○
政府委員(
國宗榮君) 「
刑法の一部を
改正する
法律案」の全般的な概括的な
説明は、
提案理由で申上げて置きましたのでございますが、各條に亘りまして簡單に御
説明を申上げます。
先ず第一に、目次の
改正でありますが、これは一應
條文の
整理をしたに止るのであります。
第
一條でありますが、『第
一條第一項中「
帝國内」を「
日本國内」に、同條第二項中「
帝國外」を「
日本國外」に、「
帝國船舶」を「
日本船舶」に改める。』かようにいたしましたのは、新
憲法下になりまして、「
帝國」という文字を使わなくなりまして、
日本國と相成りましたので、その字句を
整理をいたしたのでございます。
第
二條でありますが、『第
二條中「
帝國外」を「
日本國外」に、同條第三号中「乃至第八十九條」を「、第八十
二條、第八十七條及び第八十八條」に改め、同條第一号を次のように改める。一
削除』、かように
改正いたしましたが、「
帝國外」を「
日本國外」と改めましたのは、先程申上げた
理由によつて改めたのでありまして、「一
削除」といたしましたのは、後に御
説明申上げます「
皇室ニ對スル罪」を
削除いたしました
関係で、これを
削除いたしました。第三号を改めましたのも、これは「
外患ニ對スル罪」に関しまして
改正をいたしましたので、それに應じてかように改めたのであります。
次は第三條でありますが、『第三條第一項中「
帝國外」を「
日本國外」に、「
帝國臣民」を「
日本國民」に改め、同條第二項を削る。』かように「
帝國外」並びに「
帝國臣民」という言葉を改めましたのは、先程申上げたと同じ
理由によるのでありまして、更にこの第二項を削る、第二項は「
帝國外ニ於テ帝國臣民ニ對シ前項ノ
罪ヲ犯シタル外國人ニ付キ亦同ジ」、かような
規定に相成つております。これを
削除いたしたわけでございます。その
趣旨は、
從來外國人が
日本人に対しまして、その法益を侵害して罪を犯した場合には、それが
外國で行われた場合におきましても、
日本刑法を適用することに
なつていたのでありますが、この
規定は諸
外國の
立法例も
考えてみまして、この種の
國外犯については、これを
当該國の
刑法に讓りまして、
日本國刑法の適用を除外するという
趣旨で、かようにいたしたのであります。一つには
憲法の
改正によりまして、
戰争放棄並びに國際信義、かような原則に基きましてこの
規定は特別に我が國の特殊な
保護主義を強く主張しておるというふうに見られましたので、この点を
削除いたした次第でございます。
次は第四
條関係でございますが、第四條は、これはやはり先程申上げました
通り「
帝國外」並びに「
帝國ノ」という言葉を、「
日本國外」或いは「
日本國ノ」というふうに改めましたのであります。
理由は前に申上げた
通りでございます。
次は第
五條でありますが、第
五條は
現行刑法には「
外國ニ於テ確定裁判ヲ
受ケタル者ト雖モ同
一行爲ニ付キ更ニ處罰スルコトヲ妨ケス但
犯人既ニ外國ニ於テ言渡サレタル刑ノ全部又ハ一部ノ
執行ヲ
受ケタルトキハ刑ノ
執行ヲ減軽又
ハ免除スルコトヲ得」、かように
規定いたしてありまするが、この「
免除スルコトヲ得」というのを「
免除ス」というふうに
改正いたしました。その
趣旨は第三條第二項を
削除いたしたと同じ
考えに基きまして、
國際信義の
立場をここで明かにいたしたい、かように
考えたのであります。
外國において
刑事裁判を受けた者に対して、
日本で更に重ねて刑の
言渡しをする場合において、
犯人がすでに
外國で刑の全部又は一部の
執行を受けていたときには、必ず減軽又は
免除しなければならない、こういうようにいたしまして、
外國の
裁判を尊重する
趣旨を一層明らかにいたしたのでございます。
次は第二十條中に「前條」とあるのを「第十九條」と改めておりますが、これは実は
刑法へ第十九條の二を加えましたときに、当時
整理しなければならなかつたのでありますが、手違いによりましてそのままに
なつておりましたので、第十九條を改めまして、今囘この
整理をやるというに過ぎないのでございます。
次は第二十
五條でありますが、二十
五條は「
左ニ記載シタル者二年以下ノ
懲役又
ハ禁錮ノ
言渡ヲ
