○
伊藤修君
只今上程になりました中、
裁判官及び
裁判所職員の
分限に関する
法律案に対する
説明を先ず申上げたいと存じます。
本案に対しましては数回
委員会を開いた次第でありますが、後の
刑法に対する
説明が多少時間を要すると存じますから、
本案つきましては極く簡単にその
要旨のみを申上げておきたいと存じます。
御
承知の
通り旧
憲法に
基ずく従來の
判事懲戒法は、先に
裁判所法の制定に際し、その
附則において
廃止せられておるのであります。そして新
憲法においては、
裁判官の
身分の
保障に関し、その第七十
八條において、
裁判官が
心身の
故障のために
職務をとることができない場合においても、
裁判によ
つてその認定がなければ罷免ができない旨、及び
裁判官の
懲戒処分は
行政機関がこれを行うことができない旨を
規定しておるのであります。
従つて裁判官の
分限及び
懲戒に関して特別の
立法をなす必要があるのであります。次に
裁判官以外の
裁判所職員は、
執行吏を除いて、すべて
官吏とな
つておるのでありますが、新
憲法は
裁判所の独立を著しく鞏固に
規定いたしておるのであります。これに従い、
裁判所法においてもその任免は、
一級の者については
最高裁判所の
申出により
内閣が、二級以下の者については
最高裁判所以下の各
裁判所においてこれを行うこと、及び
職員に対する
身分上の
監督権は、
最高裁判所が最終的にこれを有することを
規定しておるのでありまして、
裁判官以外の
裁判所の
職員の
分限及び
懲戒についても、
裁判所のその
職員に対する以上の
程度の
自律権に即應するように、特別の
立法をいたす必要があるのであります。かような
趣旨に基ずきましてこの
法律案が提出せられたのでありますが、次にその主たる
内容について御
説明申上げます。
第一に、新
憲法第七十
八條においては、
裁判官が
心身の
故障のために
職務をとる固とができないときは、これを罷免することができる
趣旨を
規定しておるのでありますが、その
故障の
程度については
規定していませんので、これを「回復の困難な
心身の
故障のため」と明らかにいたしました。尚、
従來裁判官は
終身官でありましたので、
本人が願い出た場合においても
免官ができなか
つたのでありますが、新
制度により
終身官ではなくなりましたので、
本人が願い出た場合には
免官ができる旨を明瞭に
規定いたしました次第であります。
第二に、新
憲法第七十
八條においては、
裁判官の
懲戒は、
戒告及び一万円以下の
過料といたしました。
改正前の
憲法に
基ずく判事懲戒法によれば、
裁判官の
懲戒は、
免職、定職、
轉所、
減俸及び譴責の五種でありましたが、
免職即ち
免官及び停職は、
前述の新
憲法第七十
八條の
規定に牴触に牴触いたしますので、
轉所についても右同様の結果を生ずる疑いがあるのみならず、
裁判官の地位に鑑み、
罰目としては不適当であり、次に
減俸も新
憲法第七十九條第六項及び第八十條第二項に、いずれもこれを廃し、
戒告及び
過料といたし、
過料の額は
裁判官の受ける
報酬額に照し、
最高一万円を適当といたしたのであります。
第三に、
裁判官に関する
心身の
故障のために
職務をとることができないか否かの
裁判及び
懲戒の
裁判については、
裁判所の
組織、管轄および手続の中、極めて重要な
事項のみを
規定いたし、その他は
原則的に
最高裁判所の定める規則に委ねることにいたしました。これは、この種の
裁判は
裁判所の
内部規律に関するものでありますので、成るべく
裁判所の
自律に委ねることが適当と考えたからであります。
最後に、
裁判官以外の
職員については、その
官吏たる性質より、
官吏分限令、
管理懲戒令の適用を受けることは当然でありますが、
前述の
裁判所職員たる
特殊性に鑑み、又
裁判所の
自律権を
尊重いたしまして、
懲戒委員会は
一般官吏の場合の例によることなく、
最高裁判所の定める
ところによ
つてこれを設けることといたし、その
議決に
基ずいて、
懲戒及び
心身の衰弱による
免官は、
一級のしよくいんについては
最高裁判所の
申出により
内閣がこれを行い、二級以下の
職員については
最高裁判所以下の書く
裁判所においてこれを行う外、
減俸についても、各
級別に
従つて、
最高裁判所以下の
裁判所においてこれを行うことといたした次第であります。
以下の外、尚、
執行吏は
官吏ではなく、純粋に
裁判所の
職員でありますので、その
懲戒については
最高裁判所の定める
ところによることといたし、
従來の
執達吏懲戒令はこれを
廃止することにいたしました次第であります。
