○
政府委員(
奧野健一君) それでは
家事審判法案の説明をいたします。この度
憲法の要請する男女の平等並びに個人の尊嚴の思想を汲み入れて
民法を改正いたすのでありますが、幾ら
民法を改正いたしましても、家庭内における粉爭を解決するには別にある機関を設けて、普通の
裁判所ではなく、特に家庭生活に深く入
つて面倒を見るような施設が必要であり、且つそれが嚴しい
裁判官のみでなく、常識豊かな素人も交えて柔かい感じのする、そうい
つたような家庭の面倒を見る機関が欲しいということで、これは永らく以前からその
意味で
家事審判所の要請があ
つたのでありまして、殊に衆議院等においても建議案等があ
つたわけであります。この点につきましては古くから司法省における法制審議会におきましても、この法案の準備に調査をいたしてお
つたのであります。そこで今回
民法を全面的に改正いたします機会に、この際年末の要望である
家事審判所というものを作る。よ
つて以て深切に家庭内における粉爭の解決に当るようにしたいということで、今回家事審判法を作ることに相成
つたわけであります。
勿論これは、
民法におきましてはいわゆる家の
制度を止めまして、個人の平等並びに尊嚴、両性の本質的平等という見地から
民法を改正するのでありますが、これは決して我が國の
從來の家庭生活そのものを破壞或いは否定するものでは毫もないのでありまして、我が國古來の親族相寄
つて相助け、親族
共同生活を営んでおる家族
制度というものが、これは我が國の美俗であることは疑いないのでありまして、これをできるだけ維持発展を図りたいという
意味もありまして、この家事審判法の第
一條に、「この
法律は、個人の尊嚴と両性の本質的平等を基本として家庭の平和と健全な親族
共同生活の維持を図ることを目的とする」という目的を明らかにいたしたのでありまして、この趣旨から見ましても、親族の
共同生活である実際の家庭生活或いは家族
制度というものを、
民法並びに我が國の法制としてこれを否定するものでないという趣旨を明らかにいたしたのであります。
而して家事審判法におきましては大体審判と調停を行うのであります。審判につきましては、第三條にありますように、一人の審判官、それから参與官、まあ素人を立ち合わせて行うのであります。調停は家事審判官の外に調停
委員を以て組織する調停
委員会で大体において行うということにいたしておるのであります。そこで一般の家庭
事件につきまして、調停と審判を行うことによ
つてすべての家庭
事件の円満解決を図
つて行きたいということにいたしたのであります。
家事審判所の機能は即ち審判と、それから調停ということでありまして、いわゆる一般の訴訟
事件は取扱わないのであります。尤も人事に関する訴訟
事件は、まず必ず
家事審判所に調停の申立てをしなければならない、而して調停ができなか
つた場合に初めて訴訟で黒白をつけるという
建前、即ちいわゆる調停前置主義を採
つたのであります。即ちあらゆる人事の爭い事は必ず
家事審判所でまず調停を行う、然る後にどうしても調停ができなければ判決によるということ、並びに訴訟
事件ではない、いわゆる身分上のいろいろな
事件につきましては、審判手続によ
つてこれを迅速に解決して行く。先程來
民法の説明におきましても
裁判所とあるのを審判所と改めた部分が相当あるのでありまして、
從來人事訴訟或いは非訟
事件手続法或いはその他の所にいろいろありました審判
事件を、家事審判法の審判ということに全部組入れたわけでありまして、九條に列挙してあるのはすべてのものをここに組入れた次第であります。そういうわけで大体家庭
事件のすべては一應
家事審判所に來て審判或いは調停手続によ
つて解決し、若しどうしても調停で解決ができないものに限
つて一般の訴訟で行くという
建前にな
つておるわけであります。
次に第
二條で、然らば
家事審判所というのは一体どういうものであるかといいますと、これは一つのやはり
裁判所でありまして、地方
裁判所の支部を設けて、その支部におきましては家庭に関する
事件を取扱う、
從來支部というのは管轄区域だけについて設けておりましたが、取扱う
事件の
種類によ
つて、そういう一般の地方
裁判所の外に、特に支部を設けることにいたしたのであります。從いまして簡易
裁判所でもなく、一般の訴訟を行う地方
