○
政府委員(
上山顯君) それでは
職業安定法案につきまして、主な
條項の
趣旨を御
説明いたしたいと思います。大體の
趣旨なり構想につきましては、
米窪國務大臣から
提案理由として御
説明申上げた次第でございますが、尚若干補足いたしたいと思います。第一條には
法律の
目的が
規定してございますが、特にここで私
たちが強調いたしております點は、今までの
職業行政が、殊に戰時中におきましては強制的な
勞務の配置というような色合が非常に強うございましたに對して、
終戰後はそういう色彩の拂拭には努力して
參つたと思うのでありますが、今囘この
法律には、その點を特にはつきりいたしまして、
各人の自由な
職業選擇ということを
趣旨といたしまして、そうして
各人にその有する能力に
適當な
職業に就く
機會を與えるということを非常に強調いたしておるような次第であります。それと同時に一面、工業その他
産業に必要な勞働力を充足いたしまして、經濟の向上に資しようということを申しておるわけであります。第
二條は
職業選擇の自由のことでございまして、これは
憲法第二十
二條の
趣旨をもう一度繰返したような次第であります第三條は、
均等待遇の
規定でございまして、
勞働基準法にも同じような
趣旨の
規定があるわけでございます。第三條の本文で
規定いたしておりますのは、それは
職業紹介なり、
職業補導等をいたす者に對しまして、
法律的な
義務としてこういうことを命じて參るのであります。それでまあ雇主に對しましては
社會的、道徳的な
義務として
均等待遇の
義務があるということになるのでございます。從いまして
但書にございます勞働協約に別段の定がありますような場合には、特にこの
規定がございませんでも、
法律上は勿論
差別的取扱ということにならないというので問題はないのでございますが、特に念のためにこういう
規定を設けておるような次第でございます。第四條は、後程出て參ります
政府の行います
業務を掻い摘んで書いてあるのでございます。第
五條は定義でございまして、特に御
説明は要りません。
第二章は
政府の行います
職業紹介、
職業指導及び
職業補導について
規定したのでございます。第一節は通則といたしまして、
行政機構その他が
規定してございます。第六條、第
七條、第
八條等の
趣旨につきましては、先刻來、御
質問に對して
大臣からもお答えしてお
つた點でございまして、
職業行政というのは、
勞務の流れを見ましてや
つて參る
仕事でありまして、
府縣等の
行政區劃には限られないわけでございますから、全然
府縣知事限りでや
つて參るという
仕事ではないのでございまして、どうしてもこれは國家的に
運營されなければならんわけでございます。一面、
地方行政全般と密接な
關係がございますので、
都道府縣知事の
指揮監督下に置きまして、國の
機關として一體的に
運營するという
要求と、
地方行政の他の面と關聯を持たすという
要求、この二つの
要求を調和さして參りたいという
趣旨でございます。第六條の第二項に、
職業安定事務所というのがございますが、これは今までの
職業行政の
機構の
考え方としましては、
職業行政がこういう國家的な
機構で
運營されなければならないというので、
ブロック別に
職業安定事務局というようなものを拵えたいという
考え方が今まであつたのでございますが、これは
地方自治を尊重するという別の
考え方からいたしまして、いろいろ檢討を要する點もございまして、この案ではそういう
考えを採用しなかつたわけでございます。ただここに
職業安定事務所を設置いたしましたのは、二以上の
都道府縣にわたります
業務と非常に密接な
聯關がございまして、どうしても一體として
運營しなければならんというようなわけでございます。これは私
たち最近この
勞働市場というような名前を以ちまして、いろいろ研究いたしておるのでございますが、
只今考えておりますのは、東京、
横濱を
中心としましての
南關東、それから
阪神地方、それから
中京地方、それから
關門地方、北九州と
山口縣の一部を含みました
地方、こういう
地方につきましては、
府縣の
區域を越えまして、いわば
勞働市場というようなものが成り立
つておるわけでございまして、そういうところの
紹介の
仕事、即ち
府縣にわたりますところの
安定所間のカードの交換というような
仕事になりますが、そういう
仕事をなしますには、やはり何らか特に
機關が必要だというので、この
職業安定事務所を設けたい
考えでございます。それから尚
將來必要によりましては
技術に關する
事務、即ち
職業指導でございますとか、
職業補導というような
仕事につきましては、非常に専門的な
技術が必要でございますが、
只今各
府縣にはそういう
專門家は餘りいないわけでございます。そうしてこういう
專門的な
技術に當りますような人を數
府縣にまとめて置くというような場合に、この
職業安定事務所というものを設置いたしたいという
考えであります。但し
職業安定事務所の
仕事等につきましては、成る
たけ關係府縣の中の一人の
知事に
實際の
