○
伊藤修君
只今上程になりました
民法の一部を
改正する
法律案につきまして
委員会の
審議の
経過並びに結果について御
報告申上げます。
御
承知の
通り本案は非常に厖大なものでありまして、これに対する
ところの
政府の
提案理由並びに
内容の
説明、
質疑應答、
討論、こういう
範囲におきまして非常に長いものでありまして、これを詳細に御
報告申上げますれば相当の時間を要することと信ずる次第であります。でありますから、成るべくこれを簡略いたしまして皆様に御
報告申上げたいと存じます。この点予め御了承を賜わりたいと存じます。
新
憲法におきまして、その第十三條におきまして、「すべて国民は、
個人として尊重。」されるいわゆる
個人の
尊嚴の
原則が定められているのでありまして、又第十四條におきましては、すべて
國民は性別その他によりまして経済的又は社会的の
関係におきましてて差別されることがない。第二十四條によりまして
結婚は
合意のみによ
つて成立し、男女は同等の
権利を有する旨を明らかにし、且つ又
両性の本質的平等を宣言せられている次第であります。かように
憲法において大
原則が定められましたので、
現行の
民法はこの大
原則に反する
規定が第一編乃至第五編において多く存するのでありまして、殊に第四編
親族編、第五編
相続編におきましてはその大
部分がこの
原則に抵触する次第であります。かような次第でありまして、早急に我が二大
法典である
ところのこの刑法及びこの
民法に対する
ところの大
改正を要するにととなりましたので、この度これが
改正案が提案された
理由であるのであります。
その主なるものは、この
憲法に定める
ところの大
原則を、
民法の第
一條の一及び第
一條の二にこれを表現した点において非常なる
ところの画期的な立法といわなければならんのであります。この
憲法の
規定をそのまま
民法の
解釈の上において、又
民法の
運用のために
民法の
明文といたしまして、第
一條の一と第
一條の二に明示いたしましたことは、
ひとり民法の
解釈運用の
指針に止まらずいたしまして、
民事法規全般に対する
ところの
指針とするためにここに表現せられた次第であります。従
つて余り
改正されておりません
ところの
総則及び第二編
物権、第三編
債権、これらの
現行法規のこの大
原則の
明文によりまして
法規そのものの
形式変更はありませんが、その
内容におきまして著しい
ところの
変更を來すことは勿論であるのであります。即ちこの
原則規定の
解釈運用によりまして、
現行法規の
運用及び
解釈が非常に
変更を来す次第であるのであります。この点におきまして
形式的変更はありませんが、
内容的の
変更を齎している次第であります。即ち第四編
親族編におきましては御
承知の
通り法律上の家の
制度を廃止いたしました。又
結婚における
ところの諸
規定を
改正せられまして、妻の
無能力の
規定を削除されている次第であります。又
養子縁組その他におきましても
変更があります。
親子関係における
ところの
規定も
改正せられました。
親族会の
規定を、これは全面的に削除されました。
後見監督人に関する
ところの
規定も
改正せられました。又
扶養義務の
範囲におきましても非常なる
ところの
改正が加えられているのであります。第五編におきまする
ところの
相続関係におきましては、いわゆる
従來の
長子相続を廃止いたしまして、
均分相続制度を採られた次第であるのであります。従いまして
從來の
家督制度は廃止せられまして、
現行民法のいわゆる
遺産相続制度がここに用いられておるのであります。かように
民法の大体におきまして非常なる
ところの大
改正が行われまして、その大
部分は
親族編と
相続編において
改正せられておるのであります。故にこの度の
改正案におきましてはしごの
親族編と
相続編の
全文を書き改められまして、
從來の
改正の
形式からいたしますれば、
従來の
用語例をそのまま使用いたしますのを、この度はこの
全文を書き改められました結果、
口語体に全部を
改正せられておるのであります。これはこの
民法なるものが、
國民の
日常生活に密接なる
関係を持つ点と、又
國民の理解を容易ならしむる