以上のような
内容に
基ずくところの
本案に対しましては、
内容頗る多岐に亘る、これに対しまする
ところの
質疑應答は、
従つて沢山あつた次第でありますが、便宜上これらの
質疑應答は
速記録に譲ることに御
了承を願いまして、この点に対しましては省略さして頂きたいと存じます。
次に
討論に入りました
ところが、
大野委員、齋
委員の
賛成意見がありまして、
原案通り可決すべきものと
決定いたした次第であります。以上を以ちましてこの
法案に対する
ところのご
報告申上げる次第であります。(
拍手)
次に
刑法の一部を
改正する
法律案につきまして御
説明を申上げます。この
法案は、御
承知の
通り憲法附属法規といたしても誠に重要なる
ところの
國家の
基本法規であることは、
皆様十分御
了承のことと存じます。一國の治安、一國の
司法制度が
確立しているや否や、世界に伍して恥しからざる
ところの
國家体制を整え得るや否やということは、
刑法法典、
民主法典の
完備が成るか成らざるかによ
つて、これらが
決定せらるのであります。故に
日本の過去における
ところの沿革から申しましても、
刑法の
改正は
一大事業としてこれが行われまして、今日まで私の知る
ところにおきましては、旧
刑法及び
現行刑法の二度の
改正があつたことと思うのであります。曾て
日本が條約
改正の際におきまして、先ず以てこの
司法法規の
完備を図らなくてはならんというので、非常なる
ところの努力をいたしまして旧
刑法が制定せられ、そうして現
刑法が、次いで改訂制定せられた次第であります。
かくのごとく、この
法典の改廃ということは、今日までにおきましては重大なる
事項といたしまして、軽々しく行われたことではないのであります。然るにこの度の新
憲法におきまして
基本人権の
確立、
平和主義の徹底、個人の尊厳、男女の本質的平等、自由の
確立、こういうような
各種の
原則が
憲法において謳われた次第であります。
従つてこの
憲法の現す
ところの線に沿いまして、我が国における
ところの
現行憲法を
改正する必要があるということは、当然のことであります。
従來に見ざる
ところの僅かな短時日の中にこの大
事業をなさなくてはならんということは、我々の現在といたしまして誠に止むを得ざる
ところに出たものとは申しながら、匆々の中にかかる大
法典を
決定するということは、誠に遺憾な次第であるのであります。
従つて政府といたしましては、
本案に対する
ところの大
改正の
事業は後日にこれを譲りまして、今日におきましては、当面必要な
最小限度のこの
範囲におきまして、
本法案の
改正がなされた次第であります。かような
趣旨におきまして、どうか
本案に対する
ところのお聴き取りを願いたいと存ずる次第であります。故に
現行刑法の
改正案といたしましては完全無欠なるものと言い得ないということを、我々は先ず似て前提といたしまして、
本案の
審議に向かわなくてはならんと思うのであります。一應
本案に対する
ところの
皆様のお立場につきまして一言添えておく次第でございます。次に
改正案の大体の
内容につきまして項
目的に申上げて見たいと存じます。
先ず第一は、皇室に対する罪を削除せられたことであります。第二に、
外國の元首、使節に対する
暴行、
脅迫、
侮辱の罪を削除せられたことであります。第三に、外患に関する罪を
変更又は削除せられたことであります。第四に、
外國法及び
外國裁判の
尊重の
趣旨からいたしまして、いわゆる
國際原則、
國際主義の
原則を徹底する
意味におきまして、これが
刑法法典の、この点に関する
ところの
條項を
変更せられた次第であります。第五に、
外國裁判の
尊重、第六に、
法定刑の
加重に対しまして、公務員の
職権濫用、逮捕、監禁、
暴行、陵辱、これらに対する
ところの涜職の罪に対しまして。
法定刑を
加重いたしますし、
一般暴行脅迫罪に対しましては、暴力の否定という
意味からいたしまして、これ亦
加重をせられた次第であります。
名誉毀損罪に対しまして、いわゆる自由の保護というこの点に対しましても亦
加重せられた次第であります。
猥褻文書等の
販売頒布の罪、公然
猥褻罪等につきまして、
法定刑がいずれも
加重せられました次第であります。次ぎに、
姦通罪の削除をなされておるのであります。第七に、
安寧秩序に対する
ところの罪が削除せられておる次第であります。又
侮辱罪の
規定が
原案といたしましては削除されておる次第であります。刑の
執行猶予の
範囲拡大、
前科抹消の
規定の新設、
連続犯の
廃止、
累犯加重規定の
廃止、
犯人藏匿、
証憑湮滅に親族間の場合におきます