仕事を委任するというようなことも
考えたいと思
つております。それから第九條には
人事のことが書いてございますが、これも先刻いろいろ關聯しましてのお話が出てお
つたようでありますが、一體として
運營いたしたいために特殊の資格を設け、又
一定の
基準によりまして、
人事をや
つて參りたい。かように
考えております。それで、若干御
説明が要るかと思いますのは、第九條の二項に「前項に
規定する官吏その他の職員については、
職業安定機關に通ずる
一定の
基準によ
つて、
勤續年數の計算及び補職、
給與その他の
人事を行い、
竝びにその意に反して、
職業安定機關以外の
機關の職に轉じさせることはないものとする。」という
規定がございますが、これは必ずしも
職業安定機關としましては、封鎖的な
人事を強行いたしまして、よそからは人を貰わない。他方には人をやらないというような挟い氣持はないのでありますが、成る
たけ專門家を養成して參りたい。
從つて専門家がその意思に反して他の職に轉じないようにいたしたいと
考えております。但し勿論懲戒の場合でございますとか、
行政整理というような場合に、やめますことを制限する
趣旨ではないのでございまして、成るだけ
專門的な
仕事に從事させたい。こういう
趣旨でございます。それから第十條には
連絡委員というのが設けてございまして、市町村との間に立ちまして、
安定所の
業務を補助させることにいたしております。こういうものの人の任命なり
運營なりにつきましては、
十分行政民主化の線に沿いたいつもりでございまして、殊に
勞働組合方面の十二分の御協力を願いたいつもりでおります。第十
二條に
職業安定委員會の
規定がございますが、これは
中央にありますもの、それから今申したような
勞働市場、ここではそれを
特別地區職業安定委員會と稱しておりますが、そういう
勞働市場を
管轄區域といたしますもの、更に
府縣内の一部の
地域を
管轄區域といたしますものとの區別があるのでございますが、すべてを通じまして、
職業行政について
關係者の意向を十二分反映する
行政を
運營して參りたいという
趣旨に基いておるようなわけであります。
それから少し飛びまして、第十六條以下に
職業紹介のことが書いてございます。
職業安定法の
實際の
運營の
中心を成しますものはこの
職業紹介の
仕事でございまして、
將來更に大いに刷新をいたしたいつもりでございますが、十六條、十
七條等については特に御
説明する必要はないかと思いますが、ただこの十
七條の第三項に「特殊な
業務に對する
求職者の適否を決定するため必要があると認めるときは、
試驗及び技能の
檢査を行うことができる。」いわゆる
技能檢査というようなこと、
適性檢査というような言葉も使
つておりますが、そういうものもやりたいことを書いてございます。實は
只今のところでは
專門家が非常に少い點、又これの準備が非常に少い點等から申しまして、十二分に行
つていないのでありますが、
將來この方面にも力を注ぎたいつもりでございます。それから十九條の第二項が若干の御
説明が要るかと思うのでありますが、これは「
公共職業安定所は、
求職者に對し、できるだけその住所又は居所の變更を必要としない
就職先に、これを
紹介するよう努めなければならない。」ということが
規定してございまして、これは後に出ますところの第三十九條の
募集地域の
原則といたしまして、「
勞働者の
募集を行おうとする者は、通常通勤することができる
地域から、
勞働者を
募集し、その
地域から、
勞働者を
募集することが困難なときは、その
地域に近接する
地域から、
勞働者を
募集するように努めなければならない」。という
規定、これと相關聯いたした
規定でございます。この點につきましては、前にこの
委員會でもいろいろ御
意見が出た點でございまして、私
たち職業行政の理想といたしましては、外の
條件が許しますならば、成るたけ通勤できるような、つまり職場に通えるような
建前が望ましいと
考えております。從いまして
將來の
工場立地というような場合には、こういう點も十二分に頭の中に入れて、
工場立地を
考えて貰いたいという
希望を持
つております、殊に私
たち現在のような大
都市には相
當失業者がおりまして、而も
都市の
食糧事情が
惡いというような場合に、わざわざ
都市の
失業者をおきまして、遠い
農村等から
勞働者を
募集するというようなことは望ましくないことだと思
つておりまして、できるだけ
通勤地域からの
募集なり、又そこへの
就職斡旋に努めたいと思
つておりますが、ただ現状におきましては
工場立地がこういう點が
考えられずに、今まで立地されておりますし、尚
將來におきましても外の
工場立地の諸
條件から
考えまして、必ずしも
通勤地主義というものが採用できないことは私
たちも
承知いたしておりますので、これの運用に當りましては、
産業の
實情にも合い、
勞務の
需給の
状況にも合いますように
運營いたしたいとは思
つておりますが、
一つの
原則といたし、
方針といたしては、こういう
方針を採りたいつもりでございます。第二十條は、
