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塚本重藏君
只今議題となりました四つの
法律案につきまして、
日程の順序に從いまして御
報告申上げます。
先ず第一に、
大学等えの
死体交付に関する
法律案について、
厚生委員会におきまする
審議の経過並びにその結果を御
報告申あげます。
[
議長退席、副
議長著席]
大学等えの
死体交付に関する
法律案を
審議する
厚生委員会は、八月の七日、九日、十九日、二十日に亙
つて審議を行いました。八月七日第一回
委員会におきまして
金光厚生政務次官から、
医学及び
歯学の
教育及び研究のためには
死体の
解剖は不可欠のものでありますが、從來は
医学又は
歯学に関する
学校において
死体の入手が困難な実情にありまして、
学校によ
つてはそのために
教育にも支障を來しておる
状況であります。幸いに
連合軍総
司令部の
指令に基ずきまして、本年一月
厚生省令第一号が公布され、
主要都市に
監察医が設置され、
死因不明死体について
檢案又は
解剖を行い、その
死因を明らかにすることに相成
つたのでありますが、今般更に右の
指令に基ずきまして、
監察医が
死因調査を済ませた
死体であ
つて引取り者のないものを、
医学又は
歯学に関する
学校に
交付して、
解剖又は
標本の
材料に用いることを認め、
從來医学又は
歯学に関する
学校における
死体解剖の
適法性について多少の疑義がありました点を明確にいたすために、本
法律案を提出したのであるとの説明がありました。以下この
法律案の内容の大略を申上げます。
この
法律案の要点は、都道
府縣知事は前述の
厚生省令第一号に
基ずいて、
監察医が
檢案又は
解剖した
死体であ
つて引取者のないものを、
医学又は
歯学教育向上のために
医学又は
歯学に関する
学校の長に
交付することができることとし、その
交付を受けた
学校長は、
監察医の
檢案開始後四十八時間以内に
引取者が現れなか
つたときは、その
死体を
解剖させ又は
標本とすることができるようにしようというのであります。ここで
交付と申しまするのは、
学校長は
解剖又は
標本の
材料とするという範囲内においてのみ
死体の
処分権を有するという意味であり、
從つて事後において死者の
相続人その他から引渡しの
要求がありましたときは、その全部又は一部を引渡す義務を
学校長に課しているのであります。尚この
法律によ
つて交付される
死体は、一
應行旅死亡人又はこれに準ずるものでありまするから、
身許調査のための公告並びに運搬、埋
火葬等に関する
費用負担等について、
行旅病人及び
行旅死亡人取扱法との
関係を第五條及び第七條において定めているのであります。
本法案の
審議の詳細は
速記録を御高覽願うこととして、ここに質疑の中、二三主なる点を御
報告申上げます。第一は、
死体引取人の
申出を待つ時間を四十八時間内という点は、
現下の
交通通信の
事情等から見て短かきに過ぎると思うがどうかという点でありました。これに対して
政府委員から、
連合軍の
指令にも四十八時間とあり、この点については十分各
方面から檢討したのであるが、
教育上の必要と実際の
取扱の上から考えて、四十八時間ということにしたのである。併し四十八時間以後と雖も、
引取者が現われる見込みがある
死体に関しましてはできるだけ長く保存させるように指導するとの御答がありました。第二は、
死体の
取扱に当
つては特に礼意を失わないようにしなければならないが、この点についてはいかように
取扱をしているかとの質問に対しまして、これら
死体の
取扱には、
学校の教授も学徒も
感謝と尊敬の念を以て愼重に
取扱い、且つ一千
人ごとに谷中の墓地に千人塚を建立し、教授が喪主とな
つて、学徒参列の下に慰靈祭を行うことにしているとの答弁がありました。第三に、第四條に「特別の事情のない限り」という字句があるのでありますが、この字句があるために、その趣旨が誤解せられて、不当に