意味合からいたしまして、ここに
口語体を使用せられまして、第四編、第五編が
改正せられました次第であります。勿論この
口語体に
改正いたされましたその
用語も上におきまして、少なからず従来の
用語が表現的に用いられておる次第でありまして、これは
口語体を以て表現し得ない
部分を、
従來の
用語をそのままここに用いられておる点があります。かような点、その他
現行民法におきまして、種々
改正せられなくてはならん点が、我々から見ましても又法全体かち考えましてもあり得るのであります。これらは他日この
民法が大
改正をせらるることが予定せられておるのでありますから、その際に讓りまして、現在におきましては、この新
憲法が五月三日に施行せられ、而して
來年一月一日以後新らしい
民法を施行しなくてはならん、この時間的制約の
範囲内におきまして、かかる大
法典の
改正をなされた次第であるのでありますから、この
改正案の全体に対し」まして、未だ不十分の点あり、相当研究せなければならん点もあります。かような点は、近く將來におきましてこの
改正が行わるる際におきまして我々の
意思を十分盛りたいと考えておる次第であります。
次に
法案の
内容につきまして簡単に御
説明申上げて置きたいと思うのであります。
先ず第一編
総則編につきましてその
改正の点を
申上げます。
政府原案は第
一條といたしまして「
私権ハ総
テ公共ノ
福祉ノ
爲メニ存ス権利ノ
行使及ヒ義務ノ
履行ハ信義二從ヒ誠実二之
ヲ爲スコトヲ要ス」、第
一條の二といたしまして「
本法ハ個人ノ
尊嚴ト両性ノ
本質的平等トヲ本旨トシテ之
ヲ解釈スヘシ」、こう
政府原案にあ
つたのであります。然るに
衆議院におきまして、この第
一條を「
私権ハ総
テ公共ノ
福祉二
遵ウ」、この「したごう」というのは
從來の「從ではなくいたしまして、
遵法精神の「遵の字を用いたのであります。「
権利ノ
行使及ヒ義務の
履行ハ信義ニ從ヒ誠実ニ之
ヲ爲スコトヲ要ス」、この点は
原案通りでありまして、新らたに、第三項を設けて「
権利ノ
濫用ハ之
ヲ許サス」、こう
修正されたのであります。この第
一條の第一項の
修正と第三項の
修正は、これは
衆議院においてなされたましたので、この点に対する
ところの
説明は後で別に
申上げることにいたします。ただ第三項に「
権利ノ
濫用ハ之
ヲ許サス」と
規定いたしましたことは、即ち
憲法第十
二條に定
むるところの精神をここに表現した次第であるのです。
第二に、その他
総則編において
改正せられた点を
申上げま。
現行民法第十四條乃至第十
八條の妻の
無能力に関する
規定を全部削除せられました。
從つて妻が
無能力になることを前提とする
ところの
文字が第十九條、第百二十條、第百二十四條の
規定中からいずれも削除をせられておる次第であります。
第三に、禁治産及び
失踪宣告、その
取消、その他これらの
事件に関する
管轄裁判所をいずれも
家事審判所に改められました。
第四に、
意思表示の
公示送達の
管轄裁判所を
簡易裁判所に改められました。
第五に、第百五十九條ノ二といたしまして「
夫婦ノ一方
カ他ノ一方二
對シテ有スル権利ニ付テハ婚姻解消ノ
時ヨリ六ヶ月
内ハ時効ヲ
完成セス」という
規定を、
両性の平等の
原則に
基ずいて設けられましたのであります。
第六に、第百七十
一條、第百七十
二條中の「執達吏」を「
執行吏」と改められたのであります。
而して第二編
物権及び度三編
債権中の
規定におきましては、僅かに第三百
八條第二項、第三百十條、第四百五十條第一項第三号、これらの三
ヶ條の
文字の
修正があつた次第であります。
次に第四編
親族編中の
改正点を簡単に
申上げます。
第一に本
改正中重要なる
現行民法親族編中、第二章の
戸主及び
家族に関する
現行法第七百三十
二條乃至第七百六十四條は全部削除され、
從つて從來の
家族制度は廃止せられました次第であります。
民法上の家の消滅することに
なつたこと、この点が
民法改正中の最も重要なもので、
國民生活に影響する
ところ至大なものであるのであります。新
憲法の国民平等の大
原則の趣旨に
基ずくものであることはいうまでもない次第であります。右の結果、