受ケタルトキハ情状ニ因リ裁判確定ノ
日ヨリ一年以上五年以下ノ
期間内其執行ヲ猶
豫スルコトヲ得」ということを第一項に掲げておりますが、これを「二年以内ノ
懲役又
ハ禁錮」を「三年以下ノ
懲役若
クハ禁錮又ハ五千円以下ノ
罰金」に改めましたのでございまして、その
趣旨はこれまで御質問にもありましたように刑の
執行猶予の
範囲を廣めまして、そうして刑罰の効果を、いわゆる刑事政策的な
目的を廣く達成しようという
考えから、かようにいたしたのでございます。而もこの
改正は、これまで
罰金刑に対しましては
執行猶予の
制度がございませんのでありましたが、これによりまして新しく五千円以下の
罰金につきましても
執行猶予が
言渡されるというふうに改めたのでございます。
次は第二十六條でありますが、二十六條は
現行法によりますと、「
左ニ記載シタル場合
ニ於テハ刑ノ
執行猶豫ノ
言渡ヲ
取消ス可シ、一 猶豫ノ
期間内更ニ罪ヲ犯シ禁錮以上ノ刑二
處セラレタルトキ、二 猶豫ノ
言渡前ニ犯シタル他ノ
罪ニ付キ禁錮以上ノ
刑ニ處セラレタルトキ、三 前條第二
號ニ記載シタル者ヲ
除ク外猶豫ノ
言渡前他ノ
罪ニ付キ禁錮以上ノ
刑ニ處セラレタルコト発覺シタルトキ」とありますが、この一項に更に第二項といたしまして「猶豫ノ
期間内更ニ罪ヲ犯シ罪金ニ處セラレタルトキハ刑ノ
執行猶豫ノ
言渡を
取消スコトヲ得」というのを一項加えまして、これは
執行猶予につきまして
罰金につきましてもこれを認めまして、その結果、これとの均衡上、
罰金に処せられた場合も、刑の
執行猶予の
言渡を取消すことができるというような
規定を加えたのであります。これは必ずしも
罰金に処せられた場合に取消さなければならないのじやないのでございまして、
罰金に処せられた場合におきましても、情状によりましてこれを取消すことができると、かように改めたのでございます。
次は「第六章時效」とありますのを「第六章刑の
時效及ヒ刑ノ消滅」に改めることにいたしました。これは章の一番終りに、第三十四條の二といたしまして「刑ノ
執行ヲ終リ又
ハ其執行ノ
免除ヲ得タル
者罰金以上ノ
刑ニ處セラルルコトナクシテ十年ヲ
經過シタルトキハ刑ノ
言渡ハ其ノ效力ヲ
失フ、刑ノ
免除ノ
言渡ヲ
受ケタル者共言渡後
罰金以上ノ
刑ニ處セラルルコトナクシテ二年ヲ
經過シタルトキハ刑ノ
免除ノ
言渡ハ其效力ヲ
失フ」、いわゆる
前科抹消の
規定を設けることにいたしましたので、この章の標題も「刑ノ
時效及ヒ刑ノ消滅」と、かように改めたのでありまして、三十四條の二は新しく
條文を加えたのでございます。これはいわゆる
前科抹消の
規定を設けたのでありまして刑事政策的な
制度の拡張という
趣旨で設けたのでございます。この刑の
言渡の效力を失うということにつきまして十年の
期間を定めましたのは、前囘も申上げました
通りに、刑の
執行を終り又はその
免除を得たる者が、
罰金以上の刑に処せられることなくして十年を過したという継続的な事実によりまして、一率に前科の抹消をするという
趣旨によりまして、
先づ愼重を期しまして、十年という
期間を設けたのでございます。更にこの刑の
免除の
言渡を受けた者につきましては、刑の
免除は有罪の
言渡でありますけれども、普通の
懲役、
禁錮、
罰金に処せられた場合とは趣きを異にいたしまして、いわば無罪の
言渡があ
つた者と余り違はないような
法律上の效果を持つておりますので特にこの点に限りまして、その
期間を二年といたしたのでありますが、これは
刑法仮案でかように定めておりましたので、大体それによりまして、この二年の
期間を定めたのでございます。
次は、第九章
併合罪に中の第五十
五條を
削除いたしました。「
連續シタル數個ノ
行爲ニテ同一ノ
罪名ニ觸ルルトキハ一
罪トシテ之
ヲ處斷ス」、この
規定を全部
削除いたしたのでございます。これを
削除いたしました
趣旨は、五十
五條はいわゆる
連続犯に関する
規定でありまして、「
連續シタル數個ノ
行爲ニシテ同一ノ
罪名ニ觸ルル」、こういう場合にこれを一括して一罪として処断することに
なつておるのでありまして、一罪として処断するには、
科刑上におきましては