遺族の意思に反するがごときことが起る虞れはないか。そういう虞れがあるから、むしろこれは削除されるべきではにか。こういう意見が出たのに対しまして、厚生大臣も全く同感であるとの意思を表明せられたのであります。そこで
委員会といたしましては、この「特別の事情のない限り」という字句を削除しようと考えまして、
関係方面との折衝をいたしたのでありますが、
関係方面におきましては、その字句を残しておいても運用の上で差支ないようにすればいいのではないか、又傳染病死亡者の
死体等については、そういう字句を存置することも必要な場合があり得るのではないか、こういう意見もありましたので、この点に関しましては当局におきましても運用上極めて嚴格に解釈して、決して
遺族の感情を不当に傷つけるがごときことのないよう十分
努力する旨の答弁があ
つて、いずれもこれを
了承した次第であります。かくて八月の二十日質疑を終了し、討論を省略いたしまして採決に入り、
全会一致を以て原案を可決すべきものと
決議いたした次第であります。
次に
大正十二年
勅令第五百二十八
号司法警察官吏及び
司法警察官吏の
職務を行うべき者の
指定等に関する
勅令の一部を改正する
法律案につきまして、
委員会の
審議の経過並びに結果を御
報告申上げます。
本案に対しましては、
厚生委員会における
審議の経過はこれ亦
速記録によ
つて十分に御承知が願いたいのでありますが、
厚生委員会は八月七日、九日及び八月十九日に質疑を行い、八月の十九日に採決を行な
つた次第であります。ここに
審議の経過を述べますが、八月の七日第一回
委員会におきまして
金光厚生政務次官より、本
法律案についてその提案の理由と内容を聴取いたしました。それによりますと、麻薬に関する犯罪の搜査は、檢事、司法警察官によ
つて行われておる
ところでありますが、麻薬に関する高度の特殊
知識を必要といたしまする
関係から、取締強化の方法といたしまして從來の捜査機関とは別に、麻薬に関する取締の専門家である都道
府縣の麻薬統制主事の中優秀なる者を選んで、これに麻薬に関する犯罪について司法警察官と同一の権限を有する独立の捜査権を與えんとするのが、この
法律案の趣旨であります。捜査を行う麻薬統制主事は、知事が檢事正と協議した上、捜査を行うに適当なる者を選んで、これを厚生大臣に推薦することにし、その者に対して厚生大臣が捜査を行う者として指名することにいたします。その捜査指揮権は厚生大臣の所管に属することにし、從
つてこれらの者に対しましては、知事は勿論、檢察官におきましてもこれが指揮権を有しないのであります。この麻薬統制主事の行う捜査の土地管轄は、地方自治体の公吏たる本來の身分に拘わらず、全國に亙
つて機動的な活動を行い得るようにし、又その事物管轄は單に麻薬取締の行政法規違反のみならず、麻薬を客体とするすべての罪を含むのであります。尚麻薬統制主事は独立の搜査権を有するものでありますが、固より公訴権はこれを有しないために、自己の裁量によ
つて微罪処分或いは不起訴処分を行う権限は持たないものであります。而して檢察官との
関係は、前述の
通り捜査につき檢察官が指揮権を持
つておりませんから、事件の送致等に関しては司法大臣において特別の定めをいたしまして、これによらしめることといたしておるのであります。本案において司法大臣の定むる
ところにより、速やかに檢察官に事件を送致する義務を負わしめているのであります。尚捜査を行う麻薬統制主事の人員は全國を通じて二百名以内とし、その限度において右の権限を行使し、麻薬取締の完璧を図らんとするものであります。本案に対しまする質疑の内容等につきましては、
速記録を御覽をお願いすることにいたします。
かくて八月十九日質疑を終了し、討論を省略して採決に入り、
全会一致を以て原案を可決すべきものと
決議した次第であります。
次に
傳染病予防法等の一部を改正する
法律案につきまして
厚生委員会における
審議の経過並びに結果について御
報告申上げます。
傳染病、結核、トラホーム及び寄生虫病の予防に関する各
法律によりますと、これら疾病の予防の業務は、主として都道
