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政府委員(奧野健一君) それではこの前に引続きまして、今日は第三章親子、第一節実子というところから、即ち七百七十
二條から御
説明をします。
この七百七十
二條は、現行法の八百二十條と全然同一であります。
次の七百七十三條は、これも現行法の八百二十
一條と全然同一でありまして、ただ
條文が整理されたに過ぎないのであります。
次の七百七十四條は現在の八百二十
二條と同樣であります。
次の七百七十
五條は、現在の八百二十三條に該当するのでありますが、これは現行法の八百二十三條によりますと、否認の訴は、「子又は其法定代理人ニ対スル訴ニ依リテ之ヲ行フ但夫カ子ノ法定代理人ナルトキハ
裁判所ハ特別代理人を選任スル」ということにな
つておりますが、今度の七百七十
五條によりますと、これは今までは親権を行うのは父である、父がやらない場合において、母が親権を行うということになるのであります。今度の
法律は、やはり親権について父母に差等を設けることは、両性の平等から適当ではないと
考えまして、親権は父母共同
行使ということになりますので、その
関係で、「子又は親権を行う母に対する訴によ
つてこれを行う。」ということになりました。更に「親権を行う母がないときは……特別代理人を選任しなければならない。」、この場合は家事
審判所が選任をするということに改めましたのは、七百七十
五條で現行法の八百二十三條を改めたのでありまして、大体
趣旨においては同じようなことであります。
次の七百七十六條は現在の八百二十四條そのままであります。
次の七百七十七條、これも現行法の八百二十
五條そのままであります。
次に七百七十
八條、これも現行法の八百二十六條に該当いたしますが、多少変りました。即ち現行法の八百二十六條では「夫カ未成年者ナルトキハ」云々ということにな
つておりますが、これは未成年の夫婦でも婚姻すれば成年になりますので、こういう
関係の
規定は不必要になる、この現行法も八百二十六條の第二項のみが必要になりますので、第一項の方は婚姻後も未成年であるということを前提とする現行法の
規定は、婚姻によ
つてすべて成年になるということによ
つて不必要になつたわけであります。それでまあ現行法の八百二十六條の第一項が削られたということになるわけであります。
次に七百七十九條、ここでちよつと御注意申したいのでありますが、現行法で「第二款嫡定ニ非サル子」というような見出しがあり、それから「庶子」という字が現在の八百二十七條の第二項にあるのでありますが、この庶子という言葉は余り適当でないので、即ち「庶子」という文字は削除いたしたのであります。すでに「私生子」という字はなくな
つて、「庶子」という言葉だけが残
つておりましたが、子の名誉のために庶子という言葉も今回無くなしたのであります。ただ「嫡出の子」と「嫡出でない子」という二つだけあるのでありますが、嫡出でない子というのも実は余り賛成しないのでありますが、それは止むを得ないと
考えまして、「嫡出でない子」というのを使いますが、「庶子」、「私生子」というのは廃めたわけであります。そこで七百七十九條は現在の八百二十七條の第一項に該当するわけであります。第二項は今申しましたように「庶子」という言葉をなくしたわけであります。
次に七百八十條は現在の八百二十
八條そのままであります。
次に七百八十
一條、これは現行法の八百二十九條でただ「戸籍吏」とい
つているのを、「戸籍法の定めるところにより」というふうに変更いたしただけであります。すべて戸籍吏という字はすでにないのでありまして、強いて書けば「市町村長に」というふうに直さなければなりませんのでありますが、これも必ずしも市町村長という言葉だけでは足りないので、結局はやはり「戸籍法の定めるところにより」というふうにやつた方が、すべての場合を含むと
考えまして、そういうふうにすべて戸籍吏とあるのを、「戸籍法の定めるところにより」云々というふうに修正いたしております。
次に七百八十
二條でありますが、これは現行法の八百三十條そのままであります。
次の七百八十三條、これは現行法の八百三十
一條そのままであります。
次の七百八十四條、これは現行法の八百三十
二條そのままであります。
