○松井道夫君 私は敢て
大臣の御
答辯を求めないのでありまして、民事局長でも、或いはどなたでも適當な方から
お答え頂けば結構であります。私はこの第
一條の
不法行爲の要件が、
民法の
不法行爲の要件を書き換えたものであ
つて、その實質は同じであるというように拜聽したのであります。それでそれに信頼いたしまして、第
一條は結構な
規定であると、かように存じておつたのでありまするが、深く考えて参りますと、疑問なきにしもあらずなのであります、それで
民法の原則によりますと、
故意、
過失を證明いたしまして、それから
權利侵害を證明する
民法の
權利侵害という
言葉が、適當でないかどうかは、これはまあ疑問でありまするが、假に
不法行爲……
法律上保護される利益を
權利とかように見まするならば、
民法の表現で結構分ると存じまするが、とにかく
權利侵害を立證さるるならば、それは一應違法の
行爲であるという工合に見られまして、被告の方でその違法の阻却原因があることを立證して來なければならん。かようなことに相成ると
了解しております。ところがこの第
一條について考えますと、
只今私が申考しました
民法の原則と同一でありますならば、先程申しましたように文句はないのでございまするが、假に
實例を今問題にな
つておりまする不當
勾留の場合について考えて見まするに、私は
檢事がその職務
行爲と稱して
國民を逮捕、監禁いたしたということを立證さえいたしますれば、それで
故意がすでにある、こういうことに相成ると存ずるのであります。それが
民法の原則であると信ずるのであります。それで
檢事側、
國家側といたしましては、それは
適法に
刑事訴訟法の
規定により逮捕監禁したものである。
刑事訴訟法の逮捕、監禁の要件はこうこうであ
つて、それに該當すると信ぜられるこうこういう
事實があつた。それで逮捕監禁したのであるということを主張し、立證しなければならない。それからその事業が
無罪に窮極においてたつたといたしまして、その違法を阻却いたす諸
事實を認識する上において、
過失がなかつたということも立證しなければならない。かように考えるのであります。
苟くも行爲の違法であるかどうか、客観的に見てその逮捕監禁したということが違法であるかどうかということは、
只今松村さんが言われたように、窮極において
犯罪行爲のない者を逮捕監禁したということは、これは客観的に違法であると存ずるのであります。但しその違法を阻却する原因があれば、今のようにそれを
國家側で主張、立證しなければならない。さように存ずるのでありまして、この第
一條に書いてある
故意、
過失、これは
民法の原則による
故意、
過失であれば問題ないのでありまするが、ともいたしますとこれを
違法性阻却事由を認識しないのに拘わらずやつたということは
故意と解される虞れはないか、これは勿論違法阻却事由を認識しないに拘わらずやれば、これは
職權の濫用でありまして、勿論問題ないわけでありますが、これは併し違法阻却事由の側におきます
故意であ
つて、
民法のいわゆる
故意、
過失といつた
故意とは違うのであります。又
過失についても違法阻却事由を認識する上において
過失がある。さような
意味の
過失ということに
解釋される。或いは誤解される虞れはないか、さように考えるのであります。要するに私の懸念いたし、且つ御
質問申上げる點は、くるめて見ますれば冒頭に申しましたように、この第
一條の原則が
民法の
不法行爲の原則と同じ要件を書いたものであるかどうか。それから
具體的に申上げますれば、
只今の例で申上げたように、これを不當
勾留の場合に例を取
つて言えば、基本的人權を侵害された。要するに逮捕監禁されたという
事實を立證するか、又進んで
無罪に
なつたというような
事實も立證する。この
無罪になるならんということは、これ亦多少問題でございまするが、いずれにいたしましても一方は逮捕監禁されたということを立證し、自由權の侵害、それで
損害を被つたということを立證いたします。一方は
適法なる檢察權の行使として
刑事訴訟法の
規定に從
つて、その要件に從
つてやつた
行爲であ
つて、その要件に合すると信じた點について
過失はないということで、被告側、
國家側においてそれぞれ立證するという段取に相成るのではないか。さような點をお尋ねいたすのであります。