併合罪としての取扱いをしないということでございまして手続の面におきましては、その一部について起訴があれば、当然全部を公判に繋属し、又その一部について
有罪裁判が確定すれば、その
確定力が当然
連続犯の全部に及ぶ、
從つてその他の部分が後に発覚しても、改めて起訴処罪することができないということを意味しておるのでありまして、
從來の
刑事手続、特に
捜査に相当の時間的余裕がありました
関係上、これらの
連続犯の殆ど全部につきまして、十分な
捜査を遂げて、起訴して、
審判を受けることが大体可能でありましたが、併しその場合におきましても、大審院の判例が、非常に
連続犯の
範囲を廣くいたしまして、次第にこれが拡張されるような傾向にもありましたので、時としてはそういうような場合におきましても、軽微な犯罪につきまして
確定裁判があるために、重要な犯罪が改めて処断することができない、こういうような不都合を生じたことがあります。この場合には止むを得ない処置といたしまして、
刑事訟訴法の四百八十六條によりまして、
被告人に不利益な再審の
規定に基きまして再審によつて前の
裁判を取消しましてそうして
裁判を直す、かようなことによつて救済して
參つたのでございますが、今日の薪らたな
刑事手続におきましては、
捜査の
期間ま非常に制限を受けておりまするし、又
憲法上、
裁判の
審判も迅速にしなければならないということが要求されておりまする結果、これまでのようにゆつくりと、犯罪の全
罪情を調べた上で、これを処断するということは到底困難に
なつて参りました。そこで
從來のような
考えの下に
連続犯の
制度が残されておるとしますれば、恐らく常に僅か一部のみが実際の
審判の対象となりまして、大部分の余罪はその蔭に隠れてしまつて、
被告人が本來受けなければならない刑より遙かに軽い刑で責任を免れるということになりまして、而もその点の著しい場合例えば極く軽微な窃盜罪によりまして処断を受けて、兇惡な強盜罪の処断を免かれるというような著しい場合を救済しようといたしましても、今日におきましては、
從來のように刑訴の四百八十六條の
規定を流用することが、
刑事訴訟法の
應急措置法におきましてできないことに
なつておりますので、かようなことでは社会の正義の通念にも反しまするし、治安の維持にも惡影響を及ぼし、もともと
連続犯の対象となるのは、
数行爲でありまして、本來それぞれ独立して一罪を構成すべきものでありますから、これを立法上どの
程度処断上の一罪とするかということを
考えた結果そのことは一應便宜の問題ではないか、かように
考えまして、今日の
治安維持の
関係、
処罰に
社会正義を顯現するというような観点からいたしまして、先ず第五十
五條を
削除いたしました方がいいのではないかということから、この五十
五條を
削除いたしたのであります。
次は五十八條でありますが、五十八條は、これは「
裁判確定後
再犯者タルコトヲ発見シタトキハ前條ノ
規定ニ從ヒ加重ス可
キ刑ヲ定ム、
懲役ノ
執行ヲ
終リタル後又
ハ其執行ノ
免除アリタル後
發見セラレタル者ニ付テハ前項ノ
規定ヲ
適用セス」、この
規定を
削除いたしました。これはいわゆる
累犯加重の決定が、
憲法の三十九條の精神に反する疑いがあるのではないかという点から、これを
削除することにいたしたのでございます。
次は「第二編罪」の中の第一章の「
皇室ニ對スル罪」でありますが、これを
削除いたしました。即ち「第一章
皇室ニ對スル罪」を「第一章
削除」に改め、第七十三條乃至第七十六條を
削除いたしました。この度の
刑法の
改正の中におきまして、最も重要なる点はこの「
皇室ニ對スル罪」の
削除であろうと
考えるのであります。新
憲法におきまして、天皇は
日本國の象徴であらせられ、
日本國民統合の象徴であらせられことは、明らかに
規定しておるのでありまして、而もかような特別の地位を有せらるるのでありまして、
皇族も又、これに從いまして
法律上特殊の身分を有せらるるのでありまするけれども、他面これらの地位と矛盾しない
範囲におきまして、
一般の
國民と平等な
個人としての
立場をも、以前も有せられ、今日も尚且つ有せられておるのでありまして、この
個人という
立場である限りにおきましては、法的に異
つた扱いをするということは、新