爭議行爲に對する不
介入の
規定でございまして、
公共職業安定所は、
爭議におきまする中立の立場を維持しますため、現に
爭議行爲が發生しております
業務の
部門は勿論でありますが、現に發生していなくても、發生の虞れあることが明らかな
業務の
部門につきましては、
求職者を
紹介してはならないということにな
つております。ただ第二項にもございますように、
紹介しようとする
業務の
部門が、
爭議が發生しておる、又は發生する虞れのある
部門以外の場合におきましては、場合によ
つてはその
部門に
求職者を斡旋しても差支えないという
規定でございます。但し
實際問題といたしましては、第一項にもございますように、
爭議行爲の發生する虞れがあるような場合には
求職者を
紹介してはならないということにな
つておるわけでありますので、第二項のような場合につきましても、
安定所としましては
十分愼重な態度を採りまして、
勞政事務所等とも
連絡をとりまして、
爭議行爲に對する不
介入の
原則に反しないような場合に
限つて、その
部門に
求職者を斡旋するというようにいたしたつもりでございます。尚もう
一つ、誤解のないために申しておきますが、これはその
紹介する
部門が、現に
爭議行爲が發生しておる
部門と全然別な
部門であることが必要なのでございまして、必ずしもそこの
工場の全職工が、全
從業員が
爭議しておる場合に限らないのでありまして、一部の
從業員が
爭議しておる場合におきましても、とにかくその
部門としては一部でも
爭議しておりますれば、それは第一項に入るのでございまして、そういう所へは
求職者を
紹介してはならない。かような
趣旨でございます。それから第二十
二條以下に
職業指導、第二十六條以下に
職業補導の
規定がございますが、この邊につきましては特に御
説明は必要ないかと思います。
それから第三章は、
政府以外の者の行う
職業紹介、
勞働者募集及び
勞働者供給事業でございます。第三十
二條に、
有料營利職業紹介事業というのが
規定してございます。第三十三條に、
無料職業紹介事業というのが
規定してございます。それで
只今の
職業紹介法におきましては、
職業紹介法が制定になりました當時に現に
有料営利職業紹介なり
無料職業紹介なりを營んでおります者は、
經過規定として、その
仕事を續けて參ることができますが、新たな
許可は認めない。即ち
職業紹介事業といたしましては、全部國でや
つて參るという
建前で、
只今の
職業紹介法はできておるのでございます。ところが新らしい
安定法におきましては、
最初の
大臣の
提案理由説明にもございましたように、
弊害がないものにつきましては、できるだけ自由を認めて參りたい。こういう
趣旨からいたしまして、
嚴格なる
條件、
監督の下におきまして、
有料營利なり、
無料の
職業紹介事業を認めて參りたい
趣旨でございます。第三十
二條に
有料營利職業紹介事業を認めておりますのは、美術、
音樂、演藝その他特別の
技術を必要とする
職業に從事する者の
職業斡旋を
目的とする
職業紹介事業でございまして、こういうものにつきましては、一般の
職業安定所でやりますことは必ずしも効果的でないという
考えからいたしまして、こういうものに
限つて勞働大臣の
許可を得て行い得ることにいたしておるのであります。尚この點についてでありますが、
國際勞働總會におきましても、條約でも、
最初の
國際總會の場合には、
有料營利は
原則として禁止いたしまして、ただ
無料のみを認めておつたのでございますが、この
但書の場合のようなものにつきましては
有料營利も認めるということに、その後の
國際勞働總會の決定といたしまして認められておるような次第でございます。但しこれについては
豫め中央職業安定委員會に諮問いたしますとか、
許可の
有効期間は一ケ年とするとかいうような
嚴格なる
條件がついております。第三十三條は
無料でございまして、これにつきましても
中央職業安定委員會に諮問し、
有効期間は二年というような
嚴格な
條件の下に
許可をすることに相成
つております。それから第三十
五條の文書による
募集でございますが、これは現在は
許可主義でございますが、これも大した
弊害のないものは自由を認めようという
趣旨からいたしまして、通勤できる
區域のものは全然自由、通勤することのできない遠い
地域からの
募集の場合は
公共職業安定所長に通報するということで、認めることにいたしております。それから第三十六條のみずから又は被用者を使用して
勞働者を
募集させます場合につきましては、現在においても
許可主義でございますが、新らしい
安定法では、
原則としてはやはり
許可主義を採
つておりますが、通勤できる
區域からのは自由を認めるということにいたしております。
委託募集は、現在も
許可主義でございまして、これは本法においてもやはり踏襲いたしております。
第三十九條の
募集地域の
原則については、先刻申上げました。その他の
規定は大體現在の
職業紹介法に基きましての
命令に
規定してありますようなものを、
法律の中に織り込んだ