ところの処罰をなし得るということ、こういう点におきまして
現行刑法が前言申上げますごとく、新
憲法の
趣旨に副わざるという
意味からいたしまして、いずれも
改正せられた次第であります。
こういうような大
部分の
改正が行われました故に、
委員会といたしましても、これに対しまして十分なる
ところの討議が交わされた次第でありますが、
予備審査におきまして九回、本
審査におきまして三回、
公聴会を開くこと二回、証人を喚問すること一回、視察をすること一回、尚
懇談会を開くこと二回、合計十七回の回数を重ねまして、文字
通り愼重会議をいたしました次第でありますが、この
質疑應答の
内容におきましては、誠に貴重なる
ところの御
質疑もあり、又これに対する
ところの御
答弁あつた次第でありまして、この
要旨のみを要約いたしましても、ここに準備いたしました
資料によりますれば、百数十枚を数える程の問題であるのであります。これらの
質疑應答の
内容を、その
要旨のみにつきましてもここに
皆様に申上げまして、
本案審議の御参考に供することが
委員長といたしまして忠実なるやり方とは存じまするが、
かくては時間を非常に要する次第でありますから、これらの
質疑應答に対しましては、後日の
刑法改正の重要なる
資料といたしまして、
皆様におかれましても、
速記録において十分この点を御
了承を賜わりたいと存じます。故にこれらの貴重なる
ところの
質疑應答に関する一切は、ここにご
報告申上げることは省略さして頂き、すべて
速記録において御
了承を賜わりたいと存ずる次第であります。
かように
愼重審議をいたしました結果、
委員会といたしましては、各
委員の熱心なる御
研究の結果、これに対する
ところの
修正意見を御
提出願つた次第であります。便宜この
修正意見の表示せられた
ところの個所を
皆様にご
報告申上げまして、いかなる点に
本案に対しまして
質疑があつたか、論点の中心があつたか、又将來この
刑法を
改正するに当りまして御考慮を願う
意味におきましても、この点は明らかにして置きたいと存ずる次第であります。
先ず
修正意見の
申出でのありました第一といたしましては
執行猶予の
條件の緩和であります。これは
現行刑法におきましては勿論、
改正案におきましてもです、七年以下という
條件にな
つております。これを五年以下に緩和しろというお説であります。又五千円以下の
罰金ということにな
つておりますが、これを現在の
経済状態から考えまして、通貨の價値から判断いたしますれば、五千円という額はあまりに僅少ではないかと、故にこの制限を撤去しろというようなご
意見もあつた次第であります。
次に第二十六條、
執行猶予の取消についての
修正の御
意見があ
つたのであります。この点は
改正刑法におきましては、
從來懲戒法のみについまして
執行猶予の
制度を認めてお
つたのであります。然るに
原案におきましてこの
制度を拡大いたしまして、
罰金についても
執行猶予の
制度を置くということにな
つたのであります。併し一度この
執行猶予を受けた者は、その
猶予期間中謹慎いたしまして、
社会生活の中に正しくその行いをなさなくてはならんのであります。次に犯した場合におきましては、この
執行猶予は取消されることは当然のことであります。然るに
改正案におきましては
罰金の
執行猶予を認めた
関係上、第二に、その
期間中において、
執行猶予の
期間中におきまして、次に
罰金刑を犯したばあいにおきましては、この場合におきまして、
原則的にこれを取扱いますれば、過去の
罰金刑を取消される場合もあります。又過去の
懲戒刑も取消される虞れがあるのであります。故にさようなことに至りますれば、誠に
執行猶予の
制度を認めた
趣旨が徹底しない。且つ又
國民はそれによ
つて不利益を被る虞れがあるのではないか、むしろ
加重になるのではないかというような御
意見があ
つたのであります。
裁判官の
裁判のよろしきを得ない場合におきましては、先に五千円の
罰金で、若しくは二年以下の
懲戒によ
つて、
執行猶予の
恩典に俗している者が、たまたまその日の
生活の代を得るために、僅かの犯罪を犯しまして、仮に
罰金十円を科せられました場合におきましても、尚且つ先の
執行猶予の
恩典は取消されることになるのであります。若しさような結果に至りますれば、今日の
経済状態におきまして、先ず以て
政府は
社会生活を安全になし得るような政治を行
つてから、かような
規定を設くべきではないかというような御議論もあつた次第であります。併しながらこれに対しましては、
政府といたしましても、これを取扱う
ところの
裁判官の運用よろしきを得ますれば、