裁判所でもなく、地方
裁判所の一種でありますが、そういう家庭
事件のみを取扱う地方
裁判所の支部を設けて、これを
家事審判所というふうに呼称いたしまして、一般の嚴めしい感じを與える
裁判所とは響きの上において柔かく感ずるように、特に
裁判所なる名称を避けまして、実質は地方
裁判所の一つの支部でありますが、これを名前は
家事審判所と申しまして、又それに勤務する
裁判官はやはり判事でありますが、これを家事審判官という呼称をいたしまして、感じの柔らか味を持たすことに心掛けた次第であります。
それから第三條は、要するに
家事審判所の仕事は、審判と調停に分れておりまして、審判は審判官一人、それから参與員という、これは世故人情に通じた素人を立ち会わせて、その意見を聞いてこれを行う。尤もこの参與員も場合によ
つては立ち合わさないで一人でもできることが第三條の第三項に
規定しておりますが、まあ大体においてやはり参與員を立ち会わせて、その意見を聞いて行う。尤もその意見に拘束を受けることはないので、どこまでも審判は家事審判官が行うので、参與員の意見に束縛を受けるというふうなことはない。ただ諮問的に意見を聞いて、常識の発達した参與員の意見を参考にしながら審判を行うというのであります。調停は家事審判官と調停
委員、大体二人くらいを以て構成する調停
委員会という
委員会で調停を行います。尤も家事審判官一人だけで調停を行うこともできるのでありますが、原則としてはやはり調停
委員会を組織して調停を行うということになるわけであります。
第四條は、除斥、忌避、回避に関する民事訴訟法の
規定を
裁判官並びに参與員或いは書記に
準用しておるのであります。
第
五條は、参與員並びに調停
委員が調停並びに審判に参與する場合においての旅費、日当、止宿料等に関する
規定であります。
六條は手数料に関する
規定であります。
この家事審判法は非常に簡單でありまして、全條で二十九條でありますので、いろいろな審判並びに調停に関する手続につきましては、一般的にこの第
七條によりまして、性質に反しない限り、非訟
事件手続法の
規定を
準用することにいたし、ただ檢事の関與に関する第十
五條の
規定は
準用しないことにいたしますのであります。
尚その外に、いろいろ審判或いは調停に関する手続の必要な徴細な事項につきましては、最高
裁判所の定めるルールでその基準を決めることにいたしたのであります。
これが総論的な事柄でありまして、第二章は、審判に関する事柄であります。而してどういう
種類の家庭
事件がいわゆる審判ということになるかと申しますと、大体これは九條に
規定をいたしまして、甲類と乙類に分けてあります。甲類というのは、調停に適しない
事件を主に掲げております。乙類に掲げた
事件は、調停に適する
事件を掲げているわけであります。
而して甲類に掲げるのは、例えば禁治産の宣告とか、禁治産の宣告の取消、これはやはり身分に関する事柄でありますので、これは現在におきましては、人事訴訟手続法によ
つて訴訟の形によ
つて判決されるわけでありますが、今度は審判手続によりまして禁治産の宣告、取消をやる、或いは又準禁治産についての処分も同樣、又不在者の
財産の
管理に関する事柄、これは余り長く不在の関係になりますと失踪宣告になるのでありますが、失踪宣告になると、やはり身分上の関係になりますので、
財産上の関係ではありますが、身分上の関係に極めて密接な不可分な関係になりますので、やはりこれも
家事審判所の管轄といたしたわけであります。次の第四号もやはり失踪宣告並びにその取消、これはやはり一身の身分に関する事柄でありますから、
家事審判所の管轄にいたしたわけであります。それから五号以下は、「親族」「
相続」をお読みに
なつた際に「
家事審判所の」云々というように出て参りますのを拾い上げたわけであります。特別代理人の選任でありますとか、或いは
子供が親と氏を異にする場合に、
子供が
家事審判所の許可を得て親の氏に変更することができる、その許可に関する事柄でありますとか、或いは未成年の者が養子になるのには、
家事審判所の許可を必要としました、その許可でありますとか、或いは八百十
一條第三項に
規定する離縁に関する許可、それから又
子供の懲戒に関する許可、又八百二十六條の利益相反する場合の特別代理人の選任に関する事柄でありますとか、又八百三十條二項乃至四項の