規定のものであります。第四十四條に
勞働者供給事業の禁止を
規定しております。これは現在の
紹介法では
労働者供給事業を認めておるのでございますが、これは
勞働民主化という點からいたしまして、いろいろ望ましくない點がありますので、既に
昭和二十年の十月から、
進駐軍關係の
勞務につきましては
勞働者供給事業というものを認めずに、國の、
只今で申せば
勞働安定所がこれを直接や
つておるような次第でございます。それで今囘
法律の制定をいたすに當りまして、
原則といたしましては、全面的にこれを禁止いたしたいという
考えでございます。ただ第四十
五條にございますように、勞働組合がやります場合には
弊害がないと思いますので、
勞働大臣の
許可を受けさせましてこれを認めることにいたしております。それで
勞働者供給事業を行な
つておりますものの現在の數でございますが、本年四月末現在の調査におきまして、業者數が約二千七百、所属
勞働者數といたしましては約七萬三千八百いるわれでございます。それで、これが全面的に禁止になりますと、いろいろ影響があるわけでございますが、私
たちといたしましては、本法が公布になりましてから三ヶ月間の間は、過渡的の措置といたしまして
勞働者供給事業を繼續して行うことを認めておりますので、その期間の間に善後措置を講じたいつもりでおりますが、大體
考えておりますことといたしましては、三つ乃至四つのことを
考えております。第一番は、現在この
勞務供給業で供給を受けておりますのは、
工場の雜役工などが相當多いのでありますが、そういうものは成るたけ
工場の常傭にして貰いまして、
勞務供給業の手から外して貰いたい。それが第一でございます。それから第二は、今御
説明いたしました勞働組合によらせる方法でございまして、殊に派出婦が現在
勞務供給事業に該當しておるのでありますが、派出婦等につきましては、これは組合によりまして今までと似た
仕事を續けて參るようにいたしたいと
考えております。それから第三は、一般なり日傭いの、
職業安定所の活動によりまして、
安定所自身が
勞務を斡旋いたすというようにいたしたいと思
つております。第四といたしましては、現在
勞務供給業者といたしましては、いろいろの請負作業を兼業いたしておるようなものが多いのであります。この
勞務供給事業がなくなりました場合には、その兼業の方面の常傭に替るという恰好によりまして、その
仕事を續けて參るということにいたしたいと
考えております。
それから第四章雜則につきましては、多く御
説明は要らないと存じますが、若干問題がございますものに、第五十六條以下の
都道府縣知事に對する
監督がございます。これは
都道府縣知事のやりました處分が、この
法律なり又この
法律の
規定に基いて發する
命令、又はこれに基いてなす處分に違反いたしました場合には、
勞働大臣は
都道府縣知事に對しまして是正
命令を出すことができる。更にどうしても是正をいたさないというような場合には、高等裁判所に對しまして、
知事に對する是正
命令を出して貰いたいという請求ができる。更に
知事がどうしても是正いたさない場合には、
勞働大臣が代執行ができるというような種類の
規定があるわけでございます。現在
知事に對しましての一般的な
中央官廳の
監督規定といたしましては、
行政官廳法の第
七條の中におきまして、
知事のやりましたことが違法でありました場合には、その措置を停止し又は取消すことができるという
規定があるのでございますが、違法のみならず、更に不當な場合、それから單なる取消でありませずに積極的な是正の行爲をやるということにつきましては、
行政官廳法には
規定がないのでございまして、こういうことを
勞働大臣が
知事にやることができますように五十六條以下の
規定ができておるわけでございます。それで御
質問があるかと思います點の
一つは、裁判所がこういうことをやるのはおかしいじやないかというような御疑念が
一つあるのじやないかと思いますが、これは御
承知のように、從來は
行政裁判所でこういうようなことをや
つておりましたが、
只今の裁判所は司法裁判の外に
行政裁判をやることにな
つておりますので、殊に五十
七條等の
規定に基きまして裁判所がやりますことは、これはいわば
行政裁判所的な機能を裁判所がやるのでございまして、現に裁判所法にも、他の
法律で定めた權限を持ち得ることを決めておるのでございまして、そういう
趣旨でございますことを御了承願いたいのでございます。それからもう
一つは、
知事に對して
自治權尊重の點からどうこうというような御疑念もあるのじやないかと思いますが、とにかく
都道府縣知事としましては、一方
地方自治體の長でありますと共に、國の
行政機關でありますところの面を持
つておるわけでございまして、それの違法、不當な行爲に對しましては、何らかの形で是正しなければならんわけでございまして、むしろ
地方自治を認めましたために、こういう若干繁雜なと申しますか、そういう手續を以て是正するということにいたした次第でございます。以上、大體問題がございますような點について御
説明申上げた次第であります。