從來のごとき
戸主権を有する
戸主、これに服從する
家族は存続しないことになります。
從つて戸主権として認められていた
婚姻、
縁組等、各種の
身分上の
行爲に対する
同意権、
家族に対する
居所指定権は消滅することになりました。又入夫、
婚姻、隠居、
廃絶家、その再興、分家、
一家創立、
親族入籍、
引取入籍、離籍、
婿養子縁組、
遺言養子等は最早存在しないことになるのであります。
第二に、「
直系血族及び同房の
親族は、互に扶け合わなければならない。」という
規定を新らたに設けられたのであります。
親子、
夫婦等親族の
共同生活は、
相互扶助の
精神でますます強固に維持すべきことを明示した次第であります。これは家に関する
規定を廃止いたしました
関係上、今後における
ところのいわゆる
家族制度の中心をなす
ところの
規定でありまして、新
民法の七百三十條にこれが
規定せられておる次第であります。
第三は、継
父母と継子、嫡母と
庶子の間は
舅姑と嫁との間の
法律関係と同じくすることにいたした次第であります。その結果これらの
親族関係は、
姻族一等親の
関係となるのであります。
第四に、
姻族関係は
離婚又は
生存配偶者の
意思表示によ
つて終了することになりました。
第五に、
養子縁組に
基ずく親族関係は、
離縁によ
つて終了することになりました。
第六に、
婚姻は
両性の
合意にのみ
基ずいて成立し、
成年者については
父母等の
同意を要しないものとなりまして、
未成年者が
婚姻をするには
父母の
同意を要するものとし、
父母のいずれか一方の
同意を得ることができないときには、他の一方の
同意だけでも足りるものとすることに
なつた次第であります。
第七に、
婚姻年齢を男は、十八歳以上、女は十六歳以上とすることになりました。これは諸
外國におきましてもいずれも
年齢は引上げられております。殊に新
民法におきましては
婚姻いたしますと
能力者という
待遇が與えられるのでありますから、
從つて年齢の引上げを行
なつた次第であります。
第八に、
夫婦は、
婚姻の際定める
ところに從い、夫又は妻の氏を称するものとすることになりました。
第九に、
夫婦は同居し、互に協力扶助すべきものとすることを明らかにいたしたのであります。これは
法律上の
効果は齎らさないのでありますけれども、いわゆる
道義的規定としまして
夫婦関係の在り方をここにはつきり
明文を以て示した次第であるのであります。
第十に、
未成年者が
婚姻したときは、成年に達したものとみなすことになりました。
第十一に、妻の
無能力に関する
規定を削除することになりました。
第十二に、
夫婦の
法定財産制に関する
規定を次のように
改正することになりました。一、
婚姻より生ずる費用は
夫婦の資産、收入その他一切の
事情を考慮して適当に協力負担すること。二、
夫婦の一方が日常の
家事に関し、
第三者と
法律行爲をなしたときは、他の一方はこれによ
つて生じた債務につき連帯してその
責任に任ずること。三、夫又は妻が
婚姻前から有していた
財産及び
婚姻中自己の名において得た
財産はその
特有財産とし、
夫婦いずれに属するか明らかでない
財産は
夫婦の共有と推定することにな力ました。
第十三に、
協議による
離婚をするには
父母等の
同意を要しないものとすることになりました。
第十四に、
協議上の
離婚の自由を認めて、
未成年者、禁治産者も
父母又は
後見人の
同意を要しないことになりました。
第十五に、詐欺又は強迫による
協議離婚の
取消に関する
規定を設けることになりました。
第十六に、
裁判上も
離婚を原因を、次のように定めることになりました。一、
配偶者に不貞な
行爲があつたとき。二、
配偶者から
悪意で遺棄されたとき。三、
配偶者の
生死が三年以上明らかでないとき。四、
配偶者が強度の
精神病に罹り、回復の見込がないとき。五、その他
婚姻を
継続し難い重大な
事由があるとき。
裁判所は前項第一号乃至第四号の
事由があるときであ
つても、一切の
事情を考慮して
婚姻の
継続を相当と認めるときは、
離婚の
請求を棄却することができるものとすることになりました。
第十七に、
姦通によ
つて離婚された者は、
相姦者との