府縣知事の責任において、地方自治團体の行う事務として遂行されておるのでありあして、これら疾病の予防上必要といたします経費は都道
府縣が支出し、これに對して國庫は法定の率によ
つて補助しておるのであります。然るに終戰後の社会
情勢の変動に伴いまして、これらの疾病は増加の傾向にあり、これが予防撲滅のため、都道
府縣におきましては相当多額の経費を必要とするのでありますが、而も地方財政逼迫の
状況では各位の御承知でありまして、地方自治團体におきましては夙に財政上の必要から、これら疾病予防に関する國庫補助率の大幅引上を強く要望しておるのでありまして、現在のごとき低率の國庫補助を以ていたしましては、十分なる疾病の予防は期し難い状態にあるのであります。
以上の理由によりまして、傳染病、結核、トラホーム及び寄生虫の予防に関する國庫補助率を引上げ、地方財政逼迫の
状況を緩和すると共に、これら疾病の予防措置を一段と強化する必要によ
つて本案が提案せられておるのであります。
法案改正の内容は、一、傳染病予防法中國庫補助率六分の一乃至三分の一とあるのを二分の一に改めること、一、結核予防法中の國庫補助率四分の一を二分の一に改めること、一、トラホーム予防法中の國庫補助率六分の一を二分の一に改めること、一、寄生虫病予防法中の國庫補助率六分の一を二分の一に改めることであります。念のために申添えて置きますが、この國庫補助の二分の一は都道
府縣の支出いたしました額に対する二分の一でありまして、実際には市町村で支出した全額の三分の一は当該市町村の負担で、三分の一は
府縣より補助し、三分の一を國庫から補助することに相成るものと御
了承が願いたいのであります。
本案に関する質疑の主なるものといたしましては、第一、この程度の國庫補助の引上げのみでは、傳染病予防の万全を期することはできんと思うが如何との質問に対して、
政府側から、結核予防の経費は、國際連盟では
國民一人当たり一円程度を必要とすると
言つておるのであるが、事実アメリカ、イギリス、ドイツ等では、共に
國民一人当り一円ぐらいを使
つておるのである。然るに
日本では、戰前の統計でありますが、
國民一人当たり四銭三厘九毛という少額である。又全國各
府縣費に見ましても、その総予算の百分の一、百分の二ぐらいの衛生費を計上しておるに過ぎない実情であります。今回の補助額引上で十分とは言えないが、保健所の利用及び活動等と相俟
つて最善を盡すとの答弁がありました。
第二に、戰災等による都市の荒廃は殊に甚だしく、現在の都市衛生は最も憂慮すべき状態である、これらに対し
政府はいかなる考えを持
つておるか、又都市衛生法或いは都市衛生組合法を制定し、都市の衛生施設の完備と向上を図る意思はないかとの質問に対しまして、
政府は、御指摘の点は
政府においても多大の関心を有しておる
ところであり、これら荒廃都市の衛生諸施設の整備改善を図ると共に、
國民の衛生
知識の普及徹底に大いに
努力するつもりである。都市衛生法等については愼重に考えて見たいと思うとの答弁がありました。第三に、最近農村における結核の蔓延は誠に寒心に堪えん
ところであるが、この大きな原因は、工場特に繊維工場の衛生設備の不備、労資両者の衛生
知識の欠如等のために、結核に感染し帰郷する者が多く、これが又家族その他に傳染せしめておるのであるが、これらに対する
政府の所信とその
対策如何との質問がありました。これに対し、工場結核
対策としては工場及び宿舎の改善を図り、労働基準法の善川等に意を用い、尚一般の
國民の衛生
知識の向上と普及徹底が必要であるから、
学校の衛生
教育に大いに力を注ぐつもりである。映画、講演、ラジオ、パンフレツト等の発行を行うとの答弁がありました。第四に、本法案
審議中におきまして、國立病院及び國立療養所の入所規定の一部改正がおこなわれたことからいたしまして、入所いたしておりまする患者の一部に相当の不安を與えました。このために各地の患者代表が
議会に陳情に來るなどいたしたので、
委員会といたしましては國立療養所の実地視察もいたしまして、患者の不安除去と看護婦の増員、