原案におきましては取消すことを得とあるのでありますから、必ずしも取消されるものとは
決定しないのでありまして、取捨よろしきを得て、事実に適應したる
ところの適切な取扱いがなされ得るものと期待せらると、又そういうように運用することをここにおいて
政府の
意見として声明するということの御
意見もあつた次第であります。
次に、三十四條の二、計の消滅に対しまして
修正の
意見はありましたのです。これは衆議院におきまして、参議院の意向と同様な
修正が行われた次第であります。即ち
懲戒刑に対する
ところの刑の消滅は十年、
原案におきましては
罰金刑に対しましても十年でありましたが、これを
懲戒刑と
罰金刑とを区別いたしまして、
罰金刑の場合におきましては五年を以て形は消滅する。いわゆる過去におきまして判決の言渡なかりし状態に復帰する。今日までにおきまして、不幸にいたしまして過去に罪によ
つて、いわゆる前科ということによりまして、幾多の
人々が苦しんでおることは
皆様の夙に御
了承のことと存じます。これらの
人々らの十年という正しい
生活の現状を保護する
意味におきましてこの
規定が設けられた、こういう次第でありまして、誠に時宜に適したる
ところの
規定と言わなくてはならんと思うのであります。この点に対しまして衆議院において
修正せられました
ところは、これは当然であると存じまして、参議院の
委員会におきましては、この
修正に対しまして
了承する
ところの次第であります。
次に、宣告猶予の
修正の御
意見があ
つたのであります。凡そ罪を犯しまして、その事案に対しまして必ず判決をし、而してこれに対しまして刑罰の責任を負わしめなくてはならんということはないのであります。現実なる事実に適應いたしまして、その者に対し、ただ精神的に罪悪の自覚を與え、若しくは
一般社会に対しまして予防の
趣旨が徹底いたしますれば、敢えて以てその個人に対しまして、より以上の刑罰の苦痛を與えるということは必要ではないかという
意味におきまして、この
修正案が提出せられた次第であります。
次に、七十三條、皇室に対する罪に対しまして
修正案が提出せられたのであります。この問題に対しましては参議院の司法
委員会といたしましては、夙に各
委員より御
質疑がありまして、いわゆる皇室に対して特別なる
ところの
規定を置く必要は今日の
憲法の上からいたしましてないかも知らないが、
國民統合の象徴たる天皇、
國家の象徴たる
ところの天皇、國事を行わせられる
ところの天皇、この天皇に対しましては特別なる
ところの
措置をするの必要はないかどうか、又
國民感情の上から申しましても、これらの天皇の御地位に対しまして、我々
國民と同様にこれを取扱うということは誠に論理が一致しない、不合理ではないかというようなきつい御
質問がありまし多のであります。仮に
現行刑法の上から申しましても、後に申上げます
ところの二百四條、二百
五條でありますが、尊属殺人の場合におきましても普通の殺人の場合より重く罰しておるのであります。我々
一般國民の間におきましても
かくの如くその処罰の
規定が異な
つておる場合があるのであります。單に殺人をなしたという
意味におきましても、その個人によ
つて、被害者個人の地位によ
つて、刑罰が異なる場合があり得るのであります。この点から考えましても國事を行わせらる
ところの天皇、象徴たる天皇、これに対しまして特別なる考慮を拂うに必要があるのではないかとというような御
意見があ
つたのであります。併しながらこれに対しましては、
政府といたしまして縷々御
説明があつた次第でありまして、これを要約いたしますと、成る程
國民感情の上から申しますれば、天皇の御地位に対しまして特別の
規定を設くる必要あることは是認せらるるのでありますが、天皇も亦
國民の一人としての地位を有せらるるのであります。すべての
國民は法の前に平等でなくてはならん。これが新
憲法を貫く
ところの、一貫したる
ところの大精神であるのであります。かかる見地からいたしましても、天皇に特別なる
ところの
規定を設くることは、
憲法の精神を蹂躪する結果を招來する、又今日の國際
関係から考えましても、
日本の天皇
制度にたいしまして幾多の疑惑を以て環視せられて時であるのであります。
日本の
民主主義の成るか成らざるかという点に対しましては、一に天皇制の存するか否かという点にその疑惑の中心が置かれておるのであります。
従つてこれらの点から考慮いたしましても、煮本の
民主主義の徹底という
意味からいたしまして、國際環視の間におきまして、敢然我々は勇を鼓してこの
規定を
廃止するということが、我々の持つ
ところの理想に対する誤解を招かないという