憲法の
趣旨に合致しない、かように
考えまして、この「
皇室ニ對ナル罪」を
削除いたしました次第でございます。固より
個人の尊重又
個人の平等、こういう
趣旨を徹底せんとするものでありまするけれども、これにつきましては
日本國民の傳統的な感情に異常な衝撃を與えるのではないかという点を非常に懸念いたしたのであります。併し
政府といたしましては、これらの
罰條の存廃が、直ちに我が
國民主化の問題の一環といたしまして、
列國の注視の的と
なつておることを考慮いたしまして、挙げてこの章を
削除することにいたしたのでございます。
次は第三章の「
外患ニ關スル罪」を
改正いたしました。これは第三章の「
外患ニ關スル罪」は、
戰爭状態の発生並びに軍備の存在を前提とする
規定でありまして、今次
憲法におきまして
戰爭放棄を宣言いたしておるのでありまするから、この條章は当然に
改正を加えなければならない、かように
考えたのであります。ただ併し戰爭を放棄いたしましても、
外國との
関係におきまして
処罰を要するものがございます。それを改めてこの度
規定いたした次第でございます。即ち八十
一條を
改正いたしまして「
外國ニ通謀シテ日本國ニ對シ武力ヲ
行使スルニ至ラシメタル者ハ死刑ニ處ス」
外國と通謀いたしまして、
日本の國に対し
武力を行使するに至らしめた者、
外國が
日本に対して
武力を行使する、かような場合に、これを行使するに至らしめた者を
死刑に処すと
規定をしたのであります。「第八十
二條 日本國ニ對シ外國ヨリノ
武力ノ
行使アリタルトキ之
ニ與シテ其軍務ニ服シ其他之ニ軍事上ノ利益ヲ
與ヘタル者ハ死刑又
ハ無期若
クハ二年以上ノ
懲役ニ處ス」、これも
日本に対しまして、
外國自体が
武力の行使をして参りましたとき、これに対してその軍務に服したり、或いは軍事上の利益を與えるという
行爲がありました者は、
死刑又は二年以上の
懲役に処す、とこういう
規定にいたしたのであります。
それから八十三條乃至八十六條は、いずれも
戰爭状態並に軍備の存在を前提といたしまする
規定でありまするので、これは
削除いたしました。そうして八十
七條並に八十
八條等におきましては、この
削除等によりまするところの
整理をいたしまして、八十九條をも、只今申上げましたように、軍備の
存在並に
戰爭状態を前提といたしまする
規定と解されまするので、これを
削除いたしました。
次に第四章の「
國交ニ關スル罪」でありまするが、これは第九十條竝に第九十
一條を
削除いたしたのであります。第九十條は「
帝國ニ滞在スル外國ノ君主又
ハ大統領ニ對シ暴行又
ハ脅迫ヲ
加ヘタル者ハ一年以上十年以下ノ
懲役ニ處ス、
帝國ニ滞在スル外國ノ君主又
ハ大統領ニ對シ侮辱ヲ
加ヘタル者ハ三年以下ノ
懲役ニ處ス但
外國政府ノ請求ヲ
待テ其罪ヲ論ス」、かような
規定でありまするが、勿論この
規定を
削除いたしましたのは、皇室に対しまする罪を
削除いたしましたのに應じまして、この
規定を
削除いたしましたのでございまするけれども、併しながら、これによりまして
外國の君子又は
外國の
使節に対しまする
國際法上のいわゆる
不可侵権、
國際法上認められました権限を認めないという
趣旨ではないのでございまして、これを
削除いたしますると同時に、
一般の
暴行脅迫の刑を加重いたしまして、そうして
外國の
君子並に
外國の
使節等の
保護に欠けるところないようにいたしたのであります。ただ併し、後にを
説明申上げまするけれども、侮辱の
規定を
削除いたしておりますので、
外國の
使節に加えられました、或いは
外國の君子、
大統領に加えられました侮辱については、この九十條、九十
一條ノ
規定を
削除することによりまして、
保護を與えられないという結果に相成りまするけれども、
暴行並に脅迫、或いは
名誉毀損等の罪を重くいたしまして、これらの
君主並に
使節に対しまする
一般的の
保護においては欠けるところのないように顧慮いたしたのでございます。
次は第百
五條であります。「
犯人藏匿及ヒ證憑湮滅ノ罪」の中の第百
五條、「本章ノ
罪ハ犯人又
ハ逃走者ノ
親族ニシテ犯人又
ハ逃走者ノ利益ノ
爲メニ犯シタルトキハ之
ヲ罰セス」、かような