次の七百八十
五條も、現行法の八百三十三條そのままであります。
次の七百八十六條は、現行法の八百三十四條そのままであります。
次の七百八十七條、これは現行法の八百三十
五條そのままであります。
次の七百八十
八條、これは子の監護者の指定、或いは強制認知の場合等においての子供を認知した場合に、母親が監護すべきか、父親が監護すべきかというようなことについて問題が起る、その場合の
規定、即ち七百六十六條を、父が認知する場合にこれを準用するということにいたしたのであります。七百六十六條と申しますのは、父母が離婚した場合に、その子供の監護を誰が見るか、父が子供を認知した場合に父又は母いずれに監護せしむべきかという問題について、新らしく七百八十
八條を設けたわけであります。
七百八十九條は現行法の八百三十六條に大体該当いたしますが、庶子というふうな言葉を使わなかつたわけでありまして、庶子という言葉をなくなしただけであります。
次の七百九十條は新らしい
規定でありまして、從來は嫡出の子供は父の家に入り、父の氏を称すということにな
つておりましたのを、家という
関係がなくなりましたので、「嫡出である子は、父母の氏を称する。」父母と同一の氏を称する、即ち婚姻しておる間の父母と同一の氏を称する、その氏を子供が称するということであります。ただ子供の出生前に父母が離婚すれば、父母の氏が両方変りますから、その場合は、離婚の際における父母の氏、即ち離婚前に父母が称しておつた氏を称するということにいたしたわけであります。婚姻から生れた子供でない、嫡出でない子は、母の氏を
原則として称します。尤もその次の七百九十
一條という新らしい
條文を設けまして、すべての場合において子が父又は母と氏を異にする場合においては、子は家事
審判所の許可を得て、その父又は母の氏を称することができるということにいたしたのであります。例えば父母が離婚しておるような場合に、子供がその違つた方の父母の氏に変更することができる、或いは又子供を連れて、つまり連れ子をして嫁に行
つた者が離婚にな
つて元の氏の復したという場合に、その子供が家事
審判所の許可を得て母の氏に変えることもできる、それから連れ子のような場合に、やはり家事
審判所の許可を得て、女が男の氏を結婚の結果称する場合には、家事
審判所の許可を得て自分と同じ氏に変更せしめることができる。而も子供が十五歳未満である場合には、その法定代理人、例えば只今の例で、母親がこれに代
つて、家事
審判所の許可を得て氏の変更をすることができる、この
規定によ
つて連れ子をすることができるということにいたしたのであります。それから私生子を認知したような場合に、認知された子供が今度は父親の氏を称したいと思う場合には、この
規定によ
つて家事
審判所の許可を得て、父親の氏を称することができるわけであります。ただ家事
審判所の許可を得ることにいたしましたのは、一應、子の眞意を確かめたり、或いは場合によ
つては、私生子を認知した父親に妻があつたような場合に、そういう自分の配隅者の意思を無視して、やはり自分と同じ氏を名乘らせしむることも適当ではないので、そういう場合にいろいろそういつたような事情を斟酌した上で、家事
審判所が許可を與えるということができるゆとりのために、家事
審判所の許可を得て氏を変更せしむることができる、而して殊に子供が十五歳未満であるというようなときに、その法定代理人である母親が連れ子をして子供に氏の変更をせしめたというような場合、子供が大きくな
つて子供の母親の氏を称したいというような場合には、やはりそういう自由を認めて置くのが適当ではないかというので、末項で、「前二項の
規定によ
つて氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に從前の氏に復する」自由を認めているのであります。
これが「親子」の「実子」の
関係でありますが、次は「養子」の
関係であります。この養子
制度を一体認めるかどうかというようなことは、
相当問題があろうかと思います。殊に婿養子とか遺言養子というようなことは、專ら家の継続ということのために認められた
制度であるので、養子
制度を認めるべきかどうか、なかなか議論のある点と思いましたが、從來と違
つて、むしろ養子ということは、子の保護養育というふうな