財産管理者の選任の関する事項でありますとか、又親権或いは
管理権の喪失の宣告或いはその取消に関する事柄、或いは又親権、
管理権の辞任或いは回復に関する許可、又後見人、保佐人、後見監督人の選任に関する事柄、それから又その辞任に関することの許可、或いは又後見監督人、後見人、保佐人の解任に関する事柄、臨時保佐人に関する選任、それから後見人が就職した場合の被後見人の
財産調査並にその目録の調製に関する
期間の伸長に関する事柄、又禁治産者を精神病院に入院せしめたり自宅で監置する等についての許可、それから後見人に対する報酬の付與、それから一般的に
家事審判所が後見の事務を監督いたしますその監督に関する処分、又後見人等の
財産の
管理の計算の
期間の伸長に関する事柄、
遺産の
管理に関する処分、
相続の
承認放棄の
期間の伸長に関する事柄、それから
相続財産の保存
管理に関する事柄、或いは
相続の
限定承認の
申述の受理、それから鑑定人の選任、
相続財産の
管理人の選任、
相続放棄の
申述の受理、
相続財産の分離に関する処分、
相続財産の
管理に関する処分、それから
相続財産の
管理人の選任、その他
相続財産の
管理に関する処分、
遺言確認、
遺言書の檢認、
遺言執行者の選任
遺言執行者に対する報酬の付與、
遺言執行者の解任及び
遺言執行者の辞任についての許可、
遺言の取消、遺留分の
放棄についての許可、こういうことは事の性質上和解によ
つてどうこうするという事柄ではありませんので、これは甲類といたしまして、これは必ず審判によ
つてやる。
ところが、乙類に掲げました事柄は、当事者の協議で自由に変更し得る性質のものでありますので、これは調停にも適するが、同時に審判でやるのでありますが、性質上調停を許す性質の事柄であります。即ち
夫婦の同居その他の
夫婦間の協力扶助に関する処分でありますとか、或いは
夫婦間の
財産の
管理者の変更及び
共有財産の
分割に関する処分、
婚姻から生ずる費用の分担に関する処分、それから離婚等の場合における子の監護者の指定その他子の監護に関する処分、それから離婚の場合における
財産分與に関する処分、こういうものは一應協議によ
つて決めるのでありますが、協議が調わない場合は
家事審判所の審判で決める。併しこれは調停でお互いの協議で
財産の分與の金額等を決めることができる性質のものであります。第六がいわゆる
祖先の
祭祀を継ぐ者に関する指定であります。第七号は親権者の指定又は変更、それから第八は扶養に関する処分扶養の方法でありますとか、扶養の順序、扶養義務者の順序等についての処分を
家事審判所がいたしますその事柄であります。第九が推定
相続人の
廃除及びその取消、それから第十が
遺産の
分割に関する処分、これらの場合にはすべて
家事審判所の乙類、いわゆる調停に適する
事件として審判手続に管轄されるわけであります。
その外にも、他の
法律で、特に
家事審判所の権限に属させた事項についての審判を行う権限を有する。例えば
農業資産の
相続の
特例に関する
法律等におきまして、これは
家事審判所の審判に服することにな
つております。その他或いは戸籍法等に関する事柄で、
家事審判所に属せしめておるものがあるわけであります。これはまあ、將來又これに属する
事件もあろうかと考えます。その場合には、その
事件はこの乙類に属するものであるか甲類に属するものであるかを必らず明らかにして、その特別法に明白にして置く考えであります。
十條は審判の際における参與員の事柄であるまして、参與員と申しますのは、大体地方
裁判所が前以て候補者を選んで置きまして、その中から
家事審判所が各
事件について、一人以上を指定して参與員として立ち会わすことになるわけであります。而してどういう人々が候補者として適当であるかというようなことについての資格、員数、その他必要なる事項につきましては、最高
裁判所が予め決めることにな
つておるのであります。
次に第十
一條は、調停に適する、いわゆる乙類に掲げる
事件につきましては、本來はまあ審判をやるのでありますが、その前にいつでも職権で調停に付することができる。いわゆる調停に適する
事件でありますので、審判をする前にまず調停を進めることができることといたしたのであります。
第十
二條はいわゆる参加、これは現在の人事調停法等におきましてもある