婚姻が禁止されていたのでありますが、この禁止を解きまして
相姦者の間の子に
嫡出たる
身分を得せしめるようにしたのであります。
現行民法によりますると、
姦通によ
つて離婚されましても、その
相姦者とは
結婚ができなか
つたのであります。かくてはその間に生れる
子供が不遇な地位に置かれることを慮りまして、新
民法におきましては親の罪は子に酬はない。何にも知らない
子供に社会上不遇な
待遇を與えることは好まないのでありまして、これに対して
嫡出たる
身分を取得せしめるよう、ここに
改正せられた次第であります。
第十八に、
父母が
離婚するときは、子の
監護をすべき者その他
監護につき必要な
事項は、
協議によ
つてこれを定め、
協議が調わないときは
家事審判所がこれを定めることにいたした次第であります。
第十九に、
離婚した者の一方は相手方に対し
財産の分與を
請求することができるものとし、
家事審判所は
当事者双方がその協力によ
つて得た
財産の額その他一切の
事情を考慮して、分與をさせるべきかどうか、並びに分與の額及び方法を定めるものとすることになりました。
第二十に、子は父の氏を称し、父の知れない子は母の氏を称するものとすることになりました。
第二十一に、「
庶子」の名称を全部廃止されました次第であります。
第二十二に、父が
認知をする場合には、子の
監護をすべき者、その他
監護につき必要な
事項は、
父母の
協議によ
つてこれを定め、
協議が調わないときは
家事審判所がこれを定めるものといたしました次第であります。
第二十三に、
聟養子を廃止することとなりました。
第二十四に、
遺言養子を全部廃止することになりました。
第二十五に、
未成年者を
養子とするには、
家事審判所の
許可を要することになりました。
第二十六に、
養子縁組につき
父母等の
同意を要しないものとすることになりました。
第二十七に、
養子は養親の氏を称するものとすることになりまして。
第二十八に、
協議による
離縁については、前
申上げました
離婚の場合に準ずることになりました。
第二十九に、
裁判上の
離縁原因を次のように定めることになりました。他の一方より
悪意で遺棄されたとき。
養子の
生死が三年以上明かでないとき。その他
縁組を
継続しがたい重大な
事由があるとき。
裁判所はかような場合でも一切の
事情を考慮して
縁組の
継続を相当と認めるときは、
離縁の
請求を棄却することができることになりました。
第三十に、
親権は
未成年の子に対してのみこれを行うことができることになりました。
第三十一に、
父母の
婚姻中は、
親権はその
共同行使を
原則とし、
第三者の保護に関しては別に適当な
規定を設けることにし、
父母が
離婚をするときは、
親権者は
父母の
協議によ
つてこれを定め、
協議が調わないときは
家事審判所かこれを定めることといたしました。又父が
認知をしたときは、
父母の
協議により父を
親権者と定めたときに
限り父が
親権を
単独で行うことになりました。
第三十二に、母の
親権についての制限はいずれも撤廃せられました次第であります。
第三十三に、
親族会を廃止し、
後見の
監督機関としての
親族会の
権限は、一部を
後見監督人に、一部を
家事審判所に移すことになりました。
第三十四條に、
後見監督人は、
指定後見監督人の外必要ある場合に
家事審判所がこれを選任するものとし、
後見監督人がない場合においては、その
権限は
家事審判所がこれを行うものとすることになりました。
第三十五に、
後見人に不正な
行爲、著しい不行跡、その他
後見の任務に適しない
事由があるときは、
家事審判所は
後見監督人又は被
後見人の
親族の
請求によ
つて、これを解任することができることを新らたに定めました。
第三十六に、特別の
事情があるときは、
直系血族及び
兄弟姉妹以外の三親等内の
親族間においても扶養の
義務を負わしめることにいたしました次第であります。
第五編
相続編中につきまして簡単に
申上げます。
第一に、
家督相続に関する
現行法第九百六十四條乃至第九百九十
一條を全部削除いたしまして、
家督相続の
制度はこれを廃止した次第であります。これは
戸主及び