方面から、やはり養子
制度というようなものは残していいのではないか、各國も大体養子
制度というものがあるようであります。そこでまあ子供のない者に親の愛情を味わうことができること、並びに孤兒或いはそういつたようなものの貧困なる子供の養育保護というような
方面から見ましても、養子
制度というのは、必ずしも家の継続としての養子でなくても、やはりこれを認めていいという
考えから、養子
制度を残したわけであります。
先ず七百九十
二條でありますが、これは現行法の八百三十七條そのままであります。
次の七百九十三條は現行法の八百三十
八條そのままであります。
次に現行法に八百三十九條というのがありまして、法定の推定家督相続人たる男子が法定家督相続人としてある場合には男子を養子にできないという
規定がありますが、これは家督相続ということがなくなりまして、法定の推定家督相続人というような観念もなくなりましたので、子供のある者が、殊に男の子供があ
つても更に養子ができる、而も男の養子もできるということにいたしてこの
規定を止めたわけであります。又婿養子ということも止めました。これは養子にして更に自分の娘と婚姻せしめればいいわけでありますから、特に婿養子という
制度を設ける必要もありませんので、婿養子というものを止めたわけであります。
次に七百九十四條でありますが、これは現行法の八百四十條を変更いたしたのであります。これは現行法では後見人は被後見人を養子とすることができないことにな
つておりますが、これは家事
審判所の許可を得ればできる、家事
審判所の許可を得なければならないということにいたしたのであります。全然後見人が被後見人を養子とできないことにいたしておることは非常に不便でありまして、現行法では一應そうな
つております。禁止されておりますが、現行法においては遺言養子の方法によ
つて被後見人を養子とすることができるのでありますが、遺言養子という
制度をなくなすことにいたしました。これは家督相続を廃止する結果当然そういたしたのであります。そうなると全然後見人は被後見人を養子とする途がなくな
つてしもうので、それではいろいろ不都合な場合もあろうかと思いまして、家事
審判所の許可を得ればできるという途を開いたわけであります。
次の七百九十
五條というのは八百四十
一條に大体該当いたすのでありますが、八百四十
一條は現行法では「配偶者アル者ハ其配偶者ト共ニスルニ非サレハ縁組ヲ爲スコトヲ得ス夫婦ノ一方カ他ノ一方ノ子ヲ養子ト爲スニハ他ノ一方ノ同意ヲ得ルヲ以テ足ル」という
事項を
但書の中に
簡單に致したに過ぎないものであります。
次の七百九十六條と申しますのは、現行法の八百四十
二條に大体該当するのであります。これは現行法では
條文が「前條第一項」ということにな
つておりますが、第一項だけにな
つて來ましたので、そこを整理したに過ぎない、現行法
通りであります。
次に七百九十七條でありますが、これは大体現行法の八百四十三條そのままでありますが、第二項が継父母、嫡母という
関係がなくなりましたので、第二項を止めましたのと、それから「其家ニアル父母」という文字のうち「其家ニ在ル」というのを削つたのであります。それに代えて「法定代理人」ということにいたしたのであります。
次の七百九十
八條というのは新らしい
條文でありまして、末成年者を養子にする場合に、家事
審判所の許可を受けなければならないことにいたしたのであります。これは從來末成年者を養子にして、いろいろそれを食い物にした、或いは藝妓稼業等のために養子を利用するというようなことがありましたので、末成年者を養子とするのは家事
審判所の許可を得るということにいたしたのであります。
尚その後の八百四十
五條及び八百四十六條という
規定は削除いたしたのであります。これは養子について父母の同意を必要とするという
規定でありますが、やはりこれは婚姻と同じように、そういう養子縁組というふうな身分上の
行爲について、他人の意思が、たとい父母であろうとも入ることは適当ではないという
考えから、父母の同意を必要とする
規定を削除いたしたのであります。つまりこれは現行法の八百四十四條、八百四十
五條、八百四十六條に値いする
規定でありますが、それを削除いたしたわけであります。
