○山本勇造君
只今議題となりました國字國語
研究機関設置に関する
請願につきまして、
委員会における
審議の
経過並びに結果につきまして簡單に御
報告申上げます。
この
請願は、安倍能成氏外五氏から提出されたものでありまして、その
趣旨は、我が國の
言葉、我が國の文字は非常にむずかしい。その上混乱をしている。これでは教育を普及させる上にも、亦文化の発展を図る上にも、或いは又
事務の能率を挙げる上からも、非常な妨げを成しておる。これを
整理統一して、
國民の
言葉、
國民の文字にしなければいけない。そういうふうなものを定めるためには、
政府がほしいままにこれを決定し、又は或る一派の意見を取入れてやるというようなことがあ
つてはならん。(
拍手)これは、この問題をやるためには、先ず國語の本質、國語の移り行き、現代語のあり方等を十分に研究した上で決定をしなければいけない。維新以來、國語國字の問題はかまびすしく叫ばれておりますけれども、これが
解決を見ないのは、そういう基礎的な研究が今までないがしろにされておつたためである。それであるからして、今度
解決をするためには、是非共そういう基礎的な研究機関を設けるようにしなければならない。これが
請願の要旨であります。
一体、この國語國字の問題と申しますと、こういうことは國語学者或いは國語運動家がやる問題であるというふうに誤解されておりまするけれども、この問題は決して國語学者乃至は國語運動家だけの問題ではないと思うのであります。これは
國民全体の問題であります。(
拍手)この頃盛んに民主主義という
言葉が言われておりまするが、併しながら一方においてむずかしい漢語や漢字をふんだんに使う者があるのに、一方においては、そういうむずかしい
言葉、むずかしい文字は、読むこともできない。書くこともできない。理解することもできないというような者が、
國民の中に八五%もあるのであります。こういうふうな不公平なことがあ
つて、それでどこに民主主義があるのでありましようか。それでありまするからして、これからの國語國字というものは、
理想といたしましては、誰にでも分り、誰にでも読め、誰にでも書けるものが定められなければならんと思うのであります。(
拍手)教育を普及するという上で、学校の義務年限を延ばすということも勿論必要なことでありまするけれども、併しそれだけでは足らないのでありまして、この教育の根本になりまするところの文字とか
言葉とかいうものの
民主化が図られなければならんと思うのであります。そういう上からいたしまして、これは教育の上からも大事でありますが、教育だけでなくて、我々の実生活の上においても、これは大事な点であります。そうしてこれは我々現代人だけの問題ではなくて、子孫のため、又民族のためにも重大な
関係を持つものであると私は思うのであります。(
拍手)そういう建前からいたしまして、我々の文化
委員会におきましては、この國字國語に対して研究機関を作
つてくれというこの
請願に対しましては、十分に審査をいたしたわけであります。從いまして、実は予算等の問題にまで立ち入
つて質疑をいたしたのでありまするが、余り詳細に亘りますることは時間の
関係もございまするから、
質疑應答の簡單な
報告を申上げます。
先ず第一にこの
請願の
趣旨について
政府に質しましたところ、
政府におきましても全くこれに
賛成でございまして、むしろ
賛成と申すよりは、この
趣旨と殆んど同じような考えから、
政府においては來年度において國語研究所を作り、そのために予算を実は計上している程である。こういうことなのであります。でありますからして、この
請願の
趣旨だけをとりまするならば、もう問題はないわけであります。併しながら先程申しましたように、我々はこの問題を非常に大事な問題と考えましたので、尚我々としてその点で考えましたことは、
政府がそういうふうな研究所を作るということは大変結構なことでありますけれども、一体その研究所はどのくらい規模のものであり、そうしてどういう組織であり、又どこが所管するのであるか。立ち入
つてそういうところも
質問いたしたのであります。
第一に規模の問題につきましては、
政府といたしましては、研究所の所員約七十人ほど、四百万円くらいの予算でや
つて行きたい。こういう
答弁がございました。併しながらイギリスのニユー・イングリツシユ・デイクシヨナリーという立派な辞書がございますが、これは
一つの字引を作りますのに、二千人の人が三十年もかか
つてや
つているのであります。
一つの字引を作るのにそれくらいや
つておりますのに、一國の國字國語を定めるのにたつた七十人くらい、四百万円程度のことで、どれだけの研究ができるかということを質しましたところ、次の
委員会におきまして、文部大臣が、前の予算の約二倍半近くの一千三十七万円を計上したい考えである。こういう
答弁がございました。第二の組織又所管等のことにつきましては、
委員から非常に痛烈なる
質問があ
つたのであります。これに対しまして、現文部当局といたしまして、この研究所は決して文部省の直轄にするというつもりはない。又これは民間に設立準備
委員会を作
つて、できるだけ民主的な研究所にして行きたい意向であるということを明らかにしたのであります。
そこで討論に入りまして、これを民間に置くか、或いは議会に附属させるか、或いは國立にするかというようなことでさまざま議論があ
つたのでありまするが、いろいろ
審議いたしました結果、これを國立のものとして、その予算とか施設とか
事務上のことは文部省にや
つて貰う。併しながらこの組織とか
内容とかいうものについては民間人がやる。先ず最初に設立準備
委員会を民間に作り、その
内容はできるだけ学問的なものにして、時の
政府乃至権力者のためにその研究を妨げられることがないような研究所にして行きたい。そういうふうなところで落着いたのであります。
そうして最後にこの
請願につきまして
採決をいたしましたところ、一
委員を除きましたる外、全部の
委員がこの
請願は
採択すべきものであるということに決定をしたのであります。そこで本会議にかけ、又これを
内閣に送付すべきものであるというふうに決定いたした次第でございます。
最後にちよつと附加えさして頂きたいことは、或る一議員が
採択の際に
起立しなかつたと申しましたが、その議員は決してこの
請願の
趣旨に反対なのではなくて、ただ文部省の今までのやり方に疑念を持
つておりましたために
起立しなか
つたのでありますが、併しながら文部省が本当に民主的にや
つて行くのであるならば、この
請願の
趣旨には自分は
賛成であるということを後の
委員会におきまして言明をいたしておるのであります。勿論それだからと申しまして、前に
採決しましたところの数を変えるということはできませんけれども、併しながら実質の上から申しますと今のような次第でございまするから、この
請願の
趣旨は全
委員賛成のものとみなしましても誤まりではないと思うのであります。以上を以ちまして私の
報告を終ります。(
拍手)