民法上の家を廃止した結果でありまして、
従つて相続は全部
遺産相続のみと
なつた次第であります。
第二に、
相続人の
範囲及び
相続順位は
配偶者の外、
直系卑属、
直系尊属、
兄弟姉妹とし、
配偶者は次のごとく
相続人となることになります。
直系卑属があるときは子と同
順位に、
直系卑属がないときは
直系尊属と同
順位に、
直系卑属、
直系尊属が共にないときは
兄弟姉妹と同
順位に、又
直系卑属、
直系尊属、
兄弟姉妹が共にないときは
単独で、各
相続人となることになりました。
第三に、代襲相続は
直系卑属及び
兄弟姉妹のみにつきこれを認めることになりました。
第四に、同
順位の
相続人が数人あるときは、各自の相続分は相等しいものとすることになりました。但し
嫡出でない子の相続分は
嫡出子の相続分の二分の一とし、
配偶者の相続分は次の
通りにすることになりました。即ち
直系卑属及び
配偶者が
相続人であるときは三分の一、
配偶者及び
直系卑属が
相続人であるときは二分の一、
配偶者及び
兄弟姉妹が
相続人であるときは三分の二。
第五に、系譜、祭具及び墳墓の所有権は、被
相続人の指定又は慣習に從い、相先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継することになりました。その他の
財産は
遺産相続の
原則に從
つてこれを分與することになるのであります。
第六に、遺産の分割について共同
相続人間に
協議が調わないときは、その分割を
家事審判所に
請求することができることといたしました。この場合において
家事審判所は、遺産の全部、又は一部につき期間を定めて分割を禁ずることができることにいたした次第であります。
第七に、相続の開始後
認知によ
つて相続人と
なつた者が、遺産の分割を
請求しようとする場合において、他の共同
相続人がすでに分割その他の処分をいたしましたときは、遺産の價額のみによ
つて支拂
請求権を有することに
なつた次第であります。
第八に、
相続人が数人あるときは、限定承認は共同
相続人の全員が共同してのみこれを行うことに
なつた次第であります。從
つて共同ができない場合におきましては、その相続分は放棄するより外はないのであります。
第九に、遺留分は次の
通りにすることになりました。
直系卑属だけが
相続人であるとき、及び
直系卑属及び
配偶者が
相続人であるときは二分の一、その他の場合は三分の一が遺留分として定められた次第であります。
第十に、遺留分は、法定
相続人中の最後の
順位にある
兄弟姉妹にはこれを認めないことにいたしました。
現行法において法定
相続人中
戸主に対して遺留分を認めないと同様の趣旨から出たのであります。
第十一に、相続開始前における遺留分の放棄は、
家事審判所の
許可を受けたときに限りその
効力を生ずることになりました。遺留分放棄を濫用する弊を防ぐためであるのであります。
第十二に、遺言の方式に関する
規定中、従軍中の軍人軍属、及び海軍艦船中にある者についての特別方式に関する
規定を全部削除いたした次第であります。
最後に、附則において本
改正に伴う所要の
経過規定を設けられましたが、その
内容につきましてはこれを省略することにいたします。
次に
委員会におきましては、これらの厖大なる
ところの
規定即ち
総則及び第二編、窮三編を除きましても、
親族及び相続並びに附則だけの法規におきましても三百四十二
ヶ條から存するのでありまして、これに対する
ところの
質疑應答は非常に多々ありまして、殆んど全委員の人が各自長時間に亘りまして
質疑を繰返されまして、これに対しまして
政府当局の
説明も十分加えられた次第であります。これらの
質疑應答の要旨及び
政府の御
説明はいずれも将來に向いまして、この
民法の
解釈に資することは勿論、近き将來におきましてこの
民法を
改正せらるる場合におきまする
ところの、非常なる
ところの参考にもなり、又
改正の要点を指摘するものと見なくてはならんと思うのであります。この点に対しまして十分御
説明を
申上げたいのですが、いずれもこれは便宜上速記録に全部譲ることに御了承を賜りたいと思うのであります。
委員会におきましては前後を通じまして十一回これを