意味におきましても、この
原案というものを支持しなくてはならんという御
趣旨であるのであります。かような次第でありまして、この一点に対する
ところの御論議は幾多ありましたのでありますが、強く御主張になられましたのは、松井議員よりこの点に対しましては、
最後まで特別なる
規定として、いわゆる
一般普通に、衆議院において言われるがごとく、或いは普通に唱えられるがごとく、天皇に対する
ところの特別な
規定を設けるのじやない。自分は國事を行わせるる
ところの天皇、この地任に対して保護する
ところの
規定を置きたいのであるという強い御主張があ
つたのでありますが、
政府の御
答弁」、又
委員会の全
委員の意向といたしまして、
政府の
答弁を
了承いたしまして、今日の
情勢下におきましては、我々はこの
原案を支持するの止むを得ざるものとして、この
本案に対する
ところの
修正案は御撤回を願つた次第であります。
次に、國交に関する罪につきまして、同じく松井議員より
修正の御
意見が出たのであります。これは御
承知の
通り外國君主及び
外國の使臣に対しまして、特別なる
刑法上の保護を與えることが
規定せられてお
つたのでありますが、
原案即ちこの
改正法におきましては、天皇に対するときと同じ理論の下に、すべての人は差別なく法の前に平等であるという観念を貫ぬきまして、これ亦削除された次第であります。この点に対しましても、松井議員より種々御主張がありましたが、先ず
外國元首若しくは
外國の使臣をかように普通人と同様に待遇することは、國際慣例の上におきまして如何かというような御
意見もあ
つたのであります。併しながら
政府の御
答弁といたしましては、先程の天皇に対する
ところの見解と同様な理念に基ずきまして、
本案を削除いたした次第でありますが、尚これによ
つて外國使臣に対しまして保護の欠くる
ところは万ないということを誓約せられておる次第であります。又この点に対しまする
ところの種々なる御見解に対しましては、國際
関係の上から重要なる
ところの
事項であるのでありますから、特にこの点に対しまして司法大臣の御
意見を私の
報告の後でお伺いすることにな
つておりますから、すべて司法大臣の御
説明にこの点はお譲りすることにいたします。
次に姦通両罰若しくは姦通両罰せざること、百八十三條の問題でありますが、これは
最後にお譲りすることにいたしたいと存じます。
次に百九十條、涜職の罪でありますが、これは前にも申上げましたごとく、檢察官若しくは公務員が職権を濫用し、
暴行又は陵虐を加えました場合におきましては、これを七年以下の懲役に処すということに
改正せられたのでありますが、この点に対しまして、從來即ち
現行刑法が起案されまして今日に至るまで、常に在野法曹におきましても、又我々が学生時代におきましても、問題にな
つておつた点は、
暴行、陵虐と
規定されまして、
脅迫という文字が挿入されていないのであります。今日の実情から考えましても、
脅迫の事例は多々ありまして、これがために刑事被告人は思わざる
ところの自白を余儀なくされまして、遂に囹圄の身に落ちる人もありますし、又永く
裁判に繋屬せられまして、一生を棒に振るというような結果を招來せられた人も幾多あるのであります。
暴行、陵虐を入れるならば、何故
脅迫をいれなかつたか。この
立法の
趣旨は明らかではありませんが、恐らくいわゆる從來の公務員の絶対権力、
國家権力というものを重く見まして、檢察官若しくは警察官がその
職務執行に際しまして、この
脅迫という文字がありますれば、おのずからそこに制約を受ける。さような観点からいたしまして、これが政策的に除去せられておつたものと考えられるのであります。併しながら今日新
憲法によりまして、
基本人権の
確立ということが大きく
原則的に主張せられておる時代におきまして、何故に
現行刑法の
改正に当りまして、即ち
憲法の
原則を表現すべく
改正せられましたこの
改正案におきまして、この文字を落されたかと言わなくてはならんのであります。これは恐らく私はミスではないかと存じます。意識的にこれを落されたかというふうには考えられないのです。故に我々
委員会といたしましては、
本案が
改正憲法の
趣旨に副うべく應急的に
改正せられるのならば、この点に対しましては勿論これが
改正せられなくてはならんのである。かような見地からいたしまして、この
暴行と陵虐の間に、「若クハ
脅迫」という五字の文字を挿入する
修正案が出た次第であります。
次に二百條、二百
五條の
関係、即ち尊属殺の問題でありますが、前に一言申上げましたから、これは省略することにいたします。