ここで一言お断りして置きたいと思いますことは、婚姻については、末成年者の婚姻の場合だけ父母の同意ということを特に書きましたのであります。養子縁組の場合には、末成年者を養子縁組とするには家事
審判所の許可を取るまでは、父母の意思の同意ということは書かなかつたのでありますが、これは家事
審判所は勿論許可を與える場合に、父母の本心を確めますので、これは父母の同意ということは、おのずからそこに含まれているということと、父母の同意だけで子供を養子にやれるということにしては、まあ先程申上げましたような、人身賣買のようなことが行われることを虞れて、結局家事
審判所の許暁ということにすれば、その中におのずから父母の意思も加わ
つて來るという
考えであります。
次の七百九十九條というのは、現行法の八百四十七條の
條文の整理をいたしたわけであります。
次に八百條、これは現行法の八百四十九條を大体
條文の整理をいたしたに過ぎません。
次の八百
一條は現行法の八百五十條でありますが、この前申しましたように、「公使」の外に「大使」というのを入けただけであります。
次に「縁組の無效及び取消」、これも大体において現行法そのままでありまして、八百
二條と申しますのは、八百五十
一條に該当します。
それから八百三條は、現行法の八百五十
二條に大体において該当するのでありますが、ただ
條文が変
つて参りましたので、
條文が整理されているに過ぎないのであります。
次の八百四條と申しますのは現行法の八百五十三條そのままであります。
次の八百
五條は、現行法の八百五十四條、これは
條文の整理と、それから戸主に取消権を認めているのを、「戸主」というのを除いたのが八百
五條であ
つて、現行法の八百五十四條に該当する
規定であります。
次の八百六條は、現行法の八百五十
五條そのままであります。
次に現行法では八百五十六條という
規定がありますが、これが縁組についての同意ということがなくなりましたので削除いたしたのであります。ただそれに代えて八百七條という
規定を設けまして、先程の八百九十
八條の家事
審判所の許可を受けない養子縁組の取消を認めたのが、八百七條であります。
次に八百
八條と申しますのは八百五十九條に該当いたします。その前に八百五十
八條というのが現行法にありますが、これは婿養子縁組の場合の
規定でありますから、これは不必要とな
つて削除いたしたのであります。この八百
八條は、現行法の八百五十九條に大体該当いたします。ただ二項を付けまして、縁組の取消の結果、先祖の祭を司宰する者に変更を先ずる場合についての
規定、これを二項で準用いたしました。その外は大体現行法の八百五十九條に該当する
條文の整理をいたしたのであります。
次は「縁組の效力」でありますが、八百九條は、現行法の八百六十條と全然同樣であります。
次の八百十條は、大体現行法の八百六十
一條に該当するわけであります。即ち「養子ハ縁組ニ因リテ養親ノ家ニ入ル」とあるが、「家」というのがなくなりましたので、「養子は、養親の氏を称する」ということにいたしたのであります。
次は「離縁」であります。協議上の離縁を依然認めることにいたしまして、八百十
一條というのが丁度現行法の八百六十
二條に大体該当いたします。「戸主ノ同意」というふうなことがなくなつただけであります。尚八百十
一條の末項でありますが、現行法では、養親が死亡した後に養子が離縁をしようと思う場合には、戸主の同意を得てこれをするということにな
つておりますが、戸主が亡くなりました結果、戸主に代えて家事
審判所の許可を得て、養親が死亡してから養子が離婚ができる、それを家事
審判所にかからしめたわけであります。
次の八百十
二條は八百六十四條に該当いたしますが、
條文の整理をいたしておるわけであります。
次の八百十三條は八百六十
五條に該当いたします。
條文の数を少しく整理をいたしておるわけであります。
次の八百十四條というのが、これが現行法の八百六十六條に該当するのでありますが、これは婚姻の離婚の場合と同樣、いわゆる從來の列挙主義を改めまして一應例示的に一号、二号というのを掲げましたが、三号におきまして「その他縁組を継続し難い重大な