審議いたしました。かような次第でありますから、詳細の点につきましては速記録に譲ることにお許し願いましてその間五、六点につきまして簡簡に
質疑應答の要旨を
申上げたいと存ずる次第であります。
先ず第一に、第
一條に対して質問が繰返されたのであります。その全質問の要旨を簡單に
申上げまするが、私権は基本的人権として、人類が多年の努力によ
つてかち得た人類生活の最も基本的のものとして
憲法においてこれを保障するものであるから、国民はこれを享有するために、不断の努力によ
つて保持して行く
義務がある。故に、私権が他から侵されたときにはこれを排除し、これを主張して行使せねばならないのである。ただこれを行使するについては、公共の
福祉に反しないようにせねばならん。又進んで公共
福祉のために利用するように心掛けねばならんのであるが、公共の
福祉のために私権が存在するものではない。私権は主であ
つて、公共の
福祉のために隷従するものではない。原案のごとく「
私権ハ総
テ公共ノ
福祉ノ爲メニ存ス」ということは本末を顛倒するものであるのみならず、見方によ
つては、公共の
福祉の名の下に基本的人権を無視して、これを犠牲にする慮れがあるのであるから、新
憲法の下においてはかような法文を存置することは有害であ
つて許すべきものではない。かような趣旨の御質問があ
つたのでありますが、これに対しまして
政府委員の應答は、総理大臣及び司法大臣は交々その意見を開陳せられまして、結局の
ところ、新
憲法上において、私権も公共の
福祉もいずれも等しく尊重すべきものであ
つて、両者は相調和を保たるべきものであ
つて、軽重の差別を設くべきものでない趣旨の答弁があ
つたのであります。
これに対しまして一松議員より強力なる
ところの反対の御意見が陳述せられました。原案のごとく若しこれを
規定せられるといたしますれば、私権の否認にも考えられる。全体主義の表現にも考えられる。いわゆる悪法であるからこれは抹殺さるべきものであるというような強い御主張があつた次第であります。
然るに
衆議院におきましては、この第
一條の第一項の「
私権ハ総
テ公共ノ
福祉ノ爲メニ存ス」、この表現方法を末の
文字を
変更いたしまして、「公共ノ
福祉二遵フ」、こういうように
修正せられたのでありまして、
委員会といたしましては不満足ながら大体この程度におきまして承認することに結果相成つた次第であります。
衆議院の
修正によりますれば、私権の本体は明らかに示されているのでありまして、その行使はいわゆる
憲法に明示する
ところの公共の
福祉のために行使すべきものである、こういうように表現変えされたのでありまして、先ずこの程度として
委員会としては了承するに立ち至つた次第であります。これに対しましては一松議員におきましては、尚これにおいても十分從うことはできない、服従することはできないというような強い御
意思の質問があつた次第であります。
次に第二点そいたしまして、
改正案第
一條の二の「
本法ハ個人ノ
尊嚴ト両性ノ本質的平等トヲ旨トシテ之ヲ解釋スヘシ」という條文は、
憲法第二十四條第二項末段の文言をそのまま採用したもので、この
規定は
婚姻、
離婚、
夫婦の
共同生活、
夫婦の
財産関係等に関する
原則規定である。從
つて民事法全体に通ずる
憲法の大
原則とは言われないにも拘わらず、これを民事法全体の
解釈基準とせよというのは妥当でないのでないかという
質疑に対しまして、
政府委員の答弁は、
改正案第
一條の二の「
個人の尊厳ト
両性ノ本質的平等」という言葉は、
憲法第二十四條第二項末段の文言をそのまま使用したものであるが、これは
親族相続に関する
身分上の
行爲に関する
指針であると同時に、又一般
財産関係、例えば、雇傭
関係にも適用してよいのであるから、
民法全体の大きな指導原理であるから、
総則の冒頭に
指針として掲げたのである。又右の指導原理に
基ずいて立法すると同時に、この趣旨を
解釈にも拡充する趣旨から、「第
一條の二」を設けたのである旨の御答弁があつた次第であります。
第三に、
改正案は
從來の
戸主、家、族、その他家に関する
規定を廃止することにしたが、戸籍の上で認められる氏を同じくする
親族共同生活の團体に、
憲法の
精神に副つた新らしい
