律
的にルールを決めるという必要がありはしないかと私共存じますが、その点先生の御意見をお伺いしたい。
末弘嚴太郎
17
○
証人
(
末弘嚴太郎
君) 民事の問題も非常に重要な問題があると思います。殊に生産管理のことに聯関して或いは
雇主
は生産管理を予防するために仮処分をや
つた
り、或いはすでに生産管理をや
つた
のに対して仮処分を
申請
して來るような
事件
があります。これはですね、やはり大正の終り頃の小作
爭議
に聯関して、地主が仮差押、仮処分を使
つた
のと同じようなことで、
最初
は裁判官が慣れないものですから、何でも保証金さえ積めばどんどん仮差押、仮処分を許す、こういうことになるのです。ところが小作
爭議
にしても、
労働
爭議
にしても、そのものを一体押えられるかどうかということが、殆んど事の勝敗を決するような
事柄
を、ただ保証金を積んだということだけで仮処分なり仮差押を食
つて
は勝敗を決してしまう。そこで
裁判所
が実際その仮処分、仮差押をするかどうかについて、
爭議
の実情を調べてよく考えて処置をするということでなければならないと思う。それで曾ての小作
爭議
のときには、沢山問題を起した挙句、
組合側
の抗議若しくは我々民間の輿論というものが反映して、
裁判所
でも仮差押、仮処分をするに非常に手心をして、やがて或る程度の基準ができて來たりしまして、今度の
裁判所
の仮処分などでもまだ全國的にいうと余り
事件
がありませんけれども、非常にまずいと思うものが今見えます。併し或る所ではむしろ
裁判所
が一應仮処分で押えた上、第三者にその管理を委ねたり、それから或るものは
労働組合
に管理を委ねる、
つまり労働組合
は勝手に管理をしてはいかんが、
裁判所
が押えた上でお前に管理させる、そうすれば收支その他をお前が責任をも
つて
やられるのだからという例なんかあります。それで今のところで行くと
裁判所
がよう考えて呉れればいいと思います。様子によ
つて
は何らか立法しなければいかん。丁度アメリカあたりでいわゆるインジャンクションというものが非常に問題に
なつ
た。
つまり
一種の仮処分、それと同じような仮処分めいたことが日本で今事実上起るというようなことになると実は立法措置まで行かんといけないのじやないか。それで
裁判所
は去年
吉田内閣
が生産管理は違法だということを明言されて以來、刑事の
裁判所
もそうですが、民事の
裁判所
も多少やはり勇氣がついたものと見えて、あの以後そういう点は激しく
なつ
た
傾向
があるのであります。最近も
地方
的には仮処分、仮差押的なことが多いようであります。それのみならず、延いては今度は暴力で本当に
雇主
と物を取りつこするというようなのがあります。現にこの間など神奈川では、
組合
の方で以て押えておるところへ、
雇主
が暴力團を雇
つて來
て窓を壊して中から機械を持ち出した。そうしたら
労働組合
の方から、これを強盗だとい
つて
檢事局
に申出たような
事件
があります。甚だよくない
事柄
が今のような点についてあります
天田勝正
18
○天田勝正君 もう
一つ
お伺いしたいのですが、これは
法律
のことではございませんが、何としても
爭議
の
原因
の多くは結局賃銀の問題なんです。ところが賃銀を決めるのには、私は二十年の間
労働
運動をや
つて
、実に不思議な点が
一つ
あるのであります。それは今でも言われておりますが、都会におれば
生活費
が余計にかかるというようなことで余計
要求
するのが当然であるし田舎で勤めておる者は少なくてもよいんだということは当然だという考えに支配されて、
要求
する方も
要求
される方もそういうふうにや
つて
おるだろうと思います。私はちよいちよい議論するのですが、このくらい私の
経驗
からなればおかしい理窟はないのであります。同じ生活をするということであるならば、むしろ田舎へ行けば行く程実は高くかかるのです。これは卑近な例を挙げて見ても、昔物があ
つた
当時と比較して見ても、
東京
で刺身を食うのに十錢で済むのが田舎へ行けば同様な刺身を食うのに二円かかる。これはすべての物に共通なもので、ただ
一つ
例外は「りんご」なら「りんご」の産地に行けば安いが、他の物は
東京
よりもすべて高い。これは食の方でもそのようであるし、衣のごときも、田舎からわざわざ
東京
へ出掛て來て買
つて
もその方が安い。現在でも輸送賃だけ余計かかる。住はどうかということになれば、成る程高い高いというけれどもどうにか割込める隙はある。けれども田舎では借りた場合、都市ほど高くないが、さて借りるまでの見付けるということについての努力というものは、現在でもとても大変なものであります。場所によ
つて
は全然ないとい
つて
よいくらいのことで、そこで私が朝鮮におりました時、私の
関係
しておりました会社では、そうした極地に行けば行くほど給料を特別によくしたわけであります。これでも例えば文化生活……本一册買うにしても京城まで出るか或いは人頼みをしてそれだけ余計かかる。それですら田舎へ行くのを喜ばないというような
状態
なんですが、
労働
爭議
の
調停
などを通じまして、そういう賃銀についての今考えられておるのと全く逆な面がございましたら
一つ
お話
願いたいと思います。今のは極端な例を挙げたのですが……。
末弘嚴太郎
19
○
証人
(
末弘嚴太郎
君) それは御尤もで、地理的区分だけで
地方
差を簡單に甲地と乙地というようなことで付けておるのは非常に不合理だと考えております。それで現に全國的に
労働者
をばら撤いておるような所では僻地
手当
というようなものを相当重要視しておるものがあります。現に
國鉄
などは現在でも僻地
手当
を出しております。電産などもそうでありまして、要するに私先程申しましたように、官吏だという故を以て、多少の特殊性を認めながらも、ともかくも汽車を動かしたり、電車を動かしたりしておる現業の人と
本省
のお
役人
とを同一扱いにするような
賃金
制度、ここにどうも根本の欠陥がある。特殊性を認めるとい
つて
も考えの根本は一本だから特殊性は大して出て來ない。今おつしや
つた
ように
東京
は田舎より高かろうとい
つた
ようなことで簡單に決まる、これはいけないのじやないかと思います。こういう点があると思います。
姫井伊介
20
○姫井伊介君 ちよつと速記を止めて頂きたいと思います。
原虎一
21
○
委員
長(
原虎一
君) ちよつと速記を止めて。
原虎一
22
○
委員
長(
原虎一
君) 速記を始めて……。本日はこの程度で散会いたしたいと思います。 午後零時二十七分散会 出席者は左の通り。
委員
長 原 虎一君 理事 堀 末治君 栗山 良夫君
委員
天田 勝正君 山田 節男君 平野善治郎君 川上 嘉市君 竹下 豐次君 姫井 伊介君 藤井 丙午君 松井 道夫君 岩間 正男君 紅露 みつ君
証人
中央労働委員会
会長
代理
末弘嚴太郎
君