規定でありまして、審判の結果について、利害関係を有する者を審判手続に参加させることができる。
次に第十三條は、審判はこれを受ける者に告知することによ
つてその
効力を生ずるのであります。
而してその審判に対して不服を言えるかどうかということにつきましては、第十四條に、最高
裁判所の定めるところにより即時抗告のみができる。これは一般の非訟
事件手続法が第
七條でかぶ
つて参りますので、非訟
事件手続法では普通の抗告でありまして、別にいつまでに抗告をしなければならないという制限はないのであります。併しそれではいつまで経
つても確定をいたさないで因るので、二週間の
期間の内にのみ抗告ができるという、いわゆる即時抗告のみを認めることができるということにいたしたのであります。而してどういう
事件について即時抗告ができるかということは、最高
裁判所の定めるところに委ねたわけであります。
それから次に十
五條は、金銭の支拂、物の引渡、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、これは判決と同じように強制執行ができる。例えば離婚の場合の
財産分與の
請求の場合に、幾らを拂うというふうな審判をいたしますと、その審判で以て履行しない場合には、強制執行ができるということになるわけであります。
尚
財産の
管理人を選任した場合に、
民法の委任に関する六百四十四條以下の
規定が
準用されるということにいたしたのであります。これが審判
事件であります。
次に調停
事件はどういう
種類のものが調停に掛かるかといいますと、これは人事に関する訴訟
事件、その他一般に家庭に関する
事件について調停を行う。いわゆる人事訴訟手続法による訴訟
事件の外、苟くも家庭に関係のある
事件であれば、例えば親類同士の金銭の貸借の
事件でも、やはりここに廣く入るわけでありまして、本來の人事訴訟の外に家庭の紛爭、親族間の紛爭でありますればすべて
家事審判所にその調停を求めることができる。尤も但書がありまして、これはいわゆる第九條の甲類に属する
事件は審判のみをやるべきで、調停に適しない
事件でありますから、これは調停はできませんが、要するにすべての家庭に関する
事件であ
つて、いわゆる甲類に属する
事件を除いては、すべて調停を行えるということにいたしたのであります。而してそういうふうな人事に関する訴訟とか、その他家庭の
事件についてはすべて訴えを起す前に、まず
家事審判所に調停を申立てなければならないということにいたして、いわゆる調停の前置主義を採
つたわけであります。從いまして訴訟を起さんとする場合には、必ず
家事審判所にまず調停の申立をしなければならないということになるわけであります。若し調停を申立てないで訴えを起したような場合には、
裁判所はその
事件を
家事審判所の調停に廻さなければならないことにいたして、まず調停をや
つて、然る後に訴訟に移るという、調停を前置する主義を採
つたわけであります。
それで十
七條に関する調停に適する人事
事件、家庭
事件について、訴訟に現に係
つておるような場合には、
裁判所はいつでもその
事件を職権で
家事審判所の調停に廻すことができるということにいたしたのであります。即ちすべてまず調停を行な
つて行くのであります。
それから二十條は十
二條の参加に関する
準用であります。利害関係のある者に、その調停に参加せしむることができるということにいたしたのであります。
次に調停ができまして、当事者間に合意ができまして、これを調停の調書に書きますれば、調停が成立したものとして、その記載は確定判決と同一の
効力を有することになるのであります。これは実は
現行の人事訴訟手続法におきましては、調停ができ上
つて、更に
裁判所の許可、認可があ
つて、初めて判決と同一の
効力があることにな
つておりますが、調停ができて、更にそれに対して
裁判所が認可を與えるということは重複するので、
從來認可を與えなか
つたというような例もありませんので、
事件を迅速に解決せしめるため、
裁判所の認可を必要としないものといたしたわけであります。尤もこの二十三條に掲げる
事件については調停はない、これは又二十三條のところで申しますが、第二項がそれであります。
それから調停
委員の組織について二十
二條に