規定があるのでございます。この「
罰セス」を改めまして「其刑ヲ
免除スルコトヲ得」、かようにいたしたのでございます。かように
犯人の
藏匿証憑、湮滅に親族が関與した場合におきまして、情状によつてこれを
処罰し得るということにいたしましたのは、
犯人の捜索と正しい
裁判のために
國民の協力を得ようとする、こういう
趣旨に基きまして
從來「
罰セス」と相成つておりましたのを「其ノ刑ヲ
免除スルコトヲ得」というふうにいたしたのでございます。
次は「第七章ノ二
安寧秩序ニ對スル罪」、これを全部
削除いたしました。百
五條ノ二から百
五條ノ四でありますが、この
規定はいわゆる戰時色が相当濃厚であるという点、竝に
規定の内容が相当漠然としておりまして、もう少し具体的な
規定をする必要があろうという点、從いましてこれの運用によりましては、今日
憲法で認められておりますところの言論の
自由等に対しまして、運用の如何によりましては余り面白くない結果を生ずるという点から、この
規定を一應全部
削除することにいたしました。併しながらこの
規定の中には尚
趣旨から申しまして存置してよろしいものもあると
考えられますので今後の
刑法の
全面改正の場合におきまして、これを再び考慮に入れまして、具体的に適当な
規定がいたしたい、かように
考えておるのであります。
次は百三十
一條であります。百三十
一條は「住居ヲ
侵ス罪」の中の一でありまして、「故
ナク皇居、禁苑、離宮又
ハ行在所ニ侵入シタル者ハ三月以上五年以下の
懲役ニ處ス、神宮又
ハ皇陵ニ侵入シタル者亦同シ」、これは
憲法の
改正によりまして、神宮、
皇陵等につきましては
一般の
規定による方がいいではないかという点と、「
皇室ニ對スル罪」を
削除いたしましたので、第一項の
規定をも
削除いたしまして、
一般の
規定によらしめることといたしたのであります。
『百三十
二條中「本章」を「第百三十條」に改める。』、これは百三十條を
削除いたしましたので、
條文の
整理をいたしたのでございます。
次は「第二十二章猥褻、
姦淫及ヒ重婚ノ罪」の中の第百七十四條でありますが、「公然猥褻ノ
行爲ヲ
爲シタル者ハ科料ニ處ス」、かような
規定に
なつておりまして、極く軽い刑がこの百七十四條に
規定してありますが、この
科料を「六月以下ノ
懲役若
クハ五百圓以下の
罰金又
ハ拘留若
クハ科料」、かように刑を改めました。これまで非常に
科料が軽いのでありまして、今日の世情に照しまして、かような
行爲につきましては刑を改める必要があると
考えまして重くいたしたのでございます。
次に百七十
五條でありますか、百七十
五條は「猥褻ノ文書、
圓畫其ノ他ノ物ヲ頒布若
クハ販賣シ又ハ公然之ヲ
陳列シタル者ハ五百圓以下ノ
罰金又
ハ科料ニ處ス、販賣ノ
目的ヲ
以テ之
ヲ所持シタル者亦同シ」、この「五百圓以下ノ
罰金又ハ」を「二年以下ノ
懲役又ハ五千圓以下ノ
罰金若
クハ」というふうに改めまして、刑を重くいたしました。この
趣旨も百七十四條の
趣旨と同樣であります。勿論出版の自由は認めなければなりませんのでありまするけれども、かような文書の出版は正しい出版ではないのでありまして、今日の時世に照しましてこの刑を重くする方が相当であろう、かように
考えましたので「五百圓以下ノ
罰金」を「二年以下の
懲役又は五千圓以下の
罰金」、かように改めました。
次は百八十三條でありますが、これは姦通に関しまする
規定でありまして
憲法の十四條によりまして、夫婦の同権と男女の基本的平等が
規定されましたので、姦通をいたしました場合、
男女兩方を罰するか、或いはこれを罰しないかという処置をいたさなければならなくなりましたので、
政府といたしましては、この
規定を
削除して、
男女同権の
趣旨を明らかにいたしたのでございます。
次は「涜職ノ罪」の第百九十三條であります。「
公務員其職権ヲ
濫用シ人ヲ
シテ義務ナキ事ヲ
行ハシメ又ハ行
フ可キ權利ヲ
妨害シタルトキハ六月以下ノ
懲役又
ハ禁錮ニ處ス」、これを「六月以下」を「二年以下」に改めました。更に百九十四條でありますが、これは「
裁判、檢察、警察ノ職務ヲ
行ヒ又ハ之
ヲ補助スル者其職權ヲ
濫用シ人ヲ
逮補又ハ監禁シタルトキハ六月以上七年以下ノ