次は二百三十條ノ二、名誉毀損の事実の証明の問題でありますが、特に公務員の候補者の特例の場合であります。今度の
改正法によりますれば、公務員を
目的とする候補者に対しましては、
名誉毀損罪に対して特別な
規定を置いた次第であります。その行為が「公共ノ利害ニ關スル事實ニ係リ其
目的専ヲ公益ヲ圖ルニ出テタルモノト認ムルトキハ事實ノ慎否ヲ判斷シ慎實ナルコトノ證明アリタルトキハ、」いわゆる公共の利益、公益の
目的、こういう
條件が具備いたしますれば、
名誉毀損罪は成立しないのであります。而して公務員の場合におきましては、すべてこれが公益の
目的であるというふうに取扱われまして、常に批判の的に置かれるのであります。かかる
規定は、現行新民法の上におきまして、公務員の地位と責任が格段に引き上げられました現状におきましては、誠に当然な
規定であると言わなくてはならん。併しながら現在の
日本の選挙界を一瞥いたしますのに、果たしてこの
規定がここに成立せられることによりまして、各候補者が自由に選挙せられるであるかどうか。殊更にその候補者の落選を
目的といたしまして、責任のない
人々の言論によりまして、遂に落選の結果を見るような不幸な結果を招來することは、火を見るより明らかなものと考えられるのであります。現在における
ところの
日本の選挙界を見ますれば、この
規定は時期尚早ではないかというような御
意見であ
つたのでありますが、
委員会いたしましては、この点に対しまして、議員の職責の重大とその地位の高きに鑑みまして、かりそめにもさような非難を受くることのなきことを欲するという
意味におきまして、
原案は先ず一應支持するというようなことに至つた次第でありますが、
本案に対する
ところの
委員会の各位の
意見の中におきましては、さような杞憂の念を抱かれる人が沢山ある次第であるのであります。
次は二百三十一條の
侮辱の罪の復活でありますが、これは衆議院においてこれが
原案を
修正されまして復活せられたのでありますから、この
説明は省略いたす次第であります
次は二百三十二條の天皇の近親の告訴権の当否の問題であります。
改正案によりますれば、
名誉毀損罪が成立する場合におきまして何人が告訴するか。普通
國民の場合におきましては、その被害者が告訴することは当然のことでありますが、事一度天皇に対する
ところの名誉毀損の場合におきましては、これは何人が取扱うか。天皇御自身及び天皇の近親者御自身が取扱いますればこれは誠に当然のことでありますが、今日までの慣例から申しましても、亦天皇の御地位から申しましても、かようなことを求むることは不能のことであると言わなくてはならんのであります。然らば天皇に近親する
ところの宮内府長官若しくは皇族
会議の
議長を以ていたしましてこの告訴権者とするという
意見もあ
つたのでありますが、若しさようなことにいたしますれば、やはりその累は天皇に及び、又天皇が徒らにその問題の対象に扱われるということは、天皇の御地位から、新
憲法上における
ところの天皇の御地位に影響のあることと思わなくてはならんのであります。これらの点を勘案いたしまして、この告訴権は
内閣総理大臣がこれを行うということに
規定されておるのであります。併しながら
内閣総理大臣は、この告訴権をどういう
法律上の根拠に
基ずいて行うかという御
質疑もあ
つたのであります。而してこれは國事かどうかというような御
質疑もあ
つたのでありますが、これは
改正刑法によりまして新しく創設された
ところの
内閣総理大臣の権限といたしまして行うのであ
つて、
規定の上に表現する文字は、代理者ということに、代りて行うということにな
つておりますが、その権利はいわゆる民法上の代理の観念では律せられずして、この
規定によ
つて新しく生まれる
ところの権限行為として行うものである。從
つてその行
なつた結果に対する
ところの政治上の責任は総理大臣が正に負わなくてはならん。こういう結論であるという御釈明であ
つたのでありまして、山下議員より、若しさようなことがありといたしますれば、天皇問題を中心といたしまして、ひいては
内閣に罅が入るというような、政治問題まで及ぶような事態が生ずることがあり得るのは、努めてこれを避けなくてはならんと、こういうようなお説もあ
つたのでありますが、然らばこれに対しまして、何人が代
つてこの告訴権を行うかと申しましても、全く先程挙げました
ところの宮内府長官若しくは皇族
会議議長というぐらいのものでありまして、その他に適当なる告訴権者というものは見出せないのであります。(「
議長は総理大臣だ」と呼ぶ者あり)さような次第でありまして、
原案に対しまして、
委員会といたしましては、先ず
