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政府委員(
佐藤達夫君) 私從前の小
委員会の方に伺
つておりませんので、ここでどういう御
説明を申しましたか存じません。從いましてすでに御
説明申上げたことを繰返して重複して申上げることに相成るかとも存じますが、一
通り私共が頭を整理いたしましたところの結果によりまして、今回御
審議を煩しております
経済査察官の
臨檢檢査と
憲法との
関係ということを
中心にして御
説明申上げたいと存じます。
この問題に関聯いたしまして、直接議論の
対象になります
事柄は恐らく
憲法の第三十
五條との
関係であろうと存ずるのでございます。ただ私共はこの
憲法の第三十
五條は、この
條文の
場所から申しまして、或るいはその中に用いられておりまする用語から
考えまして、これは
犯罪捜査というような場合を
考えての
條文であるというふうに今日まで
考えてお
つたわけであります。この点は実は先年の
憲法審議の
帝國議会の
委員会におきましても御質疑がありまして、当時の
司法大臣がその旨をはつきりお答えしたような経緯もありました。現
内閣といたしましてもその
解釈を踏襲して今日に至
つておる次第でございます。申すまでもございませんが、
憲法において
基本的人権を廣く
保障しておるのでありますが、その中でもこの
刑事訴追の関聯の
事柄につきましては、これは
事柄の
性質上
國民の自由なり
権利なりに非常に深刻な
影響を及ぼす
性質の
事柄であり、又我が國の過去の事例から申しましても、非常に暗い沿革を持
つた濫用の行われた
事柄であり、
かたがた憲法が細かいい
條文を、この三十二條と申しますか、三十三條と申しますか、三十二條、三十三
條あたりからずつと四十條までをその方向の
規定としてこれを設けておるものであ
つて、この三十
五條はその中の一
ケ條をなすものであるというふうに
考えてお
つた、又現に
考えておるわけでございます。で、そうな
つて参りますと、我々の
考えといたしましては、三十
五條の
関係については直接
関係はない。併しながら固より
憲法はすべての
基本的人権を
保障しておるのでありますから、
只今問題にな
つておりまするこの
臨檢檢査ということは、
一種の
住居の安全に
影響のある
行爲であります以上は、三十
五條は
関係ないとしても他の
憲法の第三章の問題としては大いに檢討しなければならん
事柄ということになるわけであります。第三十
五條以外の問題として一應
考えて見ますというと、この
関係の
保障は例えば第十二條、十三條即ち第三章の前の方の
條文で一括して
保障されておるということに相成るわけであります。この第三章の
関係の
保障は申すまでもありませんが、十三條或いは十二條に明らかにな
つておりますように、絶対に無
制限の
保障ということでありませんで、
公共の
福祉というものを一方に
考えまして、この
公共の
福祉に反しない限りというような枠を決めておるわけであります。
それからもう
一つは、
仮りに
公共の
福祉の
要請によ
つて制限をする必要があるという場合においても、この
制限は必らず
法律で
制限をしなければならんというこれは
條件はございますけれども、要するに
公共の
福祉に反する、或いは
公共の
福祉の強い
要請に基く場合において、
法律を以てするならば止むを得ず
制限をすることもできるというのが第三章の
建前と
考えておるわけであります。
從いまして今回の問題は、今私の申しました
二つの
條件から
考えなければならないことになるわけであると存じます。
公共の
福祉という
條件にこれを照して
考えて見ますると、この
法律が狙
つております
事柄は
法律案第
一條で明らかにな
つておりますように、経済安定の
緊急施策の
実施のためと
謳つてあ
つて、そういう今日の
経済危機を突破いたしますについて止むを得ない必要に出たものであるわけであります。この大きな
社会公共の
要請に應ずるために止おを得ざる処置として、かような
法律を設けなければならんという
建前でございますからして、
公共の
福祉云々の
関係では、
法律を以てするならば
制限を設け得る
事柄であるというふうに
考えておるわけであります。
それからこの具体的の場合を
憲法に照して
考えます場合には、やはり
憲法の底に流れておりますところの
一つの
限度、即ち
公共の
福祉を維持するために、或いはこれに反しないということのために、どうしてもかような
措置をしなければならん。その「どうしても」ということは
実体上の
限度があるわけです。その決め方が結局
法律案を作り、或いは
法律をお作りになります際に、どういう
條件でこれを決めるべきかという
実体の問題に相成るわけであります。で、その
法律案で
考えておりまする
実体と申しますというと、先ずこの
一種の
強制でありますが、
臨檢檢査という
強制は、いわゆる
間接強制ということに止めておるわけであります。それからもう
一つは、その
臨檢檢査の
対象といたしまして、この場合本
法案におきましては
二つの場合が一ありますが、第一の
経済行政監査という
関係の場合、これについて申しますと、
事柄を
特定の
物資につきましての
生産輸送、それから割当、配給又は使用というようなことの
範囲に止めまして、消費というような
部面を除いておるわけであります。又その
場所につきましても、事務所、
営業所、
工場事業場というようなものに限定いたしまして、
一般の普通の人の住宅などが
対象にならないようにという配慮をしておるわけであります。
尚たびたび御
説明したと思うのでありますが、この
行政監査の面、その
部面が
行政廳の仕事の仕振りの
実体を把握しようというところがその
狙いであります
関係上、これを受けます方の側の
國民の
立場は
被告扱いの
立場ではなくて、むしろ
参考人というような
立場に置かれての
監査を受けるということになるわけであります。その
行爲自身の強さということも、深い、浅い、重い、軽いという点から申しますれば、余程浅いものでもあり、又軽いものであるということが
考えられる次第であります。それからこの
法案の狙
つております第二の場合の即ち
隠退藏物資の
調査の場合でありますが、これはこの注文に明らかでありますように、
物資の保管に止めまして、
物資を保管する者を
調査の
対象としておるわけであります。かようなことにな
つておりますと共に、尚又この
臨檢檢査をする場合の
手続といたしましてはいずれの場合につきましても必らず
身分を示す
証標を持
つて行つて、それを示して後に行うべきように定めておるのでありまして、決して
簡單に又自由奔放に私人の家に踏み込んで持ち物を調べるというようなことを許しておるわけではないわけなのであります。
いろんなことを申上げましたが、かような点を綜合いたしますならば、結局
憲法の第三章全体の
精神から申しまして、
憲法に
違反するものではないというふうに
考えておる次第でございます。