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森下政一君 この機會に大藏大臣の御所見を伺いたいのです。
只今年度の途中であり、殊に
追加豫算を提出されて、而も健全
財政を堅持していこうというので、形式的にも、實質的にも辻褄の合う實效を伴う豫算を組もうという非常な御苦心をなさつたという御
説明をしばしば承わりまして、御苦心は誠に敬服に堪えないのであります。ところで問題の
所得税でありますが、午前中に
政府委員に
お尋ねいたしまして、豫想されております
所得税の
納税人員が千三百五十五
萬人、その中で
勤勞所得或いは
日傭勞務者の
所得、それらを
納税すると思われる
人員が兩方合計して九百四十四
萬人、こういうことを承わつたのであります。
納税人員の殆んど大
部分を占めるもの、一番大きなパーセンテージを占めるものが給與
所得による
生活を營んでおる者であるということは極めてこれで明瞭であると思うのであります。而も
只今局長の御
説明にもございましたが、恐らくそれらの大
部分が五
萬圓以下の
所得を持
つておる者じやないかと思いますが、それらについては何ら今囘
税率の
引上げは行なわれておらない。却
つて基礎控除が
引上げられたということによ
つて勤勞所得者は負擔が輕減されたという結果にな
つておる。而も半面に大口の
所得者に對しては、即ち給與
所得以外の事業
所得等によ
つて新圓成金にな
つておると思われるような大口の
所得者に對しては高額な
税率を賦課することに
なつたというわけで負擔力の乏しい者には輕く、負擔力の多い者には重い税を課せられるように
なつた。御
説明を聽きますといかにも納得せざるを得ない御
説明のわけなのであります。ところで現實の問題といたしまして、然らば
勤勞所得によ
つて生活をしておる。而も年間を通じて五
萬圓以下の
所得で
生活をしておると思われるような、比較的負擔力の乏しい者が税を負擔することによ
つて、
最低の
生活の維持にも困難を來たすというような氣の毒な羽目に陷る虞れはないのか、殊に月々かように
物價が昂騰して行く、願うことではないのでありますが
インフレーシヨンが漸次昂進して行くというような今日のような經濟状態の
動搖しておる時におきましては、誠に勤勞
生活者の
生活というものは非常に不安に暴らされておる。そこで
政府が意圖された又
説明されるところは非常に美しく合理的な妥當性を持つた如くに響くのでありますけれども、
實際においては税を負擔して
國家の
財政事情に應じた残りのものを以て
勤勞階級が果して
生活を維持し得ておるかどうか、維持し得るや否やということを考えると甚だ危惧の念を禁ぜざる事を得ないのであります。午前中も
政府委員に指摘したのでありますが、本
委員會が過日公聽會を開いて、各方面の意見を聽いた中に、全財副
委員長の徳島君という人が、極めて傾聽すべき意見を吐きまして、
一つの設例を以て
説明いたしたのでありますが、その例はこういふ例であります。「今囘の
基礎控除引上げによ
つても、例えば五人家族、
扶養親族三人の營業者が年五
萬圓の純益があるとすれば、これに對する
所得税が一萬三千百五十圓、營業税が九千圓、都民税が二百五十圓計二萬二千四百圓掛かり、これに對して
生活費を年四萬八千四百圓とすれば、差引二萬四百圓の赤字となる、現在
納税成績が非常に惡い理由は種々あるが最大の原因は現行
税法が
國民生活から遊離していることにある」こういう
一つの例を擧げておるのであります。恐らくこの國税或いは地方税、それらの合計額で二萬二千四百圓という數字は、公述者が税務官吏であるだけに間違いのない數字であらうと思うのでありますが、問題は「
生活費を年四萬八千四百圓とすれば」という
一つの假定を設けてある。ここにあるのであ
つて、四萬八千四百圓が普通一ヶ年間のこれだけの五人の家族の
生活費に餘りあるものか、もつと少い
金額で五人の
生活維持ができるということになれば、議論が別にな
つて來るのでありますが、今日の
物價高において五人の家族が年四萬八千四百圓というのは、そう贅澤な暮しじやない。言い換えると五人の
生活を維持する
最低限に等しいものではないかとこう思うのであります。この
最低生活を維持するとしてこれだけの
税金を納めると、差引き二萬四百圓の赤字になる、こういうのであります。これでは私は
納税ということに對して非常に忠實にその責務を果そうという氣持が
國民に乏しくなるという憂いがあるのではないか、かように考えるのであります。そこで午前中もしばしば
政府委員と
質疑應答を重ねたのでありますが、
基礎控除というものがどうも
根據がない、やはり
最低の
生活費というものは税の負擔から
控除すべきものではないか、
最低生活だけは讓
つてやるべきではないかというふうに考えるのであります。そうでないことには、税を負擔すれば
最低生活が營めないということになれば、背に腹は代えられんから、事業