懲役又
ハ禁錮ニ處ス」、この「七年以下」とありますのを「十年以下」に改めました。更に第百九十
五條の「
裁判檢察、警察ノ職務ヲ
行ヒ又ハ之
ヲ補助スル者其職務ヲ
行フニ當り
刑事被告人其他ノ者に
對シ暴行又
ハ凌虐ノ
行爲ヲ
爲シタルトキハ三年以下ノ
懲役又
ハ禁錮ニ處ス、
法令ニ因リ拘禁セラレタル者ヲ看守又
ハ護送スル者被
拘禁者ニ對シ暴行又
ハ凌虐ノ
行爲ヲ
爲シタルトキ亦同シ」、この「三年以下ノ
懲役又
ハ禁錮」というのを「七年以下」に改めまして、
一般にこの涜職の罪の中でいわゆるこの
職権濫用と見られる、いわゆる
人権蹂躙ともいわれるところのものにつきまして、特にこの刑を加重いたしまして、これらの者に対しまするところの責任をはつきりといたすことにいたしたのでございます。
次は第二十七章「傷害ノ罪」の中の二百八條の
暴行罪の
規定でありますが「
暴行ヲ
加ヘタル者、人ヲ
傷害スルニ至ラサルトキハ一年以下ノ
懲役若
クハ五十圓以下ノ
罰金又
ハ拘留若
クハ科料ニ處ス、前項ノ
罪ハ告訴ヲ
待テ之
ヲ論ス」、この第一項中の「一年以下」を「二年以下に改め、更に、「五十圓以下」を「五百円以下」に改め、尚第二項を削りました。即ち
暴行罪の刑を二年以下或いは五百円以下と重くいたしますと同時に、
親告罪に
なつておりまするこの
暴行罪を、
親告罪の
規定を
削除いたしまして、告訴をやらなくても、直ちに
暴行罪として
処罰し得るように改めたのでございます。その
趣旨は今日の新らしい
憲法の下におきまして、暴力は杏定されなければならないのでありまして、暴力を以て種々のことが行われますことは好ましくないと
考えまして、これらのものは告訴に拘わらしめず、当然に
暴行に対しましては
処罰がし得る、而も刑を重くする、かような
趣旨で改めたのでございます。
次は第二十八章の「
過失傷害ノ罪」の中の第二百十
一條でありまして、「業務上
必要ナル注意ヲ怠
リ因テ人ヲ
死傷ニ致シタル者ハ三年以下ノ
禁錮又ハ千圓以下ノ
罰金ニ處ス」、この第二百十
一條の次に、後段として、「
重大ナル過失ニ因リ人ヲ
死傷ニ致シタル者亦同シ」、かように附け加えました。この
趣旨はやはり今日の新らしい
憲法の下におきまして、人の生命、身体等に対しまする
保護を十分に厚くする必要があると
考えましたので、かような
規定を設けたのでございます。
次は第三十二章の「脅迫ノ罪」、二百二十
二條でありますが、二百二十
二條は「生命、身体、自由、名譽又ハ財産ニ對シ害ヲ加フ可キコトヲ
以テ人ヲ脅迫シタル者ハ一年以下ノ
懲役又は百圓以下ノ
罰金ニ處ス、親族ノ生命、身體自由、名譽又ハ財産ニ對シ害ヲ加フ可キコトヲ
以テ人ヲ脅迫シタル者亦同シ」、いわゆる脅迫罪の
規定であります。この中の第一項中の「一年以下」を「二年以下」に改め「百圓以下」を「五百円以下」に改めました。この
趣旨も新
憲法下におきまして、
個人の生命、身体、自由、名誉、これらのものに対しまする
保護を十分に厚くし、同時に前に二百八條の所でちよつと申落しましたが「
國交ニ關スル罪」の九十條、九十
一條を
削除いたしました
関係で、
外國の
君主並びに
外國の
使節等に対する
保護をも十分に厚くし得るという点を予測いたしまして、二百八條の刑を重くいたしますと同時に、この「脅迫ノ罪」につきましても、
個人の生命、身体、自由、名誉等の
保護を厚くすると同時に、
外國の君主、
使節の
保護にも欠くるところがないように、この刑を重くいたした、次第でございます。
次は第三十三章「略取及ヒ誘拐ノ罪」の中の二百二十六條でありますが、この中の「
帝國外」を「
日本國外」に改めるというのは、字句の
整理をいたしたのでございます。
その次は第三十四章「名譽ニ對スル罪」でございます。この中の二百三十條「公然事實ヲ摘示シ人ノ名譽ヲ毀損シタル者ハ其事實ノ有無ヲ問ハス一年以下ノ
懲役若
クハ禁錮又ハ五百圓以下ノ
罰金ニ處ス、死者ノ名譽ヲ毀損シタル者ハ誣罔ニ出ツルニ非サレハ之
ヲ罰セス」、この
規定の中「一年以下」を「三年以下」に、「五百圓以下」を千円以下」に改めました。今日