原案通り賛成することといたしておいた次第であります。
次に外国使臣に対する
ところの告訴権者でありますが、これはその外国の代表者、いわゆる
日本に滞在する
ところの代表者が、代
つて元首に対する
ところの名誉毀損に対して告訴権を行うと、こういう
規定を設けたのであります。この
規定の結果、外国使臣が直接この告訴権を行使するか否かということに対しましては、この
刑法法典の上では
規定いたしません。おのずからその手続
規定は、近く提案される
ところの刑事訴訟法の中においてこれが
規定せらるることと存じます。又
最高裁判所においてその手続が
規定せられるかも存じませんが、いずれにいたしましても、その手続きに関しましては
本法に
規定いたしませんのでありますが、これは然るべく
規定せらるることと存ずる次第であります。
次に強盗傷人、強盗強姦の短期刑の引下げという御
意見もあ
つたのでありますが、これは今日の実情から考えまして、この
修正案に関しましては未だ時期尚早と考えられると述べ、これも御撤回願
つたのであります。
以上申上げました点が主なる
修正御
意見であ
つたのであります。かような例のない沢山な
修正意見を、本
委員会におきまして取上げるということは一考を要すると考えまして、又この
改正案が
改正せらるる
ところの
趣旨は、前言申上げましたごとく応急的
措置である、近く大
改正の
事業が行われるのでありますから、さような点を鑑みまして、且つ又
本法案の一日も早く
決定せられなくてはならんという時間の制約もありまして、これらの点から考えて、この幾多の
修正案に対しましての取扱につきまして
懇談会を開きまして、先ずその中で重要なる
部分といたしまして、百八十三条の
姦通罪に関する件、及び先程申しました
ところの百九十五条の涜職に関する件、並びに二十六条の
執行猶予の取消の条件に関する件、この三点を正式に
委員会の
修正意見といたしまして取上げ、その余分に対しましては、後日の
刑法改正の際に十分考慮せらるべきことを期待いたしまして、今日の場合におきましては、各御
意見を撤回して頂いた次第であるのであります。故に将来
刑法改正の場合におきましては、本
委員会における
ところの、本
会議における
ところの、この
趣旨を
資料といたしまして、
改正せらるることを期待して止まない次第であります。
先ず二十六条の
執行猶予の取消しの件に対しまする
ところの
委員会の結果について申上げます。この問題は先程簡単に御
説明申上げました
通りでありまして、松井議員より提出されまして、これと大同小異の
修正案が小川議員より提出せられた次第であります。併しいずれも大同小異でありますから、便宜上、松井議員の提案に合流して頂くことにいたしまして、
修正案を一本といたしまして、これを
委員会に諮つた次第でありますが、
委員会におきましては少数否決いたしました次第であります。
次に百九十五条の涜職に関する罪でありますが、これは先程御
説明申上げましたごとき理由によりまして、
委員会におきましては、多数を以てこれが
修正案
通り可決せられました次第であります。
次に
姦通罪に関する問題でありますが、これは松村議員より提案されまして、縷々二時間近く御
説明を拝聴いたしました次第であります。これに対しまして小川議員より、やはり両罰の
修正案が提案されたのであります。
内容は非常に異なりまして、御着想は非常に結構とは存じましたのですけれども、苟も
日本の
刑法といたしまして、世界に向
つて公示する
ところの国家の大
法典である以上は、今少し御
研究を煩わさなくてはならん点があると考えまして、これは小川議員に御撤回を願いまして十分御
研究を願い、そうして将来における
ところの
改正案において御主張を願うことにお願いいたした次第でありまして、結局
委員会といたしましては、松村議員提案にかかる
ところの
修正案一本といたしまして、これを問題といたした次第であります。
松村議員提案にかかる
ところの
修正案は、後刻同議員より本
会議に
修正案として御提案になりますから、この
説明は省略させて頂きますが、
修正の案文といたしましては、従来の「有夫ノ婦姦通シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ処ス」とこうあつたものを、「配偶者アル者」、こういうふうに改めまして、いわゆる男女の平等の
原則を積極的平等に持
つて行かれた次第でありまして、両罰という観点に立
つてこれが草案された次第であります。刑期は従来二年とありましたのを「三月以下ノ懲役又ハ五千円以下ノ
罰金」ということにな