食糧配給の確保等につき善処方を
要求したのであります。
政府は、現に無料入所中の者が困らないように親心を以て善処いたす
方針であり、すでにその
方針を
関係者に示達し、末端の民生委員にまで傳達するの措置を講じたから安心して貰いたいと、大臣から答弁がありました。(
拍手)その他は何とぞ
速記録を御覽をお願いいたします。
かくて質疑を終了し、討論を省略いたしまして、採決をいたし、
全会一致を以てこれ亦原案を可決すべきものと
決議いたした次第であります。
最後に
保健所法を改正する
法律案につきまして、
厚生委員会における
審議の経過並びに結果について御
報告申上げます。
保健所法を改正する
法律案を
審議する
厚生委員会は、七月三十日、八月の一日、五日、六日の四回に
亘つて予備審査を行い、八月八日に実地視察を行いまして、八月十九日に採決を行
つた次第であります。
今ここに
審議の経過を述べます。七月三十日第一回
委員会において、一松厚生大臣から、公衆衛生の向上と増進を図ることは、新憲法の第二十五條によりまして、社会福祉及び社会保障の向上及び増進を図ることと共に、國の基本的義務とされた次第でありまして、これなくいたしましては、平和的文化國家の建設は到底望み難いと言わなければなりません。保健所は現在すでに全國に六百七十五ヶ所設置せられ、公衆衞生行政の第一線実施機関とされておるのでありますが、新憲法の趣旨に副うためには、更に中央及び地方の機構を整備すると共に、直接に
國民に接觸する保健所の機能の拡充強化を図らなければなりません。併しながら現行
保健所法では十分その目的を達し難い点があると認められますので、ここに新憲法に即應する
保健所法の改正案が提出された次第であります。
その改正の要点を申上げますと、第一は保健所の目的が公衆衞生の向上及び増進にあることを明示した点であります。第二は、保健所の從來の担当事項の外、人口動態統計、公共医療事業の向上及び増進、衞生上の試驗及び檢査、歯科衞生学を加え、これらに関する指導と共に必要なる事業を行い、更に都道
府縣知事の権限の一部を、その委任を受けて行うことができることとしたのであります。第三は、結核、性病、歯科疾患その他厚生大臣の指定する疾病の早期又は予防的治療を行い、これら
國民病の撲滅を期したことであります。第四は、保健所は公衆衞生の向上及び増進のために必要な試驗、檢査を行うと共に、その試驗、檢査等を廣く医師その他の者が利用し得られることとし、医療内容の向上と医療費の軽減を図
つたのであります。以上の説明がありました。
本案に関する質疑のために
委員会は三回会議を続行しておるのでありまするから、その詳細は
速記録を御高覽願うこととし、ここにその要旨の二三を取纏めて御
報告申します。第一、保健所が眞に公衆衞生の第一線行政機関として活躍するためには予算が少額ではないかとの質問に対し、
政府から、本法改正に要する國庫補助額は大体二千三百万円を必要とするが、増額することについては國家財政の現状と睨み合せて
努力したい旨の答弁がありました。第二に、保健所の行う治療の範囲並びに厚生大臣の指定する疾病とはいかなるものかとの質問に対し、保健所の行う治療は、公衆衞生の向上と増進を図るに必要な範囲である。厚生大臣の指定する疾病とは、例えは青森縣のトラコーマ、山梨縣の
日本住血吸虫病のごとき、公衆衞生上放置することのできない地方病である旨の答弁がありました。第三、中央及び地方に保健所運営に関する
委員会を設ける意思はないかとの質問に対し、
政府側は全く同感であり、各種の
委員会を設け、地方住民と
協力する等、民主的な運営を図るとの答弁がありました。第四に、保健婦の養成及びその待遇改善いかんとの質問に対して、保健婦の養成には大いに
努力し、待遇についても給料の基準を作
つて、
関係方面と協議をし、食事その他についても考えておる旨の答弁がありました。
かくて質疑を終了し、本案も亦討論を省略して、採決に入り、
全会一致を以て原案を可決すべきものと
決議いたした次第であります。以上簡單でありますが御
報告申上げます。(
拍手)