事由があるとき。」というようにいたしまして、例えば現行法の八百六十六條にいろいろとありますところの、例えば養親の直系尊属から虐待又は重大な侮辱を受けたときであるとか、或いは他の一方が自己の直系尊属に対して虐待をなし、又はこれに重大な侮辱を與えたときであるとかといつたような場合を全部例示の中から落しましたのでありますが、これらの場合においては、恐らく縁組を継続し難い重大な
事由のある場合に該当するだろうということに
考えるのであります。尚婚姻の場合と同樣、第二項を置きまして、例示の一号、二号に該当するようなことがありましても、
裁判所におきまして、一切の事情を斟酌して、縁組を継続せしむるのが
相当と認めた場合は、離縁の訴えを棄却することができるという七百七十條の第二項の
規定を準用いたしたのであります。
八百十
五條は現行の八百六十七條に大体該当いたします。
それから八百十六條という
規定、これは養子が離縁によりまして縁組前の氏に復ずる、これが現行法の八百七十
五條、養子は離縁によりその実家に復籍して行くという
関係に該当する
規定でありますが、「家」という
関係がなくなりましたので、縁組前の氏に復ずるというだけを
規定いたしたのであります。
次の八百十七條という
規定は、いわゆる祭祀の司宰者の変更の場合であります。即ち離縁によりまして養子が実家の氏に復した場合に、養子がすでに系譜、祭具、墳墓等の承継をして先祖の祭祀の司宰者にな
つておる場合に、その離縁の場合に、後継者を定めるというのが八百十七條で七百六十九條の
規定を準用いたしたわけであります。
次に「第四章親権」であります。親権につきましては、大体現行法におきましては、未成年者のみならず、
独立の生計を立てる成年者以外の者は、たとい成年者と雖も親権に服することにな
つておりますが、この改正案におきましては、成年に達しないいわゆる未成年の子のみが親権に服することにいたしたのであります。すでに成年に達しておるものは、個人の
尊嚴という
意味からして、やはり親権に服しないことが適当ではなかろうかと思いまして、未成年者のみが親権に服するということが第一点、それから第二点といたしましては、現行法の八百七十七條に……、八百十
八條は現行の八百七十七條に該当する
規定でありますが、大部内容が変
つております。現行法の八百七十七條によりますと、「子ハ其家ニ在ル父ノ親権ニ服ス」というふうにな
つて「父カ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ親権ヲ行フコト能ハサルトキハ家ニ在ル母之ヲ行フ」ということで、第一次的に父が親権を行い、第二次的に母が行うということにな
つておりますが、これはやはり両性の平等ということからして適当ではないと
考えまして、夫婦が婚姻中の場合であれば、共同して父母が親権を行うということにいたしたのが八百十
八條の第三項であります。勿論子供が養子であるときは養親の親権に服しますが、そうでないときは、実父母の親権に服する、而も父母が共同して行うのでありますが、然らば父母の間でその方法等について
意見が纏らなかつたらどうするかというような問題も実はあるのであります。この点についてスイス
民法等は
意見が不一致のときは父の
意見で決めるということにな
つておりますが、それはむしろ却
つて適当ではないというので、
意見の不一致のようなこともあるかもしれませんが、そこは夫婦間の父母の間の適当な処理に任すという
意味で、「父母が共同してこれを行う」というだけにいたしまして、ただ「父母の一方が親権を行うことができないとき」、事実上不可能であるとか或いは親権或いは管理権が喪失しておるような場合は「他の一方が行う」ということにいたしたのであります。
即ち八百十
八條では、父母が婚姻中は共同して親権を行うのでありますが、離婿したような場合にはどうするかという問題が起きますので、八百十九條で「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。」、こういうことにして離婚の場合は必ず父母の中どちらか一方が親権者となるということを定めて、離婚の届出でをしなければならないということにいたしたのであります。協議上の離婚のときには必ず親権者の一方を定めなければなりませんが、「
裁判上の離婚の場合には」