規定を置いておるのでありますが、これは調停
委員会は
裁判官である家事審判官一人と、それに調停
委員二人以上を以て組織するわけであります。調停
委員はどういう人がなるかと申しますと、地方
裁判所長が前以て候補者を選んで置きまして、各
事件毎に家事審判官がこれを指定するわけであります。尚地方
裁判所長が前以て選任していない者でも、当事者が合意で、この者を調停
委員にして貰いたいといい、相手の合意があれば、調停
委員に指定することができることにな
つております。尚その他にも
家事審判所は
事件の処理上必要と認めるときには前項に掲げる者以外の者を調停
委員にすることができることにな
つております。
次の二十三條というものは、これは新らしい
規定でありまして、
從來婚姻又は
養子縁組の無効取消というような
事件は、これは人事訴訟法に
規定のある
事件でありまして、この人事訴訟法のこれらの
事件につきましては、当事者の処分といいますか、当事者が自由勝手に処分ができない。言い換えれば、当事者が自白をしても、
裁判所はその自白に囚われることなく、弁論主義でなく、職権主義でその眞相を究めて行くというのが
婚姻或いは
養子縁組の無効又は取消に関する
事件で、飽くまでも当事者の
話合いというのではなく、眞相を究めて行くという手続にな
つているわけであります。それでたとい当事者間に
婚姻の無効或いは
養子縁組の無効の事実について爭いがないという場合でも、
裁判所は果してそういう事実があ
つたかどうかということを職権で証拠調べをした上で判決をしなければならないというわけであります。でありますから当事者がそういう
事件について和解をするとか或いは調停をするということができないので非常に不便に考えられてお
つたのであります。ところが、当事者がそういう離婚、
婚姻の無効、
養子縁組の無効或いは
婚姻の取消というような
事件について爭いがない、双方共無効又は取消しの原因の有無について爭いがないという場合、お互がどうしてもそれで調停したいというのに調停させないで、
裁判所が飽くまで原因についての職権の探究をいたすということは、いかにも無駄な場合もあります。而も当事者が爭いがなければ大体事実の眞相もそうであろうというように見られるので、
從來そういうものについて調停ができなか
つた不便を緩和するために、そういう
事件について当事者が爭いがない、合意が成立しておるというような場合には一應取上げまして、それについて
家事審判所が、尚必要な事実を調査した上で、この通りであるというふうに思えば、当事者の合意に相当する審判をすることができる。即ち大体審判の形式ではありますが、実質は和解或いは調停と変りはないわけであります。即ち
從來調停されなか
つたそういう
事件については、爭いがない場合、調停したいというような場合にその途を拓いたわけであります。併しこの事の性質上、当事者の言い分そのままを信ずるわけにも行かないで、人事訴訟と同一な
建前から、必要な事実を一應
裁判所でも審判所でも調査して、その通りであれば、そういう審判をするということができる途を拓いたわけであります。
そういう
事件は必ずしも
婚姻又は
養子縁組の無効又は取消に限らないで、同じような事柄は二項にありますような協議上の離婚若しくは離縁の無効若しくは取消、それから
子供の認知、或いは認知の無効、若しくは取消、
民法七百七十三條の
規定によ
つて父を定めることの訴訟、或いは
嫡出子の否認、身分関係の存否の確定に関する
事件というようなものもやはり身分の事柄でありますから、当事者の言い分だけで判断するのでなく、実質を
裁判所が職権で調査しなければならん事案でありますが、こういう場合に当事者の合意がある場合には、その合意に適したような事実を現わして参りますれば、その合意に副うような審判ができる。いわゆる
養子縁組等の無効の審判、或いは
嫡出子否認の審判等をいたすことができる途を拓いたのであります。
次の二十四條、これは進めて見て調停ができなか
つた場合に、いわゆる強制調停と申しますか、強制ではないのでありますが、当事者が調停が不成立に終
つた場合に、
家事審判所は相当と認めるときは、調停
委員の意見を聽いて、当事者双方のため衡平に考慮し、一切の事情を観て、職権で、当事者双方の申立の趣旨に反しない限度で、