家族制度として
法律上の意義を與えることにして如何という
質疑に対しまして、
政府委員の答弁は、
現行民法の下では、
戸主は家の統率者として、
家族に対し
居所指定権、
婚姻及び縦組の
同意権、その他各種の権力を認められておりますが、これはすでに述べました日本國
憲法の基本的
原則と両立しないため、新らしい
憲法の下ではこれを認むることができません。そしてこれらの権力を否定すれば、最早
民法上の家の
制度は、
法律上はその存在
理由を失うのみならず、これを法の上に残すことは却
つて戸主の権力を廃止する趣旨を不明瞭にする虞れがあるのであります。よ
つてこの
法律では
戸主、
家族、その他家に関する
規定はすべてこれを削除いたしました。尚ここに御留意をお願いしたいことは、右のように
民法典の上からは家に関する
規定を全都削除したのでありますが、これは我が國において現実に営まれておる
ところの家庭を中心とする
親族共同生活を否定する趣旨ではないのであります。私共は現に
親子、
夫婦を中心とする家庭生活を営んでおり、
親子、
夫婦間の
法律関係は
從來から
家族制度の中心をなしておるのでありまして、今回の
改正もこの点は日本國
憲法の基本
原則に従い、より完全な、合理的な
制度に高めるため努力いたしておる次第でありまして、毫もこれを制限、
変更せんとするものではないのであるという御趣旨の御答弁があ
つたのであります。要するに
法律上の家を廃止いたしましても、いわゆる事実上の家というものは否定しない。むしろ
改正民法は現に我々が営んでおる
ところのこの
家族中心的の
親族共同体をより以上
効果的に発揮して、日本の
家族制度の成果を図りたいという趣旨であるという御答弁であるのであります。
第四に
申上げたいのは、
協議上の
離婚について御質問があ
つたのであります。現在の状態から申しますと非常に
協議上の
離婚は多いのであります。これを無制限に放任して置くことは始終弊害を伴う。例えば妻の知らざる間に
離婚届が届けられておるというような事例もある。これは諸
外國の立法に倣
つて容易に
離婚届を出し得ない。即ち
離婚に対しまして確認の
制度を採
つてはどうか。例えば
家事審判所において
離婚する場合におきましては、一々確認の手続をと
つて、然る後に
離婚を許してはどうか。こういう御質問があ
つたのであります。これに対する
ところの
政府の御答弁は、現在におきまして一ヶ月六万件にもなる
ところの全國の
離婚の数を一々
裁判所においてこれを取扱うということになりますれば、現在における
ところの日本の
裁判機構におきましては、到底これを受入れることができない。又
簡易裁判所にこの
事件を取扱わしむるといたしましても、現在予定せられておる
ところの
簡易裁判所が全部全國に設立せられたいといたしましても、五百何ヶ所に過ぎないのでありますから、これによ
つてこれを処理するということは不可能事であるという趣旨の御答弁があ
つたのであります。併しながら
政府の御答弁の一ヶ月六万件ということは、その後私が
政府の提出せられました
ところの資料によりまして調査いたしますると、これは誤りでありまして、昨年のいわゆる二十一年の七月から本年の五月まで十一ヶ月の統計によりますると、一ヶ年八万一千九百七十二件であたのであります。即ち一ヶ月約七千件相当な
離婚数であ
つたのであります。この点は
政府の御答弁は違
つてお
つたのであります。尚これに対しまして
政府の前の御答弁によりますれば、いわゆる
憲法において
結婚の自由を認めておる。又從
つて離婚の自由も認めなくてはならん。かような趣旨の御答弁であるのであります。この点に対しましては明日
修正案が出ることと存じますから、十分提案者の御
説明もあり、又反対の御意見もあることと存じますから、これ以上の御
説明は省略さして頂きたいと存じます。
次に
養子の再
縁組を禁止してはどうかという御質問があ
つたのであります。即ち一旦
養子をいたしました者が再び
養子をすることを禁止してはどうか。その趣旨は、今度の
改正民法によりまして、一度
子供となりますれば相続分が附くのでありまして、その者がその相続分を持
つて又再び
養子に行きますと、第二の家で以て相続分を取得する。そういたしますと、幾つも