裁判所が判決の中で「父母の一方を親権者と定める」ということにいたしたのであります。それが第二項です。第三項は父母が子供の出生前に離婚しておる場合は、これはどうしても共同ということは困りますから、これは生んだ母親が親権を持つ、併しながらその後父母の協議で、父を親権者と決めることもできるということにいたしたのであります。次は父が私生兒を認知したような場合に、そこで母親と父が婚姻はしておらないのでありますから、共同親権ということはむづかしいので、その場合に親権者は父母の協議で父と決めない限りは母が行うのでありまして、特に協議で父を親権者とするということにした場合に限
つて父が行う。そういうふうに決めない場合、やはり母親が親権を行うということにいたしたのであります。以上すべて親権について父母の協議でやるということにいたしておりますが、協議が整わない場合が予想されますので、そういう場合には家事
審判所が協議に代る
審判をすることができるということにいたしたのであります。協議で一應親権者が決まつた場合、或いは家事
審判所が協議に代わる
審判をして親権者を決めた場合でも、その後子供の利益のために必要があるときは、家事
審判所は親権者を変更することができるということにいたしまして、子供の親権ということについて、專ら子供の利益を図
つて親権者を決めて行くという方針をとつたわけであります。
次は「親権の効力」であります。これは現行法と大体同じであります。即ち八百二十條は現行法の八百七十九條が大体それに該当いたします。それにただ現行法では「親権ヲ行フ父又ハ母」とあるのを「親権を行う者は」、即ち共同親権の場合に多かろうと思いますので、父又は母ということはできないので、その場合は「親権を行う者は」というふうにいたしたのであります。
次の八百二十
一條というものは現行の八百八十條に該当するのであります。これもやはり「親権ヲ行フ父又ハ母」という文字を「親権を行う者」というふうに変えたのみであります。
次に現行法の八百八十
一條に子供の兵役を出願する場合の
規定がありますが、これは兵役がなくなつた
関係上現行法の八百八十
一條というものは削除いたしたわけであります。
次に八百二十
二條は現行法の八百八十
二條に該当するのでありますが、ただ文字を多少変えた、それから「
裁判所」とあるのを「家事
審判所」に動かしたというような多少の整備を行なつたわけであります。
次に八百二十三條は現行法の八百八十三條に該当いたします。
それから次の八百二十四條というのは現行法の八百八十四條に該当いたします。大体現行法では「親権ヲ行フ父又ハ母」ハというようにな
つておるのを「親権を行う者は」と、共同親権の場合に抵触しないような表現に変えたに過ぎないのであります。
次に八百二十
五條というのは新らしい
規定でありまして、只今御
説明申しましたように、親権は父母共同して行うことになる、その結果子供に代
つて法律行爲を親権者が行うという場合、或いは子供の
法律行爲に同意を與えるというような場合は父母が共同してやるということになりますので、多く父母共同の名義で以て子供に代
つて法律行爲をするというようなことになろうと
考えるのであります。この場合に夫婦の一方が、勝手に共同名義を利用して、子供に代
つて法律行爲をやつたというような場合に、他の一方は、自分の意思に反して他の一方が共同名義を利用したんだ、自分の意思を無視したのであるから、その
法律行爲は無効であるというようなことを言い出さないとも限らないのでありまして、そうしますと、善意の相手方が非常に迷惑をいたしますので、相手方の保護ということを
考えまして、そういう場合にでも善意の相手方に対しては効力が妨げられない、有効であるという
規定を設けたのが八百二十
五條であります。
次に八百二十六條は大体現行法の八百八十
八條であります。
ちよつとその前に御留意を願いたいのは、現行法の八百八十六條と八百八十七條でありますが、これは母が親権を行う場合に、親族会の同意を得なければ、重要な事柄ができないということにな
つて、若し親族会の同意を得ないで、そういう
法律行爲をした場合は取消すことができるというのが八百八十六條と八百八十七條でありますが、これは父母共同の
原則から行きまして、女たるが故に、妻たるが故に、母たるが故に制限をした
規定でありますから、これは適当でないと