個人の自由が非常に叫ばれておりまする一面、正当なる言論でなくして、可なり人の名誉を毀損すべきような事実をむやみやたらに述べまして、今日の事態を紛糾させており、或いは社会の正しい民主化の方向に障碍を與えておるというような事象に鑑みまして、名誉に対しまするところの罪の罰を重くいたしましてこの点正しいところの
個人の名誉を
保護して行こうというふうに
考えたのでございます。同時に先程申上げましたように「
國交ニ關スル罪」の
規定を
削除いたしました
関係上、それらの者に加えられまするところの名誉毀損の罰に対する
保護を十分にいたす必要がありますので、「三年以下」並びに「千円以下」というふうに刑を重くいたしました。更に二百三十條の次に二百三十條の二を一項加えました。二百三十條の二は「前條第一項ノ
行爲公共ノ利害ニ關スル事實ニ係リ其
目的專ラ公益ヲ圓ルニ出テタルモノト認ムルトキハ事實ノ眞否ヲ判斷シ眞實ナルコトノ證明アリタルトキハ之
ヲ罰セス、前項ノ
規定ノ適用ニ付テハ未タ公訴ノ提起セラレサル人ノ犯罪
行爲ニ關スル事實ハ之ヲ公共ノ利害ニ關スル事實ト看做ス、前條第一項ノ
行爲公務員又ハ公選ニ依ル公務員ノ候補者ニ關スル事實ニ係ルトキハ事實ノ眞否ヲ判斷シ眞實ナルコトノ證明アリタルトキハ之
ヲ罰セス」、かような
規定を此処に加えたのでございます。
個人の名誉は当然に
保護されなければならないのでありますけれども、併しながら眞に眞実を申しまして而もその眞実が公共の利害に関する事実でありまして、專ら公益のため、公益を図る
目的に出でたというやうに認められるものであります場合には、これが眞実な言であるとしまするならば、
憲法の保障いたしております言論の自由という点から
考えましても、これらのものは
処罰しないというふうにいたしまして、正しい意味の言論はこれは罰しないけれども、そうでないものはこれは重く罰する、かような
趣旨によりまして二百三十條の二を加えたのでございます。ただこの二百三十條の二の第三項の
規定の「公務員又ハ公選ニ依ル公務員ノ候補者ニ關スル事實ニ係ルトキハ事實ノ眞否ヲ判斷シ眞實ナルコトノ證明アリタルトキハ之
ヲ罰セス」、この
規定は
一般の場合と異りまして、公然事実を摘示しまして、人の名誉を毀損するという言動をいたしました者が、公共の利害に関する事実について專ら公益を図るに出でた、こういう制限を置きませんで、ただ公務員並びに公務員の候補者に関する事実につきまして、單にそれが眞実であればこれを罰しない、虚僞である場合にのみこれを罰する、いかなることを申しても、眞実であればこれを罰しない、かように廣い
規定を設けたのでございます。これは特に公務員が公務員として、他人から非違を摘発されまして、その事実がありようなものは、公務員又は公務員の候補者になることは好ましくないという点から、單に事実の眞実であるか、或いは虚僞であるかによりまして
処罰を異にするという
規定にいたしましのでございます。
三十四章のうちの二百三十
一條侮辱罪の
規定でありますが、「事實ヲ摘示セスト雖モ公然人ヲ侮辱シタル者
ハ拘留又
ハ科料ニ處ス」、この
規定を
削除いたしました。この
削除いたしました
趣旨は、今日の言論を尊重いたしまする
立場から、たまたま怒りに乘じて発しましたような、軽微な、人を侮辱するような言葉につきましては、刑罰を以て臨まなくてもよいのではないか、かような
考えからこれを
削除いたしましたが、この点につきましては、尚考慮の余地があろうかと
考えているのでございます。特に九十條、九十
一條を
削除いたしました
関係上、
外國の
使節等に対しまする單なる侮辱の言葉が、往々にして國交に関する問題を起すような場合も
考えられまするので、これは
削除いたしましたけれども、考慮を要するのではないかと
考えております。
更に次は二百三十
二條でありますがこの名誉毀損罪は告訴を待つて論ずることに
なつておりますが、皇室に対しまする罪を
削除いたしましたので天皇
皇族に対しまするところの不敬の
規定をも当然に
削除いたしました
関係上天皇並に
皇族に対しまするところの、
從來不敬として
考えられておりました名誉毀損の
範囲に入るものは、これを名誉毀損の罪に上つて一樣にこれを処断することに相成りました。從いまして天皇、或いは
皇族方が告訴をしなければ、本章の
規定によりまして