事件の解決のため離婚、離縁その他必要な審判ができる。この場合には金銭の支拂等も命ずることもできる。尤も乙類に関する事柄は、これは審判
事件で始末をつければいいのでありますから、これは調停、いわゆる強制調停をやらないというのが二項であります。
尤も当事者が調停が成立しない場合に、結局審判官が調停條件を
自分の方で決めて審判をするわけでありますが、当事者はこの審判に拘束されることはないので、これに対しては二十
五條で異議の申立をすることができる。その異議の申立は二週間内にする。けれども二週間内に異議の申立があ
つたときには審判はその
効力を失うということにな
つている。若し異議を申出でないときはその審判が確定判決と同一
効力を有することになりますが、不服であれば二週間内であればいつでも異議を申立ることができる。異議を申立てればその審判はその
効力を失うことになりますから、決して強制調停ではないのでありまして、調停できなか
つた場合、一應審判所はそういう調停の案を示しますが、これに不服で異議を申立てれば、その審判は全然なかりしことにな
つて効力を失
つて、ただ異議が入らないときにのみ、調停と同じように確定判決と同一の
効力を有することになるわけであります。
そこで二十六條で、これは調停が不調に
なつた場合に関する
規定でありますが、乙類に属する
事件、いわゆる調停に適する
事件について調停ができない場合には、調停申立の時に審判の申立があ
つたものとみなす。この審判の申出は出訴
期間が決めてある場合があります。例えば
嫡出子の否認の訴えは一年間になさなければならないとか、或いは
財産分與の
請求は離婚の時から二年の間に
請求しなければならないというふうなことにな
つておりますので、調停の申立をして、調停で揉んでいる間に二年は過ぎ去
つてしま
つて、いよいよ調停が不調に
なつたというので、今度
財産分與の審判の申立をしようとするときにはすでに二年を経過しておるということがあ
つては困りますので、そう場合は初めの調停の申立をしたときに審判の申立があ
つたものとみなして、その後審判手続に
移つて行くということによりまして、出訴
期間を徒過せしむることのないようにいたしたのが二十六條であります。
二十六條の一項は乙類に属する
事件の審判
事件でありますが、二項は調停を行うことができる
事件で調停ができない場合、或いはその
事件について二十三條とか二十四條で審判をしない、或いは前條で又はいわゆる前條の二項で以て異議の申立があ
つたがために強制調停が
効力を失
つたというような場合には、それで調停が不調に終
つたわけであります。そこでそれから後訴訟等に移るわけでありますが、そのときに新らしく訴えを起す、そうすると出訴の
期間のあるものがもうすでに出訴
期間を失
つておる場合がなきにしも非ずであります。そういう場合、今まで調停をどんどんや
つてお
つたが、結局調停が不成立に終
つたという場合に、その終
つた時から二週間内に訴えを起せば、調停申立の時にその訴えの提起があ
つたものとみなす。即ちすべてそういう
事件について調停前置主義でまず調停に移さなければならん。調停をや
つて見たが、調停が不調に
なつたから訴えを起すという場合に、もうすでに出訴
期間が徒過してしま
つているというような場合は非常に氣の毒であるから、初めの調停の申立をや
つたときに訴えの提起があ
つたものとみなして訴訟を進めて行くというのが二十六條の第二項であります。
第四章は罰則であります。調停
事件の関係人が正当な事由がなくて出頭しないときは五百円以下の過料に処する。或いは又調停
委員とか、或いは調停
委員であ
つた者が秘密を漏泄した場合の罰則、参與員についても秘密漏泄に対しての罰則
規定を設けてあります。二十九條はやはり職務上取扱
つたことについて知り得た他人の秘密を漏らした者の罰則であります。
附則は、これは明年の二十三年の一月一日から施行し、新
民法の施行と同日としたのであります。
尚、多分この次の議会にお願いすることになろうと思いますが、これによ
つて人事調停法等が廃上になります。尚その外に人事訴訟手続法でありますとか、非訟
事件手続法、そうい
つたようなものについては相当改正を加えなければならない個所がありますので、これらの点につきはしてはこの次の議会に、家事審判法の施行法といてそういう経過的な
規定を設けたいというふうに考えております。