つたのであります。而して個々の事案に対しまして、罰することを必要としない場合がありますから、これに対しましてはその刑の言渡を免除するという特別なる第二項を設ける、こういうのが松村議員提案にかかる
ところの
修正案の骨子である次第であります。これに対しまして、
委員会といたしましては、採択に際しましては、常時御出席になる方のみを以てこの採決を若し行うといたしますれば、両罰主義が可決せられる状態にな
つたのであります。併しながら
法案の重大性に鑑みまして、常時御欠席になるお方に対しまして手紙及び電報を以ちまして急遽御招集を申し上げまして、全員の御出席を求めまして公平に
本案を取扱つた次第であります。その結果といたしまして、
原案通り、いわゆる男女両方とも罰しないという御
意見が十一票あつた次第であります。両罰すべしという松村議員提案にかかる
ところの
修正案に
賛成の方が六票あつた次第であります。一票は私ですから私は投票いたしません。一人は欠席いたしまして、今一人は不幸にいたしまして投票の間際に中座されまして、要するに総投票数十七中、さような結果を以て
修正案は否決せられました次第であります。
ここに一言申し添えて置きたいことは、この問題を何故
委員会がかように大きく取上げたか、この点について一言
委員長の責任上申し添えて置きたいと存じます。もともと
姦通罪というものは、従来の
刑法の建前から申しますれば、いわゆる夫権の侵害であつた、併しながら現在の
憲法の建前から申しますれば、もはや夫権の侵害ではない、
憲法は男女の基本的平等を
原則といたしまして、一夫一婦
制度を建前といたしておることは明らかなる
ところの事実であります。
憲法の企図する
ところのものは、正しい
生活、正しい一夫一婦の
生活、而して自由なる
ところの愛情の表現にも
基ずくところの男女の合意によ
つてのみその家庭というものは成立するのであります。この
憲法の
目的とする
ところの、而して
憲法が
保障する
ところの、
國民の、民族の基本たる
ところの一夫一婦
制度を破壊する者、これを侵害する者を果して放任していいのであろうか、從來のごとく夫権の侵害にあらずして、
憲法が
保障する
ところの、この民族の最低基本たる
ところの男女の結合を侵害する者は、いわゆる
社会の法益を侵害する者である、
憲法の精神を蹂躪する者ではないか、
憲法が、一方においてそれを
保障するに拘わらず、一方におきましてはその侵害行為を認容するということは、矛盾も亦甚だしいことではないかと言わなくてはならんのです。又平等の
原則ということは、敢えて両罰せざることも平等の
原則でありましよう。消極的
原則でありましよう。両罰するということも平等の
原則に悖らないのであります。かるが故に、
憲法が、一而におきまして正しい婚姻
生活の
保障を
目的としておる以上は、而して民族の発展の基礎をここに置こうといたしておる以上は、これを侵害する者を
刑法上放任していいか悪いかということに対しましては、我々といたしまして正に大きな
研究課題ではないかと存じます。單なる
ところの姦通の近視眼的。その行為事態に対する
ところの我々の批判ではないのであります。私たちは
日本八千万の民族の将來の正しい
生活の上に、正しい発展の上におきまして、この点におきましては十分なる検討を加える必要がある、こう考えた次第であります。(
拍手)又この点に対しまして、仮に罰せざるということに結論が至りましても、少なくとも我が参議院が正しい見解の下におきまして、眞面目に本問題を取上げまして、これを論議いたしましたということは、
日本國民に取りましていかばかり幸福であるかと存じまする次第であります。(
拍手)
今日
社会におきましては、
姦通罪が抹殺せられた、かような見地からいたしまして、論理を一躍いたしまして、姦通公認というような思想が瀰漫しておるのでああります。(「簡単」と呼ぶ者あり)かような次第でありまして、若しかような結果を、普遍的に行わるるということになりますれば、どうしても我々といたしまして是認できないのです。故に本
委員会におきましては、かような見地からいたしまして、この問題を眞面目に取上げまして、
皆様の御愼重なる御
審議に待たんといたしした次第でありまして、
委員会といたしましても十分この点に対しまして意を用いて
審議いたした次第であります。この点予め御
了承を賜わりたいと存ずる次第であります。
以上簡単ながら(「簡単ではない」と呼ぶ者あり)十分申上げますれば一日かかりますから簡単であるのです。でありますから簡単に
刑法に対する
ところの御
報告を申上げます。(
拍手)
今の
修正にかかる
部分を除きまして以外は、全部これを
原案通り可決すべきものと
決定いたした次第であります。