考えまして、八百八十六條と八百八十七條は削除いたしたのであります。從いまして、父母共同でやるときは問題はないとしても、父が死んで母のみが親権を行う場合にもやはり親族会等の同意は必要でありません。そうして親族会そのものも廃止いたしましたので、更に問題はなくなつたわけであります。
次に八百二十六條というのは、先程申しましたように、八百八十
八條に該当する。大体文字を多少変えたに過ぎないのであります。「
裁判所」を「家事
審判所」というように変えたに過ぎないのであります。
次の八百二十七條は現行法の八百八十九條に該当します。現行法の八百八十九條の第二項というのはやはり母が親族会の同意を得る場合の
規定でありますから、現行法の八百八十九條の第二項というのは削除いたしたわけであります。
次の八百二十
八條は八百九十條に該当するのでありまして、文字の整理をいたしたに過ぎません。「親権ヲ行ヒタル父又ハ母」というのを「親権を行
つた者は、」というふうに変更したに過ぎないわけであります。
次の八百二十九條、これは現行法の八百九十
一條そのままであります。
次の八百三十條というものは現行法の八百九十
二條に大体該当いたしまして、「
裁判所」を「家事
審判所」と改めた程度のものであります。
次の八百三十
一條は現行法の八百九十三條に大体該当いたしまして、「父又ハ母」を「親権を行う者」というふうに変更しただけの
規定であります。
次の八百三十
二條もやはり現行法の八百九十四條を多少文字を変えたのと、親族会がなくなつた
関係上、親族会員との
関係を削除したに過ぎないのであります。
次の八百三十三條、これが八百九十
五條に該当いたすのでありますが、戸主権の代行というようなことはなくなりましたので、その点を削除いたしたわけであります。ここで八百三十三條で「親権を行う者は、その親権に服する子に代わ
つて親権を行う。」というような場合はどういうような場合かといいますと、結局それは私生兒、婚姻せざる子供が私生兒を生んだといつたような場合に、その母親の親権者が、その親権に服する子に代
つて更に親権を行なうというふうなことが想像されるのでありまして、正当な婚姻をいたす場合におきましては、すでに成年者とな
つて、親権に服するというようなこともないのでありますから、この
條文の適用は極めて少ない限られた場合を予想することになるわけであります。
次に「親権の喪失」でありますが、八百三十四條、これは現行法の八百九十六條に該当いたします。ただ
裁判所に代
つて家事
審判所が親権の喪失を
宣告いたすことにいたしたのであります。
次の八百三十
五條というのが、現行の八百九十七條に大体該当いたしまして、やはり「家事
審判所」というようなものが「
裁判所」に代
つて出て來るというのがその差異であります。現行法の八百九十七條の第三項は削除いたしたのであります。これは父に代
つて今度は母が行うということになりますが、これは父母同樣に共同親権である
関係上、この
規定削除いたしたのであります。
次の八百三十六條というのは八百九十
八條に該当いたす
規定であります。
次の八百三十七條というのは現行法の八百九十九條に該当するのであります。現行法におきましては、八百九十九條では、「親権ヲ行フ母ハ財産ノ管理ヲ辞スルコトヲ得」というのでありますが、今度は父母共に共同親権ということになりましたので、「父又は母は、やむを得ない
事由があるときは、家事
審判所の許可を得て、親権又は管理権を辞することができる」途を拓いたわけで、現行法におきましては、母のみが財産の管理権を辞することができる。要するにそれは母が財産を管理する能力が低いという
考えから、母だけについて管理権辞任の場合を認めておりますが、父母平等と云ふ
原則から行きまして、父母共に親権或いは管理権を辞任することができる。併しながらこれは父母の親権は
権利であると同時に、むしろ
義務でありまして、勝手に自分で親権、管理権を辞するということは許すべきものではありません。特に家事
審判所の許可を得なければならない。而も家事
審判所は止むを得ない
事由があるときに限
つて許可をするということにいたしたのであります。尚その止むを得ない
事由が止んだときは、これ亦家事
審判所の許可を得て親権又は管理権の恢復をすることができる途を拓いたのでありまして、この八百三十七條というのは新らしい
規定で、父母平等の
原則に立つたものであります。