所得を上げますような者は、いろいろ脱税の手段を講ずる、或いは僞るというふうなことで、税の負擔を囘避しようということになる。そのこと自體が甚だしく
國民の道徳的な觀念を低下せしめることになる。かように考えられるのであります。徳島君の擧げました例は、業務
所得についてでありますが、五萬
圓程度の或いはそれ以下の
勤勞所得によ
つて生活をし、而も五人家族を持
つておるというふうな者は、隨分數多いことと思いますので、同樣にこれらの税を負擔して參ります場合には、
最低生活が脅かされる。税を負擔した殘りで
最低生活というものが維持できないということになるのじやないかということが考えられるのであります。
そこで
基礎控除というものが、どうしてもこの
最低生活を護るという線にまで考えを改めて行く必要があるのじやないかということを思うのであります。而も今度の
改正税率によりまして、七
萬圓を超える
所得に對しては、相當
税率の
引上げが行われておる。而もその大口の
所得というものが正直に
申告されて、ここに示されておる通りの
税率による
納税をするということになりますならば、五
萬圓以下の
所得者はまだ滿足するだろうと思うのでありますが、實は七
萬圓以上の、而も上の
階層になればなる程大口の
所得になればなる程、その
階層においては當局が非常に努力しても
所得を捕捉するということに非常な困難を感ぜられる。又
所得者自らがいろいろ當局を欺瞞するということに努力をするというふうなことで、最も經濟力の豐富な者が、國の
財政事情に
應ずる責任を果すことに甚だとしい。而も比較的零細なる
收入で
生活を維持して行かなければならないところの
階層が、
源泉課税によ
つて極めて嚴正、正確なる徴税を行われ、國に對する責務を果しておる。こういうことになりますと、いかに當局が
納税強調の運動をなさいましても、それはいかに聲を大にして叫んでも
國民は踊
つて來ないということになるのじやないかということが考えられる。そこで今一氣にこの税を根本的に
改正すると申しましても、年度の途中のことでもあり、今度は先刻大藏大臣が仰しやつたように、
追加豫算の辻褄を合せるという必要に迫られて、こういうふうな
改正をなさつたということの御意向も無理からんことと思うのでありますが、私はここで大藏大臣にはつきり
一つ御所見をお伺いしたいと思うことは、次の年度の豫算を編成なさる場合には、これらの
税法につきましても、更に合理的なものたらしむべく根本的な
改正ということについての御意思がございますでしようかということをお伺いしたいのであります。
片山内閣成立の當初におきましては、
國民の大多數は今度こそ始めて日本に民主手な内閣が生れた。この内閣によ
つてこれまでの政治とは全然趣きを異にした政治が行われるであろうという多大の期待を繋いだにも拘わらず、内閣成立以來今日まで半歳有餘に亙るところの
實績から見ますならば、誠に
國民の期待に副うところが乏しかつたと思うのであります。固より
國民は、新内閣が生れたことによ
つて、忽ちにして
生活が樂になり、經濟が再建されるであろうというふうな期待を繋いだとすれば、それは
國民の期待が誤
つておつたものと思うのでありまして、しばしば片山總理の言う通りに頓服藥のように新内閣の性格が一月や二月或いは半年くらいなことで効果を擧げることはできない。その理窟はよく分るのでありますけれども、少くともこの民主的なと期待されている新内閣によ
つて行われることの中に、これで初めて期待に副うような、少くとも曙光が見えたというだけのことはや
つて貰わなければならんと思うのでありますが、そういう
意味におきましても、新年度を迎えるに當
つての豫算編成に當
つては、
税法の如きに對しても根本的な
改正をして、而も
國民の
最低生活を侵してまで、國の
財政負擔に應ぜよとは言わんというような意圖を盛つた
改正を斷行して貰うことはできないか。よしんば
所得税の負擔からは免除されるとしても、今日のような經濟的な非常事態の場合においては、理論的な立場から言えば必ずしも妥當だと思われないような税制も、これは
國民は甘受しなければならん、即ち比較的直接税の割合が多くて、
間接税の割合の少いというのが、大衆
課税が少くて大衆が負擔を經減されると言われておるが、必ずしもそういう理想的なもののみを堅持して行くわけに行かん。現にむしろウエイトは今日におきましては、
間接税の方が重くな
つているということはこれは忍ばねばならない。
所得税の負擔は免かれておりましても、
間接税の負擔は、やはり
勤勞大衆というものは何らかの負擔をして、國の
財政需要に
應ずるということになる筈だと私は思うのでありまして、そういう
意味から直接税である
所得税の負擔の如きは少くとも勤勞
生活、而も比較的少い
收入によ
つて家族を支えている、
生活を支えている
勤勞大衆に對しては、その免税點を更に明確にして
最低生活を護
つてやるということが必要でないか。ここにこそ初めて私はせめても片山内閣に對する