処罰をすることができないことに相成るのでありますが、天皇並に皇后、皇太后、太皇太后、皇嗣、かような方々がみずから告訴をなさるということはちよつと
考えられないのでございまして、從いまして、この方々に限りまして特別な
規定を設ける必要がありましたので「告訴ヲ爲スコトヲ得可キ者カ天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣ナルトキハ
内閣總理大臣、
外國ノ君主又ハ
大統領ナルトキハ其國ノ代表者代リテ之ヲ行フ」というように
規定を改めました。
外國の君主又は
大統領、これも九十條、九十
一條を
削除いたしましたので、元來、
外國政府の請求を待つて論ずる罪に
なつておりましたが、やはり
一般の名誉毀損罪によつて、
外國の君主又は
大統領に對しまするところの名誉に對する
保護をいたさなければならないので、これにつきましても、
外國の君主又は
大統領から直接告訴を受けるということは非常に困難なことでございますので、その國の代表者が代つてこれを行う、その國の代表者はその國を代表して、我が國に駐在しておられるところの外交
使節、或いはその國から依頼を受けました他の外交
使節等によりまして、これを行うことができるというふうにいたしたのでございます。
次は三十六章の「竊盜及ヒ強盜ノ罪」の中の二百四十四條「直系血族、配偶者及ヒ同居ノ親族又ハ家族ノ間ニ於テ第二百三十
五條ノ罪及ヒ其未遂罪ヲ犯シタル者ハ其刑ヲ
免除シ其他ノ親族又ハ家族ニ係ルトキハ告訴ヲ
待テ其罪ヲ論ス、親族又ハ家族ニ非サル共犯ニ付テハ前項ノ例ヲ用ヒス」。それから二百五十七條「直係血族、配偶者、同居ノ親族又ハ家族及ヒ此等ノ者ノ配偶者間ニ於テ前條ノ罪ヲ犯シタル者ハ其刑ヲ
免除ス、親族又ハ家族ニ非サル共犯ニ付テハ前項ノ例ヲ用ヒス」、親族相盜の場合と贓物に関しまするところの親族間の犯罪というものにつきましてかような
規定があるのでありまするが、この中、家族といいますのは、民法の
改正によりまして、この観念を認むる必要がなくなりますので、これを改めまして、家族という文字を削つたのでございます。
大体非常に雜駁な
説明でございますけれども、以上が
改正案の本文全部につきましての簡單な
説明でございます。
附則につきまして簡單に申上げますと、この
法律施行の期日は、政令で定める。第二十六條第二項の
改正規定は刑の
執行猶予の
言渡を受けた者がこの
法律施行前に更に罪を犯した場合については、これを適用しない。第三十四條の二の
改正規定は、この
法律施行前に刑の
言渡又は
免除を受けた者にもこれを適用する。二十六條の二項は「猶豫
期間内更に罪ヲ犯シ
罰金ニ
處セラレタルトキハ刑ノ
執行猶豫ノ
言渡ヲ
取消スコトヲ得」、この二項の「
改正規定は刑の
執行猶予の
言渡を受けた者がこの
法律施行前に更に罪を犯した場合については、これを適用しない。」、これは当然の
規定でありまして、
法律の施行前に更に罪を犯した場合には、この
法律施行後に発見いたしましても、この二十六條第二項の
規定は適用しないとこういうことを言つておるのであります。それから三十四條の二は
前科抹消の
規定でありますが、「この
法律施行前に刑の
言渡又は刑の
免除の
言渡を受けた者にもこれを適用する。」、これはこの
法律の施行前に刑の
言渡又は刑の
免除の
言渡を受けた者もやはりこの恩典に浴せしめることがよいということでかような
規定を設けたわけであります。その次は、「この
法律施行前の
行爲については、
刑法第五十
五條、第二百八條第二項、第二百十
一條後段、第二百四十四條及び第二百五十七條の
改正規定にかかわらず、なお從前の例による。」、これはその五十
五條を
削除をいたしますし、第二百八條の第二項は特別な
親告罪に
なつておりますのを削りましたし、二百十
一條の後段には特に重大なる過失によつて人を死傷した者について刑を重くしておりますし、二百四十四條と二百五十七條は家族につきましての
親告罪に係らしておる
規定でありますから、これを
法律施行前の
行爲につきましてここまで及ぼすことは不利な……
法律の效果を特に遡及させることになりますので、
從來の例によつて、これを処断するということにいたしておる次第でございます。
簡單でありますが……。