相続人の
権利を取得することになることは弊害が伴うから、これは廃止してはどうか。こういう御趣旨であ
つたのでありまするが、
政府のこれに対する御答弁は、
從來の
民法におきましても再
養子は認めておりまして、且つ又新
民法におきましてもこの再
養子を認めることは、当事者の
意思を尊重する意味におきまして原案を支持するものであるという御趣旨の御答弁があ
つたのであります。
次に
嫡出にあらざる
子供の相続分を
嫡出の
子供の半額にするということは
憲法の
精神に反するのではないか。こういう御趣旨の御質問があ
つたのでありまするが、これに対する
ところの
政府の御答弁は、
嫡出の子と
嫡出にあらざる子との相続分の差等を設けたことは、決して
憲法の
精神にに反するものではない。例えば妻と
子供との相続分の不均衡、その他
現行民法において各相続分が相異なるのでありまして、これはその
身分、その人々の地位によりまして相当な
ところの相続分を定めたのでありましてそれが即ち公平であるという御趣旨の御答弁であ
つたのであります。
次に内縁の妻を認めてはどうか。こういう御趣旨の御質問があ
つたのです。即ち現在におきまする
ところの
民法において、
合意によ
つて成立した
ところの
結婚は、届出によ
つてその
効力は
第三者的に発生することにな
つておるのでありますが、届出を怠
つておる
ところの内縁
関係は、これに対しても
民法上の保護を與えてはどうか。
從來においてもこれによ
つて苦しむ
ところの
夫婦は多々あるから、これを救済する
ところの法規を設けてはどうか。こういうような趣旨の御質問があ
つたのであります。これに対しまして
政府の御答弁は、
現行民法はいわゆる
法律婚を認めて事実婚を認めていないのである。この主義を一貫しておるのであるから、その御趣旨に対しては感ずることができない。又
従來の
民法からいたしますれば、成る程
戸主の
同意がなくて事実上
結婚してお
つても、
法律上の
婚姻と認められない場合がある。或いは親の
同意がないために、事実上
結婚してお
つても
法律上の
結婚と認められない不合理があ
つたのであるが、
現行民法におきましては、当事者の
意思表示によ
つて何時でもその届出は自由にできるのだ。いわゆる父の
同意も
戸主の
同意も要しないで、自由にその
結婚は成立するのであるから、その單なる届出をも怠つた人は、敢てここにそれ以上保護する必要はないではないか。かような御趣旨の御答弁があ
つたのであります。これに対しましても明日
修正案が提出せらるることと存じますから、提案者の詳細なる御意見もあり、又反対者の御意見もあることと存じますから、これ以上の御
説明は避けることにいたしたいと存じます。
かようにいたしまして
質疑應答は
委員会において終了いたし、委員諸君に、この程度において
討論採決に入るべきや否やということをお諮りいたしました次第でありますが、その際お一人の反対があ
つて、その余の全員は、この程度において
討論採決に入るべきものであるという御
意思であ
つたのでありまして、去る十月六月
討論に入つた次第であります。その場合、小川委員より、先程申しました
ところの
養子の再
縁組の点、及び九百條の但書の
嫡出子にあらざる子の相続分の不均衡を
修正する
ところの
修正案が提案されたのであります。又松村議員よりな、この
改正案は遺留分その他の各
規定において未だ十分ならざるものがある。相当
改正せらるべき点が多々あるのでありますが、近くこれが
改正せられることを予想いたしまして、この程度において
原案通り可決すべきものとするという
ところの御意見があ
つたのであります。かようにいたしまして、
討論は終結し、
採決に入りまして、先ず小川議員の提出にかかる
ところの
修正案について
採決をいたしました。これは小川議員一人の御賛成で、他は全部御賛成がないのでありまして、
修正案は否決せられました。続いて原案全部につきまして
採決をいたしました
ところ、小川議員を除くその余の全員の御賛成によりまして、
原案通り可決すべきものと決定せられました次第であります。以上誠に簡單でありますが、御
報告申上げます次第であります。(
拍手)