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政府委員(國宗榮君) お答えいたします。
只今の御
質問につきまして、どうしてこういうような徑路を取
つたかという點を先ず御説明申し上げます。大體この
職業安定法は御
承知の通りに
勞働基準法と非常に密接なる
關係にあるものと私共は考えておるのでありまして、而も本法の
規定をいろいろ見て參りまするというと、
勞働基準法に似た點が
多分にあるのでありまして、或いはこれと表裏一體をなすような
規定も見出し得るのであります。それで本法の
罰則というものは、大體
勞働基準法に先例を求めまして、從前の
職業紹介その他の
規定と睨み合せまして、その刑を定めたのであります。他の法例との權衡、それから又現在の經濟事情等から見まして、罰金刑が非常に低過ぎるとは考えていないのでございます。殊に現在のこの物價が實は非常に變動しておりまして、金刑を定める場合におきましては非常に考慮を要するのであります。從いまして大体
勞働基準法を先例といたしまして、これによ
つてこの刑を定めた。こういうふうに申し上げるのでありますが、御
承知の通りに
勞働基準法の最高刑は、同法の百十七條によりまして本法と同じように一年以上十年以下の懲役、又は二千圓以上三萬円以下の罰金でございます。でこの六十三條の
規定が、内容が非常に重要であるということは御
承知の通りでありまして、この罰金の定め方におきましても、從來の定め方は大體この最下刑というものが定めておりませんで、上の方だけ定めまして、例えば三萬圓以下の罰金に處すというような體裁を参
つておるのでありまするが、
勞働基準法と、本法に限りましては最低を限りまして二千圓以上三萬圓、こういうふうに
規定を設けておるのであります。
勞働基準の點から申しまするというと、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身體の自由を不當に抱束する手段によ
つて、
勞働者の意思に反して
勞働を強制する使用者を處罰し得るのでありまして、本法ではやはりこれと同樣な手段によりまして、
職業を
紹介して
勞働者を強制
勞働に服せしめるような
趣旨のものでございますが、
從つて勞働基準法の
關係におきまして、この
法律だけに刑を重くするということは、凡そ體系から見まして餘り面白くないとも考えてお
つた次第でございます。更にこの本法の元の舊法でありまする
職業紹介法の
罰則を考えて見まするというと、これはこの
法律の目的とし、
趣旨とするところが根柢から考えが變
つて參りましたので比較にはならんと存じまするけれども、舊法は最高刑が六ケ月以下の懲役又は五百圓以下の罰金という低いものに相成
つてお
つたのであります。この點を法の目的と法の精神とに照しまして、六十三條のような
規定にいたした次第です。更にこの金刑の方で考えまするというと、例えば經濟上の利得、これを剥奪することを先ず
一つの目的といたしておりまする一般の經濟統制諸法令、これらと考え合せまするというと、本法の金刑の最高刑は低いのじやないか、こういうような御議論もあり得ると思うのでありまするけれども、本法の違反は、勿論或
程度この
利益の剥奪も考えましようけれども、それを窮極の目的といたしておるのではございませんし、本法によりまするところの利得というものを、經濟統制法令等によりまする利得と考えますれば、そう大きななのじやない。假りに利得がありましても、大體罰金刑の
範圍内で賄えるのではないか。こういうふうに考えておりまして、而も事案が重大でありまして、重大でなくても甚だ面白くないという事案でありますれば、體刑を以て臨むことができるのでございまするから、以上のような考えからいたしまして、本法に
規定いたしました罰金刑はこのくらいで
適當であろうというふうに考えた次第でございます。尤もこの物價が安定いたしました状態におきまして、もう一遍考え直して見なければならん點も起
つてくるかと思いますが、これは全般を通じまする罰金刑、金刑に對しまする刑罰全體の問題といたしまして、今日檢討中でございます。一應この
法律におきましてはこれを以て妥當と考えた次第であります。