國民の期待の一部が報いられ、初めてこの内閣によ
つて納得の行く
控除が行われ、
最低生活が護られるということが得心されるのではないか、そうでない場合は折角新内閣が生まれたが、同じようにこれまで同樣に日を逐うて、月を重ねるに從
つて、
物價が騰貴して行く、
インフレは前内閣の時も同じように段々時の進むに從
つて昂進して行く、
生活は一向樂にならない段段苦しくなる、マル公の大巾改訂などが行われたが、結局當時の闇價格を
公定價格と改めたに過ぎんではないか、而も直ちに闇の値段はそれに拍車をかけて上廻つたものが、横行しているというようなことでは、
如何に下から盛上る耐乏
生活などということに、首相が口の先で口頭禪を唱えられても、
國民が一向これについて行こうとしない。これは私は誠に
當然のことだと思うのであります。そこで直ちに
國民の
生活が樂にならんということを得心の行くまで御
説明下さる、これも結構でありますが、その半面においては
只今申上げますように、極めて合理的な徴税の仕方をする、税制の如きは極めて合理的に納得の行くようにするということがどうしても必要だと思うのでありますが、今直ちにとは申しませんが、せめて次の豫算編成に際しては、そういつたような根本的な
改正の考え方を以て臨んで貰うことができるか、特に大藏大臣にお伺いいたしたいと思います。
それから第二點としましてもう
一つお伺いしたいと思いますことは、先般やはり公聽會の公述人の一人であつた井藤教授が、
財政學の權威である井藤教授が、經常財産税或いは農業税の如き新税をこの際
考慮する必要があると言われましたが、相當示唆に富んだ問題であると思うのであります。新聞の報ずるところによると、
大藏當局におきましても、すでに今日までに經常財産税については御調査にな
つておるというふうな報道がありますので、或いはすでにさような御調査もあり、或いは若し許されるならば、これを實施したいというふうなお考えがあるのかとも思いまするが、今日この片山内閣が眞正面から
インフレと取組んでおる、總理大臣はしばしばこれを繰返すのでありますが、
インフレと眞正面から取り組んでこれを抑制するということに懸命の努力を拂うということにつきましては、私は租税政策の如きも、正にその一環の方便として、手段として活用されなければならん段階に來ておると思うのであります。それにつきましては、例えば税源として誠に有力な、豐富な税源である、經濟力を豐富であるといわれるところの新圓層、
新興階級というものが、實は
技術的には捕捉するのに非常に困難なものであろうと、こう思うのであります。大臣はこれがために税務機構の擴充強化ということを唱えておいでになりまして、又著々これを實施されつつあるようでありますけれども他のことと違うことで、より以上一層練達な、同一業務に長年從事して、相當熟練しおるものを必要とするであろうと思われる税務行政の
實際におきましては、漸次その待遇の惡いとかいうことのために、退職をする者が相次いで起
つて、新規採用をするのにも相當困難を感じておるようである。これらに對する待遇が一般他の官吏に比較してなぜ惡いか、誠に私共は不可解に思うことなのでありますが、そういう
事實があるとするならば、これは一刻も早く、他の官吏より以上に優遇をするぐらいに待遇を是正する必要があると思う。而してその道に働こうという人を得意がらしめるような態勢を布いて、税務機構の強化をなさることが必要であると思いますが、ひとり機構の強化だけでなくして、税目において、税種目においては
インフレ抑制のための一大英斷を持つた税を創設されるということが
當然この際、租税政策といたしましても、現内閣においてしなければならん、採らなければならん方策だと私には思われるのであります。或いは我が國の通貨に對する信用を云々されて囘避される傾きがあるかも知れませんが、第二次的な財産税の如きも、この際に私は創設し、實施してよいのではないか。そうして
技術的には例えば通貨の印刷が非常に困難であるというふうな事情もあるようであります。午前中にも私はそのことに觸れたのでありますが、本當に現内閣がこれを實施しようと思うならば聯合國の好意に縋が
つてでも、通貨の印刷ということが必ずしも不可能ではないのではないかということが考えられるので、新新圓を發行してでもこの際大口の負擔力を持
つておる者の、言い換えれば、いわば擬制資本であると思われるようなものをこの際税という手段によ
つて吸收いたしまして、そうして再びこれを一般的な財源として
財政需要に充てるというふうなことが非常に必要なことでないか。
インフレが抑制されるということによりまして、結局
國民生活というものは、幾分でも樂にな
つて來るということを考えると、現内閣こそかような租税政策を採らなければならんのだと思うのでありますが、その點について大藏大臣の御所見はいかがでございましようか。この二點について御所信をお洩らし頂けたら、非常に仕合せだと思います。